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リエミブログ https://riemiblog.blog.fc2.com/

不思議な展開をみせる、オリジナル小説、 ほんのり奇妙な短編・ショートショートや、 中編小説を書いています。

◆小説一覧リスト https://riemiblog.blog.fc2.com/blog-entry-2.html  読んで感じたこと、思ったことなど、  ひとことでもいいので、  作品へのご感想をお待ちしています。

リエミ
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2017/10/28

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  • 稲妻トリップ 15 現在

    次の仕事場に行くまでに、あの電波塔の前を通る。 俺は完成した、その巨大な塔に、尊敬の眼差しを向けていた。 立ち止まって見上げる、作業着姿の俺の前を、多くの人が過ぎてゆく。 入り混じった話し声。車の音。風の音。遠くで聞こえる、工事の音。 街は常に、新しい未来へと発展し続ける。 そして、俺たちも進む。 流れる時の中を、生きてゆく。 交差点を渡りながら、俺はこの世界のことを考えていた。 どんな未来が...

  • 稲妻トリップ 14 明日

    表彰式が終わると、僕はスーツのネクタイを緩めた。 定休日なのに、従業員は来てくれた。逆に、客の来ない定休日でないと、開催できない式典だった。 会場となった、デパート最上階のホールで、たくさんの新聞記者、テレビカメラが、僕につきまとっていた。 社長から感謝状を受け取ったあとも、インタビューでマイクやレンズを向けられて、僕はいっときのスターでいなければならなかった。 短い挨拶だけで、あまり話はしな...

  • 稲妻トリップ 13 音

    荒れ狂う海は、世界を水没させてしまいそうだ。 高い空で、波が弾ける。冷たい飛沫が雨のよう。 風がうるさい。頭の中が、風の音でいっぱいになる……。 私は、通い慣れたような足取りで、浜を横切り、工場の中に入って行った。 ここも、機械の音が耳に響く。ただ何も考えられずに、私は私の足が動かす場所へと、進んで行った。 先端がキラキラと光っていた、複雑な作りの装置の前を、見向きもせずに素通りし、奥の部屋へと...

  • 稲妻トリップ 12 白い光

    アキが目を覚ますのが、もう少し遅ければ、俺は無理やりにでも、その腕を掴んで起こしただろう。 病室の時計は、夜の十一時を指していた。これ以上はもう待てない。「あぁー、よく寝た……」 のん気なアキの声がした。 俺たちは最終電車に揺られ、目的地を目指していた。 布地の長い椅子の上で、二人、肩を並べて座っていた。 窓の外は闇。天井から照らす、白い明かりの眩しさが、俺には少し目に染みた。 車両と車両を繋ぐ...

  • 稲妻トリップ 11 世界

    警察署で事情を説明し終わると、僕はすぐに病院へ向かった。 逮捕を逃れていた、組織の最後の信者、と同時に、前の警備員の殺人犯。そいつを捕まえることができた喜びよりも、何より、彼女のことが気がかりだった。 彼女、秋吉さんは、あのあとすぐに、「眠い」と言って、僕に体を預け、寝てしまった。 病院へ運んだあと、目覚めを待たないで警察署へ向かわされた僕は、彼女がどんな状態でいるか、すぐにでも知りたかった。...

  • 稲妻トリップ 10 ビー玉

    お婆さんは、試着室の前の椅子から、ゆっくりと立ち上がり、エレベーターの方へ向かった。 私はその椅子の上に、うちのデパートのロゴマークが入った、紙袋を見つけた。 お婆さん、忘れ物、と言って、私は紙袋の取っ手を持ち、あとを追いかけた。 違和感がした。なんて重いの。これ、なにを買ったんだろう。 お婆さんが、エレベーターのドアの前で待っていた。よかった、追いついた。「まあ、ごめんなさい……」「いえ。お持...

  • 稲妻トリップ 9 スパーク

    街に降る雨は、汚い空気を流すシャワー。 ビルの間を駆け抜ける風、強い音。 街路樹の葉が、雨粒と飛んでくる。肩をかすめて後ろに流れた。「平気か、新人?」 細い足場ですれ違うとき、先輩の鳶職人が、俺に聞いた。「もし高所恐怖症だったなら、」 俺は向かい風に負けない、大きな声を張り上げた。「誰も、面接には来ませんよ!」「よく働け!」と、鳶職人。「この仕事には遣り甲斐がある。街の未来を築くという、夢があ...

  • 稲妻トリップ 8 特別な人

    僕は巡回中に、AKIYOSHIさんの働くフロアに立ち寄っていた。 婦人服売り場。客はまばらだった。昨日見た、常連だという老婆が、試着室の前の椅子に、ちょこんと腰を下ろしていた。 眼鏡の従業員が、何事か、というように、興味ありげに見上げてきた。 何も言わずに、僕はレジカウンターの前へ来た。 AKIYOSHIさんは両手を自分の前で揃え、カウンター内に小さくおさまって立っていた。「季節のアキに、大吉のキチと書いて、...

  • 稲妻トリップ 7 十年前

    遠い旅の途中です、と彼らは言った。 名もなき楽団です、と、初めはそう言っていた。 こんな海まで、ようこそ。お疲れでしょう、お茶でもどうですかな? と、パパが言って、彼らを自宅の工場内へと招いた。それがきっかけだった。 パパは自称・発明家で、娘の私から見ても、少し変わり者だった。 工場内では、大きな機械のモーター音。フル回転の換気扇。 私とパパは、そんな工場の一室で眠った。夜は機械を止めて、波の...

  • 稲妻トリップ 6 今日のこと

    現場監督の一撃は強烈だった。 俺は切れた左頬から、血を流れるままにさせ、交差点を横切った。 人々の白い目をかわし、歩いて繁華街までやってきた。 心がざわついている今、一人になってしまった途端、バイクでは暴走してしまうだろうと、思ったからだ。 俺だけなら、どんなことになってもいい。 だが彼女には、あいつにだけは、絶対に迷惑をかけたくはない。 不意に俺は、電器屋の前で足を止めた。 売り物の液晶画面...

  • 稲妻トリップ 5 溶ける時計

    初日はデパートの構造を調べるために、すみずみまで歩いた。 非常階段に、裏口。各階の開けられる窓はすべて開け、逃走ルートを想像してみた。 トイレ。社員食堂。救護室。エスカレーターにエレベーター。 フロアをすべて巡ることで、従業員たちにも顔と名前が知れ渡った。 新しい青い制服の下で、汗ばんだ体。 昼になり、腰に付けていたトランシーバーから、交代を告げる先輩の声がした。「了解しました。今、そちらに戻...

  • 稲妻トリップ 4 AKIYOSHI

    「AKIYOSHI」 胸に付けた、金色のネームプレートには、しなやかなフォントで、そう刻まれている。 私は更衣室で、従業員の制服に身をもぐらせた。 白いシンプルなブラウスに、桃色の上着。 膝丈のスカートは、同じく桃色で、細めのプリーツが入っている。 紺のハイヒールは、昨日のかかとのカサブタを、上から強く押し付ける。 スカートの後ろを押さえながら、エスカレーターで三階へ。 「婦人服売り場→」、大きな看板...

  • 稲妻トリップ 3 りゅうの

    夜間の工事現場で働けば、金はすぐに手に入る。 都会の裏通りで俺は、乾いた唇に染みた、汗の辛さを味わっていた。 少人数で編成されたチームは、どこの誰だか知らない、訳あり連中の集まりだった。 ただひたすらに穴を掘る。 新しい建造物のために。いいや、みんな自分の金のために。それだけを思って、高く腕を振り上げるんだ。 頻繁に、名前を呼ばれる。おそらく誰も本名じゃないだろうが、現場監督が馬のケツを叩くよ...

  • 稲妻トリップ 2 アオムラ

    僕は消えた社員の身代わりだ。 このデパートは隣町に建っているが、小さな頃から、ほとんど足を運ぶことはなかった。 その方面はすぐ先に海しかなかったから、大して用がなかった、としか言えない。 地元には大型ショッピングモールもあったし、それですべて、事足りていたせいだろう。 僕がそいつの後任に選ばれたのは、なぜだろうか、今でもはっきりとは分かっていない。 ただ、誰でもよかった、ということは確かなこと...

  • 稲妻トリップ 1 さっき……

    高架下の水面(みなも)に、街灯の明かりが落ちて揺れていた。 淡いオレンジ色の光と、薄暗い夜の青さが入り混じる。 俯いた顔に冷たい風が吹きつける。 ほんのりと、潮の香りを運んでくる。 車のライトが背中で輝き、速いスピードで過ぎ去った。 毎日見ている。 足を止めて、橋の上から。 そこは、道路を仕切る白線の中。 深夜になると、交通も少ない。 誰にも入ってきてほしくないの。 ただ一人で、私は海を眺める...

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