chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
書に耽る猿たち https://honzaru.hatenablog.com/

本と猿をこよなく愛する。本を読んでいる時間が一番happy。読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる色々な話をしていきます。世に、書に耽る猿が増えますように。

本猿
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2020/02/09

arrow_drop_down
  • 『高熱隧道』吉村昭|自然の脅威、人間との確執

    『高熱隧道』吉村昭 新潮社[新潮文庫] 2023.7.27読了 数年前に黒部・立山アルペンルートを含めて富山を旅行した。黒部ダムの勢いよく放出される水に圧倒された。なかでも、立山の景色の素晴らしさが本当に忘れがたく、なんなら日本で観光した景色で一番といってもいいくらい感動した。 この作品は、黒部第三発電所建設工事第三工区、水路・軌道トンネルの掘削を描いた事実に基づく記録文学である。旅路で通ったあのトンネルの掘削はこんなにも過酷で苦しいものだったなんて思わなかった。 工事進捗途中に、これまでの掘削経過を祝い、また今後の無事故を祈って岩盤に清酒ニ升を注いだが、たちまち音を立てて水蒸気に化してしまっ…

  • 『ゴリオ爺さん』オノレ・ド・バルザック|すべてが真実なのである

    『ゴリオ爺さん』オノレ・ド・バルザック 中村佳子/訳 ★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2023.6.24読了 実は過去にこの作品を読んだとき、断念した経験がある。海外文学にまだ心酔していなく、訳された文章にまだ慣れていなかったこともあるかもしれない。確か100頁に満たないうちに投げ出したのだ。でも、去年『ラブイユーズ』を読んで、バルザックの才能とおもしろさに飛びあがりそうになるほど驚いた。 訳者の中村佳子さんによると、光文社古典新訳文庫に新訳で刊行することが決まったとき、編集の方から「序盤の読みにくい部分をわかりやすくしてほしい」と注文があったそう。難題だと思った中村さんだが、この冒頭こそが…

  • 『新古事記』村田喜代子|戦争が行われていると同時に平和な場所もある

    『新古事記』村田喜代子 講談社 2023.8.20読了 どうして『新古事記』なんだろう。『古事記』と関係があるのかしら。書店で気になり何気なく頁をパラパラすると、太平洋戦争の頃の話らしい。『古事記』とどう関わっているのか。最近『古事記転生』なる本がベストセラーになっているし、ちょっと気になるから読んでみるか。 日系三世のアデラは、付き合っているベンジャミンから遠い土地に行くことになったと告げられる。アデラもその地に一緒に行くことになるが、ベンジャミンら科学者たちの仕事は秘密裏で、親に住所すら告げられない。 サーシャお祖母さん(アデラの祖母)の日記に、日本の文字はおもしろいと書かれている。象形文…

  • 『野性の探偵たち』ロベルト・ボラーニョ|一つの作品で自分の思考が逆転するというなんとも稀有な読書体験

    『野性の探偵たち』上下 ロベルト・ボラーニョ 楢原孝政・松本健二/訳 白水社[エクス・リブリス] 2023.8.19読了 はらわたリアリズムってなんのことだろう?内臓現実主義?どうやらこの小説のポイントになるのがはらわたリアリスト=前衛詩人のことである。予想はしていたけれど、最初から難解だ。それでも、じっくり、じわりじわりと読み進めていった。 最初の章「メキシコに消えたメキシコ人たち」は、フアン・ガルシアという若者の日記になっている。詩と文学とセックスのオンパレードで、ちょっと戸惑い気味。 偶然だと!偶然など何の役にも立たん。肝心なことは何もかもすでに書かれている。それをギリシア人どもは運命と…

  • 『猫と庄造と二人のおんな』谷崎潤一郎|猫に翻弄される人間たち

    『猫と庄造と二人のおんな』谷崎潤一郎 新潮社[新潮文庫] 2023.8.13読了 昭和8年に『春琴抄』を書いた谷崎潤一郎さんは翌年にこの短編を刊行した。文庫本で150頁にも満たないこの小説はさらりと読み終えられるので、谷崎文学をこれから読もうとしている人にもおすすめだ。 飼い猫を前妻に譲ってしまうか否か。猫を人間よりも大事にする庄造のせいで、女たち(現在の妻の福子と前妻の品子)が猫に嫉妬している。そんな内輪揉めのような、ある意味どうでもいいような話なのだが、これが谷崎さんにかかると、人間の関係性を非常に上手く捉えた作品が出来上がる。 この作品では、猫、庄造、福子、品子の4人(厳密には1匹と3人…

  • 『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子|母娘の関係性、身体の生理現象

    『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』川上未映子 筑摩書房[ちくま文庫] 2023.8.8読了 挑発的なタイトルと表紙である。この本は「詩集」とジャンル分けされている。頁をめくると確かに詩に見えるものもあるが、短編のようにも感じられる。『乳と卵』で芥川賞を受賞した翌年に刊行された本で、表題作を含めた7つの作品が収められている。 表題作『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』は、中原中也賞(詩の賞にはあまり詳しくないけれど…)を受賞された。圧倒的な迫り来る濡れた文体が脳髄を刺激する。女子の先端とはつまり挿入されうる先端であり充血し膨らむところ。一見卑猥なのに、川上未映子さんにかかると文学的…

  • 『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア|愛する相手への疑惑を抱え続ける

    『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2023.8.7読了 大好物の19世紀のイギリスを舞台としたゴシックロマンスミステリーである。刊行当時も絶大なる人気を誇ったダフネ・デュ・モーリア。私は過去に『レベッカ』を読んだことがあるが、実はそんなに覚えておらず、これを読んで再読しようと思った。 コーンウォール州を舞台とした作品には既読感があり、カズオ・イシグロ著『日の名残り』を初め多くの小説に登場する。荒涼たる陰鬱な風景はまさしくこのサスペンスにぴったり。古いけど、日本のドラマでいえば「火曜サスペンス劇場」に出てくるようなおどろおどろしい雰囲気だろうか。もし…

  • 『見ること』ジョゼ・サラマーゴ|白票の意味するところは|賢明な言葉による豊穣さに心躍る

    『見ること』ジョゼ・サラマーゴ 雨沢泰/訳 ★ 河出書房新社 2023.8.5読了 敬愛する作家の一人、ジョゼ・サラマーゴさんの小説が河出書房から新刊で刊行された。2004年に刊行された本書は、著者晩年81歳の時の作品で『白の闇』と対をなす物語となっている。 投票率は高いのに、白紙表が85%という驚異的な数字となってしまった。投票しないのではない。わざわざ足を運んで投票しに行ったのに、何も記入せずに票を投じるのだ。日本では白紙投票は無効になるが、どうやらこの国では有効となるらしい。この国の市民は、政治について、社会制度についてどう考えているのか。 おもしろいのが「白紙投票」のせいで、「白」とい…

  • 『武蔵野夫人』大岡昇平|武蔵野の雄大な自然と、登場人物の絶妙な心情の変化を読み解く

    『武蔵野夫人』大岡昇平 新潮社[新潮文庫] 2023.8.2読了 武蔵野の雄大な風景が鮮やかに浮かび上がる。武蔵野とは、明確な定義はないものの、多摩川と荒川、埼玉を流れる入間川に囲まれ、東京と埼玉にまたがっている台地(日本地名研究所事務局長・菊地恒雄さんより)のことをいうらしい。地名でいえば武蔵小金井、国分寺、立川、青梅などが思い浮かぶ。 武蔵野の中で富士山の見える高台「はけ」に住む秋山忠雄・道子と、大野英治・富子の二組の夫婦がいた。そこに、道子の従弟で学徒招集でビルマに赴いていた勉は、生まれ育った地「はけ」に帰ってきた。道子らの家で暮らしながら富子の娘に英語を教えていたが、いつしか道子と勉は…

  • 『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子|完成された物語性

    『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子 新潮社 2023.7.31読了 胸のドン突きにあるもの。胸の奥深くの突き当たりにあって自分の意志じゃどうにもならないもの。これに反する気持ちを抱こうとしても、何かが喉に引っかかったような、もどかしい気持ちになりすっきりしない。だから、胸のドン突きにしっくりくる生業に辿り着きたいと、木戸芸者の一八(いっぱち)は思うのだった。 2年前に木挽町で起きたあだ討ち事件について、ある人物が聞き取りをし何人かの証言を取る。仇討ちの真意は何だったのか。大柄な博徒作兵衛は何故あのように決闘に敗れたのか。そして、作兵衛の首を取り、その後闇に姿を消した菊之助とは一体何者なのかー。 一…

  • 『灯台』P・D・ジェイムズ|孤島のミステリー、ダルグリッシュのロマンスもあり

    『灯台』P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳 早川書房[ハヤカワ・ポケット・ミステリ] 2023.7.30読了 今年に入って初めて、久しぶりのジェイムズ作品。この作品は、2005年に彼女がなんと85歳の時に刊行された小説だ。筆の衰えを全く感じさせない、濃密なミステリーで存分に満足できた。 イギリス・コーンウォール沖のカム島という架空の孤島が舞台である。ここには住人もわずか、招かれる人もVIPな限られた人たちだけ。周囲を海に囲まれたこの島である人物が不穏な死を遂げる。タイトルにもなっている灯台で何が起きたのか、誰がこの事件に関わってくるのかー。 ダルグリッシュ警視や、相棒であるケイト・ミスキン警部、…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、本猿さんをフォローしませんか?

ハンドル名
本猿さん
ブログタイトル
書に耽る猿たち
フォロー
書に耽る猿たち

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用