以下の文章は2023年1月15日発行、大阪大学感傷マゾ研究会様の会誌『青春ヘラver.6 〈情緒終末旅行〉』に寄稿したものです。 個人ブログでの公開が可能と告知されましたのでこちらに掲載いたします。 《白昼の歓楽街、取り残された街》 特定の種類の場所に旅行で赴くと、必ず、脳裏に浮かぶ出来事がある。 「おい、ハチがいるぞ」 後部座席の方から低い声が発され、陽が落ちた田舎道を走る路線バスの車内に、困惑の一点が落とされた。 「ハチがいる」 二回目。今度はさっきよりも、明瞭に響く声量で。 バスの乗客たちが、にわかに緊迫した空気を醸し出す。どこか危機感のにじむ、擦り切れた畳の表面のように、ささくれ立った…