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米米米 こどもべやのうさぎ 米米米 https://blog.goo.ne.jp/usagiusagiusagiusagi/

ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。

褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。

いちたすには
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2009/04/15

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  • ■彼は誰れ時に魔と再逢021■

    「此れは、ご依頼頂いたご家庭には漏れなくお配りさせて頂いている、次回すぐ利用できるクーポン券であります。今回お役に立てなかったのにお渡しするのは心苦しいのですが、もしまた霊的現象が起きました際には、割引させて頂きますのでご笑納ください」がっくり肩を落とし籠氏万は、クーポン券と前金を入れたくしゃくしゃの封筒をテーブルに置くと、重い足取りで機材を引き摺り去っていった。「俺は最初っから嫌な予感がしてたんだよ。なんだよ此の缶空(かんから)は。中国製の偽ゲーム機かよってくらい中スカスカじゃねーかよ」カゴシマン消霊が片付け忘れて行った機材を乱暴に蹴り飛ばす無量塔(むらた)。蓋が開き、中から小さな基盤と小学校の工作で使いそうな電池ボックスが転がり出る。結果、撮影初日に参上したのは、招かれざるオシロ婆さんと有言空振りして退散し...■彼は誰れ時に魔と再逢021■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢020■

    「おかしいですねぇ。昨日は確かにお台所に反応があったんでありますぅ」嫌な汗を拭きながら機材を叩いたり揺すったりして再起動を試みる有限会社カゴシマン消霊の社長。昭和のテレビ調整のノリである。が、特に此れと言った不具合は見つからない。「次の行程としましてはぁ、特定された幽霊を物理的に撃退し報奨金額の交渉する予定だったのでありますがぁ」行程も予定も幽霊の証明が成されてない。幽霊が存在するのか判らないのだ。存在を主張するもセンサーに反応がないのだから説得力は皆無である。此のままでは、何もない家で何も起こらなかったという何だかわからないドキュメンタリーでお蔵入り。怪奇現象は、住人の勘違いか思い込みか狂言だったことに。籠氏万は焦った。前金は受け取っている。何もないのなら返金だ。当然、此処までの経費は自腹になる。収支は赤字、...■彼は誰れ時に魔と再逢020■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢019■

    抑々(そもそも)連れてきたのは籠氏万(かごしまん)なのだから、衣斐女は説明を受ける必要がなかった。行く先々で同じ文言を並べる籠氏万蔓を見て来たのだろう。飽きて縁側から降りて床下を覗き、ダンゴムシを捕まえて遊ぶ。食べ尽くしたポッキーの空き箱はすぐダンゴムシで一杯になった。意義があるのは集める処までで、貯まったものには興味を失くす世代の衣斐女(えひめ)と結衣。そして子供は残酷だ。箱の中で丸まったり広がったりするダンゴムシ達を、節分の福豆宜しく庭の中程にぶちまける。皐月であっても陽が昇ればダンゴムシは堪らない。何とか翌朝までに庭隅の木陰まで逃げ戻れる様、祈るばかりだ。一方、長い説明を終えた籠氏万一行は帰り支度を始めていた。結果は記録を観れば済む話なので、一同は予約していたビジネスホテルに引き上げるのだ。計測できると本...■彼は誰れ時に魔と再逢019■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢018■

    「はい出ました此れは必然です知っているから反応したのではありません。貴方のお家の被災の発生源はお台所に居るという揺るぎない事実を、弊社特許出願中の高性能マッシーンが探知して知らせているのであります」西欧独特の色使いで描かれたブリキの菓子缶に穴を開け、曲げた針金を差し込んだだけの簡単な探知機。電気的反応を示すのだから何かしらの機械が内蔵されているのだろうが、外箱には電源を入れる押し釦が一つのみ。其の配線もセロテープで留めただけで、夏休みの自由研究レベルの仕上がりだ。しかし針金はキッチンに向く度に悲鳴のような警報音を響かせた。幽霊を検知した<吾主莉/rb>(あおもり)は、システムキッチンの天板に上がり羽扇子を振り回して踊り狂った。家に上がる時に脱がなかったピンヒールが、調理するステンレスのワークトップを凹ませる。「...■彼は誰れ時に魔と再逢018■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢017■

    翌朝一番。定数を決めずに募集を掛けたうちの二組目が来訪。一番目は呼んでないのに来た招かれざる人だったけど。「どぉもどぉも。いやいやいやいや遠かった。バス停からお宅までが未舗装路で20分なら先言っといてくださいよぉ。砂利でカートのタイヤ、みぃんな逝かれちゃったであります」薄汚い白衣に身を包んだ栄養が足りて無さそうな男たち。に混じって古臭いバブル時代のボディコン女やバスの中でもパンプアップしてたに違いない汗だくのマッチョ。と小さな女の子。様々な大きさのジュラルミンケースを縛ったハンディカートやスマートキャリィを引き摺っての登場だ。「さぁテキパキ動いてくださいよぉ。吾主莉鈴子(あおもりりんこ)くんはセンサーを起動させて発生源を特定してくれたまえ。月見里武々(やまなしぶどう)くんは測定室を確保。衣斐女御神(えひめみかん...■彼は誰れ時に魔と再逢017■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢016■

    「10万詐欺(さぎ)られた。てかお姉ちゃんなんで払うの?てかお姉ちゃん、アレ誰?」次女は廊下にへたり込んだ。「ママ入院してパパ居なくなって、お金は幾らあっても足りないから、少しでも足しになるならって密着オーケーしたのに。あんなんに10万も盗られてたら其れだけでもう赤字じゃん」次女はもうベソ。「まあまあまあまあ落ち着いて。アレの襲来は想定内ですから。おい誰かコーヒー。今からちゃんと説明しますから、ね」招かれざるオシロの来訪に、段取りが狂ったスタッフ達は右往左往するだけの烏合の衆。「アレはオシロ婆さんと言って2年程前に降って涌いた、此の業界じゃ有名な迷惑婆さんなんすよ」カーディガンの男は、アイコスを口に咥え眉を顰め台本を丸めた。「年寄りで足腰弱ってる癖に的確に問題箇所を目指すわ、年寄りで碌に目が見えない癖に瞬時に問...■彼は誰れ時に魔と再逢016■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢015■

    「だからお祓いに来たんでしょ。訳わかんないこと言わないの。其れと結衣ちゃん、わたしは巫女じゃなくて馬娘(まこ)だから。其処は結衣(ゆい)ちゃんと、ちょっと違うのよね」オシロと呼ばれた老女は、結衣に手を預けてスニーカーを脱いだ。「さ、案内して。お台所よ。お台所に案内してちょーだい。禍(まが)が澱(よど)むのは水の近くって決まってるの」広い三和土に脱ぎ放された靴々を蹴り散らかしてオシロのスニーカーを揃える結衣。南向きの玄関から北側の台所まで貫通する廊下は、テレビ局の機材やケーブルでごった返していた。9尺4枚建の玄関引き戸を左右に開け放ち、その正面を狙って定点カメラが鎮座。廊下にもポールが立てられカメラが設置されている。結衣に手を引かせて入った台所で、羽織っていたフォーエバー21のパステルカラーポンチョストールをAD...■彼は誰れ時に魔と再逢015■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢014■

    「あれ?あれって、結衣(ゆい)じゃん。片っぽあれ結衣だよ。結衣友達連れて来んなし。駄目じゃん今日テレビ来るって言ったっしょ」長女は掌で日差しを遮りながら、近付く二人の素性に目を凝らした。「うわわわ。オシロのお婆ちゃん来た。あの人呼んでないのに来た」此処で初めてベースボールキャップに肩掛けカーディガンの男が口を開いた。「え?え?誰?誰?お婆ちゃん?」次女は口からポッキーを落とし、裸足で三和土に駆け降りた。「今日(おこんち)は」結衣と手を繋いで現れたのは、背格好は結衣と同じ小学1年生に見えるが90近い老婆だった。「あ~居るわね居るわいっぱいだわ。禍膠着(こびりつ)いてるわよ此の家には。良かったわね蔓延(はびこ)る前に私に出会えて。蔓延(まんえん)してからなら100万だけど、今ならお得で10万円よ」老婆はぐるり一同を...■彼は誰れ時に魔と再逢014■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢013■

    「プリベル判んない?プリンスオブペルシャの略だし。タミーナ王女だし。アンタ去年ハロウィンで着てたし」盆地の集落は、四方を囲む山々に阻まれ、テレビ電波はおろかWi-Fi電波も届かない。「あれってペルシャの民族衣装なん?知らんで着てたわ。ちょっとエロいからモテるかなーってノリで」最寄りの駅までバスで10分、そのバスも一時間に多くて2本でバス停までも徒歩10分。大雨が降ると山からの鉄砲水が道路を横切るので運休。止んでも泥土で埋まった道路は復旧に数日を要す。「知っとけし。てかアレ、アタシが貰ったし。なんならアタシもう着てるし」等高線に添って山を一周する国道に貼り付く人家は、お隣さんでも味噌汁が冷める距離。街灯が無いし野生の猪が出るので、そもそも夜は味噌汁を持ったら出歩けない。「女装家も酷かったけど、霊能力者でーすって入...■彼は誰れ時に魔と再逢013■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢012■

    「最後に来るのは…」長女はポッキーを一本咥え、寄り目で枝毛をチェックした。「誰かしら、ね」お通じが悪くなったのは上司が無能だからだと辞表を叩きつけ、返す刀で家事を分担しない同棲相手から合鍵を毟り取り、折半していた家賃食費光熱費の全額負担がキツいからと実家に帰巣し居座った暴れ馬の姉。「最後?」次女は上り框(かまち)を踵で蹴りながら長女のポッキーに手を伸ばした。「最初じゃなくて最後?てか未だ誰も来てねえし」染髪不問という校則に惹かれて受験した高校がメイク禁止であることを入学式に知り一日たりとも登校せずに中退した、我儘を身勝手でコーティングした様な唯我独尊主我主義の妹。「そうよ。最後。大切なのは何時も最後。真打は何時も一番最後に登場するの。5年前もさ、結局解決してくれたのは、一番最後に来た人だった」インスタに上げたコ...■彼は誰れ時に魔と再逢012■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢011■

    髪を高く結った若い店員がスマホ片手に駆けてきて、画面に映し出された金額を差し出す。機能的に短いスカートから覗く眩しいばかりの太腿に、刺さらんばかりの視線を向ける村民2人。「お客さん、お店の前で配ってるチケットってお持ちですか?」息が掛からんばかりに頬を寄せてスマホ画面を見せる店員が、誘っていないとは言い切れない距離で囁いた。「無え。そったらチケットだかは受け取って無え」刃丈太は髪に触れようと伸ばした手を慌てて引っ込めた。「そしたら私、外行ってお客さんの分、貰ってきますよ。ちょっと待っててくださいね」健康的な大腿四頭筋は返事を待たずに店の外へと走って行った。大腿二頭筋を見送りながら、2人は股間を押え前屈んだ。「堪ンねえなあおい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に見えるわ」「なあなあ。キャバクラ奢ってくンなましよ...■彼は誰れ時に魔と再逢011■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢010■

    「したら、物集女の娘っ子が、1人でアレを退治したっちゅう事か?」「したら、物集女の娘っ子が、其の物凄い才持ちっちゅう事か?」元村人2人も震える手で箸を持ちお猪口を叩く。「ンだ。状況がそう物語っとる。三方から3人で囲まにゃあ斃せねえアレを、木刀を手にした一花が、御破代と木刀と己で、詰めたっぺよ」辺りにはもう客は居なかった。カウンターの中で洗いものをする音だけが店内に響く。「したら、もう3人集めンでも、物集女ン娘だけ居れば安泰ってか」「したら、物集女ン娘さえ居れば、村さ帰っても大丈夫ってか」顔を見合わせ呆然とする村人。驚く2人を見比べて刃丈太は悦に入った。「したらしたら五月蠅えっぺ。村はもう廃墟になってっし、土地も家屋も相続放棄してっから戻っても住む家は無えっぺよ」糠喜びに項垂れる2人。奥の座敷の電気が消される。暖...■彼は誰れ時に魔と再逢010■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢009■

    「数えてみれ。あン時、村に才持ちは何人居った?」刃丈太は3本指を突き立てた。「1人は勤め空け間近の御老体ずら。足腰ふらふらで自力では立つ事も出来ね。も1人も覚醒してすぐに大物を斃した疲労で傾眠状態が続いてたずら」話に合わせて指を1本づつ折っていく。「3人目はアレに毒さ吹き掛けられた脚が壊死起こして歩けねかっただ」3本折り終った拳を村人に突き付ける刃丈太。「3人共、自力では出歩けねえ爺さま寝たきり療養中だな」「ンじゃあ、誰がアレを柱ン処(とこ)まで追いやっただか?」刃丈太は遠くの席の空き皿を片付ける店員の生脚を眺めて目を細める。「他に申告ない才持ちが隠れて居たって事が?」「そうだ。でなければ辻褄が合わねえ。アレが食事半ばに柱に惹き寄せられるか?木刀が宙を舞ってアレを斬るか?オカルトかって話だわ」「人の命吸う大蜘蛛...■彼は誰れ時に魔と再逢009■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢008■

    11時を過ぎた大衆酒場は、平日という事もあってだろう空席が目立ってきた。隣の席には刃丈太(はたけだ)が投げた鉄串が転がった其の侭で、座布団に油染みを広げている。「此ン話あ、此処だけの秘密だぞ?守れや?」酔いが回った刃丈太が、村民2人の首を掴み引き寄せた。「寿樹の親な、あれは、忌(い)に噛まれた時点では未だ生きとっとうと」何の話か解らず口を開けた侭、次の言葉を待つ2人。「通夜もやって葬式も出したが、実あ、昏睡状態で何年かは生きとった言う話ぞ」2人は刃丈太を振り払い、尻で後退(あとずさ)った。「嘘扱け。アレに噛まれて死なンだ奴なんざ、此れまで一遍たりとも見た事が無えぞな」「いや。俺はおかしい思うとったンなら。誰も棺ン中見せて貰おてなかったげな」「死ンどらんかったんかい。なら廃村にすっ事も無かったべ?判断ば、早まった...■彼は誰れ時に魔と再逢008■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢007■

    「ほんに酒が過ぎただなや」「ちっとばっか口が滑っただよ」刃丈太に凄まれた村人が、肩を竦め戯(おど)けて見せる。しかしもう1人は関知せずに店員を呼び、呑み切れなかったら持ち帰れる焼酎を注文していた。「何がちっとばっかだ。口にしていい事か悪い事か、もちっと考えてから喋れや」緊張感が全く無い2人を見比べながら刃丈太は噛んで含めて釘を刺した。「ンで?百鬼ン処のチビがどうしたて?」辺りを警戒しながら踏ん反り返り直し、素知らぬ顔で刃丈太が探りを入れる。「いややや。あのチビの才(さい)は、こっちじゃ珍しかろうて思うてよ。動画とかで配信したら稼げっかなあ、なんて」鉄串に噛み付き一息に抜いた肉を頬張り、再度刃丈太は声を荒げた。「ンなこったろうと思うたわ。御前は緘口と言うもンがまるで分かってねえ。何の対価で恩賞を戴けとると思うとン...■彼は誰れ時に魔と再逢007■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢006■

    不満を溜め吐け口を求めて刃丈太宅を訪れる者は後を絶たなかった。刃丈太は不動産や投資で成功し、大邸宅で暮らしていたからだ。今日もアポなく訪ねて来た2人の元村民を、駅前まで追い戻して居酒屋に押し込んだ。「街あ何でも金が要るで。村さ居た時あ欲しいなんて思わんかった物(もん)も、間近で見ると欲しくなるだ此れが」突き出しも未だなテーブルを前に、乾杯も待たずにもう陳情。「たまにはキャバクラでも奢ってけろ。俺等が貰ってる恩賞じゃあ、動画サンプルしか見れねでよ」お品書きに顔を埋め、刃丈太の目も見ずにもう次のお強請り。「馬鹿扱くでねえ。死ぬまで働かねで暮らしていける恩賞を下さるンぞ?もちっと有り難がれや。チヨダには、金額上げてくれる様、頼んでやるし」骨折って交渉してやった優遇に文句垂れる元仲間を、刃丈太は蛇蝎を見る目で疎んだ。連...■彼は誰れ時に魔と再逢006■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢005■

    「ンだどもよ。代々働いて来なンできた俺等さ、町で暮らすってもよお。さあはてなかなか」「刃丈太さん処(とこ)だばはあ、娘っ子が町に嫁いでっし、息子も町の役場で働いてっし、苦労ねえンだろけどさ」「俺なんざ10画以上の漢字、読めねえし書けねだど?仕事なんかはあ何(なん)も務まンね」料理を突き愚痴るだけの村民に業を煮やした刃丈太は、机を叩いて立ち上がった。取り皿が面子の様に引っ繰り返り、醤油が方々に散る。「分がった分がった。したら、生活が出来ればいンだべな?したら、俺がチヨダにそう掛け合ってやる。其れでどうだ?」暫くの沈黙の後(のち)、皆は手に手に箸を取って皿を茶碗を徳利を小さく叩いた。此の村の、賛同を表す相槌だった。「ンだなや。刃丈太さんが頼んでくれンならチヨダも動くべよ。チヨダに助けてもらうべ。此れまで命懸けで御国...■彼は誰れ時に魔と再逢005■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢004■

    「だーかーらー儂は潮時じゃ言うたんじゃい」既に酒が廻り赤ら顔で目の座った刃丈太蛮治(はたけだばんじ)は飲み干した猪口をテーブルに叩きつけた。「止めれ。通夜の席でする話じゃあねえ」皆が目を合わせるのを避けて俯く中、遠くの席から誰かが諫める。夫婦揃って虚血性心疾患で急死した寿樹の両親の通夜振舞いの席。「じゃあ何時(いつ)議すんじゃ?儂は何遍も進言して来たンぞ。誰(だあれ)も耳貸さんかったけンどよ」翌日に葬儀を控える喪主は親族ではない隣家の刃丈太。寿樹の親族は亡くなった両親だけだった。寿樹は此の葬儀で天涯孤独となったのだ。「もう限界だがね。最近で見込みがあるンは、百鬼(なきり)ン家(ち)と物集女(もずめ)ン処だけじゃろも。百鬼ン家は寿樹で最後じゃし、物集女ン処もちっこい娘で終(しま)いじゃし」受付に広げられた芳名帳に...■彼は誰れ時に魔と再逢004■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢003■

    蜘蛛は圧されながら顏を一花に向けた。六つの眼の焦点が一花に合わさる。山の入り口で道を外れ、一花は藪の中へと分け入った。行く手を阻む笹竹を掃いながら、一花は蜘蛛を押し続けた。陽が暮れかけた山間(やまあい)の寒村。其の外れに位置する寿樹の家が、笹に隠れて見えなくなった。裸足の脚や手や顔に葉の縁の鋸歯が当たり、一花の肌は赤く筋を引き血が滲む。其れでも一花は押し続けた。押すを止めたら蜘蛛が反撃してくるから。「力が落ちて来たな。そろそろ限界か。どら。御前を戴く事とするか。御前を喰らわば我は大きく伸びるであろう」蜘蛛が8本の脚を踏ん張る。小さな女の子の体力が尽きる。「独りで勝てると思い上がったか。刀があるから負かせると過信したか。三位(さんみ)揃えず挑む愚かさを悔いて現世を去(い)ね」其れは偶然なのか。幼いながらも近いうち...■彼は誰れ時に魔と再逢003■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢002■

    一花はもう限界だ。斬っても突いても蜘蛛は体液を噴き出すばかりで一向に弱る気配が無い。どうしても蜘蛛を追い払う事は出来ないのだ。「出てって。よっちゃん家(ち)から。今すぐ出てって」自棄となり自暴の果てに一花は蜘蛛を手で押し始めた。六畳間を狭しと鎮座する大きな蜘蛛を未就学児が紅葉の様な手で押す。人を襲う人より大きな蜘蛛を前に竦まず立ち向かい、気味の悪い腹部に触れてでも排除しようという小さな女の子が奇跡を起こした。全長2メートルを超す蜘蛛は自然界には存在しないので其の目方は計れないが、粗雑に想像しても人の非力で動かせる重量ではないだろう。なのに蜘蛛は減り込む掌に悶えながら暗い廊下を玄関へと押し遣られてゆく。斬られ突かれて内臓を打ち撒けても動じなかった大蜘蛛は、幼児に圧されて家から排除された。「あぁ。御前は其の者だった...■彼は誰れ時に魔と再逢002■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢001■

    「貴方は誰?此処で何をしているの?」幼い一花(いちか)が目を凝らす先は、誰とは問うたが人ではないのは見てとれた。玄関から南北に貫通する廊下の突き当りに位置する客間の暗がり。障子戸から射す僅かばかりの陽に浮かび上がる影は人の動く様ではなかった。築百年を悠に越す古民家は、核家族化した都会からは考えられない部屋数と収納を誇る。建坪や建蔽率だけを聞けば羨ましい限りだが、開口部が多く機密性に劣る田舎家の奥座敷は空気が澱むし北側は昼尚暗く住み難い。広さが仇となり、夏は汗を乾かす風が中まで届かず冬は忍び寄る冷気に悩まされる。縁側から遠く陽が届かないが為、長い間使われていなかった最北の応接間に、陰鬱な気配が渦巻く。絨毯を敷きソファを入れてはいたが、もともとは押入れと床の間のある和の居室。閉め切られ開かずの間と化していた洋風和室...■彼は誰れ時に魔と再逢001■

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