「ちょっと! どういうつもり? インチキだの、詐欺だのって! いい? この人は本物なの! なんでもお見通しの先生なの!」 「なんでもお見通し? 馬鹿言う…
適当につくったコーヒーを出すと、ヤクザにしか見えない男は煙草を取りだした。 「あの、悪いけど、ここ禁煙なの」 「ああ、そうなのか。そいつは悪かったな…
カンナは口を覆った。ゆるむのを押さえたのだ。違うの。私はあくまでもあの子が心配なだけ。だから、別に北条さんじゃなくてもいいんだけど、他にこの辺のオマワリ…
第15章 案の定――というのもなんだけど、幾日か後にカンナはこう訊かれた。 「な、そういえば、この前、あの若い警官に会ったって言ってたよな? そんと…
そろそろ選挙があるわけですが、ちょっとばかり悩ましく思ってるんですよね。 とくに支持政党とかもないし、なんらか期待するようなこともなかったりするので、どこに…
なんだか今年は秋っぽさを感じることがあまりなくて、このまま冬に入っちゃうのかしら――と思ったりもしますが、ふいに空を見あげると、ああ、こういうのだよなって思い…
尾籠な話で申し訳ないのですが、ここのところ僕はお尻が痛かったんですね。 いえ、痔ではないですよ。 粉瘤というのが破裂したというか、とにかく腫れあがって痛いの…
「そうですか。それを聴けて安心しました。――いえ、非番のときにでも、」 そこで小声になり、警官は顔を近づけてきた。カンナは一度引きかけた顎を突き出して…
「じゃ、スーツのおじさんともお友達?」 「へ?」 「前に会ったことあるんだ。ペロ吉と話せるおじさんと。蛭子のお婆ちゃんは『先生』って言ってた。僕、お腹…
マスコミの連中は身構えるようにした。それを横目にカンナはふらふらと歩き出した。どこへ行くかもわからない。いや、あらゆることがわからなくなっていた。――な…
「なんで警察なんかに行かなきゃならないのよ。馬鹿にもほどがあるわ。そりゃ、心配はしたわよ。当たり前でしょ? あなた、逮捕されたのよ。それも人殺しで」 「…
「驚いたわ。だって、戸を開けたら暗い顔した人たちが財布ひらいてるじゃない。まるで、」 そこまで言って千春は口を閉じた。手には《千疋屋》の袋を提げている…
「じゃ、お待ちかねの質問タイムね。――っていうか、皆さん大丈夫? 訊きたくないってなら、それでもいいんだけど」 借金まみれの女性レポーターが背筋を伸ば…
それから彼は五人連続して占った。 「ふむ。あなたはけっこうな借金がありますね。それもギャンブルで拵えた借金だ。パチンコ、競馬、競輪、オートレース、あら…
当たり前の日常が戻ったとはいえ、以前のようにはいかなかった。予約はほぼすべてキャンセル、飛び込みのお客さんだって来ない。ただ、理由はわかりきっていた。テ…
「じゃ、最初の一口飲んだら着てよ。わかった?」 「うん、わかった。ほら、カンナ、乾杯しようぜ」 プシュッと音がしたと思う間もなく「プハァ!」と声がし…
黒板塀を離れると二人は鬼子母神の脇道をのぼっていった。欅はざわめいてる。《辻会計》の看板――とはいっても今はバーだけど――の上には月が出た。大きく欠けた…
第14章 所持品が戻ると彼はほぼいつも通りの姿に戻った。グレーのスーツに茶色のバックルシューズ。外からでは見えないけど胸には大振りなペンダントがぶら下…
テーブルをつかみ、エビ茶は顔を近づけてきた。息が吹きかかるほどの距離だ。 「言ってくれないか。じゃあ、訊き方を変える。その時間に誰かと会ってたか?」 …
「はっ! まったくあんたたちは素晴らしいよ。まるで二時間ドラマに出てくる三枚目の刑事みたいだ。脅しつけて嘘の自供を取ろうとするんだからな。――おい、若造、…
「じゃあ、それもそういうことにしておこう。しかしな、山もっちゃん、まだ他にもあるぞ。そもそも怯えてた奴が謝罪を求めてくるってのも変だ。――だろ? あの爺さ…
「ああ、来たな」 エビ茶は親指の爪で額を擦っていた。眉間には消え去ることのない皺が浮かんでいる。 「ま、これ以上会いたくもないんだが、しょうがない」…
その日はそのまま留置場へ戻された。 「九十九番、食事の時間だ」 「へい! ありがとうごぜえやす!」 担当官はうんざりした顔で去っていった。――っ…
「ところで、カンナ」 「はい?」 「キティたちは元気にしてるか?」 「ああ――」 カンナは口許をゆるめた。大勢の猫に詰め寄られたのを思い出してい…
アクリル板の向こうには背筋を伸ばしたカンナがいた。『Bitch!!』のTシャツを着て、髪を束ねてる。彼は薄くだけ笑った。 「やっと会えたわね。すごく待…
「あの爺さんがいつ死んだかわかってるんだろ?」 「あん?」 「死亡推定時間ってやつだよ。二時間ドラマでよく言ってるだろ? そんなのも知らないのか?」 …
「では、質問を変える」 エビ茶は煙草臭い息を吹きかけてきた。デカい面は間近にある。 「あの時間、お前さんはどこにいた? どこで、なにをしてたんだ?」…
画面は昼前のニュースに変わった。しかつめらしい顔をした男女が大きく映ってる。男の方は「高温注意報発令」について話しだした。 「こういうのはどうかと思い…
目をあけると見馴れぬ天井があった。ぼんやりした中には人の気配も感じられる。ただ、身体は動かない。――私、また倒れちゃったんだ。なんらかの病気? それとも…
「大変なことになりましたね。私もお義母さんもびっくりして、なにも手につかないくらいですよ」 「はあ」 「まさかあんなことが。だって、蓮實先生は昨日も来…
「ナア!」 突然キティが暴れだした。四肢を突き出し、爪まで立てている。 「って、痛い! なに? どうしたのよ!」 そう言ってる間に肩まで上がってき…
「ブログリーダー」を活用して、佐藤清春さんをフォローしませんか?