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米米米 こどもべやのうさぎ 米米米 https://blog.goo.ne.jp/usagiusagiusagiusagi/

ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。

褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。

いちたすには
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2009/04/15

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  • ■鉄の匂い160■

    所長はこの朝、食卓には付かなかった。長女と次女と『僕』だけの、会話が弾まない朝食。つとめて明るく振る舞う次女がお代わりを装いに立ったのを見計らい、眉間を揉みながら長女が口を開いた。「見たのね」大きく溜息をついて長女は続けた。「お願いだから騒がないでね。みんな知ってることだから。みんなが黙認してることだから」戻ってきた次女は『僕』と一切目を合わさず、ハムエッグの半熟卵黄をトーストで突(つつ)いていた。「これが良いとは思っていない。でも家族の事情に正解ってあるのかしら。もしあるとしても、その判断を下すのは私たちであって貴方じゃあない。これまでの経緯や関係を知らない人に批判されるのは嫌(いや)。無責任に掻き回されるのはもっと嫌(いや)」長女も父から性的洗礼を浴びせられているのだと確信した。「全てが一気に解決できるのな...■鉄の匂い160■

  • ■鉄の匂い159■

    次女は腕を組み脚を肩幅より開き仁王立っていた。弱い動物が自分を強く見せる為に精いっぱいの虚勢で威嚇している様で痛々しかった。次女の手前で自転車を停めると、次女は坂の上に回り込み見下ろしながらこう言った。「今日配達終わったら、いつもの様に朝ご飯食べる人を募るけど、いつもの様に誰も食べに来ないだろうけど、でも、いつもの様に手を挙げていつもの様に食べに来てください。わたし、この『いつも』って奴がそれなりに気に入ってるし、続いていくのは悪くないなって思ってるので」『僕』の返事を待たずに自転車のスタンドを蹴り外し団地へ消えていく次女。『僕』に出来る、『僕』にしか出来ない、彼女を救う手段を封印されてしまった。父親に強姦される日々を『いつも』と言い、その「『いつも』をそれなりに気に入っていると言う。本心だとは思わないが嘘でも...■鉄の匂い159■

  • ■鉄の匂い158■

    翌朝も平日。牛乳配達の仕事は休めない。いったいどんな顏で次女に会えばいいのだろう。仮に集配所で会わない様にしても団地の中で配達中にすれ違う。今日だけ朝ご飯を辞退したら皆が変に思うから食卓で会してしまう。結論が出ないまま朝を迎え、重い足取りで『僕』は集配所に向かった。会う確率を少しでも下げるために、部屋を隅から隅へと角を伝って移動する。もし会っても目が合わない様に、『僕』は終始部屋の中心に背を向け牛乳を自転車に積み込んだ。「おはよう。どしたの?元気ないねぇ」不意に後ろから強く背中を叩かれつんのめった。振り向くと次女が腰に手を当て高らかに笑いながら立っていた。「なんでこっち見ない?わたしが可愛過ぎて眩しいってか。そうであろうそうであろうよ。あっはっはっはっは」次女は何時にも増して上機嫌だった。仕事が終わればパチンコ...■鉄の匂い158■

  • ■鉄の匂い157■

    薄暗い部屋の中、白い肌の次女と上から覆い被さる赤銅色の所長が見えた。所長に抑え付けられた次女は、唯一自由になる左手を『僕』に伸ばした。大きく開かれた五指は所長の腰の動きに伴い空に揺れ、『僕』のすぐ目の前で布団に落ちた。次女は泣いていた。大粒の涙がポロポロ次から次へと頬を伝い布団に染みた。その頬を悍(おぞ)ましい所長の舌が這い廻る。歯を食いしばり耐える次女。噴き出す欲望に悪魔の形相の所長。その所長と目が合う。その目が歪み不敵に笑う。高まる予兆が見て取れ所長の腰の動きが雑になった。次女が両手で所長を拒否し金切り声で哀願する。「やぁーだぁー。やめてぇー。中には出さないでぇー」その手を捻じ伏せ更に体重を掛けて自由を奪い次女の中に発射(だ)して果てる所長。「やーだー。やー…だ…」口を押えられ声にならない声で抵抗する次女。...■鉄の匂い157■

  • ■鉄の匂い156■

    その機会は意外に早く訪れた。配達から戻って牛乳瓶を洗浄しながら朝ご飯のお呼びが掛かるのを待っていると、2階から所長の次女を呼ぶ声がした。心無い先輩のひとりが、自分が朝ご飯に呼ばれないのを僻んで次女を揶揄(からか)ったのが、2階にいた所長の耳に届いたのだ。朝ご飯に呼ぶのが『僕』だけなことから、次女が『僕』と2人きりになりたがっていると。2人きりになれば若い男女だ、やりたいことはアレひとつだと。先輩のそんな下品な野次が、2階で皆が帰るのを待っていた所長を苛立たせた。すぐに応じなかった次女に2度目の罵声が2階から落ちる。溜息と共にエプロンで手を拭いながら2階への階段を上っていく次女を中庭越しに確認し、『僕』は、その場を離れたことを感付かれない様に高圧洗浄の蛇口を開けたまま階段に忍び寄った。四つん這いで階段をそっと上り...■鉄の匂い156■

  • ■鉄の匂い155■

    それからも、ことある毎に次女は『僕』にちょっかいを掛けてきた。他の配達員が居る所では、物陰から『僕』だけを手招きしたりもした。2人になったら何があると言う訳でもなく、屈託なく笑う次女のマイブームの話や、夕べ観た連ドラの批評を聞かされるだけだった。が。それは2人きりの中でのことなので、傍目からは2人で消えていった後のことは分からない。卑猥な妄想をする下らない先輩からは、僻みからなのか次女の悪口を聞かされた。その誹謗のほとんどは、野卑なオッサンの妄想によるものなので、根拠はないし的外れもいいとこで、特に気にすることもなく聞き流していた。しかしその中に、実は『僕』も予(かね)てから気になっていた噂がひとつあった。それは次女と所長、つまり親子の間の中傷で、それだけは聞き捨てならなかった。とは言え真向から否定できる程の情...■鉄の匂い155■

  • ■鉄の匂い154■

    「はーいコロッケだよー熱(あ)つ熱(あ)つだよー手ぇ出しなー」言われるが儘に掌で揚げたてのコロッケを受け取ろうとすると。「ウソだよ火傷するじゃん。ほら揚がったから食べて食べて」と次女は菜箸で摘まんだコロッケを刻んだキャベツが盛られた皿に並べた。「普通さ。こーゆう時の男の人って肉じゃがとか希望するんじゃないの?なんでコロッケなの?なんかコロッケに特別な想いがあるとか?わっわっ別れたカノジョのコロッケが美味しかったとか?それと比べてる?だとしたら殺すよ?」次女は頬杖をついて、『僕』がコロッケを食べるのを見ながら矢継ぎ早に質問した。「あたしは、トンカツ。今日ももともとはトンカツの日だからね。ウチなんか知らんけどトンカツ多いのよ。近所に豚がいっぱい居るのかな。てかトンカツの日にグレード的には低いコロッケを所望ってどうな...■鉄の匂い154■

  • ■鉄の匂い153■

    何度かは本当に夕方行って晩御飯を一緒に食べた。そしておかずは本当にトンカツが多かった。よく笑いよく食べよく喋る娘だった。「昨日のドラマのあれ見た?わたしマジ感動して泣いちゃったよ」見たかという問いに答えていないのにどんどん話を展開していく。「えっ?見てないの?マジッすか?裏番組なに?」黙って聞いていると会話が弾んでいる錯覚に陥る。「あのラストはないよね~。あれはないわ~」一方的なお喋りではあったが、『僕』はなぜか心地よかった。コロッケを揚げてくれる人を捜しなさいと言ったお姉さんの言葉を思い出す。もしかするとこの娘がその人かもしれない。しょっちゅうトンカツの家ならコロッケも遠からず。『僕』は、次女が息継ぎするタイミングを見計らい話に割って入った。「ねえ。今度晩御飯に呼んでくれる時のさ。おかずってリクエストしてもい...■鉄の匂い153■

  • ■鉄の匂い152■

    『僕』が虜になったものは、湯気が立つ炊き立てのご飯の他にもうひとつ。所長の次女で『僕』と同(おな)い年の高校生だった。この娘は朝まだ暗いうちから『僕』等と一緒に配達に出た。配達地域は『僕』と同じ団地内なので帰りが一緒になることも多かった。牛乳を山ほど積んだ実用自転車を漕ぐ細い脚は、夜目にも白く可愛かった。積み切れない牛乳を取りに集配所に戻る時にも会うことがあり、その度に見せてくれる笑顔にも癒された。この娘をイヤらしい目で見て卑猥な言葉を浴びせる配達員には殺してやりたい衝動に駆られ、何度かは実際に胸倉を掴むまでに至った。でもこの娘の界隈で、殺人は犯したくなかった。蚊を叩く様に、蠅を追う様に、人を殺してきた『僕』としては虫のいい話ではあるが、これまでの闇とは切り離した世界でだけ、この娘とは接したかった。この幸せも長...■鉄の匂い152■

  • ■鉄の匂い151■

    継母は露骨に『僕』を無視し、父が居ない時は食事も自分の分だけをつくり勝手に済ませた。父が居ても食事に揃うことは略(ほぼ)ないので『僕』の分がないのは当たり前だった。小学校は別にしても中学校の殆どを家出同然に過ごしてきた『僕』だから仕方ないっちゃ仕方ない。親に対して尊敬も愛着も皆無な『僕』は、また家に寄り付かなくなっていった。牛乳配達のバイトの保証人になってくれたことにだけは感謝するが、他の親はもっと感謝されることをいっぱいやってるのを知ってるので、その感謝も薄っペらだ。バイトの保証人になる以前に三食の提供という義務くらいは果たせよと、心の中でいつも毒吐いてた。さて。高校に行かず就職もせずアルバイトという生活は将来の不安はあるものの、小銭は入る様になったので些(いささ)かながら余裕(ゆとり)も生まれてきてはいた。...■鉄の匂い151■

  • ■鉄の匂い150■

    出来高払いだけど顧客は最初からついているので、時給のバイトよりは割が良かった。原付の免許を持っていない『僕』は配達区域を団地にして貰えた。団地は一軒家と違って近隣の交流が意外に盛んで、集金先に遊びに来ていただけの主婦から労無く新規を契約できたりもした。住宅街を原付で廻っている先輩たちは、集金は不在が多く近所付き合いも薄いので紹介も貰えないと愚痴っている中で。『僕』は金銭的にも待遇的にも恵まれていた。しかし『僕』がこの仕事を選びしかも長続きしたのには、他に理由があった。それは、配達後に集積所で支給される朝ご飯。配達後に少し残っていれば、所長の家族と同じ飯を食わせて貰えるのだ。ギリギリに出社し、配達後は缶ビール片手に帰っていく他の配達員はこの食事に参加しない。だから、食卓に着くのはいつも所長と所長の家族と『僕』だけ...■鉄の匂い150■

  • ■鉄の匂い149■

    高校は義務ではないので最初から卒業する気はなかった。中学の担任が進学率を気にするので仕方なく工業高校を一校受けただけだ。受験勉強などしたこともなく元の成績も振るわない『僕』の桜は当然に散って話は終わりだった筈が、続出した辞退者により繰上合格してしまった。入学式で体育館に入る前に喧嘩して退学になる新入生が居るという生粋の馬鹿工業。通ったのほんの数日。中退だと思ったら定時制に編入されていた。望んでの編入ではないので当然1日も通わず退学。通信制のパンフが送られてきて、表紙の女生徒が可愛かったのでしばらく受講したが、通信制なので女子高生と会えず、女学生はモデルだからそもそも会う機会がなかった。行かせる気のない父と行く気のない『僕』とは、意思の疎通はなかったが意見は一致、話し合うことなく最終学歴は中学に決まった。さて。学...■鉄の匂い149■

  • ■鉄の匂い148■

    馬鹿ップルにホームから突き落とされたあの子供は軽傷で済んだ様だ。後日のテレビのニュースでは、馬鹿ップルが起こした電車内での騒ぎや、サラリーマンとの騒動についての報道は一切なかった。介抱した善人は多かったが、ことの全容を知っている目撃者は少ない。馬鹿ップルが殺されなかったら、この事件は迷宮入りしたかも知れなかった。がしかし。遺体が翌日に発見されてしまった。バイトを無断欠勤された店主が怒って訪ねていき、室内の異変に気付き通報したのだ。数少ない証言や不鮮明な防犯カメラの映像と、犯行現場までの距離やタイミングから、馬鹿ップルが突き落とし犯であることはすぐに知れてしまった。知れてしまったとはおかしな表現で、それでは『僕』が迷宮入りを望んでいたみたいだが、それはまさにその通り。ふたつの事件に関連があるなら、防犯カメラの映像...■鉄の匂い148■

  • ■鉄の匂い147■

    苛められた子が苛めによる被害を苛めた子に知らしめる方法。その答えを『僕』は知っている。苛められてどんなに嫌な思いをしたか、どんなに痛い目に遭ったか、それを相手に反省させるには、どうしたらいいか。その答えは皆が既に知っていて、あらためて今『僕』がわざわざ書く程のことではない。が、敢えて書こう。ないのだ。苛めっ子は苛めることに罪の意識がない。苛められる辛さ怖さ痛さに興味がない。だから苛めっ子は苛めることに躊躇がない。この世の中は、自分さえ良ければ他人なんてどうなってもいいと思っている奴ばかりだ。悲しいかなそれは正解でそれが資本主義だから。この社会は、他人を騙し搾取し蹴落として踏み躙らなければ幸せは手に入らない。この地上は、強い者が弱い者を狩る連鎖でしか成り立たない。同族であっても群れが違えばそれは敵だし、若い雄は自...■鉄の匂い147■

  • ■鉄の匂い146■

    世の中から苛めはなくならない。関係ないかもしれないが、興味ある話をテレビでしていた。蟻は、全体のうちの約2割は怠け者で働かないらしい。しかもその2割を取り除いても、残された中から更に2割がまた怠け者になり働かなくなるので、結果常に2割は働かないのだそうだ。苛めもこれに似ていると思う。苛めっ子が居る。苛められっ子が居る。そしてその他大勢が居る。その他大勢は、苛めっ子苛められっ子の順番待ちと言うか予備軍なのだ。苛められっ子が不登校や転校で居なくなると、その他大勢の中の誰か一番順位が低い者が苛められっ子になる。常に誰かが苛められている環境でしか自分の安泰が確保されない。常に誰かを苛めていないと自分のストレスが発散できない。苛める側は単なる暇つぶしのお遊びなので、遊んであげてるんだくらいに思ってる場合すらある。だから同...■鉄の匂い146■

  • ■鉄の匂い145■

    今にして思うと。あの時の『僕』は事件の発覚を望んでいたのだと思う。最初に殺した宮島と坂田、中学入ってからのバカ兄弟と二番手カスまでは、『僕』を虐めた仕返しであり、『僕』が虐めから逃れる保身が目的の殺人だった。いわば緊急避難的な殺人だ。単なる報復とも言えるけど。何れにしても『僕』と関わりがあり因縁があった。しかし、軽自動車で暴走した一匹目のクソ野郎と、子供をホームから突き落とした二匹目三匹目のクソ番(つが)いは、『僕』に直接の被害は及ぼしていない。犯罪者と目撃者、当事者と傍観者の関係だ。周りには『僕』と同じ様に見ていた人は沢山いたが、誰もこのクソ共を殺そうとは思わなかったし実行もしなかった。『僕』だけが、たまたまその場に居合わせたというだけで、行き過ぎた義憤で依頼されてもいない刑を処してしまったのだ。傷害事件に過...■鉄の匂い145■

  • ■鉄の匂い144■

    もうこの女は自由にできる状態と環境だったが、『僕』は勃起しなかった。日常とはかけ離れた空間と存在だったが、『僕』は興奮しなかった。家に押し入り女を縛り脱がせ異物を挿入したが、『僕』は至って冷静だった。両肘と顏を支点にあとは膝だけで尻を突き出す女から宮島を連想し、その宮島から楠木くんを想い出していた。楠木くんが宮島を犯した処は見ていないが、きっとこうだったに違いない様(さま)を再現して楠木くんを追悼した。30分くらい弄繰り回しただろうか。食器洗い用のスポンジを詰め込んだ処で、女は震えて脱糞した。多分ずっと我慢していたのだろう。切れることなく30センチ程の一本糞を自分の汚れた衣類の上に放(ひ)り出した。もうどうでもよくなったので、仰向けにしてダンベルで顏を潰して殺した。部屋には糞の匂いが充満したので一度は窓を開け放...■鉄の匂い144■

  • ■鉄の匂い143■

    ダンベルは女の顏すれすれに落ちてゴミにめり込んでいった。発酵した何かがダンベルの衝撃で破れた隙間から泡となって噴き出す。腐った何かも縛ったコンビニ袋から突き出した割り箸に添って流れ出た。ただでさえ臭い部屋に更に臭い腐臭が漂う。目のすぐ横にあるダンベルを目玉だけ動かして確認する女。真ん中を狙ったのだが、手が滑った訳ではないのに外してしまった。粗雑で自己中で自分の罪を認めないこの女が、殺した宮島を思い出させたからだ。宮島は監禁放置の上に強姦されてゲロまみれのまま絞殺されて遺棄された。真夏の蒸し暑い山の中で、虫に刺され汗と皮脂と泥に塗れた身体に更に精液を掛けられ、拭うことも洗うことも許されず、不潔で惨めな姿のまま死んでいった。宮島とこの女が、ある一部だけが妙に色濃く重なった。何所見てんだか不明な細い目と捲れ上がった品...■鉄の匂い143■

  • ■鉄の匂い142■

    「なんだオマエ。なんか言え。なんで殴るんだよ。オレ、オマエになんかしました?しましたかしら?」声はどんどん小さくなっていった。「子供、蹴ったろ。ホームから落として、助けず逃げただろ」男の顏がぱぁっと明るくなる。「え?え?えーー?そんだけ?そんだけのことでぇぇ?なにオマエあのガキの身内?ならもう気が済んだろ。帰れやぁぁ」家具はベッドと化粧台があるだけだが、衣類が山積みされていて足の踏み場は殆どなかった。壁もカーテンレールも鴨居もハンガーで埋め尽くされていて、衣類以外は天井しか見えない。重くて丈夫そうな木のハンガーを選び、雑巾みたいな服を外して男の頭に振り下ろす。「止めろよぉぉ。オレが蹴ったのはあのガキで、オマエ関係ないじゃんかぁぁ」数回殴るとハンガーは粉々に砕け散った。「痛ぁぁいい。痛ぁぁいいよぉぉ。もぉぉいぃぃ...■鉄の匂い142■

  • ■鉄の匂い141■

    救急車が到着して、騒然となる構内。事件の現場から人波に逆らい遠ざかろうとするのは『僕』と犯人だけ。女の支えがなければ歩けない男の尾行は訳なかった。途中、歩道の真ん中で歩行者を避けさせながら少し休んだが、2人は程なく自宅に帰った。『僕』はマンションの粗大ゴミ置き場にあったハンガーラックを壊して1メートル程の金属パイプを手に入れた。そのパイプをベルトの脇に差し上着で隠す。2人の自宅は、途中の休憩を除いて駅から20分程のアパートだった。木造モルタル塗りセメント瓦の、築50年は経っていそうなアパートだった。北側の壁には苔が生えてカビていて、どういう化学変化なのか窓枠の材木部分は青かった。錆びだらけの階段を上がるのを確認してから1階の郵便ポストを覗くと、ちらしや督促状が雨に打たれたまま詰まった部屋ばかりだった。足音を忍ば...■鉄の匂い141■

  • ■鉄の匂い140■

    ここまでの事情を知っている乗客は全て電車と共に去ってしまったので、ホームに居た者の目に映るのは、奇天烈(きてれつ)な形(なり)の若者にイチャモンつけられてるひ弱な営業スーツのサラリーマン。始発のホームで諍い。これから始まる過酷な一日だけでも精一杯なのに、朝から他人の詰まらない喧嘩なんかに巻き込まれたくない。同時に、自分に被害が及ばないならこの面白そうな見世物を安全な距離で見物してストレスを発散したい。みな遠巻きにして見ない振りだが注視している。その争いの展開は思ったよりも早く結末は想定の範囲を越えていた。ヒョロいリーマンを見て楽勝と高を括った若僧だが、ヒョロいリーマンにはボクシングの心得があった。必死の形相で殴り掛かるが、ひょいひょい避けるリーマンに悉く躱される奇態小僧。体当たりを避けられてすっ転び、捨て身のス...■鉄の匂い140■

  • ■鉄の匂い139■

    こんな倹(つま)しい場面にも容赦なく事件は起こる。奇抜なファッションの男女が乗り込んできて、『僕』とは反対側の角っこでいちゃつき始めたのが始まり。既に一晩乱れてきた感の朝帰りカップルは、その貧相な互いの身体を弄っていた。大きな声で喘ぐ女は明らかに乗客の目を意識している。注目されることで興奮する露出マニアな女。その女を悦ばせている自分に興奮する男。普段から公衆の面前でこの陳腐なプレイを楽しんでいるんだろうふたりに、今日はいつもと違う観客が居合わせた。その観客は、袖から覗く彫物を隠すことなく商売女の肩を抱く本職の人だった。自分が連れてる女とは雲泥の差がある不細工な女の嬌声が不快だったのだろうか。一喝して次の駅で降りて行った。萎縮して消沈する不細工カップル。それまで我慢していた乗客がみなクスリと笑った。『僕』も、疲れ...■鉄の匂い139■

  • ■鉄の匂い138■

    四隅に敷いた石の上に、開口部を付けたコンテナを乗せただけの事務所。事務所には誰も居なかった。残土を受け入れる会社らしく、土やら砂やらがピラミッド状に積まれた敷地内にはブルドーザーやトラックが停まっていた。素直についていく『僕』に、油断している逆ギレ男。事務所の鍵を開けるのに背を向けた処に、拾った石を叩きつけてやった。備えて千枚通しも隠し持っていたのだが、此奴は事故死に見せかけたかったので使わなかった。前に使ったアイスピックではないのは、あのピックにはカスを刺した血が付いてしまったことと、学生が持ち歩くには少々不自然だから。自然ではないが一応は文具なので似た様な千枚通しに替えたのだ。当然、使いもしないシャーペンと一緒に、これまた使いもしない筆箱に容れてカモフラージュ。阿波踊りみたいな妙な動きをして逆走男はひっくり...■鉄の匂い138■

  • ■鉄の匂い136■

    この辺から時系列が少し曖昧になる。こうだったらいいなという妄想とそうではない辛い現実が、記憶の並びをあやふやにさせたのかもしれない。余りにも現実離れした妄想では、ストレスに擦り切れた心は騙せない。それを加味して現実に寄せ過ぎると心を身体が悲鳴を上げる。『僕』は、転校と転居と離職の前にバカ兄弟とカスを含めて6人、人を殺している。これは現実。バカ兄弟とカスの始末記は既に書いたので、後3人の殺害記録をこれから付けよう。後の3人は、実は名前も分からない赤の他人だ。これまでと違い、行きずりの突発的犯行だ。だから本当によく覚えていないのだ。覚えていない以前に素性をよく知らないのだ。興味が湧くようなお人柄ではないし、違う出会いであっても親交が深まる気がしない、クソの様な3匹だったから。そのクソの1匹目は、街中で見掛けた軽自動...■鉄の匂い136■

  • ■鉄の匂い136■

    トイレは初めて見る蓋付きだった。縁日の出店で売られているお面と同じ材質で、雑に扱うとすぐ割れた。当時でももう珍しかった汲み取り式の便所は、下に糞尿と蛆が見えた。使用する度に、異様な硫黄臭と猛烈なアンモニア臭が目に染みる。トイレの横にはバケツが吊ってあり、底に付いてる栓を捻ると落ちる水で用足し後の手を洗う。このバケツの水を毎朝足すのが『僕』の日課になった。家出をした『僕』も悪いが、その『僕』を置いてきぼりにした両親はどうだ。互いに謝らず許さずこれまでのことを不問に付しての生活が始まった。とはいえ、これまでも家族らしい生活はなかったので再開ではないし、今も生活と呼ぶに相応しい空間ではなかった。一触即発の同居。何かひとつあれば堰を切って全てがドミノ倒しに崩れる危うい関係。その緊張感にうんざりしながらの怠惰な生活。そん...■鉄の匂い136■

  • ■鉄の匂い135■

    結局は警察の厄介になることになってしまった。中学生がチンピラみたいな恰好で幾晩も公園に居れば、そりゃ誰か通報するわな。鞄と段ボール箱を抱えてパトカーに乗る。黙秘を貫いたが鞄の中から生徒手帳が出てきてしまい、身元はあっさり割れてしまった。50万円は親が来るまで警察が預かることになった。折り目から千切れそうな千円札を輪ゴムで留めた束は、中学生には似つかわしくない。自分の荷物をすべて机の上に並べられ、通帳も開かれた。毎月3万円づつ渡していた食費を、お姉さんが『僕』名義で貯めていてくれた通帳だ。通帳の残高は、毎月3万円づつ渡していた食費がまるまる入金されていて、更にお姉さんが3万足してくれていた。通帳にはカードが挟んであった。お姉さんは、『僕』名義の通帳をつくる時に一緒にカードもつくってくれていたのだった。もっと前に気...■鉄の匂い135■

  • ■鉄の匂い134■

    「もう2度と会わないし会っても挨拶しないと私の方から言っておきながら、突然の別れだったので良ちゃんがどうしてるのか心配で捜してしまいました。やっと見つけた良ちゃんは蹲ったままずっと動きません。お腹が空いているんだろうなと思い、御握りを握ってきました。挨拶しないと約束したので置いてそのまま帰ります。ちゃんと手を洗ってから食べるのよ。不良くんと出会って人生変わってしまった良ちゃん。とても残念です。でも良ちゃんの人生はこれからです。私は遠くからずっと良ちゃんの成長を願っています」『僕』がカイキンのお金50万円を持っていることを知らない姉さんは、コロッケの下に1万円も入れてくれていた。カードがない『僕』が通帳の金を引き出しに行けないのではと考え、入れてくれたのだ。姉さんは最後まで『僕』を心配してくれた。いや。未だ此処は...■鉄の匂い134■

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