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穢銀杏
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2019/02/02

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  • ロンドンの呪者 ―夏目漱石、許すまじ―

    呪者がいた。 呪者がいた。 大英帝国、首都ロンドン。霧の都の一隅に、日本の偉大な文豪を──夏目漱石を怨んで呪う者がいた。 (世にも恐ろしい祟り神) 呪者はイギリス人である。 名前はイザベラ・ストロング(Isabella Strong) 。 テムズ川の流れの洗うチェルシー地区に今なおその姿をとどむ、トマス・カーライルの家の管理がすなわち彼女の仕事であった。 「夏目はまったくけしからぬ」 そういう立派な英国淑女が、訪客の姿(なり)を日本人と認めるや、怨嗟の焔をさっと瞳に宿らせて、低く、床を這わせるようにぶつくさ文句を垂れまくる厄介な性(サガ)を持ったのは、むろんのこと理由(ワケ)がある。 艶めいた…

  • 予防に勝る療治なし

    風邪が流行っている。 ――じゃによって、マスクをつけろつけろと言っても、若い女性は見目への配慮が先行し、我々の忠告に無視を決め込む。 まったく沙汰の限りだ、と。 帝都の保健に責任を持つ、とある内務官僚が、しきりとこぼしていたものだ。 彼の名前は福永尊介。 大正九年の愚痴である。 (フリーゲーム『Dear』より) 思い通りに動いてくれない人民に、よほど業を煮やしたか。まさにこのとし、内務省では電気局と協議して、電車内での禁止行為リストの中に新たな項を加えることを決意した。 すなわち 「痰唾を吐くこと」「太腿を出すこと」「煙草を吸ふこと」 既存のこの三件に、 「手放しで咳すること」 を書き添えよう…

  • 令和六年、ネタ供養

    慶應義塾は頻繁に「初物食い」をやっている。 先鞭をつけるに堪能である印象だ。 鉄棒、シーソー、ブランコ等を設置して、以って学生の体育に資するべく、奨励したのも慶應義塾がいのいち(・・・・)だった。 明治四年の事である。 これからの時代、およそ文書の作成にタイプライターの活用が不可欠たろうと推察し、カリキュラムに組み込んだのも、最初はやはり慶應義塾商業学校こそだった。 明治三十六年の事である。 (Wikipediaより、タイプライター) なお、このタイプライター講座については特別に、「同校旧卒業生及び本塾大学生普通学部の志望者にも来学を許す」措置を取ったとの由だ。 前者については福澤諭吉の肝煎り…

  • リバティ・ステーキ ─合衆国の言葉狩り─

    戦争が如何に理性を麻痺せしめ、精神の均衡を失わしめる禍事か。それを示す最も顕著な現象として、交戦相手の国語に至るまでをも憎む──「敵性言語」認定からの言葉狩りが挙げられる。 (Wikipediaより、「キング」改め「富士」) 人類が犯し得る中で、最低レベルの愚行ですらあるだろう。 ある特定の国家ないしは民族が国際法を蹂躙し、掠奪、虐殺、侵略等々、不埒な所業を恣にしたとして。これを批判し、糾弾するのはべつにいい。いい(・・)どころか当然だ。文明人の義務ですらある。 さりながら、憎しみ余って行為自体を飛び越えて、彼らの言語までをも排し、攻撃しだすに至っては、これははっきり病的精神状態だ。総力戦時代…

  • 知られざる親日家 ─ドイツ、ルドルフ・オイケン篇─

    ルドルフ・オイケン。 ドイツ人。 哲学者にしてノーベル文学賞の受賞者。 第一次世界大戦の突発さえ無かったならば、この碩学は一九一四年八月下旬に日本を訪(おとな)う予定であった。 (Wikipediaより、ルドルフ・オイケン) 経路(ルート)は専ら陸路を使う。 シベリア鉄道を利用してユーラシア大陸を横断し、この極東の島帝国に這入(はい)っては、東京・京都の二ヶ所にて「人類の大なる生命問題に関する哲学講義」を行う手筈になっており、既に切符も購入していたそうである。 ところがその直前で、急に世界が燃えてしまった。 講演どころの騒ぎではない、日本とドイツは敵国として、干戈を交える事態になった。 ──な…

  • 最初に持っていた奴は

    前回掲げた『へゝのゝもへじ』を読み込んで、幾つか気付いたことがある。 本書は初版本である。通弊として、誤字脱字がまあ多い。 そのいちいちに、前所有者は細かく訂正を入れている。 (誤字) (脱字) (逆植) ここまでならば単に几帳面な性格だなというだけで納得可能であるのだが、問題なのは次に示すパターンだ。 アワレ検閲に引っ掛かり、××で伏字された部分をも、しっかり復元されている。 正直、息を呑まされた。 前後の文脈から適当に推し量ったと考えるには、書き方に迷いが無さすぎる。 著者本人か出版に携わった何者か――生原稿を拝める立場にあらずして、こんな補完ができるのか? 一番最初の所有者とは、もしかし…

  • 呑んで、天地を

    ほんの十秒視線を切った、もうそれだけで姿が見えなくなっている。 子供とは危なっかしさの塊だ。斯くいう筆者(わたし)自身とて、幼少期にはまた随分と親に迷惑を掛けている。迷子になったり突飛なことを口走ったり、危うく保護者の心臓が停止(とま)りかねない沙汰事をやらかしまくったものらしい。 誤飲・誤食も、当然そこに含まれる。 (飛騨高山レトロミュージアムにて撮影) 幼児の心理は得体が知れない。彼らはなんでも、とりあえず口に入れたがる。色がキレイだったとか、形が面白かったとか、およそ理由とも呼べないような他愛もない理由で、だ。 ──1926年、アメリカ独立150周年を記念してフィラデルフィアに開催(ひら…

  • 秋花粉と女史の夢

    「赤と黄とのだんだん染、それも極く大きな柄に染められてゐる、そんな衣裳をつけた人間が、あとへあとへ出て来てそれが列になって、どんどんどんと皆同じ方角から来て皆同じ方角の方へ通りすぎる。それが見てゐるといつまでも尽きない。百人ももっと以上もあとへあとへと続く。一たい何処へ、何をしにあんなに通るのだらう。その赤と黄との衣裳が目にも頭にも痛い。もう通り止んでくれればいいと思ふのに、それでもあとへあとへとまだやまない」 以上は即ち、与謝野晶子の夢である。 高熱により床に臥せっていた際に、目蓋の裏に浮かび上がった情景を書き留めたるモノと云う。 こういう場合、極彩色というべきか、えげつないほどサイケデリッ…

  • 黄金伝説 ー他人は歩く金袋ー

    人を見る。 じっと見る。 大阪梅田の駅頭で、あるいは街の活動写真の入り口で。手持ち無沙汰にたたずみながら、しかしその実、行き交う人のつらつきを油断なく観察している奴がいた。 「こうしていると、ここでその日いちにちに、いくらぐらいの実入りがあるか、どれだけ金が動くのかが分かるんだ」 ほんのちょっとした特技、まず罪のない遊びだよ、と。 小林一三はうそぶいた。 (小林一三、昭和十年、ハリウッドにて) 真綿に針を包むが如く、垂れた目蓋に眼光の鋭利を秘め隠し。 これが自分の趣味の一環、大事な余暇の消費法、と。 阪急東宝グループを築き上げた功労者、「創業の雄」たる人物は、金銭に対する磨かれきった感覚を詳ら…

  • 濁流に濁波をあげよ

    「政治は金なり」。 犬養毅の信念である。 あるいは政治哲学か。 ひとり犬養のみならず、大政治家と呼び称される人々は、揃いも揃ってこう(・・)だった。皆一様に金の真価を認識し、使い方がすこぶる上手い。金に使われるのではなくして、金を支配し、金を駆使する腕と腹とを持っていた。 平民宰相・原敬また然りであろう。 (Wikipediaより、原敬) 「一円のものを二円に働かせる人であった」と、例の林安繁が言葉を盡して褒めている。「…党員が金が欲しいなと思ふと、要求せぬ前に直に幾許かを喜捨する。金額が常に思惑の半ばにも達せぬでも、先手を打たれて快く出されるには何れも感激してその温情に打たれたことは、屡々吾…

  • 古物愛玩 ―流出した仁王像―

    新時代の開闢に旧世界の残滓など、しょせん野暮でしかないだろう。 可能な限り速やかに視野の外へと追っ払うに如くはない。ましてやそれがカネになるなら尚更だ。 (飛騨高山レトロミュージアムにて撮影) ――維新回天、王政復古、文明開化に際会し、当時の日本蒼生が流出させた古美術は夥しい数である。 什器、錦絵、刀剣どころの騒ぎではない。叩き売りの乱暴は、なんと仁王像にまで及ぶ。 大阪骨董屋の老舗、山中春篁堂の記録によれば、明治五年以降同二十三年までの間、国外へと輸出した仁王像の数たるや、実に三十六対躯、すなわち七十二体なり! 英、米、仏へと専ら売られ、博物館へ収蔵されたり、富豪の屋敷を装飾したりしたそうだ…

  • 「我関せず」は許されぬ ―阿鼻叫喚のベルギーよ―

    戦争の長期化に従って「心の余裕」を加速度的になくしていった国民は、一にベルギー人だろう。 なんといっても「教皇」にすら噛みついている。 第一次世界大戦期間中、ベルギー人の手や口は、屡々当時のローマ教皇・ベネディクトゥス15世批難のために旋回したものだった。 (Wikipediaより、ベネディクトゥス15世) 知っての通り、ベルギーは旧教国である。 その勢力は政財界を筆頭に、社会のありとあらゆる面に分かち難く沁み透っている。 しかるにそんな「愛し子」であるベルギーが戦禍によって半死半生、悶絶しかけている今日に、ヴァチカンは何をやってくれたか。 答えは「何も」。 何もしていないに等しい。 少なくと…

  • 発狂した世界

    悠々たるかな大襟度、鷹揚迫らざるをモットーとする大英帝国様々々も、いよいよ以ってケツに火が着いてきたらしい。 ある日、こんな誘い文句が新聞を通して発表された。より一層の志願兵を得るために、壮年男子――本人ではなく(・・・・)、彼らの背後(バック)に控えるところの妻や恋人、母親等々、女性めがけて投げかけられた「質問状」形式で、だ。 「戦争終りし時御身の夫又は息子等が『君は大戦争に於て何事を為せしや』と問はれんに彼をして御身が彼を送り出さゞりしが為に赤面して其頭を掻かしめんとするか。 英国の婦人よ御身の義務を盡せ、今日御身の男子を吾等の光栄ある軍隊に加入せしめよ」 (訓練中の志願兵) 邦訳は第一次…

  • 愛国者たち ―フランス、エミール・ブートルー篇―

    「平安・繁栄・名誉・進歩の実現せられる時代を吾々に与へやうとして父祖は己を犠牲にしたのである。吾々は父祖を裏切ることはできない。父祖が吾々の為に遺した生命と偉業との精神を維持することを吾々は父祖の為に努めねばならぬ。換言すれば民族的精神・同胞的精神を吾々は維持しなければならぬ。父祖の意志を解すること、これが自分の願ひである」 フランスの哲人、エミール・ブートルーの発言である。 邦訳は広瀬哲士の筆による。一九一九年十月二十五日、フランス学士院に於ける講演の一部分であった。 (Wikipediaより、フランス学士院) エミール・ブートルーは一九二一年、すなわちこの翌々年に永眠する運命だから、仄かな…

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