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創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
祐樹だって救急救命室では怒鳴ることもある。手際が悪いとか、優先順位を間違った医師に対してだが。しかし、その怒鳴るという感情には明確な理由がある。それは、救急救命室の鬼とも天使とも呼ばれている杉田師長も同様だ。彼女の場合は言葉がキツく感じられるが、患者さ
二人は「アルコールは外で呑むもの」と決めていた。久米先生や清水研修医といった若手が育っていない頃、「救急救命室の法律だ」と言い張る杉田師長の呼び出しに備え、自宅で寛いでいる時でさえ呑まない習慣が常態化していた。その名残りだ。いくらアルコールに強い祐樹と
「全く痛くはないですよ。安心してください」 森技官は優しい春風のような眼差しを浮かべ、薄い唇がまずは微かに弛んだ。恋人の謝罪に応えるように、春の陽だまりのようなぬくもりを宿したかと思えば、すぐにその弧は冷たい硝子のような輪郭に変わった。すべてが彼の描いた
最愛の人は記憶力こそ祐樹が知っている中で最も優れた人だが、総合したり想像したりする能力は祐樹が勝っている。そのことを知った上での最愛の人の笑みだろう。「遊郭に売られるのは、年端もいかない子供だったのですよね。今の私なら、親に捨てられても『だったらこっち
「呉先生、貴方は精神科医としての矜持がないのでしょうか?」 最愛の人は、名工が丹精込めて作り上げた氷の彫像のようだった。吐く息すら冷たい気がした。「はい。その通りです。物理的な力ではなくて、言葉を行使すべきでした。とても反省しています」 呉先生は、春の陽
…しかし、祐樹がコンビニ袋で作った即席氷嚢は、すでにその使命を終えかけて、中の氷が解けて水となって森技官の頭上にクラゲのようにぐにゃりとへばりついていた。また、頬の冷えピタは絶妙に曲がってしまっていて不機嫌な青いフジツボが一匹、そこに引っ付いているよう
浜田教授は外(と)様(ざま)、つまりウチの大学病院以外の出身の先生を指す歴史用語由来の言葉だが、他の大学でも使われているのだろうか?それともやけにウチの病院に詳しい森技官が病院のスラングを使ってくれているのかもしれない。 とにかく立て板に水といった感じで説
「――実のところ、かの准教授の『日本に奴隷がいた』という主張が真実として浸透してしまい、日本が『非人道的な国だった』と非難を受け、国連人権委員会が動きかねないと危惧していました」 スマホの画面に表示されたYouTubeの再生をタップする前に、頭の中で封印
「真殿教授のイエスマンばかりということは『精神科はパターナリズムで運営すべき』と考えている医師だと考えるのが妥当です。医局員は教授の影響を受けやすく、その思想や態度に染まりやすい傾向があります。現に、香川外科の医局員は全員、赫赫たる手技をお持ちの教授に尊
「それは凄いね!いや青年が生まれ変わった記念日だ!乾杯と行こうじゃないか」 杉田弁護士が飄々とした表情で言っている。ただ、これは何事にも動じない杉田弁護士の地顔だと祐樹は知っている。 喜びにわずかに弾みを帯びた、長く整った最愛の人の指先がそっとウイスキー
「香川教授や田中先生が、私の同席している今この時とばかりに、この話題をなさった理由が理解出来ました。要するに他国立大学の医局内クーデターの成功例が知りたいというお考えですね」 まさに目から鼻に抜けるというお手本のようだった。ただ恰好は、頭にかぶったコンビ
彼の長い睫毛が微かに揺れ、頬に一刷毛朱を加えたようになった。その唇は、押しとどめることなく微笑が咲いていた。祐樹の言葉を反芻するように目を伏せたその横顔には、誇らしさと愛おしさ、そして甘やかな驚きが入り混じっている。ああ、こんなにも素直に喜んでくれるの
「僕もさ、もうちょっと…ちゃんと腕、磨こうかなって…。あ、誤解しないで欲しいんだけどさ、別に張り合おうとかじゃないからね?」 言い訳めいた言葉にどこか照れがにじむ。けれどそれは真っすぐな気持ちの裏返しのような気がした。祐樹は、言葉にせず、ただ頷いた。祐樹
「本意のズレですか。私は何も明日教授のポストに就けとは言っていませんよね。実際問題としても不可能です」 怜悧で理知的な声が諭すような静けさがあった。「いっそのこと、真殿教授の常備薬にジゴキシンを混ぜるというのは如何でしょう?」 森技官が水を得た魚のような
ナツキの問いに、祐樹の胸が微かに疼いた。ナツキ自身もまた、この社会における少数派としての不安を抱えているはずなのに、そしてまだ専門学校に通っている年齢にも関わらず――彼はまず、最愛の人と祐樹を気遣ってくれた。 隣に座っている最愛の人はグラスを静かに置い
「弥助問題が顕在化した時に、ネット上では人々が細かい情報まで掘り起こしては、次々に共有し合っていたらしい。弥助の記述をしたのは『tottori tom』Facebookに『鳥取在住』と顔写真と共に載っていた。例の日大の准教授の名前はトーマス。Wikipediaの自己紹介欄
森技官は不格好な兜(かぶと)のような氷嚢(ひょうのう)も、頬に貼った冷えピタも何だか激戦場で怪我を負いながらも勝利した武将のように祐樹には見えるから不思議だ。 もしかしたら呉教授を最も待望していたのは祐樹たちではなく森技官かも知れない。「厚労省に言いたいこ
彼の言う通り例えば呉先生のような、血液や内臓が生理的に無理で、視覚・嗅覚でそれらを捉えると嘔吐してしまうような外科医は不要だ。尤も呉先生はそのことをきちんと自覚しているので、嘔吐を催すような場所には絶対足を踏み入れない。「男女の差は関係あるかね?」 杉
日大は大学の名前だろうし、タックルは見たままの行動だろうけれども、二つの単語が重なると意味が分からない。「『黒人侍が存在した』と主張したのは日本大学の准教授なのだ。歴史学ではなく法学が専攻分野で、しかもイギリス人だ。そして、彼は奴隷制度が日本でも一般的
「そうですね。少し話は逸れますが、私も救急救命室の凪の時間にスマホでYouTubeを見ることもあって。その広告に『東大病院の医師が勧めるぽっこりお腹をすっきりさせる薬を、この動画が流れている間に注文してください。なお、この動画は一回きりしか流れません』と
「医師や看護師などがストライキ権を行使――医師だって労働者なのでストライキをする権利はありますよ。しかし、監督省庁としてはあってはならないことです。病院だけでなく警察や消防もストライキを起こしたら、国民の不満が爆発しますよね。もしも、警察官のストライキは
救急救命室でトドのように横たわってスマホの画面を凝視している久米先生は「葵ちゃん、次はセーラー服を脱ごうか?」と、一人でほざきながらクレカの番号(?)だかを入力していた。「なんで、リボンだけなんだよ――!!??」大声を出して仮眠室ではなく休憩室で寝てい
「医師会長の陳情を厚労大臣や厚労省もむげに出来ないのですよね?」 医師会は開業医が所属する団体だ。最愛の人や祐樹は大学病院勤務なので入会資格はない。何しろ医師は影響力が大きいのでその団体の長となれば大臣を次の落選させることも理論上は可能だ。「それはもう。
「もともと『いろは歌』には不思議な点がたくさんあって、誰が作ったのかも分かっていない。空海が作ったとされていたが、空海の時代には使われていなかった文字も含まれている点から否定されている。しかし、空海は聖徳太子同様に神格化された人物だろう。真言宗の熱心な信
「そっか…僕の人を見る目が足りてなかったとばっかり思ってたんだけど、『密室ノワール』がそういう店だったんだ…。もう絶対に行かない!杉田先生有難う」 ナツキは忌まわしい思い出を頭から出そうとでも思ったのかぶんぶんと頭を振っている。「この店だったら、大体の客
「確かに不平等ですよね。社保や国保に加入している人にはジェネリック医薬品を強く勧めながら、生活保護受給者には無条件に先発医薬品を出しますよね?先発医薬品の方が値段も高いのは言うまでもないです。何しろ薬の開発にも莫大なお金が必要でしょうし、特許も保持してい
「ただ、誰もが本当のことを語るとは限らない」 最愛の人は、淡い灯を帯びたままの瞳をゆるやかに伏せた。「祐樹が言った通り江戸時代に幕府を批判するというのは、死を選ぶのに等しい行為だった。だからこそ、真実は物語の衣を幾重にも纏い、仮名や仮託という形式の陰に隠
「そうか、とても勉強になったよ」 杉田弁護士とナツキの話を聞いていた最愛の人が腕を上げた。会話に参加したいとの意思表示だろうが、羽のように軽やかで、静謐な意思だけがそこに宿っているようだった。「ナツキさんにお伺いしたいのですが、そのう…フツメン同士の同性
「いえ、俺が調子に乗りすぎたのがいけなかったのです。辞書通りに説明すれば、彼もこんな感情的にはならなかったと。姉にはこの人も手ひどい言葉を投げつけられたことがあって」 森技官が戸惑いを見せ、遠慮がちな口調になるのも初めてだった。いつもは腹の据わった確信を
「もちろんです。貴方との会話は脳を刺激して心地よくしてくださいます。聡との素肌の交わりとは異なった悦楽です。両方私にとってはなくてはならないものなのです」 陶器を彷彿とさせる肌に怜悧でいながらもどこか艶っぽい絵が描かれたような風情だった。「先ほど祐樹が寺
ナツキは最愛の人と祐樹を羨ましそうに見ている。いつの間にかナツキに貰った煙草は灰皿の上で火が進まず、燃え尽きることもなくその形のまま灰色に変わっていた。「さっきの天真爛漫な笑顔の女性とか、ラスボスとはいえあんなイケメンが活躍してこそオジサンはわくわくす
「小姑とは、結婚した相手の女の姉妹ですね。俺と貴方が結婚した場合、私の姉、いっ痛っ!!」 呉先生に頭を思いっきり叩かれた森技官は黒々とした頭髪の一部を押さえている。一応医師免許は持っているのに、「手当」は文字通り「手を当てる」ことと認識でもしているのだろ
最愛の人のように頭の中だけでカウント出来ないので、指を折って確認した。「『…ゑひもせず』で終わりますから四十七文字…赤穂浪士って四十七人あ!」 沈黙の中に最愛の人の視線だけが動いた、多分誘導したかった答えに祐樹が先回りしてしまったからだろうが、目の奥で
「このキャラクターですね」 彼がスマホの画面を杉田弁護士に翳している。「おお!スタイル抜群の可愛いキャラだね。この天真爛漫な笑顔が素敵だ。横に『恋柱』と書いてあるが、数年前流行った映画で活躍したのは『炎柱』だと記憶している。主人公が手も足も出ない強い鬼と
「祐樹、動画を止めていいか?」 リビングルームと呼ぶには大きすぎる部屋のソファーに隣り合って座っていた。テーブルに彼のスマホが置かれ、そこから動画が流れていた。浴衣に包まれた、カモシカのような足が裕樹にそっと触れていたので半ば無意識に距離を縮めた。最愛の
森技官も大乗り気のようで安心した。厚労省の調査や査察で森技官は日本全土が勤務地といっても過言ではない。呉先生と一緒の時間を作るには恋人を伴うのが最も効率的だ。精神科教授となった場合、今以上に京都を離れられないのだから反対する可能性を考えていたが杞憂のよ
「香川先生も田中先生、そして杉田弁護士や『グレイス』の常連はさ、僕がバカやっている時はスルーするけど、こうやって真面目に話してる時はキチンと話を聞いてくれるし親身なアドバイスもしてくれるでしょ?僕がこの店に来るのは僕に寄り添おうとしてくれる人がたくさんい
祐樹の言葉に、最愛の人の睫毛がわずかに震えた。まるで内側から灯(あか)りが灯(とも)るように、薄紅色の頬が更に色づいている。「多分日本の開発者だと思われるのだけれど、批判が殺到して炎上した内容を逆手に取って、思い切りふざけたゲームを開発して、同じ発売日に出
最愛の人の視線が裕樹の指先にたどり着いた。指先に宿る微かな緊張を見定めるように。次の瞬間、彼の瞳が裕樹の双眸へと戻った。彼が声を出す前の沈黙に専門的な知識と祐樹への深い愛情が滲んでいるようだった。「祐樹、知っての通り増(ぞう)悪(あく)というのは回復しつつ
「今はナツキさんの言葉もわかります。しかし、祐樹と出会う前の私は人間に興味がなかったのです。そして決して裕福でもなく、幸福でもありませんでした。だから他人との間に壁を作っていたと思います」 ナツキが意外そうな表情で、響のグラスを傾けつつ煙草を吸っていた。
鼓動が高鳴ったのは愛の交歓の時にしか呼ばない名前を囁かれたせいか、一度愛の交歓によりただでさえ敏感な彼の慎ましやかな尖りが更に感度を増しているからだろう。「ゆ…祐樹…っ。聞くけれども…っ、その前に…っ、裕樹が…っ作ってくれた…っ、コーンフレークが、食べ
「それは全く構わないが…もしかして私が置いた飲み物を零してしまったのか?」 仲直りのペッティングという発想に至らない点が彼らしくて愛おしい。「え?そのう…。わぁっ!とても美味しそうですね」 呉先生の声がキッチンに小さな花を散らせたように響いた。呉先生も最
先ほど感じたナツキへの違和感がさらに増大した。何故なら欲情したように唇を舌で湿らせて赤い舌を祐樹に見せつけるようにしていたからだ。それだけ見れば淫乱で奔放なありがちなタイプだ。祐樹の苦手なエキセントリックだが己の美貌に根拠のない自信を持っていて、相手が
「Amazonで買って自社の製品として売り出すのですよね?グッズはゲーム制作会社からすればおまけのような感じかも知れませんが、物を作りだすという点では刀もゲームも変わりません。製作者としてのプライドはないのかと思いますね」 祐樹の仕事は言うまでもなく患者
「つまりナツキさんのお友達もゲイカップルのキスやそれ以上の行為…実際にあるかどうかは知りませんが。それをゲームで見ざるを得なくなって嫌悪感を増したと。ちなみにそのお友達は普段からゲイに対して偏見をお持ちでしたか?」 アメリカはゲイが市民権を得ている反面、
冷徹、いや超現実主義者の森技官が客観的に知見したなら是非その件について聞きたかったので今回はスルーしよう。まさか二人がソファーをべたべたに汚すようなことはないだろう。「はい。少し待って頂けますか?」 森技官の声は何だかホテルのルームサービスの人に言う感
ナツキは先ほどの情欲の熱が冷めたような表情で、それなりに綺麗な顔を縦に振っている。「うん、ゲーマーはノーマルな人が多いよ。あ、そうだ僕だって専門学校ではカミングアウトしてないよ。親が全国チェーンというのかな?お店が日本に20個くらいあるんだけどさ。その
「それが『日本の専門家を雇ったし、日本のことも良く知っている』という公式発表の一点張りだった。それに鳥居をくぐるとそこには村が広がっていて…」 神社の鳥居を門と勘違いするのは外国人あるあるなのだけれども、専門家を雇ったならそんな馬鹿なことはしないだろう。
「精神科の教授候補として考えられているということについて呉先生は寝耳に水のことだと思いますし、私の精神科の伝手(つて)は清水研修医くらいしかいないです。ですから斎藤病院長が教授会の後の呑み会ででも口を滑らせたという形で貴方から話をするのが妥当だと思いますが
「『史実に忠実だ』というアナウンスがマズかったのでしょうか?織田信長の従者に黒人が居たのは確かでしょうから。侍という身分を持っていたという証拠はないのでしょう?」 それしか考えられない。灯篭の火に照らされた桜の花が一片(ひとひら)また一片と宙を彷徨(さまよ)
「祐樹に抱かれるなんて思ってもいない僥倖(ぎょうこう)で…夢ではないかと思った…。ずっと好きだったので、裕樹と結ばれると思っただけで嬉しくて嬉しくて、まるで天国にいるような感じだった、な。抱かれるのが待ち遠しくて、タクシーが事故にでも遭わないかと、いや万が
「いやぁ、今は何故女性をブスに描くのか全く分からないよ、オジさんは…だってさ、実際のお姫様は不細工な人もいるだろうが、ファンタジーのお姫様は綺麗だったがね。法学部時代に友達の家で遊んだゲームは少なくともそうだった」 杉田弁護士は呆れたような口調だった。鈴
「実はもう既に料理は出来ているのです。後は温めたり形よく盛り付けたりするだけです。つまり呉先生のご希望の料理を習うという段階ではないですね。ご存知のように私は救急救命室勤務の日は不在でして、森技官だって京都に居ないことも多いですよね。その合間を縫って習い
桜の花が降りしきる中を二人で歩いているとまるでこの世には二人きりしかいない錯覚を抱くのも天国にいるような至高の時間だ。「最近は間違った日本文化を『史実に忠実だ』と言い張っているゲームも出来ているみたいで…。日本人のゲーマーが怒っているという記事も読んだ
「もちろん構わないですよ。色々な知識が集まって問題が解決するかも知れないですし、ね?」 最愛の人の顔を確かめるように見ると彼も頷いている。「わー!ガチで仲が良いんだ!そりゃ、こんな綺麗な人を恋人にしてるんだから逃げられないように必死なのかな?田中先生は」
「下着は付けない方(ほう)がデートとしては(・)相応しいと思います。恥じらいが出てとても素敵だと思いますよ。それに二人きりで灯(とう)篭(ろう)の明かりで桜を見るという絶好の機会に更に特別感が増すのも良いですよね」 よこしまな下心というか最愛の人の最高に色っぽい
森技官だって腐っても鯛、いや天下の東京大学医学部卒だし、薬物関係の知識は豊富だ。しかも厚労省には麻薬取締も行っていて、裕樹も狂気の研修医の起こした「夏の事件」の時に森技官から麻薬取締官を紹介してもらった。 だから精神科系の薬の知識は祐樹などよりも持ち合
「それはそうなのだが、女性の性搾取を助長するのは絶対に駄目で、花魁(おいらん)に憧れて売春婦になった少女が居たらどうするのか?みたいなコラムを読んだ」 最愛の人は口調も明瞭だし、しっかり耳では聞こえていた。それなのに内容がすんなり頭に入って来ないのと、どこ
役に立つかどうかは分からないが今夜「グレイス」に来て良かったと思った。困ったことはお互い様だし。そしてノブレスオブリージュを体現している最愛の人は親身な笑みを浮かべていた。「お役にたつかどうかはわかりませんが」 彼らしい控えめな発言だった。「私も医者の
「そうなのです。私は所謂(いわゆる)バイセクシャルでして、まあ結婚して子供が居る時点でお分かりかも知れませんが。育て方を間違ったとは思っていませんでしたが、コトここに及んでは性教育の基礎の基礎だけでも先輩諸氏に相談すべきかと判断した次第です」 杉田弁護士は
内田教授のその元凶は医局の医師なのだから裏切られた気持ちなのだろう。「内田教授の方(ほう)こそ心労で倒れないでくださいね。私たちは予兆を感じ取って警戒していましたし心の準備もしていました。しかし、教授は寝耳に水といった状況でしたので…」 彼の口調も労わる
うわぁと思った。祐樹だって巨漢の黒人に口説かれたら「トイレに行きます」は、マズいか…。付き添って来られたら最悪トイレで行為に及ばれてしまう可能性もある。仮病を使ってさっさと退散するか、店のスタッフに助けを求めるしか方法が浮かばない。「屈辱と衝撃以外の何
「私もあの映画は大好きだ。それに祐樹と隣り合って劇場の座席に座っただろう。だからより一層楽しめた」 最愛の人の切れ長の目が楽しそうな光を放っている。「あの映画だって粗探ししようと思えば出来ますよね?ヒロインは0℃の水に複数回浸かっていて、救命ボートが来
「医局の一大事なので仕方ないですよ。私も通話を聞いても良いですか?」 彼は満面の花のような笑みで頷いてくれた。「祐樹も聞いていると内田教授に断ってからだな。私よりも祐樹の方(ほう)が的確かつ簡潔に話が出来るだろうから…」 付き合ってしばらくの間は確かに言葉
「ああそうでしたよね」 そういえば柳田医師は女性と見れば手あたり次第に口説いていたらしい。しかも歯が浮くような甘言を相手かまわずに言い散らかしていたという証言もあった。 祐樹も最愛の人には甘い言葉を囁いているけれども、それは全て心の底から出た「真実」の発
最愛の人は潤んだ目に透明な光を宿していてとても綺麗だった。それに薄紅色の肢体が金泉(きんせん)に良く映えていて桜の花びらよりも絶景だ。「祐樹はジュラシックパークシリーズを全て観たのか?」 なんというか悄然とした口調だった。映画は休日に二人で観るのが習慣に
「慰謝料はそれぞれ九百万円か。破格だな。杉田弁護士の働きの賜物だろうが。養育費は、子供一人当たり4万円というのは妥当な線だろう。財産分与ナシというのもペナルティ的な意味合いだろう。このケースが抑止力になってくれれば良いのだが……」 九、九百万円…そんなに
腰の辺りに彼の足が回されたのを感じた。結合を深めたいのだろう、意識しているか無意識なのかは分からないが。慎ましく可憐なルビーをぎゅっと捻る。「あ…っ、ゆ…祐樹…っ脳が爆ぜて…っ!どうにかなりそう…だ…っ」 先ほどよりも艶やかな声が繋がった場所から奏でら
「いや、特にそういう説明はなかったらしいな」 祐樹は「白雪姫」の絵本を読んだこともなく大体の粗筋(あらすじ)を知っている程度だ。「あれ?確か雪のように白い肌だから『白雪姫』と名付けたのでは?肌の色云々(うんぬん)の差別は良くないでしょうが、原作ファンは怒らな
「ああ、なるほど…。口説かれるのも慣れていな」 祐樹が可笑しさを必死で押し殺しながら言った。最愛の人は更に表情の選択に困ったような感じだったし、呉先生は怒ったら良いのかそれとも笑ったら良いのか分からないような複雑な表情をしている。「失敬な!口説かれたこと
「貴方がそのパジャマを着るのは珍しいですね…もしかしてお誘いでしょうか?土曜日なので明日はゆっくり出来ますし、ね」 シルクのパジャマは良く着ているけれども、ウエスト部分にスリットの入った濃紺のパジャマは滑らかな素肌に良く映えている。「ダメか…?ずっとご無
「ああいう店は皆がノリで行くお店でしょう?女装も興味ないですし。行ったことは誓ってありません。私がかつて行きつけだったのはゲイバー『グレイス』で、貴方もご存知のように普通の恰好をした男性がメインの客層でしたよね?」 最愛の人だけでなく森技官も行ったことは
鬼はモブ鬼ならば背景が描かれていないことが多いが、仮にも上弦の鬼なのでしっかりと生前を描写すべきではないかと思ってしまったのが違和感だ。と言っても性格的に救いようのない鬼もいるわけで描く必要はなかったのかもしれないが…。「あの兄妹鬼は、主人公の対比だろ
「いや、そういう意味ではなくてっ!」 森技官も誤解を解くのに必死といった感じだ。秀でた額には大粒の汗の雫が宿っている。今現在、祐樹が寄り添う役目で、最愛の人が舌鋒鋭く追及しているのは知っている。とはいえ、普段の彼は外見に相応しく温和かつ温厚なので呉先生も
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ブログ記事が読めなかった件についてこんにちは。いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。先日公開した記事について、リンクをクリックしたにもかかわらず「ページが表示されない」「アクセスできない」といった現象が一部の環境で発生していたようです。大
「祐樹……、この二人だけの愛の空間……。本当にこの屋上が最も高いのだな……。祐樹の高校の屋上もこんな感じだったのか?」 キスの合間に紡がれた、艶やかな中にも無垢さを含んだ言葉が紡がれている。最愛の人の高校時代も教室から出ることもなく読書をしているか、定期
いつもご覧いただきありがとうございます。これまでブログの更新はパソコンで行っていたため、スマホでの表示について深く意識していませんでした。ところが先日、珍しくスマホから自分のブログを見てみたところ、うっかり広告をタップしてしまい、まったく興味のない外部
「あ!オレ、いや私までも真殿教授は、とても不本意そうな顔で、『なぜFacebookをしないのか』と言ってきたことがあります。まだ医局にいた頃です。大喧嘩をする前も一触即発といった感じが漂っていたのですが、それでも誘ってくるのですから、イエスマンばかりの医局員は皆F
「――先に答えを言ってしまったら、興が削がれるでしょう?」 最愛の人の薄紅色の唇を祐樹の唇で封印した。そしてサマーセーターを着ていても先ほどピーチフィズを零したせいで可憐に尖った胸を指先で弾いた。愛の交歓の前奏曲としてはちょうどいいだろう。このエレベータ
そういえば、最愛の人も祐樹も「心臓外科」の医師一覧に載っているが、同じような「理知的で誠実な、そして控え目な笑みを浮かべてください」と広報室の人に言われた記憶がある。だからきっと同じ指示が医師全員に行き渡っているのだろう。「私が特定不可能な以上、森技官
確かにその通りだろうなと思った。脳外科のアクアマリン姫こと岡田看護師と付き合ったことで、久米先生はゲームという二次元から普通の恋愛にシフトしていて、以前ほどのめり込んではいない。しかし、顔は清楚なのに胸が異様に大きい美少女のセーラー服を一枚一枚脱がして
「別に私はガンジーのような非暴力主義者ではない。祐樹が久米先生の頭を叩いているのを見た時、その行為を彼自身が喜んでいると判断したので、敢えて干渉しようとは思わなかった。医局員全員も、あれは『愛のあるイジり』だと理解していると柏木先生が言っていた」 柏木先
「ウチの病院のサイトに、精神科所属の医師の顔写真は載っていましたっけ?」 最愛の人が淡い笑みを浮かべて頷いている。誰が聞いているかも分からない職員用の食堂で呉先生を揶揄する医師二人は、たとえ親真殿派ではなくても呉「教授」に反対するはずだ。 二人で暮らして
うっかり布地越しとはいえ、胸の尖りを晒してしまった最愛の人のリアクションも非常に気になった。そういう情事に触れられると、普段の最愛の人は顔を紅色に染めて目を伏せていた。しかし今夜はそうではなかったので内心、意外だった。 祐樹と二人きりの時には、大輪の紅
特筆すべきは最愛の人の麗しい筆跡のみで、祐樹には縁のない名前の羅列に過ぎない。森技官が、あたかも国家機密のように大切に抱えていたその紙を、祐樹はテーブルに広げ、何の演出もなくスマホで撮影し、LINEで清水研修医に送信した。一応「極秘でお願いします」とだ
「また始まった」 呉先生がぼそりと漏らした。諦めと愛情が絶妙なバランスで同居した、乾いた呟きだった。しかし、それ以上何かを言うことなく、呉先生は無言で森技官に視線を向けていた。祐樹もつられて視線を向ける。 森技官が言う「備考欄」には、最愛の人の達筆が静か
最愛の人はどこか誇らしげなセピア色の口調とまなざしだった。杉田弁護士は極上の生クリームを心行くまで舐めたチェシャ猫のような表情だ。何しろ祐樹に「香川教授が今『グレイス』に来ていて、多数の男たちから奢られている」と知らせてくれたのは彼だった。「グレイス」
四個の洋菓子は既に食べてしまっている。呉先生は最愛の人よりも華奢な身体なのにどこに収まったのだろうか?まあ、洋菓子効果で呉先生の決意がさらに固まったなら祐樹としては喜ばしいのでスルーしよう。「――新しいかどうかまでは分からないですよ。ただ、その看護師が
最愛の人も男性器は見慣れているはずだ。といっても大学の講義の一環や医学部生の時にボランティアとして参加していた救急救命室での経験に限られていただろう。身体を重ねた相手は祐樹が二人目で祐樹のソレはともかく初めての相手のはそうまじまじと見ていないような気が
「教授教えて下さって有難うございます。あ!お前が軽躁の入り口に立っているかと思った。本気大道芸だったからな、あれはさ」 森技官は一瞬だけアルマーニがこよなく似合う肩を落とした。恋人の言葉は妙に効くらしい。祐樹に言われたなら、きっと三倍返しで皮肉を返してい
最愛の人の怜悧な声は相変わらず淡々としていて、まるで「地球は丸いのです」という自明すぎることを話しているようだった。その静謐な口調が胸の奥に染み入り、祐樹の心は、まるで水面に沈んでいく光の粒のように最愛の人の言葉に全て吸い込まれていく気がした。ただ、二
最愛の人は固まり、呉先生は呆れ果てたスミレの花といった感じで単に咲いている。祐樹は身体を動かすと笑いの発作が再発しそうで、身じろぎすら出来なかった。 精神的には一時間、実際には五分くらいだろうか?ナゾの空白の時間だけが、ただ過ぎていった。 最愛の人がし
ナツキは一瞬だけスマホに目を落とした。多分、両親の待つ家に帰ろうかと思ったのだろう。しかし、今の祐樹は「グレイス」の常連ではない。 今宵訪れたのは最愛の人とのデートの一環で、こんなに長居をするつもりもなかった。最愛の人も祐樹に誘われたから足を運んだだけ
祐樹が洗面所で顔を拭きながら深呼吸を一つ二つと行い、ようやく笑いの発作を収めてキッチンに戻った瞬間、祐樹は一瞬、時空が歪んだのかと思った。 テレビの中でしか見たことのないはずの――学生運動、アジ演説、安田講堂の熱狂。それなのにそこに居たのは、アルマーニ
「サトシ、久しぶりだな?日本に籠り切りで何をしていたのかと思っていたが、年上(・・)の指導をずっとしていたのかい?」 いかにも親しそうに肩を叩いているアメリカ人と思しき人に少しムッとした。アメリカ人のパーソナルスペースは日本よりも近いことは知っていたにも関
一気に買うよりも上策な方法というのは何だろうと疑問に思ったが最愛の人の薄紅色の唇が紡ぐ言葉に聞きほれてしまう。「株式は良さげな銘柄(めいがら)、つまり会社をおいおい選ぶとして……」 三好看護師の同僚兼友達が「銀行でNISA口座を開設してしまったら投資信託
「ウチの田中」と呼んでくれたのはとても嬉しいし何だか新鮮な感じだった。しかも所有権を主張されたような気がする。しかも「出来なくはない」とゴール医師に言っている。「大学病院長兼医学部長の斎藤に貴方の上司から正式な要請のメールか手紙を出して下さるようにお願
「特に不思議に思ったことはないですね。強いて言えば、刃(やいば)の色が初めて握った剣士によって変わるという点でしょうか?『呼吸』の適性が分かるという刀の色は、最終選別を突破して分かるモノですよね。例えば主人公は『水の呼吸』の修行をしていても『滅多に見ない』
「店舗を構えているとなると人件費の問題が出てくるだろう?窓口の女性や営業の人など一店舗で10人以上を配置しなくてはならない。それにオフィスビルの家賃とか光熱費その他諸経費を考えるとそれらを手数料で賄わなければならなくなる」 なるほどと思ってしまう。「最近
「そうなのか?それは少し興味があるな」 若干弾んだ声と艶やかな眼差しが夜の空気に煌めいている。ポケットからスマホを出して検索した。「この旅館ですね」 施設案内という部分をタップした。「本当だ……確かに似ているな」 彼は祐樹との距離を詰めて来てくれるのがと
「麻酔医自身がクローズアップされることだろうか。森さんが日本で面白い催し物を開催予定しているらしいな。田中先生もこうして皆に祝福されたら外科医をしていて良かったとしみじみと思うだろう?麻酔医だって同じだと思う。そういう意味で、日本の催し物で外科医が脇役、
「プラチナや金(ゴールド)は今高価らしいですよね。柏木先生の奥さんが千切れたネックレスとか片方だけになったピアスをリサイクルショップに持って行ったら驚きの価格で買い取ってくれたとホクホクしていましたよ」 柏木看護師は手術室のナースなので手術(オペ)後に雑談す
「仙台結界(コロニー)と言っても、一般人には黒い壁としか認識出来ない物だろう?行ってもいいけれども呪いが見えない私達には単なる道路だろう」 月明かりに照らされた最愛の人の顔は苦い笑みを浮かべている。この人がこういう表情を浮かべるのは珍しいので心の中のシャッ
最愛の人は手術(オペ)を一日二件こなしている上に医局の責任者としての事務仕事を完璧にこなしている。有能な秘書が居るのは確かだが、事務処理能力は祐樹が知る限り最も優れている。森技官の無茶振りで不本意ながら捜査だか調査を二人して頼まれた時に彼の文書作成能力に
「そうなのですか。それは何故ですか?そんなにモルガンスタンレー銀行にお金が有ったら心強いと思いますが?」 思わず背筋を伸ばして彼の複雑そうな表情をまじまじと見詰めた。恋人同士の甘い時間はホテルの客室で過ごすことにして、このバーでは病院関係者の資産運用の話
弁護士の必要性は皆無なような気がするのだけれどもどうもそう単純なモノでもなさそうな表情を最愛の人は浮かべている。「祐樹の場合だと……家で二人きりの時には何の問題も生じないだろうな。いや、嬉しそうな表情で出勤して医局で正直に言った場合は異なるかもしれない
最愛の人は滑らかな白い肌に睫毛の影が綺麗なコントラストを作っている。夜に咲き誇る薄紅色の薔薇のような笑みを浮かべながら祐樹の話を興味深そうに聞いてくれているのも愛おしさが募る。「高価なお酒が呑み放題というのに釣られてしまっていてモトを絶対に取ってやる!
「保険って契約するもので作るものではないと思っていました。ただ、今まで全く気付かなかったのですが、保険商品が山のようにありますから作っている人も居るのでしょうけれども、ね?」 話しを促してみた。「日本人の平均寿命が年々延びているだろう?厚労省や色々な研究
「流石は祐樹のお母さまらしい用心だな。それはともかく若者よりも高齢者の方(ほう)が現金を持っている確率は高い。しかも老後のことを考えてあまり出費はしない傾向にある。例外は子や孫で、それに対して援助しやすいようにと税額が変わるのだ」 すとんと腑に落ちた気がし
「え?どういうことだ……?高専を卒業して第一線で働くことが出来るかという祐樹の質問なのだろうか……」 隣に座った彼は明眸(めいぼう)皓歯(こうし)のお手本のような、瞠った目と和洋折衷菓子を白い歯で挟んで切っている。それはそれで目の保養になっているのだけれど怪
杉田弁護士という知り合いは居るが税理士の知己はいない。確定申告はさして難しいモノではないので専門家に頼まずに自分で確定申告をしている祐樹には税理士の知り合いはいない。 「太陽のたまご」というらしいマンゴーを銀のフォークを使って優雅な動作で魅惑的な微笑み
最愛の人は計ったように二等分、しかもナイフとか正式名称は祐樹も生憎知らないが和菓子の時に使う木の小さなナイフめいた物を使ったかのように切ってあった。スマホのライトに照らされて、皮部分と中央の生クリームと思しき物に挟まれた鮮やかな緑色の色は真珠の中に翡翠
「麻酔医の大切さは良く知っていました。アメリカ時代は当たり前の一手術に一人の麻酔医だったのですが、日本ではそうでないと聞いていたので……私は日本の大学病院に招聘された身の上です。ですから多少の我が儘が効いて専属の麻酔医を指名出来たのですが、あくまで少数派
ポケットを探ると直ぐに手に当たったスマホを取り出してライトをオンにした。パッと明るくなって最愛の人のやや紅色の頬や楽しそうな煌めきを宿す澄んだ眼差しがとても綺麗だ。「こちらが『ずんだ生クリーム味』ですね。ああ、先にペットボトルのお茶の蓋(ふた)を外してお