[楽天]ケーキの切れない非行少年たち [Amazon]ケーキの切れない非行少年たち 著者は長年小児の発達障害外来や少年院の矯正医官を勤め、非行少年と接する機会が多かった。その経験から、非行少年の認知能力の実態や認知能力と再犯との関係の考察、そして非行少年の真の更生に向けた提言がなされている。 医師として非行少年と面接すると、彼らは普通の態度で接してくれるという。しかし、よくよく話を聞いたり検査すると、驚くべきことが明らかになる。 「ケーキを1/3に分割してください」と指示してもうまく分割できない。カバーの絵は彼らの回答例である。 さらに衝撃的な事実が続く。 漢字が読めない。文章を読んで意味を理…
江戸時代前期、福岡藩黒田家で起きたお家騒動(黒田騒動)の起こりと顛末を取り上げた短編小説。黒田騒動は江戸時代の三大お家騒動*1の一つ。 江戸時代には黒田騒動を扱った歌舞伎がいくつも作られたというが、現代では栗山大膳、何それ、おいしいの?という反応も無理からぬところと思われるので、騒動のさわりだけを記しておきたい。 黒田長政は関ヶ原の戦いにおける軍功から幕府より福岡五十万石の所領を与えられ、家来の栗山利安と強い信頼関係で結ばれていた。 しかし、長政の息子忠之は素行に難があった。贅沢を好み、お気に入りの小姓倉八十太夫を取り立て、やがて十太夫一派が藩内で悪しき権勢を振るい始める。栗山大膳(利安の息子…
鴎外が明治23年8月、信越本線沿いに信州山田温泉に旅行したときの日記。 信越本線は一部できてはいたものの碓氷峠付近は馬車鉄道で峠越えに難儀したり、変な半可通の髭男に辟易したり、大雨で鉄道が壊れて帰りに苦労したり。 洋服を着ているとどこでも優遇されるという観察も。 古文体なので少し戸惑うかもしれないが、そんな当時の社会事情が垣間見えるところが面白い。 〔楽天〕みちの記 〔Amazon〕みちの記 //
池田勇人・田畑政治という2人の人物を経糸、昭和初期から高度成長期の経済史とオリンピック史を緯糸に、1940年東京オリンピックの挫折と1964年東京オリンピックの成功を爽やかに綴る。 作者は金融の世界からキャリアをスタートしただけあり、資金調達の話題は特に筆致が冴える。 さて、2020年東京オリンピックの開会式でピクトグラムが大きく取り上げられたが、ピクトグラムは1964年東京オリンピックのレガシーであると。これは初めて知った。 【楽天ブックス】この日のために 池田勇人・東京五輪への軌跡(上下合本版)【Amazon】この日のために 池田勇人・東京五輪への軌跡(上下合本版)
casuisticaというのは、症例集とか、臨床報告という意味のようである。 主人公の花房が医学部を卒業する頃、開業していた父親の代診をしていた思い出を語る形で展開する。おおかた鴎外自身の駆け出しの思い出が背景にあるのだろう。 父親は最新の外国の医学書はあまり読まず(読む根気を失っている)、消毒の概念さえ理解していないのだが、患者の死期は正確に当てるなど花房に敵わないところがある。その中で花房は、父親はどんな患者であれ、目の前の患者を診ることに全精神を傾けている点が自分と違っているという気付きを得る*1。 その後、代診の頃の花房の症例集が3点。ネタバレは控えるが、顎が外れたが他所では治してくれ…
ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動(ジョン・アール・ヘインズ/中西輝政監訳)
マンハッタン計画(アメリカの原爆開発プロジェクト)の参加者にはソ連側に寝返り情報を漏洩した者がいて、ソ連はその情報をもとに短期間で原爆開発に成功した、という歴史は以前からよく知られている。 アメリカは、アメリカ国内のソ連のエージェントから本国への無線通信を傍受し、一部の暗号解読に成功していた。これがヴェノナ作戦で、マンハッタン計画以外にも、多数のアメリカ人がソ連の協力者になり情報を漏洩していたことが判明した。ヴェノナ作戦の成果はソ連崩壊後の1995年まで秘匿されていたが、公開後急速に研究された。 本書では、判明しているソ連協力者の実名を明示しつつ、当時のソ連のスパイ活動の実態を明るみにしている…
医学の歴史を見ると、それまでの常識を覆す治療法を臨床試験によって証明することで発展を果たしたことが時々あった。 それでは、現代医学ではその効果が解明されていないとされる代替医療は、本当に有効なのだろうか? 鍼・ホメオパシー(私はこの本で初めて知ったが欧米では有名らしい)・カイロプラクティック・ハーブ療法(効果が証明されていない漢方薬もここに分類される)について、由来・哲学・歴史などを詳しく紹介し、多数の臨床試験の結果を分析してその効果と害を解明してくれる。末尾にその他の代替医療が多数集められ、効果と害が手短に示されている。その一覧から代替医療が広範囲にわたることがわかる。これが「代替」医療なの…
「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書(西岡 壱誠)
偏差値35から2浪中に読書法に目覚めて東大に合格、現在は書評サークルの代表を務める著者が、本を読み込む方法論を紹介している。 ターゲットの読者層は、有意義な読書を通して知識をしっかり吸収したい人、それから「地頭の良さ」に憧れを持つ人か。 例えばこんなアクティビティが紹介されている。それぞれのアクティビティの方法は箇条書きで要領よく、具体的に解説されているので読みやすい。 本の帯やタイトル、著者のプロフィールをあらかじめ調べるといった一見テクニカルなもの。*1 本に対する質問や疑問を考えながら読む。 類似した本を2冊同時に読みながら共通点や相違点、主張の違いを比較する。 骨格にあたる論理の流れと…
睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める(NHKスペシャル取材班)
毎日少し寝不足気味、休日になると朝なかなか起きられない、日中眠いときは少し昼寝して目を覚ましている、自分はショートスリーパーだと思っている…。そんな人は体に「睡眠負債」が積み重なっている。睡眠負債が積み重なると、認知症やガンの原因になることが最近の研究でわかってきた。 とりあえず眠気を取って日中を過ごせばよいのではなく、毎日7時間はまとめて眠リ、ノンレム睡眠(深い睡眠)を十分取ることが重要なのだという。 2017年に放映されたNHKスペシャルの取材を基に、最先端の研究成果や研究者のインタビューが紹介されている。そして、最後に睡眠負債を解消するためのQ&Aに多くのページが割かれている。これがわか…
官吏と作家の二足のわらじを履く木村の一日を描いた小品。…と言うとそれまでだが、二足のわらじを含め木村の設定の多くが鴎外自身に重なることから、官吏として、作家として、自身の仕事の様子や心持をこの作品で仄めかしたように思われる*1。それがタイトルである「あそび」の由来。遊び感覚が他人にはあからさまでよく非難されるというのはご愛嬌か。いかにも、日々の暮らしにあくせくすることのなかった高踏派らしい。 また、鴎外の文学に対する批評への反撃や弁明を試みており、興味深さと微笑ましさを感じる。 〔楽天〕鴎外大全(「あそび」所収) 〔Amazon〕鴎外大全(「あそび」所収) *1:もちろん、書いてあることすべて…
夏目漱石の文壇デビュー作。デビュー作で力が入っていたのかどうかは知らないが、まさに組んずほぐれつの濃厚なドロドロストーリー。 美貌を鼻にかける藤尾が、二人の男性を翻弄する立場を楽しんでいるうちに自ら陥穽に嵌まる。その中で多くの対立項的な「二人」の関係が交錯する。対立項から主体的に抜け出した者がドロドロに終止符を打つ。 ・友人の甲野欽吾と宗近、欽吾は芸術家肌で神経衰弱で療養中。宗近は外交官試験浪人中で陽気な性格。 ・欽吾と藤尾は異母兄妹。母(藤尾の実母にして欽吾の義母)は欽吾を廃嫡し、藤尾に婿を取らせて亡き夫の遺産を独占しようと企む。 ・藤尾と宗近の妹糸子。容貌も性格も正反対。会話をすれば女同士…
許嫁がいるにも関わらず、その妹と恋愛関係に陥りそうになったことに苦に家出した主人公。丸一日歩いていると、ポン引きに儲かる働き口が在ると誘われ、ついて行った先は銅山だった。 銅山の街は都市から隔絶され、独特の習慣や風俗が広がる空間だった*1。また新入りの主人公をいじめる荒くれ者やひねくれ者の坑夫もいれば、早く帰ったほうが良いと諄々と諭す坑夫もいた。事情があって坑夫になった者も多かった。また、過酷な坑道の見学で体力を極限まで使い果たし、精神が生と死の間で両極端に振れるような体験もした。そんな異空間での体験と心の動きが、刺激的な表現(昔の小説でなければとても出版できない)を交えながら、微に入り際を穿…
漱石の言い訳めいた能書きから始まる。大病直後無理を避けて元旦まで執筆をやめていただの、1月から彼岸までに新聞連載を終わらせるつもりだから安直に彼岸過迄というタイトルにしただの。 大学は出たけどプー。誇大な冒険を妄想するばかりで就職活動も飽きて止めた山師的な敬太郎が周囲の人々の内面深くに立ち入ってゆく。 最初は駅員だがアウトドア派の森本の冒険談に魅せられながら、振り回される。明るい話はここまでで、この後はどんどん暗く深い人間の内面にはまって行く。 その後、就職活動のために友人須永の叔父を訪ねるところから、須永と、もう一人の叔父の松本、いとこの千代子たちの内面の傷やエゴに触れてゆくようになる。 須…
漱石が 鈴木三重吉にそそのかされて文鳥を飼った一部始終を描いた短編。 最初はせっせと世話をしながら忙しい執筆活動の癒やしにするのだが、だんだん世話に飽きるというお決まりのパターンがリアル。そして、文鳥の姿の描写がとても細やかで感心する。 やっぱり、動物は他人にそそのかされて飼うのではなくて、自分の意志で最後まで責任を持つ覚悟を持って飼い始めないといけませんな。 [楽天]文鳥/夢十夜 [Amazon]文鳥/夢十夜
(楽天)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 (Amazon)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 「かいろこう」と読む。 薤とはらっきょうのことで、薤の葉の上に置いた露は消えやすいところから、人の世のはかないことや、人の死を悲しむ涙を薤露という。転じて、葬送のときに歌う挽歌の意味もあるという。 そこで薤露行だが、アーサー王物語の一部をなす、騎士ランスロットをめぐる女達の恋を漱石流に小説化したものである。 【以下、ネタバレ注意】 アーサー王配下の騎士ランスロットは、王妃ギニヴィアと不倫関係にあった。ある日、アーサー王国の騎士たちの試合で、王と騎士たちが宮殿を空にする間にランスロットは宮殿を訪ねる。ランスロット…
〈楽天ブックス〉夢十夜 〈楽天kobo〉夢十夜 〈Amazon〉夢十夜 「こんな夢を見た」で始まる短い夢語り10編。日常生活の延長線上にある夢、少し幻想的な夢、さまざま。僭越ながら各編にタイトルをつけるとこんなところ。 第一夜 死んだ女を100年待つ 第二夜 侍の悟り 第三夜 100年前の秘密 第四夜 東京の笛吹き爺さん 第五夜 天探女 第六夜 明治に来た運慶 第七夜 死ぬほど退屈 第八夜 床屋の日常 第九夜 むなしいお百度 第十夜 豚は崖から落とせ
三四郎(楽天ブックス) 三四郎(楽天kobo) 三四郎 (Amazon) 熊本から上京して東大に入学した三四郎が、学問に、交友に、恋愛に、学生生活を謳歌する青春グラフィティ(2/3は恋愛譚だが)。 東大に入学することになった三四郎は、暑い盛りに電車で上京する*1。道中、車中で出逢った女性との(ある意味残念な)一夜や、文明論をぶつオッサンの毒気に当てられたりと、入学前から「洗礼」を受ける*2。 入学後、バンカラで自由奔放な同級生小次郎や、風変わりな文学評論家で一高教師の広田、地下の研究室にこもっては日夜光圧を測定するこれまた変わり者の物理学者野々宮とその妹達と出会い、交流を深めてゆく。 そして、…
高校の教科書にも載っている小説。教科書は後半の1/3に当たる「先生」の遺書が中心で、「先生」と「私」の出会いや「私」の家族の話は大半がカットされているのだが。。。
宗助と御米夫婦は崖の下に建つ小さな借家でひっそりと暮らす。夫婦仲はとてもよいのだが、過去の事件がもとで、親戚付き合いも疎遠がちだった。子宝にも恵まれない。...
外国留学から帰ってから大学に勤め、教育に、執筆に多忙な健三。妻とは喧嘩が絶えないばかりか、養父母が金をたかりに来て(養父母が二人がかりでにたかるのではなく、養父と養母がそれぞれたかりに来るのである)、気が休まらない。そうこうしているうちに妻の出産が近づきますます忙しくなる。そんな健三の毎日と心の動きが微に入り細に描かれている。 漱石自身の軌跡とこの小説の設定が酷似しており、漱石が自らの体験を書いたのではないかと見る向きもある。また、2ページ程度に小分けにされた小節100個程度からなり、明らかに新聞小説を一冊にまとめた体裁である(事実、初出は朝日新聞への連載)。妻はヒステリーだの娘は不細工だの産…
裕福で明るく結婚を控えた中野と、シャイで堅物で胸を病む高柳。二人は大学の文学部で同期だった友人である。そして、頑固さゆえに生徒(その中に高柳もいた)や同僚にいじめられて教壇を追われた後、今度は雑誌編集で糊口を凌ぎながら文壇に新たな一ページを開かんと刻苦勉励する(が、生活は苦しく妻を困らせている)道也先生。この3人の淡い交わりが描かれる。 道也先生が雑誌で、演説で語る文学論・明治社会論が熱い。特に、以下の演説の一節は、昭和初期の日本を見透しているようで興味深い。 およそ一時代にあって初期の人は子のために生きる覚悟をせねばならぬ。中期の人は自己のために生きる決心が出来ねばならぬ。後期の人は父のため…
代々女系(長女が婿を取って家督を継ぐ)で続いてきた大阪船場の老舗問屋の相続ゴタゴタストーリー。これまで何度もドラマ化されている。 山崎豊子は、初期の大阪船場の商人モノと後期の社会問題や社会現象を題材にしたドロドロ劇が多いのだが、これは両者をミックスしたような作品。 船場の問屋矢島屋の主が病気で早世した。臨終直前に遺言書を番頭に手渡し、人払いまでしてこっそり愛人を呼んで最後の言伝をする。 妻はすでに亡く、実子は娘が三人。出戻りの長女・婿を取って矢島屋を継いでいる次女・まだ学生でのんびりした三女が莫大な遺産の相続者となる。この家系は、代々惣領娘が婿を取って続いてきた女系家族、主ももちろん婿養子で生…
イングランドの伝説時代を題材に取った、ある騎士の戦いと恋の幻想的な物語。日本人が登場する漱石のメジャーな大作とは雰囲気が異なる。「倫敦塔」に近いか。 見慣れない漢語が多い。辞書を引き引きゆっくり味読しよう。
1970年代のIT業界で、プログラマーの心理的な側面とパフォーマンスの関係に焦点を当て、ひいてはあるべきマネジメントの姿を考察した古典。 それから25年たっての(1998年)著者のコメントが章ごとに丁寧に付されている。今でも通用するところが多いと思う。 以下、心に残った(響いた)箇所の備忘。 【目標の設定・達成】 メンバーが、下位の仕事を割り当てられたことに対する感情を抑圧すると、チームの努力が予想外に損なわれることがある。エゴレスプログラミングを行うと、個々のプログラマーがシステム全体の中で自分の役割を受け持っていると感じるため、そのような感情は和らげられやすい。 グループの目標についてほん…
大阪河内長野の大地主の家に生まれた総領娘が恋に短歌に生きようとするも、あまりに封建的な家に縛られ、陰鬱のうちに過ごした一生を描く。
楽天ブックスはこちら 終戦時に中国に取り残された孤児と日本に帰還した父親の数奇な運命を、壮大なスケールで描いた感動作。 ソ連と満州国国境に近い日本人開拓村にいた松本勝男は、1945年8月9日のソ連侵攻で両親と生き別れ、一緒に逃げた妹あつ子ともやがて引き離されてしまう。 実直な養父母に引き取られた勝男は中国人陸一心として育てられ、大学を出て北京鋼鉄公司の技術者として働き出す。しかし、学校では小日本鬼子といじめられ、文化大革命勃発後は日本人であることを理由に職場でも理不尽な弾圧を受け、挙句の果てに収容所に送られる。 実父耕次は引揚後東洋製鉄に勤め、仕事のかたわら生き別れとなった子供の消息を尋ねてい…
警視庁の各セクションに散らばる同期同教場4人組が裏社会と対決するシリーズ第3作。
(楽天)花のれん (Amazon)花のれん 大正から昭和初期に、お笑いのプロモーターとして一世を風靡した女性の強烈な生涯を描く。吉本興業がモデルとも。 日露戦争直後、大阪の呉服屋のぼんぼんに嫁ぐ多加。しかし夫は甲斐性なしで、毎日落語見物に出かけては、落語家と芸者遊びに興じる日々。家計は多加が支えていた。夫が信用取引で大損を出した日、多加は夫と話し合い、夫が好きな落語の寄席の経営に乗り出す。 夫は初めのうちこそ遊び仲間の伝手で落語家のスケジュール確保に大いに貢献したのだが、外に愛人を作り、酒好きもたたり38歳の若さで愛人宅で腹上死を遂げる。絵に描いたような遊び人の末路である。 そこから番頭のガマ…
Amazonはこちら 警視庁公安部の青山望たち警察学校の同期カルテットが、政財界・暴力団・外国の闇に斬り込むシリーズ第2作。 都内に複数の病院・介護施設を擁する有数の医療法人の理事長が、日本公正党の重鎮で厚生族の大澤純一郎*1の引きで参院選比例区に出馬するところから事件が始まる。市議に裏金をばら撒き、怪しげな選挙コンサルタントに大枚をはたいたものの惜しくも次点。政治活動から足を洗って病院経営に戻ろうとした矢先、当選した議員がひき逃げで死亡して繰上当選。同時に裏金を渡した議員もひき逃げで死亡し、選挙参謀だった事務長が消えた…。 今回も、病院経営に乗り出し数々の悪事を企み、産廃業者に乗り出し犯罪の…
楽天ブックスはこちら 第一線の物理学者が、今日の物理学の最重要テーマ『重力』について、最先端の話題を巧みな比喩を織り交ぜながらわかりやすくかつ正確に解説してくれる。 重力の研究はニュートンがリンゴを見て重力のアイディアをひらめき、惑星の公転運動を説明してみせたことに始まるが、アインシュタインの相対性理論によって重力の本質が解き明かされ、ブラックホールの存在が予言されることが語られる。さらに、量子力学の不思議な世界の数々が語られる。ここまでが準備。 後半では、素粒子を点ではなく振動する弦や膜だととらえる超弦理論と、ホーキングに端を発する現代のブラックホールの研究が融合し、重力ホログラフィー原理が…
Amazon(上巻 下巻) 楽天(上巻 下巻) 親子3人で平凡な暮らしをしていたサラリーマンが突然末期がんを宣告されたことをきっかけに、疎遠になっていた故郷、幼なじみのもとに戻り、かつて反発した祖父と対峙しながら人生の最後の日々を送る様を描く。父と子の相克や、疎遠になった故郷や級友との向き合いは、この作者が繰り返し取り上げるテーマ。今回も、過去のもつれた糸がほどけたりそのまますれ違ったり。しかし、主人公なりに死への準備として心の中で決着をつけてゆく。 視点が変わるが、最初自覚症状のない末期がん患者がある日急変し、以後坂道を転げ落ちるように衰弱する描写が残酷なほど鮮明である。そして、死の床にあ…
Amazon 楽天 ゲームにはまって1か月サボっていました。 今回はドラマでやっている小説を読んだ。ミーハーなもので。 妻の浮気(というよりセックス依存症)と離婚問題、息子の不登校と家庭内暴力、自分はリストラ、金を持ってる父親とは不和と、日本家庭の不幸を一人で背負い込んだような男が、ある晩死を意識する。その瞬間、事故死した親子の霊が運転するワゴンに誘われ、「一番大切な場所」と称して1年前にタイムトラベルするところから物語が始まる。 タイムトラベルしたからといって簡単に未来を変えられるわけではないが、心が離れた(と勝手に思っていた)家族の本当の気持ちを次第に理解し、生きる力を取り戻してゆく。 そ…
Amazon 楽天 タイトルとは裏腹に、リーダーシップとは何か、今の日本の企業や社会に必要なリーダーとは何か、どうしたらリーダーになれるかを説いている。 著者は永年マッキンゼーの日本法人で採用を担当してきた。コンサルティング会社というと、地頭が良い人を採用したいので面接で難しい質問を投げるという定説があるが、それは目的を誤解しているという。簡単に言うと、考えることが好きか、それから思考体力があるか(考えることはとても体力を使うのでとことん考えることに体がついていけるか)を見ることが目的だそうである。 採用面接の話はほんの入口で、マッキンゼーにおける問題解決の仕事のあり方を通して、高い成果を生み…
Amazon(上巻 下巻) ロンドンの語学学校を舞台に起きた北朝鮮による日本人拉致をモチーフに、水面下に広がるテロ組織のネットワークとその犯罪を赤裸々に描く。 夫の早逝によりシングルマザーとなった佐久間浩美は、夫の伯父佐久間健一の計らいで息子を連れてロンドンに語学留学する。同じ学校に日本の商社から派遣された安原と恋仲になるが、そこには日本赤衛軍のメンバー水田も身分を隠して潜入していた。水田は、日頃から接点のある北朝鮮工作員から浩美の北朝鮮への拉致に協力するよう指示される。浩美は罠に嵌められてピョンヤン行きの飛行機に乗せられ、北朝鮮に拉致されてしまう。ここから、浩美、安原、そして賢一たちの、奪還…
Amazon 楽天 江戸深川の鍼灸の名人染谷が、その腕で貧富貴賤の分け隔てなく病や怪我に悩む人々を救い、救われた人々が染谷に影響され社会に対し教育に救恤にと善行をなしてゆく人情物語。 あかね空のような泣かせる(泣かせを意識した)ストーリーを熱いと表現するならば、本作は遠赤外線ヒーターのようにジワっとした温かさといえる。染谷はすでに還暦を迎え名人の技量と声望を確立しているため、周囲との接し方や影響の仕方に角の立たない老練さ、余裕があるためだろう。 体裁は1~2章程度の長さの独立したエピソードが集められた形で、どの順番で読んでもあまり違和感を感じないのではないか。反面、全体を通して眺めると、醤油屋…
警視庁公安部のホープその名も青山望が、異なる部署で活躍する同期の絆を武器に、日本の裏社会と対峙するシリーズ第一弾。 財務大臣梅沢富士雄が、地元福岡にあるホテルのバンケットホールのこけら落としパーティーで刺殺された。犯人は逃げる素振りも見せずその場で逮捕。しかし、現職の大臣が厳重な警備体制の真ん中で暗殺される事態に、警備に当たった福岡県警と警視庁SPの面目は丸つぶれとなった。 しかも犯人は取り調べに完全黙秘。指紋も写真も警察のデータにヒットせず、氏名不詳のまま起訴された。 警察庁長官はこれを警察の威信を揺るがす事態と考え、警視庁刑事部と公安部に捜査を指示、公安部公安総務課の青山警部に背後関係の捜査が下命された。青山は、事件指導班の古参から警視庁管内の公務執行妨害事件で完全黙秘を貫いた男のことを聞き、その追跡記録に当時解明できなかった裏社会の闇を見出す。 ここから、公安・組織犯罪対策・刑事に散らばる同期4人のカルテットが情報交換しつつ、日本の裏社会が蠢く事件の背景に迫っていく。しかし、同期カルテットはあくまで警視庁の、各部の一員として動く。上司に適切に報告するし信頼も篤い。組織を壊すようなスタンドプレーもしない。そのような組織捜査によって裏社会のつながりと犯罪事実が次々と暴かれるプロセスがリアルで非常に面白い。また、強制捜査後の取調シーンも見物。じっくり味わいたい(朗読するのもよいw)。 同じ著者のシリーズに「警視庁情報官」がある。どちらも警察捜査の実態をリアルに描写し、事件の背景に実話と思しきエピソードをモデルがわかるように潜らせている((今回は、菅政権や細川護煕が登場していると思われる))。警視庁情報官シリーズは主人公の黒田が特に目立ちそのプライベートもストーリーの重要な一部をなすが、本シリーズは同期4人の事件捜査ぶりを柱に据え、警察組織や人事、組織間の微妙な関係を絡めてストーリーが動く。警視庁情報官シリーズとは違う角度から警察を眺める面白さを味わえる。
スタンフォード教授の心が軽くなる先延ばし思考(ジョン=ベリー)
Amazon 楽天 このブログで小説以外の本を初めて取り上げる。 哲学者でスタンフォード大学教授 の著者が、自らの「先延ばし癖」を分析・考察し、先延ばし癖の効用や付き合い方をゆるく説く。「自己啓発」のタグをつけたが著者の経験に基づくエッセイに近く、1~2時間でさらっと読める。 まず、先延ばしといっても何もせずに怠けているわけではなく、自分に合った優先順位で物事を片付けているんだからいいじゃないか、オレだってそうだけど世間では働き者って言われてるぜと説く。実はこの第1章は2011年のイグ・ノーベル文学賞を受賞している。 ただし、先延ばしを賞賛しているわけではなく、先延ばしを防ぐ著者なりの方法論…
ハゲタカシリーズの第3弾。今回は、同族経営のアカマ自動車を舞台に、日中のハゲタカが激突する。
Amazon(上巻 下巻) 楽天(上巻 下巻) 「日本を買収する」と豪語する鷲津政彦が日本の巨大企業の買収合戦に挑むハゲタカシリーズの第2作。今回も、日本に実在した巨大企業のM&A案件がモチーフとなっている。 上巻では、経営不振に喘ぐ名門企業鈴紡*1の再建を巡り、ライバル企業の月華*2が化粧品事業の買収を目論む。鈴紡内部が分裂し、そこにメインバンクのUTB銀行*3や鷲津たちが背後に加わり買収合戦が始まる。 下巻では、不振の家電メーカー曙電気*4を巡り、「コピー屋」からのステイタスアップをも目論んでアメリカの軍需産業と組み買収に動くシャイン*5が、曙電気に転じ自主再建を果たそうとする芝野と激突す…
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