小説「陽だまりの場所」連載第八十二回(最終回) 「何のことだ。」英俊は起き上がった。「何を言っているのか分からん。」裸の体に服を纏った。「ヤツはもう終わりだよ、加代子。殺人者としての一生を送る。もっとも、ヤツにはそれが相応しいのかも知れな...
小説「陽だまりの場所」連載第八十一回 「これ以上何も言わせるな。もう時間がない。僕は覚悟が出来ている。生まれて初めて自分で決め、実行するんだ。僕の好きにさせてくれ。お前はとにかく愛を頼む。自首なんか絶対にさせないでくれ。いいな。」 「分...
小説「陽だまりの場所」連載第八十回 「どうしたんだ。」 「いや、何でもない。なあ、鵜方、ちょっとヘンだと思わないか。」 「何のことだ。」 「俺たちは、愛が手首を切った直後に部屋に飛び込んだ、医者がそう言っていたよな。」 「そうだっ...
小説「陽だまりの場所」連載第七十九回 母親も父親も考えを変えたのかも知れなかった。愛の自殺未遂の翌日、母親は午前十時頃出掛けていった。愛の病院に行くらしかった。父親は午後十時頃仕事から帰ってきた。翌日は朝七時半に家を出て会社に向かった。母...
小説「陽だまりの場所」連載第七十八回 「助かりますよ。」 膝の力が抜け、床にへたり込みそうになった。見ると、鵜方も同じ。頭を下げた。言葉は出なかった。 「手首の傷は発見が早かったので、大したことはありませんでした。ただ、薬の方がね。大...
小説「陽だまりの場所」連載第七十七回 鵜方は電話を切り、晃一に放って寄越した。愛が、もし助かれば、智子と鵜方のおかげ。晃一は、愛がわざわざ電話してきた、助けを求めてきた兄は、結局何の役にも立たなかった。 「晃一。」鵜方が言った。「お前宛...
小説「陽だまりの場所」連載第七十六回 晃一は急いで着替え、家を出た。駅までの道を小走りに急いだ。駅の手前五十メートル辺りで鵜方のバイクが来た。誰と何をしていたのかは分からないが、近くに居たことに感謝したい気分だった。 「乗れよ。」 晃...
小説「陽だまりの場所」連載第七十五回 「僕は・・・よく分かりません。明美とは一年近く会っていなかった。」 「あの子は男と別れたがっていた。それは知ってるの。」 「それじゃあ、やはり、あの男が明美を。」 「それは、わたしには分からない...
小説「陽だまりの場所」連載第七十四回 九章 何かするはず。能見英俊とはそう言う男。晃一が、何の力も能力も無い男だと分かった今、あの男が放って置くわけはない。力が弱く、能力が無く、自信も無い人間を見つければ、いたぶり、嬲り...
小説「陽だまりの場所」連載第七十三回 「信じたくない気持ちは分かるが、最近はそう言う高校生が多いんだよ。抑圧された性欲が妄想を駆り立てる。受験勉強のストレスの所為と言う人も居るが、私は違うと思う。生まれつき持った資質だよ。きっとあの高校生...
小説「陽だまりの場所」連載第七十二回 愛が錯覚だと加代子が気付いたときから、英俊がそれに加代子が気付いたと知ったときから、英俊の加代子に対する愛撫が変わった。本当に嬉しそうに、楽しそうに、加代子が嫌がれば嫌がるほどしつこく長く、指で舌で目...
小説「陽だまりの場所」連載第七十一回 愛は戻ってくると思っていた。愛の部屋のドアの開く音に耳を澄ませていた。一週間が経ってしまった。何をしているのだろう。英俊のあの言葉。愛を捨て真由子を獲った。そう言う意味では無かったのか。愛や真由子のこ...
小説「陽だまりの場所」連載第七十回 洋平は、じゃあな、と言って一人で駅に向かった。 真由子は駅とは反対の方向に向かった。ビルとビルの間の狭く暗い路地を選んで歩いた。橋を渡り、ホテル街を抜け、国道へ出た。道は既に空いていた。真由子は晃一の...
小説「陽だまりの場所」連載第六十九回 「この写真はあなたが撮影したものだ。ここに愛ともう一人、女の子が写っている。その女の子は愛の中学の同級生で石井真由子、この診察券の子だ。石井真由子はあなたに妊娠させられたと言っていた。これでも言い掛か...
小説「陽だまりの場所」連載第六十九回 「この写真はあなたが撮影したものだ。ここに愛ともう一人、女の子が写っている。その女の子は愛の中学の同級生で石井真由子、この診察券の子だ。石井真由子はあなたに妊娠させられたと言っていた。これでも言い掛か...
小説「陽だまりの場所」連載第六十八回 それよりも絶好のチャンスじゃないか。プールに入れば里香は一人で遊ぶに決まっている。英俊はプールサイドで、善良な父親の仮面を被ってそれを見ている。愛が何処に居るのか、それを問い質すのは今日、この機会しか...
小説「陽だまりの場所」連載第六十七回 妄想の産物。 端から見ればそうとしか見えない。やり手で家族思いの営業部長。常識があり、格好がよく、綺麗な妻と真面目で優秀な子供たち。能見英俊は何処から見てもそのようにしか見えない。晃一の知っている英...
小説「陽だまりの場所」連載第六十六回 「彼に言われて。家族で海水浴に行くんだけど、つまらないからお前も来いって。一人じゃやだから、それで愛を誘ったの。」 吐き気がした。そんな男が存在すること自体許せない。 「愛とは、どうして。」 「...
小説「陽だまりの場所」連載第六十五回 翌日、六時間の授業が終わると晃一は真っ先に教室を出た。洋平が何か言いたそうな顔を向けてきた。何か特別な勉強でもしているのか、俺にも教えろよ。言いたいことは、おそらくそれ。洋平は上手だ。受験勉強に意識を...
小説「陽だまりの場所」連載第六十四回 雨が上がり、その頃には窓の外は薄蒼闇に変わって居た。鵜方も智子もあれから戻って来なかった。店で騒いでいた鵜方の仲間たち、バイク愛好会の仲間たちは帰るものは帰り、三人ほどがソファで寝ていた。椅子に座って...
小説「陽だまりの場所」連載第六十三回 木野智子はじっと写真の中の加代子を見ていた。「この女なの、あんたの不倫の相手。」 「いえ、不倫なんか、していません。」 「私、こういう女、だいっキライよ。自分だけご清潔。バッカバカしくって、そんな...
小説「陽だまりの場所」連載第六十二回 晃一は腹から写真の袋を取り出した。幸い濡れは大したことはなかった。つまらなそうだと思ったのか、女は立ち上がった。背の高い女だった。鵜方の側を離れて何処かへ行った。 「見てくれ。」 「何だよ。」鵜方...
小説「陽だまりの場所」連載第六十一回 さらに机の周り、ベッドの下、クローゼットの中を探る。東ノ里中学の通学バッグがあった。開けると、衣類。中学のとき着ていた体操着が入っていた。その上に写真の袋。中に入っていたのは愛の中学時代らしい写真が五...
小説「陽だまりの場所」連載第六十回 萱場沼で拾った、と言っていた。本当のことなのか。しかし、嘘を言う理由が無い。それじゃあ、いつ、何故、このロケットが萱場沼へ。 その混乱は二週間たった今でも全く変わりは無い。ロケットの蓋を開け、二人並ん...
小説「陽だまりの場所」連載第五十九回 加代子の姿が丈の高い草に遮られて見えなくなったとき、晃一は生まれて初めて味わう喪失感に身悶えた。その気持ちを、どう表現したのいいのだろう。胸の中に蟠る焦燥感のような、それでいて体の芯が熱い。その時、一...
小説「陽だまりの場所」連載第五十八回 七章 二週間まったく愛の姿を見ていない。帰って来ているのか、居ないのか、分からなかった。晃一が学校に行っている間に用事があって戻ってくると言うことも考えられないではない。家事手伝いの山森...
小説「陽だまりの場所」連載第五十七回 里香に当たることはない。自分の罪悪感を里香に当たることで紛らせてはいけない。里香に何も罪はないのだ。本当か。里香は母親から夫を奪おうとしたではないか。 また、そんな妄想。 疲れた。加代子はソファに...
小説「陽だまりの場所」連載第五十六回 「これは・・・なに・・」怪訝そうな声を出す晃一。手に取って見る。錆の出た小さなロケット。 「ここ。そうだわ、ちょうどこの辺りで拾ったの。」 「これを、僕に。」 「あなたと殺された女の子の写真が入...
小説「陽だまりの場所」連載第五十五回 「いえ、私は知らない。そんなこと、知らない。私には何も分からないし、夫に対して疑問を持つことなど考えられない女だから、あの人に選ばれたの。そんな私に分かるわけが無い。私は、操り人形にような、頭の空っぽ...
小説「陽だまりの場所」連載第五十四回 「知っていることは、ほとんど無いけど。お話しするわ。」加代子は目尻の涙を指で拭った。「きっと、あまりにも普通の人でがっかりするんじゃないかしら。生まれたのは静岡市、と言っても街じゃなく農村よ。私も子供...
小説「陽だまりの場所」連載第五十三回 「怒らないで下さい。でも、怒られたって仕方が無い。こんなことを、あなたに聞く僕の方がどうかしている。それは分かっています。警察でもないのに。」 「ケイサツ・・・・」 「僕たちは・・・僕は・・あなた...
小説「陽だまりの場所」連載第五十二回 渕瀬川が注ぎ込む芝生広場の外れから川沿いの道に踏み込んだ。いつもより流量が多いような気がした。弾んだ加代子の気持ちがそう思わせるのかも知れない。公園では小学生や中学生が遊んでいた。殺人現場には誰も居な...
小説「陽だまりの場所」連載第五十一回 朝、目が醒めた。すぐ横に英俊の寝顔。英俊と子供たちのために朝食を作らなくてはならない。上半身を起こし、ベッドから抜け出ようと・・・いきなり腕を掴まれた。強引に引き寄せられ、英俊の大きな体の下に、組み敷...
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