1922年3月、亡命ロシア人の政治集会の場で、自由主義を貫いた作家ウラディーミル・ナボコフ(ナボコフの父)が、ツァーリ体制を理想化する青年によって射殺された。悲劇的な事件である。その報に接したドイツのハリー・ケスラー伯爵は、日記に次のように記している。「ロシア文化と芸術の生産的な力は衰弱していない。殺人を許されるのは産むことのできる人間のみ」一読して驚く。これはまさしく、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』のイワンの主題そのものであり、ロシア的知性が抱える倫理のパラドックスを、鋭く凝縮した言葉である。イワンは「神がいなければ、すべてが許される」と語り、無神論者の立場からキリスト教倫理を批判する。自由な理性によって世界を裁こうとしながらも、その自由が他者の命を奪う権利にまで及ぶことの危うさを、イワン自身は...ロシア革命後のテロルを正当化した革命詩人たちの口癖文字数:1224