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創作BL小説を掲載しています。(大学生、社会人、高校生、ノンケ、日常、切ない、甘々、一部R18含む) できたものから少しずつアップしていきたいと思います。

立石 雫
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2021/03/31

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  • 知らぬ間に失われるとしても(39)

    圭一の口が離れ、代わりに手が何度か屹立をゆるく扱く。その手も離れて圭一が動く気配がしたので、旭は目を開けた。 ベッドの下に手を伸ばした圭一が、何かを取り出す。「……何?」「ジェル」「買った?」「うん」 柏崎に教えてもらった、と圭一が呟くように言いながら蓋を開ける。見上げていた旭と目が合うと、少しだけ笑って顔を近付けてきたが、何かに気付いたように途中でやめた。 やっぱり柏崎くんはもう知ってるのか。旭はしばらく会っていない友人のことを思い出した。圭一とのことを話そうと思ってい

  • 知らぬ間に失われるとしても(38)

    ――本当に、圭一とセックスするのか。 こうやって裸にされて。 組み伏せられて。 愛撫されて。 何故か、頭の中では元カノと行ったホテルの部屋の光景を思い出していた。あの時の自分は今の圭一と同じだ。あの時自分の中に生じた激しい興奮が、今の圭一の中にもある。 それから、バスルームの鏡に映った自分の体を思い出した。 圭一は本当にあんなものに欲情しているのだろうか。 けれど、首に、肩に、胸に、腹に、さっきから絶え間なく触れ続ける圭一の手と唇と舌の感触が、それが事実だと伝えていた。圭一

  • 知らぬ間に失われるとしても(37)

    背中に触れていた手がTシャツの裾をくぐり、初めて旭の素肌に触れる。人に触られる時だけ異様に敏感になる場所を撫でられ、旭は思わず息を詰めた。呼吸を止めて全身に力を込め、くすぐったいようなその感覚に耐える。 何度も背中を撫でた後、圭一の手が下に降りてベルトの隙間に入り込もうとする。指先が割れ目に届くか届かないかのところでまた引き返す。その手が今度は服の上から旭の臀部を掴んだ。形を確かめるようにその凹凸に手を這わせる。もう片方の手はTシャツの中で脇腹を下から上へとゆっくりと撫で

  • 知らぬ間に失われるとしても(36)

    12.圭一の部屋2『明日、うち来る?』 前日に、圭一は旭の意思を再確認するようにラインを送ってきた。既に腹をくくっていた旭は、『行く』とだけ返した。 その日も家で昼食を済ませた後、旭は念の為シャワーを浴びてから圭一のマンションへ向かった。インターフォンを押すとすぐにオートロックが解除される。「――おう」 階段を昇ると、圭一が玄関のドアを開けて待っていた。軽く挨拶を交わして、中に入る。お互いに何となく口数が少ない。旭を先に部屋に通して、圭一はいつものように飲み物を取り

  • 知らぬ間に失われるとしても(35)

    今日も、唇を離した後に圭一は旭の体を抱き締めてくれた。昼間に汗をかいたからか、圭一の匂いがいつもよりも強い。でもそれが全く嫌ではなくて、むしろ安心感が強まるような気すらする。――もう自分の中で結論は出ているのかもしれない。 少し前から何となく分かってはいた自分の気持ちと、旭はその時初めて正面から向き合った。 楽しかった今日という一日。旭は圭一となら何も気にせずに素の自分でいられる。疲れたりせずずっと一緒に時間を過ごすことができる。何より、圭一は旭のことを好きでいてくれる。

  • 知らぬ間に失われるとしても(34)

    旭が夕食をおごると言うと、圭一は頑なに拒んだ。「いいよ。自分で払うから」「でも、バイト代出たし」「せっかく稼いだんだから、自分のために遣えって」「これも自分のためだから」「変な気遣わなくていいから、まじで」「俺がおごりたいんだよ」 口調を強めると、圭一は考えるように口をつぐんでから、やがて静かに言った。「彼女にはおごってたのかもしれないけど……俺らの間では、そういうの無しにしないか」 旭は頷いた。「俺もそれがいいと思ってる。でも今日だけ別」「何で?」「俺、バイト辞めずに続

  • 知らぬ間に失われるとしても(33)

    11.USJ 結局、USJに行けたのは夏休みの終盤だった。旭のバイト代が振り込まれるのが意外に遅かったからだ。圭一がお盆に祖父母からもらうお小遣いを当てにしていたように、旭も田舎でお小遣いをもらえたのだけど、何となく、せっかくだから自分で稼いだお金でUSJに行きたかった。夕食くらいは圭一にご馳走しようとも思っていた。 まだまだ残暑が厳しい頃だったが、当日は早めに家を出て開場とともに入り、乗れるだけのアトラクションに乗った。案の定、目的の期間限定アトラクションは長蛇の

  • 知らぬ間に失われるとしても(32)

    大した理由でもないのに辞めていいのだろうか。言い訳にして逃げているだけじゃないか。それともバイトなんてそういうものなんだろうか。普通はどうするものなんだろう。圭一だったら。 その夜、旭はいつの間にか寝落ちするまでずっとぐるぐると考え続けたが、結局、結論らしい結論は出なかった。 翌朝に起床しても、やっぱりまだ迷いは残っていた。 しかしいつものようにバスに乗ってバイト先に着くと、旭はそのまま事務所に行って、緊張しながら、父親に教えてもらった台詞をそのまま口にした。 そして父親

  • 知らぬ間に失われるとしても(31)

    月曜日の夜、夕食を食べ終えた旭は、何でもないふりをしつつ食卓に残っていた。今日は珍しく父親の帰りが早くて、逆にうるさい姉が外食でいない。好都合だった。「……あのさ」 母親がキッチンに立ったタイミングを見計らって、テレビを観ている父親にさりげなく声を掛ける。「ん?」「……セクハラ、って、どういうの?」 振り返った父親は、旭の問い掛けに何か考えるように一拍置いた後、「相手の嫌がることを言ったり、見せたり、聞いたり、体に触ったりすることかな」と答えた。旭のケースがそのまま当ては

  • 知らぬ間に失われるとしても(30)

    「それ、セクハラとかじゃないの」 それまで楽しそうに話していたのに、圭一の表情が真剣なものに変わっていた。「セクハラ? いや、一応女の人だって」「女から男へのセクハラだってあるだろ」「……でも、おかんより更に上の人だし」 何となく認めたくない気持ちが働いて、つい否定的に返してしまう。圭一はその空気を察したのか、「まあ、だったら向こうも子供相手のつもりなのかもな」と取りなすように言った。「でも嫌だったら変に我慢せずに言えよ、ちゃんと」「ていうか……そんな、ものすごい嫌とかじゃ

  • 知らぬ間に失われるとしても(29)

    職場ではとにかく仕事をすればよい、という当たり前のことを、旭はここで身を持って学んだ。 仕事に打ち込むことが、この時間をやり過ごすうえで一番楽な方法だった。仕事のことなら他の人ともそれなりに言葉を交わすことができたし、アウェイ感も多少は薄れる。時間もそこそこ速く流れる。そう思った旭は、ただ黙々と仕事に取り組んだ。その態度がゆくゆくは周りからの評価に繋がることまでは、今の旭には見えていなかった。 作業している時、ふと、例のきつい女性スタッフの手が旭に当たり、女性が気付いたよ

  • 知らぬ間に失われるとしても(28)

    10.夏のアルバイト 夏休みに入るとすぐに、旭の人生初のアルバイトが始まった。 就業場所は海側の埋立地にある工場地帯の一角で、公共交通機関で通うには不便なところにあったが、従業員のために最寄り駅から送迎バスが用意されていた。 初日、少し早めの時間に停留所に行った旭は、一番にバスに乗ってさりげなく周りを観察したが、後からバスに乗り込んでくる人達は、その大半が中高年の女性だった。向こう側からも物珍しそうな視線を向けられたので、旭は顔を隠すように窓の外に目を向けた。 工場

  • 知らぬ間に失われるとしても(27)

    次の日、授業終わりに落ち合ってすぐ、旭はさりげなく「どこ行く?」と言った。圭一は表情を変えることなく、近くの総合商業施設の名を挙げる。「Eモールでも行くか」 旭は内心ほっとしながら頷いた。 学校を出た後、自宅のあるエリアを通り抜けて少し先にある最寄り駅まで、二十分ほど歩く。Eモールは駅を通り抜けてすぐ向こう側にあった。数年前にできたばかりの商業施設で、大型スーパーやレストランフロアがある他、映画館やフィットネスジムなども併設されている。 二人はまずモールに入っている書店で

  • 知らぬ間に失われるとしても(26)

    9.ショッピングモール テストが終わり、夏休みまでの残りの授業を消化試合のように過ごす。返ってきた答案の点数はどれもそれほど悪くなかった。圭一と毎日勉強した成果だろう。 生活は以前のように戻り、圭一と過ごす時間も減った。午後の授業がある間は、相変わらず柏崎も含めて三人で昼食を取った。 夜に一人で部屋にいる時、たまに圭一とのキスを思い出す。あの触れ合いの時間が失われて、旭は率直に寂しさを覚えていた。圭一との関係は、元カノとのそれよりもずっと付き合っているという実感があ

  • 知らぬ間に失われるとしても(25)

    その後、旭の部屋でケーキを食べてから、あらためて圭一の家に移動した。 圭一が旭の部屋に入ったのは、旭が圭一の部屋に行った以上に久しぶりだった。多分、小学生の頃以来だろう。圭一は少しだけ物珍しそうに部屋の中を見回していた。 結局今日も圭一の家に行くことになったので、気になっていた自室でのキスは回避できたかと思ったが、食べ終わって寛いでいる時に少しだけキスされた。唇が軽く触れて、すぐに離れた。 テスト最終日の明日は二科目が残るばかりで、長かった期末テストもようやく終わりが見え

  • 知らぬ間に失われるとしても(24)

    ――何か、付き合ってるって感じするな。 あの日以来、圭一と一緒にいる時間は今までにないほどに増えた。テスト前一週間は毎日一緒に帰って圭一の家で勉強したし、土日も一緒に勉強した。勉強を終えてからキスするのはもう日課のようになっている。キスは徐々に長く濃厚になっていった。 週が明けるといよいよ期末テストが始まったが、始まってからも、やっぱり圭一とは毎日一緒に勉強した。テスト期間中は午前のみで終わるので、適当に昼食を取ってから圭一の家に行って翌日のテスト科目を勉強する。 そうして

  • 知らぬ間に失われるとしても(23)

    「黒崎くん、下の名前、アサヒっていうんだ」 三人でお昼を食べている時に、ふと柏崎にそう言われた。今日は学食に来ている。「そう」「どんな字?」「一文字で、『旭』」 空中に書いて示す。 付き合いだしてから、圭一は旭を下の名前で呼ぶようになっていた。最初に告白された時と同じだ。記憶をなくしても考えていることは変わらないんだなと妙に安心する。 あの時圭一は、頭を打ったかどうかを『柏崎にも聞かれた』と言っていた。旭の見る限り、旭への告白以外に圭一の記憶が欠けている部分はなさそうだった

  • 知らぬ間に失われるとしても(22)

    8.キスと反応 翌日以降も、旭は放課後に圭一の家に行った。 圭一の家族が帰ってくる直前まで勉強して、それから圭一の部屋に移動して少しだけキスしたりする。暗黙の了解のように、その日やるべき勉強を終えるまでは何もしなかった。「ん……」 キスにはかなり慣れた。圭一の方も、もう遠慮している様子はない。 今日も、もうすぐ圭一の母親が帰ってくるはずだ。それまでの、ごく短い時間の触れ合い。 多分、抱き締められるのが好きだということは圭一にばれていると思う。いや、圭一も同じくらい好

  • 知らぬ間に失われるとしても(21)

    「明日もやる?」「え? でもお前も勉強あるし」「いいよ。あ、そしたら俺も古文とか教えてくれよ」「それはいいけど……」「基本は自習で、分からないところだけ教え合ってさ」 多分、圭一は本当にそうしたいんだろう。そう思ったので、旭は頷いた。「いいよ。ていうか、何で物理ができて古文ができないのか分からんけど」「はは。そりゃお互い様だし」「んじゃ、とりあえず自分で続きやってみるから、お前も自分のやれば?」「うん」 圭一が自分の鞄から勉強道具を取り出す。旭は麦茶を一口飲んでから、物理の

  • 知らぬ間に失われるとしても(20)

    7.リビング 圭一の家に入ると、今日は廊下を奥まで進み、リビングに通された。「あれ、お前の部屋じゃなくて?」「あっちだと教えにくいだろ」 確かに、テーブルの類のない圭一の部屋だと、勉強はしにくいかもしれない。圭一はソファに鞄を置くと、キッチンに向かう。「座ってて」 旭も鞄を置いて、ローテーブルの前で床に腰を下ろした。冷蔵庫が開く音がする。「何か食う?」「あ、うん。何かあれば」 圭一が麦茶のポットとマグカップ、煎餅らしき包みをお盆に載せて持ってくる。そしてテーブルの上

  • 知らぬ間に失われるとしても(19)

    「――どういう意味で?」「付き合いたいって意味で」 淡々と答えた旭に、圭一は何故か苦しそうな顔をした。あの日、圭一の部屋で見せたのと同じような。「……何でそんなこと聞くんだよ」 初めて圭一が目を逸らしたが、旭は何も答えずに待った。しばらく沈黙が続く。 追い越していく生徒達が少しだけこちらを気にしているように見えたので、旭はゆっくりと歩き出した。圭一もついてくる。そのまましばらく二人で並んで歩いた。「……何か、洩れてたか」「別に」「もしかして、それで怒ってたのか」「……」「も

  • 知らぬ間に失われるとしても(18)

    6.発覚 週の明けた月曜日、授業が終わった後に教室を出ると、こちらの教室まで迎えに来た圭一と廊下で鉢合わせた。「あ、終わってた?」「おう」「柏崎くんは?」「さあ。もう帰ったんじゃね」「そっか」 そのまま一緒に学校を出て、圭一の家に向かう。この週末にも旭はずっと圭一のことを考えていて、お陰でテスト勉強なども全く捗らなかった。 そして考えれば考えるほど、もしかしたら圭一は全部なかったことにしたいのだろうか、という疑念が徐々に膨らんできていた。 そもそも付き合いたいと言っ

  • 知らぬ間に失われるとしても(17)

    「お前、昨日そんな大変だったの? 宿題」 翌朝、また下駄箱の前で出くわした圭一が、笑いながら聞いてくる。「え? いや、別に」「珍しくラインなんかしてくるからさ、よっぽどかと思ったわ」 その少し揶揄するような圭一の言葉に、旭はかすかにいらっとする。自分なりに考えて送ったのに、ばかみたいじゃないか。「嫌ならもう送らんし」「え、別に嫌じゃないけど」「お前だって送ってこないしな」「え? 何を?」 旭が少しだけ険しい表情をしているのに気付いたのか、圭一が笑みを引っ込める。「黒崎? ど

  • 知らぬ間に失われるとしても(16)

    5.違和感――とは言え、昨日の今日でどんな顔をして圭一に会えばいいのか。 翌日、絶えず前方に圭一の姿を探しながら、旭はいつもの急な坂道を歩いていた。見慣れた背中は今のところ視界の中にはなく、歩いているうちにそのまま校門前に着いてしまう。ほっとしたような期待外れのような、落ち着かない気分で前庭を通り抜けて下駄箱で靴を履き替えていると、後から圭一が入ってきた。「――」「おー、黒崎。はよ」 一瞬言葉に詰まった旭とは対照的に、圭一は何もなかったかのように能天気に挨拶してくる

  • (15)

    4.ぐるぐると 圭一と、付き合う。 数時間前に触れた圭一の唇と舌の感触を何度も思い出しながら、旭は自室のベッドの上に寝転がって天井を見上げていた。圭一に言われたとおり、というより言われるまでもなく、帰宅してからも旭はそのことについてずっと考えて続けていた。夕食のメニューが何だったか、既に覚えていない。 正直に言えば、旭にとっては付き合っていた元カノよりも圭一の方がずっと親密で大切な存在だった。今までと何も変わらずに、ただ圭一ともっと多くの時間を過ごすというだけなら、

  • (14)

    「――」 びく、と少しだけ体が動いたのは圭一にも伝わっているはずだけど、圭一はやめなかった。そっと浅く重なる。さっきまで密着していた体が離れて、熱を失い、強く掴まれている肩だけが熱い。柔らかさを確かめるように表面をなぞっていた唇は、やがて少しずつ強く押し付けられ、徐々に大胆に旭の唇をもてあそび始める。どうすればよいのか分からなくて、旭はじっと体を固くしたまま待った。考えるだけでいいって言ったくせに、と一瞬だけ恨みがましく思って、でもすぐ後から、付き合わないと駄目かどうか分か

  • (13)

    ふいに圭一が立ち上がる。旭も自然とその動きを目で追う。どこかへ行ってしまうのかと思ったが、すぐ近くに膝をついた圭一を見て、旭は圭一が何をしようとしているのかを理解した。 理解しながら、旭は動かなかった。圭一をこれ以上怒らせたくなくて、その腕が自分の体に回るのを黙って受け入れた。すぐに熱い体に包まれる。男の体なのに、思ったより感触は柔らかい。「――気持ち悪い?」 囁くように聞かれて、旭は首を振った。別に気持ち悪いとは思わなかった。むしろ、そのままじっと動かずにいるうちに、さ

  • (12)

    「……お前、柏崎くんが好きなんじゃないの」 何を言っていいか分からず、とりあえずそんなことを口にした。答えはもう分かっているのに。「そう思われてるんだろうなって思ってたけどさ」 圭一が苦笑する。「でももしそうでも、お前、別に気持ち悪いとか思ってなさそうだったから」「まあ、それは」 どちらかと言えば現実味がなかったというだけだけど。「……」 急かさないようにと思っているのか、圭一はもう何も言おうとしない。ただ、旭の顔をじっと見る。「……まじで俺のこと好きなの」 沈黙に負けて、

  • (11)

    「――圭一」「ん?」「……俺さ」 圭一なら受け止めてくれるかもしれない。そんな甘えも自覚しながら。「あんな軽々しく付き合ったりするんじゃなかったって……今は思ってて」 言いながら、頭の中には自然とあの日見ていた光景が甦ってきた。 彼女ができたことを最初に報告したのも圭一だった。告白されてそのまま付き合うことになったあの日、風が強かったあの帰り道。 一緒に帰りながら、毎日歩くあの坂道を下りきって川沿いの道に出る辺りで、付き合うことにした、と旭は圭一に告げた。まだ何も知らなかっ

  • (10)

    マンションに着くと、圭一が慣れた様子でオートロックを解除した。旭も後に続き、いつものようにエレベーターではなく階段で三階まで上る。階段を上がってすぐ目の前にあるドアが圭一の家だ。旭がここに来るのは数ヶ月振りだった。 玄関を入ってすぐの圭一の部屋に通され、何か飲み物持ってくる、と一人で残される。何気なく見回したその部屋は、旭の知っているよりも片付いているように見えた。「何か片付いてんな」 炭酸飲料とスナック菓子を持って戻ってきた圭一にそう言うと、「たまたまこの前掃除した」と

  • (9)

    3.圭一の部屋 それ以降、圭一と柏崎が一緒にいる時に出くわすと、柏崎もその場に留まることが多くなった。そしてたまに三人で話したり、学食で昼食を取ったりした。そうこうするうちに、柏崎と旭の間にも徐々に友人と言ってもよいような気安さが生まれていた。 本当は圭一に気を利かせて二人にしてやろうなどと思ったこともあったのだけど、当の圭一が必ずと言っていいほど旭を引き留めるので、大抵の場合はうまくいかなかった。そういう時、旭はこっそりと圭一の柏崎に対する言動を観察したりしたが、

  • (8)

    「もしさ、仮に柏崎に告白されたとしたら、お前、どうする?」 旭の気も知らず、圭一が更におかしな質問をしてくる。「え? だって彼氏いるんだろ」「じゃなくて、柏崎みたいなやつにってこと。仮定の話だよ」「それは、さすがに断るんじゃね」「でもお前、全然知らなかった女と付き合ったじゃん」「それは、女って時点で全然別の話だし」「……まあ、そうだよな」 柏崎が仮に自分に告白してきたら。 質問の意図を汲み取れないまま、少しだけ想像してみる。圭一が男を好きなのだとしたら、むやみに否定したくは

  • (7)

    「……」「……」 残された二人で、しばらく無言で弁当を口に運ぶ。会話がなくなると、途端に今まで聞こえていなかった遠くの学生たちの喧騒が風に乗って耳に入ってきた。 要するに、あれだ。多分あの後、教室で圭一は実際に旭のことを柏崎に伝えた。それを聞いた柏崎は旭が誤解しているであろうことを見抜いた。そして誤解を解くためにわざわざここにやってきた。……てところか。「……別に人見知りとかじゃなかっただろ」「ん」 言葉とも言えない、音だけの返事を短く返す。それから逆に聞いてみる。「柏崎く

  • (6)

    旭は静かに混乱していた。 何か言った方がいいのかもしれない。でも何を? いいんじゃない、とか何とか? そもそも、いいとか悪いとか言う権利も別になくないか? 旭に考える余地があるとすれば、旭自身がどう思い、どう反応するかだけだ。とりあえず、親友が実はゲイだったとして、それは自分にとってどういう意味があるのかってことだよな。付き合いを考え直す? そこまでのことか? 圭一の恋人が男だったとしたら……未だにうまく想像ができないけど。でも多分、やっぱり何の問題もないような気がしなく

  • (5)

    「もう6月だぞ。全然知らなかったっつの」「別れたっていうか、何か自然と会わなくなった感じ」 春休み中、そう言えば連絡がないな、くらいは思っていたのだけど、4月に一学期が始まってからふと廊下で顔を合わせた時に向こうが目を逸らして素通りしていったので、ああそういうことか、と旭もそのまま受け入れた。「春休みってことは、続いたのって結局三か月くらい?」「そう。なかなか短いだろ」 自虐的に言ってみたが、圭一は何故か口をつぐむ。「……」 静かになった圭一をちらりと見てから、柏崎がまた口

  • (4)

    2.屋上にて 昼休み、約束どおり旭が弁当持参で屋上に座っていると、少し遅れて来た圭一の横には、何故か柏崎の姿もあった。「ほら、連れてきてやったぞ」「え、あ……ども」 にやりと笑う圭一と、目を合わさないまま軽く会釈する柏崎。二人とも円を描くように旭の向かいに座る。「……」 がさがさと音がして、ふと柏崎の手元を見ると、甘そうなパンを取り出して開けるところだった。無意識に、「あ、パン」と声に出すと、顔を上げた柏崎と初めて目が合った。近くで真正面から顔を見たのはおそらく初め

  • (3)

    前を歩いていた柏崎がふと何気なくこちらを振り返り、旭に気付くと、圭一に何かを言った。すぐに圭一が振り向き、笑顔で手を振ってくる。旭も手を振り返す。歩調を速めて二人に追いつこうとしたが、その場で待っている圭一を置いて、柏崎は一人先に歩いていってしまった。「黒崎」「はよ。邪魔した?」「え? 何が」「柏崎くん。一緒に来てたんだろ」「いや別に? さっき下で会っただけだけど」 もしかして避けられているのだろうか、と一瞬だけ考えたが、そもそも避けられるほど向こうが自分のことを知ってい

  • (2)

    毎日毎日、嫌になるほど繰り返し上っては下りる急な坂道を、黒崎旭は今朝も上っていた。 梅雨もそろそろ明けて、夏本番の到来を感じさせる日差しの中、歩いているだけで自然と汗が流れ落ちる。通学路だから仕方がないが、あと一年半以上も上り続けないといけないのかと考えると今からげんなりする。 何でも、資源の乏しいこの島国では、人材を育てることこそが重要な国策だという考えから、学校を造る際には水害の心配のない高台を選ぶことが多かったらしい。嘘か本当かは知らない。ただ、その話を聞いた時に「

  • (1)

    1.坂道の途中 要するに。 自分の親友が実はゲイだったらどうするか、ということだ。

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