小説・海のなか(43)

小説・海のなか(43)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 境内に誰もいないことを悟った時の心情をどう言い表せばいいだろう。虚しかったわけじゃない。悲しかったわけじゃない。ただ、心底がっかりしていた。今日も当然のように夕凪がそこにいると無根拠に信じていた自分自身に。 俺たちには約束がない。確信もない。すべて分かっていて、それでも毎晩通うと決めたはずなのに。いつの間に期待していたんだろう。夕凪が現れてから、あの場を立ち去るまでの記憶は曖昧だった。彼女がどんな顔をしていたかすら朧げでそれがひどく残念だった。昨日までは夕凪の小さな変化すら逃すまいと、些細なものまで拾い上げていたはずなのに…