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2020/02/19

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  • 連続小説・「アキラの呪い」(8)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 晶が高校を卒業してから俺が高校を卒業するまでの4年間は、俺達に一番距離があった時期だと言える。物理的にも精神的にも。俺が高校に入学してからは、特にそうだった。同じ家にいても、ほとんど会話もしないし、なんなら目も合わせないほどだった。なぜなら晶が、はっきりと俺を避けるようになったからだ。反抗期だったんだろうか。あれは。それまでもそれほど交流があったわけではなかったが、ここまでじゃあなかった。それで、気がついた。俺は思った以上に姉を気にして生きてたんだと。姉が欠けた日々は、ひび割れた空の器を満たそうともがくような滑稽さだった。…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(7)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ところで校内での晶との交流は、俺の対人関係にも変化を与えた。平凡な奴に「ヤバい奴とやり合えるすごい奴」というステータスが追加されたのだ。だからなのか、幼なじみの拓人とこんな会話をしたりもした。 「お前、噂になってんぞ」 ある帰り道、拓人がひそひそと話しかけてきて、俺は怪訝に片眉を上げた。 「はあ?」 「お前の姉貴の…何だっけ名前…異名はすぐ思い出せるんだけど」 口を歪めながらもどかしそうに拓人は顎を触っていた。 「晶のことか。ちなみに異名って?」 「狂人、悪魔、魔王…色々ある。もう名前を言ってはいけないあの人状態」 異名の数だけ指…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(6)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 中学生になると、俺は「あの」水無瀬晶の弟として扱われた。中高一貫校だったから余計にそういう目で見られた。小学校でもそんな感じだったからむしろ俺としては懐かしさすらあった。そもそもその程度のことで動揺してちゃ、あれの弟は務まらない。なので入学してから一ヶ月ほどは、周囲に水無瀬歩がいかに平凡な奴かを知らせることに注力した。まあ、実際俺は平凡な人間に過ぎないのでありのままでも構わない。けどそれじゃあ、姉の武勇伝にインパクト負けしてしまう。平均よりも平凡、という印象が必要だった。 だからこそしばらくは、特に品行方正に努めたつもりだ…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(5)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第二章 「晶と俺」 ろくでもない姉との出会いを俺ははっきりと思い出せない。気がついたら晶は俺の姉で、俺は晶の弟だった。だから10歳の頃、親から実はお互い連れ子なのだと聞かされるまでは、普通の姉弟なんだと思ってた。けど、知らされた時もあんまり驚かなかったんだよな。だってさ、晶と俺は全然似てない。性格も見た目も全部。だから違和感みたいなものは昔からあったんだろ、多分。あいつと俺が家族になった当時、俺は6歳であいつは9歳だった。そりゃあ、就学前のガキの頃の記憶なんて曖昧にもなるだろう。なんならもう少しデカくなってからのことすらほとんど覚…

  • 小説・「アキラの呪い」まとめ①

    どうも。クロミミです。 お盆休みを過ごしていたら、どういうわけかここ五年くらいあたためていた小説のネタが急に輪郭を持ち始めました。そんなこんなで急遽連載小説を増やすことに。それが本作「アキラの呪い」です。 急に決めたので小説のトップ画は写真を撮って適当に加工しました。結構いい感じにできたと思う。 こういう理解不能なことが起こるから、小説を描くって面白いんですよね。 実はすでに一本「海のなか」っていう連載小説をずっと書いてまして。しかも佳境なんです。なので、本当はこっちを先に完結させるべきなんですが…。 ひとまず、「アキラの呪い」のネタが動くうちはこちらを優先的に更新しそうです。鉄は熱いうちに打…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(4)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 自殺現場を目撃した時の気分を思い出して、その場で吐いてしまいそうになる。体が揺らぎ、手にしたビニール袋を取り落としかけた。俺はいつまで平常を取り繕えばいいんだ?…永遠に?自分の弟がこんな気分でいることをあの人でなしが知ったところでなんとも思わないことはわかっていた。単に俺が知られたくないだけ。これは自己満足だ。 『あの日姉の住む安アパートへ向かわなければこんな気分を味わうこともなかっただろうか』 そんな問いが幾度も頭を過ぎることは避けられなかった。その程度には最悪の気分だった。問いが重なるたび、その一瞬だけは晶を心底憎く感…

  • 連載小説・「アキラの呪い」(3)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 姉をそのカフェで見つけたのは、誓って言うが偶然だった。そもそも大学近くのそのカフェに足を運ぶことすら久々だったのだ。普段行きつけのカフェはまた別にあったわけで。 ていうか、なんでこんな言い訳じみたことを俺が言わなきゃならないんだ。むしろ俺は晶を救ったのだから礼を言われて然るべきだろう。…いや。あり得ない想像をしてしまった。あの件に関して怒り狂って俺の首を絞めることはあっても、あいつが「ありがとう」と口にすることなど、まずないだろう。姉は自分の行動を制限されることを極端に嫌う。地雷を踏み抜いた自覚はあった。目覚めたあの場で一…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(2)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 8月の夕方は日暮れとは言ってもまだまだ蒸し暑い。うんざりするような暑さだが、俺は夏が一番好きだった。全てのものが色を取り戻し、生き生きと輝きを増して見える。そういえば晶は夏を忌み嫌っていたな、と歩みを緩め、傾き始めた太陽を見やって思う。曰く、全てが鬱陶しいらしい。自分が流す汗も、照りつける太陽も、むせ返るような色彩も。ならばどの季節が好ましいのかといえば、答えは簡潔で「冬」と断言した。なるほどいかにも晶らしい理由と答えだ。あいつは面倒や束縛を殊更嫌う。夏の熱気は押し付けがましくうるさいものだっただろう。 ところで俺がどこに…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(1)

    第一章 「水無瀬晶の弟」 俺の姉について話しておきたい。 水無瀬晶は厭なやつだ。無神経で傍若無人でニコリとも笑わない。性悪な女だ。 姉といっても、血は繋がっちゃいないんだけど。ただうちの母親とあいつの父親が結婚しただけ。よくある話だ。晶と俺とは血が繋がっていない。ーーーそれを俺は喜ぶべきなのかもしれない。あんなに生きづらそうにしてる義姉を見ていると余計に。厄介な性質を、もしも俺も受け継いでいたらと思うとゾッとするし。けど、一方では思うんだ。もしも血が繋がっていたらと。血縁なら彼女を理解できるとは思わない。そんなもんは夢物語だ。親父とあいつの関係を見ても、それは明らかだろう。血の繋がりは単に断ち…

  • 小説・「海のなか」(44)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 次の日も、その次の日も夕凪は俺を待っていた。俺はその姿を見るたび、何か責められているように感じた。そしてようやく気がついた。夕凪がいなかったあの日、自分が傷ついていたということに。そして傷を持て余し、憤っていたということに。 俺は夕凪を赦したかった。もともと怒るのは得意ではない。そういえば今までまともに怒ったことがない。自身の怒りにすら遅れて気がつくのだから、当然うまい怒り方もわからなければ、相手を赦す方法も知らなかった。そもそも、赦すなんて傲慢な響きは好きじゃない。他の相応しい言葉を知らないだけで。 だからなおさら、どんな顔で夕…

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