ストレスを自分の問題として捉えること - 書評: 見波利幸『心が折れる職場』
見波利幸の『心が折れる職場』を読みました。 ストレスに悩む知人から、自分の状態を理解するのに役立ったと勧められました。メンタルヘルスケアに関心があったので、せっかくの機会だからと読んでみました。 内容としては、メンタルヘルスケアの具体的な内容に触れる一歩手前で、「なぜメンタルヘルスケアが必要か」ということを説いています。ある程度の知識がある人にとっては物足りないかもしれませんが、最初の一冊としては大変よいと思います。 仕事のせいで鬱になってしまう原因として、著者は、潜在的な能力不足の意識を重要視しているようです。この視点は私にはあまりありませんでしたが、言われてみればなるほどと思えるものでした…
宇宙の構造についての最新の研究成果を知る - 書評: 松原隆彦『図解宇宙のかたち』
松原隆彦の『図解宇宙のかたち』を読みました。 宇宙の大規模構造について、美しい図をふんだんに使ってわかりやすく説明しています。わかりやすくとは言っても、物理学の最先端の内容ですから、もともとかなりの知識をもっていないと完全に理解することは難しいでしょう。私も、パワースペクトルやバリオン音響振動のところはよくわからないままにとりあえず文字だけ追いかけました。それでも、太陽系から銀河系、銀河群、銀河団、超銀河団と、スケールを広げながら宇宙の構造を説明していくところなどは、大変に知的好奇心をくすぐるもので、またロマンにあふれるものでした。ここだけでも、一読の価値はあると思います。 宇宙が、世界が、ど…
生き方の表現としての場所 - 書評: 三浦展『100万円で家を買い、週3日働く』
三浦展の『100万円で家を買い、週3日働く』を読みました。 4章から構成されていますが、とくに第1章を大変興味深く読みました。そこでは、7人の実験的な生き方が描かれています。離島に移り住んで、古い家屋をリノベーションしながら町に活気を与える女性。広い農地付きの物件を買って、子どもに自然とのふれあいの場を提供するNPOを運営する夫婦。地域住民の憩いと体験の場としてのランドリーカフェをつくった女性。どのエピソード中の人物も、自分の意志に素直であり、しかもその意志は人を動かし惹きつける力をもっていました。 私は、こうした人たちの生き方を羨ましく思います。いずれのエピソードにも共通しているのは、人との…
出身学科の教授が一人退官され、公開の最終講義が行われたので、久しぶりに大学に行きました。私は文学部の出身です。文学といえば、世間からすると、世の中の役に立たないもの、就職するにしてもつぶしの効かないものと考えられているでしょう。出身者としても、これは半分当たっていると思います。 文学をやる人の半分くらいは、文学が役に立たないものだということを認めた上で、しかし自分にとっては大事なものだからと取り組んでいるようです。残りの半分は、文学は言葉という基本的なものを考えるものであるからとか、人間の心理を解明する資料になるといった理由で、世の役に立つはずだと考えているように見えます。 私は、後者の意見に…
自分らしくあるために個を尊重する - 書評: 菅野仁『友だち幻想』
菅野仁の『友だち幻想』を読みました。 流行っていたのでてっきり最近の本だと思っていたのですが、10年以上前に書かれたもので、著者はすでに亡くなっていたのですね。 相手のことをすべて理解し受け容れられるような人間関係は幻想にすぎず、それを追い求めすぎることは、かえって人とのつながりを窮屈で不快なものにしてしまう。より深い人間関係を志向しつつも、合わない人とは無理に合わせようとはせず、またそうせずにすむ社会をつくることが望ましい。これが、本書のメッセージだと思います。 周囲からの同調圧力を論じた本としては山本七平の『「空気」の研究』がありますが、こちらが同調圧力のために判断を誤ってしまうという実利…
障害を障害でなくしていくこと - 書評: 菊池良和『吃音の世界』
菊池良和の『吃音の世界』を読みました。 私は吃音をもっているわけではありませんが、言葉が出にくいことはあります。文章を書くことは嫌いでありませんが、小さいころは、人前で話すことが苦手でした。成長してからはむしろ大勢の前で話すことを楽しめるようになったのですが、ときどき困ることもありました。いまでも、電話を受けることは問題なくても、電話を自分からかけるのは苦手です。 一番よく思い出すのは、大学生のときのこと。アルバイト中、「ありがとうございます」という言葉が、なぜかうまく言えなくなったことがありました。うまく言えないかもしれないと思うと、そのためにまた言葉がぎこちなくなり、悪循環に陥りました。た…
少しだけ自由になるための対話の方法 - 書評: 梶谷真司『考えるとはどういうことか』
梶谷真司の『考えるとはどういうことか』を読みました。 この本では、考えるための手段として、哲学対話という営みが紹介されています。具体的な方法はいろいろとありえるのでしょうが、著者は以下のようなルールを推奨しています。 ①何を言ってもいい。②人の言うことに対して否定的な態度をとらない。③発言せず、ただ聞いているだけでもいい。④お互いに問いかけるようにする。⑤知識ではなく、自分の経験にそくして話す。⑥話がまとまらなくてもいい。⑦意見が変わってもいい。⑧分からなくなってもいい。 こうしたルールによって、自分の考え方の枠組みから離れることができます。すると、少しだけ自由に考えられるようになる。自由を獲…
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