あちこちの梅がやっと花盛りです
西行は、月明かりの中に立っていた。西行の眼の前に、桜の古木がそびえている。満開の桜であった。みっしりと、重く、枝が下がるほどに花が開いている。風はない。ただ、ひそひそと、月光の中を桜の花びらが散ってゆく。自身の重みに耐えかねた如くに、花びらは枝から離れ、月明かりの中にこぼれていく。 (宿神 夢枕獏) うしろで優雅な低い話し声がする。ふりかえると人はいなくて 温顔の石仏が三体 ふっと 口をつぐんでしまわれた。秋があまりに静かなので石仏であることをお忘になって お話などなさったらしい。其処だけ不思議なほど明るく 枯葉がこまかく揺れている。 (石仏 吉野弘) 満開の桃の小枝をとろりとした目で眺めながら うれしそうにもってとほった あの御爺さん にこにこするたんびに 花のほうでもうれしいのかひらひらとその花弁(はなびら)をちらしたあの御爺さんどこかでみたやうな (御爺さ...
2024/03/30 07:48