障害児と社会とのありかたを描いたものだが、キリスト教の理念にはかなり入り込めてはいるが、肝心の事件の真相に触れていないので、どうにも煮え切れない気持ちが残滓として残る。主人公デミョンの演技は出色ものだ。連鎖(2020/韓国)(キム・ジョンシク)70点
映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。
プロフィール 性別 男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。
※ランキングに参加していません
ストールン・ドリームズ 誘拐された娘 (2015/カナダ)(ジェイソン・ボルク) 75点
ハートフル映画だと思ってみてみたら、何のことはないサスペンス映画だった。でも、B級映画だとはわかっていても、ぐんぐん引き寄せられる面白い映画であった。ちょっと信じられないストーリーだけど、まあこれが映画というものさ。面白かった。ストールン・ドリームズ誘拐された娘(2015/カナダ)(ジェイソン・ボルク)75点
ミステリーの秀作と誉れ高い本作を見るまで時間がかかる。なんでかな。それほど長くもないし、嵐の中の連続殺人だし、興味深い話であります。この小説、文庫本をまず読む。最初の登場人物のページを何度見直したか。登場人物が少ないわりに人物描写が深くないのか、よくだれがどうなのかわからないのだ。ラストでキーとなる女子大生にしても、人物欄では完全に女性だと書かれているし、(というのはボクという表現がどうも変なので、こういう使用方法の人だと勝手に認識。これは文庫出版社に問題あり。)なぜか最後まで一気に読み進めないミステリーではあった。だが設定のスケールが大きく、鍾乳洞まで出てくるとこれは異次元の世界観だなあと思う。その意味でも加点したい。ラストのホントのラストは面白かった。麻耶はこれを書きたかったのかなあ、。。螢(幻冬舎文庫)(麻耶雄嵩著)(2007)80点
劇団カオス『OH! 文化体育祭』(作・加藤のりや 演出・米倉ネクラ) at大阪公立大学・田中記念館 80点
やあ、久々の劇団カオス。コロナ禍以降だからもう3,4年ぶりか。この劇団はひょっとしたら学生演劇を見た最初かもしれない。脚本は自前ではないが、とてもよく練られたホンを作る。感動作も多く、いつも席を立つときはなかなか余韻が多い劇団である。さて、今回の出し物、なんと高校生の文化祭と体育祭を合体させよ、という志向で生徒たちが悩み、考える話。なんと、卑近な話かなあと思っていたが、これがなかなか面白い。お話って、シンプルな方が面白いという見本のような劇です。なんせ、年齢が近い。役者たちも無理せず演技しているようでイキイキしています。明るい学園ものみたいだが、主題が奥に隠されていて、生徒たちの自治を犯す権力者構造とそれに自然と立ち向かう無垢な生徒たちの結集力が描かれる。意外と感動作だったので、ちょっとびっくり。これだか...劇団カオス『OH!文化体育祭』(作・加藤のりや演出・米倉ネクラ)at大阪公立大学・田中記念館80点
第2劇場「無ー夢(ムーム)」(作・演出 楠瀬百合) at阪大懐徳堂 70点
シリアスで結構難解な演劇で知られる(と勝手に思っている)第2劇場。ところが春眠暁を覚えずで、阪大演劇でまたもや「ちゃうかちゃわん」に引き続き夢のお話。ちょっと肩透かしというか、またもや夢の話で、しかも舞台のど真ん中にドカーンとベッドが配置されている。いい夢を見たいという女の子が出てきて、睡眠不足なのでもっと眠りたいとか聞いていると、こちらに伝染し。まさかの私自身が夢のまた夢、劇中劇とも思われ、舞台と自分自身がとりとめもない状態になり(要するに(少々お眠りに))途中はっきり覚えておりません。気づくと劇は終わりになりそうで、どうも第2劇団といえど、楽しくあらばそれは人生なんだ、とでも言いたそうな夢中夢でありました。はい、それであまり、評価はできませぬ。とはいえ、かなり自由な楽しい劇だったような、、。第2劇場「無ー夢(ムーム)」(作・演出楠瀬百合)at阪大懐徳堂70点
一夜:隠蔽捜査10(今野 敏 著)(2024 新潮社) 80点
このシリーズも10巻。スピンオフも加えると13巻らしい。今回は、あっという間に読み切ったが、それでもいつものさわやかさは残る。でも、ちょっと当たり前すぎたかなあ、、。深さが不足気味。これだけシリーズ化しているともう書くことにも窮するのかなあ。そんなことを考えてしまう本作だったが、でも骨格の竜崎本人の姿はまごうことなきほんものを持っている。ファンはずっと読み続けることだろう、、。一夜:隠蔽捜査10(今野敏著)(2024新潮社)80点
秀作。人を愛するっていう本質的なことの意味を問う純粋培養映画です。前半は通常の、とは言えないか若い二人の恋愛を。後半は愛する人を失った後にその母親を世話する過程で、我々が無償の愛に気づかせられる話。全体を見渡して浩輔の世界観が透いてくるのが美しく、大きなものであることに気づく。鈴木亨平の演技も大いに驚くが、後半の重要どころ役阿川佐和子がすべてさらっていった感もある。こういう透明感のする世界は現実を考えるととても心地よくさえある。いい映画だと思う。エゴイスト(2022/日)(松永大司(80点)
短編の名手、長岡による今までの短編をまとめた作品だ。設定が警察関係の学校や刑務所でなくてもまさに同じく面白さが堪能できる秀作ぞろい。最近、ミステリーを読むと名前だけで違和感があり、どうも人物に入っていけない小説が多い。そんな苦痛もこの作家には全くない。どうやら私も世の中から遠く置き捨てられた人間であるらしい。この小説を読んでそんなことを考えた。血縁(集英社文庫)(2019長岡弘樹著)80点
劇団ちゃうかちゃわん「夢にまで魅せられて」(作・唯端楽生 演出・近未来ミイラ)at阪大学生会館 80点
春たけなわ。春眠暁を覚えず、という理もあり、春はどうも眠い。そしてこの劇はまさに夢の中のお話。シンプルな話なんだけど、はちゃけて楽しい。さすがヤングの勢いもあり、青春真っただ中といった感じ。うらやましいのう、、というわけで文句なしのハジケタ青春感が愛しいぐらいよかった舞台でした。ダンスもよし。セリフもよし。もちろん役者たちみんな素晴らしい。青春ってこんなに良かったか?劇団ちゃうかちゃわん「夢にまで魅せられて」(作・唯端楽生演出・近未来ミイラ)at阪大学生会館80点
ピッコロ劇団オフシアター「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル 演出・中島深志) atピッコロシアター中ホール 80点
昨年、他劇団ではあるが、上演され名高い賞を受賞した今話題の演劇であります。ストーリーはわかっていたが、劇団と演出が変わるとこれほど変化するものなのか、と驚いた演劇でした。現代の戦争に見立てることは我々観客のなすべき姿勢であろう。最近続いている戦争の気運がどうしても気になり、この劇の時代である第2次世界大戦とは思えぬ背景と彼女たちの心根がずしんと我々の心に引っ掛かり、重くのしかかる。ラストのパレードは彼女たちにとっては戦争の終わりを告げる明るいものでないことが、さらに我々に戦争のむなしさを訴えてくる。素晴らしいラストであった。しずかに感動の涙が頬を伝い、席を立てなくなった次第。私も老い来たかなあと思う。ピッコロ劇団オフシアター「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル演出・中島深志)atピッコロシアター中ホール80点
HAYASHI「流れゆく雲を、空はただ見つめている」(作・演出 林龍吾) 於CUBE03 80点
ほの暗い女性の物語である。母親、妹はもうこの世にいないが、妹はときどき姉と会話をしに来る。子供時代からの姉のうら寂しい人生の記録である。その姉をごひいきことねさんが演じている。コロナ時代に見ていないので、ずいぶん久しぶりの対面。もうそれだけで実はうれしい。その主人公、ちょっとした会話からずいぶん精神をやられているかな、と思う。普通の人とは感情面の起伏が激しい。見ていていたたまれない。琴音さんを見るのはうれしいが、ファンとしては少々きついものがある。もう一人のご贔屓役者、川田恵三氏は今回は、珍しや、脇役に徹している。これは珍しい。相変わらずうまいが、それほど難役でもない。と思いながら見つめていると、終局に来て、ずいぶんと寂しい終わりに、、。この物語にしては、希望が見えない、ある意味不思議な演劇である。なんだ...HAYASHI「流れゆく雲を、空はただ見つめている」(作・演出林龍吾)於CUBE0380点
何か思いつめたものがある二人のロードムービー。幼馴染、そばにいてくれるだけでいい友、さあ火の鳥を探して当てもない旅に出る、、。最初なんだかなと思ったが、慣れてくると、気にならなくなる。それが映画というものさ。ところどころ人生の真実がまばゆく見えてきて、素晴らしい人生賛歌に静かに感動してしまった、、。ラストは思い切り、ハッピーにしちゃって、でもこの時代、許すよ。いい映画だ。ニワトリ☆フェニックス(かなた狼)80点
WINNY開発者とWINNYによる警察内部資料流出とを対比させ、ソフト開発者の自由、すなわち人間の自己解放の自由さをテーマにした作品だと思われるが、ちょっと長いかな。テーマはもう途中で十分観客に伝わるので、その他の発展があればもっと重圧で深みが増したかなと思う。2時間ずっと裁判劇に終始している。観客はそんなものを見たいのだろうか、と。とはいえ、東出はさておき、この映画、三浦貴大が最初顔を見ただけではわからなかったが、本人確認の後、今までにない演技をしていることに気づく。関西弁もそこそこうまく、何より、この退屈な映画を引っ張っている唯一の人であります。うまくなったなあ、、。それだけでこの映画は加点対象です。Winny(2022/日)(松本優作)80点
ある閉ざされた雪の山荘で (2023/日) (飯塚健) 55点
原作はずいぶん前だが、読んだことがある。結構ミステリーとして面白かった記憶があった。そして映画を見ていると、、、。あまり知らい俳優たち(けれど一般の人たちからはそこそこ有名らしいが、、)、映像の稚拙さ、展開の妙がないことなどから、ありきたりのB級映画かなと思う。なにより、ミステリーなのに怖さが欠如しているのが痛い。突っ込みどころの多いのも難点。ある閉ざされた雪の山荘で(2023/日)(飯塚健)55点
密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫) (2022 鴨崎暖炉 (著) 75点
密室に関するトリック解説指南のような小説です。てんてこもりすぎて読むのがしんどくなってしまったきらいも、、。面白いけれども、実現の可能性はどうなんだろうと思ってしまうて手合いが多いかなあ。でも確かに力作です。通常の密室物の3倍は手がかかっています。密室黄金時代の殺人雪の館と六つのトリック(宝島社文庫)(2022鴨崎暖炉(著)75点
パスト ライブス 再会 (2023/米=韓国)(セリーヌ・ソン) 80点
予告編がよかったので行って来ました。なるほど今どき珍しい男女の心のひだを鮮明に映し出した秀作でした。今どき珍しいと言ったのは、この映画、男女のプラトニックラブを描いていて、それを男女の人生の核にしているからです。昔懐かしい名作映画「終着駅」に妻の夫を加えたトリプルの男女トライアングルにしている感じで、そこがとても新鮮でした。3人で会っていて、旦那が横にいるにかかわらず、愛する男と会話を交わすというスリリングなシーンが続き、しかし一方ではそれがジレンマにもなります。あんなところに旦那がいたら、私だったら心筋梗塞を起こします。韓国語で会話をしているのですが、韓国語を勉強しているという旦那は会話の内容が多少はわかっているはずです。この映画の題名になっているように、二人の愛は前世から続いていると彼らは思っている。...パストライブス再会(2023/米=韓国)(セリーヌ・ソン)80点
RHEINGOLD ラインゴールド(2022 ファティ・アキン) 60点
アキンの映画、期待したんだけどなあ。前半は人種差別の悲哀さ、たくましさを描いて秀逸。けど、後半はなんだか、ただのグレ映画だなあ。何を描きかったのか分からん。ドイツでヒットしたのいうが、主人公を知っているかどうかで、違うのか。よく分からん映画でした。RHEINGOLDラインゴールド(2022ファティ・アキン)60点
デューン 砂の惑星 PART2 (2024 ドゥニ・ビルヌーブ) 80点
うーん、噂に違わぬ映画作り。3時間、画面にくぎづけだ。話は、何かどこかにあったようで、シンプルだが、だからこそ映像のダイナミズムが冴える。美術が圧倒的。俳優陣も豪華絢爛。S・ランプリングなんて表情をヴェールで隠しているのに、目力がすごい。さすがだねえ。映画料金、お得な感じがするほど堪能できました。デューン砂の惑星PART2(2024ドゥニ・ビルヌーブ)80点
「ブログリーダー」を活用して、セントさんをフォローしませんか?
障害児と社会とのありかたを描いたものだが、キリスト教の理念にはかなり入り込めてはいるが、肝心の事件の真相に触れていないので、どうにも煮え切れない気持ちが残滓として残る。主人公デミョンの演技は出色ものだ。連鎖(2020/韓国)(キム・ジョンシク)70点
これは面白いです。設定が本格ミステリーファンならではのわくわく感。ありえない話といっても最近はやりのSF的手法ではなく、往年からのミステリーファンでも十分楽しめる著書となっている。よくこれだけ考えられたなあと感心する内容なので、これぞ本格ミステリーといいたい。シリーズ化されるのを期待したい。アミュレット・ホテル(方丈貴恵著)(光文社2023)80点
突撃金魚は好きで、東京にまで遠征したこともあった。そのうちサリngROCKさんが出演しなくなり、山田蟲男さんは大きく変身する。作品も軽妙で少女っぽい軽やかさを持った作品から重く暗いものが多くなっている。でもずっと見ているのだが、、。今回はなんと出演がかなり遠のいていたサリngROCKさんの久々の出演で、もう見る前から少々精神高揚気味。そしてそれは叶った。それだけで私的には十分なのだが、この作品、なんとあの小さな舞台に多数の俳優陣出演、しかも全員練習十分、演劇的には古代歴史絵巻大開帳、エンタメ性も十分で面白い。ものすごいパワーを舞台にまき散らしておりました。そらそうだろう、30人ぐらいの俳優たち、みんな所属の劇団に戻れば主役級の人たちばかりだ。演劇ファンにはたまらない舞台となりました。今年前半の出色の出来。突劇金魚「GFT版贋作・桜の森の満開の下」(脚本山田蟲男、サリngROCK・演出山田蟲男)at芸術創造館85点
話題作である。即、見に行く。なるほどそういう映画か。でもちょいとあざとい感じが匂うかな、、。映像は全面パンフォーカスしていて細密画あるいはワイエスのような画像で美しい。うっとりする。これも恐らく塀の向こう側で行われていることを無視することのできる人間への限りない嫌味あるいは警鐘のつもりなのではあるまいか、そんな気もする。冒頭から何度も出てくる画面の黒塗り。かすかに聞こえる収容所での物音。ああ、あざといなあ。こんなやり方でしかこういう人類の真っ暗な深部を描けないと思っているグレイザー氏、幼稚過ぎません?これに音響賞を与えるアカデミー会員も同じく。さて、かなりいつもと違いけなしている吾輩ですが、作品的には全編ワイエス風の映像がやはり美しく、静謐な美術画をずっと見ている気がいたしました。あの夜中にリンゴを置くあ...関心領域(2023/米=英=ポーランド)(ジョナサン・グレイザー)80点
予告編で絶対見なきゃと思ってみた作品。同僚から疎外される教師の日常を描いている作品かなと思ってたら、意外とオーソドックスなホントありふれたどこにでもある教室を描いたものでした。主人公の女教師や校長先生、ほかにそれほどやる気のないフツーの先生たちがまるで自己回顧の気持ちを持たない人たちなので、見ていていやな思いをするのだけれども、でもそれなりに面白い作品ではある。これだけ騒ぎを起こしておいて、生徒に責任を取らせる学校もそれは日常的な行為であり、ありふれたいつもの学校風景なのである。ラストの、生徒を強制連行する神輿を担いだかのようなシーンはある意味爽快にさえ映るのはこの映画の皮肉ぶったところなのでしょう。ドイツ映画はいま世界でもかなり目立って秀逸な作品を生み出している。何かな?ありふれた教室(2023/独)(イルケル・チャタク)80点
いろんな話をいつも様々に展開してくれる1mg。今回はぐっとハートウォーミングの、笑いあり、涙ありの演劇の原点に戻ったかのようないい劇でした。劇場に入ると、古ぼけたアパートの設定なんだが、大道具が斬新で美しい。住民の俳優陣の演技もてきぱきしていてそれがまた美しい。そういえばみんな若く、また美男美女ばかりで、見ているだけで気持ちがさわやかになる。いい話なのである。そこに、時代を20年時間軸を動かして重層的な仕上げに徹していて、脚本のうまさが光っているナア。この劇団は何でもできる劇団なんですね。そういえばこの多様性は、客層も若い人たちから老人たちまで層が厚いと感じる。またまた次作が楽しみになってきました。いい休日でした。劇団1mg「ユメミソウ~夢見荘~」(台所編)(作・演出伊達百式改)於indpennded2nd80点
これは読みやすく、しかも設定がめちゃ面白い。どんどんページを繰る。あっという間にラストまで一気だ。離島で起こる連続殺人事件。通常は通信機関がオミットされる。しかしこの小説ではそんなことはせず、登場人物たちが身の危険を感じ、警察に連絡できない状態にいる。この設定はユニークだ。そして犯人がいるのを確認しながら行う「こっくりさん」。面白い。才能まで感じるほどだ。しかし、ラストの叙述トリックは何だ。あんなことは違反ではあるまいか。読者をだましているのと同じではないか。ちょっと許せない気もする、、。そうすると他にも何だかなあ、という突っ込みもいろいろ沸いて来る。この点が一番の問題点。ミステリーは面白いのと斬新なだけでは褒めることのできないなにものかが存在する、と思うのだが、、。十戒(夕木春央(著)(2023講談社)80点
期待してみた映画だったが、、。原作読んでいないので、なんとも言えないが、ある老人の死が四方八方に波紋を立てるように、すべてフォーカスされていないので、何が何だかもやもや感が残る設定になっている。そしてそのど真ん中に、事件と関係のない福士と松本とのドロドロ愛欲関係を据えている。余計、観客は訳が分からなくなる。731を急にこの話に無関係に持ってきたりして、さらに私は戸惑う。大森は何を考えとる。雰囲気は確かにあるなあ、、。でも結局それだけの映画かな。彼は最初の作品「ゲルマニウムの夜」が強烈で秀作であっただけに、「日日是好日」を頂点として、それ以降の作品はちょっとどうだかなあ、と思う。演技としては福士はなかなかいい。財前はさすが。松本はなんだかまばゆい。近藤、平田、根岸はもったいない使い方。大森はどこへ行く。湖の女たち(2024/日)(大森立嗣)65点
劇映画なんだけど、ドキュメンタリータッチというか、ドキュメンタリーを目指してる。そのせいか、映画的高揚が持続せず、すぐ途切れてしまう感覚があるのは、時間軸効用でカットを多用しているからかもしれない。こういう映画作りもあるのだなあとは思うけれど、現実政治へのプロパガンダへの貢献は理解でき、また映画的にも優れていることは否定しないが、あまり好みではないかな、、。結局、彼は何をしたのか、最後まで不明瞭だったような気もするし、何より家族関係では、結婚しているのだから、母親より本来妻の方がしゃしゃり出るべきであろうと思うのだが、この国ではどうもそうではないらしい。なんだか日本人にはわからない点もある。あっ、俺だけ?ミセス・クルナスvsジョージ・W・ブッシュ(アンドレアス・ドレーゼン)(2022/独=仏)70点
骨太作品「新聞記者」の監督の藤井がこんな100%純愛映画を撮ろうとは思わんだ、、。嘘だろうが、から、だんだん見るモードが純愛本気モードにフォーカスされていき、そしてどんどんはまって行き、、やがて最後はいつも通り、号泣させられる羽目になる。藤井に負けた。まさかと思った。そう言えば、彼と清原とは「デイアンドナイト」「宇宙でいちばんあかるい星」でタッグを組んでた。好みなんだろうな。いい女優だ。黒木お二人の女優の使い方もなかなか秀逸。ましてや、松重の使い方のぜいたくなこと。藤井のチカラなんだろうな。でも何といっても、恥ずかしいほど昔からの純愛映画路線に沿ったストーリー展開の紡ぎ方は100%ストレートですがすがしいほど。それがいい。でも清原は化粧なしの方が断然いいと思う。NHKドラマ「透明なゆりかご」のころはひょっ...青春18×2君へと続く道(2024/日)(藤井道人)80点
若い方々の結婚観がわかりづらいのは年のせいか、それとも脳の中身が全く異物であることに気づかないだけなのか、なんてふと思う。でも、この映画、何か颯爽とした清涼感が吹きあふれ、僕は気に入った。これだから映画は見ないとわからない。途中で長澤がいなくなるので、主役がそんなに不在でいいのか、なんて思う時もあったけど、それはそれでその不在がこの映画の底流を流れるテーマだからと思いつくまで、その時間感覚が後で惜しくなるほど愛しい。全体に及ぶこの現実感との違和感は何か?おそらくこの原作がどうもあやしいのではないか。小説的過ぎて、実際的な生活感に乏しい、とまで言わないけれど、でも逆に考えるとこの映画の魅力のほとんどがこの現実感の不在にあることに気づく。人工的な話だけれど、若い人たちの脳裏にある愛の実現とはこういう形で行われ...四月になれば彼女は(2024/日)(山田智和)80点
中編2本。「FROM~」は一人芝居。福島の被災者から日本に送るメッセージの集大成だと思う。もう13年か。されど日本人はもう忘れかけているのではないか。そんな思いを小さな熱源にして被災者からというより、もう一人間として響くように心から叫び続ける女性。その姿は圧倒的だ。確かに、2年ほど前福島に一泊したが、町は完全復興を遂げ、この大きな災害には見ただけではあったかどうかさえ忘れるほどだった。しかし、一人一人の胸の内には秘するものがあるのだろう、そんな感想を得た。「ねずみ狩り」は二人芝居。ごみ溜めの街。中年の男と女。彼らも贅肉と年齢を重ね、実際はごみ溜めの現代に息づいている。二人は自分を語ろうとしないので、持ち物からしまいには衣服まで脱ぎ取る羽目になる。そして真裸の透き通った人間に戻ったとき、自分が狩られる鼠だと...アートひかり「From2011.」「ねずみ狩り」(作・小池美重ペーター・トゥリーニ)(演出・仲田恭子)at難波サザンシアター80点
北村想原作、演出が流山児祥、俳優陣はロートル(失礼!)女性陣と聞いて、即東京にまで馳せ詣でしてみたいか、そうでもないか、、、。私はあの小さな早稲田駅前の劇場でどんなバカ騒ぎが垣間見れるか気になってしまいとうとう東上してしまう。相変わらず現物の流山児祥は荘厳で元気。懐かしさを超え、時間間隔がなくなってしまう。話は面白おかしい「怒れる12人の男たち」のすれすれパロディをといえようか、グロテスクを超え、清貧な気持ちにさせてくれました。ものすごいパワーでございます。皆様、たまにセリフのとチリはご愛敬。いつまでもお元気で。楽しませてくれました。シアターRAKU『Operettaめんどなさいばん』(作・北村想演出・流山児祥)於space早稲田80点
チェーホフの3短編集。3編ともとても面白い。さすがチェーホフは演劇の面白さをよく見つめて、そしてよくわかっている。演劇の作り方までわかるような展開である。セリフがすべて洗練されている。無駄がない。これこそ演劇の粋。冒頭の「結婚申し込み」と最後の「熊」が秀逸。本当に小さな劇場上演だが、ファンにはだからこそ応えられない演劇鑑賞となった。やはり東京の演劇は質が高いね。来た甲斐があったものだ。WWWproject「熊・結婚申し込み/チェーホフ短編集より(作・チェーホフ演出・千田恵子)於・新宿atTHEATRE80点
学生演劇。出し物もM1グランプリを目指す芸人と出会い系アプリであった若い女性。いかにもヤングの物語まあ彼らの実際の生態も吾輩からすれば異次元の世界。でも、かなりまじめなお笑いを目指す芸人が中心に描かれるので、いやらしさは毛頭ない。マッチングアプリとはいえ、まともな話であるのだ。ただ吾輩からはそれほど深く入り込むこともできず、そうなんだね、とうなずくばかり。劇中劇のM1グランプリ予選はどうなんだろう、あまり面白くなかった感あり。客席からの笑いもなかったようだった。でもこればかりは仕方がないことで、若いっていいなあと思うばかり、、。青春真っ盛りだねえ。劇団てあとろ50’「できれば笑って」(作・演出久松凌空)at早稲田大学学生会館75点
4つの話が相互に描かれる。家族の話だ。セリフはほとんどなし。それぞれリンクするかと思っていたら、ただ単に4つのお話でした。それならセリフなくてもかまわない、でも漫画的な雰囲気だなあと思っていたら、原作は漫画でした。納得。心象的なシンボリック映画なんだ。俳優陣が豪華で見ているこちらが逆に戸惑いました。かぞく(2023/日)(澤寛)70点
最近再演が続く「タイムレスレター」の公演。今回は一番最初の公演の再演らしい。この劇団はずっと見てきているがこの一作目だけは逃したらしい。なんといつもとはかなり印象の違う作品で、前田氏らしくないなあと思って、帰ってからよくプログラムを見てみたら、脚本が前田氏ではなかった。なるほど、そうなんだと納得。舞台はいつも美術がすごくて、それだけでもう高揚してしまう。見る前から盛り上がる。今回は12人の出演だが、全員主役でもある。そんなホンがとてもいい。すばらしい脚本です。役者さんたちの演技に凄みがあり、12人を見ているだけで彼らと同化している自分がそこにある。話はある病院の人生の縮図。それぞれエピソード化されたシチュエーション。誰にでも死は訪れるが、それが早いと人は懊悩する。驚き、怒り、諦観、そして人はある一定のとこ...劇団TheTimelessLetter「見果てぬ夢」(作堤康之演出・前田アキヒロ)atCUBE190点
劇団20周年記念上演。3時間を超える長丁場で、会場が空調不良で暑いまま演劇を見る。話は4つのストーリーが並行して流れ、重いものもあれば卑近な軽い人生も描かれる。大道具というものはなく、舞台はシンプルだ。だから観客は想像力を立ててみることになる。結構、コミカルな話もあり、3時間退屈はしない。けれど、結構やはりちょっと長いかなあと思う。ラストになって4つの話がリンクしてつながり、感動的な終わりを迎える。脚本のうまいところである。話はヤング向きだが、観客は結構20年なのか、年向きが多かった。アインシュタインまで出てきて、インテリなのはわかる。まだまだやっていける劇団である。劇団HALLJACK白亜紀よ羅針盤となれ」(作・水島響演出・三島歩)at枚方公園青少年センター80点
冒頭の5、6分。下から見上げた木々の枝からの空が延々と続く。長い。少々苛ついてしまう。この経験は前も経験したかな。えっと、そうだ。ゴダールの「ウィークエンド」だ。長らく渋滞する道路、車は全く進まない、延々とその様子を観客に同時体験させる。そしてやっと動き始めたら、なんと衝突事故の悲惨さが、、。この映画の方は、延々と続く空の後は何ともない普通のカットが挿入されていた。テーマは自然と人間。大きいテーマである。そうですね。濱口ほど毎回テーマを変える映画作家も珍しい。なるほど今回は自然か。今までの人間対人間から大きく180度視点を変えた。あるいは、広がりか、、。日本でも自然林がかなり残るある長野の山奥に、助成金目当ての芸能事務所がリゾート施設を作らんと村を蹂躙しようとする。その対立する関係説明会が生々しく、こちら...悪は存在しない(2023/日)(濱口竜介)80点
ハートフル映画だと思ってみてみたら、何のことはないサスペンス映画だった。でも、B級映画だとはわかっていても、ぐんぐん引き寄せられる面白い映画であった。ちょっと信じられないストーリーだけど、まあこれが映画というものさ。面白かった。ストールン・ドリームズ誘拐された娘(2015/カナダ)(ジェイソン・ボルク)75点
人生の最後を迎え、昔ながらの友人たちが一人の友の遺灰を巻く旅に出る、、キャストがものすごく豪華で俄然自分の青春を振り返ることになる。話が感動的なのになぜか盛り上がらないのはこれぞ演出のなせる業か。情に流れとるよ。ラストオーダー(2001/英)(フレッド・スケピシ)70点
ロシア映画では珍しい老人ものコメディ。一人で周りに迷惑をかけちゃだめだと自分のお葬式を設える空っとしたほのぼの映画だ。でも、どこかで冷め切った人生への覚醒感も垣間見えるし、エスプリも効いている。全シーン余裕もあるし拾い物の秀作映画です。彼女が起こすてんやわんやに人生のおかしさ、哀しみさえ見える。私のちいさなお葬式(2017/露)(ヴラジーミル・コット)85点
気になっていた展覧会に行く。この中之島美術館は開館1年を経るが、初めて見たい絵画展が来たのだ。佐伯は子供時分からかなり好きな画家で、ユトリロとブラマンクに佐伯はかなり影響されていたらしいが、僕はこの二人が昔から好きで、何度も絵画展に行ったものだ。佐伯祐三の絵画はこの中之島美術館の前身に、確か心斎橋の東急ハンズの横側にひっそりと佐伯美術館があったのだ。ことあるごとく、僕は通う。だから今回の美術展はそのリフレインだろうと思っていた。ところが、その心斎橋の佐伯美術館と、今まで見てきた佐伯の画集とも少し違う違和感を今回は持ってしまった。それは何かというと、今まで絵から感じ取った哀しみといった感覚がほとんど感じないのだ。あのあっけらかんとしたユトリロでも感じた哀しみは今日の絵画展ではあまり感じられなかった。まるで違...佐伯祐三展を見て
私とは何か?という普遍的な命題を持った映画です。何なんでしょうね。私はこの歳になってもまだ分かりません。それが分からないまま、人は誰かと共生することを考える。だって一人は寂しいですから。この「私」は私には長年寄り添った老妻のように思えました。わたしの叔父さん(2019/デンマーク)(フラレ・ピーダセン)80点
いい映画だ。少なくとも障碍者の心の襞をここまでじっくり描いた作品もまれだと思う。そして映画は彼女(音のない日常)を通して、実は我々(会長)を映しているのだ。その双璧となす圧倒感は絶品。ケイコ目を澄ませて(2022/日)(三宅唱)80点
ミステリーとして見ていくとどうももたもた感が気になる。けれど後半彼らは現生を超え、二人だけの涅槃ともいえる世界にまで駆け巡る。これほど強い愛の世界は妄執ともいえる。「嵐が丘」のあの二人を連想す。別れる決心(2022/韓国)(パク・チャヌク)80点
連城がなくなって早20年。その間の未稿等を集めて出版された短編集です。男女の機微をミステリーの主題にすべての作品が力作です。あまりのドンデンがえしにまさかと思われる作品もあるが、ミステリーというより純文学の感触もあり、読みごたえがある。連城の女性への追及または恋慕は想像を超え、まさに孤高の作品と言えます。素晴らしい。黒真珠(連城三紀彦著)(2022中公文庫)80点
若き集団。設定はミステリーで面白いが、、。まだまだけいこ不足の感も見られ、さらなる精進が必要でしょうか、、。脚本的には、やはりあの時間移動はどうなのかな、ミステリーなんだから、きちんと解答すべきだと思うが。演劇好きなのはわかるが、まだまだ若い。次回期待。劇団えっぐ「鳥山探偵事務所〜朝起きたら事務所に死体があった件について〜」(作・演出大谷隆一)at音太小屋65点
結局「かもめ食堂」の荻上なんだよね、と言われ続け奮起、17年ぶり、荻上が本気で力を込めて作った作品なんだと思います。今までの作品とのイメージの違いにおののきます。なんたって、ブラックグラデーションの波紋なんだから、、。この映画って、夫婦の嫌なところ、その微妙な空気感が鋭く描かれています。この手法は女性映画って言ってもいいのではないかと思います。あくまで長年夫婦におさまっている絶え絶えの吐息のような心の声が主人公です。夫の不意の失踪から、新興宗教にのめり込む妻。その妻の新たな世界はまさに現代のブラックユーモアに思えてくる。心を開けると思ったスーパーの同僚、そのブラックな闇の世界。夫の主治医のその怪しげな治療法。などなど、彼女の周囲は彼女の心模様が織り成すまさにブラックな仮想宇宙空間が膨張する。だから夫の死に...波紋(2022/日)(荻上直子)75点
女性の生き方を明治の初期から考え通した津田梅子の生涯。いわゆる元祖女性活動家であります。今から150年ほど前。女性は10代で結婚生活に入り、男性の添え物だった時代に、自ら女性には教育そのものが必要だという認識で、2度もアメリカ渡航したダイナミックガールズです。前半がじっくり彼女の脳裏をめぐる人生を描き、後半はちょっと駆け足気味だが社会システムまでを見つめる展開を伴う。彼女は自分の人生を100%生きたのか、それとも社会の現実に翻弄されたのか、、。けれども津田塾を創設し、女性の存在を少なくとも水面下からグーンと上昇させたのは間違いないところ。そんな力強さが感じられる演劇でした。劇団未来「梅子の梅根性」(作南出謙吾・演出しまよしみち)at東大阪市文化創造館80点
劇団名ごとくいつも直球で人生の心理を追及しているおなじみ劇団です。追及って言っても、にぎやかでちょっとほろ哀しいところもある親しみやすい内容です。さて今回は、駅から少し離れた迷い込むような居酒屋に貸し切り状態の14、5名が集まった。そこで繰り広げられる人生の悲喜こもごも。いつものパターンだが、でもだから面白い。今回は若き新団員も入り、少し色が違って見える。これから楽しみだ。戦士には休息は必要。そしてそれが楽園ともなる。アフタートークでゲストにサリngROCKさんさんがいらっしゃって、ワクワクする。相変わらずおきれいです。内藤氏と真逆な作家なので、対談が面白かった。前作「罪と罰」は見事でした。途中、停電で中断もあったけれど、思い出になりました。南河内万歳一座「楽園」(作・演出内藤裕敬)80点at一心寺シアター倶楽
たまにはニーソンの殺し屋映画もいいかなと鑑賞する。ガイ・ピアースとかお好みモニカ・ベルッチなんかも出てて、楽しみだ、と思ってた。メキシコの色調がちと暗く、子供売春をチクリと提言した展開。ニーソンは殺しの対象が子供だったので、契約解除を申請するが、、。まあ、話のテンポは速く、どんどん人も死ぬし、ここは映画の世界だとは言え、ちょっと不思議でございます。ニーソンはアルツハイマーなので記憶が危ないはずなのだが、映画ではそれほど悪くもない感じ。きっちりと展開を予想し、悪と戦っている。でも僕にしたら、何人もオカネのためにだけ人を殺していたニーソンが、なぜ急に子供をターゲットにした裏産業を暴こうとするの?なんか現実的でないし、嘘っぽいと思います。また、悪の権化のモニカも実の息子まで犠牲にしているのに、なぜ悪の世界で暗躍...MEMORYメモリー(2022/米)(マーティン・キャンベル)70点
東北岩手の星、いや日本の星である宮沢賢治の家族の物語である。そこではいわゆる伝記もののスタイルはとってはいない。そこには日本のごく当たり前のどこにでもある家族の思いが凝縮され、みなぎっている。賢治を才能豊かな芸術家風になぞらえていないところがこの作品の魅力である。ごく普通のでくの坊息子のようにさえ見えるところがほほえましい。そんな語り口がたまらん。妹トシのはかない終わりのシーンは雪が幻想的ではっと驚くほど美しい。映画で今までこんな美しい別れのシーンがあったろうか、、。心に残る。出演者全員の心のこもる演技、すべて知り尽くしたかのような成島の冴えた演出、日本映画の粋であろうと思う。銀河鉄道の父(2023/日)(成島出)80点
若さ溢れる劇団です。やはり見ていて気持ちいい。この出し物も何やらよく分からんが現代人の生き方のもがきが漂っているようだ。108番居住区へと5人が走る。その5人の内面は、セリフで吐露される。でも設定が、よくわかりませんでした。でもその5人の焦燥感はかなり伝わってきました。黒い雨が降る108番居住区。ここは人類が最後にたどり着く番地なんだろうか、、。諦観とかすかな明るさがこの劇を救う。劇団グラスホップ『バッドエンドを抱きしめて』(作・演出カイチヨウ)at布施PEベース75点
もう寿命が分かっている人。死ぬ前にタクシーでこの映画のように思い出の場所を訪ね廻るっていうのも素敵ですネ。場所がパリであり、タクシー客が人生の辛酸をなめた人であり、そしてタクシードライバーがまさに今壁に突き当たっている人である、そんなシチュエイションは、ほろ苦く、しかし小さな灯のともる童話をパリから送ってくれたようである。G/Wアニメばかりの映画の中にふっと湧いてきたような小品です。まさにフランスの香りがするし、つい最近までフランスでも女性の地位が低かったことも驚かされるし、何より映画のセリフ、「笑ったら若返るけど、怒ったら老けてしまう」、これはいいですね。私が老けているのはこれのせいかな?また、マドレーヌがシャルルに行先を変える時「長い人生の10分なんて、たいしたことないわ」なんていうのもつくづくいいね...パリタクシー(2022/仏)(クリスチャン・カリオン)75点
若き青年たちによる独特の演劇である。60分と上演時間は短い。大人になること、このまま大人の世界に入ってしまうこと、幼児体験、地震・津波などの災害。様々な厚いイメージが青年たちを立ち止ませる。よくしゃれた個展などを展覧するこのフジハラビルでやるだなんて、なかなか皆さん乙なもの。センスがいいね。この独特な会場の雰囲気の元、青春前夜の大人への慄き、怖さ、どよどよしたものがセリフを通して、動きを通してイメージさせる。大人って、別にどうということないさ。さあ、こっち側に来たら?感性で磨き上げられた演劇である。劇団飛煌機大人さ(作・演出舟木祐人)atフジハラビル75点
阪本の新作だ。この人の作品群がそのまま私の映画歴ともなる。さて、今回は珍しくエコをテーマに、江戸末期の文明砲がとどろく時代の市井の人々を描く。題名。「おきくのせかい」ではなく、「せかいのおきく」。このことで人が文明を見つめるすべをもつことで、世界の広がりを経験したことを示している。さてその彼らは一体全体どういう人たちか。糞尿を回収し、それを農家に売りさばく、市井といっても末裔のひとたちだ。最初から最後まで糞尿の世界がお目見えする。モノクロなのでそれほど気にはならないが、人の排泄物や紙切れが循環するエコは江戸時代の方が現代より勝っているという。そんな日本人の知恵。今の現代人にどれほど分かっているか。そんな世界に男と女は愛し合い、人とのつながりは増してゆく。それはすなわち世界の広がりであるのだ。阪本のシンプル...せかいのおきく(2023/日)(阪本順治)80点
何気ない日常が変質するその怖さたらものすごい衝撃。何でもない普通の夫婦がある日、妻が蒸発する。その日からありふれた日常が非日常に変わり、それはホラー感に迫ってくる。それを90分でしっかりまとめた力量感のある演出はさすが高橋恵氏。ずぶずぶと私の日常感さえ自信がなくなって来たぞ、のし。目の前に繰り広げられる非日常はいつか、夫の白昼夢のようにも思えてくるし、これはまさに不条理劇とも言えよう。とても面白いものを見た。演劇は見てみないとわからない、、。いい日である。あゆみ企画「螢の光」(作・角ひろみ演出・高橋恵)at総合芸術館85点
18歳から23歳に至る若者たちの青春群像。とはいえ、彼らは決して甘い人生をついばんではいなかった、、。現在の若者を鋭く見つめた作品です。それぞれの生きざまには苦悩以外の何物でもない人生模様がくっきりと陰影を与えている。なかには夢破れ、途上にして死を選ぶ若者もいる。その若者の死から彼らは苦しみ、もだえ、そして何かをつかんでゆく。そのためにゆうに5年を費やす。人生とは、を、若者のひたむきな視線から問った映画です。いやあ、若者のいたいけな声を確かに聴いたよ。7人の友人たち、この繋がりこそかれらの宝物だ。青の帰り道(2018/日)(藤井道人)80点
ユニークな演劇だ。何気なく不条理だし、何となくおかしい。それでいて何だか悲しいし、変に楽しい。脚本がとても面白くできていて、観客はそれについていけないほど。何だか難しいかなと思い始めたら四阿後になって、超どんでん返し劇になりエンド。これはすごい。颯爽感さえある。ただ、六風館にしては、ちょっとセリフのゆとりがなく、珍しい。学生劇だと言わせない彼らの伝統があるからなあ、、。でもいい一日だった。劇団六風館「ある日、ぼくらは夢の中で出会う」(作・高橋いさお・演出・星美鈴)at阪大学生会館75点