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Welcome to MOUSOU World! https://xifuren2020.hatenablog.jp/

ネオ稀腐人改めマレフィです。稀腐人名義でメインブログ『灰になるまで腐女子です?』を書いています。このサブブログでは過去から現在に至るまで創作したオリジナルBL小説を公開しています。よろしければ感想などお寄せください。お待ちしております。

 メインブログでは過去に同人をやっていたエピソードやハマッている作品についての戯言を垂れ流していますが、自作のBL小説に特化したサブブログを立ち上げることにしました。随時披露しますので是非とも御一読ください。

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2020/01/08

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  • ※※※更新休止のお知らせ※※※

    更新休止のお知らせ

  • Masquerade ④ ※18禁1🔞

    2️⃣0️⃣Masquerade④

  • Masquerade ③

    2️⃣0️⃣Masquerade③

  • Masquerade ②

    2️⃣0️⃣Masquerade②

  • Masquerade ①

    2️⃣0️⃣Masquerade①

  • Masquerade 解説

    ついに過去作が尽きました(笑)って、笑い事じゃないんだけどさ。ここからは新規に書いていくしかない。連載を始めたものの更新停止になっている作品もありますが、今のところその状態から脱却できそうになく、こうなったらと新たな作品をUPしていくことにしました。タイトルは『Masquerade』、絵師Sに勧められて観た映画『ブロークバック・マウンテン』によってインスパイアされた作品です。 内容は十数年前に考えたものであり、第二章まで書いて頓挫し、それきりになっていたのですが、改めて続きを書いていこうかなと。二十年近く前のネタですので現在の世情には合っていない部分もありますが御了承ください。また、これまでの…

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑫(最終章)※18禁3🔞

    1️⃣9️⃣蒼い夜S-Ver.⑫

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑪

    1️⃣9️⃣蒼い夜S-Ver.⑪

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑩ ※18禁2🔞

    1️⃣9️⃣蒼い夜S-Ver.⑩

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑨

    1️⃣9️⃣蒼い夜S-Ver.⑨

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑧

    Ⅷ 仲間とは別行動となり、教育学部の建物の外に一人で出た一眞はそこで黒い服を着た男の姿を見つけたとたんに足がすくんだ。 「やっと会えたな」 黒のロングコートにサングラスという怪しげないでたちの男だが、その長身といい、研ぎ澄まされた美貌といい、大学生というよりはモデルか俳優ではないかと考える方が相応しく、今も彼の傍をすり抜けた女子大生たちがヒソヒソ噂している様子が見える。 否でも人々の注目を集めるこの色男に、一眞は刺々しい言葉を投げかけた。 「まさかこの場所まで来て、御丁寧に待ち伏せとはね。おまえから出向いてくるのは初めてじゃないのか」 別行動にして助かった。見知らぬ男、その正体は『元彼女』なら…

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑦

    Ⅶ 一眞が通う大学は都市部から少し離れた山の斜面を利用した場所にあり、キャンパス内にはそれぞれの学部の校舎や施設があちらこちらに点在していて、その面積はかなりの広さである。 天気が良ければ豊かな緑が映えて清々しい光景なのだが、この曇り空ではいまひとつといったところか。 本日履修している講義はすべて終了、やれやれ終わったと開放感に浸りながら机の上を片付けていると、後ろの席から水島が話しかけてきた。 この水島の他に金田、土屋、そこに一眞を加えた四人は同じクラスの気の合う仲間であり、大抵の場合、つるんで一緒に行動しているのだ。 「高宮、合コン行かない? 短大のコたちなんだけど、向こうは四人くるってい…

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑥

    Ⅵ ピロピロピロン、と耳に馴染みのあるチャイムの音が流れて、また一人、客が入店してきた。 「いらっしゃいませ」 反射的に声をかけながら、一眞は棚にカップラーメンを並べる作業を続けた。 壁に掛かった時計の針は午後九時を示している。天井に配置された蛍光灯がこれでもかとばかりに店内を白々と照らす、ここは小さな不夜城だ。 生真面目で勤勉な一眞は城主ならぬ店長からの信頼も厚く、よって、バイトに入る曜日や時間帯に関しては柔軟に取り計らってもらうことが多い。そういう利点があるので、長続きしているともいえるだろう。 ストライプ柄の上着がここでの制服、そのポケットの中からかすかな振動を感じた一眞はこっそりと小さ…

  • 蒼い夜 S-Ver. ⑤

    Ⅴ 柔らかくまとわりつくシーツの中でまどろむ一眞の寝顔をカーテン越しの朝の光がからかうように照らした。 香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、うっすらと目を開けた彼は向こうのテーブルの上に朝食の準備がされているのに気づいて上半身を起こした。 それから、辺りを見回して自分の置かれている状況を把握しようとしたが、頭の中がぼんやりとして、はっきりしない。 首を左右に振っていると、バスローブを身にまとった愁が髪を拭きながら現れて「おはよう」と声をかけた。 「よく眠っていたから起こさなかったよ」 「ああ……」 (そうだ、オレは偶然こいつに会って、夕べはここに泊まったんだ) 昨夜の記憶が鮮やかに甦り、一眞は思わず…

  • 蒼い夜 S-Ver. ④ ※18禁1🔞

    Ⅳ 雨脚はさっきよりも激しく窓を打ちつけ、水滴に歪められた光は水面のようにきらめいて、絡み合うふたつの姿を映した。 「ごめん……」 「気にするなって。オレもその……だし」 ようやく願いが叶った愁と、久しぶりの快楽を与えられた一眞はわずかに触れ合っただけで、あっという間に果ててしまったのだが、お蔭でいくらか冷静さを取り戻したらしい。 「もう一度やり直しだね」 愁は愛おしそうに一眞の髪を撫で、その指を髪から頬へと這わせたあと、次に唇をなぞるようにした。 何度目かのキスが降り注ぐ、一眞はその心地好さに身を委ねながら、とりとめのないことを考えていた。 キスの経験すらなかった純情男がいきなり同性愛の洗礼…

  • 蒼い夜 S-Ver. ③

    Ⅲ ランプの点滅が次々に移り変わり、目的の階への到着を示すと、鉄の扉は左右へと静かに開いた。 廊下に立ち込める独特の香り、一眞の先に立って進んだ愁は部屋の前までくると、慣れた手つきでロックを解除した。 「さあ、どうぞ。灯りはつけないでいてくださいね」 言われるがまま奥へと進んだ一眞の前には大きな窓ガラス、そして、その向こうに広がるのは陳腐な表現をすれば、宝石をちりばめたような港の街の夜景だった。 雨に煙っているせいか、その輝きは少しばかりぼやけていて、だが、それはいつにもまして幻想的な美しさを醸し出している。 大喜びの一眞は子供のようにはしゃいだ。 「わあ、キレイだなあ。ずっと横浜に住んでいた…

  • 蒼い夜 S-Ver. ②

    Ⅱ 横浜ロイヤルパークホテルのエグゼクティブラウンジ。ぬくもりのある調度品と高い天井から降り注ぐ、柔らかで落ち着いた照明のせいか、ソファに腰掛けた者の気分をゆっくりと和ませてくれる。 静かに流れるクラッシック、愁と向かい合わせに座った一眞はテーブルの上のココアをもう一口飲むと、ホッと息をついた。 「食事はいいんですか?」 「ああ、今は何も食べる気がしないし」 「それじゃあ、あとでサンドイッチでも用意しますね」 ティースプーンで紅茶をかき混ぜる愁が傍を通ったウェイターに何やら合図をすると、彼はうなずいて向こうに行き、その様子を不思議そうに見守っていた一眞は愁の顔を窺いながら問いかけた。 「おまえ…

  • 蒼い夜 S-Ver. ①

    1️⃣9️⃣蒼い夜S-Ver.①

  • 蒼い夜 S-Ver. 解説

    まさか公開するとは思っていなかった『ラジカル~』を披露する羽目になり、それもいよいよ完結。頼みの綱だった『PRECIOUS HEART S-Ver.』は停滞したまま。ついにブログ更新停止の危機か…… と、ここで、すっかり忘れていた作品を思い出しました。ホント、すっぽり抜け落ちていたとはこのこと。それはサブブログ2で公開済の爆ベイカイタカ小説『蒼い夜』をオリジナルBLに書き換えた作品で、ものすご~く初期の頃に新人賞へ投稿しました。同じタイトルにしていたため、ここでは『蒼い夜S-Ver.』といたします。それにしても、この際、何でもかんでも公開してしまおうという節操のなさ。 二次創作ではアメリカが舞…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑩(最終章)

    第十章 本当のお宝 こんなにハマるとは思ってもみなかった。性的欲求とか願望に関しては淡泊だったはずなのに、太助とのセックスにすっかり溺れてしまった俺と、そんな男に毎回嬉しげに付き合ってくれる太助、当初の目的・お宝探しはどこへやら、である。 今のこの保養所なら、まわりを気にする必要もなく大声を上げて、好きなだけ思いっきり出来る、というわけで、夜遅くまで『愛の営み』を続けていたせいか、すっかり寝坊した俺たちが目を覚ますと時刻は正午。部屋の外の気配が慌しくなっていた。 今日は探検隊の最終日、他のチームの連中が建物に戻った上に、あのナビゲーターが到着したらしい。急いで服を着た俺たちは久しぶりに聞くキン…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑨ ※18禁2🔞

    第九章 素直になれば けっきょく一睡も出来なかった。出来るわけがない、太助が戻ってこなかったのだから。 東の空が明るくなるのを見た俺はすぐに行動を開始した。とにかく太助を探す、何が何でも連れ戻してみせる。 ザックを持って動くのは大変なので、わかりやすい場所、ほこら小屋の辺りにでも置いておこうと傍まで行くと、奇妙な物体のある光景が目に飛び込んできた。 「何だろう?」 恐る恐る近寄ってみて仰天、人の足だ。まさか死体? 殺人事件か?! 次の瞬間、死体の足が動いたために、俺は恐怖のあまり飛び退いたが、それは死体などではなく、生きた人間の足、見覚えのあるヤツのものだった。上半身が陰に隠れて、そうだとわか…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑧ ※18禁1🔞

    第八章 衝撃の展開 ほこら小屋へ一足先に到着した俺は無人だと思い込んでいたその場所に、人の気配を感じて足を止めた。 こんな時刻に、俺たち以外にこの櫛形山山中をうろうろしている人物がいるなんて、もしやお宝探検隊のメンバーの誰かだろうか? それならば安心だが、見知らぬ人、得体の知れない連中だとしたら、声をかけるのはどうか、不安でもある。 とにかく様子を見ようとこっそり覗くと、気配の正体はなんと、あのシカさんチームの二人、松本さんと岩田さんだった。自分たちで持参したらしいガス・ランタンが彼らの姿を赤々と照らしていたために、そうと確認出来たのだ。 知り合いとわかってホッと胸を撫で下ろしたものの、肩を寄…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑦

    第七章 揺れる心 けっきょく何の成果もないまま二日目が過ぎた。 下山途中に出会った人の話によれば、この毛無山はトレッキングスポットとしては上級者向き、つまり、コースがキツイ方だったらしい。それを若さに任せて登ったものだから当然、身体はくたくた、足は棒になっていた。 門限ギリギリにたどり着いた俺たちのあとに続く者はなく、他のチームの連中は誰一人として保養所には戻ってこなかった。 小耳に挟んだところによると、彼らは今回の宝探しに関して、相当の下準備をしてきたらしい。ダウジングとか何とか、そういう道具を用意した者もあれば、金属探知機の類を持ち出した者もいたようで、遊び半分のお気楽なヤツは何も太助だけ…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑥

    第六章 お宝探し開始 翌朝、管理人が鍵を開けるのと同時に、俺たちは行動を開始した。 必需品は太助がザックに手際よくパッキングしてくれた。重いものは上の方、それも背中側に詰めるのがコツだそうだ。 中学時代、いずれ独りで生きていく時のために、そういったサバイバル知識を図書館などで調べ上げて身につけたらしいが、東京のような街に住むぶんにはあまり必要がないと思えるものもあった。まあ、知っていて損はないけれど。 それから、夏場とあって半袖の服しか持ってきていない俺に、グッズの中から長袖・長ズボンを選んで着用するよう助言があって、虫刺されなどの危険がある山の中へ入る時の心得としては当然だと俺も納得した。 …

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ⑤

    第五章 尾上の末裔 夕刻になり、一○一から一○五までの、他の部屋にも人の気配が戻ってきた。さすがに初日から外で泊まるヤツはいないようだ。 元食堂では何人かで歓談する声も聞こえたが、他チームと手を組んだり、情報交換したりする必要のない俺はずっと一○四号室に閉じこもっていた。 さすがに腹が減ったので、インスタント食品のうち、どれを食べるか検討する。キャンプ用のガス・ストーブのバーナーを使って沸かした湯でカップラーメンを作り、そいつを食べ終わるともう、何もすることはない。 その場にごろりと横になったものの、寝るには早すぎてボケッとしていると、さっきから何か話したそうだった太助がとうとう「あのさあ………

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ④

    第四章 ウサギさんチーム 元保養所の一○四号室が俺たちウサギさんチームにあてがわれた部屋である。そこは六畳一間に洗面所とトイレという間取りで、すっかり変色しているカーテンのかかった南側の窓の外には長閑な風景が広がり、のんびりとした気分にさせてくれる。 茶色に日焼けした畳の上に寝転がった俺の傍らで、太助はそわそわと落ち着かない素振りで室内を見回しては「ねえ、作戦立てなくてもいいの?」などと訊くのだが、取り合うつもりなど、まるでなかった。 先程の説明の際、女がチーム毎に配った地図のコピーを今回の宝探しの参考とするわけだが、その図というのが、最近見つかった蜂須賀家に所縁のある巻物の記述を解読し、既存…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ③

    第三章 法月太助 会場を建物内に移して、改めて説明会が始まった。ここは俺のにらんだとおり、倒産した会社が以前に所有していた保養所で、今回の企画のためにアート・コレクター社が一時的に借りたらしい。 かつては宿泊者の食堂だったが、今は電気と水道が使えるだけ、ガスの使用は不可という部屋に集められた俺たちは初対面の遠慮もあって、各自バラバラな位置の席に着き、前方のキンキン声女の動向を見守った。 この場に残っているのは男ばかりで、数少なかった女性はクジで振り落とされたようだ。 「それでは皆様、改めましてこんにちは。今回はご当選、おめでとうございます」 めでたくない、全然めでたくないって。 「ここにお集ま…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ②

    第二章 お宝探検隊 じいやに見送られて特急・南風二十八号に乗った俺は岡山を午後十時半過ぎに出発する寝台特急サンライズ瀬戸・出雲に乗り換えたが、値段の張るA寝台なんぞに乗車できるはずもなく、安価なゴロ寝スペースのうちの指定された場所に転がり込んだ。 そこは人間一人が何とか横になれる一畳ほどの広さで、薄手のタオルケットが備えられており、それが一車両に上段・下段合わせて二十八部屋ある。薄暗いその場所に横たわり、目の前に迫る天井を見上げながら、俺は深い溜め息をついた。 明日の朝八時に現地集合となると、もっとも費用をかけずに行く方法はこの寝台特急を利用すること。 さっそく切符を手配したじいやに言われるが…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル ①

    第一章 蜂須賀の財宝 夏休みに入ったばかりの七月下旬早朝、じいやのわめく声に俺の眠りは破られた。 「わっ、若! 起きてください、若っ!」 今の日本で若と呼ばれているのは俺と某有名若手演歌歌手以外に何人ぐらいいるのか、ぜひとも知りたいもんだと思う。 「若、重大なお話が……」 「どうしたの、また取り立て屋が怒鳴り込んできたとか? 朝っぱらから御苦労だよな」 「い、いえ、そのようなことでは」 口籠もるじいやのこけた頬が心なしか紅潮している。面倒臭いが付き合ってやるか。俺は上半身を起こすと寝巻きを脱いで、枕元に置いてあったTシャツの袖に腕を通した。 「じつは今朝方、先代様の夢をみまして」 「先代って、…

  • ラジカル・ミラクル・サバイバル 解説

    xifuren2020.hatenablog.jp ☝ぼちぼちと始めた最新作の更新が止まってしまいました。続きを楽しみにしていた、などという奇特な方はいらっしゃらないとは思いますが、この場を借りて平にお詫び申し上げます。 上記の解説にも記しましたように、過去作が尽きてコピペ公開が続かなくなり、とりあえず仕上がっているところまでUP、あとは続きを書いていこうと考えていたのですが、8月に二次創作のオンラインイベントがあり、それにサークル参加を決めた関係もあってオリジナルBLまでは手が回らなくなる状態に。従ってこのサブブログ1は、場合によっては8月まで更新されないという事態になり、さすがにそれはマズ…

  • PRECIOUS HEART S-Ver. ②

    第二章 セッション 翌日、火高には断られたと説明すると、叶たちは残念というより、ホッとしたような表情を浮かべた。 「ま、想定内やな」 「期待はしていませんでしたけどね」 「それより颯、大丈夫だったか?」 奨が心配そうに訊くので、オレは「な、何が?」と焦りながら訊き返した。まさかキスされたなんて、口が裂けても言えない。 「いや、ほら、ああいうヤツだろ。いちゃもんつけたり、いきなり暴力振るったりしたんじゃないかって、心配でさ」 「そうそう、みかじめ料よこせとかやな」 「何でそうなるんだよ」 脅されるようなことはなかったと言って、ひとまず皆を安心させたあと、今後について話し合うことで決着し、あとでウ…

  • PRECIOUS HEART S-Ver. ①

    1️⃣7️⃣PRECIOUS HEART S-Ver.①

  • PRECIOUS HEART S-Ver. 解説

    これまで公開してきた過去作は元原稿がPCやディスクに保管されていたものなので、それを手直しした上でブログ編集画面にコピペするという「簡単なお仕事」をやってきました。さらに、それと並行して新作を書くつもりが何ら手付かずのまま、前作『テンシ~』を以ってとうとう過去作の在庫が尽きるという事態になってしまったわけです。いかん、ブログ更新停止の危機。 とにかく新作を上げねばならぬ。書きかけの作品の中で一番執筆が進んでいるのがこの『PRECIOUS HEART S-Ver.』でして、完結しているわけではないのですが、この際出来ているところまで公開しようと思いまして、順次UPすることにしました。よって、今ま…

  • テンシの誘惑 ⑯(最終章)※18禁2🔞

    第十六章 ハッピー・ウェディング 手配していたホテルの部屋をシングルからツインに変更すると、キーを受け取った総一朗は「五階だよ」と上を示した。 部屋の南側、大きな窓の向こうには紺碧の海に淡い黄色の光が浮かんだ、幻想的な光景が映し出されている。打ち寄せる波の音がかすかに聞こえ、潮の香りがうっすらと漂って、ここがオーシャンビューのリゾートホテルなのだという実感が湧く。 ブルーのカーテンを引く総一朗を後ろから抱きしめると、何かを言いかけた彼を創は強引に、ベッドの上に押し倒した。 「ちょっ、ちょっと、何?」 「だから、もう限界」 「ま、待って。まだ……」 「待てない!」 若い身体をずっともてあましてい…

  • テンシの誘惑 ⑮

    第十五章 悲しみを胸に沈めたら 翌朝、簡単な荷造りをしたリュックを抱えて始発電車に乗り込んだ創は夜が明けきらぬ空を車窓越しに眺めた。 あいつ自身はどうなのか──昨夜、『青柳』のカウンターで扶桑が言い放ったセリフが頭から離れず眠れなくなったせいで、徹夜に近い状態のままの過酷な出発だった。 今回の総一朗の行動は法事のためだけの帰省じゃない、何かある。扶桑はその真相を知っていながら、創に対しては故意に隠しているのだと感じる。 「今すぐにでも会って確認」と言うからには、メールの返事を待って、部屋でじっとしているわけにはいかないと、創は総一朗のあとを追う決意をしたのだった。 昨夜得た情報によって、総一朗…

  • テンシの誘惑 ⑭

    第十四章 激突! 元カレVS今カレ 創が抱いたイヤな予感は的中した。 翌日、開発部へ配達に行くと総一朗の姿はなく、豊田にそれとなく訊いたところ、思いがけない答えが返ってきた。 「ああ、ミスターエンジェルなら、今日は休暇取ってるよ」 「休暇?」 「うん。昨日、部長に有給申請していたのを見たんだ。ずいぶん急だなと思ったけど」 たしかに、前もって何らかの予定が入っていたのだとしたら、いきなり休むのは他の社員にも迷惑になるし、もっと早めに申請するはずだ。 「『急に休むけど、ごめんね。お土産買ってくるから許して』って言われてさ。それで『課長、旅行にでも行くんですか?』って訊いたら『そう。失恋を癒すひとり…

  • テンシの誘惑 ⑬

    第十三章 心乱れて 「……創、早く起きなさい。いつまで寝てるの、学校に遅れるわよ。創ったら」 母の声が慌しげに響く。 「あー、わかってるって」 「わかってないでしょ、私はもう出かけるわよ。食べたら後片付けしておいてね」 「ふぇーい」 温かい味噌汁に焼き魚、卵焼き、炊きたての御飯……懐かしい朝の匂い…… えっ、今見た光景はデ・ジャヴ? それじゃあオレはどこに居るんだろうか…… グレイのカーテンの隙間から差し込む朝陽に目を細めて、創はベッドの上でのろのろと頭を動かした。まどろみから醒めきっていない身体が重い。 ここは? そうだ、昨夜はこの部屋に泊まって、それで……夜明け近くまで狂ったように抱き合っ…

  • テンシの誘惑 ⑫ ※18禁1🔞

    第十二章 寄せて重ねる…… 最新の設備を誇る高級マンションの、玄関のロックを解除したあと、ロビーを抜けてエレベーターの前まで進む。 中へと乗り込む総一朗に続いた創は高鳴る鼓動が聞かれはしないかと、さっきからシャツの胸の部分を押さえていた。 階数を表す黄色のランプが『7』を示す。先に立って歩く総一朗はやがてドアの前で立ち止まった。 「ここだよ。さあ、どうぞ」 灯りをつけると「そこのソファに座って。今コーヒーを淹れるから」と言いながら、総一朗はキッチンへと入っていった。 窓の向こうに繁華街の夜景が広がる2DKのゆったりした室内はカーペットも家具もカーテンもモノトーンで統一された、モダンで落ち着いた…

  • テンシの誘惑 ⑪

    第十一章 小料理屋『青柳』にて 終業のチャイムが響き渡ると、ドッと開放感が溢れる。今週のお仕事、これにて終了だ。 「ねえねえ、今から新しくできたあのお店に寄って行かない?」 「行く行く! ロッカー寄ってくからちょっと待ってて」 「おーい、飲みに行くぞー。遅れたヤツの奢りな」 「マジかよ、まだ片付け終わってねえよ」 「えーっ、デートなの? いいなぁ」 「あー、ちっくしょー、残業決定じゃねえか」 社内のあちらこちらから、社員たちの悲喜こもごもが聞こえてくるようだ。 早々に退社する人々の波に混ざって通用門を抜け、待ち合わせの場所に出向いた創は辺りを恐る恐る見回した。 医務室での出来事──衝動的にキス…

  • テンシの誘惑 ⑩

    第十章 離れ小島の決闘 さて退社時刻まで、あと二時間あまり。 総一朗との約束にすっかり浮かれ、早くアフターファイブにならないかとそわそわしていた創の元に、製造部からの連絡が入った。至急運んでもらいたいものがあるという。 「げー。あそこに行くのはちょっと気乗りしないんだけどなぁ」 浮かれ気分に水を差す展開にゲンナリするが、仕方なく台車を引き連れ、製造部への遠征を開始。気分が一気に重くなった。 総一朗に会えるから、開発部に行くのはもちろん嬉しい。営業部へは滅多に行かないし、システム部も好意的な対応をしてくれるが、製造部だけはどうも…… 工場の中の通路を横切って、その先の事務室まで行くのも難儀だが、…

  • テンシの誘惑 ⑨

    第九章 江崎工業オールスターズ 総一朗が話していた全体会議というのは『二十年後の会社の展望を考える』と銘打った、途方もないテーマの会議である。 当面の細かい議題について論ずるのではなく、十年、二十年という長いスタンスで見た場合、会社が今後も発展していくためには、どのような点を改善、改良すればよいのか。 また、どういった新規の業務に取り組むべきかみんなで話し合いましょうという、一見素晴らしいようでいて、実は無駄な時間の使い方であった。 二十年後を毎年のように語っているのも妙な話だし、その時に今いる社員の何人が働いているというのだ。もっとほかに話し合うことはいくらでもあるだろう。それに、若手はとも…

  • テンシの誘惑 ⑧

    第八章 エーゲ海に惑う 翌朝九時。ちょうど耳元に転がっていた携帯電話がやかましく鳴る音に、創は驚いて飛び起きた。 「なっ、何だぁ?」 まだ寝ぼけているせいか、位置がわからず手探りで電話機を探す。慌てて着信ボタンを押すと、聞こえてきたのは待ちわびていた人の声だった。 「おっはよー。起きてた?」 「……起こされた」 あっけらかんとした言葉が神経を逆撫でてくる、創はブスッとした口調で答えた。 「ごめんね~、ずっと残業続きで予定が立たなくって。今日は何とか休めるって、はっきりわかったのが昨夜も十二時過ぎてからだし、さすがに連絡できなかったのよ」 「あ、そう」 残業だったとしても、メールぐらい送れるだろ…

  • テンシの誘惑 ⑦

    第七章 マジゲイへの道 新しい週が始まった。 親戚に不幸があったとか、それとも、仮病でもつかって休もうか。そんな調子ですっかり出社拒否状態だった先週とは打って変わって、創は意気揚々と一階フロアのドアを開けた。 老人は朝が早いという定説に従っているのか、鈴木課長はとっくに出勤し、彼の朝のお仕事、急須に茶葉を入れていた。 「おはようございます!」 「ああ、おはようございます。ずいぶん張り切ってますね、加瀬サトルくん」 「ハジメなんスけど……」 業者から朝一番に届けられた、山盛りのコピー用紙とトナー、それにシュレッダーボックスを専用の倉庫に運んだのはいいが、その場所のあまりの乱雑ぶりに驚いた創は片づ…

  • テンシの誘惑 ⑥

    第六章 やり切れない想い 再び車を走らせて西に向かった二人は街の中心から少し外れた場所にある、茶懐石の店に到着した。 門をくぐり、笹の葉ずれを耳にしながら、打ち水された石畳の上を歩いて、どっしりとした佇まいの玄関へと辿り着く。 時刻は午後七時。八畳の個室に通されると、そこは茶室を模した造りで、床の間には季節の掛け軸と、野の花を生けた花入が掛かっている。 いかにも和の趣の風情に感心した創はあたりを見回しながら、座布団の上に座った。 予約を入れていたらしく、仲居の女性の手によって、さっそく料理が運ばれてきた。 「ホントは本格的な茶事に連れて行きたかったんだけど、そうそうやってるものじゃないから、こ…

  • テンシの誘惑 ⑤

    第五章 ナイスなミドルでライバル参上 翌土曜日の午後、N市の駅前で待ち合わせをした創が所在なさそうに立っていると、着物姿の総一朗が目の前に現れたために、彼は「ええっ?」と、腰を抜かさんばかりに驚いた。 今日のテーマは『和』だと聞かされていたが、着物まで着てくるとは何たる徹底ぶり。もちろん自分で着付けをしたようだ。 渋い利休鼠色の紬だが、これはあくまでも略装で、正式な場には着用できない等、和装のルールをひとしきり聞かせたあと、彼は創の服装を上から下まで眺めまわした。 「そんな格好じゃ連れて行けないわ」 いきなりのダメ出しである。 「ジーンズで正座はキツイわよ。そのくたびれたTシャツも好感度を下げ…

  • テンシの誘惑 ④

    第四章 ミスターエンジェル Xデーははたしていつやってくるのか。戦々恐々としている創の携帯電話に総一朗からのメールが届いたのは三日後の、木曜の夜だった。 ラブホテルに泊まったあの時、こちらが泥酔し、正体を失くしている間にアドレスを手に入れていたのだろうと思うと、末恐ろしくなる。 『明日の夕食はフレンチのディナーよ。そこでテーブルマナーを勉強しますから、きちんとした格好をしてくるように』 ナイフとフォークの絵文字入りには恐れ入る。今時、絵文字を喜んで使うあたりがオヤジだなと思いつつ、創は返信の文面を入力し始めた。 『きちんとした、っていっても、就活用の普通のスーツしか持っていないけど、どうすんだ…

  • テンシの誘惑 ③

    第三章 イケてる麺 開発部からネコの額ほどの業務課のスペースに戻ってくると、「御苦労さま」と言って創をねぎらう鈴木課長がまたしてもお茶を入れてくれた。 (オレは茶飲みジジイかよって) 「いやはや、来て早々にすいませんねぇ。私がこの腰を痛めなければよかったのですが、どうも」 部下が次々に辞めてしまい、課長自ら重い荷物を運んだところ、ギックリ腰を患った。 このままでは業務課壊滅の危機である。急遽新入社員の一人を、力仕事ができて、それなりに機転のきく若者をまわしてくれと嘆願したとのこと。 そこで創に白羽の矢が当たった。彼は業務課再生の生け贄というわけだった。 たしかに、この非力そうな課長に重い物を運…

  • テンシの誘惑 ②

    第二章 まさかマジかのオカマ課長 江崎工業株式会社は自動車部品の開発と製造、それも主にメーターなどの計器類を扱い、各自動車メーカーにそれらを納める会社である。 自動車メーカー側からすれば下請けのような存在だが、下請けといっても、さらに下請けとなる中小企業を傘下に持つ同社の規模はかなりのもので、一級河川のほとりに広い敷地を所有しており、そこには組立工場と、大半の部署のオフィスが入る、四階建てのビル――本社ビルと呼ばれている――が建設されている。 この本社ビル一階の総務部の片隅に、肩身が狭そうに机を並べているのが業務課だった。業務課というと聞こえはいいが、社内の雑用を一手に引き受けている、単なる便…

  • テンシの誘惑 ①

    第一章 口説いた相手は年増のオカマ? 五月も半ばを過ぎた、金曜日の夜。 『花金』などという、いにしえの死語で表現したくはないが、一週間の仕事を終えた週末の夜は開放感に満ち溢れている。 S駅前の飲み屋街には大勢の勤め人たちが繰り出し、あちらこちらでワイのワイのと、野太い歓声が聞こえており、そんな居酒屋のうちの一軒、そこでの座敷席では、こちらも開放された若いサラリーマンの一団が仲間同士で酒を酌み交わして盛り上がっていた。 真新しいスーツがいまひとつしっくりこない、学生臭さの抜け切らない彼らはS駅を最寄りとする、江崎工業株式会社の大卒新入社員・総勢十名。ちなみに女性は含まれておらず、全員が男性社員で…

  • テンシの誘惑 解説

    このサブブログ1にて、これまで披露してきたオリジナルBL小説の大半はその昔、BL商業誌の新人賞に応募した作品ということはブログ開設当初に述べました。その際に、当時最高位(準入選)の評価を受けた作品がこの『テンシの誘惑』。つまり過去作ナンバーワン。紅白で言えばトリ。満を持して公開いたします。 じつのところ、過去作が今のオリジナルBL界でどれだけ通用するものかとBL小説サイト「fujossy」にて行われていたコンテストに応募してみたんですよ。ま、さすがに一次も通りませんでしたが。今や「オメガバースでなければBLに非ず」の風潮なので所詮無理だったといったところですかね。 ※このサブブログに関する情報…

  • Cancan spitzと呼ばないで ⑨(最終章)※18禁🔞

    第九章 愛しのスピッツ 翌日。 けっきょく堂本は朝まで戻らず、FSSに顔を出すこともなかった。 その次の日、金曜日の朝イチ。 オレは椎名さんに呼びとめられ、奢るから一緒に昼メシを食いに行こうと誘われた。オレのランチ仲間の不破たちには既に話しておいたという用意周到さだ。 そして昼休み。 会社近くのトンカツ屋に入り、席に着いてヒレカツ定食を注文したあと、椎名さんは「ちょっとショッキングな話をするけど、食欲なくして、せっかくのトンカツ食えないなんて言うなよ」と念を押した。 「あ、はい」 いったい何の話なんだろう。湯呑を持つ手が微かに震える。 「彬がさ、関西工場に出張だって」 その瞬間、頭の中が真っ白…

  • Cancan spitzと呼ばないで ⑧

    第八章 扉の向こう 「大丈夫か? おーい、村越くん」 気がつくと、堂本が心配そうな顔で覗き込んでいるのが映った。 そうだ、オレたちはヤのつく自由業風の連中に絡まれて、それで…… 「救急車を呼びましょうか?」 お巡りさんの一人がそう訊いてくれたが、たいした怪我はないからと断った。 大きな騒ぎにしたくないと思ったからで、その考えは堂本も同じとみえ、最寄りの交番で簡単な事情聴取を受けたあと、そのまま帰宅する運びとなった。 「……すいませんでした」 オレの言葉に、堂本は不思議そうに「何が?」と尋ねた。 「いや、ですから、その……オレがあいつらに絡まれなければ……」 堂本の顔には殴られたあとが痣になって…

  • Cancan spitzと呼ばないで ⑦

    第七章 椎名ファミリー 「『ナポリの酒房』って、この前の送別会の二次会で行った店ですよ」 「へー。誰と?」 「富山さんと森下さん、それからいつものメンバー」 「ああ、不破たちか。おまえら四人は研修のときからずっと仲がいいよな。オレの同期は人数少ないし、気の合うヤツなんて来宮ぐらいでさ。あいつも今回の異動で忙しいから、飲みに行こうって誘う暇もないし、おまえらが羨ましいよ」 椎名さんと同期で一番仲のいい相手は来宮さんのようだが、成海との関係は知らないようだ。 彼が社内でそっち系の話ができる仲間としては、堂本一人だったところにオレが加わったけれど、来宮さんのことを知ったら、どう思うだろう。 歓迎する…

  • Cancan spitzと呼ばないで ⑥

    第六章 『ブラッディ・イヤリング』再び 意外とユルい工程表のお蔭で、さっさと仕事を進めろと急かされるでもなく、オレたちのOJTはゆったりと続いていた。 今日は本社勤務とかで堂本の姿はなく、椎名さんも業務課の方へ行ったきり。自然とやる気がなくなる。 傍らの成海が欠伸をこらえたような顔をする。こいつもかなり気を抜いているな。 送別会での来宮さんとの一件を目撃して以来、オレはついつい成海の動向をチェックするようになっていた。だが、職場では相変わらず無表情のスカした野郎で、あの時見せた情熱的な態度が嘘のようだった。 そうだ、以前に露土美咲が口走ったセリフ── 『あら、おとなしそうとか、物静かなタイプっ…

  • Cancan spitzと呼ばないで ⑤

    第五章 無責任な噂話inナポリの酒房 堂本の心配は無用のものになった。 鳳凰の間に戻って五分と経たないうちに、どうやって成海を説得したのかわからないが、来宮さんが戻ってきたのが見えた。 それはいいけど、たちまちお偉方に取り囲まれる来宮さん。オッサンの包囲網なんてイヤだよな。 一方の成海はと見れば、心なしか目が赤い。傲慢不遜で感情を表に出さない、あの成海基が泣いていたというのか。見ているこっちまで胸が痛くなる。 やがて宴席がお開きとなった。 「皆さん、ありがとうございました」 自分の送別会とあって、気遣いの人・来宮さんは周囲の人々にペコペコしていたが、やがてお偉方のオッサンたちに連れ去られてしま…

  • Cancan spitzと呼ばないで ④

    第四章 心の揺らぎ 次の瞬間、いきなり掌で口を塞がれて心臓が止まったかと思うほど驚いた。 まるで油が切れたゼンマイのおもちゃのような、いかにもぎこちない動きでこわごわ後ろを振り返ると、ニヤニヤ笑いを浮かべた堂本がもう片方の手を唇に当てて「静かに」のポーズをとっていた。 にゃろう、脅かしやがって! 怒りを目に含んだオレの反応など無視、堂本は退去せよと合図すると、そのままの格好で後退りを始めた。 音をたてないように、オレたちは細心の注意を払いながら階段までたどり着くと、脱いだ靴を手に提げて三階まで下りた。さすがにここまでくれば大丈夫だろう。 「……ぷはー」 息まで止めていたせいか、堂本は海面に浮上…

  • Cancan spitzと呼ばないで ③

    第三章 キノコちゃんの秘密 送別会兼歓迎会の日。 ただし、来宮さんの場合、本社に栄転するという理由からか、送別会というよりは祝賀会の意味合いが強いので、今回の催しは各開発部単位のささやかなイベントではなく、全社挙げての行事になるらしい。 よって、社長などのお偉方を始めとした全社員が集結。ふだんは披露宴などに使われるホテルの宴会場で行うが、それでも手狭なのか、立食パーティー形式とのこと。 開始時刻は午後六時になっているが、配属されて間もない新入社員はもちろん五時半にさっさと定時退社。 会社から歩いていける距離とあって、オレは不破たちと街ブラしながら、ゆっくりと会場に向かった。 この四人で飲みに行…

  • Cancan spitzと呼ばないで ②

    第二章 同僚の美少年 異動は移動とは違う。 人の場合、こちらからそちらへ物を動かすように、ホイホイと移れるものではない。 本社のプリンタ部統括所属と紹介された堂本だが、これまで向こうで担当していた業務と調整をつけながら──なかなかやっかいな仕事で、簡単には終わらないらしい──引き継ぎを行なうらしく、今日の午前中は川崎市中原区にある本社へ出勤。 ゆえに、南武線乗り換えのため、痴漢オヤジと同じ武蔵小杉で下車したと思われる。それから、午後こちらに来るというスケジュールだったようだ。 今朝の痴漢騒動に関して今のところ、堂本の態度はその件に触れるどころか、まったくの知らん顔だった。 被害者が若い女だった…

  • Cancan spitzと呼ばないで ①

    第一章 おとぼけイケメン参上 あれ、まただ。さっきからもそもそしているコレは何なんだ? 山手線からはるばると、東急東横線を乗り継いで、通勤通学ラッシュのこの時間。満員御礼の車内にて、腰の辺りに奇妙な感触をおぼえたオレはあまりの居心地の悪さに、何とか身体を動かそうとした。 ところが、ガタンゴトンと揺れる車内でも、他人同士のスクラムはビクともせず、ガッチリ阻まれてどうにもならない。 蟻の這い出る隙間もないと形容されるこの状態では自分の腕や足を見ることすら困難を伴う。ましてや、我が臀部がどのような窮地に陥っているかなんて、見えるわけがない。 もそもそを通り越して今はもぞもぞ状態に突入。やっぱり痴漢だ…

  • Cancan spitzと呼ばないで 解説

    ㈱システムソリューションズを舞台にした作品、三作目(オリジナルBL小説としては十五作目)は『Cancan spitzと呼ばないで』です。前作『Mush~』で登場した新入社員の不破隆・興和義光と共に「お酒大好き四人組」と呼ばれていたうちの一人、村越浩希が主人公で、新人研修終了後の彼が椎名英と同じ第三開発課第一グループに配属されたところからストーリーが始まります。 前作、前々作の解説はこちら☟ xifuren2020.hatenablog.jp xifuren2020.hatenablog.jp グループサブリーダーの英の部下となったのは浩希の他に、前作・来宮高貴のお相手、成海基。さらに、高貴の親…

  • Mushroom boyに囚われて ⑩(最終章)※18禁その2🔞

    第十章 二人の鎌倉 到着のアナウンスの声に促された乗客はめいめいに、開いたドアの向こうへと足を踏み出した。わずかに傾き始めた太陽はホームの上に落ちた影を長く伸ばし、心なしかゆらゆらと歪めてみせる。 最後に降り立った僕は小さくなる列車の後姿を見送った。人々は改札口へと急ぎ足で向かい、ホームに残る人影は既になく、懐かしい景色を右から左へと眺める。 ここで僕は電車を待っていた。 独り善がりの失恋旅行だった。 後ろから彼が声をかけてきた。 差し出された暗記カード、今よりもずっとあどけなさの残る笑顔。 五年前の蒸し暑い夏の日──それが僕と風祭蓮の、そして成海基との出会い── 爽やかな風がホームを吹き抜け…

  • Mushroom boyに囚われて ⑨

    第九章 行方知れずの想い 軽度の頭部打撲と損傷だが、僕が意識を取り戻すまでに丸一日かかった。 そのあとMRIだ何だと、しつこいぐらいに検査を受けたがどこにも異常はなく、この程度の怪我で済んだのは幸運だったと医師に言われた。 一瞬の出来事をよくおぼえてはいない。そんなに大変な事態だったのかと実感が湧かないまま、ぼんやりとベッドの上にいる日々が続いた。 白い壁、ブルーのカーテンが微かにそよぐ飾り気のない部屋に消毒液の臭いが漂う。透明なボトルに繋がれた掌を動かすと小さな痛みが走った。 「もうすぐ母の日なのに、お母さんを心配させちゃったわね」 森下さんが飾った花瓶のカーネーションの赤が目に沁みる。彼女…

  • Mushroom boyに囚われて ⑧

    第八章 ボクノキノコニチカヅクナ どんよりとした空は心を映す鏡のようで、目にする度に気が重くなるが、歩みを止めるわけにはいかない。 これで出勤しなければ彼の仕打ちに負けたことになる。有休なんてもってのほかだ、意地でも負けたくない。 昨夜の忌まわしい出来事を自分の中に封じ込めて出社すると、僕の顔を見た富山さんは心配そうに訊いた。 「顔色が悪いぞ、風邪でもひいたか?」 「い、いえ、別に」 「まるっきり病人じゃないか。だから無理して残業しなくてもいいって言っただろ」 「大丈夫ですよ」 「いや、ダメだ。今日の講義はオレがやる。せっかく残業までして予習したのに、って気持ちはわかるけど、そんな様子じゃとて…

  • Mushroom boyに囚われて ⑦ ※18禁その1🔞

    第七章 残酷な秘め事 壁に掛けられた時計の針はもうすぐ午後七時を指そうとしている。人気のなくなった大会議室はがらんとして、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。 彼らが肩を並べ、前を見つめ、耳を傾けていた場所、そこにはもちろん誰もいない。長机が蛍光灯を反射して鈍く光るだけだ。 教壇とされる位置には大画面、とまではいかない中型のテレビと、それに接続されたDVDプレイヤー、その横で僕はプレイヤーを操作していた。少しでもマシな講義にするためのプログラマー研修用DVDの予習だ。 ピンポンパンポーン。 『ここで、ストップボタンを、押して、ください』 やたらと調子のいい奇妙な音楽と、柔らかい、それ…

  • Mushroom boyに囚われて ⑥

    第六章 合コン騒動 新入社員教育が行なわれている六階の大会議室。 そこにいわば『軟禁状態』になっている新入社員たちが階下へ下りる機会は稀であり、一部のお調子者が業務課の講師たちの元へ御機嫌伺いに訪れる程度だ。 社員食堂はないので昼食は弁当を持参するか、外へランチを食べに行くことになるのだが、その際も階段やエレベーターで直接下りるので、他の社員と接する機会はない。 先輩社員たちとしては教育担当者に聞き込みをするしか、新人に関する情報を得る方法はないが、今年入社した飛び切りの美人、人気モデルにそっくりだと評判の露土美咲に関しての問い合わせは入社直後から最も多く、同期から先輩・後輩に至るまで、あらゆ…

  • Mushroom boyに囚われて ⑤

    第五章 病みを抱いた者 定時後の業務課デスクにて、 「課長、折り入ってお話があるのですが……」 そう持ちかけると、大塚課長はどうしたのかと心配そうに訊いた。 「この前、僕に本社異動の打診があったと武田課長から聞きましたけど」 「藪から棒だな。詳しいことはわからないが、話があったのは知っているよ」 「じゃあ、御存知なんですね」 「教育担当を辞めたい」──と、本心を言えるはずもない。 それを言ってしまったら、何が問題なのかと追及されるだろうが、とても口にできる内容ではないし、嘘の原因を捏造するほど器用でもない。 本社の仕事がしたいという、自分の将来の展望を理由にした方があれこれ詮索されずに済むから…

  • Mushroom boyに囚われて ④

    第四章 その名は『風祭蓮』 呆けている僕をよそに、異様に盛り上がっている宴席は昔観たテレビ番組、それも特撮ヒーロー物の話題で持ち切りだった。 「オレの時代だと、特撮といえば『ミラクルマン』だな。あれはあの当時、最高傑作の呼び声が高くて……」 一席打とうとする富山さんに、新人たちのブーイングが炸裂する。 「ふっるぅ~。『ミラクルマン』なんて、オレたちが生まれる前じゃないですかぁ」 「ウソだ! オレはまだ二十八だぞ~」 富山さんがそう喚くと、あとの四人が反撃を開始した。 「じゃあ、『仮面クラッシャー』知ってますか? オレらのヒーローって言ったら、あの番組だったんですから」 知らないと答えて富山さん…

  • Mushroom boyに囚われて ③

    第三章 他人の空似 会場である厚生年金会館内の会議室に集まったのは男女合わせて十五名。まさに老若男女──老まではいかないが──様々な職種に様々な年齢の人がいて、僕は期せずして名刺交換のシミュレーションの成果を試すことになった。 そこに講師として登場したのは年齢五十前後と見られる上品な女性で、短く刈った髪にきっちりとしたスーツ姿が印象的な早坂寿々江(はやさか すずえ)先生はさっそくカリキュラムを説明し、集まった生徒たちに自己紹介をさせながら、人前での話し方のノウハウを伝授し始めた。 その建物内に宿泊しての、一泊二日の時間は大変有意義で、二日目の午後三時に講師の最後の挨拶が終わると、皆が彼女に握手…

  • Mushroom boyに囚われて ②

    第二章 キノコ先輩の屈辱 僕が入社した頃は八十名程度だったこの会社も、今年度は従業員数百二十名を超えることがわかり、建物が手狭になるとして、今まで使っていた四階建てビルを売却。その場所から百メートルほど南にある六階建てのビルを手に入れ、昨年末に引越しを終えた。 新しいビルの内装はクリーム色の壁、床にコバルトブルーの絨毯が敷かれ、大きな窓には自動で開閉できるブラインドを設置。フロアの各所に置かれた緑鮮やかな観葉植物が快適な職場を演出している。 六階フロアの内訳は大と中の会議室がそれぞれひとつ、小会議室が三つ。 このうち、昨日入社式が行われた大会議室はそのまま、五月いっぱいまで新入社員研修に使用さ…

  • Mushroom boyに囚われて ①

    第一章 古都で出会った少年 五年前の、それは蒸し暑い夏の日だった。 当時、神奈川県内の工業大学に在学していた僕は『失恋を癒すための日帰り独り旅』と称して鎌倉巡りをしていた。 失恋が鎌倉と結びつくあたりが若い男の発想らしくないが、僕はそういう地味な性分で、そこらは五年経った今でも変わっていない。 若い世代が年々早熟になっていく時代に、二十歳になっても恋愛経験は一切なし、もちろん童貞。 そんな僕の恋のお相手はサークル活動で知り合った短大生で、決して美人ではない、目立たないタイプの人だったが、それでも僕にとっては高嶺の花で、積極的なアプローチを試みるなんて、と思っていた。 だからといって、このまま終…

  • Mushroom boyに囚われて 解説

    今回より公開の十四作目『Mushroom boyに囚われて』は主人公を代えた前作の続編「のようなもの」です。前作の解説はこちら☟ xifuren2020.hatenablog.jp 前作では㈱システムソリューションズの新人プログラマー・椎名英が主人公で、彼の新入社員としての奮闘ぶりと恋模様を描きました。今作の舞台は同じ会社ですが、時は流れて三年後、英は前作の登場人物・吾妻穣二の立場である、グループサブリーダーに昇進しています。で、英とは同期入社で第一開発部に勤務していた来宮高貴が今作の主人公。社内で行われる新入社員教育に携わった高貴と、新入社員たちとの関わりを描いていきます。英の他には総務の森…

  • Holy nightを御一緒に ⑩(最終章)※18禁その2🔞

    第十章 聖なる夜に…… いつの間に積もっていたのか、入り口の隅にあった雪の塊に目をやったオレはそれが雪ではなく、花束だということに気づいた。真っ白なカスミ草の花束が白いリボンに包まれている。 どうしてこんなところに……? 紺碧の空から舞い落ちる雪は街を白一色の世界に変え、階下を見下ろすとアスファルトも白く、車の屋根にも雪、その傍に佇むコート姿がこちらを見上げて微笑んでいた。 「何とか間に合ったようだね。いくら高速道路とはいえ、こんなにスピードを出して走ったのは初めてだよ。雪は降ってくるし、なかなか無謀だったな」 花束を両手で抱えたオレがゆっくりと近づくと、彼もこちらに歩み寄り、白い花に視線を投…

  • Holy nightを御一緒に ⑨

    第九章 独りきりのクリスマス・イヴ 第二マシン室での結合テストが開始された。 久しぶりに会った吾妻さんは上機嫌で、派手なピンクのワイシャツの袖を捲り上げると、「よっしゃ、実機はどれだ?」と声を張り上げたため、その場にいた他の部署の人々がいっせいに振り返り、オレと山之内さんは小さくなっていた。穴があったら入りたい気分だ。 初日とあって、ハードの担当者たちも立会い、いよいよテスト開始。パソコンをファイリングシステムの本体に見立てて、そこからプリンタへのデータを流し、どのように出力されるかを試す。見本と同じように印刷されたものが出てくれば成功だが、一発で上手くいく例はまずないし、案の定、障害が出てエ…

  • Holy nightを御一緒に ⑧

    第八章 カスミ草の想い 本社のハード担当者との打ち合わせの日になった。 その前日に出社してきた吾妻さんはいくらか吹っ切れたようで、以前と変わらない様子で仕事を進め、打ち合わせの準備を済ませた。 田辺さんと吾妻さん、山之内さん、オレの四人は午後一番に会社を出発、電車を乗り継ぐと最寄りの武蔵中原駅で下車し、徒歩で五分とかからないFBLの正門前へ到着したが、オレのマンションから直線距離にすると案外近い。こっちで勤務した方が楽だと思った。 ここはFBLのオフィスビルの他に製造工場が隣接しており、その工場の隅に設けられた建物がハードウェアを研究、開発する部門の場所だ。 「わあ、結構広い所ですね」 きょろ…

  • Holy nightを御一緒に ⑦

    第七章 男と男のラブ・ゲーム 「椎名、ちょっといいか?」 「は、はい」 勤務中にいきなり呼ばれ、慌ててそちらに向かったオレが傍らに立つと、吾妻さんはチラリと見上げ、自分の机の上に広げた紙を見せながら説明を始めた。 「本社のハード屋の一覧だ。昨日の会議で紹介があってな」 ファイリングシステムのハード部分、つまり機械の本体そのものを組み立てたり、中身の動作を確認したりする作業は親会社のハード部門で行う。こちらのプログラムを動かすにあたっては連携し、協力し合わなければならない人たちの集合体だ。 「再来週あたりに連中との打ち合わせが入るから、そのつもりでいろ」 禁煙パイプをくわえたその顔が心なしか、ひ…

  • Holy nightを御一緒に ⑥

    第六章 ブラッディ・イヤリング それから三十分後、オレの部屋にやって来た伊織に缶ビールを勧めて、オレたちは再会の祝い酒を酌み交わした。 卒業後のよもやま話というやつをひとしきり続けたあと、アルコールのお蔭で舌の滑りが良くなってきたオレは彼の恋愛関係を突っ込んでみた。 「なあ、彼女いるのか? オレの方は全然ダメ、毎度フラれっぱなしで……おまえさ、大学で男にモテてたけど……」 「今でも男相手だよ」 あっさりと言ってのける伊織に、一気に酔いが醒めた。 「あの頃からずっとマジゲイだけど、今はそれで商売してる」 「しょっ、商売って」 「ボク、身体売ってるんだ」 これぞまさにショーゲキの告白、オレは腰が砕…

  • Holy nightを御一緒に ⑤

    第五章 思わぬ再会 「ここに六時半でいいんだよな……」 横浜駅改札付近の円柱の前に立ったオレはさっきから何度も時計を気にしては、辺りを見回した。 あれから二週間近く経ち、ようやく実現した今夜のイベントに、はやる気持ちが抑えきれない。 オレは次にケータイを取り出し、液晶画面に表示される時刻を見たり、着信やメールが届いてないかを確認したりと、そわそわしながら二人を待っていた。 平日に予定を入れるのは無理だという結論が出て、今日は土曜日。夕方まで部屋で過ごしたオレはまるでデートにでも出掛けるようにいそいそと支度をしてここまで出向いたが、初夏とはいえ、この時刻になると肌寒い。 ジーンズに長袖の赤いTシ…

  • Holy nightを御一緒に ④

    第四章 凄腕のゲイ 「うっげぇ~、気分最悪」 週明けの月曜日の朝、最寄り駅までの道程を歩くオレの足取りは重かった。 会社で吾妻さんと顔を合わせるのはさすがに気恥ずかしいが、あれは事故だったと割り切るしかない。彼とはこの先しばらくは一緒のグループ、気にしていたら仕事にならないっての。 三階オフィスのドアを開けると、室内は普段通り、キーを打つカタカタ音が響くだけの静けさで、いくらか安堵したオレは朝の挨拶をして席に着いた。 だが、その場に漂う雰囲気はいつもと違う。それを感じ取って目を上げると、藤沢さんが物凄い目つきでこちらを睨んでいた。 なぜ彼女に睨まれているのかわからず、助けを求めるように、辺りに…

  • Holy nightを御一緒に ③ ※18禁その1🔞

    第三章 身代わり夜伽 ここは……なんだ、オレの部屋か。 ベッドサイドに灯る小さなライトだけを頼りに、オレはゆっくりと、右から左へ重い頭を動かしてみた。 あれからどうやってマンションまで無事にたどり着いたのかおぼえていないが、こうして自分のベッドで寝ていたことからして、帰巣本能とはたいしたものだ…… などと、感心したのもつかの間、ガバッと上半身を起こして思わず大声を出した。 「……って、違う! ここ、どこだよ?」 「うるせえな、何騒いでるんだ」 暗闇からふいに聞こえた声の主は向こう側のソファで仮眠をとっていたらしいのだが、それは紛れもない吾妻さんだった。 しばし絶句するオレにニヤリと笑いかけた彼…

  • Holy nightを御一緒に ②

    第二章 歓迎会as合コン この会社には社員食堂がないため、昼食は弁当持参か、近くの店でランチタイムということになる。 持参したマグカップに緑茶を入れ、自分の席でコンビニの弁当を広げていると、榎並さんが声を掛けてきた。 「隣、いいかな?」 いつもは吾妻さんと連れ立って外へ出かける彼が珍しくレジ袋を提げているのを見て、オレは首を傾げた。 「ええ、かまいませんけど。吾妻さんはいいんですか?」 「ちょっとヤボ用だって」 ヤボ用って何なんだ? モテ男の吾妻さんのことだから、また女絡みかもしれないな。 榎並さんはオレの隣の空席に座ると、袋からサンドイッチとペットボトル、それに雑誌のようなものを取り出した。…

  • Holy nightを御一緒に ①

    第一章 新入社員の受難 入社して二ヶ月、配属になって一週間。環境に慣れてくるのと比例して疲れが出たのか、出社早々、大欠伸をしたオレに吾妻さんの雷が落ちた。 「こら、椎名。何だ、そのダレた態度は」 「あ、す、すいません」 首をすくめて恐縮のポーズをとる。 彼は腕組みをして「緊張感が足らん。近頃の新人はこれだから」と、若者のモラルの低下を嘆くご老体のような調子で苦言を呈してくれた。 「はあ……」 「いつまでも学生気分が抜けないらしいな。子供っぽいのは見た目だけにして欲しいものだが」 周囲の失笑にますます身を縮めるオレ、もう、みんなしてそんなに笑わなくてもいいじゃないか。たしかにパッと見は大学生、い…

  • Holy nightを御一緒に 解説

    既存のオリジナルBL小説公開もとうとう十三作目、残すところ四作となりました。過去にγ社の新人賞応募で準入選(自作最高位)となった作品は現在、BL小説サイトに応募作として出しておりますので、今すぐこちらでの公開は出来ないため、正確には三作です。 コロッケインスパイアの作品はあまりにもお粗末なので、とてもそのまま公開するのは無理、かといってどこから手直ししていいのかもわからない。また、爆ベイパラレルのS-Ver.も手付かずのまま。この二作が完成すればプラス2で残り六作なんだが、今からの三作を公開している間に仕上げる自信がない……イチからの新作も企画していないし、どーすんだ、ブログ終了の危機。 さて…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ⑧(最終章)※18禁

    第八章 青いポインセチアの花言葉 翌朝、カーテンを開けると灰色の雲が空一面を覆っているのが見えた。 自転車に乗った騎士のお迎えはなく、私は松葉杖をついてタクシーで出勤した。 うんざりするような鬱陶しさは天気だけではない、私の心の中にも暗雲が広がって、校舎へ向かうのも億劫になり、足取りが重くなる。 二限の遺伝学では椅子に座ったままの講義に対する断りを学生たちに入れたあと、席をざっと見渡した。 結城の姿がどこにもない。四月以来、無遅刻無欠席だったのに、ついにサボッたか。 たった一人の学生の欠席など、この際気にしている場合ではない、と先週の続きから始めたものの、やはりどこか上の空だったらしい。一番前…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ⑦

    第七章 女王陛下の騎士 日曜日・丸一日を部屋に引きこもって過ごした私はどんよりと沈んだ気持ちのまま、月曜の朝を迎えた。 いつもより一時間以上早く目が覚めたため、植物たちに声をかけながら水をやる。オタクっぽい所業だと笑われるだろうか。 「おはよう、ピレア。調子はどうだい」 「フィットニア、いい葉が出てきたね」 「パンダナス……」 面白い名前だと笑顔を向けた彼を思い出すと、胸が痛んだ。 結城からの告白を受け、私も彼が好きだと自覚した。ならば二人はハッピーエンドとなるはずなのに、どうしてこんなにも関係がギクシャクするのだろうか。 二人の年齢差にそれぞれの立場と歩んできた過去、三田の存在、尚彦の出現、…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ⑥

    第六章 皮肉な再会 週末の横浜駅はかなりの賑わいで、列車の車両から吐き出された人々が階段に押し寄せる有様はさながら津波、人波とはよく言ったものである。慣れない松葉杖をついた私は転ばないように注意しながら歩くものの、到着までにすっかり疲れてしまい、これなら自宅で寿司の方がどんなに楽だったかと恨めしく思った。 普段よりは移動時間がかかると見越して早めに出発したため、予定の七時より三十分近くも早く到着したが、もっとせっかちな者がいた。比丘田と、話の成り行きから幹事にされた松下だ。私の姿に気づいた比丘田が頭を下げた。 「羽鳥先生、お久しぶりです。その節はお見舞い、ありがとうございました」 「やあ、思っ…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ⑤

    第五章 パンダと茄子とクリスマス 翌朝、再検査を終えてしばらくすると、退院のお許しが出た。何ともない、至って元気だから退院させてくれとゴリ押しした成果である。 さっさと職場復帰しなければ、学生たちに迷惑がかかる──なんて、休講になった方が彼らは喜ぶだろうが。 ベッドの周りを片づけていると、結城がひょっこりとやって来た。絆創膏を剥がした痕が紫色になっていて痛々しい。 「先生が退院するって連絡を貰ったんで、急いで飛んで来ました」 緊急連絡先と称して、自分の携帯電話の番号をナースステーションに告げていたらしいが、そのちゃっかりぶりに呆れるやら嬉しいやら。 「もっとかかると思ってたけど、こんなに早く退…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ④

    第四章 嫉妬と不覚 女よりも男の方が断然、嫉妬深いという説を聞いたことがあるけれど、ここまでしみじみと、また切実に感じるとは思ってもみなかった。 ここの学生会館の一階は食堂、二階のフロアは半分が学生協で、あとの半分は学生たちが自由に使える会議室に和室など。三階から五階までが各サークルの部室という造りになっている。 文房具を買い求めるため学生協に出向いた私が買い物を終え、廊下に出て階段へ向かおうとしたところ、会議室のドアから吐き出された学生の一団に出くわした。 派手な服装に流行のヘアスタイルが自慢げな、この大学の学生にしてはノリの軽そうな連中で、徒党を組んでは「マジ~ッ?」「めっちゃキモイ」「そ…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ③

    第三章 天敵現る 三田洋と名乗る学生の訪問を受けたのは翌日のことだった。 講義も何もない、比較的楽なスケジュールなので、今のうちに実験のデータをパソコンに入力しておこうと思い立ち、ディスプレイとにらめっこをしていたところ、廊下側のドアをノックする音が聞こえてきた。 付け加えておくが、この執務室は実験室と連絡しているドアの他にも、廊下から直接出入りするためのドアがある。訪問者は実験室経由ではなく、じかに私を訪ねてきたのだった。 「羽鳥先生、いらっしゃいますか」 「はい、どうぞ」 返事をすると、開かれた扉の向こうに立っていたのは見覚えのない、痩せぎすの小柄な学生だったが、それにつけてもかなりの美少…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ②

    第二章 賭けの対象? 大学の学習制度を支配しているのは単位という考え方である。年間を通して受講する履修科目のうち、この科目は何単位と定められ、ジャンル毎に設定してある幾つかの科目の中から、決められた単位数を決められた期間で取得しなければならない。 その者に単位を与えるか否かは期末のテストや提出物、日頃の授業態度に対する評価であり、卒業までに取得できなかった者が留年という形になるわけだ。 履修科目には必須科目と選択科目があり、その内訳は各大学、学部や学科によって異なるが、理工学部の場合、研究室に所属した上で取得するのは全て必須科目──文献調査と、卒論の呼び名でお馴染みの卒業論文である。 卒論は四…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 ①

    第一章 堅物教授vsドン・ファン学生 「先生、ねえ、羽鳥先生ってば」 二時限目の講義を終えて教室から出ようとすると、背後からやかましく話しかける声が耳をつんざいた。 「今からメシでしょ、学食行くんでしょ、お供しますよ」 白衣を翻して振り返り、銀縁のメガネを通して見ると、果たしてそこには屈託のない笑顔を向ける男が立っていた。ウチの研究室の三回生、結城大(ゆうき まさる)だ。 私が勤める神明大学といえば、数ある私立の総合大学の中でも歴史が古く、多くの優秀な人材を輩出していることで有名である。 学部が多ければ学生の数もそれなりに多く、三つあるキャンパスのうち、都内の二つは文系の学部を、神奈川県川崎市…

  • プロフェッサーHと学ぶBLの法則 解説

    十二作目のタイトルは『プロフェッサーHと学ぶBLの法則』、先にBL投稿サイト「ポケットBLノベルクラブ」で公開した作品です。当サイトでは初のランキング1位を記録しました。三日天下で終わりそうだけどな。舞台は大学の研究室で❽『バンカラらぷそでぃ』とは大学名こそ違いますが、どちらもモデルは自分の母校だったりします(笑)。いや、ほかの大学の様子とか内情ってわかんないしさ…… 今作は大学の美形ツンデレ教授とイケメンチャラ男学生という、年下攻かつ歳の差CPでして、ワシの作品は同世代CPが多いから、どちらかといえば珍しい組み合わせですかね。十三年前、β社の新人賞に応募した結果はAクラスでした。 教授がイメ…

  • 純情一直線 ⑫(最終章)※18禁その2🔞

    第十二章 小次郎破れたり 悲痛に落胆、あきらめといった感情に浸りながら、突っ立ったままでぼんやりとしていると、 「あれ、どうしてここに?」 近づいてくる足音にも気づかず、心の準備がまったくできていなかった僕は背後からの声に心臓が止まるほど驚いた。 小次郎が立っている。右腕にはエコバッグがぶら下がっていた。途中で買い物をしてきたようだ。そうか、それで僕より到着が遅くなったんだ。 「ちょ、ちょっと言い忘れたことがあって。大した用件じゃないけど」 大した用件じゃない、なんて、そんなのメールで済ませればいいと思われるんじゃないのか。 自分で自分のヘタな言い訳にツッ込みを入れるが、小次郎は「そうか」とだ…

  • 純情一直線 ⑪

    第十一章 一本勝負だ! 迎えた栄光学園との練習試合の日。僕たちBチームは栄光のA、B両チームともあっさりと倒し、残るは同じく栄光に圧勝した加賀美先輩たちのAチームとの対決のみになった。 試合前、僕の傍にやってきた小次郎はこの試合に限り、先鋒と大将を交替して欲しいと頼んできた。 「えっ? なんでまた」 訝る僕に、彼は真剣な目を向けた。 「加賀美部長と勝負したい。納得がいくように、俺の中でケリをつけたいからよ」 「それって……」 返す言葉を失う。 近寄り難いなどと思わず、さっさと誤解をとけばよかったのに。 事件後のゴタゴタのせいで、などという弁解は通用しない。我ながら対応の鈍さに呆れるが、切り出す…

  • 純情一直線 ⑩

    第十章 一件落着? ゆっくりおやすみ、なんて悠長なことを言ってる場合ではなかった。翌日は木曜日で、もちろん登校する日。 すっかり寝坊した僕たちは朝の挨拶もそこそこに朝食をかっ込み、ドタバタと駅へ向かった。 小次郎のズボンは母が洗って乾かしておいてくれたけど、破れたワイシャツを着るわけにはいかないので僕のものを貸したら、袖が短くて『つんつるてん』に。 それでも小次郎は上機嫌で、母たちに向かって「お世話になりました」を連呼、電車の中でも僕に、悪かったなとか、遠慮がちなセリフを述べた。 「御礼を言うのは僕の方だよ。それより傷の具合はどう?」 「平気、平気。もう、へっちゃらってやつだからよ」 いつもと…

  • 純情一直線 ⑨

    第九章 闇討ちか! その日を境に、加賀美先輩は遠回しなアプローチをするようになった。 いきなり親しげにして、僕の機嫌を損ねては逆効果だと考えた結果だろうけど、足の裏を掻くのに、靴底を掻いているような感じでもどかしい。 反対に小次郎は僕に近づかなくなった。部活中は必要最小限なことしか話さないし、校舎の廊下で会っても無言で通り過ぎるだけ。 会えば祖父の話やら道場の様子、その他いろいろな話題を持ち出していた、あれだけおしゃべりな男がいったいどうしてしまったのか。もしかして…… 彼は僕を好きだと認めた。けれども、男同士という不毛で未来のない関係に、これ以上のめり込みたくないと思い、僕を避けているのかも…

  • 純情一直線 ⑧

    第八章 恋わずらい 月曜早々、今度の試合のチーム編成が練習開始前に発表された。 高等部のAチームは先鋒と副将が三年、次鋒と中堅が二年生で、たいていの場合、いちばん強い人を配置するという大将は予想どおり加賀美先輩だった。ヘボの真辺は補欠にも入っていない。ざまあみろ。 対するBチーム、小次郎が先鋒というのはあの強烈なキャラをもって初っ端から相手を威嚇するという意味合いがあるのだろう。大将すなわちトリを務めるのはもちろんこの僕で、Aチームとあたった時は加賀美先輩と戦うことになる。絶対に負けてなるものかとファイトが湧いてきた。 そう、僕を惨めな思いにさせた人に一矢を報いてやる……って、今はそれほど惨め…

  • 純情一直線 ⑦ ※18禁その1🔞

    第七章 小次郎の部屋で 周囲に注意を払った僕は街はずれにケーキ屋さんを発見、ちょっと買い物してくると言い、店内に入るとケーキを二つ、それからクッキーの袋詰めを買った。 「お待たせ。せっかくだから、部屋でコーヒーか紅茶でも御馳走してもらおうかなって。いいかな?」 手土産持参作戦、これでアパート訪問は断りづらくなると踏んだ。 「い、いいけど、汚ねえとこだぜ」 運命に感謝発言以降、おたおたと落ち着かない素振りを続けていた小次郎は僕から視線をはずすと、いくらか足早になった。 小次郎の住む二階建てのアパートは本人も汚ねえと証言したとおり、お世辞にもキレイとはいえない、古びたボロい建物で、ウチの学校が手配…

  • 純情一直線 ⑥

    第六章 正義の味方 翌週金曜日の放課後、先生たちの研修の都合で部活動はまたしても全面休止、常聖学園生は一斉下校となった。 僕もさっそく東横線に乗ったはいいが、よく見ると鈍行だった。帰る時間がふだんより早いのに、いつもの電車に乗ったつもりでいたらしいけど、まあ、いいかと思いながら辺りを見回す。 この時間帯、通勤の帰宅ラッシュにはまだまだなのに、思いの他混み合っている。僕たち高校生以外にも、バイトに向かう大学生やら、街で買い物を終えた主婦などがけっこう乗り込んでいるせいだ。 派手な色使いで目を引く週刊誌の車内広告に「欲望に溺れて」の一文を見つけた僕はいつぞやの部会のあとに、加賀美先輩が漏らした言葉…

  • 純情一直線 ⑤

    第五章 横浜ラブラブ?デート 明日の土曜日は高等部三年にとって、新学期初めての統一模試とかで、部活動は休止だと顧問の先生が告げ、この週末は思いがけずオフになった。 「何だ、部活ナシかよ」 小次郎の呟きを聞き咎めた僕が「休みが嬉しくないの?」と訊くと、彼はわざとらしく落胆のポーズを作ってみせた。 「あの部屋でボケッとしてると虚しくなるからよ。成績ヤベェけど、勉強する気にもなんねーし。おまえんとこのジイさんに、稽古つけてもらいに行こうかな。今度つけてくれるって言ってたしさ」 「えー、やめておいた方がいいよ。絶対後悔するって。それより……」 僕は今、思いついた企画を口にした。 「横浜を案内してあげよ…

  • 純情一直線 ④

    第四章 頑固ジシイと御対面 翌日、練習を始める前に、新学期初めての部会が武道館の一角で催された。 仮入部となっていた新入部員たちのうち、正式に入部した者に関して顧問の先生から改めて紹介があり、続いて今月の終わりに行われる他校との練習試合について、部長が説明を始めた。 「今回は川崎市の栄光学院中等部及び高等部との練習試合です。この学校は我が校と同じく中・高一貫教育の私立校で、校風もよく似ています。中等部と高等部それぞれにA、Bの二チームを組んで、リーグ戦の方式で対戦するということで話がまとまりました」 ざわめく部員たちを見回したあと、加賀美先輩は「では、これから先生と相談して、来週の初めにチーム…

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