「下条小夜さん。あなたの容疑は晴れました。どうぞお帰りください。」眼鏡をかけた野間という刑事が、ニコリと笑い、小夜に囁いた。「ウチの桂木が車で送ると言っています。」「・・・・・・。」「あいつはぶっきらぼうだけどいい奴です。桂木をよろしくお願いしま
☆封印☆ 「鹿内君、ちょっとだけいい?」大学のゼミが休講だった日の午前中、モモの散歩を終えた俺は、真理子さんに声を掛けられた。俺は少し走ったのでTシャツが汗で濡れていた。「大丈夫ですけど・・・着替えてきてもいいですか?」「ええ。もちろん。リビ
☆強敵☆ つぐみが俺の好きなアイスチョコもなかを持って部屋を訪ねてきた。甘いもので俺になにかを頼もうとしていることはすぐにわかった。神宮司美也子からのエサは無視するが、愛しい女が与えてくれるエサなら、腹を減らしていなくても食いついてやろう、それが
☆白紙☆ 俺のバイト先は「ささ木」という名の、個人で経営している創作料理が売りの和風居酒屋だ。そこで俺はホールを任されている。大学に入ってからすぐに見つけたバイト先だから、もうかれこれ2年近く勤めていることになる。店長は佐々木淳という名の、スキ
☆暴走☆ 俺が大学のレポートに頭を悩ましていると、部屋のドアの外からノックが三回鳴った。ゆっくりした間隔で、少しづつ小さくなっていくちょっと遠慮がちな音。間違えるはずもない。つぐみだ。「はい。」俺は嬉しい気持ちを抑え、平常心を保ちながら返事
☆魔法☆ 俺はディズニーシーとディズニーランドの券を2枚づつ用意した。「信二。俺、ディズニーシーの券、2枚持っているから彼女と行ってこいよ。」俺はそう信二に声を掛けた。「え?いいのか?」「ああ。バイト先でもらったから。」「じゃあゆりちゃんと
☆落胆☆ 俺とつぐみの仲を強固にするためには、俺を付きまとう女に犠牲になってもらう必要があった。その犠牲者に、野球サークルのマネージャーのひとりである、藤沢良美を選んだ。派手なファッションにケバイ化粧。外見もそうだが、なにより人によって態度を変
☆接近☆ つぐみと予想外に早く親しくなれた俺は、どんどん欲が出て来た。つぐみの外見を少しだけ俺色に変えてみたい。俺の手でつぐみが変わっていく・・・そんな独占欲と所有欲が俺の中で渦巻いていた。つぐみを「花と乙女」の常連客で親交のある磯野薫の店に連
☆初回☆ 「まあまあ。初めまして。雨の中大変だったわね。狭い家だけどどうぞ上がって!」「はい。初めまして。鹿内弘毅と申します。お世話になります。ご迷惑でしょうがどうぞよろしくお願いします。」俺はそう言って深くお辞儀をした。「迷惑なんて全然思って
☆接近☆ 俺はつぐみの外見を少しだけ俺色に変えてみたいと思った。つぐみを俺の行きつけのバー「花と乙女」の常連客で、親交のある磯野薫の店に連れていき、つぐみの髪をいじってもらった。つぐみは自分の新しい髪型にとまどいと恥じらいを見せた。そしてそのまま
☆初回☆ 初めて生のつぐみと対面した。高校の2年生になったつぐみは、写真でみるつぐみより少しだけ大人びていて、写真の何十倍も愛らしかった。これから俺がこの家を出る日まで、同じ家で同じ空気を吸い、同じものを食べ、その声や行動をこの目に焼き付けること
☆開始☆ そして今日は小雨降る5月初めの土曜日。つぐみと話せる初めての日。白い壁に赤い屋根、玄関ポーチにはパンジーとスノーボールの花。深緑の重い扉の前に、俺は傘もささずに立っている。表札には山本健太郎、真理子、そしてつぐみの文字。俺はこれか
☆冠婚葬祭☆ バイトは家庭教師と居酒屋の店員、二足のわらじを履くようになった。それというのも、いとこの陽平の結婚が決まり、伯父の家に陽平の妻となる女を住まわせることになったからだ。その女は陽平の大学のサークル仲間で、和風美人だがお嬢様育ちで少し人
☆大学☆ 大学生活は高校時代と違って、規則もゆるく自由な時間もかなり増えた。俺と信二は当然のごとく野球サークルに入った。ここでも高校の部活とは違って、気の向いた時に気の向いた人間が練習をし、たまに試合をするという感じだった。俺のキャンパスライフ
☆才女☆ 高校3年の冬を迎え、大学受験はもう目の前にあった。俺は信二と同じ大学を受けることに決めていた。信二はここ最近、猛烈に勉強をした成果が出始め、早慶大学を受けることを決意した。俺も早慶大学には、教育学部に受講したい講師がいるし、その選択に
☆写真☆ それからというものの、俺は月に二回くらいの割合で、勉強をするために信二の家へお邪魔するようになった。信二の家は信二の父親である山本康太郎と母親の山本信江、そして信二の3人家族だ。信二の家に行くときは甘党の信江さんの為に、必ず菓子を持参す
☆絵本☆ 高校3年の秋。もう大学受験の競争はスタートしていた。俺はなんとか信二の家に招かれたいと思っていた。信二は両親ともに45歳の時に生まれた恥かきっ子だと、特に自虐をいう風でもなく教えてくれた。信二の兄山本健太郎は両親が22歳の時の子供だか
☆檸檬☆ 信二とは教室でも部活でも、互いにいなくてはならない存在になっていった。高校生活も3年目に突入し、俺は野球部のキャプテンになった。受験シーズンが始まる夏までの短期間限定だったが。俺より信二の方が適任だと思ったが、顧問から指名され、自分が
☆親友☆ 俺はその日を境に、山本信二に少しづつ近づいていった。あの少女を、つぐみを、俺のものにする。これが俺の今後の人生の大きなドリームでありサクセスとなった。それには時間がかかるだろう。けれど俺の座右の銘である、計画を立て実行し必ず成功して
☆少女☆ 銀杏の葉が黄色く染まり、少し吹く風が冷たくなってくる季節に、俺の高校は学園祭という催しを毎年行っていた。ホームルームの議題は学園祭にクラスで何を出し物にするかで揉めに揉めた。和菓子喫茶をやりたいという女子グループとお化け屋敷をやりたいと
☆迷走☆ それでも俺は「恋」という感情を手に入れてみたくて、自分へのルールを破り、同じ学年の女子生徒の告白を受け入れてみた。上野千賀子は女子バレーボール部に入っていて、明るくあっけらかんとした性格をしていた。スポーツをしているだけあって、向上心もあ
☆孤独☆ 俺がマルコを連れて川沿いの広い公園を散歩していると、突然誰かに肩を叩かれた。嗅いだことのある甘ったるいラベンダーの香りが、俺の鼻孔にまとわりついた。「弘毅君。久しぶり!」その声の主は陽平に連れていかれたバーベキューの時に声を掛けられた
「愛犬」 ある日、突然陽平が犬を飼うと言い出した。動物など飼ったことのない俺は、正直反対したかった。動物は皆、飼い主より先に死ぬ。可愛がれば可愛がるほど、その別れは辛くなる。小学校の時に飼っていたクワガタさえそんな気持ちになるのだから、懐いて
☆労働☆ 高校に入って初めての冬休み、俺はバイトを始めた。伯父は生活費や食費などの面倒を十分なほどに与えてくれていたが、将来のために自らの金を貯金しておきたかったのだ。いつ、どこで、どんな風に金が必要になるか分からない。中学時代に年上の女から貰
☆高校☆ 新しく入った公立高校は伯父の家から歩いて20分くらいの場所にあり、俺は徒歩で通学していた。地元ではそれなりに有名な進学校で、制服も中学の時の学ランから、グレーのブレザージャケットに茶系のタータンチェックのズボンという洒落たものだった。実
☆従兄☆ 中学の卒業式が終わり、俺は実家を出た。必要最低限の物だけ段ボールに詰め、大学生になる従兄の陽平に車を出してもらい、荷物を運んでもらった。親父は初めの内は俺が家を出ることに難色を示した。息子のことで実の兄に借りを作ることが嫌だったのだ。
☆恩師☆ それからも流川は、たびたび店に顔を出すようになった。ただ何も話さずに酒を一杯飲んで帰るときもあれば、九州の実家に帰ったときのお土産だと言って、明太子の入った箱を渡されたときもあった。「生徒全員にこんなことしているのか?教師って仕事も大変
☆狂犬☆ ある夜、同学年の不良グループに所属する荻原という男が、別の学校の不良にカツアゲされている現場に遭遇した。俺は気まぐれに、その荻原を助けた。別に難しいことではない。倒したい相手に、思い切り拳を叩きつける、ただそれだけのことだ。荻原はそ
☆女豹☆ 父親の言葉通り、梅の花が咲くころ、その女は我が家へやって来た。白いブラウスにグレーのロングスカート、あまり手入れされていない髪を後ろでひとつに結んだ、度の強い眼鏡をかけた女だった。ただその爪のネイルの赤さだけがやけに不自然に映った。第
☆亀裂☆ 俺はガキの頃から、女という生き物に好かれた。いや、執着されたというべきなのかもしれない。女が猫なら、俺はまたたび、とでもいおうか。幼い頃はおままごとなどという退屈な遊戯にしょっちゅう参加されられた。それは小学生、そして中学生になって
☆最愛☆ やっと。やっと。やっと手に入れた。 俺はつぐみの心と身体をやっと完全に手に入れることが出来たのだ。さっきまで繋がっていたつぐみの身体を反芻し、俺は深く息を吸い込み、その息を大きく吐き出しながらその事実を噛みしめる。 俺の腕の
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その32 初めてをあげる
☆初めてをあげる☆ 鹿内さんの新しい住まいであるマンションは、最寄り駅から15分ほど歩いた住宅地にある。駅前の商店街に美味しそうな洋菓子が並ぶ「パティスリーあゆみ」というケーキ屋さんがあったので、そこでショートケーキを二つ買った。鹿内さんの好きな
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その31 ちょっぴり大人のデート
☆ちょっぴり大人のデート☆ 鹿内さんが家を出てから1か月半。私と鹿内さんは1週間に1度の割合でデートを重ねていた。場所は駅前のカフェやファミレス、美味しいラーメン屋さん。お洒落なカフェもいいけれど、鹿内さんのお気に入りの隠れ名店に連れて行って
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その30 愛を知るまでは
☆愛を知るまでは☆ 美也子さんにそう言われたものの、私は鹿内さんに自分の気持ちを告白する勇気が持てないまま、時間だけが過ぎ去っていった。鹿内さんに「ずっと前から心に決めた子がいる」ということも、私の恋心の暴走をストップさせていた。そして鹿内さんと
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その29 美也子さんの助言
☆美也子さんの助言☆ 梅の花が咲くころ、いつもの図書館で私は再びある人と出会った。美也子さんだ。「元気?」美也子さんは相変わらずの美しい笑顔で私に声を掛けた。ピンクのリップがつやつやと輝く唇を私はみつめていた。「はい。大学受験がもうすぐなの
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その28 バレンタインデーはビター風味
☆バレンタインデーはビター風味☆ 聖バレンタインデー。それは女性が好きな男性にチョコレートを捧げる日。というのはお菓子会社の陰謀で、古くはキリスト教のエライ人の記念日、らしい。私のアルバイト先のコンビニにも2月に入ってすぐに、店頭に様々なチョ
☆あふれる想い☆ その日の私は朝からちょっと体調がおかしかった。朝ごはんの味もしないし、喉も少し痛かった。熱を測ると、37℃2分、微熱だし学校を休むほどの体温ではない。なんとなくだるいまま登校し、授業を受け、放課後の沙耶とのお喋りもそこそこに帰
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その26 それでも嬉しい
☆それでも嬉しい☆ 日本人は節操がないというけれど、クリスマスが終わった途端に、街は一気にお正月ムードになる。テレビのコマーシャルもやれ「厄除け大師は川崎」だの「お節は丹波の黒豆」だの昨日までのクリスマスムードなどはなかったかのように、和の雰囲気をこ
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その25 渡せなかったプレゼント
☆渡せなかったプレゼント☆ 次の日。世の中はクリスマスイブが主流になりつつあるけれど、本来キリスト様の生誕は12月25日だ。ある意味、25日の方が宗教的には大事な日であって、おろそかにしてはならないのだ。などということは、私にはまったく関係な
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その24 人生初のアルバイト
☆人生初のアルバイト☆ 12月。もうすっかり街の匂いは冬になっていた。街ゆく人は分厚いコートを着込み、恋人達は指をきつく絡ませてお互いの熱で温め合う。クリスマスが近づいていた。沙耶は合コンで知り合ったエリート医大生をめでたくゲットし、今年のクリ
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その23 不器用なアプローチ
☆不器用なアプローチ☆ 自分の中にある溢れる想いを一人で抱えきれなくなった私は、ある日の放課後、沙耶に今までの事を全部打ち明けてしまった。沙耶は茶化すことなく、最後まで黙って話を聞いてくれた。そして私が話終わると、ひとつ大きなため息をついた。
☆子犬物語☆ 秋も深まった11月の夕方、私はモモを連れて散歩に出かけた。いつもの公園のベンチで休んでいると、真奈美さんと小太郎がやって来た。「こんばんは」「こんばんは。つぐみちゃんと会うのは久しぶりね。」「そうですね。私、最近勉強が忙しくて・
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その21 厳しい家庭教師
☆厳しい家庭教師☆ 長いようで短かった夏休みも終わり、秋も深くなった10月がやって来た。とはいってもまだ、照り付ける残暑の日差しは強く、エアコンの出番が終わりを告げるには早い。休み明けのテストの出来が散々だった私は、本格的に勉強に取り組まなけれ
☆重荷と傷☆ 私達は駅前にある外資系チェーン店のコーヒーショップに入った。鹿内さんはレモンティー、私はチョコレートフラペチーノを頼んだ。「鹿内さんって紅茶派なんですね。意外。」「なんで?」「だって鹿内さんってブラックコーヒーってイメージだも
☆妹でいい☆ 由宇さんと「キッチン七瀬」に行って忘れてはならないことを思い出した。それはパパとママの結婚記念日が近いってことだ。二人の結婚記念日は9月15日。忘れようがない。何故ならママは結婚記念日が近づくと、毎年テーブルに赤い薔薇を飾り、その
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その18 終わらない試合
☆終わらない試合☆ 夏休みもあと一週間で終わりを迎えようとしていた。そんなある日、私のスマホに由宇さんからのラインが着信されていた。(明日空いている?この前の約束通り、街の案内してよ。由宇)(いいですよ)由宇さんには女友達に送るようなノリで
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その17 ふたりきりの夜
☆ふたりきりの夜☆ 鹿内さんと顔を合わせない日々が続いていた。鹿内さんは相も変わらず、朝早く出掛けて、夜遅く帰ってくる。まるで私と会うのを避けているかのように思えた。そんなある日、父と母の共通の友人のお父さんが亡くなったということで、両親ともに
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その16 ボーイフレンド
☆ボーイフレンド☆ 夕方、いつもの日課であるモモの散歩に、私は一人で出かけた。一人が淋しいなんて、鹿内さんが家に来るまでは思ったこともなかった。でも、今の私はどうしてこんなに淋しいのだろう。・・・・きっと鹿内さんと美也子さんは結ばれたのだ。
☆美也子さん☆ 夏休み。暑くて長い休みに突入した私は、家に閉じこもっていても腐るだけなので、近所の公立図書館で山ほど出題された宿題を片付けてしまおうと決心した。宿題だけではない。私も来年は高校3年生。大学受験という難関が待ち受けている。
☆恋と愛の違い☆ 私は家に帰って、ネットで「恋」と「愛」というものについての定義を調べてみた。 「恋」ある人を好きになってしまい、寝てもさめてもその人のことを考えてしまうこと。他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心。「愛」
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その13 これは初デート?
☆これは初デート?☆ 青葉の季節が去り、紫陽花に雨の雫が溜まり落ちる梅雨の季節も過ぎ、試験が終わればすぐに夏休みがやってくる。夏休みのディズニーランドはカップルや学生、そして県外から訪れるファミリー層で、おそらく通常の倍近く混むだろう。狙い目
☆彼女役の受難☆ その女性はチェーン店として人気を博するドーナツ屋の窓ガラスに映る席で、手持ちぶたさにスマホをいじっていた。長い茶髪をポニーテールにして耳には大振りの赤いイヤリング、黄色い半そでシャツに黒のパンツという原色が良く似合う目元キツめの美
☆男に慣れろ☆ 「マジで合コンに参加したいって?!」沙耶が驚くのも無理はなかった。これまで散々誘われても乗ってこなかった私が、自ら合コンに行きたいと告げたのだから。「うん。沙耶の言う通り、もうそろそろ男子にも慣れておかなきゃと思ってね。」「
偽の彼女?③そして日曜日。鹿内さんに連れられて行った所は、三軒茶屋にあるこじんまりとした美容室だった。「ギャランドウ」という女子高生が口に出すには少し恥ずかしい名前のついたこのお店は、透明の自動ドアで中には外国から日本の俳優まで色んなイケメンのポス
偽の彼女?②翌朝は日曜日だったのでカーテンの隙間から差し込む太陽の光を感じつつ、ベッドから飛び起きた。平日は早起きして学校に行かなければならないので、休みの日くらいはゆっくりしたい。したいけど今朝はいつもより早く目が覚めてしまった。鹿内さんとモモの散歩
☆偽の彼女?☆① それから二日後の土曜日の夜、バイトが休みらしく、鹿内さんは珍しく家に居た。夕食を食べ終わり、鹿内さんはベランダでひとり、アンニュイな雰囲気で煙草をふかしていた。私はそっとベランダの戸を開け、鹿内さんの隣に立った。もちろんかなり
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その7 ファーストコンタクト③
知らない男がウチに住むのを嫌がってはいたものの、拍子抜けするくらい鹿内さんとはほとんど家ででくわすことはなかった。朝は私の方が早く学校に行くし、鹿内さんも平日は大学、夜もほぼ毎日居酒屋のバイトで働いて午前1時くらいに帰り、お風呂も当然夜中に済ます、といっ
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その6 ファーストコンタクト②
☆ファーストコンタクト☆②実際、鹿内さんは何でも良く食べた。夕食に出された食事はことごとく、残すことなく食べつくしていた。鹿内さんの旺盛な食欲は、いくら食べても底なしのようで、また食べ方も豪快だけれどキレイな所作だった。おかげで私も苦手な食べ物を
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その5 ファーストコンタクト①
☆ファーストコンタクト☆① その人は桜の花びらが散り、新緑が眩しい5月初めの土曜日に、大きなカバンひとつで我が家にやって来た。ちょうど雨が降り始めた午後、我が家にピンポンと来客を知らせるベルが鳴った。私は部屋に閉じこもったまま、カーテンを少し開
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その4 お祖母ちゃんとの約束
☆お祖母ちゃんとの約束☆ 私は次の日の午前中、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行くことにした。私の通う私立桜蘭女子校の理事長である水梨桜子先生が最近こんなことを言い出した。「朝起きてまず何をしようかと思いますよね。きっと自分のやりたいことでい
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その3 男嫌いでなにが悪い③
☆男嫌いで何が悪い☆③桜蘭高校から自宅までの道のりは30分といったところだろうか。最寄りの私鉄に乗り15分ほど電車に揺られ、駅から10分歩くと白い壁に赤い屋根の我が家が見えてくる。建売だけど新築で私もこの家がとても気に入っている。登下校の途中には桜並
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その2 男嫌いでなにが悪い②
☆男嫌いでなにが悪い☆②私の名前は山本つぐみ。私立桜蘭女子高校の2年生。ちなみに桜蘭女子高校はこの辺では唯一といっていいほどの女子校だ。一応その近隣ではお嬢様学校と言われている。私が必死で中学受験のために勉強したのは、お嬢様のブランドが欲しかった
愛を知るまでは★イチゴキャンディ編★その1 男嫌いでなにが悪い①
☆男嫌いでなにが悪い☆① その会話を漏れ聞いたのは、ほんの偶然だった。夜中に急に喉が渇いたので冷蔵庫にある麦茶を飲もうと思い、階段を降り一階にあるキッチンへパジャマ姿で向かった。着ているモコモコパジャマはお気に入りのクマさん模様。一階のリビングには、
初めまして。きなこなです。少女漫画風小説を描いてみました。 もしよかったらお立ち寄りください。「愛を知るまでは」★イチゴキャンディ編★★ビターチョコレート編★男嫌いの女の子と女嫌いの男の子の恋物語となっています。イチゴキャンディ編→ビターチョコレート編→
「ブログリーダー」を活用して、きなこなさんをフォローしませんか?
「下条小夜さん。あなたの容疑は晴れました。どうぞお帰りください。」眼鏡をかけた野間という刑事が、ニコリと笑い、小夜に囁いた。「ウチの桂木が車で送ると言っています。」「・・・・・・。」「あいつはぶっきらぼうだけどいい奴です。桂木をよろしくお願いしま
暖かな春の光が、大きなサッシ窓越しに差し込む4月初めの土曜日。窓の外には雲一つない晴れやかな空の青、遠くには微かに富士山が見え、名も知らぬ鳥たちの春を喜んでいるようなさえずりがどこからか聞こえてくる。不動産会社社員8年目となるやり手営業の岡咲渚は、顧客
私が東京へ戻り再び凌と暮らし始めてから、また新しい冬を迎えようとしていた。凌は影山エステートの専務として精力的に仕事をこなしていた。そして「リリー」のセラピストとして復帰した私を、古田さんや美紀ちゃん、他のスタッフも喜んで迎え入れてくれた。凌は私がス
私が東京へ戻り、再び凌と暮らし始めて1年が経ち、また新しい冬がやってきた。凌は影山エステートの専務として精力的に仕事をこなしていた。私も「リリー」のセラピストとして復帰し、古田さんや美紀ちゃん達と再び仕事に励んだ。凌は元々自動車の免許を持っていた
私は退院してからすぐに今まで通り、スナック「ゆり」で働き始めていた。ぼおっと休んでいるより、仕事をしている方が気が紛れた。私はゆりさんに頼まれて、お客様にだす料理の材料を買いに店の外へ出た。急いで買い物を終え、店へと帰る道を早足で歩いた。冷える
次の日、私はMRI検査という脳のレントゲンを撮った。病院の食事を食べ、あとは何をするでもなく、ただぼんやりと過ごした。本を読みたかったけれど、まだ脳を疲れさせることはやめなさいと看護師さんに注意された。私は窓の外の木の枝に止まる鳥を、所在なく見て
気が付くと、私は真っ白な部屋のベッドに仰向けで横たわっていた。ゆっくりと目を開くも、蛍光灯の光が眩しくて何も見えない。しばらくするとやはり白くて高い天井が目に映った。そのままぼんやりしていると、誰かが私の手を握りしめた。「りお!」今度こそしっ
スナック「ゆり」で働くようになって、もう1年が経とうとしていた。季節は1年前と同じ、寒い冬が訪れていた。ゆりさんが明日は一日店を閉めると私に告げた。スナック「ゆり」は基本定休日を定めていなかった。ゆりさんの都合と気分次第で突然店は休みになる。
次の日の午後、私は机を挟んで、ゆりさんの前に正座をさせられていた。私が大きなミスをしたときに行われる、説教タイムの始まりだ。「りお。昨夜の失態はどういうこと?」「・・・すみませんでした。」私はしおらしく頭を下げた。ゆりさんは呆れた表情で私を見
不動産屋の中年男性・・・大鶴さんに連れられて行ったそのスナックは繁華街の裏通りにある「ゆり」という名の店だった。古ぼけた雑居ビルの1階にある、小さなスナックだ。黒いガラスの自動ドアから店に入ると、カウンターの向こうに、紫色の派手な蝶の柄が入ったワンピ
ダウンジャケットにジーパン、そして首には凌がクリスマスにプレゼントしてくれたピンクのマフラーを巻いて、私は後ろ髪を引かれる思いで家を出た。郵便局のATMで少ない貯金を下ろし、地下鉄に乗ってとりあえず新宿へ向かった。どこへ行けばいいかなんてわからない。で
私は絶望に打ちひしがれながら、凌とコユキの匂いがする家へ帰った。コユキがケージの中でピピっと嬉しそうに鳴いた。私はその鳴き声を聞きながら、ぼんやりと椅子に座りこんだ。どれくらいの間、そうしていただろう。ふいに私は自分がしなければならないことを思い
凌は影山エステート東京支社で重要なポストに就いた。でも優秀な部下が凌の負担を減らしてくれているらしく、以前のように夜遅く帰ることは少なくなった。私は、変わらず「リリー」でセラピストとして働いていた。凌と私とコユキで、一緒に朝起きて、夜ご飯を食べて、笑い
家に着くと私と凌は部屋着に着替え、キッチンのテーブルを挟み、向かい合って座った。凌のただならぬ様子に雰囲気を変えようと、私はつとめて明るい声をだした。「ビールでも飲む?」私が椅子から立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを出そうとすると、凌はそれを止めた。
秋ももうすぐ終わりそうな11月。「リリー」がある靖国通り沿いには、賑やかな屋台が並んでいた。花園神社で毎年恒例である「酉の市」が行われるからだった。花園神社は江戸時代から「新宿の守り神」として地元の人から愛されている神社だ。その日は新宿の人出が
初夏のある日。凌が知り合いの人から小鳥を貰って帰ってきた。「ヒナを沢山産んじゃったんだって。もう無理矢理押し付けられたようなもんだよ。俺、鳥なんか飼ったことないし、困ったなぁ。」その小鳥は綺麗な空色の身体に頭部は白く黒いぶちが入った、つぶらな丸い瞳を
アロマオイルマッサージのお客様を送り出して、手の空いた私は給湯室で汚れたタオルを洗濯することにした。洗濯機のないこの店では、洗濯は全てスタッフが手洗いする。夏が近づいていた。桶に水と洗剤をいれ、その後タオルを水につけ揉み洗いする。冬の水の冷たさ
寒い冬が過ぎ、日差しが温かい春がやって来た。凌に劇団の友人達と新宿御苑で花見をするから、伊織も一緒に行こうと誘われた。「私はいいよ。凌はお友達とお花見、楽しんで来て。」「伊織と今年の桜を一緒に見たいんだ。きっとソメイヨシノが綺麗に咲いてるよ。」
お正月休みに凌は、鎌倉にある実家へ帰ると私に告げた。実家には父親と義理の母、そして義弟が暮らしているとのことだった。凌は自分の実家のことをあまり話したがらなかった。妾の子として引き取られた凌が、実家でどんな扱いを受けていたのかは容易に想像できた。
暖かな春の光が、大きなサッシ窓越しに差し込む4月初めの土曜日。窓の外には雲一つない晴れやかな空の青、遠くには微かに富士山が見え、名も知らぬ鳥たちの春を喜んでいるようなさえずりがどこからか聞こえてくる。不動産会社社員8年目となるやり手営業の岡咲渚は、顧客