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桐生
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2016/05/07

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  • 蛇に睨まれたオオカミ 51 END & あとがき

    望海「夏休み、終わっちゃうね。」小さなバケツと花火セット。派手さは皆無だけれど、俺が望んだ最後の夏のイベント。欠けた月が浮かんだ空の下、向かいにしゃがみ込んだ咲が一生懸命ろうそくに火を灯していた。風除けになればと手を翳すと、咲が俺をじっと見つめる。ゆらゆらと揺れる火の光に、咲の顔がぼんやりと映し出される。いつもとは違う咲の顔に、なんだか照れてしまう。見ていられなくて視線を下げると、咲が俺の手に花火...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 50

    咲「咲、汗すごいね?」拭っても拭っても滴り落ちる汗を見つめて、のぞがふわっと笑う。「え、臭う?」「大丈夫。俺も汗だくだから……。」そう言いながら、赤ら顔をしたのぞがにっこり笑う。自分から漂う汗臭い匂いに混じって、隣に歩くのぞからはずっと甘い匂いが漂っていた。その匂いに誘われるように、華奢な首筋に鼻を近づける。「のぞは汗の匂いしない。」「え、なんで?背中もびしょびしょだよ?」「……すげえ甘ったるい匂いす...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 49

    「で、咲となんの話したの?」「さすがに急すぎない?」玄関に一歩踏み入れてから、靴を履いたまま男を見上げる。男の家は駅から20分ほど歩いた、2階建ての古いアパートだった。立て付けの悪いドアを開けると、中は蒸し風呂のような灼熱地獄。開けた瞬間に、目を瞑りたくなるほどの滝のような汗が額を流れる。玄関のすぐ脇には、段ボールが開けられることもなく乱雑に積み重なっていた。その上にさらに女性ものの下着や洋服が重...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 48

    咲の部屋にいるのが気まずくて、久しぶりに陸部に顔を出した。サッカー部が校庭の大部分を占めているから、俺たちが使えるのは端にある空スペースのみ。だからこそ日陰が確保できるから、別に困ることはない。こんがりと焼けた肌の男たちが、ボールを蹴り飛ばしながら何かを叫んでいる。それをぼんやりと見つめながら、木陰で水筒を傾ける。大して動いてもいないのに、休んでばかりだから空になるのが早い。夏休みが、もうすぐ終わ...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 47

    望海―――あれから、咲が全然手を出してくれない……。花火大会の日、初めて咲が触れてくれた。嬉しくて、嬉しくて……俺たちの関係が進展する気がして、次の展開を期待してしまう。いつ続きをしてくれるのかと期待して待っているのに、咲はあの時のことなんてなかったかのように平然としている。ベッドで寝転びじゃれてみても、この前のような雰囲気になることはなく、期待しては裏切られる。毎日その繰り返しで、いい加減俺も疲れてき...

  • ヘビに睨まれたオオカミ 46

    「今日はやめておいたら?昨日具合悪そうだったし、熱中症なんじゃない?」のぞにそう声をかけられたけれど、ここにいた方が気が狂いそうだ。「大丈夫。」と声をかけると、のぞは寂しそうに笑う。俺が避けている事を、鈍感なのぞも薄々気がついているのかもしれない。のぞの心配そうな顔に背中を向けて、今日もいつものように家を出た。頭上から容赦ない熱が降り注ぎ、目に沁みるような地面からの照り返しのダブルパンチで、今にも...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 45

    のぞがあの時のことに全く触れてこない。それが嵐の前の静けさのようで、刑を処される前の受刑者のようで気が気ではなかった。なるべく顔を合わせたくないのに、のぞは朝から晩まで俺の部屋にいる。―――勘弁してくれ……!!俺の心情など全く気にしない様子ののぞは、ベッドに寛ぎながらずっとゲームをしている。のぞといると煩悩で埋め尽くされてしまいそうで、しかも都合がよすぎる場所に寝転んでいるから、手を出しても許されるの...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 44

    「あ、懐かしい!お化け屋敷やってる!!幼稚園の時に陽兄と入ったわ。」「え、入るの?」そう言いながらちゃっかり一番後ろに並ぶと、俺に向かって手招きする。「ビビってんの?」「のぞ、ホラーもお化け屋敷も苦手だろ?なに考えてんの?」「あの頃は俺もまだガキだったから。」「いや、今も大して伸びてないじゃん。」「うっぜ!」ふくらはぎを軽く蹴られながら、俺も大人しく隣に並ぶ。怖いものが大の苦手なくせに、見たがる癖...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 43

    「のぞ、浴衣なの?」「あー、母さんが着てけって。咲はどうせ私服だろうから嫌だって言ったんだけど……。」―――恵さん、マジで神!!!!淡い鼠色の浴衣に、深みのある暗緑色の帯。のぞの白い肌や瞳の色に合っていて、とても様になっていた。のぞの和装なんて初めて見たから、見惚れるだけで言葉が続かない。浴衣のお陰でしっかり男に見えるのに、淡泊な色合いにも関わらず華やかに見える。「なんか、言えよ。」「いや……いいと思う...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 42

    「ねえ、花火大会行かない?」夏休みの宿題を宣言通り2日で終わらせ、後はだらだら過ごすんだとメリハリのある目標を掲げていたのぞが、瞳をキラキラ輝かせながら尋ねてきた。「えー、暑いし人多いからいいよ。夜だと危ないじゃん?」花火大会なんて、父親に連れられて幼稚園の頃に一度だけ行ったっきり。その思い出も、楽しいよりも疲れたが勝っていた。毎年この時期に地元で行われる花火大会は、隣の市と合同で開催されていて、...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 41

    電車とバスを乗り継ぎ、江の島に着いた頃には既に太陽は頭上から容赦なく降り注いでいる。鎌倉に立ち寄り、生しらす丼で腹ごしらえを済ませ、小町通りで買った大量のお土産をリュックに無理やり詰め込み、ようやく今日の目的地である海に辿り着いた。サンダルが砂浜にめり込み、額を伝う汗の量は尋常ではない。逃げ場のない太陽の攻撃をもろに喰らいながら、風の強さに目を細める。夏休みということもあり、砂浜は人で埋まっていた...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 40

    咲「おい、起きろ。」「あ……れ?今野?」田中の肩を揺すると、俺をぼんやりと見つめながら瞬きを繰り返す。膝の上にはのぞが体操着姿で熟睡していて、しがみつくように田中の腰に腕を回しているのが、非常に気に喰わない。渋滞に巻き込まれながら、予定よりも1時間遅れの到着。のぞが家で待ちきれずに朝から学校に行っていると恵さんから連絡をもらい、口元を緩ませながらバスから降りたのに、のぞは校庭にいなかった。どこにいる...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 39

    「今日は1人?」「あ、昨日の……。」昨日と同じようにゲーセンでぬいぐるみを狙っていると、見た顔に声をかけられた。昨日は制服姿だったのに、今日は緩い私服姿。緩くあいた首元には、昨日よりも濃い痕が刻まれている。―――やっぱり、彼女いるんだよな……?「覚えててくれて嬉しい。」「どうも。」人のモノに露ほどの興味もなく、ぬいぐるみをじっと見つめる。教えてもらったようにアームを動かしているつもりが、微妙に先端がズレて...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 38

    望海「望海、もうちょいマシなとこ行こうよ。」「なんで?」「デートにゲーセンは色気なさすぎない?」「だって、咲はゲーセン嫌いだし。」「ここだと死ぬほど職質されるんだけど……。」「あー、俺たち似てないからね。」退屈すぎる時間を持て余し、連絡もせずに始発の電車に飛び乗って、陽兄の住むマンションに向かった。陽兄は、俺のことを一番かわいがってくれる。年が離れていようが、血が繋がっていなかろうが……親に抱かれるよ...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 37

    田中いつものようにテニス部に顔を出すと、なぜかのぞみんがベンチで寛いでいた。また今野と痴話げんかでもしているのかと思ったが、目の下に酷いクマがあるのに気がついて慌てて駆け寄る。「大丈夫?寝てないの?」「……咲が合宿だから。」―――今野が合宿だと、なんでのぞみんが寝れないの……?理由になっていない気がするが、のぞみん相手に普通を求めても仕方がない。着替えるのは諦めて、のぞみんの横に腰をかける。「今野いつ帰...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 36

    「今野~?お前、抜いてたろ?」「抜いてない。」「まあまあ、これでも見て予習しようぜ。」「何コレ?」手渡されたAVを見ると、似合わないスカート姿の男が困り顔でこちらを見つめていた。のぞ以外の女装なんてキショいだけで、大好きなはずの困り顔が少しも刺さらない。「女装子モノ。こういうのは怖くて1人じゃ見れないから。」「趣味わる。」「その格好の今野に言われたくないから。」そう高らかに笑われ、隠し持ってきたノー...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 35

    咲「今野、私服どうした?」同部屋の3年に声をかけられ振り返ると、俺の服を見て固まっている。のぞがせっかく選んでくれた服を着ているというのに、会う人会う人に同じ顔をされすぎて、意味が分からない。―――俺には似合わないってこと……?「何が?」「いや、それどこに売ってんの?」「のぞが買って来てくれた。」「え?ちょっと待って。今野の服ってのぞみんが選んでんの?」「いや、今回だけ。絶対にこれ着ろって。」「……のぞ...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 34

    明日から夏休み。期末試験を無事に終えて、涼しい部屋の中でゲームをしながらベッドに寝そべる。咲の匂いが充満した部屋にいるだけで幸せで、明日からここに入り浸れると思うと頬が弛む。そんな中、咲が思いだしたように口にした。「そういえば、陸部の合宿いつから?」「合宿ってなに?」「え、陸部はないの?」「あー、自由参加だから俺は出ない。」「……そっか。」―――そのニュアンスからして、咲は出るんだよな……?そう思いなが...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 33

    試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、咲と視線が交わる。俺に格好いいって言われるのが、一番うれしいって言ってくれた。だから、たくさん格好よかったって伝えたい。早く声をかけようと立ち上がったが、俺よりも先に女子が駆け寄っていくのが見えた。見覚えのない制服に身を包んだ女子が、咲を見て微笑んでいる。その姿を見ているだけで、シャボン玉のように膨らんでいた気持ちがピシャンと破れた。―――あー、すげえつまんない……。...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 32

    望海―――き、来ちゃった……。咲に内緒で練習試合に顔をだしたはいいけれど、他校なんて初めてでよくわからない。試合時間ギリギリに来たから受付も終わってしまっていて、広い敷地に気持ちが萎える。どうしようと思いながら校舎の方に向かうと、肩を叩かれた。「試合観に来たの?」「え?」「そっちじゃない。」見覚えのあるジャージ姿の男に手首を引かれ、スタスタと歩き出してしまう。その後ろ姿を見つめていても、男の顔には見覚...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 31

    全くやる気のなかったのぞが、瞬時に笑顔を消した。いつもの柔らかな雰囲気を封じて、代わりに全身から気迫が満ちる。エロ目とアイドル鑑賞で来ていたギャラリーがどよめく中、のぞひとりだけ別空間にいた。みんなが予行練習に余念がない中、目をしっかり閉じたまま微動だにしない。身体を使って覚えるのではなく、のぞは頭の中ですべてを完結できる。―――のぞ、やる気だ……。「胡蝶、大丈夫か?具合悪いならやめとく?」心配した西...

  • 蛇に睨まれたオオカミ 30

    咲のぞがバーを見つめて、軽く助走をつける。バーに近づくにつれてスピードが増して、体重をかけて踏み込んだ。そのまま空に向かって身体がふわりと浮き上がると、バーからかなり高い位置を背中が通過した。そして平行に身体を保ったまま、ゆっくりと着地する。数秒で終わる僅かな時間だと言うのに、スローモーションのように優雅に見えた。先月まではさみ跳びしか出来なかったはずなのに、今は1年で唯一背面跳びをマスターしてい...

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