ダルデンヌの思いが画面にみなぎっている秀作です。テンポがいい。映像が細やかで鋭い。二人の心の動きがなめらか。気づくと画面にくぎ付け。どうして世界はこんなにも不条理なのかと自分に問いつつ、ドラマはあっけなく終わる。だからこそ彼らの思いは永遠のものになる。この映画を見たことを決して忘れない。ダルデンヌ、好調。トリとロキタ(2022/ベルギー=仏)(ジャン・ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ)80点
映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。
プロフィール 性別 男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。
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ホラー映画というか、ちょっと気味の悪い、趣味の悪い映画人が作っている感がある。途中、見づらくて下を見てしまうシーンも多々あれど、これはこういうホラー映画では常道なのだろう、主人公に引き込まれる演出・演技はやはり大したものだ。ルーム・フォー・レント(2019/米)65点
虚空旅団「四T ~桜梅桃李~」(作・演出 高橋恵) at芸術創造館 90点
いつも思うが、高橋恵さんの演劇で今までつまらないと思ったことが一度もない。それどころか、いつも演劇の深部に触れた感を持ち、また演劇に通うことになるのだ。今回は、その中でも完成度の高い演劇をこれぞと見せつけてくれた。2時間の劇だが、冒頭から俳優陣が役を100%理解できているかのように、はまっている。自信がみなぎっているからなのだろう。それが観客席に伝わっている。4人の女流俳人のそれぞれの人生、それを俳句に託し、彼女たちの生きざまを投影させている。彼女たちの俳句を映像で見せてくれたのがとてもよかった。瞬時に文学観賞をした感じになって、いつもと違う演劇感が出てくる。途中では、下働きに扮する女中たちの本音の話も、とても楽しく、笑いあり、泣きもある人生賛歌ととなった。今年最大の収穫作だ。今のところ2023年の演劇ベ...虚空旅団「四T~桜梅桃李~」(作・演出高橋恵)at芸術創造館90点
劇団伽羅俱梨「あっぱれ!コトブキ写真館」(作・演出 徳田ナオミ) at KARAKURIスタジオ 85点
いつ見ても心の涙腺にぞぞぞっと触れる演劇集団。今回、特によかったデス!冒頭、初老の男が旧写真館に入る。出演者が、一人ずつ暖かく微笑みながら写真を壁に掛けたり、備品を動かして写真館を創造する。そのたたずまいだけでもう泣けてくる。これはいかんなあと、気を引き締めながら劇を見る。話は祖祖父、祖父、父親、息子の4代にわたって紡がれる家族史。家族といえば、やはり家族写真だろう。写真を撮ることの意味からこの劇は始まって行く、、。祖父が父親の古本を売って、それを現代人が古き良き時代の香りを知り、その写真館を訪ねるなど、いつもとは大幅に話も横に組み込まれ、また深みも出ている。この作品は徳田作品としても完成度も高く、ずっと見とれておりました。すごいです。大好きな俳優たち。また春に会おうぜ!劇団伽羅俱梨「あっぱれ!コトブキ写真館」(作・演出徳田ナオミ)atKARAKURIスタジオ85点
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (2023/米)(マーティン・スコセッシ) 80点
スコセッシ&ディカプリオ&デ・ニーロという組み合わせで200分という長丁場だが、見に行かない映画ファンは皆無であろうと吾輩は思う。え、そうでもないって?200分確かに老体にはこたえる時間。しかし、今日は頑張ったのだ。というか、さすが手慣れたスコセッシの映像、編集、がっぷり四つの二人の演技を前に、時間はすぐ気にならなくなった。まるで、インディアン世界にはびこるマフィアのような地獄絵図。こういう歴史を齟齬して、あるいは淘汰してアメリカは生き延びていったんだなあと実感としてわかる展開にニンマリする。特にディカプリオの演技には、もうあの昔の面影はない。彼にとっても100点満点ではなかろうか。対してこれを受けるデ・ニーロも、ある意味受けの演技で十分こたえる。素晴らしいの一言。歴史を勉強するというよりも、二人の熱く且...キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023/米)(マーティン・スコセッシ)80点
下鴨車窓「旅行者」(作・演出 田辺剛)(at 扇町ミュージアムキューブ) 85点
試演会という設定だが、ほとんど本番と変わらない出で立ちで、本格芝居の重量感、豊穣感を十分味わうことができた。エトランゼ、国を追われ、家族と離散する人々、その生の心情等をまるで阿部公房の戯曲がごとく紡いでゆくその演出はすごみさえ感じる。聞いてはいたがここまで完成度の高い作品とは、と驚きの一言である。悲しみの中にもその人々のふてぶてしさ、明るさまで感じ人間の大きさを知る。拾いものの秀作。下鴨車窓「旅行者」(作・演出田辺剛)(at扇町ミュージアムキューブ)85点
嘘をつく男(1968 仏・伊・チェコ)(アラン・ロブ=グリエ) 75点
映像映画ですね。耽美的で、夢とも現実ともつかぬカメラのフラッシュバックのような挿入は当時としてはとても斬新だっただろうと思われます。モノクロで、美人たちが潜む館のたたずまいは耽美的で恐ろしいほど美しい。ストーリーより、こういう方法で映画を語るというヌーヴォー・ロマン方式は映画史に輝く存在だ。一見の価値あり。嘘をつく男(1968仏・伊・チェコ)(アラン・ロブ=グリエ)75点
5編の短編もの。葛警部の推理の基づく群馬県刑事ものなのだが、すべてが鋭くとても面白い小説に仕上がっている。最初の山岳遭難事件はそんなこともあるかね、という感想だったが、2編目からは私の眼の色が変わるほど、最近のミステリーでもこれほどの秀逸なものは読んでおらず、感心するばかり。さすが米澤ミステリー、300ページ足らずの本ではあるが、あっと驚く仕掛けがすべてに用意してあり、ミステリーファンは狂喜するだろう、、。可燃物(文藝春秋2023)(米澤穂信)80点
池松がピアノレッスンかなり頑張ったと聞いていたので、行きゃなきゃと思い映画館へ。映画としては外国映画でよくある、俳優が玄人なみに演奏している光景とかは見られなかったが、それなりに雰囲気は出していた模様。けれど、この映画における魂というものがそれほど感じられず約30分程度で、少々退屈感を持つようになる。クリスタル・ケイが「客が私の歌を聴いてくれない」なんて言うボヤキはキャバレーの歌手なんてそんなの当たり前で、それが最初から最後まで変わらないものだから辟易する。大体、昭和末期の時代性は映像を通してよく出ていたように思う。けれど、どうもそれがストレートにこちらに伝わってこないのはなぜか。最後の最後は面白い挿話を用意してくれ、これだけが見ものではあるが、でもだからって、今までのすべてを覆すものにはなり切れない。仲...白鍵と黒鍵の間に(2023/日)(冨永昌敬)70点
火祭り (2006/イラン)(アスガー・ファルハディ) 85点
大人の、怖い映画ですね。結婚まじかで夢開く若い家政婦から見た現実の夫婦生活。男と女のやるせなさ、人生の真実を鋭く切り取った筆致は荒い。それらが爆発するのが、大みそかの車運転に危ない炎が燃え狂う街並み。タッチはキェシロフスキかと見まがうほど。ファルハディの独特の世界がほぼ完成す。映画の喜びをつくづく感ず。火祭り(2006/イラン)(アスガー・ファルハディ)85点
美しい都市(まち)(2004/イラン) アスガー・ファルハディ) 85点
イランの死刑制度、死刑囚を死刑にするにはカネが必要で、それは死刑囚の家族に送られる。つまり遺族はカネがなければ憎き死刑囚を死刑にはできないのだ。つまり、そこにはイスラムの宗教的な深い思念が介在すると思われる。それから起因して被害者家族の病人治療費の問題とか、恋愛さえカネのために諦念しなければならないほど、主人公は苦悩を抱えることになる。ファルハディのイヤミス系の原点がこの作品にある。次から次へと、問題が累積する。主人公は人間の本来の愛の高まりまで犠牲にできるのか?見ていて画面からそむけたくなる。僕は被害者家族の父親の心情が気になった。本当に心中だったのかどうか?そうだとしたら、男は喜んで死刑になって女を追うのではなかろうか?そういうファルハディのよこしまな表情も垣間見えてくる。けれど、それらを吹っ切る素晴...美しい都市(まち)(2004/イラン)アスガー・ファルハディ)85点
魔女の原罪(文藝春秋 (2023)(五十嵐 律人 (著) 80点
主人公が高校生ということで平易に小説に入ることができた。さらに腎臓透析を受けている高校生たち、けれど何やら不穏な人たちが住んでいるある町に、、。面白いんだけど、また最後まで真相がわからず引っ張っていくその書きぶり、そして真相にたどり着いたとき、やはりかなりの衝撃を受ける。いくらなんでもそういうことが、、なんて思ったりしたが、これはミステリー。本格ものではないが、実に五十嵐らしい論理で構成したミステリーだ。何か、少々残滓が残った読後感だが、良しとしよう。魔女の原罪(文藝春秋(2023)(五十嵐律人(著)80点
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ダルデンヌの思いが画面にみなぎっている秀作です。テンポがいい。映像が細やかで鋭い。二人の心の動きがなめらか。気づくと画面にくぎ付け。どうして世界はこんなにも不条理なのかと自分に問いつつ、ドラマはあっけなく終わる。だからこそ彼らの思いは永遠のものになる。この映画を見たことを決して忘れない。ダルデンヌ、好調。トリとロキタ(2022/ベルギー=仏)(ジャン・ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ)80点
切ない心のときめきがこんなに愛しい、これぞ映画を見る喜び、人を見つめる哀しさを十分浸してくれる。たまにはこんな美しい映画を見て吾輩の薄汚れた心を清らかにしてくれるのは映画の持つチカラだと思う。映画、初心を忘れべからず。星願あなたにもういちど(1999/香港)(ジングル・マ)80点
学生演劇では既成の脚本を演じる演劇がほとんどだが、今回は立派にちゃんと脚本を書いた劇である。その本もなかなかユニーク。趣向も凝らして見栄えがする舞台である。雨蝶天さんはなかなか才能がありますね。70分、十分緊張感も切れず、いい舞台でした。セリフ回しは少しぎこちない役者さんもいるけれど、でも聞き苦しくはない。何しろみんな大いに若い。その若さがあ全般的にこの劇のかさ上げをしている。パワーがあるのだ。素晴らしいことであります。小さな布施の劇場ですが、またいつもの学校内とは違った雰囲気をよく出していた。もう9月の舞台を期待している。覇王樹座「六月学外公演『死神』」(作・演出:雨蝶天)at布施PEベース80点
じっくり見られる最近にはない拾い物の大人の映画です。モロッコの映画なんですね。人間の表情でぐいぐい引っ張ってゆくその描写力、そしてありのままに生きることの意味を問う渾身のテーマはイスラム圏を超え、全人類的であります。映像による小説的解釈も西洋的でまさに純粋ヨーロッパ映画です。でもだからこそ、ラストの震えるような遠吠えの声が心を揺らす。青いカフタンの仕立て屋(2022/仏=モロッコ=ベルギー=デンマーク(マリヤム・トゥザニ)90点
ロバが愚かで悪しきしかし、しかし哀れで悲しい人間世界を神が俯瞰しているように見つめるまなざし、、。まさにブレッソンの「バルタザールどこへゆく」と全く同じです。でもやはりどこか違うなあ、、。作家で違うのは当たり前だけど、見ている吾輩の年齢が大いに違いすぎるのも恥ずかしながら原因でもある。映画はこのように見るこちらからの環境によって大いに左右される。こちらのバルタザールは恥ずかしながらロバの表情を見ていても何かやはり人間のやらせを感じ取ってしまう。これも吾輩の人間的汚染度がたまりたまっているからだろうか、、。ブレッソンに比べると感銘度は下がる。EOイーオー(2022/ポーランド=伊)(イェジー・スコリモフスキ)80点
カウリスマキ以外でフィンランド映画を見るのは久しぶり。夜行列車のシーンが多く、最初は鬱屈した雰囲気が続き、見るのも嫌気がさすほどだが、そのうちだんだんと人間の温かさと陰影が出てきて素晴らしい。フィンランドとロシアとの歴史的背景はあまり分か映画を通してそれなりに関係は理解できそうでもある。いい人間だと思った途中客からカメラを盗まれて、それが愛する女性との別離の兆候だと我々は気づくのだが、彼女の心境の変化は二人の素朴な演技で明瞭になる。ロードムービーとしても前半と後半が対照的な取り方をしており好感が持てる。秀作といえるほどではないが、ほのぼのとした寒い国から来たいい風を全面にもたらしている。コンパートメントNo.6(2021/フィンランド=露=独=エストニア)(ユホ・クオスマネン)80点
柳田国男の遠野物語を基本イメージに置いた山本ファンタジーというべきか、僕はジブリの映画を見ているような錯覚さえ覚えた。洗練されてる大道具、小道具を多用した視覚的美術、そして何より鍛えられたピッコロ劇団の面々、物静かで悲しいが確かな命のあしおと、それは人間への祝福のエールとなり脈々と続いてゆく、、。もうこの100分は至福の時間でした。なんだかんだ言っても、この舞台の彩りが若く、透き通り、エレガントで、観客も超若い人たちが大勢いたが、彼らにもきっと受け入られているだろう反応さえしかと感じた。関西の実力劇団がこのように現地点だけでなく、さらに向こうの遠い何かを見据えているのはとても気持ちいい。演劇の将来性を十分感じられる舞台でした。兵庫県立ピッコロ劇団「あしあとのおと、ものがたり」(作・山本正典演出・原竹志)atピッコロシアター80点
以前他劇団で上演したらしい演目です。内藤氏らしいいつものパターンだが、冒頭の水辺での事故もそれほど尾を引かないし、肝心の借金マニアのダメ先生もなんだかなあ、ピンとこないです。それぞれの役者さんたちの演技はそりゃあよくできてます。でも今回は吾輩に迫ってくるものがちとおとなしかった感がします。テーマ性がいつものように前面に出していないように感じられるのは吾輩だけでしょうか、、?この劇団は事務所を変わるので、もう今年の劇はないようです。楽しみにしていたのにそれだけが残念。また皆さんとお会いしたいものです。南河内万歳一座「新・あらし」(作・演出内藤裕敬)at一心寺シアター70点
障害児と社会とのありかたを描いたものだが、キリスト教の理念にはかなり入り込めてはいるが、肝心の事件の真相に触れていないので、どうにも煮え切れない気持ちが残滓として残る。主人公デミョンの演技は出色ものだ。連鎖(2020/韓国)(キム・ジョンシク)70点
これは面白いです。設定が本格ミステリーファンならではのわくわく感。ありえない話といっても最近はやりのSF的手法ではなく、往年からのミステリーファンでも十分楽しめる著書となっている。よくこれだけ考えられたなあと感心する内容なので、これぞ本格ミステリーといいたい。シリーズ化されるのを期待したい。アミュレット・ホテル(方丈貴恵著)(光文社2023)80点
突撃金魚は好きで、東京にまで遠征したこともあった。そのうちサリngROCKさんが出演しなくなり、山田蟲男さんは大きく変身する。作品も軽妙で少女っぽい軽やかさを持った作品から重く暗いものが多くなっている。でもずっと見ているのだが、、。今回はなんと出演がかなり遠のいていたサリngROCKさんの久々の出演で、もう見る前から少々精神高揚気味。そしてそれは叶った。それだけで私的には十分なのだが、この作品、なんとあの小さな舞台に多数の俳優陣出演、しかも全員練習十分、演劇的には古代歴史絵巻大開帳、エンタメ性も十分で面白い。ものすごいパワーを舞台にまき散らしておりました。そらそうだろう、30人ぐらいの俳優たち、みんな所属の劇団に戻れば主役級の人たちばかりだ。演劇ファンにはたまらない舞台となりました。今年前半の出色の出来。突劇金魚「GFT版贋作・桜の森の満開の下」(脚本山田蟲男、サリngROCK・演出山田蟲男)at芸術創造館85点
話題作である。即、見に行く。なるほどそういう映画か。でもちょいとあざとい感じが匂うかな、、。映像は全面パンフォーカスしていて細密画あるいはワイエスのような画像で美しい。うっとりする。これも恐らく塀の向こう側で行われていることを無視することのできる人間への限りない嫌味あるいは警鐘のつもりなのではあるまいか、そんな気もする。冒頭から何度も出てくる画面の黒塗り。かすかに聞こえる収容所での物音。ああ、あざといなあ。こんなやり方でしかこういう人類の真っ暗な深部を描けないと思っているグレイザー氏、幼稚過ぎません?これに音響賞を与えるアカデミー会員も同じく。さて、かなりいつもと違いけなしている吾輩ですが、作品的には全編ワイエス風の映像がやはり美しく、静謐な美術画をずっと見ている気がいたしました。あの夜中にリンゴを置くあ...関心領域(2023/米=英=ポーランド)(ジョナサン・グレイザー)80点
予告編で絶対見なきゃと思ってみた作品。同僚から疎外される教師の日常を描いている作品かなと思ってたら、意外とオーソドックスなホントありふれたどこにでもある教室を描いたものでした。主人公の女教師や校長先生、ほかにそれほどやる気のないフツーの先生たちがまるで自己回顧の気持ちを持たない人たちなので、見ていていやな思いをするのだけれども、でもそれなりに面白い作品ではある。これだけ騒ぎを起こしておいて、生徒に責任を取らせる学校もそれは日常的な行為であり、ありふれたいつもの学校風景なのである。ラストの、生徒を強制連行する神輿を担いだかのようなシーンはある意味爽快にさえ映るのはこの映画の皮肉ぶったところなのでしょう。ドイツ映画はいま世界でもかなり目立って秀逸な作品を生み出している。何かな?ありふれた教室(2023/独)(イルケル・チャタク)80点
いろんな話をいつも様々に展開してくれる1mg。今回はぐっとハートウォーミングの、笑いあり、涙ありの演劇の原点に戻ったかのようないい劇でした。劇場に入ると、古ぼけたアパートの設定なんだが、大道具が斬新で美しい。住民の俳優陣の演技もてきぱきしていてそれがまた美しい。そういえばみんな若く、また美男美女ばかりで、見ているだけで気持ちがさわやかになる。いい話なのである。そこに、時代を20年時間軸を動かして重層的な仕上げに徹していて、脚本のうまさが光っているナア。この劇団は何でもできる劇団なんですね。そういえばこの多様性は、客層も若い人たちから老人たちまで層が厚いと感じる。またまた次作が楽しみになってきました。いい休日でした。劇団1mg「ユメミソウ~夢見荘~」(台所編)(作・演出伊達百式改)於indpennded2nd80点
これは読みやすく、しかも設定がめちゃ面白い。どんどんページを繰る。あっという間にラストまで一気だ。離島で起こる連続殺人事件。通常は通信機関がオミットされる。しかしこの小説ではそんなことはせず、登場人物たちが身の危険を感じ、警察に連絡できない状態にいる。この設定はユニークだ。そして犯人がいるのを確認しながら行う「こっくりさん」。面白い。才能まで感じるほどだ。しかし、ラストの叙述トリックは何だ。あんなことは違反ではあるまいか。読者をだましているのと同じではないか。ちょっと許せない気もする、、。そうすると他にも何だかなあ、という突っ込みもいろいろ沸いて来る。この点が一番の問題点。ミステリーは面白いのと斬新なだけでは褒めることのできないなにものかが存在する、と思うのだが、、。十戒(夕木春央(著)(2023講談社)80点
期待してみた映画だったが、、。原作読んでいないので、なんとも言えないが、ある老人の死が四方八方に波紋を立てるように、すべてフォーカスされていないので、何が何だかもやもや感が残る設定になっている。そしてそのど真ん中に、事件と関係のない福士と松本とのドロドロ愛欲関係を据えている。余計、観客は訳が分からなくなる。731を急にこの話に無関係に持ってきたりして、さらに私は戸惑う。大森は何を考えとる。雰囲気は確かにあるなあ、、。でも結局それだけの映画かな。彼は最初の作品「ゲルマニウムの夜」が強烈で秀作であっただけに、「日日是好日」を頂点として、それ以降の作品はちょっとどうだかなあ、と思う。演技としては福士はなかなかいい。財前はさすが。松本はなんだかまばゆい。近藤、平田、根岸はもったいない使い方。大森はどこへ行く。湖の女たち(2024/日)(大森立嗣)65点
劇映画なんだけど、ドキュメンタリータッチというか、ドキュメンタリーを目指してる。そのせいか、映画的高揚が持続せず、すぐ途切れてしまう感覚があるのは、時間軸効用でカットを多用しているからかもしれない。こういう映画作りもあるのだなあとは思うけれど、現実政治へのプロパガンダへの貢献は理解でき、また映画的にも優れていることは否定しないが、あまり好みではないかな、、。結局、彼は何をしたのか、最後まで不明瞭だったような気もするし、何より家族関係では、結婚しているのだから、母親より本来妻の方がしゃしゃり出るべきであろうと思うのだが、この国ではどうもそうではないらしい。なんだか日本人にはわからない点もある。あっ、俺だけ?ミセス・クルナスvsジョージ・W・ブッシュ(アンドレアス・ドレーゼン)(2022/独=仏)70点
骨太作品「新聞記者」の監督の藤井がこんな100%純愛映画を撮ろうとは思わんだ、、。嘘だろうが、から、だんだん見るモードが純愛本気モードにフォーカスされていき、そしてどんどんはまって行き、、やがて最後はいつも通り、号泣させられる羽目になる。藤井に負けた。まさかと思った。そう言えば、彼と清原とは「デイアンドナイト」「宇宙でいちばんあかるい星」でタッグを組んでた。好みなんだろうな。いい女優だ。黒木お二人の女優の使い方もなかなか秀逸。ましてや、松重の使い方のぜいたくなこと。藤井のチカラなんだろうな。でも何といっても、恥ずかしいほど昔からの純愛映画路線に沿ったストーリー展開の紡ぎ方は100%ストレートですがすがしいほど。それがいい。でも清原は化粧なしの方が断然いいと思う。NHKドラマ「透明なゆりかご」のころはひょっ...青春18×2君へと続く道(2024/日)(藤井道人)80点
若い方々の結婚観がわかりづらいのは年のせいか、それとも脳の中身が全く異物であることに気づかないだけなのか、なんてふと思う。でも、この映画、何か颯爽とした清涼感が吹きあふれ、僕は気に入った。これだから映画は見ないとわからない。途中で長澤がいなくなるので、主役がそんなに不在でいいのか、なんて思う時もあったけど、それはそれでその不在がこの映画の底流を流れるテーマだからと思いつくまで、その時間感覚が後で惜しくなるほど愛しい。全体に及ぶこの現実感との違和感は何か?おそらくこの原作がどうもあやしいのではないか。小説的過ぎて、実際的な生活感に乏しい、とまで言わないけれど、でも逆に考えるとこの映画の魅力のほとんどがこの現実感の不在にあることに気づく。人工的な話だけれど、若い人たちの脳裏にある愛の実現とはこういう形で行われ...四月になれば彼女は(2024/日)(山田智和)80点
中編2本。「FROM~」は一人芝居。福島の被災者から日本に送るメッセージの集大成だと思う。もう13年か。されど日本人はもう忘れかけているのではないか。そんな思いを小さな熱源にして被災者からというより、もう一人間として響くように心から叫び続ける女性。その姿は圧倒的だ。確かに、2年ほど前福島に一泊したが、町は完全復興を遂げ、この大きな災害には見ただけではあったかどうかさえ忘れるほどだった。しかし、一人一人の胸の内には秘するものがあるのだろう、そんな感想を得た。「ねずみ狩り」は二人芝居。ごみ溜めの街。中年の男と女。彼らも贅肉と年齢を重ね、実際はごみ溜めの現代に息づいている。二人は自分を語ろうとしないので、持ち物からしまいには衣服まで脱ぎ取る羽目になる。そして真裸の透き通った人間に戻ったとき、自分が狩られる鼠だと...アートひかり「From2011.」「ねずみ狩り」(作・小池美重ペーター・トゥリーニ)(演出・仲田恭子)at難波サザンシアター80点
演劇一筋の野村が20周年、そして東京進出を記念して今までの演劇生活をフィクションだが、自分の演劇歴をかじりつつ一人の男の人生を形成した骨太の作品です。演劇人7名のそれぞれの生き方をつぶさに丁寧に描写したのがいいね。演劇内では昔こういうドロドロした関係がよくあるとは聞いていたが、現代でもそうなのか、と言いたいとところだが、そこはフィクションと野村は割り切っている。演劇陣にも演劇好き観客にもとても興味のある質の高い演劇です。オパンポン創造社「幸演会」(作・演出野村有志)atindepended2nd80点
古き良き時代への哀悼を持ちつ、それでも人間同士のはぐくみを夢見た映画人のオマージュが読み取れる。出演者はごった煮のように溢れ、話も尾ひれを持ちながらそれぞれいい具合で完結する。あまりに、あっけらかんなので二ヤ笑いする。ダウントン・アビー新たなる時代へ(2022/英=米)70点
現代の若者の現実を描いている。流れるままに、から自分の目線で現実を切り開いて行ける、までの成長期映画。でもこの映画の偉いところは「カネ」の本質をきちんと描いているところ。女の子が彼と同棲し始めるのを躊躇するのもカネだし、生活するために本を書くのもカネのため。その意味でもまさに現代性を表している。即物的なのだ。『行く先/後世』(ルーダ・ベン・サラ=カザナス)65点
静かな自分探しの映画です。台湾の緑島という島がいい。海、波間、岩。そこに育った兄、妹。離れ離れになってもいつかはたどり着ける。あまりの境遇の哀しみに続く思いがけないラスト。静かな涙が流れる。恋人のボクサーは少々付け足し。あなたを、想う。(2015/台湾=香港)(シルヴィア・チャン)70点
2作目から見たが、この処女作は2作目の原型か。カメラの舐め方、詩情、展開などにそれを感じる。けれど、見る方も我慢を強いられるのも事実。そんな大陸的な大きさがビー・ガンの持ち味だ。中国南西部にの道路には中央分離帯がない、、。凱里ブルース(2015/中国)(ビー・ガン)75点
ビー・ガン初見。噂通りの舌を巻く快作。全編漆黒の画面にゆらり動くカメラ。酔いそうになるほど。ストーリーはそのうち夢と現実と混濁しどうでもよくなる。何と言っても映像ですな。全編ポエムです。豪雨。水。林檎。緑色の本。ザボン。卓球。ラケット。松明の炎。古びた時計。回転家屋。線香花火。うーん、もう一度見たい。ロングデイズ・ジャーニーこの夜の涯てへ(2018/中国=仏)(ビー・ガン)85点
韓国映画で、最近都会的なスタイリッシュな映画を見ることが多く、たまにこんな生活感豊かな庶民性の溢れた映画もいいものだ。途中出て来るのど自慢の歌が日本のド演歌にそっくりなのもほほえましい。いい映画です。大切な人を想うとき(2018/韓国)(コ・フ)75点
高校教師と生徒との禁断の恋。ある不幸を抱えたまま、20年の歳月を経て、、。というめちゃロマンチックな映画です。もうこの歳ではこんな映画見れんだろうと何度も思ったが、なんと最後まで見てしまう。ラストの意外性は美しく、また主題歌もよかった。まだ俺も捨てたものじゃない。クレヴァニ、愛のトンネル(2014/日)(今関あきよし)70点
ジョージア舞踏団に配属するダンサーたちの人生を描いた珍しいジョージア映画です。生活が貧しく、生きるのに精いっぱいの市井の人々。主人公のメラブは愛を知り、そしてそれを乗り越えた先にオリジナルのジョージア舞踏を創り出す。異文化ムードぷんぷん。ダンサーそして私たちは踊った(2019/スウェーデン=ジョージア=仏)(レバン・アキン)75点
スペインの北ヒオンに戻って来た女の子。家は破産寸前で電気も止められる。そんな母娘のSNSを駆使した現代の波間に浮かぶ危ない生活。でも彼女たちは立派に現代を生きている。生きる哀しみも感ずるが、元気さえもらえる明るい映画です。エルプラネタ(2021/米=スペイン)(アマリア・ウルマン)80点
車が道路でエンコして、それから様々な人たちの孤独感を伝えていくが、それは生きていく上でどうしようもないことなのだった、、。そしてまたラストで同じ車が道路上でエンコする。人生はリフレインする。全体にもっと凝縮できなかったかなあ。台北暮色(2017/台湾)
鬼才アニエス・ヴァルダの処女作。パリ郊外の市井の人々が営む一日を、倦怠期が訪れた夫婦がずっと話しながら歩き続ける光景を通して描く。二人のアムールがなければ1950年代、日本、イタリアのネオレアリズと全く変わらない写真だ。人々の生きる喜び、苦悩をさらりと撮ってしまうヴァルダの才能が垣間見える。ラ・ポワント・クールト(1955/仏)(アニエス・ヴァルダ)75点
昔同性愛が犯罪だったころの哀しい話です。現代にでもその感覚が残ってはいるような気もするが、考えさせられます。映像、演出は秀逸。ターナーの絵画のごとく、イギリスの海の風景が登場人物たちの心象を写し取っている。僕の巡査(2022/英=米)(マイケル・グランデージ)75点
人生の最後を迎え、昔ながらの友人たちが一人の友の遺灰を巻く旅に出る、、キャストがものすごく豪華で俄然自分の青春を振り返ることになる。話が感動的なのになぜか盛り上がらないのはこれぞ演出のなせる業か。情に流れとるよ。ラストオーダー(2001/英)(フレッド・スケピシ)70点
ロシア映画では珍しい老人ものコメディ。一人で周りに迷惑をかけちゃだめだと自分のお葬式を設える空っとしたほのぼの映画だ。でも、どこかで冷め切った人生への覚醒感も垣間見えるし、エスプリも効いている。全シーン余裕もあるし拾い物の秀作映画です。彼女が起こすてんやわんやに人生のおかしさ、哀しみさえ見える。私のちいさなお葬式(2017/露)(ヴラジーミル・コット)85点
気になっていた展覧会に行く。この中之島美術館は開館1年を経るが、初めて見たい絵画展が来たのだ。佐伯は子供時分からかなり好きな画家で、ユトリロとブラマンクに佐伯はかなり影響されていたらしいが、僕はこの二人が昔から好きで、何度も絵画展に行ったものだ。佐伯祐三の絵画はこの中之島美術館の前身に、確か心斎橋の東急ハンズの横側にひっそりと佐伯美術館があったのだ。ことあるごとく、僕は通う。だから今回の美術展はそのリフレインだろうと思っていた。ところが、その心斎橋の佐伯美術館と、今まで見てきた佐伯の画集とも少し違う違和感を今回は持ってしまった。それは何かというと、今まで絵から感じ取った哀しみといった感覚がほとんど感じないのだ。あのあっけらかんとしたユトリロでも感じた哀しみは今日の絵画展ではあまり感じられなかった。まるで違...佐伯祐三展を見て
私とは何か?という普遍的な命題を持った映画です。何なんでしょうね。私はこの歳になってもまだ分かりません。それが分からないまま、人は誰かと共生することを考える。だって一人は寂しいですから。この「私」は私には長年寄り添った老妻のように思えました。わたしの叔父さん(2019/デンマーク)(フラレ・ピーダセン)80点
いい映画だ。少なくとも障碍者の心の襞をここまでじっくり描いた作品もまれだと思う。そして映画は彼女(音のない日常)を通して、実は我々(会長)を映しているのだ。その双璧となす圧倒感は絶品。ケイコ目を澄ませて(2022/日)(三宅唱)80点
ミステリーとして見ていくとどうももたもた感が気になる。けれど後半彼らは現生を超え、二人だけの涅槃ともいえる世界にまで駆け巡る。これほど強い愛の世界は妄執ともいえる。「嵐が丘」のあの二人を連想す。別れる決心(2022/韓国)(パク・チャヌク)80点
連城がなくなって早20年。その間の未稿等を集めて出版された短編集です。男女の機微をミステリーの主題にすべての作品が力作です。あまりのドンデンがえしにまさかと思われる作品もあるが、ミステリーというより純文学の感触もあり、読みごたえがある。連城の女性への追及または恋慕は想像を超え、まさに孤高の作品と言えます。素晴らしい。黒真珠(連城三紀彦著)(2022中公文庫)80点