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この他、花より男子の二次小説サイト『君を愛するために』、韓国ドラマの二次小説サイト『君に出逢えてよかった』他複数サイト運営。 現在ベリーズカフェにてオリジナル小説を連載中。
「なにが?」 「あたし、こんな高いお店のもの、代金払ったりできない」 たとえ火災保険が降りて生活の目処がついたにせよ、とてもじゃないが元々からして、ひまりは名の知れたブランドショップで買い物できるような身の上ではなかった。 武尊が戻ってきた店員に気を取られている隙に、ササッとすぐ横のハンガーラックに掛かっている自分の着ている服と同じデザインの服の値札を確認する。 ――――――1、10、100、1000、10000...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 54
「う、うん……そ、そかも?」 彼女的には、これしきの体調不良で欲望が失せるほどヤワではないので、むしろナサニエルが性欲魔人の獣となって襲い掛かってくれても大歓迎なのだが、さすがに迎え酒のノリで請け負って逆に引かれたくはないので、曖昧に頷いて話を変えてしまうことにした。 「泊まってくれるのはいいけど、え~っとぉ、予備の布団とかないからさ、一緒のベッドには寝てくれるんでしょ?」 多少狭いかもしれない...
「払いは気にしなくていいよ。俺が奢るって言っただろ?」 「え、でも……」 「いいから、武藤さん、今大変なんだろ?」 「ええっ、どうして……」 武尊の匂わせた言葉の意味を問い返そうとして、だがウェイトレスの目が気になって聞けない。 それに、人前であまりお金のことで揉めたくもなかった。 とりあえず友達になろうという話なのだから、落ち着いてから返せばいいかと自分を納得させ、素直に応じる。 それでも、...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 53
ふと物音が耳について、意識が浮上した。 最低限に絞った魔道灯のほの明るいオレンジ色の灯で手元を照らし、本のページを繰っていたナサニエルが目を覚ましたレシリに気が付いて顔を上げる。 「良かった、だいぶ顔色が良くなっていますね」 何かを言おうとして、けれど思考がカタチになる前に、出そうとした喉からかすれた音しか洩れず、咳払いをしながら唾を飲み込み、なんとか喉奥を潤そうとそれらを繰り返す。 「ちょ...
これだけは確かなことだ。 「普通の見合いでも断りにくいものだとは思うけど、うちの場合、見合いとなったらそれ相応に病院の経営と関わる家の娘が相手ってことになるし、そうなったら経営者の親父や兄貴のメンツもある。最初からしないか、結婚を覚悟するか、その二つしかない」 そう言われてしまえば、ごく普通の庶民の家の子であるひまりにはよくわからない話だ。 武尊の真剣な顔から、そういうものだと言われればそうな...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 52
相対する自分より頭一つ分以上も背の高い相手を見つめ、緊張に耐えられず相手が身じろぎしたのを合図に、正拳突きの構えをとっていた利き手を引いて、下腹部目指してつき込む。 相手が前屈みに避けたのを追撃して、 「ハァッ!」 気合一つ、利き腕と対角の足を軸に半回転して後ろ向きから蹴りを放って、対戦相手の首裏に踵を落とし込もうとして、首の皮一枚掠めたところで、 「そこまで!」 審判を務めていた者の制止...
はあ~と、演技ではない溜息がつい溢れてしまう。 あまり武尊に似合っている仕草ではないが、ガリガリと頭をかいて、本当にマイッたというように額を片手で抑えて項垂れている。 それだけ、困っているということだろう。 「お見合いって、北条君もまだ20才だよね?」 「俺、3月が誕生日だからまだ19才」 「え?そうなんだ」 「まあ、もうすぐ20才だから、あんまかわんないけど」 「そうだね」 4月が誕生日のひま...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 51
いまだ専任者が決まっていない為、女官長以下数人の持ち回りの侍女たちが立ち働く室内に入室して、視線を一巡させる。 本日も特に異変はなさそうだ。 専属侍女同様、主さえもまだ不在な部屋は、いくら美しくセンスよく整えられてもやはりどうにも機械的で冷たく見える。 と、 「ロレンシア来てたんだ?」 いざという時に協力体制をとれるようにと、臨時ではあるが彼女も王太子妃の護衛メンバーの補助員には任命され...
「まあ。あ、でも別に答えなくていいから」 「なんで?武藤さんが新しいカノジョになるっていうならともかく、友達なんだから聞かれても別にかまわないけど?」 「そ、そういうもの?」 ひまり的には微妙だ。 もちろん、女友達との間で付き合っている彼氏のことは話題になることはあったけれど、別れた相手のことになるとかなり話題には乗せづらい。 ひまりには男友達もそれなりにいたが、彼らの女性関係を彼女は特に詮...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 50
――――隠し事。 隠したいのか、いっそのことズバリと聞いてしまいたいのか、自分でもわからない事柄なので思わず黙り込んでしまう。 先日、わざわざ廊下の柱の陰にまで誘われて、メリルに耳打ちされた余計なお世話な話が再びすぐに脳裏に浮かび上がる。 『バードリー卿に限って、とは思うのだけど』 前置きされたものの、ナサニエルと直接関わりのないメリルに彼の何を知っているというのかと、やや八つ当たり気味に思った...
「そんなこと、言われても」 眉を寄せ、チラリチラリと武尊を見ては、再び自分のカップへと視線を移し、思案している顔は真剣に悩んでいるようだ。 即座に否定されなかったことに、武尊は脈を感じていた。 人間ダメだと思ったら、最初から聞く耳を持たないものなのだ。 特によくも知らない人間が言い出した突拍子もないことならなおさらだろう。 それにひまりには即座に、武尊の申し出を拒絶できない切実な事情があ...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 49
「レシリ」 声をかけられ、今来たばかりの道を振り返る。 カッセルが戻って来たので、彼と交代して主の執務室を辞したのだが…………。 「メリル」 「少し、いいかしら?」 空き時間というわけではなかったが、次の予定まではまだ少し時間がある。 そうでなくとも、第6王女を囲むチームの同僚であるメリルが用があると呼び止めてくるのだ、無視はできない。 「込み入った話ですか?」 「そうじゃないんだけど」 周...
「は?ごめん、もう一度言ってくれる?」 案内されたのは、ひまりも知っていたけれど、懐具合的に敷居が高くてめったに来たことがない喫茶店で、コーヒー党の美紀もひと押しの店だった。 人に聞かれたくない話……と前置きがあったとおりに人目を避けて、店の奥まった場所に陣どった武尊が言い出したことが信じられずに、思わずもう一度問い返してしまう。 ひまりの驚愕もわかっていたのだろう。 胡散臭そうな彼女の視線...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 48
一般的な姫君とは異なり、元々ざっくばらんで飾らない人柄ではあるが、遠慮会釈もなく言われるには中々胸に来るセリフだ。 「縁起でもないことをおっしゃらないでください」 「なんだ、図星か?」 そういう性格の主であるので多少無礼な物言いや口答えも赦してくれて、わりに気兼ねのない人ではあるのだが、正直、気が塞いでいる時にはあまりかまって欲しくはないものだ。 「まあ、小バードリーもかなり華やかに社...
「ねぇ、コーヒー、奢らせてくれない?」 最初、ひまりは自分にかけられた声だと気がつかなかった。 が――――、 ガガァッ。 鈍い音を立てて、長方形の図書館机の反対側の椅子を引いた男が、ずずっと目の前まで伸び上がってきて、ぎょっと仰け反る。 驚いて顔を上げれば、知っている人物ながらなんの関わりもない男が、自分の目の前でニコニコと愛想よく笑っている理由がまったく思いつかない。 「えっと?」 「武藤...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 47
「彼氏の前カノが?」 「まぁ、そうかも?」 レシリのあやふやな返しに、マーレンが器用に片眉だけを上げて、 「なんだよ、愛しのネイト君は前カノに心残してたりすんの?あんたとずいぶんラブラブみたいなことロレンシアから聞いてたけど」 「わたし的にもそう思ってるんだけど、……人の心のほんとうのところっていうのは、実際にはわからないからさ」 「はぁ~。恋人ができたらいつもその相手にどっぷりハマり込むくせに、...
「……夜になっちゃうけど、本当にいいの?」 「うん、平気。あたしの方は今日バイトないから、図書室が閉まるまでは大学で勉強してるし、あとは適当に時間潰してる。泊めてもらえるだけ、ありがたいもん」 「お金、渡しておこうか?」 「いいって」 聞き耳を立てているわけではなかったけれど、そんな会話を聞くともなしに聞いて、ふと昨日カフェテリアで小耳に挟んでいたひまりの事情に武尊も思い当たる。 ――――――家、焼け出...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 46
「あぁ、そう」 いかにもな優等生的な模範解答だ。 大勢いる騎士団の騎士たちの中でも、特に期待の星と言われる人間は違う。 ぐうの音も出ないとはこのことだが、しかし、そういうつもりなら彼女よりももっと実力のある、それこそ模範的な騎士から習えとせつに言いたい。 しかし、頼って来る者を無下にすることもできず、内心でため息を付きつつ承諾する。 「まあ、今度?互いの都合があえば」 「ありがとう、よ...
「あらま。で、何?家に帰って来いって?」 ニヤニヤ笑う顔が、他人事だと思って完全に面白がっている。 が、今の武尊にはそれを咎める気力もなかった。 「それどころじゃねぇよ。見合いしろとよ」 「見合い?!」 それは予想の範疇外だったらしく、さすがの悪友も驚いている。 「なんだよ、それ。俺たち、まだ大学生じゃん?お前みたいな糸の切れた凧のようなヤツを自由にしてると、変な女にひっかかるから、安心でき...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 45
話の流れからしても、彼の表情からにしても、おそらくかなり以前にナサニエルと出会っていたのは間違いなさそうだが、どうやらそれ以上は話したくないらしい。 こんな美形と出会っていて、初恋をいただいてしまうくらい濃い会い方をしてしまったのなら、彼女の記憶にも残っていそうなものだがと心の内で首を捻った。 「聞いたのはわたしだったのに答えてくれないで、質問し返すのはズルいと思うけど、まあ、いいっか。……初恋...
「おは」 「おはよう、武藤ちゃん、むら」 「おはよう」 約2名足りないが、大学で顔を合わせれば机を囲むお馴染みメンバーが教室に勢ぞろいしていた。 「武藤ちゃん、昨日っていうか、この間から大変なんだって?」 ひまりの隣に腰を下ろしての第一声。 教授が教室に入ってくるまでにはまだ多少時間がある。 「それって」 「さっき、マツに出くわして聞いたよ」 「そ、そうか」 松田も口が軽い方ではないが、気...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 44
澄ました顔で、上品な美貌に似合わぬ男の欲望全開のストレートな希望に、嫌悪や羞恥を感じるより笑ってしまう。 「じゃあ、する?」 「しません。たとえ寒さや暑さに耐性があるにしても、こんな雑草だらけの硬い地面にあなたを押し倒して、忙しなく貪るなんてとても考えれれませんよ」 「うーん、それが外でする醍醐味だと思うんだけどな」 か弱いお嬢様ではないので硬い地面だろうが忙しなかろうが、かえって興奮するくら...
カラン、コロン。 喫茶店のドアを開け、店内に視線を一巡させる前にすぐに目的の人物たちを見つけて、武尊は大きく息を吐いた。 先に彼に気がついていたのだろう。 武尊が視線を向けるのとほぼ同時に、彼によく似た美貌の女が片手をあげる。 横では、若い頃の美貌が伺い知れる清雅な美貌の…やはり彼によく似た老婦人がニッコリと微笑んでいた。 が……、武尊の気分は、すでに刑場に引っ立てられる死刑囚か、屠殺場...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 43
とうとつな話の転換に虚を突かれたのだろう。 キョトンとした顔をしたナサニエルが、けれど、レシリの視線を辿ってすぐに髪を束ねている……レシリの彼への初めての贈物である髪紐のことだと察して破顔した。 「あなたもとても似合ってます。やはりあなたの髪色に良く映えますね……素敵だ」 「ありがとう」 素直に礼を言うレシリに、嬉しそうに笑ってくれる。 ただ、それだけで何を聞かずともかまわない気がした。 ...
焦って言えば言うだけドツボにハマってしまっている。 ひまりにしても松田の好意は嬉しくても、とても受けられる類のものじゃない。 「松田君を信用していないってわけじゃないんだけど…」 「だから、違うって!いくらなんでも、俺の部屋に武藤を誘ったりするかよっ!?」 「……それって」 なんとか冷静さをかき集めたらしい松田が女二人の視線を受け、真っ赤な顔のまま、それでもなんとか憮然とした顔を作って、両腕を...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 42
一番気になっているところから聞けば、弾かれたように振り返って憤慨される。 「もちろんです!でなければ、あなたに求婚なんてしません!!そもそも見合い話すら、持ち掛けることもできませんでしたよ、信じてください」 貴族たちの中には縁談を持ち掛け、自分よりも格下の相手を騙すようにして第2夫人や愛人にする手合いもいるらしい。 第2夫人とはいっても、一夫一妻制のこの国ではしょせん正式な妻ではない。 ...
呆れた声音に顔を向ければ、やはり同期の松田が声音通りの顔で二人を見下ろしていた。 「お、マツ」 「松田君」 勝手知ったる……で、二人の間、空いてる席に腰を下ろしてしまう。 「珍しいね、マツが昼からだなんて」 「ちょっとヤボ用で実家からだから」 「ああ、埼玉だっけ?」 「……千葉」 松田もひまり同様、大学の近くで一人暮らしをしていたが、実家も通学圏内だ。 「それより、武藤、なんかあったの?」 「え...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 41
「それは……」 そう言われてしまうと弱い。 もちろん、レシリももっとナサニエルに逢いたいし、……さらにありていに言ってしまえば、触れ合いたいセックスしたい。 騎士は男女問わず欲望が強い者が多い。 食欲しかり、性欲しかり。 しかし、こうした隙間時間でしかロクに彼と逢瀬を果せず、そうした触れ合いができていないのはもっぱら彼女のせいなのだ。 それならばとりあえず同棲をと思っても、レシリが結...
「ええ~?武藤ッチ、マジで昨日ネットカフェに泊まったの?」 「うん」 軽い仮眠をとりはしたものの、やはり女一人、安心できる環境などではなくって、お腹が膨れたとたんに眠気と疲労を自覚する。 「それ危ないんじゃないの?」 「……まあ」 わかってはいても背に腹は変えられなかった。 たとえ一晩にせよ、ホテルに泊まるのもたった2万円の所持金。 何日かかるかもわからない日数を、過ごさなければならないのだ...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 40
ナサニエルは望みがあれば言ってくれるし、好意を口にすることをためらわず、彼女にも望んでくれる。 何度となく踏み固められて道になった坂道を通り背の高い木々の間を抜ければ、ぽっかりと空いた空間に出て、そこはまるで天然の展望台のように夜空が広がり、月や星が美しい。 番を求める虫たちの、かしましい求愛の音に耳を澄ませる。 王宮内の宮と宮の間にはこうした林とも森ともいえる鬱蒼とした木々が広がる場...
「別れた」 「お?」 とたんに食欲がなくなって、カランとフォークを皿に転がす。 ほとんど残してしまったが、これも一つのアピールになるだろう。 見れば壮太のミックスグリルの皿もあまり減っていはいないから、味は推して知るべしというやつだ。 「なんだよ、大人の魅力とかいってけっこう入れ込んでたじゃん?」 「誰が入れ込んでたよ」 「まあ、後腐れない関係ってやつだけど」 基本、武尊と壮太はそこのスタ...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 39
失礼な物言いで耳打ちされ、こめかみを引くつかせながら一生懸命礼を言ってくれる少年に笑顔を返す。 「厳しい物言いの先輩もいるけど、皆頼られるのは嫌いじゃない世話好きも多いから、息詰まることがあったら積極的に人の意見を聞いてみるのもいいよ」 「はい!あと、先日、ウチの詰め所に差し入れていただいたお菓子、ボクも食べました。とても美味しかったです」 「お菓子って、あぁ」 金獅子の新人君に助けられた礼に...
「武藤さん、おはよ」 「……おはよう」 目が合ったので挨拶しあったけれど、あきらかに彼女を一べつした目はひまりを値踏みしていて、お眼鏡に叶わなかったらしくアッサリと視線を外してあとは一貫して無関心だ。 一見愛想がいいが、興味のない相手にはとことん冷たい本性が透けて見えて、ひまりなどはこの王子様面した男が苦手だった。 「武藤さんって、去年、高島教授の講義履修してたっけ?」 「え?うん」 「武尊と同...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 38
「そうなんだ……」 一応、貴族の端くれとはいえ、末端の末端、その上社交界とは距離を置いているレシリには知るべくもない情報だ。 「もちろん、誰も彼もが他人の情報通ってわけではないけれど、卿はあの容姿じゃない?」 「え、あぁ、なるほど」 社交界にも人気のある貴公子や令嬢は話題に上りやすい。 「その上あの方の場合は、政略的な婚約というよりは相手方の令嬢に見初められての格差婚約。かなりの高位貴族のご...
「壮太」 「あれ、準ミス・キャンの恵梨香ちゃんだろ?」 「ええ?ショック~、北条君、恵梨香狙いだったんだぁ」 類は友を呼ぶ。 親友の壮太もちゃっかり片腕に女をぶら下げていた。 いつものことだが、先日連れていた女友達とはまた別の女だ。 「まさか、高崎さんとはただの友達」 「ホント?」 日頃の行いだろう。 高校時代からの悪友の壮太どころか、連れの女にまで疑いの目で見られてしまっている。 「高崎...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 37
キッパリハッキリお願いすれば、悪ノリはすれど、第6王女も人がイヤがることを強要するような意地悪をする人柄でもない。 「ま、そこまで言うのなら仕方がないか。私がゴリ押せば、国内にそれほど影響力のない第6王女といえど、それなりに余波がないこともないわけだしな」 「そうですわね、残念ですけれど」 引いてくれる。 「それにしても、バードリー子爵のご子息ですか」 思わずと言うようにポツリと呟かれたメリ...
「信じられない」 泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目、一難去ってまた一難。 言い方はいろいろあるけれど、どれも合っているようで、今のひまりの現状とはちょっと違う気もする。 が……。 朝、いつもと変わりなく、火元を確認して戸締りをして出たはずの部屋が真っ黒焦げに姿を変えていた。 ポンッ。 呆然と振り返れば、見慣れた不動産屋の店主の丸い顔が、いかにも気の毒そうに彼女を見て、何がうんうんなのか、しき...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 36
そんなことを言われて、思わず苦笑する。 「堅気だよ。まあ、街によくいるフツーのお嬢さんたちとはちょっと違うだろうけど、少なくともヴァレルよりは普通に生きれてると思う」 男から感じる荒んだ空気は、彼の言うマトモな恰好でも隠せていない。 黙り込んでしまったそれが、彼の答えなのだろうと思いつつ、 「お弁当屋さんになる夢はどうしたの?」 「おばさんやチビどもは元気にしてるのかよ?」 「…………、元気だよ...
頑固一徹、「そんなんだから、お母さんが出て行くんだよ!」な父子家庭の長女のひまり。 「女は適当に事務員にでもなって、結婚して、子供を生めばいい」 今時、いつの時代よっ。 父親の反対を押し切って、東京に上京! 将来の夢は、弁護士。 なんとか国立大学法科に滑り込んだひまりだったけど、6帖一間のアパートが大炎上。 行くところない。 お金ない。 友達…いるけど、頼れない。 そんな彼女...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 35
ぬくぬくと暖かな布団にくるまって、そろそろ昼も近く、起きなければならないとため息をつく。 宿泊代金は夕方までナサニエルが払ってくれたから文句は言われないだろうが、飲み屋が主体の店としてはそろそろ掃除に入りたい頃合いだろう。 彼女にしても情事後のそのままの状態で、昼日中の健全な街中を一人闊歩したくはない。 ふと思いき、枕元に置いておいた紙袋の中から取り出したナサニエルとお揃いの髪紐を握り締め...
『Double Cool』再更新終了と、この時間帯の更新について。
こ茶子です。 こんにちは。 毎夕PM.18:00に更新していた『Double Cool』はいかがだったでしょうか? すでに既読な方はもちろん、新規の方もお楽しみいただけたなら幸いです。 さて、この時間枠。 一日一回更新が当サイトの基本ですので、またしばらくお休みしても良いのですが、当面は、一度下げた作品を再公開してゆきたいと思っていますので、AM.6:00の『ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い...
【ムーンライトノベルズ】にて新連載『あなたとはもう何回も恋に落ちては破局しているので、今生では放っておいてください ~でも、激推し!』公開開始
こ茶子です。こんにちは。 タイトルのとおり、新連載をスタートさせます。 こちらは、現在【ムーンライトノベルズ】さんにて開催されているコンテスト《ロマンスファンタジー漫画原作大賞│comico》への応募作品。 またも無理くりなスケジュールなことに、今月末までに完結させなければあかんという。なので、5/11(木)am.6:00~公開開始で、5月31日(水)までに一日一回もしくは二回更新で完結させる予定です。 5万字以上であれば...
微笑み返す美澄の顔には複雑なものがあったけれど、幸いサングラス越しには気がつかれなかったようで、興味津々に見られるばかりだ。 「残念。大学時代の親友なの」 「へえ?」 「たまたまこっちの学会に参加していて、東京に帰る予定を繰り上げて同乗させてくれるって言うから、少しフラフラとあちらこちら見て帰ろうかなって」 「はあ、なるほど」 嘘ではない。 だが、その親友に連絡をとった意図は別にあった。 ...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 34
「……うん」 ガサゴソと音を立てて袋の中からもう一本の髪紐を取り出す。 こちらは特に包装をしてもらってはいなかったが、気を利かせてくれたのだろう、オシャレな内袋に入っていた。 「私の色ですね」 これくらいで恥じらうような殊勝なつもりなどなかったのに、言い当てられて無性に照れ臭い。 金と銀、オレンジの糸の組み合わせは、少しナサニエルの髪色にしては派手な色だったが、結びつけられている蛍石だろう...
見慣れた後ろ姿を窓辺から見下ろし、修司は一人、回想に耽っていた。 初めて出会った大学の校内。 クールな美貌に戸惑いを浮かべて、彼を見上げた彼女に一目惚れをした時を思い起こす。 きっと彼女は知らなかっただろう。 どれだけ彼が彼女を愛して、焦がれていたか。 彼女の夢に嫉妬して、何度となく自分のそばで自分だけを見つめてくれと言いたがっていた、卑小な男だということを知られたくないと思っていたか...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 33
「ど、どうしたの?」 「あなたの色だ」 実は買う時に少しだけ――――いや嘘だ――――大いに意識して、ナサニエルが身に着けるのを想像した。 これまで恋人に独占欲を感じることはあっても、目に見えるカタチの物を身に着けて欲しいなどと頼んだことは一度もないのに、彼が自分の色をまとうところを想像して一人興奮したのだ。 さすがに涙までは流してはいなかったが、泣きそうな顔で髪紐を抱きしめるナサニエルの表情に、ふと...
「……そ、そう。そうよね」 他に何が言えたというのだろう。 けれど、美澄の震える声音に気がついた修司が、ゆっくりと顔を上げて、今の言葉を訂正する。 「勘違いするなよ」 今更何を言おうというのか。 もうすでに、美澄の心はズタズタだ。 ――――――私のせいなのに。 それでも彼にあっさりと切り捨てられる自分に傷ついて、被害者よろしく涙ぐんでしまいそうな衝動を懸命に抑えている。 「お前を待てない……そ...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 32
たぶん、ナサニエルの方が彼女よりかなり体力的にキツイはずだ。 レシリも相当積極的に動いていたので、どちらが受け身とも言えないが、日頃から過激な訓練に勤しんでいる肉体労働職の彼女と、男性でそこそこ自己鍛錬に励んでいるとはいえ机仕事が主の文官とでは土台の体力が異なりすぎる。 実際、彼女の体を拭くどころか、寝入る前のナサニエルはレシリに搾り取られて精も根も尽き果てた状態で、だいぶ朦朧としていたので...
カッタコト、カタコト。 ジョボジョボジョボ、カツン。 耳慣れた朝の音と気配。 「……ん」 呻いて寝返りを打てば、明るい朝の光に眠りを妨げられ、意識が急浮上する。 とたん、鼻の先に香ったのは、いつもの香ばしいコーヒーの香り。 ハッと目を覚まして、無意識のうちに横を探れば、すでにシーツの隣は冷たく冷えてしまっていた。 ――――――やだ、目覚めのコーヒーくらいは、私が淹れようと思っていたのに。 甘...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 31※
個人的趣味の為、職業等の詳細は適当です。その他矛盾、誤字脱字等ご容赦を。又、文章の著作権は管理人にあります。無断転載、複製、二次使用、配布等はご遠慮下さい。なお、更新情報他は『こ茶子の日常的呟き』及びツイッターをご参照の事。
身動ぎをして、振り向いた修司の目はぱっくりと開いていて、やはり眠ってはいなかった。 どこか昏い……昏い眼差しの中に、吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えながらも、美澄は彼から視線を反らすことができずにいた。 ゴクリと唾を飲み込んで、もう一度彼へと言葉をかけようと口を開く……。 しかし――――。 シーツの下から伸びてきた手が、無造作に美澄の手首を掴み、グイッと引き寄せた。 「あっ……」 そのまま巻...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 30※
個人的趣味の為、職業等の詳細は適当です。その他矛盾、誤字脱字等ご容赦を。又、文章の著作権は管理人にあります。無断転載、複製、二次使用、配布等はご遠慮下さい。なお、更新情報他は『こ茶子の日常的呟き』及びツイッターをご参照の事。
先ほど、自分が遮ってしまった修司の言葉。 それはたぶん、プロポーズの言葉だったのではないだろうか。 少し前、修司がいよいよ店の構想を具体的にカタチにし始めて、準備が整い、前の会社に辞表を出した頃からそんな空気を感じるようになっていた。 そして、美澄自身もそんな彼の気持ちに安堵していたのだ。――――――彼は私との将来を考えてくれている。 夢へと邁進するための同志としてだけではなく、未来に家庭を築き...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 29※
個人的趣味の為、職業等の詳細は適当です。その他矛盾、誤字脱字等ご容赦を。又、文章の著作権は管理人にあります。無断転載、複製、二次使用、配布等はご遠慮下さい。なお、更新情報他は『こ茶子の日常的呟き』及びツイッターをご参照の事。
「俺のこともそうだけど、そろそろお前も30才だろ?」 ドキリと心臓が音を立てる。 が、少しムッとしたフリで、 「30才って、この前、29才の誕生日になったばかりだわよ。失礼な」 「失礼、ってまんま言っただけなのに、なんでムッとするわけ?」 ニヤニヤ笑う顔は当然、確信犯だ。 「お前でも気にするんだな、年齢」 「そりゃあね。初対面の人に会えば、かなりの確率でけっこ…………」 言いかけて、口ごもる。 け...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 28
踏み込みすぎかと思いつつ、聞かずにはいられない。 魔力が多かったり、属性を複数持つ者は高位貴族が多いから、そこらへんの兼ね合いだろうか? ナサニエルが今の省庁に入ったのも、家の兼ね合いだとかなんとか以前に言っていた気もする。 「魔法師団なんてとてもとても。多少小器用なのであれこれとこなすことは出来ていますが、魔力量はほとんどないんですよ」 「あ~、そうなんだ。なるほど」 複数の魔力を扱える...
そんな怯懦の生んだ誘惑に負けてしまいそうになる。 「へぇ、表参道のあたりも最近行ってないけど、知らないあいだにけっこう通りなんか様変わりしてるもんなんだな」 居間のソファに座ってテレビを見ている修司の声に、手を拭いながら美澄も修司のそばに歩み寄って、テレビへと視線を移す。 長年遊ぶ暇もなく、仕事に力を注ぐ傍ら、未来への夢への準備を着々と進めていた修司にとっては、驚くような光景も、仕事でたびた...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 27
「知り合い……なのかな?」 なんとなく見覚えがあるような気がするのは気のせいなのか。 職業柄、人の特徴を憶えることは得意だ。 もはや習い性のようなもので、こういうあやふやな感じは職務につくようになってからはほとんどなかった。 それならば、それ以前、 「あ、そうか」 脳裏にひらめいた顔に続き、すぐに名前が思い浮かぶ。 その顔はいましがた見たばかりの顔と完全一致ではなく、もっとずっと幼かった...
ついホロ酔加減で、修司との会話に夢中になりすぎていた。 肘をついたところ、テーブルギリギリに置いておいたフォークが鈍い音を立てて床へと滑り落ちた。 「……ふぅ、危ないだろ」 「ご、ごめんなさい」 美澄がフォークを拾う前に、修司がさっさと動いてくれて、彼女の足元に転がったフォークを拾いあげてくれる。 呆れているようではなかったけれど、美澄の何杯目になるのだかわからないワインを取り上げ、ぐっと飲...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 26
「…………」 「…………」 「…………」 冗談だとは思うが飛び出したトんでも発言に、警邏隊の兵士たちのみならず、レシリまでもが黙り込む。 しかし、おかげさまで、女だてらに大立ち回りをヤらかした気まずさが吹っ飛んだ。 狙った発言ではなかろうが、内心でナサニエルに感謝する。 「ま、まあ、こちらもこれが仕事ですので、犯罪者の一人や二人暴れたところで逃がしはしませんよ。かなりヤられていますから、そうそう目を覚ま...
「綺麗ねぇ、これってなんてワイン?」 「……実は、凄い奮発したロマネ・…」 「え?本当?」 食前酒に出されたワインは、芳醇な香りを放つ真っ赤な赤ワイン。 一口含んだ味わいは、南フランス品種特有の溢れんばかりの果実味が口中に広がって、食堂を通って入った時の重量感が並々ならない。 が―――。 「コンティの樽で熟成したデュペレ・バレラ!」 「……やっぱりね」 ふふふと修司の顔が柔らかく綻ぶ。 「美...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 25
男への手加減などよりもよほど気を使ったつもりだったのに、屋根から飛び降りる際、どこかにスカートの端を引っかけてしまったらしい。 太ももに仕込んだ武器を取り出す分には楽になったことだし、酒場でなら中々にセクシーだと喝采を浴びることができそうだが、見事に裾から際どいラインまで縦に切り込みが入ってしまったワンピ―スのスカートの惨状に頭を抱えた。 「どうしよ、これ」 ワンピースを貸してくれたロレンシ...
エリートと呼ばれる29才のキャリアウーマンの美澄。仕事も順風満帆、脱サラしてイタリア料理店の経営者となった恋人修司との仲も順調。だが、そんな時、美澄にフランス支社のへのステップアップの話が舞い込む。仕事と恋愛、その両立に悩むひとりの女性が選ぶのは? 応援よろしくお願いいたしますm(_ _)mにほんブログ村...
ボクだけの一輪の花~エリート補佐官子爵令息と平民女騎士のお見合い婚 24
落ち着き始めた喧噪の狭間、ナサニエルの言葉をかき消すように響いた甲高い悲鳴に、思わず互いに口をつぐむ。 次いで、 「だ、誰かっ!!ど、ドロボー、誰かその子を捕まえてっ!!」 声の方向から、悲鳴を上げた主以外の周辺の人々の、 「泥棒?」 「スリだっ!」 「え?」 「どこだ、どこだ?」 こもごも声音の違う声があがって、 「わっ!?」 ドンッ!という鈍い音とともに、ナサニエルとレシリが立っていた...
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