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2020/02/19

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  • 掌編小説 「赤い唇の女」

    掌編小説 「赤い唇の女」

    ーーーこれは雨の呪いのようなものだ。 ガラス窓の中の女が微笑った。わたしは決して笑っていないのに。手を頬に触れるが、そこには僅か強張りすら感じなかった。 初めに気がついたのは水たまりだった。幼い日のある雨の午後。暇を持て余して水面を覗き込むと、自分の影が写っていた。退屈極まりなかった。ーーーその影がひとりでに動き出すまでは。あの時影は言った。「退屈なの?」と。 それからこの呪いは続いている。こんな奇妙なことさえも、回を重ねるごとに驚きは失せていく。最初は怪しみ恐怖を感じていた気もするが、今では日常の一部に過ぎなかった。私は寒気を感じ、目覚めた。どうやら窓辺に腰掛けて眠っていたらしい。短い夢を見…

  • 自作の小説「アキラの呪い」のキャラを描く。

    自作の小説「アキラの呪い」のキャラを描く。

    ↓主役二人です。もしも表紙があったら…と妄想して描きました。結構ホラーテイストな仕上がり。構図は二人の関係性を意識して決めました。 主人公の義弟、歩とその友人拓人の大学での様子。↓ ↓主人公の晶が自殺未遂した時に、(作中冒頭で彼女は自殺未遂します)して意識のある状態で歩に見つかったら、多分力関係が逆転するだろうな…という妄想絵。 【アキラの呪いあらすじ】 「俺の姉はろくでもない女だ」 歩が義姉の自殺未遂現場に居合わせたことをきっかけに、絶対に死にたい姉と絶対に死なせたくない弟の攻防戦が始まる。 第一話はこちら。↓ kuromimi.hatenablog.com

  • 自作小説のキャラクターを描く。

    自作小説のキャラクターを描く。

    「アキラの呪い」主人公の水無瀬晶↓ 「海のなか」主人公の小瀬夕凪↓ 絵を描くのあまり得意とは言えないけど、こうやって自分のキャラ描くのは妄想が捗って楽しいな…! 他のキャラも描いてるのでまた投稿します。

  • 短編小説・まっくらな男

    短編小説・まっくらな男

    喉がゆっくりと締まるような気怠さに身体が支配されていた。今日に限ったことではない。いつだってそうだった。いくら眠ろうと、いくら食べようと、いくら休もうと、いつまでも居座る呪いのような倦怠感。果てのない繰り返しへの飽きが原因だと気がついたのはいつだったか。だが、それを思い出すのすらもはや億劫だった。 「なあ、それ、いらないならくれよ」 仕事帰り、コンビニを出てすぐのことだった。不意にそんな声が聞こえてきたのは。最初に見えたのは指先だった。その先はどうやら手にしている食い物に辿り着くようだった。 「ああ?」 うめきとともに、眉間に力が入った。誰に言われたところでこんな感じだっただろう。仕事終わりの…

  • 小説・「アキラの呪い」(20)

    小説・「アキラの呪い」(20)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 退院が近づいてくると、姉は言った。 「3日後に部屋へ来るように」と。それはまるで独り言のようだった。告げる時、姉は窓の外を眺めたままで一度もこちらを振り向かなかった。頬のなだらかな曲線。俺はそのあわいが夜闇と見分けがつかなくなるくらい、何度も目でなぞった。彼女から呼び出されたことなど俺の記憶にある限り一度もないことだった。だからあの時、俺は少し動揺していたのかもしれない。結局その日、姉は振り向かなかった。視線には気がついていたはずなのに。 約束した日の暮れ方、姉の部屋を訪れると彼女は頬を赤く染めていた。一目見てほろ酔いとわ…

  • 小説・「アキラの呪い」(19)

    小説・「アキラの呪い」(19)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 赤黒く固まった血に塗れた敷物をゴム手袋越しに触ると、ずっしりとして重かった。そうしてその下から出てきたのは大量のペットシーツだった。犬猫が排泄をするときに下に敷くあれだ。夥しい数のペットシーツは血に染まりきっていた。 「…呆れた」 これから死のうというときに、部屋の心配なんかしていたのか、あの女は。その上、これを俺に処理させるとは。俺の心情にまで思いが至らないのが、いかにも姉らしい。姉は人でなしだが、わざわざ他人を傷つける行為には興味がない。ただ彼女の無神経な振る舞いに傷つく人間がいるというだけで。本当に最悪な女だ。吐き気…

  • 小説・アキラの呪い(18)

    小説・アキラの呪い(18)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 目覚めると、白い蛍光灯が縦に伸びているのが見えた。消毒液の匂いが鼻をつき、今自分が何処にいるのか分かった。格子状の白いパネルを嵌め込んだ天井には見覚えがあった。以前入院した病院と同じだ。その光景から失敗を悟った。ーーー無駄なことをした。不要な痛みを経験し、不要な血を流した。それなのに必要な結果は2度目にも関わらず手に入れられなかった。その事実は私を酷く落胆させた。阻まれてしまった、また。いつもそうだった。私の邪魔をするのは歩、あのたった一人の義弟だった。今度こそその繋がりを断てる、と思ったのに。 『あんたのせいよ』 後悔し…

  • 小説・アキラの呪い(17)

    小説・アキラの呪い(17)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第四章 彼女が望む理由 珍しく向こうから連絡を寄越したのは、帰省が終わってすぐのことだった。その内容は簡潔で「部屋の片付けをするから今週は来るな」ということらしい。今更部屋が片付いていないことを気にするような奴じゃないはずだが。ひとまず疑問に思いつつも承諾した。ーーーもしかして好きな奴でも出来たんだろうか?なんて馬鹿馬鹿しい考えも一瞬頭を過るが、すぐさま打ち消された。あの姉と恋愛沙汰ほど食い合わせの悪いものは他にない。想像するだに寒気のするような不気味さだった。いっそのこと恋や愛に興味でもあれば、彼女もまともな人間関係を手に入れら…

  • 小説「アキラの呪い」(16)

    小説「アキラの呪い」(16)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 間話2 「深夜:side晶」 深く静まり返った夜のことだった。 誰かがうめいていた。男の掠れた声が壁向こうから聞こえる。作業の手を止め、わたしは知らぬ間に歩の部屋の前へと立っていた。ドアノブを引くと、くぐもっていた声は鮮明になる。戸の隙間から闇が漏れ出て廊下を染めていた。その暗闇に惹かれたせいだろうか。部屋へと足を踏み入れ、気がつくとベッドを覗き込んでいた。弟が大きな体を窮屈そうに折り曲げ、蹲っている。彼を見下ろすのは久々で、見慣れない光景だった。その様はまるで獣の寝姿のようでもある。そして同じく獣のような唸りが喉から漏れて、部屋…

  • 小説「アキラの呪い」(15)

    小説「アキラの呪い」(15)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失ったかのようだった。そうして姉はその後一日だけ滞在し、実家からアパートへと戻っていった。正直いつ帰ったのかは俺にもわからない。週明けになって大学の講義に出なくてはならなかったから。ただ、最後の1日はどこかに出掛けていたようだった。帰りしな、晶と会って一緒に家路についたからだ。彼女が自ら外出するなんて珍しいものだ。普段はほとんど出かけないくせに。考えてみれば、彼女はこの帰省中妙に活動的だった。こんなに忙しなく動き回る姉を見たの…

  • 小説・「アキラの呪い」(14)

    小説・「アキラの呪い」(14)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 両親はもうすぐ10時になろうかという頃に合わせて起きてきた。少し遅い朝だった。父が先に起きて、ついでに母を起こして連れてきたらしい。父も母も朝が弱いわけではない。やはり昨日の酒が効いたんだろう。 両親が起床して30分も経たないうちに一悶着あった。姉がゴミ袋に貯めた大量の「ゴミ」を母が目にしたのだった。母は娘を愛していたし、娘が生きてきた軌跡をが失われることを恐れていた。 「晶、これ、どうするの?」 「捨てる」 「……なら、私にくれない?それならいいでしょう」 「捨てるって決めたの」 「あんたが捨てるならもう、あんたのものじゃないわ…

  • 小説・「アキラの呪い」(13)

    小説・「アキラの呪い」(13)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 朝飯は予定通り目玉焼きにウィンナーを添えた。両親の分も合わせて作ってしまう。二人とも今日まで休みで明日から仕事らしい。昨日そこそこ呑んでいたから、もしかしたらなかなか起きてこないかもしれない。食パン三枚を焼きながら、一杯だけコーヒーを淹れる。姉は苦味を受け付けない。それでかつては毎朝甘いホットミルクを飲んでいた。朝食のセッティングを終えると、俺は2階へ「姉さん。朝飯食おうぜ」と声をかけた。姉と朝食を囲むのも久しぶりのことだ。姉は「そんな顔して料理ができるのってなんか気持ち悪い」とかボソボソ言いながら食べている。何か一言余計…

  • 小説・「アキラの呪い」(12)

    小説・「アキラの呪い」(12)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。 「姉さんか…」 夢現だった意識は覚醒へ向かう。低いうめきと共に無意識で呟いていた。同じ家に姉がいることに慣れない。沈黙に満たされていたはずの場所から人の気配がすることにどこか落ち着かなさを感じた。窓の方へと目をやると、朝日がカーテンを白く透かしている。 遅くまで寝ていたつもりはないが、と思いつつ時計を確認する。針は7時少し前を示していた。まだ早朝と言ってもいい時間じゃないか。眉根を寄せると共に、身体を起こした。ならばなぜ隣から物音が聞こ…

  • 小説・「アキラの呪い」(11)

    小説・「アキラの呪い」(11)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 予告通り帰省した姉をみて、俺はほっとため息をついた。正確には、その手首を観察していた。最近彼女のリストカット跡はかなり薄くなってきている。それでもよく見れば分かってしまう程度には残っていた。今、傷はリストバンドに覆われて見えない。どうやら隠す気はあるらしい。胸を撫で下ろしながら、ふと疑問が芽生えた。なぜこんな心配を俺がしているのだろう。バレて困るのは姉さんじゃないか。なんだか釈然としない気分でもう一度傍に立つ姉に目をやった。姉は帰って早々母から小言を食らっている最中だった。 「帰る前に一報寄越せって前から言ってるでしょう。…

  • 小説・「アキラの呪い」(10)

    小説・「アキラの呪い」(10)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第三章「家族」 ある晴れた月曜の朝だった。 秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。 「あ、そうだ。晶だけどね、今週末帰ってくるって連絡あったわ」 「え」 振り向くと、ソファーの向こう側で体を仰け反らせた母と目が合う。間抜けな返答と共に、今しがた皺を伸ばしたばかりのタオルが手をすり抜けて足元を湿らせた。だが、その不快感すらも今はどうでもいい。 「…そっか。てか、事前に連絡あるとか姉さんらしくないな。いつもいきなりなのに」 姉はいつも突然やってきて突然帰っていく。だから、姉が知らない間に帰省して知らない間…

  • 小説・「アキラの呪い」(9)

    小説・「アキラの呪い」(9)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 間話 「特異な関係」 歩と初めて話したのは、小学校へ入学したその日だった。あいつは水無瀬歩で俺は槙原拓人だったから、席順が前後だったんだ。知り合ってすぐの印象は「すごい奴」だった。 その日、配布されたプリントを前から後ろに回して配ると、一枚足りなかった。その事実に俺が気がついたのは、目の前の歩が手を上げて「おれのぶんがない」とでかい声で言ってからだった。本来なら、一番後ろの俺の分が足りなくなるはずなのに。 あいつの気遣いに気づいたのは、結局家で「ただいま」を言ったその時だった。とにかく昔から周りが見えてるというか、気が効く奴だった…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(8)

    連続小説・「アキラの呪い」(8)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 晶が高校を卒業してから俺が高校を卒業するまでの4年間は、俺達に一番距離があった時期だと言える。物理的にも精神的にも。俺が高校に入学してからは、特にそうだった。同じ家にいても、ほとんど会話もしないし、なんなら目も合わせないほどだった。なぜなら晶が、はっきりと俺を避けるようになったからだ。反抗期だったんだろうか。あれは。それまでもそれほど交流があったわけではなかったが、ここまでじゃあなかった。それで、気がついた。俺は思った以上に姉を気にして生きてたんだと。姉が欠けた日々は、ひび割れた空の器を満たそうともがくような滑稽さだった。…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(7)

    連続小説・「アキラの呪い」(7)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com ところで校内での晶との交流は、俺の対人関係にも変化を与えた。平凡な奴に「ヤバい奴とやり合えるすごい奴」というステータスが追加されたのだ。だからなのか、幼なじみの拓人とこんな会話をしたりもした。 「お前、噂になってんぞ」 ある帰り道、拓人がひそひそと話しかけてきて、俺は怪訝に片眉を上げた。 「はあ?」 「お前の姉貴の…何だっけ名前…異名はすぐ思い出せるんだけど」 口を歪めながらもどかしそうに拓人は顎を触っていた。 「晶のことか。ちなみに異名って?」 「狂人、悪魔、魔王…色々ある。もう名前を言ってはいけないあの人状態」 異名の数だけ指…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(6)

    連続小説・「アキラの呪い」(6)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** 中学生になると、俺は「あの」水無瀬晶の弟として扱われた。中高一貫校だったから余計にそういう目で見られた。小学校でもそんな感じだったからむしろ俺としては懐かしさすらあった。そもそもその程度のことで動揺してちゃ、あれの弟は務まらない。なので入学してから一ヶ月ほどは、周囲に水無瀬歩がいかに平凡な奴かを知らせることに注力した。まあ、実際俺は平凡な人間に過ぎないのでありのままでも構わない。けどそれじゃあ、姉の武勇伝にインパクト負けしてしまう。平均よりも平凡、という印象が必要だった。 だからこそしばらくは、特に品行方正に努めたつもりだ…

  • 連続小説・「アキラの呪い」(5)

    連続小説・「アキラの呪い」(5)

    前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 第二章 「晶と俺」 ろくでもない姉との出会いを俺ははっきりと思い出せない。気がついたら晶は俺の姉で、俺は晶の弟だった。だから10歳の頃、親から実はお互い連れ子なのだと聞かされるまでは、普通の姉弟なんだと思ってた。けど、知らされた時もあんまり驚かなかったんだよな。だってさ、晶と俺は全然似てない。性格も見た目も全部。だから違和感みたいなものは昔からあったんだろ、多分。あいつと俺が家族になった当時、俺は6歳であいつは9歳だった。そりゃあ、就学前のガキの頃の記憶なんて曖昧にもなるだろう。なんならもう少しデカくなってからのことすらほとんど覚…

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