かいわれ大根

僕はかいわれ大根が嫌いだ。 今日の給食のサラダにも入っていたので、まるごと残してしまった。 「……あらあら、林くん。野菜が嫌いなの？ それとも何かアレルギーでもあったかしら？」 桜野先生が大きな目でサラ

伯爵と僕

「全く人間というのはくだらない生き物だよ。常々感じているのだが、獣の方がよっぽど素晴らしいと思わないかね、君」 そうして伯爵は、隣に寝そべる豹の背に指を這わせた。豹は金に光る目を細め、無骨な指の愛撫

片恋

昔はもっと寄り添ってた。今はずっと貴方が遠い。 背中を見て歩いている。俯いたわたし。 つまらない訳じゃない。言葉がない訳じゃない。 それでもわたしに届くのは、ただのがらくた。 慣れて爛れた二

全自動洗濯乾燥機

最近、洗濯機を新しくした。 以前使っていたのは結婚当時に友人から譲ってもらった奴で割と年代物だったから、新品のその性能の良さにはかなり感激した。 まず洗い上がりが綺麗で、雨の日には大変嬉しい乾燥機能も

嘘と駆け引き

貴方が吐く優しい嘘は 鋭い棘を隠してる ほら こんなに 傷だらけのわたし 貴方は知らないでしょう？ ”好きだよ、愛してる” さりげないそんな言葉が 心を切り裂く わたしがつく悲しい嘘は 黒を白く見せ

あいたいひと

会いたい人がいます。たぶん、寂しいから思い出すんです。 実らない恋でした。初めから、あったのは憧れだけ。 綺麗だから余計に切なくて、胸の奥で結晶になっていた。そんな恋です。 すっかり忘れていた

ペンダント

煌びやかな広間の片隅で、僕は飲み物を片手にため息をついた。 初めての夜会。 それでも田舎貴族の貧相な少年に寄ってくるものなど誰もいない。 かといって、綺麗に着飾り扇の陰でくすくす笑いをこぼしながらくる

ノロちゃん

あたし、ノロちゃん。 あたしが取り憑くとね、みぃんなお腹を壊して熱を出して寝込むようになるの。 気に入った人を見つけたらね。 腰の辺りに、そっとそぅっとね。 重なって溶け込んで、徐々に痛みを流し込むの

砂糖菓子少女2

恋って甘いの。 ふわふわしてて、まるでパステルカラーのわたあめみたいなの。 でもね、わたあめって、時間が経つとぺしゃんと潰れるのよ。堅くなってべたべたして以前の面影なんて全然なくなっちゃって、悲しくな

自立

きっと誰が見たってこう言うから。 「羨ましい、幸せなのね」って。 だからわたし、幸せって顔して笑おうと思ったの。 貴方の寂しさをどうやって埋めたらいいか分からないから、とりあえず笑おうって決めた

入院拒否

「ねえ、あたし入院しないわ」 唐突に告げられた言葉に、耳を疑う。 「……じゃあ、どうするんだよ。入院して手術しなきゃ治らないって青木先生も言ってたじゃないか」 茜はきゅっと唇を強く結んだ。自分が悪い

みちのく戦隊フクシマン

──みちのくの地、福島から 日本の平和を守るため 三人のヒーローが現れた。 人は彼らをフクシマンと呼んだ。 常に福島を愛する心を持つ ”赤ベコレッド” 正義感が強く、剣の腕は達人 ”白虎隊ホワ

やけど

料理を作っていて、熱いフライパンにちょっと触ってしまった。 「……あちっ」 反射的に口にくわえ、赤くなっていないかどうか確認する。……よかった、大丈夫みたい。 そこで特に冷やさなかったのがいけなかったらし

米倉雅彦 その2

見つけた。 髪をばっさり短くしているけど、あれは彼女だ。あれから三年経つが見間違えようもない。 早足で近づいて、肩を叩く。怪訝そうに振り返った顔が、驚きでいっぱいになった。 やっぱり、覚えていたんだ。

砂糖菓子少女

ドキドキする気持ちって、大事。きっと、いつでも恋しているのが可愛くいられる秘密。 ときめいてなきゃつまんない。そんなの人生じゃないもん。 昨日は恋愛ドラマに出てたあの若手俳優。今日は通りすがりのちょっ

廃屋の自転車

自宅の近くに、ここ何年ももう誰も住んでいない家がある。 窓やドアは木の板で塞がれていて猫の子一匹入れない。人の気配が全くないので、陽の中にあっても何となく薄暗い感じのする場所である。庭には錆びた物干し