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2020/03/27

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  • 僕のお腹のふくらみは

    僕は中肉中背、ごく普通の体型だ。 つい先日受けた人間ドックでも何も異常はなく、きわめて健康だ。 しかし、実は今週に入ってから腹部に違和感を感じている。 ただ、実際にお腹を見ても何の変化も見られないから、勘違いの可能性は高い。 そう自分に言い聞かせて一カ月が過ぎた。 以前は目立たなかったお腹の出っ張りが、今ではもう誤魔化せない程になっていた。 「おい山本、どうしたんだよその腹は?」 同期の岩田がニヤニヤしながら話しかけて来た。 「なんのことだよ」 僕はあくまで白を切る。 「ごまかせると思ってるのか?お前もいよいよ中年の仲間入りだな」 かく言う岩田の腹は数年前からせり出しっぱなしで、検査には毎年引…

  • あこがれのムキムキ

    僕はムキムキの体に憧れている。なぜなら、僕はガリガリだからだ。 いくら食べても太らない。 母さんは、羨ましいって言うけれど、僕はちっとも嬉しくない。 今はマッチョが流行っているから、テレビなんかではよくムキムキの人を目にするけれど、まだ僕は実際にムキムキの人に会ったことがない。 どこに行けば会えるのかも分からないから、僕は自己流で筋トレをしている。 「お、たくやは今日も張り切ってるな」 僕と同じくガリガリの父さんが言った。 「うん、だけどぜんぜんムキムキにならないんだ」 「そりゃそうだ。まだ子供だからな」 たしかに僕はまだ小学生5年生だ。 「子供はムキムキにならないの?」 僕はムキムキになれる…

  • シュワシュワサイダー

    夏の暑い日、僕はサイダーを飲もうとして、ペットボトルのふたを開けた。 すると、飲み口からサイダーがシュワシュワと吹き出した。 僕はあわててペットボトルに口をつけると、あふれ出したサイダーをゴクゴクと飲んだ。 ゴクゴク、ゴクゴク、僕は飲み続けた。 だけど、サイダーは止まらない。 僕のお腹はもういっぱいで、どうしたってこれ以上は飲めそうにない。 溢れだしたサイダーは僕の手を伝って地面にボタボタと流れ落ちた。 ジリジリと熱い太陽に照らされて、熱々になったアスファルトにサイダーが染み込んでいく。 最初はジュッと音を立てていたけれど、しだいに冷たいサイダーで地面が冷やされて音がしなくなった。 サイダーの…

  • メロンクリームソーダの滝

    この国のどこかに、メロンクリームソーダの滝があるという言い伝えがある。 多くの人がその滝を探すことにチャレンジしたけれど、いまだに誰も成功していない。 だから、最近ではそんな言い伝え自体が忘れ去られようとしていた。 だけど僕は諦めていない。探すだけならタダだし、もし見つかったとしたら得しかないわけだから。 そうは言っても、何か手がかりがあるわけじゃない。 ただ、見つけたいという強い思いがあるだけだ。 だけどある日、僕宛にある荷物が届いた。 それは茶色い封筒で、中に何やら小さな箱の様なものが入っていた。 送り主は書いてないし、小学生の僕には心当たりもない。 封筒を振ってみるとカラカラと音がした。…

  • おてんば姫の空飛ぶスカート

    姫様はスカートが大嫌い。 スカートなんかをはいていたら、男の子とかけっこした時負けてしまうからだ。 そんなわけで、姫様はいつもと釣りズボンをはいている。 母君は、「女の子がズボンなんてはしたない」と言うけれど、父君は「元気でよろしい」と言って許してくれる。 ところがある日、お城に旅の商人がやってきた。 商人は異国の珍しい品物をたくさん持っていた。 皆は、初めて見る品物に目を輝かせた。 すると商人が「姫様にぴったりのスカートがありますよ」と言って、不思議な色のスカートを差し出した。 姫様が「いらない」と答えると、商人は「これは普通のスカートじゃないんですよ」とほほ笑んだ。 「なにが普通じゃないの…

  • クッキー星人

    僕はクッキー星のクッキー星人。 僕たちは他の星に行っては空からクッキーをばらまいているんだ。 僕らの目的はその星の人たちを僕らのクッキーのとりこにしてしまうことだ。 そうすれば、僕たちはお金がたっぷり儲かるし、他の星の人たちは僕らのおいしいクッキーがいつでも食べられるようになるってわけ。僕らのクッキーがおいしいのはその成分に秘密がある。 それは、クッキーの味の決め手となるエキスだ。 そのエキスは星から作られるのだ。 「いやあ、どんな味になるのか楽しみですね」 僕の部下がワクワクした表情で言った。 エキス抽出機を取り付けて蛇口をひねれば、その星のエキスを搾り取ることができる。 だから、クッキーの…

  • スキマぼっち

    僕は気づくと隙間に入っている。 とにかく狭い隙間が落ち着くんだ。 朝目覚めると、ベッドと壁の隙間にしばらくの間入る。 とても落ち着くけどそろそろ起きないと学校に遅刻してしまう。 洗面所で顔を洗った後、洗濯機と壁の間にしゃがみこんだ。 洗濯機の冷たさが心地よい。 「まあ、びっくりした!トシ君こんなところで何してるの?」 母さんが洗濯をしにやって来たので仕方なく立ち上がった。 朝食を食べた後、冷蔵庫と壁の間でしばらく過ごした後、玄関で下駄箱と壁の隙間を横目にしながら家を出た。 学校に行く途中、長屋が並んでいる場所がある。 長屋と長屋の間はちょうどいい隙間が空いていて、僕はついそこに吸い込まれそうに…

  • 王様のシロップ

    王様は大のシロップ好き。 コーヒーに入れたり、ソーダに入れて一日に何度もシロップを楽しみます。 その香りと甘さのとりこなのです。 お城のコック長であるピエールさんは毎日シロップを使ったメニューを作るのに大忙し。 だけど、王様はもっとおいしいレシピはないのかとワガママを言うのです。 そんな王様に応えようとピエールさんは今日も朝からレシピ作りに頭を悩ませています。 「朝のレシピは何だ?」 王様はワクワクして尋ねます。 「はい、キャラメルのシロップを使ったシナモンロールラテでございます」 ピエールさんは王様のテーブルにカップを置きました。 「スパイシーな香りのシナモンと、甘いキャラメルの相性は絶妙じ…

  • 白い世界

    今は冬。 降り積もった雪は3メートルにもなって、外に出るのも一苦労。 除雪車が作った道を犬のスワンと一緒に散歩するのが私の日課。 おばあちゃんが買ってくれた薄紫のふわふわコート。 大きなお花の刺繍がしてあるのも素敵だし、裾がスカートみたいに広がっているのがお気に入り。 外は寒いけれどいいお天気。 私はコートを羽織ると白い手袋をしてスワンと一緒にお散歩にでかけた。 雪の壁のすきまから青空が見える。 スワンは2歳のサモエド犬。 毛が真っ白だからスワンと名付けたけれど、すっかり大きくなってしまったから、白鳥とは全然似ていない。 スワンと一緒に歩いていくと、目の前にカモシカが現れた。 スワンのことをじ…

  • 落とし穴を掘るのだ!

    僕はある日の放課後、友達のケンジくんと落とし穴を掘ることにした。 母さんにバレるときっとやめなさいと言われるから、僕は納屋からこっそりおじいちゃんの大きなスコップを持ち出したんだ。 ケンジくんのうちには大きなスコップがないから、僕は重いスコップを2本肩にかついだ。鉄でできたスコップはとても重かったけれど、落とし穴を掘るためならへっちゃらだ。 僕が通っていた幼稚園の裏手に広い空き地がある。 その幼稚園は今は使われていないから、普段は誰もいない。 僕が空き地で待っているとケンジくんが息を切らしてやってきた。 「お待たせー!早く落とし穴掘ろうよ」 「うん、わかってるって」 僕らは落とし穴を掘る場所を…

  • ラーメン戦隊

    「ねえ、ちょっと君」 「え、私ですか?」 会社から帰る途中、突然男性に声を掛けられ、私は驚いて振り向いた。 「やっと見つけたよ。いったいどういうつもり?」唐突に言われ、私は混乱した。 どう考えても、この男性とは初対面だ。 「あの、誰かと間違えてるんじゃありませんか」私は少しムッとしたけれど、できるだけ丁寧に答えた。 なにしろ、こういうおかしな言いがかりをつけるくらいの男性だから、機嫌を損ねないようにしなければならない。 「君、昨日の夜、ラーメン屋で僕の頭にラーメンぶちまけたよね?」 「ええ?そんなことするわけないでしょ。人違いです!」 私は、全く身に覚えのないことを言われ困惑した。 「まあ、ラ…

  • 分かれ道を回り道

    学校帰りに毎日通る道が、ある日突然分かれ道になった。 今朝までは確かに一本道だったのに。 僕はどっちの道を選べばいいのか分からない。 片方は道端に小さな花が咲いていてとても素敵な雰囲気だ。 もう片方は草ボーボーであまりいい気分にはなりそうもない。 だけど、問題は気分がいいとかそういうことじゃなくて、家にたどり着けるかどうかなんだ。 知らない道を歩くのはとても勇気がいる。 だって、その先がどこに通じているのか分からないんだから。 だけど、いつまでもそこに立っているわけにはいかない。 僕はもし間違えたのならまたここに戻ってくるだけだ。 そう考えて、花が咲いている方の道を選んで歩き始めたんだ。 少し…

  • 見えてますよ!

    僕は、その人が今なにを食べたいのか分かってしまう。 どうしてなのかは分からない。気づいたらそうなっていたんだ。 小さい頃、夕ご飯がカレーの日があった。 父さんは唐揚げが食べたいと思っているのに、なぜか「ちょうどカレーが食べたかったんだ」と言った。 僕が「父さんは唐揚げが食べたいんじゃないの?」と言ったら、父さんは目を白黒させて「な、何言ってるんだ、そんなわけないじゃないか」と言ってガツガツ唐揚げを食べた。 またある時、母さんの友達がうちに遊びにやって来た。 母さんは「これ近くの洋菓子店で人気なの」と言ってケーキを出した。 その友達は大福が食べたいと思っているのに、「うわぁ、うれしい。私、ケーキ…

  • 女王様の宝石

    女王様は宝石が大好き。 世界中から素敵な宝石を探しては集めている。 だから、お城には毎日たくさんの宝石商人がやってくる。 今日も夜明け前から門の前には長い列ができている。 商人たちはお城にいる鑑定人のチェックを受けて合格するとお城の中に入る事が許される。 鑑定人はとても厳しいから、お城に入れるのは10人に1人くらいだ。 それでも、王女様に買ってもらえることは名誉なことだから、彼らはあきらめずに何度もやってくる。 今日は約50人の商人が女王様に会うことを許された。 彼らは女王様の部屋に通される前に身だしなみを整える。 女王様はただ指輪が好きなだけじゃなくて、とても美しいことで評判だ。 普段はこん…

  • ほら穴の物語

    放課後、僕は近くの山に犬のシロを連れて散歩にでかけたんだ。 いつもの散歩コースをいつものようにぶらぶらと歩いていると、山の斜面に穴があるのに気がついた。 「あれ、こんな穴あったかな」 僕は、腰をかがめると穴の中を覗いてみた。 中は暗くてよく見えない。 するとシロが急に吠え始めたんだ。 何かがいるのかもしれないけれど、中に入る勇気なんてない。 僕は通り過ぎようとしたのに、シロはどんどん中に入って行こうとする。 僕はどうしてもほら穴入るのが嫌で思わずリードを離してしまったんだ。 「シロー!」 僕がいくら呼んでもシロは戻ってこない。 「困ったなぁ」 シロをこのまま置いていくわけにはいかないけど、中に…

  • 日戻りカレンダー

    一日の終わりにカレンダーめくるのが僕の日課だ。 えいっと勢いよく今日の分をちぎり、くしゃっと丸めてゴミ箱に捨てる。 これでやっと今日が終わり明日を迎えるという気持ちになるんだ。 次の日の朝、目が覚めた僕は何気なくカレンダーに目をやった。 すると、どうしてだか昨日の日付に戻っている。 あれ、おかしいな? 僕は夕べ昨日の分は確かにめくったはずだ。 念のためゴミ箱を覗いてみると、空っぽだ。 ええっ、戻ってる? 僕はこれは夢なんじゃないかと何度もカレンダーをぺらぺらとめくってみたけれど、どうやら本当らしい。 自分の記憶を疑いたくはないけれど、夕べはきっとたまたまめくるのを忘れたんだろう。 そんな風に思…

  • 誰かの麦わら帽子

    ある日風に吹かれて麦わら帽子が飛んできた。 僕は思わずそれをつかんで、何も考えないでかぶったんだ。 すると、おかしなことが起こった。 僕は男なのに、急に女の子の様な気持ちになって、自分の格好が恥ずかしく思えてきたんだ。 僕は慌ててその帽子を脱ぎ捨てた。 すると、その帽子は風に吹かれてどこかへ飛んで行ってしまったんだ。 僕はもう一度その不思議な帽子をかぶってみたくて、外に出るたびに空を見上げていた。 そして、ある風の強い日、麦わら帽子がふわりふわりと飛んでいるのを見つけたんだ。 僕は待ちに待ったチャンスを逃すまいと、その帽子をつかんでかぶった。 すると、今度はサラリーマンのおじさんの気分になって…

  • スイカがどんぶらこ

    学校の帰り道、僕は川に大きなスイカが流れているのを見つけた。 「ねえ、スイカが流れてるよ」と僕が言うと、 「取りに行こう」と友達が言った。 だけど、その川は広くて深いから、僕も友達も結局眺めていることしかできなかった。 「あーあ、行っちゃった」 「食べたかったなー、スイカ」 「食べたかったねー、スイカ」 僕らは口々に言いながら、けれどもそのスイカのことはすぐに忘れてしまったんだ。 ところがそれから数日たったある日の帰り道、またその川にスイカが流れてきたんだ。 しかも、今度は一個なんかじゃなくて、ものすごい数なんだ。 「どうなってるのこれ?川がスイカでいっぱいだ」僕が言うと、「今度こそ取れるんじ…

  • 垢虫くん

    かゆいところをポリポリ掻くと垢が出る。 ポロポロとこぼれ出た垢はすぐに小さな虫へと変化する。 そして、トコトコ歩いて外へ行くと地面に自分たちの巣を作り始めるんだ。 僕は小さい頃、初めて垢虫が自分の腕を這っているのを見た時、とても怖くて思わず泣き出したんだ。 だけど、今は全然怖くない。 むしろ可愛いと思うくらいだ。 垢虫はありんこぐらいの大きさで、色は肌色だ。 垢から生まれた虫だけど、垢の様に黒くはない。 僕は時々垢虫の巣の所へ行って、垢虫が行進しているところに手を伸ばす。 すると、垢虫の何匹かが僕の腕に登ってくる。 僕は垢虫を腕に乗せたまま公園に行って、大きな木の枝を見つけると腕を伸ばす。 す…

  • ピラミッドの国

    僕の国にはピラミッドがいっぱいある。 あまりにたくさんありすぎて、他の国では大切にされているピラミッドが僕の国では邪魔もの扱いだ。 いくらなんでも邪魔ということはないだろうと思うかもしれないけれど、国の面積の95%がピラミッドだと言ったら、その深刻さは理解してもらえるだろうか。 そんなわけで、国民の職業第一位はピラミッド解体業だ。 つまり国民が総出でピラミッドを壊しているのだ。 大人は仕事としてピラミッドを壊すけれど、子供は遊びの一環としてピラミッド壊しをする。 僕は学校から帰るとすぐに「ちょっとピラミッドほってくるから」と母さんに言って家を飛び出した。 手には古びたくわを持って。 このくわは…

  • アク取り王子

    王子は突然やって来た。 それは母さんが夕ご飯のシチューを作っている最中だった。 どこからか王子が現れて、「ちょっと失礼」というと取り出したお玉で鍋の中のアクを華麗に取り去ったのだ。 僕と母さんは声も出せずにその様子を見守っていた。 「では、ごきげんよう」 王子はきれいにアクを取り終えると、あっという間に姿を消した。 「なに今の?」 僕が尋ねると、母さんはポーっとした顔で立ち尽くしていた。 「母さんってば」 僕は母さんの体を思い切りゆすってみた。 「あら、私何してたのかしら」 母さんは驚きのあまり一瞬記憶をなくしてしまったらしい。 「シチューを作ってたんだよ、大丈夫、母さん?」 「ええっと、シチ…

  • 犬、犬、犬

    世間は空前のペットブーム。 母さんは大の犬好きで、我が家も二匹の犬がいる。 だけど、僕は犬が苦手だ。 母さんの愛情の半分以上が犬に注がれていることは確実だ。 だって、僕らの夕食よりも犬のペットフードの方が高級な時があるし、母さんの話すことと言ったら、ほとんどが犬のことばかりだからだ。 「困ったわ~」 朝から母さんがブツブツ言っている。 こんなときは要注意だ。 僕には双子の妹がいるけれど、まだ小さくて手がかかる。 特に朝は大騒ぎだ。 今日は日曜日だからボーっとしているのはとても危険だ。 僕は朝ご飯をたいらげると母さんに捕まらないよう、すぐに自分の部屋へ行こうとした。 「あ、ヒロ君、犬の散歩行って…

  • シルバニアダンディー

    久しぶりに高校の同級生のアキ子が遊びにやって来た。 「この部屋は変わんないわねぇ」 「でしょー」 アキ子はキョロキョロと私の部屋を見回している。 「あ、ちょっと、これどうしたの?」 「うん、そろそろ捨てようかと思って」 私はこれまで何度も捨てようと思って捨てられなかったそれと、ついにサヨナラする決心をしたばかりだ。 「ええ、どうして?いいじゃん取っておけば」 「いやあ、そうやってずっと捨てられなかったからさ。もういい加減思い切らないといけないかなって」 私が大人になっても捨てられなかったもの、それは小さな人形たちがセットになったドールハウスだ。 「そうなの?じゃあ、捨てる前に一度いっしょに遊ば…

  • 崖っぷちレスキュー

    今日は彼と初めてのデートだ。 デートコースは俺に任せろと言ってくれたから、どこに行くのかは分からない。 だけど、きっととびきり素敵な場所に連れて行ってくれるに違いない。 なにしろ、今日は初デートなのだから。 「やあ、お待たせ」 家の前に彼の車が到着した。 思っていた以上に運転する彼はきまっている。 初デートだけど、惚れ直した。 「素敵な車ね」 車のことはよく分からないけれど、何となく雰囲気で言ってみた。 「そうだろう?」 彼はご機嫌になって、初デートの滑り出しは好調だ。 「ついたよ」 彼が車を停めたのは、海岸沿いのパーキングだった。 「へえ、こんなところ、初めて」 ここがどこだか分からないけれ…

  • 隣の歯医者さん

    僕の家の隣に歯医者さんができた。 母さんは大喜びだけど、僕はその理由がよく分からない。 なぜなら母さんの歯並びは決して良くないし、虫歯になっていない歯の方が少ないくらいお口のケアには無頓着だからだ。 「ねえ、さっそく行ってみない?歯医者」 母さんが僕に言った。 「え、なんで?僕、虫歯じゃないよ。この間学校で歯科検診やったばかりだし」 「いいじゃない、せっかく隣にできたんだから」 母さんの言い分は無茶苦茶だ。 歯医者はケーキ屋さんやレストランの様に、新しくできたから行くところじゃない。 だけど、母さんはなんだかワクワクそわそわしている。 「だってねぇ、お隣にお店が出来たの母さん初めてなんだもん」…

  • つのが生えちゃった

    今日は成人式だ。外はまだ真っ暗だけど、そろそろ起きて美容院に行かなくてはならない。 私は分厚いカーディガンを羽織ると、一階に降りて行った。 「あら、ちゃんと起きたのね、えらい、えらい」 母さんは、台所で父さんのお弁当を作っている。 「別に普通でしょ」 私は気合が入っていると思われるのが癪で、ついそんな風に言った。 洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。ボーっとしたまま髪をとかそうとブラシを入れると、何か違和感を感じた。 「あれ、たんこぶかな?」 夕べはお酒を飲んでないから、どこかで転んだとしても覚えているはずだ。 「おっかしいなー」 頭を撫でてみると、やっぱり膨らんでいる。それも、右と左の両方だ。 「…

  • 閉じない口

    ある日、朝起きると私の口は、開いたまま閉じなくなっていた。 「おかあはん、ろおしよう。くちはとひはいひょー」 私はキッチンにいる母に向かって必死で訴えた。 「あんた、何言ってんの。朝からふざけてないで、さっさと朝ごはん食べなさい」 母は私のことをちゃんと見もしないで、ご飯とみそ汁とよそっている。 「らから、くちは、とひはいおー!!」 だから、口が、閉じないの、と私は言いたかったのだが、ぜんぜんうまくいかない。 「ええ?なんだって」 母はやっと私のことを見た。 「どうしたの、そんな大きな口開けて。虫が入るわよ」 それでも母はまだ私の異常事態に気づかない。 「とひはいのー!!」 とうとう私の目から…

  • うっかり素麺

    今日から待ちに待った夏休みだ。 だけど、僕にはゆううつなことが一つだけある。 それは、素麺だ。 僕には双子の妹がいるけれど、妹たちはまだ小さいから、夏休みになると母さんはあまりの忙しさに、いろんなことが面倒になるらしい。 母さんは、あまり料理が得意じゃないけど、普段は妹たちが幼稚園に行っているから、少し余裕ができるみたいで、メニューもそれなりに工夫してくれている。 だけど、幼稚園が休みになると、そうはいかない。 冬休みは、お正月があるから、母さんも気合が入るらしく、手抜きだなぁと思うことはほとんどない。 春休みは短いから、母さんが面倒だと気づく前に終わってしまうから問題ない。 だけど、夏休みは…

  • 早すぎる蝉

    僕の家の裏庭には、大きな木が生えている。 毎年夏になると、この大きな木は蝉だらけになる。蝉の泣き声がとにかくうるさくて、暑くても窓を開けることができない。 ミーンミーン、ジージー、聞くだけで暑さ5割増しだ。 だから、夏は一日中クーラーつけっぱなし。 僕は、毎年夏がゆううつで、蝉がいなかったらどんなにいいかと思っている。 だけど、裏庭の大きな木は僕が生まれるずっと前からそこにあるから、後から生まれてきた僕が文句を言っても無駄だ。 今年も、もう少しで夏がやってくる。 僕は恨めしい気持ちで、二階の部屋から裏庭を眺めていた。 すると、地面に何か小さなものが動いているのに気が付いた。 僕は、まさかと思い…

  • 浮き輪レース

    今日は浮き輪レースの日だ。 浮き輪レースは、浮き輪をはめて泳ぐ早さを競うのだ。 僕は、一年間ずっとこの日のために練習を重ねてきた。 レースで泳ぐ距離は1キロだけど、僕は毎日10キロ以上泳いだ。 だから、絶対に負けたくない。 だけど、浮き輪レースはただ練習すれば勝てるというものではない。 なぜかというと、浮き輪によって、そのスピードが変わってしまうからだ。 できれば早く泳げる浮き輪を選びたい。 だけど、どんな浮き輪になるかは、くじ引きで決められてしまう。 僕はくじ運があまりよくない。 実はそのせいで、過去のレースはいつも負けてしまったのだ。去年なんかは、すべての浮き輪の中で一番大きなものを引いて…

  • くらげタクシー

    僕はくらげタクシーが大好きだ。 くらげタクシーは透明でふわふわしているから、見ているだけで何だか優しい気持ちになる。 今日はこれから科学館に行くから、もうすぐくらげタクシーがうちにやってくるのだ。 僕がワクワクしながら家の前で待っていると、時間ちょうどにくらげタクシーがやって来た。 みかんの皮をむくように、扉がフワッと上から開いたので、僕はその扉の上にちょこんと飛び乗った。 扉が閉じると僕の体はスルッと車内に滑り込んだ。 一応、椅子らしきふくらみはあるけれど、車内はどこもふわふわだから、別にどこに座っていてもおなじなのだ。 「どちらまで?」 くらげタクシーには運転手さんというものはいない。 く…

  • ラッコの料理番

    僕の町には料理担当のラッコがいる。 というより、料理は全てラッコがやってくれるのだ。 だから、食事の時間になると、みんなは食材を持ってラッコの所へ行く。 ラッコがいるのは川だから、お腹がすいたら、まず川を探さなくてはならない。 家にいるときは、いつのも川へ行けばいいけれど、何処かへ出かけている時は大変だ。 近くに川があるとは限らないから、お腹がすいてから川を探していたらとんでもないことになる。 だけど、ラッコの料理番は驚くほど早くて味も抜群だ。なかでも、食材の下ごしらえのスピードはすさまじい。 ラッコは、お腹に乗せた石を上手く使って、あらゆる素材を一瞬で切り刻んでしまうのだ。 「ご注文は?」 …

  • 砂漠運動会

    僕の学校は砂漠の中にある。 地面は全部砂だから、普段は体育ができない。だけど、一年に一度だけ運動会が開かれる。僕は運動が好きだから、運動会は楽しみだけど、砂漠で運動会をするのは、とても大変だ。 開会式が終わると、すぐに玉入れが始まった。何しろすごい暑さだから、どんな競技もできるだけ早く終えなくてはならない。 砂漠だから、玉入れの棒は立てられないので、先生が二人がかりで一本の棒を持っている。 「あち!あち!棒が、熱い!!みんな、熱いから、早くしてくれよ!」 「はーい」 砂の上に置いてあった棒は、厳しい日差しにさらされて、火傷するくらいの熱さだ。 「よーい、スタート!」 玉入れが始まった。 最初の…

  • 焼肉の日

    僕の国では、一年に一度だけ焼肉の日がある。 子供の頃、僕は大人になるのが楽しみだった。 だって、焼肉の日があるのは大人だけだから。 そして、ついに今日、僕は初めての焼肉の日を迎える。 焼肉の日の一週間前に、国からハガキが届く。 ハガキには、僕が行く焼肉店の名前と場所、集合時間、そして、担当が書いてある。 僕は、その日まで担当というものがあることは知らなかった。 お父さんに聞いたら、焼肉の日のことは家族といえども内緒にしておかなければならないきまりになっていると教えてくれた。 僕はもう待ちきれなくて、集合時間の30分前に焼肉店に到着してしまった。 ほどなく、僕と同じお店で焼肉を食べる人が続々と集…

  • クイズくん

    僕のクラスにはクイズくんと呼ばれている男の子がいる。 本当の名前は林くんだけど、みんなクイズくんと呼んでいる。 クイズくんは毎日大変だ。 何が大変かというと、クイズくんは一日のうちに何度も何度もクイズを思いついてしまうのだ。 それだけなら問題ないのだけれど、思いついたときすぐにクイズを出題しないと、クシャミとともにクイズの内容が消えてしまうのだ。 朝の会の最中、クイズくんが急に立ち上がった。 「どうしたの林くん」 先生が尋ねても、クイズくんは答えることができない。だけど、本当は先生も分かってる。クイズくんがクイズを思いついたんだって。 だからと言って、そのたびにクイズを出題していたら、いろいろ…

  • 積み木クラブ

    学校からの帰り道、積み木クラブと書いてある看板を見つけた。 僕は立ち止まると、少しの間その看板を眺めていた。 中から声が聞こえないかと耳をすませてみたけれど、何も聞こえない。 「誰もいないのかなぁ」 僕は中に聞こえるくらいの声で言ってみたけれど返事はない。 「しかたない、うちに帰ろうっと」 僕はそう言って家に帰った。 家につくと、おやつのドーナツを食べた。 テレビをつけて夕方のアニメを見ようとしたけれど、僕は積み木クラブのことが気になって、どうにも落ち着かない。 僕はテレビを消して家を飛び出した。 そして、積み木クラブのある場所についた。 でも、やっぱり中からは何も聞こえない。 僕は勇気を出し…

  • 卵の国

    ここは、卵の国。 僕の仕事は、卵を配達棚に入れること。 卵の種類は次々と増えるため、今では100億なのか1000億なのか、それとも、もっと沢山なのか、誰にもわからない。 だけど、僕は、新しい卵が運ばれてくると、その卵が何の卵なのかを突き止めるため、卵図鑑の中からその卵の名前を探し出さなくてはならないんだ。 どうしても見つからない時は、卵博士のところへ行って、直接卵を見てもらうしかない。 今日も、新しい卵が届いた。 さっきから、図鑑をめくっているけれど、どうにも名前が見つからない。僕は仕方なく卵を抱えると、卵博士のところへ急いだ。 だけど、慌てたせいで、石ころにつまづいて、卵を落としてしまった。…

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