大人とは安定したもので、心は穏やかになり、当たり前のように他人のために生きられるようになると昔は思っていた。しかし考えてみれば、そもそも人間が変わっていないのだからそんなにうまく事が運ぶはずもない。 感情というのは、どうしてこうも自由なのだろうか。日常で耳にする音には大抵誰かの感情が乗り、香りには風景があり、目にするものには何かしらの物語が存在する。ある時はそれに深く感動し、ある時は傷つき、その感覚は持続する。昨日まではもう自分の人生に訪れないだろうと思っていた感情が突然やってきて戸惑い、眺める景色が色を帯びては失いを繰り返している。 私には元気な日もあるが、時々穴の底に落ちたようにすべてが真…