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  • ダーウィンの涙 30(END)

    エリオスがなにかつぶやいた。アンリがエリオスを覗き込んだ。青い瞳が開かれた。「アンリ?」「エリオス、ここ、君のバラの館だよ」アンリがささやいた。エリオスは安心して微笑んだ。「かえってきたの?」「そうだよ。もう少し眠るといいよ」アンリはエリオスの髪を軽く撫で、額にキスした。エリオスは息を深く吸い込んで、また眠りに落ちた。アンリは体を起こして、ベットの横に立った。扉の近くにアマディスがダークグリーンの帝国軍士官の正装軍服を着て、踵を合わせて直立していた。「アンリ様、皇帝陛下におかれましては、フェレンバーグ公爵が死亡されたことを配慮され、フェレンバーグ家を法的に訴追するお考えはないとの思召しであられます。アンリ様、セシル様、及び一族の方々は帝国軍の監視下におかれます。ノルマリス伯爵家も同様です。フェレンバーグ家及びノ...ダーウィンの涙30(END)

  • ダーウィンの涙 29

    フェレンバーグ公爵は貴族の卓越した反射神経と運動能力で剣を振るった。ジュランヴィル公爵は振り下ろされる剣を軽く受け止め、受け流した。決闘は超自然的な速さで行われたにもかかわらず、ジュランヴィル公爵には相手の動きはスローモーションのように知覚され、次の動きを正確に予測できた。銀河帝国軍を指揮する一族であるジュランヴィル公爵の戦闘能力は、科学者であるフェレンバーグ公爵の戦闘能力を遥かに凌駕していた。ジュランヴィル公爵にはチェスの手を読むように最期までのシナリオが完全に予測されていた。多重構造の時間の中で戦っているようだった。床に倒れているフェレンバーグ公爵の姿が見えているのに、目の前でフェレンバーグ公爵が剣を突き刺してくる。ジュランヴィル公爵は幻を振り払うように剣を鋭く斬り上げた。フェレンバーグ公爵の頬に細い深紅の...ダーウィンの涙29

  • ダーウィンの涙 28

    優美な貴婦人の城は要塞と化していた。城壁に無数の砲台が現れ、長い黒い砲身が突き出し、鋼鉄の針鼠のようだ。屋上のエアポートからは戦闘型エアカーが途切れることなく発進している。空からは無数の短距離弾道弾が流星群のように飛来する。コンピューター制御の砲身が生き物のように角度を変え、向きを変え、空を覆いつくす弾道弾を打ち落とす。無数の激しい爆発が青い空を花火のように彩り、火花が黄金の小麦畑に雨のように降り注ぐ。ジュランヴィル公爵とエリオスは地下通路を歩いていた。エリオスが来た順路を逆に辿る。ホワイトガーデンが視界に入ってくる。白い花々を背景に、黒い衣装のアマディスが立っていた。いつものように奇妙な形の黒の帽子をかぶり、金ボタンのついた黒のロングコートを着て、肩から斜めにかけた金の縁取りの剣帯に黒い鞘の剣を差し、すらりと...ダーウィンの涙28

  • ダーウィンの涙 27

    エリオスが目覚めると、いつものように、部屋には光が溢れていた。グレイアムが心配そうにエリオスをのぞき込んでいた。「ご気分はいかがですか?」「うん・・・ちょっとへんな気分だよ。夢をいっぱい見ていたみたいなんだ」エリオスは瞬きした。まだ半分眠っているような気分で、エリオスは起き上がった。「ぼく、どうなったんだっけ?アマディスと書斎にいて、お話していて・・・」「その後、意識を失われたんですよ」「ふうん」「本当に大丈夫ですか?」「うん」「では、朝食のご用意をいたします」「うん」エリオスはきょろきょろ部屋を見回した。「マダムアルディは?ベットの横に置いてあったんだけど」グレイアムが申し訳なさそうに言った。「すみません。うっかり落としてしまいまして、さらに踏んでしまいまして、ばらばらに壊れてしまいまして・・・」「えっ・・」...ダーウィンの涙27

  • ダーウィンの涙 26

    フェレンバーグ公爵がノルマリス伯爵を見上げた。ノルマリス伯爵は両手で金属の手すりを握り締め、蒼白な顔で呻くように言った。「私は、やはり、この実験は、これ以上続けることはできません」「いまさら・・・」フェレンバーグ公爵は嘲笑を浮かべた。「特別な能力を持ちながら、強い意思を持たない、心弱い方々」ノルマリス伯爵は苦しげな声で言った。「フェリシテは貴方に絶望して、自ら命を絶ったのです」「私は彼女を愛していた。彼女が気づかなかっただけだ」フェレンバーグ公爵は不機嫌そうに言って、エリオスを抱き寄せた。エリオスは空ろな瞳で、半ば意識を失っているようで、人形のようだった。フェレンバーグ公爵はノルマリス伯爵に透明な瞳を向けた。「伯爵には、この子の記憶を消去してもらう」ノルマリス伯爵はなにかから逃れるように小さく首を振った。フェレ...ダーウィンの涙26

  • ダーウィンの涙 25

    緑の芝生の上に白い柱と硝子で作られた立方体の建物が並んでいた。建物の玄関へ続く茶色の小道のあちこちに、ひょうたんのような形に刈り込まれた濃い緑のイチイが植えられている。そのユーモラスな形が奇妙に非現実的な雰囲気を創りだし、建物も庭もジオラマであるかのようだった。小道にエアカーがふわりと着地した。アンリとエリオスがエアカーから飛び降りた。エリオスは金色のベロアのロングチュニックを着ていて、チュニックの裾がふわりと舞い上がった。エアカーのエンジン音が止まると、研究所の敷地は静かで、なんの物音もしなかった。植物以外の生物は存在しないかのような静けさだった。茶色の小道をアンリは早足に歩いた。エリオスはアンリを小走りに追い駆け、アンリのパーカーの袖を握ってささやいた。「どこから入るの?」アンリが意外そうに答える。「どこっ...ダーウィンの涙25

  • ダーウィンの涙 24

    「エリオス様」アマディスは意識を失ったエリオスを抱き上げた。エリオスの部屋まで運んでベットに横たえる。手首と額にセンサーを取り付け、サイドテーブルにモニター制御器を置いて調節した。しばらくしてフェレンバーグ公爵がグレイアムを伴って部屋に訪れた。ベットのエリオスを見て、アマディスに冷ややかに言う。「優秀なカウンセラー?」「ええ」アマディスは自信ありげにうなずいた。エリオスが荒く呼吸し、手足をばたつかせた。グレイアムがあわてて、エリオスがベットから落ちないように体を押さえつける。「アンリ様もセシル様もこんなことはありませんでしたが・・・」アマディスが淡々と答えた。「エリオス様はライナスの血が濃いようですから」グレイアムは心配そうにエリオスを見つめた。「ライナスの方には錯乱される方がいらっしゃいます・・・」フェレンバ...ダーウィンの涙24

  • ダーウィンの涙 23

    突然、エリオスにあらゆる感情が流れ込んだ。近くにいるアマディスの警戒と疑惑と好奇心。遠くにいるグレイアム。もっと遠くにいるアンリ。思ったより近くに感じるフェレンバーグ公爵。どこにいるのかわからないジュランヴィル公爵。もういないはずのフェリシテ。いままで聞こえなかった音が聞こえる。いままで見えなかったものが見える。圧倒的な情報に、逃げ出したくなる。鋭い痛みが頭を締めつけた。頭蓋骨が破裂して飛び散ったような衝撃に心臓が激しく鼓動した。「エリオス様」アマディスのささやきが聞こえた。「アマディス?」エリオスの体がぐらっと揺れた。体は実体のない深い青い空間に浮かんでいた。「ここは、どこ?」落下した。バーネット城の大理石の地下階に立っていた。「夢じゃなかったのかな?・・・それとも、夢なのかな?」エリオスはぼんやりと細い通路...ダーウィンの涙23

  • ダーウィンの涙 22

    次の朝、エリオスは目覚めたとき、頭が重く、ずきずき痛んだ。ベットから下りると頭がくらくらして、目の端がちかちかして、倒れそうになった。すずらんたちが心配そうな気配を漂わせた。「大丈夫だよ」エリオスは頭と肩をぐるぐる回して背伸びをした。「どうなさいました?」グレイアムが部屋に入ってきた。「ううん、なんでもない」「なんでもなくなさそうですよ?」「えーと、ほんとは、頭痛い」エリオスが眉を寄せて言った。グレイアムがエリオスの額に手を当てた。「熱はないようですね」「うん」「昨日、エアサーフボードから落ちられたのでしょう?頭を打っていたのかもしれません。昨日のうちにドクターに診ていただくべきでした」「大丈夫だよ。なんだか変な夢見ていたみたいなの。だから、ちゃんと眠れなくて、それでだと思うよ」エリオスは無理に笑顔を作った。グ...ダーウィンの涙22

  • ダーウィンの涙 21

    濃い茶色と柔らかい白のインテリアで創造された高貴な雰囲気の部屋。夕闇に染まる木々を背景に、フェレンバーグ公爵は窓辺のソファに深く腰かけていた。公爵の瞳は怒りに煌いて透明だった。「どこへ行っていた?」エリオスは公爵の前に立ってうつむいて小さな声で言った。「ごめんなさい」「どこへ行っていた?」「・・・」「調べればわかる」「ロンサール城」「彼にかかわるなと言ったはずだ」「でも、あの庭・・・」エリオスは公爵をちらっと見て言い返そうとして、また、口ごもった。公爵は諭すように言った。「彼は生き物に興味はないんだ。彼は君のバラではない。君も彼のバラではない」エリオスは黙ってうつむいている。「なぜ君たちは彼に引き寄せられる?彼を好きなのか?」エリオスはようやく顔を上げた。「花たちが公爵様を好きなんだよ。だから、ぼくはよくわから...ダーウィンの涙21

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