ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。
褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。
リサちゃんと別れて家に戻ると、ミホちゃんが台所で洗い物を手伝っていた。なんとなく声を掛けそびれて、『僕』はミホちゃんから遠くもなく近くもない応接間のソファに座ってテレビを見ていた。お母さんが覗きに来て、気を利かせてミホちゃんをお手伝いから解放し『僕』の隣りに座らせてくれた。けどすぐお父さんが帰ってきて「従姉妹でも結婚は出来るぞ姻族ってわかるか?」と冷やかされ、ミホちゃんは真っ赤になって台所に戻ってしまった。小学生相手に結婚だの言う父さんもアレだけど、なんか間が持たなくなっていた『僕』は、ほっともした。夜になって親戚が集まるとそこは大人の宴会で、応接間は子供の誕生日を肴に飲みたいだけの困った人たちの盛り場と化した。ミホちゃんを、リサちゃんを送った五差路を越えて駅まで送る。駅の改札で黙って手を差し出すミホちゃんと長...■鉄の匂い315■
みんなが『僕』に気付いて大きく手を振る。リサちゃんが後ろに隠しながら持っている包みは、何が欲しいか訊かれて答えたあのゲームソフトに違いない。リサちゃんが「遅いよ何してたの?」と拳固を振り上げる。その顔は真っ赤だ。皆も、口には出さないけどニヤニヤしている。多分、いやきっと、間違いなく絶対『僕』の顔も赤いんだろうな。「このプレゼントね、二人用だから。今度これやりにまた遊びに行っても良い?あ、プレゼントがなんだか分っちゃった?わたし失敗?」みんなに気付かれない様にペロッと舌を出す可愛いリサちゃん。わざとらしくあっちを見ている他の15人。『僕』たちが家に着く時間に合わせて、お母さんが揚げてくれてる唐揚げの香ばしい香りが外まで匂っていた。玄関で靴を脱ぐのももどかしく応接間に飛び込むと、正月に会ったきりの同い年の従姉妹がお...■鉄の匂い314■
10年前の今日。それは『僕』が生まれた日。今日はだから『僕』の9回目の誕生日だ。仲の良いクラスメイト16人に出した招待状の返事は、全員が参加に丸。その中には、ずっと好きだった副学級委員のリサちゃんからの返事もあった。リサちゃんの返事は参加に花丸。今日は楽しい誕生会。放課後、リサちゃんを含むクラスメイト16名が、五差路のコンビニの前で待ち合わせて、『僕』の家にやってくる。お父さんの部屋には、先週末まで量販店のショーウィンドウに飾られていたラジコン戦車のパッケージと同じ大きさの包みが置いてあるのを『僕』は知っている。16人のクラスメイトが、プレゼントが被らない様に且つ『僕』にバレない様に、休み時間毎に体育館の裏に集まり相談しているのも気付いてる。リサちゃんからもさり気なく探りを入れられ、だからリサちゃんから『僕』へ...■鉄の匂い313■
もし、自分が明日死ぬと分かったら。人は人生最後の日である今日と言う日を、いったいどう過ごすだろうか。恩師に会いに行ったり恋人と別れを惜しんだりするのだろうか。遅かりし終活に慌てて手をつけ遺言を認めるのだろうか。生きた証しを歴史に刻むべく遺産を国に寄付するのだろうか。自棄になり欲望を剥き出し街に出て女を襲うのだろうか。人生最後の日にしたい事。『僕』は何も思いつかない。『僕』には何も無いからだ。『僕』は毎日を、死なないから生きてきただけ。積み重ねる努力を嫌い、結果を馬鹿にして適当に生きてきた。『僕』には『僕』の未来が見えなかったから。自分の老後とか、のこされる親族とか、看取ってくれる伴侶とか、冥福を祈ってくれる友人とか。『僕』には想像が付かなかったから。もし、自分が明日死ぬと分かっても、『僕』は、「だろうな」と昨日...■鉄の匂い312■
その日の朝は、左掌(ひだりてのひら)に走る激痛で目が覚めた。見ると小指の付け根に百足の頭がぶら下がっていた。胴体は枕元にあった。割れたキチン質の外骨格から食み出た内蔵が既に干乾びた状態で、頭だけが機能して噛み付いたのだ。恐るべし生命力。咬害に因る被害は痛みが主で、死亡したという話は聞いたことはない。触れた物には攻撃を仕掛ける能動性が、死んだ胴体に関わらず攻撃してきたのだろう。戦国時代の甲冑や刀装具には、この百足のデザインを取り入れた物が多々ある。拘束下に陥っても強い攻撃性を持ち、節足動物には珍しい卵を護る習性が繁栄を連想させ、後退しないと言う俗諺から勝利を祈願したのだろう。多脚を多客に掛けて、家紋や看板に縁起物として描かれることもある。噛み付いたのが、生きようという執念なのか単なる条件反射なのかは判らない。しか...■鉄の匂い311■
ゴキブリは誘き寄せられなかったが、小蠅はすぐに飛んできた。百足の前で小蠅を振るとすぐ飛びついた。鋭い牙で蠅を噛み砕く咀嚼音、金属板に響く歩行の擦過音。百足はが出す様々な音は『僕』を驚かせ興奮させた。『僕』以外が発する音が一切なかったこの密室に起きた変化。今の『僕』の乾いた生活に潤いを与えてくれる。生きているモノをこれほど愛おしく思ったことはなかった。生きているというだけでこれほどの価値があるのだ。『僕』に殺された者達も生きていたかったろう。いったい何人の人が『僕』に殺害されたのだろうか。その気でその計画通りに仕留められてしまった人。『僕』に逆らって処罰として片付けられた人。見届けてはないけど多分果ててる人。『僕』の目を見て苦痛に顔を歪ませながら。『僕』を殺人犯として認識することなく。殺されたことすら気付かず夢現...■鉄の匂い310■
あの黒人が売った誰かの身分を買ったのは、『僕』だけではなかった。あの黒人に売られた身分の持ち主は殺されてるのだから、生半可な商品ではないことは推して知るべきだった。きっと何人もの逃亡者があの身分を買ったのだろう。そしてその全てが殺されたか死んだかしたのだろう。『僕』が亡くなったらまた誰かに売られるのだろう。そもそもの身分の持ち主は何故殺されたのだろうか。揉め事の果ての衝動殺人なのか、借金の形の保険金殺人なのか。シンプルに身分を売る為に近親者が居ない者としてターゲットになったのかも。どんな気分だったろうか。人知れず殺される気分。沢山友達が居れば、皆が捜すから殺されなかったろう。親族と頻繁に行き来があれば、ターゲットにはならなかったろう。世間と上手く付き合っていれば、輩の目を引くことはなかっただろう。彼は『僕』と似...■鉄の匂い309■
うさぎちゃんに逢いたいと言い残したデブが居なくなって3日経った。『僕』はまだ執行されていない。『僕』の執行日が解るのは毎朝の6時。弁当がみっつでなくひとつで、薬が同梱されているのが知らせ。弁当がひとつなのは、執行前の昼飯は好きな物を食わせてもらえ、その後は薬を飲んで搬出されてしまうので、晩御飯は不要だからだ。デブはどんな拷問を受けて何を自白したのだろうか。大人しく薬を飲んだのは、拷問に耐え切れなくなり自首した方が楽だと思ったからなのか。それとも何も変化が起きない狭小室での生活に飽き、改悪でも違う環境を望んだのか。自首した先の刑罰は重くても終身刑か強制労働で、まさか極刑はないだろう。それとも極刑であっても受け入れた方がまだましな拷問だったのか。身体中に点在した血の跡。1センチ間隔に二つ並んだそれはホチキスを打ち込...■鉄の匂い308■
傭兵は人を殺して給料を貰う職業。屠畜屋は牛を殺して金を稼ぐ。私怨で他人を殺せば罰せられる。日常で家畜を屠る機会はない。じゃあ何時なら人を殺せるんだ。何所でなら殺しても咎められないんだ。法律は人間に都合が良い。法律は創る立場の人間に都合が良い。害獣を駆除するには許可が必要だが同じ害獣でもネズミは例外で許可は無用。害虫に至っては叩こうが薬を撒こうがそれが被害が出る前であっても構わない。耳元で羽音を響かせただけで殺虫剤を引っ掴んで追い回す。野菜の収穫を憐れむ人は居ない。虫もネズミも牛も野菜も皆同じ一つの命なのに。これは殺して良いけれどあれを殺すのは残酷。食物連鎖の頂点に君臨する者は傲慢だ。食べる為に家畜を殺すけど毛皮や角を目的に殺すのは残酷。鶏を潰して食べるのは問題にならないが犬食文化は野蛮。虫を標本にするのは夏休み...■鉄の匂い307■
人を殺すことが何故悪い行いなのか。辞書を引くと悪事とは道徳や法律に背いた行為とある。我が身に降り掛かる災いともある。つまり悪行とは殺人に限って言えば、殺されたくない人間が殺したがる人間を制御する為に作成した囲いなのだ。他人の命はどうでも良くても自分の命は長らえたい奴になら絶大な効力を発揮するだろう。でも、突発的に衝動に負けて死刑になるリスクを計算できなくなった馬鹿や、最初から未来に一切期待がなく死刑上等で犯行に及ぶ底辺には、何の突っ張りにもなりはしない。ある意味、命を自分も含めて平等に扱える達見者だが、他人様の努力を僻む蓄積して来なかった廃れ者でもある。殺されたくない者は殺したがる者に殺すことで被るリスクを教育しなければならない。殺さないでもらう為に褒美を用意しなければならない。直接殺人鬼に教育は施せないのだか...■鉄の匂い306■
とにかく。もう何を書いても『僕』の処遇に変更は起こり得ない。酌量を期待して猛省を演技しても、司法取引を狙って他者の情報を提供したとしてもだ。『僕』が社会に還される可能性はゼロだ。それどころか、この反省文を天井の捕縛者以外の人間が読む機会があるかどうかさえ怪しい。そもそも、この反省文が何を目的としてるのかさえ判らないのだ。書きたいことがあるなら書けというから書いただけだ。最初から、手軽に自供させるだけの手段だったのかもしれない。同居人は兎の落書きしかしてなかったし。だから最初は強がって快楽殺人ストーカーを気取ってしまった。実際、女性を付け回したのは女子学生と原宿で見掛けた女の子だけだ。やっと手にいれた普通の生活だったのに、女子学生を殺してしまったのは失敗だった。なんで殺しちゃったんだろ。殺すことなかったのに。それ...■鉄の匂い305■
「おいおいおいとんでもねー奴だなオマエ。瓢箪から駒ってレベルじゃねーわ」天井のマンホールからしゃがみ込んだ男達が『僕』を見下ろす。「ストーカーを駆除するのが俺の仕事なんだが。オマエはちとカテゴリが違い過ぎるな」上階の照明が眩しく、男の顏は見えない。「目星を付けてたストーカーを確保しようと被害者を泳がせてたらオマエが掛かった訳だ」『僕』がたまたまストーキングした相手は既にストーカー被害者だった。「ちょっと脅して解放しようと反省文書かせたら、出るわ出るわ」窓の無い監禁専用の部屋を用意している時点で『ちょっと』ではない。。「覚えてるだけでコレだろ。忘れてるのやらを入れたら一体何人殺してるか」正直に書けば酌量があるかもと、思い出す限りに書き連ねたのが裏目に出た。「この反省文の中の犯罪だけでもオマエは万死に値する。逮捕さ...■鉄の匂い304■
暫くは執行を待つ死刑囚の様な穏やかな毎日だった。処刑されるのに穏やかなんて書くと、現実から逃避しているのか集中力が続かず放棄しているのかと叱責されそうだ。自分の犯した罪を悔い被害者の冥福でも祈って過ごさんかいと叩かれそうだ。勿論その通りだ。その通りではあるが、何のイベントも起こらない、終わりが見えない単調な日々を直視するのは相当に辛いのも事実。崩壊しそうな精神を現世に留めるには、ある程度の遁走はご容赦願いたい。ここまで書いて自分に驚く。『僕』は、己が定めた己に都合の良い理屈の中でだけ無敵だと虚勢を張ってきた犯罪者なのに、ここにきて世間に媚びて同情を要求している。盗人にも三分の理という諺があるにはあるが、『僕』はそれを恥ずかしげもなく無限に拡大解釈して大量無差別殺人犯にも相応の理屈があると、演説しているのだ。殺さ...■鉄の匂い303■
うさぎちゃんと言うのは何か。CDを大量に買えば握手出来る大量生産アイドルのことか。勝手に自分の嫁だと光源してるだけのアニメのキャラのことか。まさかとは思うが一応候補に挙げておくが同居人の恋人か。はたまた捻りなく本当にウサギ目ウサギ科ウサギ亜科の小型獣だったり?問う前に同居人は薬を飲んでしまったので正解は不明のままだ。同居人は、薬を飲むとネットの上に大人しく横たわった。天井からの指示は特にない。同居人はこれまでに『僕』以外の囚われ人とこの独房に同居していて、その引導を渡した経緯からの行動だった。だから『僕』もこの同居人に倣い、その時が来たら素直に最後の晩餐を依頼し薬を飲んで静かにネットの上に寝ようと思う。抵抗に意味はなく、天井の意思は絶対だから。ネットに包まれ丸くなった同居人は天井に消えていった。一人になって最初...■鉄の匂い302■
「次降ろすのが最後の飯だ。その薬を飲む前に、最後は何が食いたいか言え。可能限り叶えてやる」天井から穴越しに語り掛ける男。部屋をぐるり一周すると丸い穴からは4人の顏が見えた。最後の晩餐のメニューを問うこの男が『僕』を監禁した首謀者だ。拉致された時は袋を被されていたから顏は見ていないが声で分かる。2人目は以前に天井のマンホールから垣間見えたホスト風スーツのチャラ男(おとこ)。1人目の右腕的存在で、『僕』を誘拐してきた車の運転手も勤めていた。ナンバー2ではあるが組織は意外と小規模らしく、弁当の手配から監視からゴミの回収までを担っている。この2人以外を見るのは今日が初めてだ。3人目は老人だった。これまでの会話からメンバーに老人が居ることが判っていた。老人には妻が居て、老夫婦の世話を焼くメイド的な女性が1人、他に女性が数...■鉄の匂い301■
だから『僕』は、記録がある限りにおいて10日以上はこの監獄に居た計算になる。その10日間は、刺激がなく苦痛に満ちた時間だった。生活環境としてはそう悪い訳ではない。照明の明暗で昼夜の緩急も付いたし弁当の数で月日の想像もできた。室内は空調で常に一定の温度に保たれているし湿度は低く目に設定されているので不快指数に悩まされる心配も皆無。着替えとシャワーはブザー8回に1回の割合に一度だったが、カルフォルニアみたいな気候にストレスを感じることもなかった。マンホールから降り注ぐシャワーは便器の上で浴びることになるので最初は少し抵抗があったが。この時に着替えが支給され、汚れものが回収される。単調ではあるが規則正しく管理されたこの生活は、健康的ですらあり決して非人間的ではなかった。一方で男2人にはこの部屋は狭く、プライバシーのな...■鉄の匂い300■
天井の真ん中に鉄の蓋が付いた正にマンホールの出入り口以外に、緊急用の脱出口や非常口は一切なかった。火事になっても上から梯子でも降ろしてくれなきゃ逃げられない。あらゆる物資や情報は全てこのマンホールから供される。廃棄物に限っては、排泄物のみ部屋の真ん中の便器に流される。衝立もカーテンもないケツ丸出しの便座。その和式便器で、名前も知らないオッサンにケツ見られながら排便するのだ。屈辱以外の何物でもない。気色の悪いオッサンだ。気色の良いオッサンなんて居ないけど。とにかくまずコミュニケーションが取れない。気色の悪いオッサンとコミュ取りたいとは思わない。思わないが、狭い部屋に閉じ込められた2人だ。暇潰しに会話くらいしても罰は当たらない。が、オッサンは一切質問には応えない。問いかけてもニタニタしてるだけで何を考えているのか分...■鉄の匂い299■
「じゃあ一体何人居んだって話っすわ。もともとストーカー気質の犯罪者がピキ見掛けると付けて来きちゃうんじゃなくて、ピキ見るとそこらのニートも後付けたくなってストーカーになるって順?ストーカー捕まえる為にピキ泳がすと、返ってストーカー増やしちゃう?」チャラいスーツにシャツの襟立てた細身の男が喋っている。タンクトップの戦車みたいなイガグリは腕組したまま渋い顏で黙ったまま。その陰に隠れて恐る恐るマンホールの様な穴から覗く『僕』が付けた小さな女の子。どうやらこの女の子はストーカーに狙われているらしい。しかも複数人に。そしてそのうちの2人が捕まりこの穴倉に閉じ込められている、と。この上に居るのは被害者の女の子と女の子に雇われた私立探偵か何かで、『僕』は運悪く初日に逮捕されてしまったストーカーだ。「どーします?今更間違えまし...■鉄の匂い298■
「え?コイツじゃないんですか?だって竹下通りで3往復してマンションまで付けてきたんですよ?」「違うけどまあいいや。コイツもストーカーには違いないんだから。クンロク噛まして解放しといて」気が付くと結束バンドで後ろ手に縛られ、顏には渋紙の袋を被せられてワンボックスの荷室に転がされていた。声から勘定するに運転手と電話で何処かに連絡を取っている男の2人。電話の相手を算入すれば最低3人のグループだ。『僕』がストーキングした女の子は『僕』以外の誰かにもストーキングされていて、今日はその誰かを捕まえる為に女の子を泳がしていたのだ。間抜けにも『僕』はストーキングしながらストーキングされて拉致られてしまったのだ。『僕』ではないストーカーと間違われて。そうな額はない距離を走って車は停まった。担がれて、音が響く倉庫の様な建物に入る。...■鉄の匂い297■
竹下通りを3往復程した。平日の明るい時間帯だからなのか、若い子は少なかった。前に園子を連れてきた時には芋洗い状態で自分のペースでは歩けなかったのに、今日はすれ違い女の顏を全部評価できる。片っ端から点数を付ける。スーパーモデルみたいにスタイルが格好良く顏が引き締まった女は、見てる分には良いが食指は動かない。読モの癖に一人前の顏で歩いている女は女子からは親しみやすく共感を得られるのだろうがそこらにいくらでも居るので対象外。特に脚フェチとかではないのでパーツモデルも余程の特徴がなければ目に留まらないしそもそも原宿をうろついたりはしてないだろう。地下やご当地だったり養成所通ってるだけのアイドルも歩いているのだろうが、素人というか学生やOLと区別が付かなかった。その中で、一際人目を惹く3人組を見つけた。見つけたというのは...■鉄の匂い296■
強盗に遇った時に殴られた頭の創は、長さ3センチで7ミリ程に口を開けていた。消毒して周りを剃って瞬着で固めると、腫れは酷いが出血はどうにか止まった。娘は病院へ行くことを強く勧め自分も仕事を休んで付き添うとまで言ってくれたが、『僕』は保険証を持っていない。実費で治療費全額を支払えば済む話ではあるが、保険証がないということを娘には知られたくなかった。大ケガをしてるのに襲われている娘を助けた、人としての良識と男としての胆力を兼ね備えたヒーローである『僕』が、法定強制保険に加入していないというのは、キャラとして成立しない。間と取って、病院には行くがそれは『僕』独りで、という結論で落ち着いた。朝、登校する娘と一緒に家を出る。下校後その足でバイトに行く娘は『僕』に合鍵を持たせてくれた。昨夜会ったばかりでまだ互いにフルネームも...■鉄の匂い295■
デヴは自分がこれまでにどれくらいモテてきたかを自慢していた。コンビニのレジでちょっと冗談言ったらウケちゃってお釣り渡す店員の娘が手を離さなかったとか隣のマンションに住む短大生は自分の出勤時間に合わせて家を出るとか。可愛い娘が苦笑いしながら髪を弄っていると手相を見てやるとか肩に疲れが溜まってるから揉み出してやろうとか言い出した。堪らず振り払い化粧を直しにトイレに逃げたが、デヴは可愛い娘が手を拭ったお絞りで顏を拭き割り箸を舐め座っていた椅子に頬摺りをした。デヴと娘は派遣かバイトの先輩と後輩の様だ。しつこく誘われ職場での関係もあって断り続けられなくなり呑みに来たのだろう。戻ってきた娘はスマホを指差し手を合わせ拝み5千円札を一枚テーブルに置き敗走する軍隊の様に後退って帰った。残されたデヴは娘が店を出るのを見届けると猪の...■鉄の匂い294■
引き落とされる家賃や公共料金の分だけ毎月きちんと入金してて、月の収入も受注してるイラストから計算できる上に、質素な身の回り品から生活費も想像がつく。4・500万の金を箪笥預金しててもおかしくないし、してなかったらその金は何所行った?って話になる。そこに同居人の失踪と殺害された家主が加われば鬼に金棒だ。『僕』は言い逃れ様のない強盗殺人犯だ。結局、束4つを元の場所に戻して端数だけ窃盗した。逃走するにも資金がなければ始まらないので。押し入られた偽装も考えたが同棲相手の行方が分からなくなる以上、容疑が掛かるのは時間の問題。金で買った身分の持ち主に罪を被せて『僕』は『僕』に戻り、改めて失踪することにした。免許の写真の男は、経緯は分からないが殺されてしまった。それだけでも不幸なのに殺された後も尚、殺人の罪を被せられるのだ。...■鉄の匂い293■
機械の動かし方がわからない。下手に操縦して暴走させたら面倒だ。仕方がないので手掘りで熟した。人の大きさで1メートル掘るのは普通なら至難だが、ここは元々重機でそこらじゅうを2メートルくらい掘ってある風葬墓場なので雑作なかった。土は軽く、スコップに絡まないので振り進むのは楽勝だが、遠くに放らないと蟻地獄みたいに擂鉢状に落ちてくる。ある程度掘ったら一度出て周りに積み上げた土を均す。その繰り返しで、美千代んさん墓穴(はかあな)を掘り上げたのは夕方だった。両脇に手を差し込み脚を引き摺らせて安置する。火を点けた練炭の上に油を滲ませた薪と雑誌を積み上げる。顏の周りには、雑草だが咲いていた花を飾った。死骸は砕いて撒いて欲しいと頼まれたが、流石に手で生焼けの遺体を突(つつ)くのは躊躇われ、結局そのまま埋めてしまった。夜が明けるま...■鉄の匂い292■
「積極的には加担してないけれど、目の前の殺人を見て見ぬ振りした。縋る手を振り払い命乞いする目を無視した。逆らえば、意見すれば、自分も殺される。いずれ殺されることに変わりはないのに。私は自分の娘にもう会えない。あの娘は天国に行くけど私は地獄に堕ちるから。私の死体は、旦那と同じ様に穴を掘って焼いて埋めてください。私が見殺しにした人達の遺骨を一緒に撒いてください。それが私の運命でした」練炭が焚かれている事務所に凭れて座る。すっかり夜は明けていた。寝不足の目に空の青が突き刺さる。吹いてくる風は秋の気配だが匂いは死そのものだ。足元の土を一掴みする。小枝や枯葉や砂利に混じって炭化した骨だか肉だかがざらつく。死臭を誤魔化す為に燃やしたのだろうペットボトルが溶けて焦げた粒も散見される。美千代さんは自殺した。遺体の始末を『僕』に...■鉄の匂い291■
「何時、どうやって死ぬか。そればかり考えて生きてきた」車の荷室からガムテや練炭や火鉢や酒やお菓子を降ろし、建て付けの悪い事務所に運び込む。「でもこのままじゃ、死ぬ前に旦那に殺されちゃうんだろなって、諦めてもいた」窓際に毛布を敷き鳥の巣の様な居何所をつくり、巣の傍に引っ張ってきたテーブルの上に酒瓶をお菓子を並べた。「犯されて、見捨てられて、邪魔扱いされて、殺されるなんて。なんて詰まらない人生なんだろ」壊れて動かない換気扇をゴミ袋で塞ぎ、隙間だらけの窓枠やドア枠をガムテで目貼り。「空しくて、悲しくて、悔しくて。諦めきれなかった。でも貴方が越してきた」舐めた指を翳して室内を指差し確認して歩き隙間風を探索。「すぐ判った。私と同じ目をしてる。だからずっと見てたの」巣の真ん中に座り、火鉢に火を熾し練炭を焚く。「何遍も考え直...■鉄の匂い290■
2人の死体は骨が折れ捲っててぐずぐずだった。穴という穴から体液排泄物が垂れ流れてて、臭くて汚かった。ウォークインクローゼットからキャンプセットを、その中からテントとレジャーシートを引っ張り出す。2人をそれぞれテントとレジャーシートで包んで、タープやハンモック用のロープで縛る。ロープは滑り易い素材で、縛るのには難儀したがアルミの自在金具があったのでそれで調節した。廊下を引き摺って玄関から三和土に停めたキャリーカートに落として車まで運んだ。折畳式のスチールパイプ製のフレームにポリエステルの生地で荷箱を覆った簡単で軽量なカートだが、大きな車輪と伸縮式のハンドルが功を奏し、砂利道でも段差でも何なく移動できた。余裕を見て1人づつ運んだが、畳む時に見つけた仕様書に耐荷重150キロとあった。2人一緒に積めば一往復で済んだのだ...■鉄の匂い289■
玉の様な汗を額に浮かべ肩で息をする美千代さん。興奮したからではなく運動したからである。「セックスしよ。ここでセックスしよ」アイアンを放り投げ、自分の身も『僕』に放り投げる。外から見た限りでは2階に3部屋程あり、一階にももう一部屋ある。受けとめた美千代さんを抱え上げ他の部屋に移動しようとすると美千代さんが抵抗する。「うぅうん。この部屋で」両親が死んでいる部屋で娘を抱くことになった。通常の感覚では受け入れられないシチュエーションだが、『僕』は動じなかった。美千代さんの髪を掴み首を45度傾けさせる。自分も逆方向に45度傾いて唇を合わせる。2人の口腔はお握りを握る手の様に隙間なく合わさり接触する面積を稼ぐ。撲殺された両親の手足は縛られた範囲内で有らぬ方向に向いていた。関節の数は骨折の数だけ増えているので絵的には百足の様...■鉄の匂い288■
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