だいぶ前になりますが、音楽評論家の吉田秀和が、歳を取ればもっといろんなことがわかるようになると思っていたが、全然そうではなかったという意味のことを、どこかに書いていたのを読んだ記憶があります。 私も、これまで五十年以上生きてきましたが、自分で自信を持って確かにわかったと言えるようなことは、ほとんどありません。そんななかで、これだけは本当に腹に落ちたと思えることが、一つだけあります。 それは、「言葉」です。 言葉には、間違いなく「美味しい」言葉と「不味い」言葉とがある。そしてそれは、私たちが普段食べ物を口にしたときに感じるものとほとんど同じ感覚に属している。 言うなれば、言葉にも、食べ物と同じよ…