クルマは県道D104に入り、ドローム谷をゆっくりと上流へと向かった。谷は次第に狭まり、川が岩を割って流れる地点では、急流の音が窓越しに聞こえてくる。途中、ジューヴ川やルス川といった支流が合流するが、これらの谷筋もまた、古代には鉱物や農産物の搬出経路として機能していた。 斜面には、果樹園やブドウ畑、ラベンダー畑が交互に現れる。ところどころに、石積みの小屋や、中世以来の灌漑水路の痕跡が見える。これらの構造物もまた、流域における人の営みの痕跡である。 やがてクレスト(Crest)の町が視界に入る。ドローム川のほとりに張り付くように家並みが広がり、丘の上には「Tour de Crest」と呼