小説・「海のなか」(42)

小説・「海のなか」(42)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com 翌日、夕方が近づいてくるとわたしは社殿の影に身を隠した。それが悪いことだとわかっていたけれど、どうしても見たかった。わたしの不在を知った陵の表情を。その顔色ひとつでわたしの中の何かが決定的に動いてしまう気がしていた。 いつからこんなに狡くなったんだろう、と他人事のように考えながら壁に背を預けると、夜に侵されつつある空を見上げた。星が微かに煌めき始めたのを見て、晩秋すらもう終わりかけていることを悟った。どうりで日暮れが早い。冷えた手先を擦り合わせながら自嘲した。ここに佇んでいる理由の下らなさに我ながら馬鹿馬鹿しくなったのだった。けれ…