前回の投稿から暫く離れてしまいました最近ではボーイズラブのドラマも人気の様で、アイドルの様な美麗な男性が主役をされていますね人気俳優への登龍門的な要素もあるのでしょうか (仮面ライダーに継ぐ?)ドラマはコミックが原作のものが多く、私も読ませて頂いていますのでドラマもたまに観ますコンプライアンスがあるので公共電波では表現が狭められてしまいますよね個人的にはもっと攻め込んでほしいものですが・・・・中...
R18有。切ないけど楽しい物語。同級生、リーマン、日常系のお話です。
オリジナル小説・イラスト・漫画など 何でも思うまま創作中
千晶の異変に気付いたのは、夏休みが終わり二学期が始まってすぐの事。正美の部屋にも時々来る事はあり、正美はあの夜の事がトラウマの様になっていて、千晶に触れる時は細心の注意を払っていた。でないと、容易に壊してしまいそうで怖かった。 その晩も、千晶は正美のベッドに潜り込んでくると、性急に身体を求めて来た。そして、いつもの様に優しく触れる正美に対して、急に上体を起こすと「正美は俺の事負担に思ってるんだ...
夏休みも終わりに近づくと、課題を仕上げる為に午前中は自室に籠っている千晶。父の言葉を聞いた次の日に、それとなく謝る様なメッセージをもらい、かえって煩わせてしまったと思う千晶だった。あれから夕飯は自分と正美の分しか作らなくなった。母の京子に至っては、父とのやり取りを知る術もなく、相変わらず仕事に没頭する毎日で、子供としては両親の仲が心配になる。「ねえ、最近お父さんと母さん、ちゃんと会話してるのかな...
どうしても、父拓真の云った言葉が気に入らない正美は、部屋のドアをノックすると「入るよ」と云ってドアを開けた。「どうかしたか?」と、風呂の準備をしていた拓真が、着替えを手にして正美を見たが、その表情はあからさまに不機嫌そうで、すぐに今しがた自分が云った言葉のせいだと分かる。「父さんさぁ、千晶がせっかく料理を頑張ってるのに、あんな言い方は酷いよ。二人が遅くなるのは承知で、ちゃんと保存できるようにして...
ご飯を食べな がらの会話はいつもと変わらない。千晶は勉強で難しいところを正美に訊くし、正美はバスケで練習試合をした事やポジションが変わった事を話す。変わり映えしない話でも、食べながらのものはそれだけで楽しいと思えるし、食も進んだ。「洗い物はオレがするから、千晶はリビングでゆっくりしな」 立ち上がると、正美がそういうので、ありがとう、と云って千晶は自分の皿を渡すとキッチンから出た。 本当は正美の方...
今夜の夕飯は、簡単に冷やし中華を作って食べる事にする。キュウリやトマト、ハムに玉子を刻んで用意しておくと、後は麺を茹でるだけ。冷蔵庫にしまって、正美が帰ってきたら準備すればいい。 取り敢えず、先にシャワーを浴びる為に浴室に向かう。身体を洗いながら、最近正美に触れられていないせいで、性欲が溜まりつつあるが、それを自分で処理する気にもなれなかった。 簡単に済ませると、浴室から出て髪も乾かさないままキ...
あの夜から一週間、正美が千晶に触れる事はなかった。部活が始まると、疲れを理由にひとりで眠りたいといい、正美は千晶を遠ざけた。二人の間には、なんとなく共通して戸惑いがある。一線を越えて、繋がりたいという気持ちと同じくらい、どうなってしまうんだろうかと、不安もあった。それを払拭できないまま、取り敢えず夜は離れて眠る事にした訳だ。 千晶は、塾の帰りにバス停で岸に出会うのではないかと、気まずさも抱えなが...
ベッドの淵に腰を掛けて、見下ろした先に千晶の揺れる頭部が見える。そして時折見え隠れする自分の硬芯が、千晶のくちびるに飲み込まれると、腰のあたりが疼いてしまい力が入った。「ぁあっっ、..........」と、低く呻いてしまえば、チラッと正美を見上げる千晶の眼差しが、胸を射貫くように熱い。正美が感じているのかを確かめるように、何度も見上げられて、遂に正美の手は千晶の頭を押さえつけた。 吸い付かれて、その度に力...
必死に抱きついてくる千晶が可愛くて。 正美は、指先を丁寧に蠢かせ、出来るだけ痛くない様に孔を刺激する。本当は、自分の滾ったものをそこに捻じ込みたくて、でも、傷付けてしまうのが怖くて、勢いに任せてし始めた事を少し後悔した。前を扱きながら孔に入った指を少しづつ奥に進めると、急に千晶の身体がビクンと跳ねた。同時に、ひぁぁっ、と変な声が耳元で聞こえて、驚いた。「ど、どうした?」と、千晶の顔を覗き込むと、...
正美にキスをされて、そのまま後ろを弄られて、前に自分で慣らそうとした時には、指一本の先っぽがせいぜい。それも異物感がハンパなくて、諦めてしまった。なのに、今はキスをされているせいか、興奮状態だからなのか、あまり不快感は感じなかった。むしろ、ちょっと気持ち良かったりして、頭の奥がぼんやりしてくる。「ぁ、.......まさみ、ぃ...............」 息継ぎをした時に、思わず声が漏れてしまい、それが正美を奮い立...
ベッドに横たわりながら、正美は帰りに出会った岸の姿を思い出していた。あの表情を思い出すと、胸のあたりが苦しくなり、益々千晶を閉じ込めておかなくては、と思ってしまった。閉じ込めるなんて出来る訳がないのに.....。 千晶に、岸と会うなと云うのは、底意地が悪いと思われてしまうかも。でも、云わなければ千晶は簡単に岸の手にかかってしまいそうで。それだけは回避したかった。 沸々と思いを巡らせていると、ドアが開...
その夜、両親の帰りはいつも通り遅くて、千晶は正美の後にシャワーを浴びようと、リビングで待っていた。 テレビの音声を聞きながら、視線は携帯の画面に向けられている。祭りで久々に出会った吉村からメールが来ていて、それに返信をするが、内容は今日紹介された年上のカレシの惚気に対してのもの。ボーイズラブの漫画を借りてから、何度か行き来はあった。その頃は、まだカレと出会っていなくて、何なら千晶に好意を寄せてい...
人通りの少なくなった道で、腕を掴まれたままじっと黙っていると、そのうち家の方に向かって歩き出す正美に引っ張られる千晶。 肘の上あたりをグッと掴まれて、段々痛くなってきた。なのに、一向に掴んだ手を離さないので、千晶はとうとう声をあげると、離してよ、と云った。 フッと千晶に振り返り、漸く正美が手を離す。「痛いんだよ、力任せに掴んでさぁ。折れるかと思った」 そう云うと、腕を擦って見せる。「.....ごめん...
正美と岸の間に不穏な空気が漂い、千晶はおろおろとするばかり。 自分たちが血の繋がった兄弟でない事を岸が知っている。その事で、正美は千晶の顔を見ると、「お前が話したの?」と訊いた。「あ、......ごめ、......でも、別に隠す事じゃないし」 千晶は、正美に鋭い視線を向けられて、うわずった声で云った。別に、小学生の時からの友達や同級生には知られている事だ。頑なに隠す必要はないと思っていた。 岸は、尚も正美に...
正美の言葉に傷ついた千晶は、頬を膨らませたままどんどん先を歩いて行く。「ちょっと、千晶、、、、」と云いながら困り顔の正美。千晶の後を付いて行くが、その内諦めてゆっくり歩き出した。 千晶を弟と云ってしまった事で気を悪くしたのは分かっている。だが、事実だし、自分としては弟の千晶を好きになってしまったので、それは分かって欲しいと思う。 千晶の背中がどんどん遠ざかって、振り返りもせずに歩き続ける姿を見る...
雑踏へ戻って、飲み物の屋台を探す。プラスチックの容器に入った色とりどりのジュースが、南国を思わせるイラストの台の上に並んでいて、千晶はじっと物色しながら歩いた。可愛い形をしたストローが刺さっているのは、値段も高くてちょっと買うのをためらう。 少し歩いて他の屋台を探すが、ほとんど似たようなものばかり。かといって、自販機も近くには無い。仕方なく、戻りながら最初の店のジュースを買おうと、店の前に並んだ...
夏休み中、千晶たちの両親は何故か仕事に追い立てられている様で、相変わらず子供たちだけでの時間を過ごす事となった。 正美は、父と母が言い合いをしているのを聞いてしまって、それを千晶に云えないままいる事で、気持ちはとても複雑だった。「まあ、毎年こんな感じだよな」と、諦めた様な言い方の千晶に、正美も「そうだな」と同意するしかない。「おばあちゃんの家に行ってみる?」 正美がそう云ったが、千晶は祖母から旅...
塾の帰りに岸と出会う事が多かったせいで、千晶はバス停に着くと辺りを見回した。前回来た方向には見当たらなくて、少しだけ安堵する。 岸の事は別段嫌いではないし、センパイとして優しく接してくれるので、そこは有難いと思う。が、付き合うという事とは別だ。岸が、同性との付き合いを良しとする人種なのが分かって親近感を覚えたが、自分に矛先が向けられると曖昧な返事は出来ないと思う。それに、自分は正美以外の男を大事...
朝も早いというのに、セミの鳴く声で目覚めた千晶は、隣でうつ伏せのまま眠る正美の肩を揺する。「正美、起きなよ、部活行くんだろ?」 声だけ掛けると、自分は正美の身体を跨いでベッドから降りた。脱いで床に落ちたままのTシャツを被ると、ハーフパンツを穿いてもう一度正美の顔を見る。「おい、俺下に行くから、ちゃんと起きなよね」「.......う~ん、分かったぁ」 寝惚け眼を擦りながら、そう云って枕に突っ伏した正美。 ...
父の事が心配なのに、ふたりでベッドに入ってしまえば、火が付いた様に抱き合う千晶と正美。 互いにヌき合うと、大きく深呼吸をして正美は立ち上がった。「喉渇いたから水取って来る」 そう云って、Tシャツを着て、部屋から出て行く正美の背中を見送りながら、千晶は頭の片隅にしまった岸の言葉を思い出す。 階下に降りて行った正美は、リビングから両親の声が聞こえたので、声を掛けようと近寄って行ったが、なんだか声の調...
正美の体温を背中に感じて、いつもなら跳ね除けるところだが、今夜はなんだか安心して身を任せられた。一応は両親の帰って来ない事が大前提だが、回された腕が千晶の身体を弄って、腹や胸の辺りに伸びてくると少しだけ期待してしまう。案の定、正美の指先は千晶の胸の敏感な先っぽを捉えるとキュッと摘む。おもわず変な声が漏れそうになって、慌てて身体をグッと反らせると、後頭部が正美の顎に当たった。「イテッ、、、」と怯ん...
「おまっ、、、そういう事は自分で云うから」 岸は黒田に掴まれた肩をぐるんと回して跳ね除けると云った。そして千晶の顔を見ると「ごめん、時々変な事いうんだ、コイツ」と云って照れくさそうに笑う。「.....ぁ、いえ、.....」と、言葉に詰まるが、千晶は靴を履いてしまうと「あの、ホントに一人で帰れますから」と云って、一礼して玄関のドアを開けて外に出た。岸は付いて来ようとしたが、千晶が階段を駆け下りて行ったので立ち...
岸と黒田の視線が自分に注がれているのを感じて、千晶はなんと言おうかと戸惑った。口にしてはいけない事実。正美の為にも、ふたりの関係は言えない。「正美はいいアニキですよ。ちょっと俺の事を子供扱いするけど、まあ、いいアニキです。弟として俺の事を好きなんだと思います」 ちゃんと自然に言えただろうか。言い終ると千晶はホットケーキを口に運んでゆっくりと嚙みしめた。その間にも心臓はドクンと脈打つが、コーラで喉...
キッチンからいい匂いが立ちこめてくると、暫くして皿を持った黒田が千晶と岸の前にやって来た。「おっ、これはホットケーキじゃん。黒田の作るの美味いんだよなー」 岸は目の前に置かれたホットケーキを見つめると云った。それから千晶の顔を見ると「遠慮しないで食べなよ」と微笑む。「お前が云うな。作ったのはオレだし、藤城の弟にはオレが云う」と、黒田は岸の頭を小突いた。「あ、いただきます」と、黒田に云うと、千晶は...
繁華街からほど近い所にある、スナックの様な店の前で止まった岸は、入口を指さすと「ここに入ろう」と云った。「え?ここって.....」 千晶は店の看板を見上げると、少し戸惑う。どう見ても大人の人が入る店の様な気がして、自分が入ってもいいのだろうかと、岸の顔を見た。「あ、ここって友達の母親がやってる店なんだ。今はまだ開店前だから、大丈夫だよ。それに、この上が住まいになってて、ちょっと飲み物と何か食べさせて...
食事が終わると、ふたりはゲームセンターに向かった。店内は思った通り学生が多くて、自分たちと同じぐらいの中高生が目立つ。中には親と一緒に来ている小学生も居たが、人気のゲームの前には高校生らしい男子がたむろっていた。「結構混んでますね。なんか、順番待ちしなきゃいけないみたい」「そうだね、あの辺はオレと同じ高校生だな。知った顔のヤツも居るから.....」「あ、そうなんですか?.....どうしよう、奥の方に行きま...
* * * 正美が怪我をしてから2週間、千晶は甲斐甲斐しく世話を焼きながら、自分も塾と宿題を片付けるのに忙しい日々を送っていた。ある日の事、携帯に一通のメールが届いた。画面を見て、千晶は「あっ」と声を出すと一瞬悩む。メールは岸からのもので、明日、遊ばないかという内容だった。 明日は塾の無い日で、正美も部活に行くというので一日暇ではあった。が、岸の事をあまり良く思っていない正美には相談出来ない。自...
朝になると、千晶は正美を起こさない様にベッドからそっと降りる。寝返りが打てないせいか、夜中に何度も目が覚める正美は、朝方になると漸く寝つけるみたいで、千晶が起きる頃にはぐっすりと寝息をたてていた。 ちょっと前までは、正美に起こされていたのに、と思うと、自分でも成長したなと思う。料理も少しなら作れるようになったし、少しづつ正美に近付いている様な気もする。 鼻歌交じりに一階に降りて行くと、京子が出掛...
多恵子が帰って行くと、千晶はリビングでテレビを観る正美の横に腰を下ろした。「ばあちゃん、意外と元気そうで安心したな」と云うと、「そうだな」と正美も微笑む。昨年の事もあって、身体の心配はしていたが、自分の時間が作れるようになって、祖母も楽しんでいるのが分かる。「そうだ、.......父さんは結局遅くなるって、さっきメールが来てた。設計の方でゴタゴタしてるらしいよ。オレには分かんないけどさ、お母さんに悪い...
久しぶりに祖母の多恵子を交えての夕食。千晶は嬉しかった。昨年、多恵子が倒れて入院するまでは、正美がこの家に来てからずっと三人で食卓を囲んでいた。両親との繋がりよりも、こうして祖母と正美が居てくれる事が何よりの安心感を与えてくれる。「おばあちゃんの唐揚げ、やっぱり最高に美味しい。前に千晶と作った時は、味がイマイチ薄くて」 正美はフォークで唐揚げを持ち上げながら話す。「唐揚げはね、先に味付けしてから...
バスが最寄りの停留所に着く頃には、黒田に対する緊張感も無くなっていた千晶。ゆっくりと家まで歩いていると、前方からやって来る松下の姿が見えた。「あ、アジー久しぶり。どこ行ってたの?」 松下は口角を上げると、早足で千晶の前にくる。日焼けした顔は満面の笑みで、夏休みに入って初めて顔を合わせたので喜んだ様だ。「オッス、久しぶり。俺は塾の帰り、お前はどっか行くの?」「えへへー、実は彼女と映画観に行くんだ。一...
塾の時間をみながら仕度をした千晶は、リビングのソファーに寝転んでいる正美の所にやって来ると、声を掛けた。「じゃあ、俺は塾に行くから、帰ってきたら夕食の準備をするね」 なんとなく正美を一人にするのは可哀そうだと思うが、塾を休む訳にもいかない。ソファーで寝転んだまま、顔だけをあげて千晶を見る正美は、渋々笑顔を向けてくれる。「いってら。........あんまり無理して早く帰らなくてもいいよ。しっかり勉強頑張っ...
少し窮屈な格好で寝たせいか、目覚めた正美はベッドから起き上がると首をゴキゴキと鳴らす。「あ、正美、......よく眠れた?」と、千晶は伸びをすると訊ねた。「ん~、やっぱり寝返りを打つ度に気になって、なんか寝た気がしない」「暫くは仕方ないよ。家に居るんだし、眠くなったらソファーで寝ててもいいからさ、身体を休めなきゃ」 そう云って起き上がる千晶。正美の腕を心配そうに眺めるが、正美は「ボール触れないのも辛い...
ベッドの縁に腰掛けた正美は、乾いた髪を左の指で確かめると、満足そうに目の前の千晶に微笑んだ。「人にやってもらうのって楽だな」「腕が治るまでは毎日俺が乾かしてやるよ。あと、風呂も」 そう云うと、フフフッと含み笑いをした千晶。ドライヤーのコードを巻き付けると、所定の場所に仕舞う。「俺は自分のベッドで寝るから。正美はゆっくりして」 正美の頭に手を置くと、そう云って離れようとしたが、手を掴まれて引き戻さ...
浴室から出てきた京子がリビングに居る千晶と正美に声を掛ける。「お父さんは日付が変わってからじゃないと帰って来ないから、ふたりは早めにお風呂に入って休みなさいね。正美くんの怪我の事はメールで知らせておいたから」 そう云うと、ニコリと微笑んで自室に戻って行った。「相変わらず父さんは仕事ばっかりだな」 正美が呆れた様に話す姿に、千晶は少し寂しさを感じた。こんな時、やはり父親には心配して傍に居て欲しいと...
千晶は時計の針を見ると、仕方なく作りかけの冷やし中華を完成させてテーブルに並べた。母の京子が帰って来るかもしれない。食べずに待っているのも変に気を使わせてしまうと思い、取り敢えず夕飯を食べてしまう事にした。 食べ終えて暫くすると、玄関の扉が勢いよく開いて「ただいまー、正美くん帰って来た?」と京子の大きな声が廊下に響いた。キッチンに顔を覗かせると、千晶の顔を見て「まだなのね?」と眉根を下げる。「コ...
急いで帰宅すると、玄関に正美の靴がない事を確認。カギはどちらにしても閉める事になっているから、ひょっとして先に帰っている場合もあった。だが、靴がないという事はまだ部活から戻っていないという事だ。 ゆっくりと自分の部屋に行き、塾の鞄を机に置いた。汗をかいて気持ち悪いので、先にサッとシャワーを浴びようと、着替えを持つと下の階に降りて行く。夕方だというのに、まだ陽射しは強くて、リビングのエアコンを入...
バス停に着くと、自販機で買った飲料水のキャップを開けてゴクッと喉に流し込む。一気に身体は潤った気がするが、額の汗は拭っても吹き出してきた。あっついな~ と、口からは自然と愚痴がこぼれ、バスの来る方向に目をやったまま再び飲料水を飲み込んだ。汗拭きシートを取り出そうと、鞄を開いた時だった。千晶の後方で「ちあきくん!」と名前を呼ばれてビックリする。 名前で呼ばれる事がほとんどなかったので、近所の人だろ...
塾の入っているビルは、商業施設が並ぶ建物に囲まれている。人通りも多く、平日はサラリーマンや買い物客で賑わっていた。舗道を人にぶつからない様歩いて行くと、ビルに着いてエレベーターに乗り込む。5階が学習塾のあるフロア。下の階は色々な会社が入っていた。エレベーターに乗り込むと、一緒になった生徒が3人居て、顔を見るのも恥ずかしくて俯く千晶だった。少し緊張が走る。 5階に着くと、それぞれ自分の教室に向かっ...
岸の事を考えると、千晶を抱く手に力が入る。「イ、タイ........」と、腰を掴んだ正美の手が千晶によって解かれると、慌てて「ゴメン」と謝った。「部活で疲れてるんじゃないの?........ま、いいけどさ。でも力強すぎ」 千晶はくるりと向きを変えると、正美の顔に近寄って口を尖らせる。見つめ合うと、正美も本当に反省した。岸の言葉が気に障って、在り得ない事だけど千晶を取られるような錯覚を覚えてしまい、つい自分の手の...
千晶がキッチンで夕飯を作っていると、帰って来た正美がやって来て後ろから抱きついた。「どうかした?........熱いんだけど」 家には二人きりなので驚きはしないが、正美がこんな事をして来るのは珍しいと思った。自分の部屋以外では極力離れているし、ふたりの秘密が両親にバレない様に気をつけていたから。「千晶、料理上手くなったよな。オレの作れるものは殆ど千晶も作れるようになったし。帰るの遅くてごめんな、手伝えな...
* * * 正美は部活、千晶は受験勉強を頑張っていると、やがて夏の陽射しが照り付ける季節となった。インターハイ予選のレギュラーはもちろん、控え選手にもなれなかった正美は、相変わらずの厳しい練習に耐え続けている。岡部もまた、控え選手のひとりにはなれたが、一度も試合には出る事がなかった。「結局、インハイの決勝までは行けなかったな。上には上がいるって事だよな」 部室のカギを閉めながら岡部は云った。2回戦ま...
正美が家に着く頃には既に辺りは暗くなっていて、玄関のドアを開けると中からはいい匂いがして、今夜のメニューがビーフシチューだと分かった。急いで靴を脱ぐとキッチンへと向かう。「ただいまー」と声をかけると、キッチンに居る京子が振り返って「お帰りなさい」と笑みを浮かべた。千晶の姿は見えなくて、「着替えてきます」と云うと急いで二階にあがって行く。 トントンと軽やかに駆けあがり部屋に入ると、鞄を置いて着替え...
部室で着替えを済ませると、正美は岡部と共に体育館に向かう。1年生は床のモップ掛けをして、その後ボールを出したりと用意をしてからの準備体操。10人だった1年生が今は7人しか残っていない。準備体操をしていると、2年生や3年生がやって来て一気に緊張が走る。「おーい、1年生集まれー」 主将の富永が入口から入ってくるなり声をかける。すると、一斉にドタドタッという足音が響いて1年生たちは富永の前に整列した。ピンと背...
午前の授業が終わると、食堂に行ってバスケ部の同級生と昼食を食べる正美。平日は弁当を持って来て食べる事もあるが、食堂のメニューも色々あって、土曜日はそこで食べるのも楽しみだった。正美の友人で、バスケ部員の岡部はランチの唐揚げ定食の大盛を前に、眉を下げて浮かない顔。そんな顔を見つつ、正美はナポリタンを口に入れて様子を窺う。「1年生部員、3人は他の部に移るってさ。隣のクラスのヤツじゃなかったっけ?」 ...
心地よい微睡みの中、目を覚ました千晶。隣を見ればそこに正美の姿は無かった。「あ、そうか.......学校........」 正美は、今日は午前中授業で、午後には部活があると云っていた。千晶は休みなので起こさずに行ったのだろう。布団から抜け出ると、一応自分の身なりがどうなっているのか確認した。下着もスウェットの上下もちゃんと着ていて安心する。千晶の中では半分夢のような出来事で、自分のくちびるに指を添えると恥ずか...
二人の言葉が止むと、自然に身体が引き寄せられて、ふたりのくちびるが触れ合う。少し熱を持った湿り気のある感触。正美の舌が千晶の咥内に入ると、歯列をなぞる。「ん、..........ふぅ..............」 徐々に激しくなる口づけに、千晶も興奮を覚えると、身体は自然に正美を求める。昨日の事もあるし、江本の本の内容も頭を過ぎると、どこかで期待している自分が居た。 正美の手が胸に触れると、先端の小さな粒を捏ねてくる...
布団に入り、暫くは互いに天井を見ていたが、ふいに正美の手が隣の千晶の手に触れて握ると、横を向いて軽く頬にキスをした。千晶は一瞬だけピクっとなったが、すぐに正美の方に向き直ると笑みを浮かべる。近くで体温を感じる事だけでも幸せだと思えた。「昨日、ビックリしたよな?ごめんな」と正美に云われて、「え、何が?」と返すが、すぐにアノ事だと思った。正美が千晶の性器を舐めた事しか想像できない。「............そ、...
浴槽に浸かりながら、千晶の人差し指が膝を割った先の付け根に伸びると、恐るおそる後ろの窄まりに触れる。指の先を少し入れようとするが、心臓がドキドキして中々入れる事が出来なかった。触った感触は固く閉ざされていて、江本が云う様に一本も入る気がしない。いや、そもそもオイルもないし、爪の当たる感触も怖かった。 千晶は深いため息を吐くと、水面のお湯をパシャっと叩いた。それから頭を抱える。------ ダメだ。漫画...
食事が終わると、正美はすぐにシャワーを浴びたくて浴室に行ってしまった。後片付けをする千晶は母親からのメールが来ているか確認するが、来ていないのが分かると、一応レトルト食品と冷凍食品があるか調べておく。-------母さんもちょっとメールくれたら楽なのに 呟き乍ら、仕方なく自分からメールを送ると、食材が無くてレトルトか冷食しかないと伝えておいた。何か買って来るように、と打っておいたが、母親の事だし外食...
急いで家に戻り、千晶は鞄を置いて着替えを済ますとキッチンに降りて行く。正美が戻るまでには時間がある。が、今日は作り置きのおかずがなかったので、パスタを茹でる事にした。明日は土曜日なので学校は休校。母の仕事は予定が分からないので、もし休みなら一緒に買い物に行けるはず。スーパーでまとめ買いをしなければいけないな、と思う。 冷蔵庫から玉ねぎとピーマンを出して刻み、ベーコンを切って炒める。フライパンに炒...
目の前に差し出された本の中身に視線を注ぐと、そこには江本が言った通りの描写があって、白抜きにはなっているが、確かに男のものが受けらしき男の尻を捉えていた。千晶は本を手に取るとじっと見つめる。そして、心なしか頬が熱を持っている事に気付くと、我に返って江本に見られているのが分かった。視線が合うと、口元がニヤッと緩んで千晶の横に立つ江本。「やっぱ、藤城って可愛いな。ほっぺとか、ニキビひとつも出来てなく...
江本がドアを開けて入って来るが、何故か沢山のコミック本を抱えていた。「えっ、そんなに持って来ちゃって大丈夫?!」と、声をあげる千晶。いったい何冊あるんだろう。「大丈夫、この中から良さそうなの選んでいいよ。続きのはコレだけどさ」 江本が一冊を先に千晶に渡し、残りの10冊ぐらいは机に置いて自分の読む本もそこから一冊手に取った。「オレ、この作家好きなんだ。受けの子がメッチャ可愛い」「ウケ?」 江本の言...
「オレの部屋二階にあがって直ぐのとこだから、先に入ってて。お菓子と飲み物持って行く」 江本は階段の手前に来ると千晶に云った。江本の家は白木が使われていて、全体的に白っぽい感じ。玄関を上がって直ぐに部屋がある様で、その奥がリビングとかキッチンになっているんだろう。千晶が階段を上がりながら見ると、奥のドアを開けて入って行った。 云われた通り二階に上がると、すぐに扉があってドアを開けると入ってみる。友達...
校舎の窓からぼーっと運動場を眺め、昨夜の事を思い出す千晶。途端に臍の下辺りがズクンと疼き焦る。___何思い出してんだ、俺 すぐに頭を振ると黒板に意識を向けた。今は授業中で、英語の教師が流暢に教科書を読んでいる。千晶は窓際の席で、半分開いた窓から入る風を頬に感じながら、気を抜くと正美の顔が浮かぶので困ってしまう。そんな千晶の事を2列前の廊下側の席から眺める江本。千晶の顔が高揚したり素に戻ったりして...
正美の咥内は温かく、うねる舌が肉壁の様に千晶の硬芯を締め付けると、声が出そうになるのを必死で抑えた。飛びそうになる意識の中で、ふいに松下の事が頭を過ぎって、こういうの、アイツも経験したんだろうか、なんて思ってしまった。両手で口を塞ぎながらも、中心に集まる快感の嵐を抑える事は出来ない。「んんっ、.......ぁ、...............んふっ...............ゔっ..............」 自分から発する吐息交じりの声が頭の...
背中に回された腕が解かれると、千晶の頬にフッと唇が当たる。正美の指先は首筋を撫で、反対の頬を軽く支えると口づけをした。甘いくちづけをされると、身体は宙に浮いてしまう程心地よくて、千晶は先程までの不安や怯えも飛んでしまいそう。何度もくちびるを食む様に、キスの雨が降って来る。その度に身体が熱くなるのを感じると、自然とへその下あたりがムズムズしてきて、足の置き場に困った。「硬くなっちゃったね、ここ」 ...
急に胸の奥が痛くなった。千晶は自分の手の中にあると思っていた。それが、こんな事を云いだすだなんて............「カノジョ、ってなに?........どうしてそんな事云うの?」 正美は千晶の肩をギュッと掴むと訊いた。多分、今までで一番低いトーンの声だったと思う。自分で云ってちょっと驚くが、千晶は目を伏せたまま答えなかった。「オレが部活ばっかで、千晶との時間が少ないのは悪いと思ってる。ご飯も手伝えなかったし。...
食事が終わると、正美は先に風呂へ入ると千晶に云ってキッチンから出た。様子がおかしいと思いつつも、それ以上は訊けない。いったいどうしたっていうんだ?二階の自室に向かいながら頭を捻るが、正美には分からなかった。 相変わらず部活の練習はキツクて、正直今はそれについて行くのがやっとで。部活と学校の勉強、それが正美の中では一番こなさなければいけない問題だった。もちろん千晶の事が大事だ。でも、それはこの先も...
どの位時間がたったのか..... ガチャっという音がして、テーブルから顔を上げると時計を見てビックリする千晶。もう7時はとうに過ぎ、8時前になっていた。キッチンのドアが開くと、「ただいまー」という声と共に正美が入って来る。が、千晶の様子を見て一瞬で変だと悟った。制服のまま、鞄も床に置いて椅子に腰かけている。正美の方を向いた顔がギョッとした表情で、声も出ないといった感じで。「どうかした?具合でも悪いの...
千晶は、人気のないキッチンの椅子に腰掛けると、ぼんやり正美の顔を思い出す。最近は疲れてる顔しか見ていない気がした。部活の練習は本当にキツイのだろう。でも、一緒に寝る事で癒されると言われ嬉しかった。 もし、自分が正美の彼女だったら、松下の様に嬉しそうな顔をして友達に話せるのだろうか。義理とはいえ弟の、同性とエッチな事をしているだなんて、口が裂けても言えないだろう。自分だって誰にも言えない。 段々と自分...
ぼんやりしながら家までの道を歩くが、隣にいる松下の言葉は入って来ない。童貞を卒業って.......その相手ってもちろん彼女だよな、と思いながら、頭の中は色々な妄想が巡っていた。とはいえ、女子の身体なんてなんとなくでしか見た事がないし、想像しようにも自分と正美の行為しか知らないので頭の中はぐちゃぐちゃ。「おい、......アジー、........聞いてる?」「........ぁ、ごめん、なに?」 千晶は気を取り直して松下の方...
部活の間中も、ずっと江本の云った言葉が脳裏に残って離れない。千晶は、一向に進まない筆をぼんやり眺めると、首に残る絆創膏に触れた。今朝、正美が貼ってくれたので、その時の仕草を思い出しては一人悦に浸る。正美も江本の様に思っているのだろうか。どうして自分を選んでくれたのだろう、と考えてしまう。「今日は一緒に帰れるからさ」 そう云ったのは松下で。画材道具を棚に仕舞うと、千晶と江本の元にやって来た。「カノ...
移動教室に向かう生徒を見送って、最後まで教室に残った千晶と江本。他に人がいないのを確認すると、千晶は鞄から本の入った袋を取り出して江本に渡した。「なんだか悪いブツでも取引してるような感じだね」 袋を受け取った江本が笑いながら云う。確かに、人目を忍んでコソコソと渡すなんて、人が見たらなんの取引かと思われそう。「悪い物じゃないけど、漫画自体学校に持って来ちゃいけないんだからさ。それも、内容がこんな.....
江本から借りた本をこっそりと仕舞い、通学鞄をドキドキしながら抱えると教室に入って行く千晶。春の暖かい風のせいなのか、それとも緊張からか、うっすらと額に汗をかいていた。「おはよう」と、教室の生徒に挨拶をしながら席に着いたが、視線は江本を探した。でも、まだ登校していなくて、鞄を開けるのを待つことにする。江本の顔を見たら、速攻で本を返そうと思っていたからだ。 近くに座った生徒と、他愛のない話をしながら...
本を閉じると、千晶は天井を見上げる。心を落ち着かせようとしているのだが、目眩がしてベッドの上なのに手で身体を支えた。同時に、本は床にトサッと落ち、表紙の絵だけが華やかに見えた。女性のグラビア写真は目にする事もあるが、この、男同士の性描写は初めて見るし、自分と正美がしている事もあったが、その先にもっと凄い事があるなんて知らなかった。「どうしよ、なんか、.............正美には見せられないな」 おもわ...
キッチンでオムライスを作っている間も、千晶は机にしまった本の事が気になっていた。表紙しか見ていないが、江本の云っていた男同士の恋愛漫画って、どんな内容なんだろう。女の子が好きそうな作品は、映画化されたりして、コマーシャルだけど観た事がある。同じような感じなんだろうかと、思いを馳せた。 自分と二人分の夕食を用意すると、両親の分は味噌汁だけ取っておいた。おかずは冷蔵庫に作り置きの物があり、オムライス...
本屋に入ると、新作の小説が並べられていて、そういえば最近本を読むことがなかったな、と千晶は思った。江本が先に進んでいくので、仕方なく付いて行くと参考書でも見に行くのだろうと思っていたが、コミックのコーナーの方に向かっている。あれ?と思いながらも、漫画は嫌いではないし、紙の本は最近買う事もなかったので新鮮だった。目新しいコミックを手に取ると、江本が「藤城、ちょっと来て」と呼ぶ。棚の反対側にいるのか...
部活を終えて帰路についた千晶。途中までは松下と江本も一緒に帰るが、松下はカノジョと会う約束があるとかで、途中で別れた。江本に冷やかされて照れながら走っていく松下を遠い眼で見ていると、江本が「藤城も見た感じ彼女が居そうなのにな。結構女子に人気あるの知ってる?」と訊いてくる。「前は自覚あったけど、アレ、俺のアニキのお蔭だった」 千晶は足元の小石を蹴ると、つまらなさそうに云った。「いっこ上の?前に見た...
白い画用紙に向かっている時間は好きだった。運動はそこまで好きじゃないし、美術部は案外緩くて部活を休んでも文句を云われることはない。コンクールの時だけちゃんと作品を仕上げれば、後は好きなイラストや漫画を描いている生徒もいる。千晶はデザインが好きで、作品を仕上げるよりはデザインの本を読んでいる時間の方が長かった。それでも、コンクールではいい成績を残す事もある。表彰もされたが、それ自体はあまり関心がな...
千晶が制服を着替えていると、正美はすかさず絆創膏を手にやって来て、首のキスマーク痕に貼ってやった。「もう、ヤダなぁー。絶対友達につっこまれる。そうでなくても、松下なんか彼女とキスしたいとかわめいてるのにさ」 千晶は口を尖らせると正美を睨んだ。中学3年にもなると、男子の興味はそんな事ばかり。受験は別枠の様だ。付き合っている相手がいるなら尚更興味を持つ。「悪かったよ。これからは見えるとこにはつけない...
疲れもあってか、正美の方が先に果ててしまうと、ぐったりと千晶の横に倒れ込んでしまう。正美は上下する胸に手を当てて呼吸を整えようとするが、身体がだるくて動けそうになかった。横に顔を向けて千晶の表情を窺うのがやっとで。 すると、千晶は正美の上に乗っかって、自身のものを擦りつけながら小さく喘ぎ声を漏らすと、自分で高みに昇りつめていった。はっ、はっ、.............あぁぁ.............んあっ、.................
寝る準備をした千晶だったが、なんとなく母親との事でモヤモヤしたままで、正美の傍に居たくて部屋を訪ねてしまった。ノックをすると、いつもなら入っていいよ、という声が聞こえるのに、今夜は返事がない。気になって部屋のドアをそっと開けてみると、既に布団に入っている正美が見える。部屋の電気は点いているので、まだ寝るつもりはなかったのだろう。「まさみ、.......まさみ、電気消していいの?」と云って近くに顔を寄せ...
京子が風呂から出て来てキッチンに来ると、千晶が食器を洗っているところだった。後ろ姿を見て、随分と大きくなった事を実感すると、胸の奥が少しだけ傷んだ。可愛い盛りの3歳ごろから母の多恵子に預けっぱなしで、自分は千晶と向き合ってこなかったなと思う。反省する事ばかりで、心の中では申し訳ないと思いつつも仕事が優先順位を占めてしまう。背中を見つめながら、「千晶、身長伸びたでしょ?」と訊いた。「え?なに突然。....
キッチンに立つ千晶の元に絆創膏を持って来た正美。「これで隠せるから」と、それを剥すと首のキスマークの痕に貼ってやる。「ったくもう、明日ひやかされたら嫌だなぁ」 千晶は絆創膏を指で押さえると口を尖らせた。 食事をとりながら学校の話をしていると、暫くして京子が帰って来た。「ただいまー」と云いながらキッチンに顔を出すと、書類の入っている大きな黒のカバンを床に置き「ふう~」と疲れた顔をして吐息を漏らした...
千晶を後ろから抱きしめた正美は、今日学校で岸に出会った時に云われた言葉を思い出した。が、一瞬のうちにそれを打ち消す。岸の言葉にイラつきを隠せなくて、つい千晶にそれをぶつけてしまった。離してと云われたのに、尚もギュッと力を入れて千晶のうなじに顔を埋めると甘噛みをした。「ちょ、......まさみ、」と、逃げようとする千晶。こんな所でするなんて、と焦る。「おかず作んなきゃ」と云う千晶に、正美は顔を離すと今度...
着替えを済ませてリビングに向かうと、千晶と松下の笑い声が廊下に響いていた。何をそんなに盛り上がっているのかと、ドアを開けて中に入ると二人は擽り合っているようで、松下が千晶を後ろから抱えて脇に手を這わせていた。「ぎゃっ、はははっ、やだ!ちょっ、やめ、やめ」と、言葉にならない声を出す千晶。 その姿を目の当たりにして、正美はギョッとして目をむく。「ちょっと、何してるんだ?!」と、おもわず声を出してしま...
ふくらはぎをパンパンにしながら、部室の掃除をこなす1年生たち。正美も、ここ半年間は受験で部活も休みだし、運動という運動はしていなかったので最近の走り込みがやっと慣れた程度。さすがに今日のような練習は足にクる。無言でロッカーの扉を拭く正美に、隣で岡部も静かに拭いていた。「明日から10分か~。しかも4回?まあ、ちゃんとボール触らせてくれるんならいいけどさぁ。これで1年のスタメンいないとか、萎えるんだ...
なんとなく違和感を抱いたまま部室に着いた正美。岡部は途中、気を紛らわそうと笑える話をしてくれたが、それも半分しか聞いていなかった。胸の奥に淀む物が何なのか、正美にも分からないまま気持ち悪いと思うばかり。 部室に着くと、既に来ていた一年生は神妙な面持ちでロッカーの前に立っていた。「どうかしたのか?」と、岡部がひとりに訊ねると、「一年生が揃ったら体育館に来るようにって。掃除はその後しろって云われた」...
その日、正美は同クラの岡部と共にバスケ部の部室へ向かっている途中で岸に出会った。岸は、以前千晶と関わりがあった人物で、初詣の時に初めて顔を会わせたが、その時に開誠館高校の先輩だという事を知った。「やっぱり藤城くんだったか。入学式の時に見た顔だと思ったんだよなぁ」 目にかかりそうな前髪を指ではらうと、岸が笑みを浮かべながら云う。「こんにちは」と、一応挨拶をして立ち止まるが、正美は岸の事が少し苦手。...
千晶の柔い唇にそっとくちづける正美。久しぶりの感触に、心拍数は一気に上がる。受験が終わるまではと、触れ合うのを我慢していた。高校に合格した後で一緒に寝る機会はあったが、意識的にあの夜の様な行為は避けていた。互いの中に、好きだという気持ちが強く芽生え、それを確かめる様な行為である事は分かっていた。でも、その先に待っているものが分からずに、今はまだ進めずにいる。「バスケは楽しい?」 千晶が正美の肩に...
正美の部活が終わるのを待って、千晶は晩ご飯の準備を始める。今夜のメニューは生姜焼き。サラダは昨日のうちに作り置きをしておいてくれたもの。京子が少しづつ作り置きを初めて、冷蔵庫にはタッパーに入った料理がある。なので、肉料理や魚料理などのその日に食べたいもの以外は困る事がなくなった。 テーブルに皿を並べて用意が整うと、壁の時計を見る。時間は7時を過ぎていた。「そろそろかなぁ」と呟くと、自分の茶碗にご...
高校生になった正美は、幾分か緊張した表情でバスケット部の練習に参加していた。練習といっても、一年生はひたすら走り込みの毎日で、後は部室の掃除。校舎の西側に運動部の部室があって、バスケット部とバレー部、野球部の部室が並んでいる。バレー部だけが女子の部室もあって、バスケと野球は男子生徒しかいない。男クサイ部室にはロッカーが並んでいるが、今のところ入部した一年生には与えられていなかった。 「俺たちいつ...
* * * * 季節は過ぎて、正美は無事高校生になり千晶は3年生となった。 正美の中学卒業式の日に、千晶が涙をこぼしたのは秘密だ。そっと制服の袖で涙を拭うと、前を向いて卒業証書を受け取る正美を見つめた。一緒に通った2年の月日はあっという間だったな、と、過去を振り返ってみる。ひとつ違いの正美に距離をとりつつも、どこか気になっていた。時折交わす言葉もぎこちなくて、見た目も中身も優秀な義兄に卑屈になりな...
正美の舌が敏感になった先端を何度も攻めるので、とうとう千晶は正美の肩をグッと押して胸から離そうとした。「いや?」と訊かれ、ううん、と答えたが、じんじんして堪らなくて.........。自分でもこんなに気持ち良くなるとは思ってもいなかった。男の乳首なんて、プールでは隠す事もなく晒されている。人の視線を感じる事もなかったし、今まで気に留めた事すらないのに。 「俺、おかしい?女の子じゃないのに、こんなトコ感じ...
はぁはぁ、と呼吸が荒くなり、互いの表情を覗き見るうちに近付く顔。その内、口元に視線が集まると、くちびるを舐める仕草に誘惑されるかの様に、正美は千晶のくちびるを覆った。 前に交わした口づけは、触れた感触が残るだけの軽いもの。だが、今は千晶のくちびるを割って入る自分の舌が止められずにいる。ヌメッとした感触。一瞬戸惑ったように硬直した千晶の身体。それを感じながらも、何度も千晶の舌を掬った。絡みつく互い...
ふいに、背中が温かい事に気付いて、深い眠りから意識が覚めるとゆっくり瞼を開いた。背中の温かさと共に、何故か股間に違和感を覚えて、ハッと首を捻ってみると人のいるのが分かる。 すぐに千晶だと気付いた。正美の背中に額を当てて、その手を前に持ってくると正美の股間を弄る。軽い吐息も聞こえてくると、顎をあげて「マジか..........」と呟いた。千晶の硬くなったものが正美の臀部に当たって、心なしか腰が上下している気...
京子と正美とで塾の勉強の話をしていると、千晶は黙ってテレビ番組を観ていて、わざと聞かない様にしているみたいだった。正美は気になりながらも、時間を見てお湯が溜まった頃だと思い「じゃあ、オレ先に風呂入ってきます」と、京子に云う。「うん、ゆっくり浸かってきなさい。湯冷めしない様に気をつけてね。私は拓真さんが帰ってくる迄此処に居るから、次、千晶が入りなさい」 京子は隣の千晶を見ると云った。「じゃあ」と云...
リビングに残された千晶は、ソファーに身体を横たえると、拳をグッと握って自分の額に当てた。自分でも変な事を云っているのは分かっていた。綾香に対して嫉妬心が沸き起こると自分で止められない。正美が綾香の事をなんとも思っていないのは分かっている。なのに、相手が女子というだけでこんなに不安な気持ちになってしまうのだった。 部屋に戻った正美は、椅子に座って机の上で頬杖をついた。あんなに荒ぶる千晶を見るのは初...
テレビのリモコンを取ってスイッチを入れた千晶。それを横目に正美は何も云えず。仕方なくテレビの画面に視線を移した。「お母さん、そろそろ帰って来るかなぁ」と、壁に掛かった時計を見ると云うが、千晶は「うん」と気のない返事をしただけ。「千晶ここにいるんなら、オレは部屋に行ってるから。お母さん帰ってきたら冷蔵庫のおかず出してあげて」 正美は立ち上がるとそう云った。なんとなく気まずい空気の中から抜け出したい...
自転車のカゴに、買い物袋を押し込んで跨ると、正美と千晶は家路を急いだ。小牧綾香のせいで不穏な空気になった二人。だが、千晶は表情に嫌悪感は出したが口に出して文句を云う事はなかった。 家に着いて食材を仕舞いながら、正美は千晶の様子をチラチラと見る。「何?」と千晶が手を止めると訊いた。「........え、っと、.......別に」 正美は顔を背けると、テーブルに置いた肉のパックを手に取り調理台についた。それからボ...
自転車に跨りスーパーまでの道を急ぐ。車の往来もあるので、並んで走る事は出来ず一列になると正美が前を走った。その後を無言で付いていく千晶は、正美の背中を見ながら胸の奥がモヤモヤとしている事に気付く。----- そういえば、最近は一緒に寝ていても触れ合う事がなかったな あの日の晩に、怖いと云ってから正美は千晶に触れて来なくなった。というか、自慰の延長のような行為。なのに、快感だけを味わいたいだけじゃな...
正月が明けると、正美は塾へ通う日常に戻るが、千晶は相変わらずゲームに忙しい。時折、友人の松下が家にやって来ては、リビングでゲームに興じているので、正美が塾から戻って来ると千晶と松下は叱られる事になる。テーブルに出しっぱなしの宿題は途中で放り投げられていて、お菓子の袋と一緒に隅に追いやられていた。「冬休みはもう終わるのに、こんなんでいいのか?」と、ふたりに云うと、「明日からやるから」と千晶が云って...
岸に似ていないと云われても、義兄弟だからと説明するのが面倒で、そうですか、とひと言返す正美だった。「おい、早く行こう」と、黒田が岸の肩をポンと叩く。「あ、そうだな」 岸も頷いて、「じゃあ、またね」と云って千晶に手を振ると境内に向かって歩き出す。黒田の後を付いて行く岸は、途中振り返ると正美の顔を見た。何か云いたそうな顔をしたが、また前を向いて歩き出した。「岸先輩って開誠館だったんだね。正美が受ける...
クリスマスのプレゼントに、両親から貰ったコートに身を包むと、正美と千晶は自転車を走らせて神社に向かった。冷たい風が容赦なく顔に当たると、鼻先と耳が痛くなる。正美はマフラーをグッと持ち上げて鼻を隠す。マスクをして来ればよかったと、内心思った。「結構人が多いね」と、神社に続く道を走る千晶が云う。正美たちの様に遅く起きた人が参拝に来ているのだろう。自転車を門前の邪魔にならない所に停めると、ふたりは境内...
翌朝、少し遅く起きた二人。正美の方が先に目を覚まし、隣で寝ている千晶の横顔を眺めていると、やがて目を覚ました千晶が照れながら「おはよう」と云った。「おはよう」 返事をすると正美はベッドから出る。そして思い出したように「明けましておめでとう、って云ったっけ?」と振り返って訊いた。「あっ、云って無かった。おめでとうございます」 千晶は笑いながらそう云うと、自分もベッドから出た。「お母さんたち、もう起...
暖房の効いた部屋で、千晶は正美のベッドに入ってうつ伏せの状態で携帯を弄っていた。「除夜の鐘、鳴ってるね。松下からメールきて神社に居るんだって。会えなくて残念って云ってる」と、云いながら苦笑して携帯を置く。「仕方ないよ。また休み中に会えばいいさ」 正美は自分の携帯をサイドテーブルに置くと、千晶の身体を壁側に押して自分も布団に潜り込んだ。微かに布団から千晶のシャンプーの香りがする。 「電気消すよ」と...
* * * 千晶が補導された事で、夜の外出は控えるように云われ、結局大晦日の夜に神社へ行くのは断念する事になった。「ごめん、俺のせいで......」 ソファに座ってテレビを観ている正美に千晶がそっと云う。歳が明けるまでもう少し。今夜は恒例の番組を家族で観た後、酔いつぶれた拓真を京子が部屋に連れて行き二人になった。「別にいいよ。明日神社に行けばいいんだし、今夜は除夜の鐘の音を聞きながら寝よう」 隣で膝を抱...
話した事で気が晴れたのか、千晶は直ぐに寝息をたてると正美の隣で眠りにつく。千晶の髪をすくいながら、正美もまた瞼を閉じると、手を繋いで眠りについた。 翌朝、早めに起きた正美は、下に降りて行くとキッチンに居る京子に挨拶をする。「おはようございます」と云って入ってきた正美に、京子は「おはよう、昨夜は迷惑かけてごめんなさいね。大事な時期だっていうのに、変な心配かけて...........千晶、何か云ってた?」と訊...
スーッと息を吸って重い口を開くと、千晶が「ごめん」と云った。「オレに謝っても.........、心配かけたのは両親に、だし。オレも遅いとは思ったけど、12時までには帰って来ると思ってた。まあ、実際、12時までいられたら松下くんの家に迷惑だろうけど」 正美はそう云って千晶の顔を見る。カーテンから洩れる薄明りで千晶の表情は見えた。反省しているのだろう眉根を下げて泣きそうな顔をしている。「9時に別れて補導され...
先に階段を上っていく千晶の背中を見ながら、正美は掛ける言葉を探す。華奢な背中が今夜は一段と小さく見えた。二階に着くと廊下を進むが、正美の部屋の前で立ち止まる千晶。その背中をそっと押すと、正美は千晶の部屋まで一緒に歩いて行く。「温かくして寝な。........おやすみ」と、ドアの前まで来ると千晶に云った。それしか言葉が出て来なかったから。 千晶は俯いたまま、コクっと首を動かして扉を開けると「おやすみ」と云...
「ブログリーダー」を活用して、itti(イッチ)さんをフォローしませんか?
前回の投稿から暫く離れてしまいました最近ではボーイズラブのドラマも人気の様で、アイドルの様な美麗な男性が主役をされていますね人気俳優への登龍門的な要素もあるのでしょうか (仮面ライダーに継ぐ?)ドラマはコミックが原作のものが多く、私も読ませて頂いていますのでドラマもたまに観ますコンプライアンスがあるので公共電波では表現が狭められてしまいますよね個人的にはもっと攻め込んでほしいものですが・・・・中...
「聡くん、東京に行っちゃうのねぇ、寂しくなるわね」 店の準備のために部屋を出るところで母のアケミがポツリと云う。 リビングのテーブルで昼食を食べていた黒田は、そんな言葉に振り向くと「岸だけじゃないよ、俺の仲良かった奴らは殆ど地元から離れて行く」と、箸を持ったまま呟いた。分かっている事でも、こうやって口に出してみると、心の中にぽっかりと穴が空く様だった。 「康介が此処に居てくれて、母さんは嬉しいけど...
卒業式当日。まだ少し肌寒い朝、着慣れた制服に袖を通すと、少しだけ感慨深い。この制服を着るのも今日で終わりだ。 卒業式を行う体育館に集まると、クラス別に椅子に座って前を向く。壇上では校長が卒業生に向けての言葉を手向けているが、黒田はそれを聞きながら特進科に居る岸の姿を探した。朝はクラスの連中と話していて、岸とは挨拶を交わしただけ。 ふたつ離れた列の少し前に居た岸の後ろ姿に、遠くから視線を送ると、ふ...
-----------------3月 予定通り、岸と西岡の合格発表があり、4人は互いの合格を祝い、そして明日の卒業式を迎える前にパーティーをしようと集まった。 場所は良く通ったカラオケボックス。それぞれに飲み物や料理を注文すると、沢口がひとりマイクを持って立ち上がった。「えーっと、ひとまずみんなお疲れ様!みんな進学出来て良かった!!って事で、カンパイしようぜ」 沢口に促されて、それぞれが椅子から...
怒涛の年末年始が過ぎると、すぐに岸や黒田たちは受験を迎えた。 結局、あの日以来黒田と岸が二人きりになる事はなく、互いを気に掛けつつも高校の3年間を終える日は迫っていた。既に進学が決まった者や就職の決まった生徒は、残った時間を楽しもうと旅行の計画を立てる者もいる。 黒田も専門学校への入学が決まり、バイトは少し日数を減らす様にしていた。「みんなバラバラになっちゃうの寂しいなぁ」 授業が終わりいつも...
3人掛けのソファーの上、いつしか黒田が岸の上に乗る形で抱き合うとキスを交わす。張りのある岸のすべすべの頬を愛しそうに撫でる黒田。こんな風に岸の肌に触れるのは初めての様な気がする。多分。いや、プールでふざけ合って触れてしまった事はあったか。 そんな事を考えながらも、黒田の手は頬を撫でたり首筋を這ったり。唇はゆっくりと感触を確かめるように重ね合わせた。 向きを変えようと、黒田が身体を捻った時に太腿が...
静かな空間で対峙するふたり。岸は少し泣きそうに眉根を下げている。「............なんでそういう事云うんだよ。オレの家が裕福だから自由だって云いたいのか?」「少なくとも、俺よりは。俺はバイトが無きゃ進学も出来ないし、遊びに付き合うのも金のかかる遊びは出来ない。今までは母さんが不自由のない様にと無理してくれてただけだ」 そう云うと、黒田は下を向いた。こんな話をするのは多分初めてだ。岸たちと遊ぶのは、バ...
突然の岸の言葉に、黒田は首を傾げる。「報告って?」「オレさ、東京に行くって決めて住む所とか検索してんだけど、なんか、そしたら急に黒田のいない生活が怖くなっちゃってさ」 そう云った岸の表情が、今まで見た事のない不安そうなもので。黒田は一瞬相槌をためらった。「なあ、黒田も東京の専門学校を受けない?受かったら一緒に住もうよ」 唐突な話に黒田の思考は停止する。「..............は?何云ってんだ?」「オレに...
久しぶりに岸と西岡、沢口が黒田のバイト先にやって来た。世間はクリスマスイベントに浮かれ、大学受験を控えた者たちは浮かれている場合ではない。が、息抜きの為か、沢口が岸と西岡を誘ったらしい。「学校で顔合わせてたのに、なんかすっごく久々に顔見た感じ」 沢口はテーブル席に腰を下ろし、黒田に向かうと云った。続いて西岡が、「黒田は岸とは会ってたんじゃないの?」と訊ねたが、岸も黒田も互いに首を振ると「休みに入...
* * * 木枯らしが吹き荒ぶ季節。冬休みに入ると、いよいよ岸も受験を間近に控えて遊んではいられなくなった。 黒田は年末年始に向けてバイトも忙しくなり、前ほど岸たちとつるむ時間はない。ひたすら自分の時間はバイトに費やしていた。「黒田くん、大晦日もバイトに入れるかな?出来たらお願いしたいんだけど...」 申し訳なさそうに、店長がスタッフルームに入って来た黒田の顔を見る。「予定はないので、別に構わないで...
翌日、黒田と岸が登校すると、3年生の昇降口に正美の姿が見えて、一瞬岸の足が止まった。「......藤城?」と、黒田が岸に聞こえる声で云ったが、また歩き出した岸は真っすぐに正美の正面に進んで行った。「おはようございます」と、岸の顔を見て云った正美。何処か強張った表情ではあったが、眼差しは真剣だった。「おはよう」と答える岸に、正美が頭を深く下げると「昨日は殴ってすみませんでした」と謝る。素直に謝罪の言葉を...
翌朝、黒田は早めに起きると、岸の為に朝食を用意してやった。まだ鼻の辺りが痛そうで、あまり咀嚼しなくても良いものをと考えて、コーンスープとスクランブルエッグに小さめのパンケーキを焼く。 作りながら、昨夜の言葉を思い出していた。おもわず岸の事を好きだと言ってしまったが、その感情が普通なのかどうか、自分ではよく分からない。ただ、岸と離ればなれになるのが怖い様な気がした。異父兄弟で親友で、誰よりも岸を理...
ベッドの中で、岸は眠れずに携帯画面を眺めていた。色々な動画を目にすると、時間は知らず知らずのうちに流れていく。「痛むのか?」と、背中合わせになった黒田に訊かれ「少しだけ」と答える。 痛みは随分と引いた様に思うが、表情を変えると鈍い痛みが走る。ずっと冷やしていたから腫れは大分よくなったが、鏡を見るのがちょっと怖い岸だった。「どうして、わざわざ藤城に弟との事話したんだ?別に黙ってればよかったんじゃな...
鼻を押さえる岸は、バスの中で目立っていた。高校生が多く乗り込むバスの中で、チラチラと岸の方を見る視線が痛いのか、吊革につかまっている岸が黒田の背中に顔を隠す。 暫くして停留所に着くと、急いでバスを降りた。漸くホッとしたのか、岸は押さえていたタオルを離すと「タクシーで帰ればよかった」とふて腐れた様に呟く。 黒田の部屋に辿り着くと、早速着ていた制服とジャージを脱ぎ捨てて、前に自分が寝泊まりする時の為...
鼻を押さえながら、保健室に向かう岸と黒田。 正美は教師に連れられて職員室の方に向かって歩く。その姿を振り向きながら見る黒田は、隣の岸に「お前、藤城に話したのか?弟の事」と小声で訊ねた。「........うん、千晶くんの事ごめんねって云った。そんで、やっぱり女の子とは違うから、最後まではしてないよって云おうとしたんだけど、途端に殴られた」「...........そりゃあ、殴られるわ。.........藤城の顔見ただろ?鬼の形...
なんとなく浮かない顔のまま、翌日黒田は岸のクラスを訊ねた。特進科の生徒はいかにも勉強熱心な顔をした者ばかり。その中で、見た目派手な岸の姿は浮いていた。だからなのか、教室を覗けばすぐに岸の姿は見つけられる。「岸、帰ろうか」 黒田が教室に入って行けば、周りの生徒がチラチラと黒田に視線を向ける。岸とのバランスが悪いのは昔から。対照的な風貌のふたりが親友同士だとは思われないだろう。それでも、この3年目に...
夏休みも終わり、いよいよ大学受験を控えている岸や西岡たちは、勉強のために塾へ通う頻度が増えてきた。 黒田の部屋に集まってバカ騒ぎしたり、ナンパしてきた女の子と遊ぶ事も減って平和な毎日を過ごしていた黒田だったが、相変わらずバイトは続けていた。岸たちと遊ぶ時間が減れば、自ずと散財もしなくなる訳で、正直このままいけば学費の足しにはなると思っていた。 この日、黒田はいつもの様にバイトを終えて家に向かう途...
岸が「千晶くん」と呼んだので、西岡たちも千晶の方に顔を向けた。 千晶に駈け寄って行った岸が、何やら話しているが、黒田から見るとあまり気乗りしていない様子で、岸が無理強いしているのでは、と思う。案の定、岸は千晶の肩に手を置くと、黒田たちに向かって「オレ、千晶くんと一緒に行くからー」と嬉しそうに声をあげた。 野次を飛ばす沢口や西岡たちを無視するように、千晶と連れだって神社に向かって歩く岸を黒田は少し...
ある日、沢口からメールを受け取った黒田。 暫く顔を見せていなかったので、てっきり彼女と上手くやっているのかと思えば、早々に別れたらしい。「なあ、黒田の家の近くに神社があるだろ?あそこで祭りをやってるらしいんだけどさ、遊びに行かないか?岸と西岡も誘ってさ」 メールの後に電話を貰うと、沢口は云った。いつもの様に軽い物言いで、またナンパ目的なのだろうとは思う。「俺のバイトが終わってからならいいけど」「...
なんとなく、ぎこちないままゲームを続けていると、西岡がリビングのドアを少しだけ開けて顔を出した。 ドアが開いたのでそちらに視線をやった黒田に、「悪ぃけど、ゴムある?」と小声で訊く西岡。岸もおもわず視線をやったが、黒田は平然とした顔で「ベッド横の引き出しの一番下」と云う。「悪ぃな。サンキュー、あと30分ガンバル」 西岡はニッコリと笑って扉を閉めた。 岸はゲームの手を止めると「黒田もゴムなんか用意して...
千晶の異変に気付いたのは、夏休みが終わり二学期が始まってすぐの事。正美の部屋にも時々来る事はあり、正美はあの夜の事がトラウマの様になっていて、千晶に触れる時は細心の注意を払っていた。でないと、容易に壊してしまいそうで怖かった。 その晩も、千晶は正美のベッドに潜り込んでくると、性急に身体を求めて来た。そして、いつもの様に優しく触れる正美に対して、急に上体を起こすと「正美は俺の事負担に思ってるんだ...
夏休みも終わりに近づくと、課題を仕上げる為に午前中は自室に籠っている千晶。父の言葉を聞いた次の日に、それとなく謝る様なメッセージをもらい、かえって煩わせてしまったと思う千晶だった。あれから夕飯は自分と正美の分しか作らなくなった。母の京子に至っては、父とのやり取りを知る術もなく、相変わらず仕事に没頭する毎日で、子供としては両親の仲が心配になる。「ねえ、最近お父さんと母さん、ちゃんと会話してるのかな...
どうしても、父拓真の云った言葉が気に入らない正美は、部屋のドアをノックすると「入るよ」と云ってドアを開けた。「どうかしたか?」と、風呂の準備をしていた拓真が、着替えを手にして正美を見たが、その表情はあからさまに不機嫌そうで、すぐに今しがた自分が云った言葉のせいだと分かる。「父さんさぁ、千晶がせっかく料理を頑張ってるのに、あんな言い方は酷いよ。二人が遅くなるのは承知で、ちゃんと保存できるようにして...
ご飯を食べな がらの会話はいつもと変わらない。千晶は勉強で難しいところを正美に訊くし、正美はバスケで練習試合をした事やポジションが変わった事を話す。変わり映えしない話でも、食べながらのものはそれだけで楽しいと思えるし、食も進んだ。「洗い物はオレがするから、千晶はリビングでゆっくりしな」 立ち上がると、正美がそういうので、ありがとう、と云って千晶は自分の皿を渡すとキッチンから出た。 本当は正美の方...
今夜の夕飯は、簡単に冷やし中華を作って食べる事にする。キュウリやトマト、ハムに玉子を刻んで用意しておくと、後は麺を茹でるだけ。冷蔵庫にしまって、正美が帰ってきたら準備すればいい。 取り敢えず、先にシャワーを浴びる為に浴室に向かう。身体を洗いながら、最近正美に触れられていないせいで、性欲が溜まりつつあるが、それを自分で処理する気にもなれなかった。 簡単に済ませると、浴室から出て髪も乾かさないままキ...
あの夜から一週間、正美が千晶に触れる事はなかった。部活が始まると、疲れを理由にひとりで眠りたいといい、正美は千晶を遠ざけた。二人の間には、なんとなく共通して戸惑いがある。一線を越えて、繋がりたいという気持ちと同じくらい、どうなってしまうんだろうかと、不安もあった。それを払拭できないまま、取り敢えず夜は離れて眠る事にした訳だ。 千晶は、塾の帰りにバス停で岸に出会うのではないかと、気まずさも抱えなが...
ベッドの淵に腰を掛けて、見下ろした先に千晶の揺れる頭部が見える。そして時折見え隠れする自分の硬芯が、千晶のくちびるに飲み込まれると、腰のあたりが疼いてしまい力が入った。「ぁあっっ、..........」と、低く呻いてしまえば、チラッと正美を見上げる千晶の眼差しが、胸を射貫くように熱い。正美が感じているのかを確かめるように、何度も見上げられて、遂に正美の手は千晶の頭を押さえつけた。 吸い付かれて、その度に力...
必死に抱きついてくる千晶が可愛くて。 正美は、指先を丁寧に蠢かせ、出来るだけ痛くない様に孔を刺激する。本当は、自分の滾ったものをそこに捻じ込みたくて、でも、傷付けてしまうのが怖くて、勢いに任せてし始めた事を少し後悔した。前を扱きながら孔に入った指を少しづつ奥に進めると、急に千晶の身体がビクンと跳ねた。同時に、ひぁぁっ、と変な声が耳元で聞こえて、驚いた。「ど、どうした?」と、千晶の顔を覗き込むと、...
正美にキスをされて、そのまま後ろを弄られて、前に自分で慣らそうとした時には、指一本の先っぽがせいぜい。それも異物感がハンパなくて、諦めてしまった。なのに、今はキスをされているせいか、興奮状態だからなのか、あまり不快感は感じなかった。むしろ、ちょっと気持ち良かったりして、頭の奥がぼんやりしてくる。「ぁ、.......まさみ、ぃ...............」 息継ぎをした時に、思わず声が漏れてしまい、それが正美を奮い立...
ベッドに横たわりながら、正美は帰りに出会った岸の姿を思い出していた。あの表情を思い出すと、胸のあたりが苦しくなり、益々千晶を閉じ込めておかなくては、と思ってしまった。閉じ込めるなんて出来る訳がないのに.....。 千晶に、岸と会うなと云うのは、底意地が悪いと思われてしまうかも。でも、云わなければ千晶は簡単に岸の手にかかってしまいそうで。それだけは回避したかった。 沸々と思いを巡らせていると、ドアが開...
その夜、両親の帰りはいつも通り遅くて、千晶は正美の後にシャワーを浴びようと、リビングで待っていた。 テレビの音声を聞きながら、視線は携帯の画面に向けられている。祭りで久々に出会った吉村からメールが来ていて、それに返信をするが、内容は今日紹介された年上のカレシの惚気に対してのもの。ボーイズラブの漫画を借りてから、何度か行き来はあった。その頃は、まだカレと出会っていなくて、何なら千晶に好意を寄せてい...
人通りの少なくなった道で、腕を掴まれたままじっと黙っていると、そのうち家の方に向かって歩き出す正美に引っ張られる千晶。 肘の上あたりをグッと掴まれて、段々痛くなってきた。なのに、一向に掴んだ手を離さないので、千晶はとうとう声をあげると、離してよ、と云った。 フッと千晶に振り返り、漸く正美が手を離す。「痛いんだよ、力任せに掴んでさぁ。折れるかと思った」 そう云うと、腕を擦って見せる。「.....ごめん...
正美と岸の間に不穏な空気が漂い、千晶はおろおろとするばかり。 自分たちが血の繋がった兄弟でない事を岸が知っている。その事で、正美は千晶の顔を見ると、「お前が話したの?」と訊いた。「あ、......ごめ、......でも、別に隠す事じゃないし」 千晶は、正美に鋭い視線を向けられて、うわずった声で云った。別に、小学生の時からの友達や同級生には知られている事だ。頑なに隠す必要はないと思っていた。 岸は、尚も正美に...
正美の言葉に傷ついた千晶は、頬を膨らませたままどんどん先を歩いて行く。「ちょっと、千晶、、、、」と云いながら困り顔の正美。千晶の後を付いて行くが、その内諦めてゆっくり歩き出した。 千晶を弟と云ってしまった事で気を悪くしたのは分かっている。だが、事実だし、自分としては弟の千晶を好きになってしまったので、それは分かって欲しいと思う。 千晶の背中がどんどん遠ざかって、振り返りもせずに歩き続ける姿を見る...
雑踏へ戻って、飲み物の屋台を探す。プラスチックの容器に入った色とりどりのジュースが、南国を思わせるイラストの台の上に並んでいて、千晶はじっと物色しながら歩いた。可愛い形をしたストローが刺さっているのは、値段も高くてちょっと買うのをためらう。 少し歩いて他の屋台を探すが、ほとんど似たようなものばかり。かといって、自販機も近くには無い。仕方なく、戻りながら最初の店のジュースを買おうと、店の前に並んだ...
夏休み中、千晶たちの両親は何故か仕事に追い立てられている様で、相変わらず子供たちだけでの時間を過ごす事となった。 正美は、父と母が言い合いをしているのを聞いてしまって、それを千晶に云えないままいる事で、気持ちはとても複雑だった。「まあ、毎年こんな感じだよな」と、諦めた様な言い方の千晶に、正美も「そうだな」と同意するしかない。「おばあちゃんの家に行ってみる?」 正美がそう云ったが、千晶は祖母から旅...
塾の帰りに岸と出会う事が多かったせいで、千晶はバス停に着くと辺りを見回した。前回来た方向には見当たらなくて、少しだけ安堵する。 岸の事は別段嫌いではないし、センパイとして優しく接してくれるので、そこは有難いと思う。が、付き合うという事とは別だ。岸が、同性との付き合いを良しとする人種なのが分かって親近感を覚えたが、自分に矛先が向けられると曖昧な返事は出来ないと思う。それに、自分は正美以外の男を大事...
朝も早いというのに、セミの鳴く声で目覚めた千晶は、隣でうつ伏せのまま眠る正美の肩を揺する。「正美、起きなよ、部活行くんだろ?」 声だけ掛けると、自分は正美の身体を跨いでベッドから降りた。脱いで床に落ちたままのTシャツを被ると、ハーフパンツを穿いてもう一度正美の顔を見る。「おい、俺下に行くから、ちゃんと起きなよね」「.......う~ん、分かったぁ」 寝惚け眼を擦りながら、そう云って枕に突っ伏した正美。 ...
父の事が心配なのに、ふたりでベッドに入ってしまえば、火が付いた様に抱き合う千晶と正美。 互いにヌき合うと、大きく深呼吸をして正美は立ち上がった。「喉渇いたから水取って来る」 そう云って、Tシャツを着て、部屋から出て行く正美の背中を見送りながら、千晶は頭の片隅にしまった岸の言葉を思い出す。 階下に降りて行った正美は、リビングから両親の声が聞こえたので、声を掛けようと近寄って行ったが、なんだか声の調...
正美の体温を背中に感じて、いつもなら跳ね除けるところだが、今夜はなんだか安心して身を任せられた。一応は両親の帰って来ない事が大前提だが、回された腕が千晶の身体を弄って、腹や胸の辺りに伸びてくると少しだけ期待してしまう。案の定、正美の指先は千晶の胸の敏感な先っぽを捉えるとキュッと摘む。おもわず変な声が漏れそうになって、慌てて身体をグッと反らせると、後頭部が正美の顎に当たった。「イテッ、、、」と怯ん...