バアン!河合「でだ!お前、説明しろよっ!?」放課後になり、私の机の上に勢いよく両手をついて、霊感少女こと、河合千晴が私をにらみつけました。私「ぱーどん?」私は分厚いレンズをかませた銀縁眼鏡に、長い髪の毛をみつあみにして、両肩に垂らした状態で首をかしげます。河合「ぱーどんじゃねぇ。昨日の6時限目の始まりのヤツ!」私「あぁ…。」村森「なんだなんだ?またオカルト話か?(笑)まぜろっ!?」小柄で扇形のつやや...
一通り、笑いが通り過ぎたあと、改めて、体格のよい小島ちーちゃんが言いました。サラサラのロングストレートヘアをゆらして、腕組みをしています。小島さん「あれ?そういえば、結局しんじゅちゃんの言いたかった、気づいたものって、なんでしたの?」私「だから五体満足の体を持っていること、家族がいる事、友達を持っていること、知恵があるってこと。これに気づいたのは、すごい収穫だってことだよ?」神岡君「それと意欲を持...
ひろみちゃんが腕組みをして、唇をとがらせながら言いました。岡田「レンコンやな。」私「え?」神岡君「あ、そうか。蓮根、ハスの花か…。」小島さん「そうですわね。蓮根ってたしか、泥の中で咲くお花でしたわね?」私「え?蓮の花?あのお寺とかにあるやつ?」伊藤さん「そうね、確か蓮根が蓮の花の実、なのよね…。」加藤君「八開村の特産品じゃなかったっけ?」私「あぁ、輪島の…。って、えぇ~!?ちょっと決まった!って思っ...
岡田「はぁ~…。うん、ま、いいんやないか、それで。」伊藤さん「そうよね。昼間働いて、くたくたなのに、休日を全部つぶして一人でお勉強…。友達と遊んだり、貯めたお金でレジャーをしたりとか、いろんな誘惑もあるだろうし、それを全部無しにして、勉強につぎ込むこともないのか…。」小島さん「そうですわねぇ。大人になったら、車を買ったり、乗り回したり、お酒を飲んだり、旅行にいったりとか自由にし放題ですものね。そんな...
岡田「…しかし、ホンマ、しんじゅは知恵モンやな…。よぉ、すらすら、そんな方策が浮かぶもんやわ…。ウチ、どないもしようもないって、悲しんでまっとったわ…。」私「うん、私も最初は悲しかったんだ。でも毎日お店番をしながら、自分の将来の事を考えていたら、あ、こういう事かって、ひらめいたんだ。だからきっと大丈夫。」虫鹿君「…確かに知恵者だぜ…。なんか、安心した…。」加藤君「僕も…。なんかこの話が一番圧倒された気がす...
神岡君「…あきらめたら、試合終了…。そうか…。」私「うん。まぁ、試合っていうか、人生ってゲームの連続みたいなものだと思うから。一回や二回、負けたところで、また挽回できるチャンスはあるでしょ?だから試合の勝ち負けにこだわらずに、負けたとしても、実力を養えたんだって思えば、また試合に挑んでいける。そういうのが大事だから、先生たちは、何事も前向きにがんばれって言ってたんだなって気づいたんだ。」岡田「学んだ...
虫鹿君「考え方の違い…。」小島さん「将来が全然違うことになるんですのね…。」私「そう。一見すると、ただの前向きな考え方か、そうじゃない、後ろ向きな考え方かの違いみたいに感じると思う。」神岡君「そうだね。前向きか、後ろ向きかの違いだけのような気がする…。」私「よく言うじゃない?学校の先生が精いっぱいやれとか、頑張れとか、前向きな考え方しろ、とかさ。」伊藤さん「うん。」私「私さ、以前はそれ、性格の問題じ...
虫鹿君「いや~、もったいないわ。お前絶対教師向きだぜ…。」神岡君「あっ!?そうだった。六道さん、六道さんが言ってた、持っているものって何?」私「だから、五体満足の体と、家族と、友達。」伊藤さん「えっと、それだけだと、何もないと同じなんじゃ…?誰でも持っていると思うし。」私「ん?そうか、そうだなぁ、あと、知恵。」岡田「おまはん、知恵モンやからな…。」神岡君「知恵があると言えばあるけど、それだけで、さっ...
冬だというのに真っ黒に日に焼けたスポーツ少年、虫鹿君が腕組みをしながら、つぶやいてきました。虫鹿君「しっかし、お前、よくそれ覚えてんな?小島とか、伊藤の話なんて、夏休みぐらいなら、3か月、4か月も前の話じゃねぇか…。」私「あぁ、記憶力はいい方みたいだね。」虫鹿君「さっきの、まさこおばさん?のセリフも。8歳っていったら、4年前だろ?一瞬聞いただけの言葉を、よく覚えてんな…って感心するぜ…。」神岡君「あ...
私「それと伊藤さん、あ、みゆきちゃん。」伊藤さん「え!?アタシ?アタシこそ、何もしてないわよ?」私「うぅん、そんなことない。今も私の話につきあってくれている。」伊藤さん「で、でも、アタシ、神岡君みたいに、先生に働きかけたり、ちーちゃんみたいにしんじゅちゃんの家に出向いたり、加藤君みたいに、何かを見せたりしたわけじゃないし…。」私「そんなことないよ。ちーちゃんと一緒に話を聞いてくれていた。」伊藤さん...
私「加藤君は、私にイコンを見せてくれた。大切な宝物でしょう?」加藤君「あ、あれは…。そ、そうだけど…。」私「私を気づかって見せてくれたり、触らせてくれたのは、よく分かっているから。」加藤君「そ、そんなことは…。」私「それに自分がクリスチャンだと告白してくれた。ここらへんは仏教が主流だから、キリスト教だと告白するのは勇気がいったと思う。」加藤君「あ、あれは…。それにみんな、何も言わなかったよ?」私「ん、...
小島ちーちゃんは、ちょっと体格のいい子でしたが、肩をすぼめて、照れるしぐさをしていました。私「それに、神岡君。」神岡君「え?ボク!?僕も何もお役に立てれていないよ?」私「うぅん、そんな事ない。一学期、私が四季子ちゃんをいじめているだろうってみんなに思われていた時、神岡君は直接四季子ちゃんに事情を聞いてくれていた。」神岡君「あれは…当然というか…。」私「かなり手ごわい子だったはずなんだ。意味不明な事を...
小柄で色白の少女、伊藤さんがきょとんとした表情を見せて、私にたずねてきました。伊藤さん「持ってる…って、何を?」私は手のひらを顔にあてて、にやにやしてしまいました。岡田「なんや、しんじゅ、気持ち悪いな。おまはんがいろいろ持っとるの、ウチは知っとるけどどないしたんや?」小島さん「え?何をですの?」私「うふふ、私、すごいことに気づいちゃったんだよ。将来どうなるんだろぉ~って、悩み続けていたらさ。ある時...
子どもたちからはため息がもれました。小島ちーちゃんは、感極まって涙を流してしまっていました。クラスの中にいた子供のうち、私たちの会話を聞いて、物音を立てずに立ち去る子供もいました。虫鹿君「…ぁかぁ~!!コイツ、いいヤツだっ!間違いなく、めちゃくちゃいいヤツだっ!」神岡君「あぁ~…。だからこそ、理不尽さが際立つ…。あぁ~、なんもしてやれない自分が悔しい…。」小島さん「しんじゅちゃんって、なんっていい子な...
子どもたちは、面くらった顔をしていました。虫鹿君「…その、まさこおばさんってヤツがお前にそれ言ったの、いつの話だよ…。」私「ん?小2だから、8歳の時か。四年前。なんか変わったことを言うなぁと思って、記憶に残っていたんだ。」加藤君「まさこおばさんってどういう関係の人?」私「お母さんの在所の、お母さんの弟のお嫁さん。」加藤君「その人はキリスト教をやっているの?それとも六道さんのお母さんの在所は、キリスト...
子どもたちが、『自分ワールド』という言葉を聞いて、目をぱちくりさせながら感心した風にうなづいていました。そして同じ教室内にいた、机の前に座っていた子供の何人かがぶつぶつと『自分ワールド』と、つぶやきながら教室を後にしていきました。虫鹿君「はぁ、自分ワールドねぇ…。言いえて妙だな。ってアイツの話はいいからさ。それより、お前、これからどうすんの?」私「ん?どうもこうもないね。なるようにしかならないし、...
小島さん「なるほど、一発屋、ということですのね。まぁ、彼女の言動を見る限り、さもありなん、というところですが…。しんじゅちゃん、さっきは年収をひっくり返されて、残念がっていましたのに、彼女のお子さんたちの心配までして…。どこまでもお優しいのですね…。」私「あぁ、いや、そんなことは…。せっかくお金儲けの楽しさを知ったし、家計が潤えば、あの子の家の子供たちも豊かに暮らせるだろうからね…。彼女はお店を存続さ...
加藤君「ん、でも、六道さん。僕はあの考えなしの上田さんが、六道さんより稼げるとは、今の時点でも思わないよ…。」虫鹿君「だな。俺もそう思う。」岡田「無鉄砲すぎるんや。」伊藤さん「確かに芸能人や経営者を目指すって、無謀すぎるよね…。」神岡君「そうだよね。あの子、考えなしに危険に飛び込んでいくってことは、リスクが高すぎて、その上なにも得られないじゃないか…。僕はそんなの嫌だし、そんな人がお金を稼げるとは思...
私「あぁ…。あの子は自分が完璧な人間だと思っているから、平気で見下してくるんだよ…。」胸のうちで、メラメラと怒りがわいてきていました。岡田「どこが完璧なの!おたんちんもはなはだしいでっ!!」私「今は大差ないかもしれない。見た目も育った環境も似たようなもので、どっこいどっこいの子供どうしに見えるかもしれない。けど四季子ちゃんは、自分が完璧だと思っているから努力しない。私は何かが欠けていると思っているか...
子どもたちは、一瞬、言葉を失って、私の事を、まぶしそうに見つめてきました。神岡君「…かっこいい…。」虫鹿君「うん…。」加藤君「君ならなれるよ、きっと…。」伊藤さん「そうね、きっとなれる…。」小島さん「しんじゅちゃんの未来にエールを送りますわ!」岡田「ウチもできると信じとる!」私「ありがと。」神岡君「はぁ~、そうか、そうだよね…。甲乙つけがたい場合にはハンデになるけど、最初から抜きん出ていれば問題ないのか...
神岡君「そ、そんな…。そうか高卒じゃ、一流企業は就職試験すら、受け付けてくれないのか…。」虫鹿君「それが大卒と高卒の違いか…。親が言っていた意味が、なんかやっと分かった気がする…。」私「それだけじゃない。片親であるというハンデは就職でも、結婚にもついて回る。」小島さん「えぇ!?どういう意味ですの?」加藤君「なんで、片親だとハンデになるの?」私「これからの日本は少しずつ、アメリカみたいに個人主義になって...
岡田「あいつ、どうしようもないおたんちんやでな!」小島さん「アタクシ、今の今まで、しんじゅちゃんが、どれほど大変かをよく分かっておりませんでしたわ…。上田さんの暴言も、ただのひがみややっかみのように思っておりましたが、事態は深刻でしたわ…。」神岡君「僕もあの子がなにかめちゃくちゃな事を言っている、ぐらいにしか思っていなかったし。なんで六道さん、あの子にびしっと言わないんだろうと思ってたけど、それどこ...
加藤君「ねぇ、上田さんの家の人に、いくらか弁償してもらうことはできないの?それかそこで買い物をたくさんしてもらうとか、町内会に働きかけてもらうとか?」私「直接の被害は、四季子ちゃんがかごをぶつけてダメにした商品ぐらいだし…。後から言い出しても証拠がないと突っぱねられちゃうよ、多分ね…。」加藤君「そんな…。」虫鹿君「もっと強く言ってみろよ!お前、実際ひどいめにあわされてんだろっ!?」私「私がいくら、こ...
私「ん?説明わかりづらかった?」岡田「いや、わかるけど、頭がおいつかんのや。」私「そう、わかりづらい説明してごめんね?」小島さん「今、生命保険の必要性を説かれましても、アタクシたちも子供ですし。それでも、アタクシたちに対して、他山の石となすようにとの、配慮に胸が痛むばかりです。なにより、それ以前に、しんじゅちゃんのお母様にその保険がかけられていなかったのが口惜しいですわ…。」伊藤さん「そう、それ…。...
伊藤さんはショックを受けたようで、プルプルと震えていました。伊藤さん「…見えてる景色が違う…。この子なんで、超然としているんだろうって思ってたけど、当然だったんだわ…。同じ小学6年生でも、考えていること、置かれている状況があまりにも違う…。大人にならなきゃ、生きていけなかったんだ…。」加藤君「僕も…。てっきり頭がいいから、冷静なんだと思ってたけど、置かれている状況がシビアすぎたんだ…。ただの大人っぽい子...
伊藤さん「ほんと、惜しいわ…。なんで、女子なのかしら…。」私「そろそろ、そこから離れてもらおうか?」岡田「そやな、そないな事言うたかて、男子になれへんのやし?残念やったな、しんじゅ、男子やなくて。」私「結構です。」上島君「でもさ、冗談抜きでお前さ、頭いいと思うぜ?将来、なんか、いい職業についてそうだぜ…。」加藤君「あ、僕もそんな気がするよ。」伊藤君「うん、そうだね、自然とそうなる気がする。」岡田「そ...
私は周りにいる女子たちに頭を下げていると、反対側にいる男子たち3人がちょっと引いた感じで見守っていました。私が一人自分の座席に着席していて、それを取り囲むように男女3人ずつがぐるりと取り囲んでいる格好になっています。私が顔をあげると、さきほど私の顔をつかんでいた、伊藤さんが自分の右手を見つめて、ぶるぶると手を震わせていました。私「?」伊藤さん「…ちっさ!ほんとに、顔ちっさ!余裕で片手で余裕でつかめ...
伊藤さん「それに六道さん優しいし、生活力がありそうだから、きっと将来結婚できると思うわ!いいお嫁さんになれると思う!元気だして!」私「うぅ、アタシがお嫁さん…。無理っぽい気がする…。(泣)」伊藤さん「そんなことないわよ!六道さん顔もちっちゃくて、かわいいんだから自信をもって!」私「でも、私、お姉ちゃんい比べたら、全然たいしたことないし。かわいくな、ぎゃふん!」伊藤さんが、私の顔面をつかんできました。...
私「ん…。ごめんね、ちーちゃん、気を悪くさせちゃうかなって思ったのに、笑ってくれてありがと。」小島さん「いえいえ、どういたしまして!アタクシの頭の良さをほめていただいて、ちーはうれしいですわ?(笑)」私「うん、そこはお世辞抜きで、ほんと。でも今私が話したのはちょっとした心理テストみたいなものだから、あんまり深刻に受け止めないでね?そういう可能性もあるかなぁ?ぐらいに楽しんでもらえたら、ちょうどいい...
みんな腕組みをして考え込んでしまっていました。伊藤さん「ん…でも、なんかモヤモヤするのよ…。いえ、六道さんの話は分かったけど、なんであの性格の悪い子が幸せになれて、結婚できない人もいるのかしら?って疑問が残るわ…。」私「あぁ、まぁ、でも、ね。そう思うのも当然だと思うんだよね。結局、結婚に対して条件で決めるっていう、割り切り?ビジネスライクな感覚が持てるかどうか?って話だからさ。」虫鹿君「あ、そうそう...
ここでまたクラスの何名かが脱力して、ランドセルをしょって、教室から出て行きました。特に男子が多かったように思います。みんなこわばった表情をしながらも、私の説明には納得した様子でした。伊藤さん「でも…。でも、それって、愛がないんじゃ…。」私「ん?ないかもね?」虫鹿君「なんか、それって、打算じゃね?条件に合うかどうかだけで、相手を選んだってことは、相手は誰でもよかったんじゃねぇか…。」神岡君「そう、結婚...
私「四季子ちゃんはそこまで考えているわけじゃない。自分も30代半ばだし、少し年上の方が頼りがいがあっていいかな?って感じで決めている。まさか相手も合理的判断で、結婚してもいいと思っている条件をクリアしただけとは思っていない。ってか、まぁ、それもありかな?って考えではあるか…。もういい年齢だもんね。」伊藤さん「好きかどうかで選んでいないのね…。」私「本人は無自覚だけどね。結婚してから好きになればいいと...
岡田「運と縁…。小島「そう言われてしまえば、そのとおりなんですけど…。」伊藤「それはそうでしょうけど、漠然としすぎなんじゃない?私は彼女が結婚できるのが納得いかないんだけれど。」神岡君「僕もそう。」虫鹿君「俺もそう思うぜ。」加藤君「一般論としては分けるけれど、上田さんの場合は僕も納得がいかないな。」私「どうしてそう思うの?」伊藤さん「まず相手が見つかるかどうか、とか。あの性格で男性が彼女を選ばれるの...
小島ちーちゃんの親友の伊藤さんは頭を傾けて、腕組みをして言いました。伊藤さん「でもそれで家族に迷惑をかけてちゃ、世話ないわよね…。って、アレ?そういえば、彼女30代になっても親元にいるってことなの?」私「いや、結婚していると思うよ?」虫鹿君「えぇ~、アイツ、結婚できんのかよ!?」神岡君「僕も信じられないよ!?」加藤君「僕も!」私「あぁ、普通に結婚は頑張ってできるんじゃない?無理ではないでしょ。」小...
ほっ。クラス内の子供たちから、ため息がもれ聞こえてきました。周りの子供たちも、私たちの会話に耳をそばだてていたようで、安心した様子でした。私「ん?」虫鹿君「あ、いや…。うん、そうだな、そうなるわな…。」神岡君「僕もなんか、安心した…。そうか、会社員になれないんだもんね。余暇の時間を使って女優を目指すとか、そういうのを想像していたけど、違ったわけだし。うん、なんか、納得…。」伊藤さん「でも、芸能人を夢見...
伊藤さん「いいなぁ…生まれつき成功するようにできているのね…。」小島さん「うらやましいですわ…。どう転んでも成功するのも…。」加藤君「いいなぁ…。好きなことを、好きなようにできて。」神岡君「人からバカにされることを気にしないなんて、僕にはできそうもない…。そうか、あぁいう子は成功するんだ…。」虫鹿君「うらやましいぜ…。って、ちょっと待て!ちょっと待て!!全然うらやましくねぇぜ!むかつくぜ!アイツ、やりたい...
みんな、目をぱちくりさせて驚いていました。伊藤さん「リスクを恐れない、ってことなのね…。」私「そう、恥をかくかも?とか、失敗するかも?なんて、そんなことは二の次で、とにかくやりたいことに邁進する。すると不器用さをカバーしてくれる人が現れて、彼女のやりたいことをサポートしてくれるようになるんだ。だから彼女は結局、何かを目指したとしても、必ず成功する。そのものずばりではなくても、それになんらか、かする...
虫鹿君「どういうことだ?さっきと言ってることが違ってるぜ、しんじゅ。」私「うん、あのね。あの子、四季子ちゃんは、自分が完璧な存在だと信じてるんだ。」岡田「アホやな。」私「うん、はた目からみたらそうだけど、あの子は自分の事を信じている。自分が間違っているはずがないし、自分は正しいし、自分は素晴らしい存在だと思っている。」虫鹿君「自意識過剰のバカにしか聞こえないけどな。アイツの言動を見ていると。」私「...
みんなハッとした表情をしていました。虫鹿君「そうか、そりゃ、無理だわな…。今12歳であの様子じゃ、あと10年で、どれだけ頑張っても会社員とか無理だろうな…。」小島さん「ん~…そうですわね。やはり会社勤めは無理そうですわね…。」神岡君「会社員が無理なんて…。みんななっているのに彼女だけなれないのか…。それはちょっと…。」加藤君「そうかも…。人と一緒に働く姿が想像できないもの。」伊藤さん「でも工場勤務とか農業...
私「ちょっと待って!」私は少し大声をあげました。周りの子供たち仲良く話をしている子供だけでなく、クラスの中に残っている子たちも、こちらに注意を向けてきました。私「四季子ちゃんは、確かに変わっている。でも同じ麻小学校に通ってきた、麻町で育った子供なんだ。もうちょっと優しい目線で見てあげてほしい。」小島さん「それはそうでしょうけど…。」岡田「限度があるやろ!」虫鹿君「だな。」加藤君「いくら六道さんでも...
あちこちで、そうだよな…と、彼女の意見に賛同するようなつぶやきが出ていた。それと同時に、子供たちの体の周りに、灰色のモヤモヤしたものが浮かび上がってきて、次の瞬間、ヒュンヒュンと、どこかに飛び去って行った。おそらく、上田四季子、本人、その人のところに飛ばされていっているのだ。放課後のクラスの中には、普段の半分ほどの子供たちが残っていた。マズイ…これだけの、悪意、それも殺意にも似た嫌悪感を大量に浴びせ...
いつも控えめな印象の女の子、小島ちーちゃんの親友の伊藤さんがもやもやした表情で腕組みをして言い出しました。伊藤さん「でもさ、私たちに水商売の意味がよくわからなくてもさ。要するに、上田さんはあれはバカがつく仕事だと思ってて、それに将来六道さんがつくって決めつけているわけでしょ?」岡田「そやな。」伊藤さん「でもって、あの子の中では六道さんは水商売について、それで早死にするに決まっているって思っているわ...
虫鹿君「そりゃ、ストレスだと思うぜぇ?俺、さっき、アイツに悪口言われただけで、血の気が引いたもんな。六道それ以上の事、いつも言われてんじゃん…。」神岡君「そうそう、あれはひどかった…。普段、あんなことを六道さんは言われ続けているなんて、どんだけひどいことか僕、気づいていなかったよ。あれは誰だってストレスになるよ…。」小島さん「そうですわ?あれほどの暴言を浴び続ければ、誰だって参ってしまいますわ?」岡...
私はちょっと小島ちーちゃんの言わんとしたところをつかみかねていましたが、とにかく話を続けました。私「あのさ…。ちょっと気になることがあるんだけどさ。あの子の顔って、前からあんな顔だったっけ?」岡田「あんなもんやろ。」神岡君「変わらないと思うけど。」虫鹿君「俺もそう思うぜ?」伊藤さん「ん…。以前の顔をよく覚えていないから、なんとも…。」加藤君「僕も、あまり親しくしていなかったから、しっかり覚えていない...
伊藤さん「…なんで、あの子、自分がかわいいと思っているのかしら…。」普段から大人しめの伊藤さんが腕組みをして首をかしげていました。私「え?かわいくない?」神岡君「全然!!!」虫鹿君「まったく!!!」加藤君「あれをかわいいと言ったら世の中の人に失礼だよ。」岡田「まったくやで!!」小島さん「う~ん、微妙…。そこまで素材は悪くはないと思うのですけど、いかんせん、あの言動ではマイナス100点ですからね…。」虫...
クラスの中の子供たちの好意的な視線を受けて、私はほっこりしていました。私「さっきの、お父さんが無関心だっていう話だけど、最近親戚のおじさんやおばさんがいろいろ言ってくれているから、そのうちよくなっていくんじゃないかなって思うよ。心配かけてごめんね?」小島さん「お詫びはノーサンキューですわ!そうですわね、しんじゅさんには、親戚もいらっしゃるのでしたら、ひとまず安心です。よろしかったですわ?」神岡君「...
周りの子供たちも、同様に了解、と、つぶやいていました。私「ほんとに、ちーちゃんは、頭いいよね?全体を把握する力が強いっていうか…。」小島さん「オホホホ!それほどでもっ!あたくしをほめる言葉はいつでも随時!絶賛!受け付け中ですわっ!?(笑)」伊藤さん「くす、ちーちゃんったら?(笑)」私「ほんとに、的確に物事を把握する力が強いと思う。とても小学生には思えないよ。仕切ってくれてありがとう。」小島さん「オ...
子供たちは口々にごめん…と、つぶやいてました。私「うぅん、みんなのせいじゃないし…。」と、力なく返していました。私「お父さんも、そのうち調子が上がってきたら、お話できると思うし…。それまで、なんとか頑張って耐えるよ…。」小島さん「そうですわね。お父様からおっしゃっていただいた方がよろしいでしょうから、しばらくの間は様子見、というところでしょうか…。お力になれず、申し訳ありません。」小島ちーちゃんは、ぺ...
私が自分の席でひじを置いて、しょんぼりとうなだれているのを見て、いつも控えめな女子、伊藤さんが少し大きな声で話し出しました。伊藤さん「…やっぱりダメだわ…。いくら心が幼いといっても、悪口にも限度がある。子供だから喧嘩して友達に、つい、カッとなってひどいこと言っちゃうこともあるけど、それでも絶対に言ってはいけない言葉は『死ね』よ。アタシ、前のクラスの先生に、そう言われたことあるもの。『死ね』だけは、絶...
クラス全員が頭の中で、のっぺらぼうのへのへのもへじを想像していた。教室の中が、ざぁーっと青色に染まっていきました。私「あ、あれ?」小島さん「…いえ、ちょっと、想像してしまいましたわ…。ちー、なんだか、ちょっと切ない…。」伊藤さん「私も…。」岡田「ウチもや…。」神岡君「僕も…。」虫鹿君「俺も…なんか、へこむぜ…。」加藤君「僕も…。」私「あ、あのごめん、フォローしたつもりだったけど…?」小島さん「いいえ、しんじ...
学級委員長の神岡君は、青ざめた表情を見せて、私に向き合いました。神岡君「…僕…。僕、ちょっと勘違いしていたよ…。」私「え?」神岡君はわずかに体をカタカタと震わせていました。神岡君「さっきまでは、僕、上田さんが六道さんにひどいことを言っていて、ものすごく腹を立てていたけど、やっぱりちょっと他人事だった。」私「うん?」神岡君「僕、さっき君たちに褒められて、ちょっといい気になっていた。それに、六道さんも、...
虫鹿君「保育園児か、幼稚園児…。そうか…!」虫鹿君は、私の声にふりかえって、茫然としていました。クラス内の子供たちも、同様に、はっ!と、不意を突かれたような表情をしていました。虫鹿君「そうか…アイツ、幼稚だったんだ、そうか。」神岡君「あぁ、そうか、そうだったんだ…。あの子、なんで、あんな乱暴なんだろうと思ってたけど、そういうことか…。」クラスの子供たちも、なにか今まで、もやもやしていた、語化できていな...
四「きゃ!」ガシャン!カラカラカラ…。金属製のペンケースが床に落ちる音と、鉛筆が転がる音。そして小さな悲鳴を聞いて振り返ると、四季子ちゃんが自分の席の前で、いすを引いて中腰で、布製の手提げ袋に机の中のものを入れているところでした。クラス全員が無言で見守っています。四季子ちゃんは制服を着ておらず、真っ赤なおおぶりのスタジャンを羽織って、髪の毛を後ろに少し低い位置に二つに結んでいる。先ほどまでは肩にか...
学級委員長の神岡君は照れた様子で、頭の後ろをポリポリとかいていました。周りの子供たちは、にこにこして彼の事を見守っていて、それはクラス内全体でも同じような雰囲気でした。岡田「なんや、皮肉な感じするけどな?あの上田のせいで、株が上がるっていうのもな?」虫鹿君「いわれてみれば確かに…。あいつがいなけりゃ、平和なクラスだったと思うしな?」小島さん「ザッツライト!彼女はまるで台風の目みたいな感じですわねぇ...
小島さん「それはそれとして、先ほどのやりとり。どうして、しんじゅちゃんは、上田さんがそのまま飛び出すと危険だと言い始めたんですの?」神岡君「あぁ、それは僕もちょっと驚いた。ちょっと唐突に感じたから。」私「あぁ…。」加藤君「なんか、あのへんで空気変わったよね?」伊藤さん「あ、それ、アタシも感じた。なんか急に教室の中が明るく感じた。」岡田「え?そやの?ウチもなんか、目がぱちくりしてまったわ。」虫鹿君「...
ざわ。クラス内の雰囲気が変わりました。ひろみちゃんが、丸っこい顔をくしゃっとくずして、手のひらの上に、こぶしをポンと置きました。岡田「あぁ~、なるほど。」ぽむ。小島さん「あぁ~、なるほど。」ぽむ。虫鹿君「なるほど。」ぽむ。伊藤さん「なるほどね。」ぽむ。神岡君「なるほど。」ぽむ。加藤君「なるほど…って、いやいやいやいやいや、なにソレ!!えっ、ちょっと待って、なに?クラス全員もれなく、へのへのもへじ!...
小島さん「…そういえば、最後、意味不明な発言をしていましたわね?たわらがどうとか…。」岡田「たわしといいまちがえたんやないか?」伊藤さん「たわらって聞こえたけど…。」小島さん「…そういえば、最後、意味不明な発言をしていましたわね?たわらがどうとか…。」岡田「たわしといいまちがえたんやないか?」伊藤さん「たわらって聞こえたけど…。」神岡君「僕も何のことかなって思った…。ゴマすりと言い間違えたのかな?」私「...
ざわざわとした気配の中、おずおずと学級委員の神岡君が声をかけてきました。神岡君「あ、あの…。六道さん…。」机につっぷしていた私は、ぼんやりした頭で顔をあげました。目の前に姿勢よく、小学校の制服姿の少年が、申し訳なさげにたたずんでいました。私「あぁ、神岡君…。」神岡君「あ、よかった、気が付いた。急につっぷしたから、大丈夫かと心配してたんだ…。」私「あぁ…ごめん。なんか、急にぐったりきちゃって…。」どうやら...
四「はぁ?何を言い出してんのよ!頭おかしいんじゃない!?ちょっと、手を放してよ。なれなれしい!」四季子ちゃんは、体をゆすって私の手を振りほどきました。『…いけない、このままだと事故にあう…』時間稼ぎをしなければ…。私「落ち着いて。なぜみんなが怒るか、考えたほうがいい。」四「はぁ?しんじゅちゃんの分際で説教?アタシに?この賢いアタシに、バカのしんじゅちゃんが説教?ちゃんちゃらおかしいわっ!身の程をわき...
神岡君「くっ!ホントに、ホントに、不愉快だっ!しかも、どこまで行っても、六道さんの事をバカにしている!僕は許せないよっ!家族を亡くした人に、そんな心無い発言ができるなんて、神経を疑うよっ!」四「あはぁ~ん、その言葉、そっくりそのままお返しするわ!こんな女の肩もつなんて、神経を疑うわねっ!」神岡君「くっ!」学級委員の神岡君は体をぶるぶるふるわせています。かなりの怒りを感じていて、こぶしを握り締めて、...
四「だからぁ、さっさとやりなさいよぉ、片親でしょぉ!アタシのいう事が聞けないって言うのぉ?」私「……はぁ。」私は読書の手をとめて隣に仁王立ちしている四季子ちゃんに向き合いました。私「私のことを、なんだと思っているか知らないけどね?自分のしでかしたことは自分で始末しなさいよ。私の事はほっといてちょうだい…。」四「はぁ?だから、何様のつもり?なんで、アタシに口答えできると思ってんの?友達でしょ?友達だっ...
クラス内では相変わらず上田四季子ちゃんが一人、浮いていました。彼女は私を見下しその発言が周りの児童たちの不快指数を上げまくっていたのです。席替えによっていったんは距離がとれたように思えた四季子ちゃんでしたが、全体集会などで体育館に集まる時には背の小さい子から、背の高い子順に並ぶため、彼女と至近距離になります。四季子ちゃんのすぐ後ろに並ぶ私は、彼女の白髪がたっぷりのおかっぱ髪をながめながら整列をしま...
おばさん「…あらまぁ!これが小学生のセリフなの…。」おじ「これは…。これは予想以上だ。賢治は目が高い…。これは、しんじゅちゃんを欲しがるわけだ…。」おばさん「そうねぇ。こんなことを口にできる、ということは、普段からたくさん考えているのよねぇ。なんて、心根の優しい子なのかしら…。はぁ~、アタシ感動したわ…。」おじ「私もだ…。子供の素直な言葉がこれほど胸に刺さるとは…。子供の純粋さって奴に、久々に感動させられ...
おばさん「はぁ~…。なんなん、この子…。」おじ「はぁ~、この子、本気で言ってるよね…。そうなんだよなぁ、この子の持っている雰囲気か…。賢治が惚れこむのも、分かる気がするよ…。」お嫁さん「えぇ、そうですわねぇ…。」私「賢治おじさんですか?」おじ「あぁ、しんじゅちゃんには、つらい選択をさせてしまったね…。賢治がしんじゅちゃんを養子にもらいたいって言いだした時、え?と、思ったんだけど。しんじゅちゃんが、小学校...
ある日の事です。お店の番をしていると、黒電話がリンリンと鳴りました。受話器をとると本家のお嫁さんからで、また配達をお願いしたい、との事でした。私は注文を受けた品物を袋につめて、レジを打ち、お釣りを用意して、自転車に乗って、本家まで出かけました。玄関から入って挨拶をすると、本家のお嫁さんが出てきてくれて、そのままお会計をしてくれました。私がお釣りを渡そうとすると、おば「少ないけど、お小遣いとしてもら...
学校から帰ると、お父さんがお店にいることが多くなりました。それでもぼんやりしているらしく、私の顔を見ると、『昼寝をしたいから、店番を代わってくれ…。』と、言って消えていきます。お父さんは、たちに再婚の意志表示をしてきましたが、その後の事は、特に話さなくなりました。それにどうやら、親戚、本家のおじに呼び出されたかなんかで、自分が再婚をしたい、という話をしたようで。自分の兄に、こっぴどく叱られたようで...
ある日学校に行くと四季子ちゃんが神妙な顔をして、私に話かけてきました。四「ねぇ、しんじゅちゃん…。」私「なに…。」四「あのね、ウチのお母ぁの事だけど…。ほら、なんか、しんじゅちゃんに、家に来て欲しいって話があったじゃない?」私は体をこわばらせました。私「う、うん…。」四「それがぁ、なんか、ウチのお母ぁ、調子が悪くてぇ。頭痛がずっとするって言っててぇ。それで、週末にひめとらの先生の所に行ってきたんだぁ。...
学校で四季子ちゃんは、相変わらずの調子でした。以前は私と席が前後していた関係で、いつも私とつるんでいましたが、今はちがいます。授業のちょっとしたことのペアリングでは、いつも相手があぶれていたし。ちょっとした失敗でもいつも私が片付けていたのに、それがなくなって手間取るようになっていたようでした。基本なんでも自分でできる子供でしたが、私がついつい手助けした関係でしょうか。たまにそばにいる児童に私に接す...
翌朝起きると台所に兄がいて、インスタントコーヒーを飲んでいました。珍しい事でした。兄はいつも早朝に学校に出向いて、静かな教室で勉強した方がいいということで、いつも午前7時頃に家を出ていたのです。私たち小学生チームは午前7時40分に集合場所に出向いて、集団登校する感じだったので、他の兄弟と出くわすという事があまりなかったのです。マグカップを片手にとり、ブスっとした表情で兄がつぶやきました。兄「おはよ...
しばらくは平和な感じがしていました。ある日お父さんが珍しく家にいて、四人の子供たちに、『今夜八時に大事な話があるから、全員和室に集まるように。』と伝えてきました。それで珍しく姉弟四人が集まって、お父さんが普段寝泊まりしている和室に集まったのでした。それぞれ何の話だろうね?と、言っていて、誰も何も詳しいことを聞かされていなかったのでした。すると離れから戻ってきたお父さんが部屋に入ってきて、正座をしま...
それから少しづつ私の言葉は自由になっていきました。まだまだたどたどしく、なんとか意思の疎通がかなう、というレベルでした。週末にはお父さんのいとこのカナおばさんが現れて、私を連れ出していきます。小さな私の体を心配してこれでもかこれでもか!と、おいしいものを食べさせてくれていました。また嫌がる私を押さえつけて、髪の毛をカットしてしまいました。前髪が重たくてやぼったいと憤慨して、チョキチョキとカットされ...
私が戦々恐々の思いで学校に行くと、四季子ちゃんがちょっと神妙な顔をして、話しかけてきました。四「なんかぁ?お母ぁが調子悪いらしくてぇ?今週は遠慮してくれってさ。」私はとりあえず今週の呼び出しはない、ということにホッと胸をなでおろしました。そして学校から帰ると、珍しくお父さんがいました。どうやらしびれを切らしたまさこおばさんが、おじさんに車を出してもらって、午前中にお店に来たらしいのです。そこで私の...
お店番をしていると黒電話が鳴って、それはまさこおばさんからでした。まさこ「お父さんと連絡がつかないが、またやってみるわ。」という連絡でした。まさこ「しんじゅちゃん、ご飯は食べている?体の調子はどう?学校で嫌な思いをしていない?」と心配されましたが。私「うん、うん、だい…。」と、言葉少なく、答えていただけでした。その後も演歌が流れている涼しい店内で、宿題をしながら店番をしていました。するとまた黒電話...
四「きゃ!いやぁん、もぉ、また勝手にこぼれるぅ!」四季子ちゃんが、理科の実験中に素材を床に落としました。今日の教材はほう酸でした。私は声のする方を振り返って、四季子ちゃんが床にぶちまけたものを見て、とっさに掃除道具入れの方へと視線を巡らせました。周りの子供たちは、四季子ちゃんの声を無視しています。誰ひとり手助けしようとはしておらず、見ないふり、聞こえないふり、気づかないふりを決め込んでいました。私...
私は次のカナおばさんの行動が読めていたので、次の瞬間、すかさず手のひらを押し出す仕草をしました。近寄るな、の意味である。カナ「がくっ!なんで、アタシに抱きしめさせてくれへんのや?ここは感動の抱擁シーンやろ、ゼッタイ。」私「あ…いた…。」私は自分の後頭部を片手で指差しをして、もう片方の手のひらで後頭部をさする仕草をして見せました。カナ「頭が痛い、と。お前、ケガしとったんかいな!」私はうなづくと、次にレ...
次の日、目が覚めると、少しだけ話せるようになっていました。弟を起こして、二人して朝食を食べて、通学します。すると席替えが行われてくじ引きの結果、またひろみちゃんと近い席になって、斜め前の席になったひろみちゃんが、ふり返りながらウィンクをして、よろしくな?(笑)と喜んでいました。一方四季子ちゃんとはかなり離れた席になって、これでなにかと彼女とかかわらずにすむようになっていきました。学校が終わって家に...
まさこおばさんは、かなり怒っていました。私は頭も痛いし少し事情がのみこめていなくて、きょとんとしてしまっていました。まさこおばさんは気を取り直して、私の顔をそっと手で包むようにして触ってきました。ま「大丈夫、頭の後ろが痛いのね。そこは触らないようにするから、ちょっとお顔を見せて…。」私は自分の言わんとしていることを素早く察知してくれる、目の前の女性を驚きの感情で見つめ返すだけでした。最初はほおをそ...
まさこおばさんは目を見開いて、私のすぐそばに立って、顔をそっと触ってきました。ま「そうだったの。調子が悪かったのね、風邪?お熱はない?」まさこおばさんは、そっと私の頭をなでてくれたのでしたが、私は彼女の手が触れたことによって、後頭部に激痛が走り、思わず体をねじり、相手をつきとばしてしまいました。私「……!」目に涙をためて震えている私を見て、まさこおばさんは、何かを悟ったようでした。ま「…もしかして、...
学校が終わり帰宅して、店番をしながら宿題をレジカウンターの上にひろげてやっていました。ピンポンピンポン…♪顔をあげると重たい電気の切れた自動ドアをこじあけて、まさこおばさんが入ってくるところでした。私は驚いて、レジの奥の席から飛び出しました。まさこ「…よいしょっと…。いったい、どういうことなの、このドア…全然開かない…。」電源を切られた重たい自動ドアを押し広げて店内に入ったまさこおばさんは、目の前にいる...
男子「ぎゃはははは!今度はコイツ、すかとろ言い出したぞっ!」四「もぉ!何を言ってんのよ!アタシがかわいいから、からかってんでしょ!?」男子「うぷぷ。誰がお前の事を!!このぶっさいくが!笑わせんなっ!」私は教室の窓から、下を見下ろしていました。校庭で四季子ちゃんと、他のクラスの男子が言い合いをしています。窓のさんにほおずえをつきながら、四季子ちゃんを見下ろしていました。すかとろ…。また初めて聞く言葉...
そのまま寝てしまったらしく。朝になると姉がそばで寝ていて、ものすごい寝相で、私の頭を蹴っ飛ばしてきました。窓の外には晴天がひろがり、スズメがちゅんちゅんと鳴いている。ごくごく普通の、平凡な朝だった。私「…?」なんとなく何かが妙な気がしましたが、いつもより30分ほど早く目が覚めてしまったらしい。よく考えると昨日も夕方から押し入れの中で寝てしまっていたし、それからまた夜にも寝ていたから、睡眠時間は十分...
途中で靴をはいて、それから立ちこぎをして、夢中で自分の家に戻ってきました。無言でお店をつっきり、自分の部屋に戻ります。それで押し入れに飛び込んで、布団の中にくるまり、ガタガタと震えていました。四母『もし、よければやけど。ウチの事を、第二の家やと思ってくれてえぇんやよ?お母さんが亡くなってしまったしんじゅちゃんには、女手が必要やろ?なんでも相談してくれて、ええんやよ?(笑)』そんな風に優しく言ってく...
私は学校から帰ると急いで洋服ダンスを開いて、なるべく長いスカートを探してみました。四季子ちゃんのお母さんから、足首まで隠れるスカートをはくようにと言われていたのを思い出して、おびえていたのでした。しかし私の洋服は、基本的に姉のおさがり。私の姉はおしゃれさんだったので、かわいい洋服を好んでいたのでした。色白で華奢な体つきで、明るい茶色の瞳を持つ、とびきり小顔の女の子だったので、女の子らしいパステルカ...
毎日お父さんに話をしたいと思っていたのですが、学校から帰宅すると、いつもどこかに出かけていましたた…。レジの中で不満げな顔をしている弟と交代して、お店番をします。夕飯時には、帰ってくるかな?夕飯が終わったぐらいに帰ってくるかな?お風呂に入りに帰ってくるかな?そんな風にソワソワしながら、毎日何度も自宅と父親がいる離れを往復しましたが、いつまでたってもお父さんは帰ってこなかったのです。どうしよう、相談...
私が再びひどい吃音になってしまったことで、クラスメイトともうまく関係が回らなくなってしまいました。今までは前後の席にいたひろみちゃんが、何かときづかってくれていたのでしたが、今回は違います。かなり離れた席になってしまっていたし、なにより私のすぐ後ろに四季子ちゃんが来てしまいました。それで彼女を避けたい気持ちの強いひろみちゃんは、私に近づくという事をしなくなってしまいましたし。四季子ちゃんは四季子ち...
私はガタガタと震えて布団にくるまりながら、何をどうしたらいいのか分からず、苦しむばかりでした。それでお父さんに相談しようとして家を出て、道路を渡って離れに出かけましたが、中は真っ暗で外出しているようでした。寒い夜の事です。凍える体を抱きしめながら、何度も、何度も、お父さんに助けを求めようとしましたが、とうとう夜中まで帰ってきませんでした。姉も兄も夜遅くにしか戻ってこず、相談することはかないませんで...
加藤君にはそう言われましたが、不安がつきまとっていました。家に帰るとお父さんに相談したい…と、思っていましたが、またしても不在でした。弟がお店番をしていて私と代わるようにと言ってきたので、チェンジします。もう少ししたらお父さんも帰ってくるかもしれない…と思って夕方まで待っていましたが、やはり帰ってきませんでした。それで午後6時頃でしたが、弟に店番を代わってもらって、四季子ちゃんの家に出向くことにしま...
私はその日結局店番をして過ごし、四季子ちゃんの家には行きませんでした。翌朝学校につくと、不満げな顔をした四季子ちゃんが近づいてきました。四「おはよ。ねぇ、しんじゅちゃん、どうして昨日、ウチに来なかったの?」私「おはよ………。」四「お母ぁ、昨日、しんじゅちゃん、待ってたんだよ?アタシ、ほんとに伝えたのかって聞かれちゃったじゃない。」私「………。」四「アタシ、伝えたよね?もぉ、何度も手間かけさせないでよ。一...
私は青ざめていたと思います。四季子ちゃんは特になにも感じていないようでしたが、私にはそのセリフの背後に悪意を感じ取っていました。私「な、なんで…?」四「なんでって、そう言うように言われたから、言ったのよぉ。お母ぁが、今日、学校に行ったら、しんじゅちゃんにそう言いなさいって。」四季子ちゃんは、少し不満そうに唇をとがらせながら、私に言いました。私「な、なんで、今日…なの…?」四「んん?そういえば、なんで...
日にちがたつにつれてどうにかこうにか発音ができるようになってきました。最初の数日は、あ…とか、お…ぐらいでしたが、少しずつ話せるようになってきました。家に帰ると弟が心配して話相手になってくれていましたが、なかなか滑らかに話すことができなくなっていました。一緒にテレビを観ていても笑い声をあげる、ということもうまくできなくて、心配をかけてしまっていました。お父さんはやはり引きこもりになってしまって、私に...
とにかく学校に行ってみました。弟とは昇降口で分かれて、自分のクラスへと向かいます。同級生たちには、軽く会釈をかわして、そのまますれ違います。おはよう、という言葉が出てきません。おとなしく自分のクラス内の席に着席して、ランドセルから教科書を取り出して机にしまっていると、私のすぐ前の席にひろみちゃんが着席しました。この時彼女とは偶然、前・後ろの席順になっていて、なにかとおしゃべりを楽しんでいたのでした...
私は無我夢中で走って帰ってきました。後ろから四季子ちゃんのお母さんが追いかけてくるのではないかと、不安で不安でたまらなかったのですが、家の中から大声が聞こえていたので、追いかけてくることはないだろうと、頭ではわかっていましたが、感情が追い付かなかったのです。四季子ちゃんの家と、私の家はそれほど距離があるわけではなく。自宅に舞い戻った私は自分の部屋に飛び込んで、押し入れの中にもぐり、そのまま布団にく...
私「おばさん、おばさん、しっかりして!!」ブブ…。蠅が四季子ちゃんのお母さんの瞳のふち、白目にとまりました。蠅はそのまま、白目の中に前足を突っ込んで、スリスリと二本の手をこすりあわせている。言うべきことは他にあるところでしたが、私はその蠅に目が釘付けとなり、なぜかその言葉を口走っていました。おかしい、おかしい…!私「おばさん、虫が……虫がっ…!」四母「欲しいいぃいい!!ねぇ、しんじゅちゃん、この顔ちょ...
完全に滅茶苦茶なことを言っていると、かすかに思いましたが、私はここから逃げ出したくて、小さくうなづいた。すると四季子ちゃんのお母さんは、あぁあぁ、女の子がみっともない、と言って私の両脇に手を差し入れて持ち上げ、私をキチンと座れる態勢にもどしてくれました。スカートの裾も直してくれていました。四母「えぇな?余計なことは一言でもいうなよ?分かったか?」私は自分の口元に手を当てて、こくこくとうなづくだけで...
私は頭に血が上って、くらくらして、ズキズキ痛んで、もう、何が何だか分からなくなっていました。知らず、涙が後から後から流れてきていたのです。私「う……うぅ、ヒック…。」鼻がつまり、涙がこぼれる。視界が歪む。ガシャンガシャンと、間断なく、機械の動く音が鳴り響いている。四母「きゃっはぁ♪泣きよったでぇ?こん子、やっと泣きよったでぇ?今さらかっ!?いまごろ泣いても、もぉ遅いわっ!(笑)」四季子ちゃんのお母さん...
四季子ちゃんのお母さんは、腕組みをして、くちびるをとがらせながら、ふぅ~ん、と、つぶやいていました。まるで無邪気なもの言いに、私は驚きを隠せない…。さきほどまで、あんなに自分のしたことを後悔していた女性と、同一人物とは思えない…。実は、これはどっきりで~す!と、言ってくれないだろうかと思いましたが、その様子がなさそうでそた。困惑する頭を抱えながら、何かを言わなければ、と必死になって私は言葉を紡ぎ出し...
時がとまったかのような錯覚を覚えました。これは、夢なのか?それとも、現実なのか?目の前の中年女性は、私を見て、穏やかに微笑んでいる…。私は嫌な汗をかいていました。後頭部が痛い。しかし、れ以上の危険信号を、私の脳内では発信していたのです。私「あの……言っている意味が…分かりませんが…。」四母「ん?分かりづらかった?そやからしんじゅちゃん、ちょっと死んでくれへん?」私「…………なんで…。」四母「そやから、しんじ...
心臓がバクバクいっていました。今まで人様から言われたことのないセリフのオンパレードで頭が回りません。後頭部もズキズキと痛み、猛烈な苦しみが襲ってきました。四母「ちょっと!どこに座っとんの!そこ、へり!」私「あ、はい…。」私はガタガタとふるえながらもあわてて、両手でこぶしを使って、少し横にいざります。しかしそうでなくても、この部屋には物が散乱しており、私がいざることで、そこらへんにあった、物がザザッ...
一瞬、事体が飲み込めませんでした。自分の体が一瞬、宙に浮いたかと思ったら、次に目から火花がでるほどの激痛が後頭部を襲います。私はそのまま畳に寝転がって、頭を押さえて、体をくねらせました。痛い…頭が猛烈に痛い…。何が、起きたんだ…。しばらく息を荒げて、苦しんでいると、じわり、と人の気配が近づいていきます。小柄な四季子ちゃんのお母さんは、畳の上に立ち、私を見て、ふん、と鼻をならしていたのでした。私「…何を...
四季子ちゃんのお母さんは背中を丸めて、うつむいてぷるぷると震えていました。彼女の心の中で、自分の娘と私とを比べて、そして苦しんでいるのが、うっすらと伝わってきていましたが、私はそっとサイコメトリーを解除していました。ぷ~ん…。天井近くに飛んでいた蠅が近づいてきて、四季子ちゃんのお母さんの背中にとまりました。私は手を振って、しっしと、その蠅を払いのけようとしましたが、ちょっとどいただけで、また彼女の...
彼女は3人の子育てをしていて、夫は無理解、無関心。長女はおそらく普通だったが、あまり家によりつかず。身体障害者、そして軽度の知的障害者である、次女の面倒をみつつ、彼女にとって愛くるしい見た目の三女を溺愛していたが、その彼女もまた、おそらく脳に障害を持っている、という事実にうちのめされていたのだ。そして、それを指摘した、私とまったく真逆の資質に狂おしいほどの嫉妬をしていたのだ。私が健常者であるだけで...
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バアン!河合「でだ!お前、説明しろよっ!?」放課後になり、私の机の上に勢いよく両手をついて、霊感少女こと、河合千晴が私をにらみつけました。私「ぱーどん?」私は分厚いレンズをかませた銀縁眼鏡に、長い髪の毛をみつあみにして、両肩に垂らした状態で首をかしげます。河合「ぱーどんじゃねぇ。昨日の6時限目の始まりのヤツ!」私「あぁ…。」村森「なんだなんだ?またオカルト話か?(笑)まぜろっ!?」小柄で扇形のつやや...
河合「うわっ!なんだ、これ!?金色っ!?」雪のように真っ白な肌に真っ赤なくちびるの眼鏡の少女が叫び声をあげ、廊下に後ずさりをしました。教室内の視線が彼女に注がれます。私「おや?当番で遅れてきた様子ですわね。」村森「えぇ。無事授業前に到着したようで、なによりです。」みずほ「あらあら、ずいぶんと焦っている様子ですわね?」河合「ちょ!何!コレ、いったい…!なんでこんなに神霊や精霊がごちゃ混ぜにいるんだっ...
私たちはいつもの教室で、冬服のセーラー服姿で日向ぼっこをしながら窓の外を見下ろしていました。そこは愛知県立の商業高校の一角にある電算棟の2階。学校の敷地内の校舎の中で一番南側に位置しており、敷地の外には公営のテニス場があったのでした。そこでは太陽の日差しを浴びながら、大人たちがラケットを振り回し、明るい黄色のボールが飛び交っていたのでした。村森「まぁ…本日はとてもうららかな陽気で、よろしいですわね...
私は私の口から飛び出した言葉に、少し驚きつつも、これが私の本当の望みなんだろうと感じていました。目がチカチカするような、感動を味わっていたのでした。四季子ちゃんは私の言葉を受けて、深くうなづいていました。四季子「なるほど、立派だわ。」私「四季子ちゃん…分かってくれるの?」四季子「えぇ、名演説だったわ。これが世間で言う、負け犬の遠吠え、という奴ね?」私「え?」四季子「だって、あまりにも辛気臭いんです...
四季子ちゃんはきょとんとした顔をしていました。四季子「何よ。」私「…私ね、ここ数年、ものすごく変化が多かった。いろいろあって…本当にいろいろあって…。正気が保てないんじゃないかって事もたくさんあったんだ。」四季子「へぇ。」私「私ね、うんと考えた。それで思ったんだ。私個人がうんと頭をひねって考えたところで、世の中は動き続けていく。仮に私が死んだとしても、毎日、毎朝朝日が昇って、日常が続いていく。私がこ...
私「…今日、四季子ちゃんとお話できてよかったよ…。あまりにとりとめのない話だったから、誰にも話したことなかったんだ。」四季子「ふぅん?別に夢の話ぐらいしてもいいんじゃない?」私「ん?あぁ、そうか、四季子ちゃんは私が、夢物語を語っていると思っているんだね…。なんとなくだけど、あれは実際にあった出来事。私は生まれ変わって、今、日本に住んでいるって感じているんだ。」四季子「ふぅん?まぁ、前世が王子様だかな...
四季子「テキトーねぇ。そういえば、さっき言ってた『ぐどうしゃ』って何?」私「え?あぁ、求道者っていうのは、道を求める者っていう言葉でね。」四季子「意味が分かんないんだけど?」私「あぁ、つまりお坊さんになって、悟りを開きたいって、そういう人の事を言うんだよ。」四季子「あぁ、なるほど。煩悩をとるとか、そーゆーの?」私「あぁ、そう、そーゆーの。」四季子ちゃんはちょっと腕をあげて、自分の頭の後ろで組みまし...
四季子「何?今の。」私「え?今、なんて言った?」四季子「それはこっちのセリフよ。」私「あぁ、そうだね。アタシが言ったんだった。なんでディーバダッタなんて言ったんだろう?」四季子「それをアタシに言われても?」私「あ、そうだね。意味不明だね。まるでいつもと逆転したみたいな会話だね。」四季子「そうね。意味不明ね。で、なんなの、そのだいだらぼっちって。」私「え?アタシ、だいだらぼっちなんて言ったっけ?」四...
四季子ちゃんは少し首をかしげて、私を見つめました。四季子「うっかり信じそうになっちゃったわ。」私「え?どういう事?」四季子「だから、今までのお話も、作り話なんでしょ?」私「作り話だなんて、私、一言も言ってないわよ?」四季子「だって、さっき、聞き流してくれてもいいって言ったじゃない。」私「それは四季子ちゃんの未来の話でしょ?もう話題がちがっているから、今のも聞き流せなんて言ってないんだけど。」四季子...
四季子「なに、その親戚の坊主に、人生相談でもしてもらったの?」私「いや、そういうんじゃなくて…。正直に言うと、突っかかって行ったんだ。自分が望んでも手に入れられない身分を、あっさり捨ててしまった男性に対する嫉妬かな…。まだ未熟だった私はそういう葛藤を彼にぶつけてしまった。」四季子「なによ、しょせん次男坊なんだから、さっさとあきらめればいいのに。八つ当たりされた坊主もいい迷惑よね?」私「いや、長男がど...
私は過去の記憶を思い出しながらお話を続けていました。私「そこは王族しか立ち入ることができない部屋だった。瑠璃の間と呼ばれていてね。そこに親戚の元王子が立ち寄ったんだ。」四季子「ん?元王子?」私「そう、その男性はだいぶ年上のいとこだったんだけど、その国の王位継承権一位の王子だったんだ。」四季子「第一王子がなにしてんのよ?あ、元か。」私「自分はその男性に複雑な気持ちを抱いていたんだ。自分はどれだけ勉学...
四季子「ふぅ~ん、身近にコーチがいるのか…。まぁ、塾に通わせるお金がかからないなら、いいわね。」私「そうだね…。」四季子「でも、やっぱり芸能人がいい!アタシはスポットライトを浴びて、活躍したいの!」私「そう…なれるといいね。」四季子ちゃんは立ち上がって、片足で立って、両手を広げてくるりと回転しました。彼女はすごく背筋が伸びていて、姿勢のよい子でした。四季子「アタシ、麻中に入ったら、新体操部に入るの。...
四季子「えぇ~?子供は二人なの?男、女、どっち?(笑)」私「最初は男の子、次に女の子だね。」四季子「あら?いいわね(笑)」私「そうだね。」四季子「それじゃ、将来アタシたちに子供が生まれたら、一緒に遊ばせましょうよ?子供たちも友達同士になるの。」私「…いいね。(四季子ちゃんが子供を産む分、私は子供を持てなくなるけれど…)素敵だね。(笑)」四季子「そうね、しんじゅちゃんも子供、二人ぐらいいるといいわね?女の子...
私も甘いコーヒー牛乳を飲んで、落ち着いた気分になったのでした。私「ねぇ、四季子ちゃん。アタシね、夏休みにひろみちゃんの家に行ったんだ。」四季子「へぇ。」私「そこでひろみちゃんに色々話を聞いてもらって…。それで、その時ショックで途中で意識を失ってしまったんだけれど。そこで四季子ちゃんの未来を視たんだ。」四季子「え?どんな風なの?」私「姫虎の先生と一緒だよ。爆破テロを起こす四季子ちゃんと、そうでない場...
四季子ちゃんは屈託なく笑っていました。今の私の説明ではこれが精いっぱいだと感じて、私は地面に座り込んでいた彼女を立たせました。私「大丈夫?ケガはしていない?」四季子「え?大丈夫だよ?なんで?」私「いや、砂利の中にガラスの破片とか入ってたから、念のためね。」四季子「あぁ、そうだっけ?気づかなかった。」私は四季子ちゃんのズボンをパンパンと手で払って、砂利をはたき落としました。四季子「ふぅ。ちょっとだい...
私「四季子ちゃんは容姿を悪く言われて、相手に嫌がらせをしている未来が視える。」四季子「そんなの、当たり前じゃない。アタシを悪く言うんだから。」私「そういうところだよ。そういう歯止めがきかないところが、一番恐ろしいんだよ。」四季子「だって…。」私「いいか?今後、どんなに容姿を悪く言われても、絶対にやり返さない。それを誓って欲しい。」四季子「う~ん、でも…。できるかなぁ?」私「できるかなぁじゃなくて、や...
私は四季子ちゃんを見続けていました。(やはり犯罪に関してはあまり罪悪感は無いようだな…。もうすぐ13歳になるというのに、精神年齢はまだ6才ぐらいか…。アンバランスだな…。知識や経験は13年あって、口も達者だから、一見何も問題が無いように見えるけれど。これからも行く先々でトラブルを起こし続けていくのだろうな…。)私はもう一つの四季子ちゃんの人生を視ていました。スーパーの面接を受けに行って、断られたことに...
(しかし、油断してはダメだ…。この子には良心というものが無い…。今の言葉が真意かどうか確かめなければ…。)私「四季子ちゃん、今の言葉は本当?正直に話して。」四季子「うん。」私「自分の為ではなくて、美輝お姉さんの為に、お母さんが必要だと言うのね?」四季子「うん…。」私「もうこれからは美輝お姉さんをいじめない?」四季子「それは…できる限りそうする…。」四季子ちゃんは言葉をつまらせながら、そう言いました。私「...
私「………。」地面に座り込んで、深々と頭を下げる四季子ちゃんを、そばで見下ろしていました。奇しくも、私が夏休みに町内会の会長さんへの誤解を解くために、手伝ってほしいと私がお願いした時に、四季子ちゃんが私に土下座をしろと言っていた場所でした。そこは砂と小さなガラスの破片が散らばった場所で、そこに素肌をさらして座れと、指示するという事は、私の足の皮膚にガラス片がつきささって、ケガをさせるというのと同義な...
私は四季子ちゃんを見つめていました。彼女の体をとりまくオーラは漆黒。それがまだらに揺らいで見えました。そして、彼女の未来の姿に意識をフォーカスします。(…まだだ。まだ殺人鬼の未来へのルートが消えていない。ここまで言っても、自分のやったことの重みが分かっていない。やはり警察に突き出さなければならないのか…。しかし、そうすると四季子ちゃんは将来、大量殺人鬼になってしまう…。どうすれば、彼女は反省するんだ…...
私「おはよう!」岡田「おはようさん(笑)」小島さん「おはようございます(笑)」クラスメイトたちとあいさつを交わしながら教室に入りました。自分の席について、ランドセルから教科書を取り出し、机にしまいます。それから背面に向かって進み、ランドセルの棚に自分の物を置きます。みんなざわざわした雰囲気の中、始業時間を待っていたのでした。この日は久しぶりに現れた、担任の先生がいて。少し挨拶をした後、いつも通りに出席...
弟は喜んで家を出ていきました。私は親友のひろみちゃんと遊びたくなって、彼女の家に電話をかけましたが、つながりません。家族ででかけているのかもしれません。私はなんとなく時間を持て余して、彼女の家に自転車で行ってみましたが、誰もいませんでした。しょんぼりして自宅に戻り、お父さんの部屋でテレビを見てみました。日曜日のお昼過ぎに放映されている番組は、子供心をくすぐるものが無くて、退屈でした。洋画の再放送を...
兄はため息をつくと、片手におまんじゅう、もう片手にマグカップを持ちました。兄「悪い、相談は後で聞く。俺も気分を害した。自室でお菓子をいただく。」私「あぁ、うん。いいよ、もう急な用事じゃなくなったんで。」兄「そうか、スマンな…。しかし、姉ちゃんも勝手だな。たった一日で店番のローテーションを破ってしまった。父ちゃんは元々あぁいう性格だから想定内だけど、まったく…。俺は逆にあの身勝手さがうらやましいよ。」...
私はご飯の上に、残った目玉焼きをのっけて、かっこみました。それからポッドの前に行き、お茶の準備をします。私「ふぅん?あ、お茶飲む?」兄「あぁ、いただく。」弟「僕ももらう。」父「ワシはいい。」私が急須にお茶っぱを入れて、お湯を注いでいると、兄が言葉を続けます。兄「それで?何があったんだ、法事で。」父「なんでも、しんじゅや玲治が、一色に電話を何度もかけていると聞かされてな?それでなんで家に父親がおらん...
その日の夜に姉に蹴っ飛ばされて、押し入れから出てきました。布団を敷くのに、邪魔だと怒られたのです。寝ぼけ眼で、私は押し入れから布団を引きずり出して、畳の上に敷いて眠りました。翌朝。良く晴れた日でした。かなり朝寝坊をしていたみたいで、1階に降りると、誰もいません。とりあえず台所に向かって、一人で朝ご飯を食べていると、弟が通りかかりました。弟「あ、お姉ちゃん、おはよう。って、おそようか(笑)」私「あぁ、...
私は今までの人生で、一番のショックを受けた気がしました。フラフラとめまいを抱えたまま、なんとか自宅へともどります。自転車を倉庫にとめて、お店を通り抜けて居住スペースへと向かいました。私がお店に戻ったのを感じて、弟が近づいてきましたが、私には何も余裕がありませんでした。弟「お姉ちゃん、お帰り。」私「…ただいま…。」弟の方を見ることもなく、そのまま廊下へと上がります。そして階段を上りかけて、そこで意識が...
私は驚きのあまり、声をだしてしまいました。四季子母「どうかした?」四季子「なんか、よくわかんないわね?」親子して顔を見合わせています。私「ど、どういう事?」私はガタガタとふるえてきました。頭が追い付いていません。四季子母「あ、そや。四季子、しんじゅちゃんに、お茶でも出してやりぃ?」四季子「あ、そうね。飲み物ぐらい用意しなきゃだわね?」四季子ちゃんは、すっくと立ちあがり、工場のある方の廊下へと出て台...
私は四季子ちゃんを見つめていいました。私「先週、ウチにきて、レジからお金を持ち出して、『御用だ!御用だ!』って言いながら、お金をぶつけてきたわよね?あれはどう説明するつもりなの?」四季子「は?なにソレ?(笑)なんの冗談?時代劇の見過ぎなの?しんじゅちゃん(笑)」四季子母「はは!こんな場面でそんな冗談が言えるとは!しんじゅちゃんもおもろい子やな(笑)」四季子(やぁだぁ~、なんか変な事言ってるぅ~?(笑))四...
私は心の動揺を隠しきれずに、目を見開いてしまっていたようでした。私「!」四季子母(…ひさしぶりに来たのに、ぎょうぎょうしいなぁ、この子は。最近、全然顔出さへんから、元気にしとったのか、気になったのに。まぁ、大丈夫そうやな?)四季子(なんか、妙な事しちゃって。オモシロ!)四季子母「どないした?しんじゅちゃん。鳩が豆鉄砲でも喰らったか?(笑)」四季子「やぁだぁ~、おかぁ、オモシロ!(笑)」四季子母(えらい...
ガチャ。自転車を四季子ちゃんの家の倉庫に駐輪します。ワンワンワンワン!上田家の飼い犬のコロが私を見つけて、大はしゃぎしております。コロは私が自分に優しく構ってくれる人物だと認識しているようです。私はそっとコロの頭をなでて、静かにするようにと口元に人差し指をさしました。最初はそれでもはしゃいでいたコロでしたが、私のジェスチャーを見て、おとなしくした方が私が喜ぶと考えたようで。地べたに寝転がって、こち...
その日は土曜日でした。姉も兄もいない朝食を食べて、弟と一緒に学校へと向かいます。クラスに入ると、子供たちがそれぞれ話をしていて、いつもの朝の風景です。授業開始時間になると、教頭先生が現れて、今日も担任の先生はお休みだと告げられます。赤木先生は自宅で仕事はしているようで、宿題のチェックや、テストの採点はしていたようで、先生の赤ペン入りの用紙が返されてきます。4時限の授業を終えて、少しだけクラスメイト...
四季子ちゃんは、特に文句は言いませんでした。その後、飯時になり、私が準備をして。結局、誰ももどってこなかったので、お店を閉じて弟と二人で夕飯にしたのでした。それから洗濯、掃除、お風呂と家事をこなしていくと、眠気がおそってきて。結局、部屋は別々ですが、弟と同じように夜9時には眠ってしまったのでした。部屋で眠っていたところ、かすかに、兄が部屋の戸を少しあけて、「遅くなってすまない…。」と謝っておりまし...
同級生たちとそんなやり取りをして帰宅すると、予想に反して、弟が店番をしていました。私「あれ?ただいま…。なんで薫が店番をしているの?」弟「あ、お姉ちゃん、おかえり…。お兄ちゃんは、いったん帰って来たけど、また用事があるからって、中学校に戻って行ったよ。どうしてもやらなきゃならない用事なんだって…。」私「そうか…。弱ったな、お兄ちゃんに相談したかったんだけど…。そうだ、お姉ちゃんは?」弟「お兄ちゃんから...
一日自習やら、教頭先生の授業を受けて、この日も一日が終わりました。放課後になると、またいつものメンバーが集まってきます。当然、四季子ちゃんは、さっさとランドセルを背負って、教室を出て行ったあとで、です。岡田「なぁ、おまはん、アイツに家に誘われとったやろ?行くんか?」私「あぁ…。今まで、伸ばし伸ばしにしていたけれど、やっぱりきちんと決着をつけないといけないと思ったんだ。」小島さん「心配ですわ~?どな...
ガラッ。私「おはようございま~す。」教室内に入ると、私の姿を確認して、クラス内がホッと安堵した空気に包まれる。誰が入ってくるのかが重要なのだ。白い扉の向こう側から入ってくる人物がもし危険人物なら…。毎朝、緊張感をもって、同級生を迎え入れる。それがここ半年のこのクラスの通例だった。四「おはようございます!」誰に言うとでもなく、四季子ちゃんは大きな声であいさつをする。そして誰もが彼女と視線を合わせない...
それから台所の片付けと、交代でお風呂に入りました。弟はまだ宿題が終わっていないとかで、自分の部屋で勉強をして。それからすぐにお風呂に入り。私と姉で部屋の片付けやなんやらしつつ、交代でお風呂に入り。一緒に電気を消して布団の中で休みました。真っ暗な室内で、目を閉じていると、そのうちウトウトしてきました。(…よかった…これできっと、よくなる気がする…。)そんな風に思っていると。そっと誰かが頭をなでてくれる...
私は目がチカチカしてきました。姉と兄のやりとりを聞いて、話についていくのがやっとなのでしたが。彼らの断固たる決意を感じて、私はとても驚きを感じたのでした。兄「とりあえず、しんじゅ一人に店番をさせるのは控えた方がよさそうだな…。」姉「そうね。アタシと玲治で交互に店番をしましょうか?」兄「あぁ。後手後手だが、致し方ない。一番は父ちゃんを捕まえて、大人に訴えかけさせるのが一番なんだが…。」弟「お父さん、ボ...
私「お姉ちゃん…。」私は姉の剣幕に驚いてしまいました。姉「しっかし、しんじゅもしんじゅよ!どうして、そんな大事なことを、アタシたちに教えなかったのよ!」兄「ちょっと、姉ちゃん、少し落ち着け…。」姉はお玉を持ったまま、振り返りました。姉「これが落ち着いていられるかっ!?玲治こそ、もっと怒ってもいい話でしょ!?」兄「まぁな。それに異論はない。しかし、それとこれとは事情が異なる。俺も内実、興奮したが、目の...
家族みんなで食卓を囲んだ。母が亡くなってから、あまりない光景でした。姉は料理上手でどれもとてもおいしかった。特に肉じゃがはほくほくで兄も弟も感激しながら食べていました。弟「おいしい~、大きいお姉ちゃんの料理はすごくおいしい…。」私「ほんとだよ、とってもおいしい。」兄「これは脱帽だよ。マジでうまい。」姉「ふ…それほどでも…(笑)」姉弟みんなでガツガツと食事をいただいておりました。姉は調味料の入れ方や、タ...
姉「そう?よくわかんないけど…。」私「うん、ものすっごくヒットしたと思う。」姉「そう?」私「ところで薫は?」姉「ちょっと友達の家に行ってくるって言ってたわ?何か確認したいことがあるとか、なんとか。」私「そう…。アタシもひろみちゃんの家に行きたいけどいいかな?」姉「いいわよ?夕飯までに戻ってきてね。」私「了解です!(笑)」私は自分の部屋にランドセルと制服を戻して、宿題を持ってひろみちゃんの家に遊びに行き...