「なんで引っ越したんですか?」「誰に聞いた?」あと1週間で高校の入学式。咲から電話がきたのは、男に溺れたあの日から数日経った夜のこと。いつものようにビール片手にアルバムを眺めていると、全くならない電話が突如鳴り響いた。一瞬望海からかと期待しながらディスプレイを確認すると、そこには咲の名前。登録はしたが、俺の新しい連絡先は教えていない。無視をするとしつこそうだから、ため息まじりに電話にでる。すると、...
咲「のぞ、なにしてんの?」無事に再試を合格して、いつも通りに俺の部屋での勉強会。2人でいる時に、のぞが珍しくスマホをじっと見つめている。なんか調べものかと思いながらちらりと画面が見えると、誰かとLINEしているようだった。「あ、なんか分からなかった?」「いや、これ終わったから。」「オッケー。丸つけるからこっちやってて。」そう言われてプリントを手渡され、スマホは机に伏せられた。スマホを視線で追うと、机が...
「てか今野ってどっちなの?」俺たちの会話を呆れたを通り越してドン引きした様子の城戸が、聞くに堪れなくなったのか咲に質問をなげる。「なにが?」「女と男どっちがすきなの?」「なんでお前に聞かれなくちゃいけない?」咲は明らかに気分が乗らない様子で、城戸を睨んでいる。女に決まってるのに、なんでそんな嫌そうな顔をするのかが分からない。「あ、でも舞ちゃんタイプだから元は女好きなのか?」「なんでお前がそれを知っ...
「のぞは頭いいくせに、なんでぼんやりしてんの?」抱きしめられながら馬鹿にしたようにそう尋ねられて、ぼんやりしているつもりもなかったから返答に困る。咲といると、咲しか見ていない。咲のことしか考えてない。ひとりで居る時はいろいろなことを考えているつもりだけれど、咲といるとおんぶにだっこでなにも考える必要がない。その分、咲が俺のことを考えてくれているのを知っているから、きっと助けてもらえるだろうと安心し...
望海「で、ムズムズは解消された?」いつもの空き教室でのダンス練習を終えた後、揶揄う気満々の顔の城戸に声をかけられた。「セクハラやめろ。」「解消されたんだ?よかったじゃん。その顔で性欲強いのはウケる。」「男なら大体強いだろ?」「今野も強そうだけど、それに付き合えるってことはよっぽどだろ?」「ゲイカップルがキショいって言ってた癖に、めちゃくちゃ絡んでくるのなんなの?ウザいんすけど。」出会った初日が懐か...
咲のぞがシャワーをしながら準備している間、のぞの言葉を思い出しながらかみしめる。―――のぞのメンブレ超かわいい!!萌える!悶える!!泣きながら縋られて、危うく二日連続で学校で勃ちそうになった。のぞとのセックスが嫌なわけがない。むしろ学校で盛られてものぞが困るから、我慢しただけ。メンブレかわいかったけど、やっぱり怖い。のぞは誰とでもヤれるから、あのタイミングで俺が傍にいなかったらマジで誰かに抱かれそう...
「セックスしたい。」耳元でそう囁くと、咲が驚いたように身体を離す。少し嫌そうに眉を潜めるから、余計に寂しくなる。―――俺の身体も心もこんなに咲を求めているのに、咲は俺のこと欲しくないの……?「寂しいから抱いて。」「な、なに言ってんの?」慌てた様子で俺の指まで引き剥がすと、さっと距離をとられるからまた泣きそうになった。「抱くのやだ?」「いや、ここじゃ無理じゃん。」「家帰ろ?」「え?」「俺としたくない?」...
望海次の日の昼休みから、咲も同じ教室で過ごすことになった。咲がいるから女子の練習に参加するわけにもいかず、しばらくは自主練習ということに決まった。俺以外の女子はダンスに慣れていて、男子に比べると上手い人間が揃っている。その中で俺だけが足を引っ張っているのに、その俺が参加できないのであれば集まる理由もないのかもしれない。昨日の件で周りも引いていて、俺に話しかけるどころか視線すら合わせない。ダンスの練...
進藤「疲れた。しんどい。腹減った。」「ジュースあるよ?」「扇風機つかう?」「お菓子たべる?」「いいの?ありがと。」受験のため貴重な放課後は使えないから、毎日行われることが決まった昼休みのダンスレッスン。胡蝶は女子の練習にも参加しているから、ほぼぶっ通しで踊っていることになる。ゆっくりメシを食う暇もないせいか、いつもよりも大きなおにぎりを齧りながら、机に長い脚を投げ出していた。制服では動きにくいから...
「大丈夫だった?」「何が?」「ダンス踊るんだろ?」「初心者だけど、なんとかなるっしょ?所詮中学のお遊戯会。」本気で踊るような面子じゃなさそうだし、ガチ勢ではなかったことに安堵を覚える。どちらかといえば、女子にモテたくてそれしか考えてなさそうなチャラい連中。俺が間違えたところで怒られなさそうだし、それなりにカタチにすれば問題ない。別にテストでもないし、女子モテなんて俺になんのメリットもないのだから。...
「にっしー、胡蝶くん借りていい?」舞ちゃんが男たちの輪に入ると、男の視線が舞ちゃんに注がれる。その視線に気がつくと、ふわりと花が咲いたように微笑むから、かわいい以外の言葉が見つからない。小柄で愛嬌があり、自分がかわいい生き物だということを熟知している。「ああ。女子でも決めてもらって。」にっしーがそう言うと、舞ちゃんが微笑みながら俺の腕にしがみついてくる。柔らかな胸がふにゃっと触れて、それでも構わず...
望海教室に男子10名と女子が9名集められ、1年と2年で構成される体育委員にぐるりと周りを囲まれている。女子が1人足りないようだから欠員かバックレかと思い進藤に問いかけると、神妙な顔つきで俺を見つめてきた。「なに?」「いや、まじで美人になってきたなって思って。神々しい。」「1ヶ月でなんも変わらないだろ?」「毎日見てたから気がつかなかったけど、爆速で美人になってる。余裕で化粧のCM出れるわ。」「どうせ褒め...
目を覚ますと、のぞがいる幸せ。のぞの顔を見つめながら、寝られる幸せ。毎日の幸せをかみしめながら、夏休みが秒で過ぎていく。始まる前は辛いと思っていた家で缶詰での勉強も、慣れてしまえば苦ではない。むしろのぞが隣にいるという最大級の安心とのぞが先生という幸福のお陰で、俺の学力は飛躍的に伸びた。夏休み最後の週に受けた模擬試験。昨日その結果が返ってきて、合格判定がずっとDだった俺が初めてCに上がった。偏差値で...
女子に追いかけられてから1週間は、大人しく家に籠っていた。でも、さすがにしんどいと言い出したから、気分転換がてら田中や進藤を交えて勉強会をすることになった。日曜日のよく晴れた朝。雲一つない真っ青な空に向かって伸びをすると、手を大きく振りながら田中が現れた。「のぞみ~~~ん!ひさしぶり!すっげえ会いたかったわ!!」いつも通りのぞに向かって満面の笑みを向けるのに対し、隣の俺には挨拶はおろか視線すらない...
母さんが夕飯の準備をしてくれている間に、のぞと俺の部屋に籠る。のぞが無言で俺に向かって、スマホの写真を見せてきた。「これ何?」見るとインスタの画面のようで、のぞと陽海さんがスーツ姿で並んでいる。服装からこの前の誕生日の時に撮られたものであることは分かったが、あまりにも様になっているせいか素人には絶対に見えない。2人のビジュがあまりにも強烈すぎて、背景にあるおしゃれな建物が霞んで見える。「ストリート...
結局のぞは夕方までぐっすり寝て、母さんが帰宅したチャイムの音で飛び起きた。夕飯の追加の買い出しを頼まれ、のぞと一緒に散歩がてらのんびりと歩く。昼間に比べたらましになったとは言え、夕方でも湿気で空気が重く、肌に張り付くシャツをパタパタと扇ぎながら駅前のスーパーを目指す。18時を過ぎてようやく陽が傾いてきた空を見上げていると、のぞが申し訳なさそうに話し始めた。「咲、ごめんね。」「何が?」「俺だけ寝ちゃ...
咲点数制を設けていたはずだったのに、のぞが自慰ができないというかわいすぎる件で自然消滅していた。その代わりヤる時は俺の両親がいない時間が絶対条件で、勉強に身が入らないと困るから勉強時間は基本的に離れて過ごす。机の上で俺専用のテストやプリントを作成してくれて、俺は分からないところを聞きに行くスタイル。手の届く範囲にのぞがいると、俺がすぐに手を出すから。毎日3回行われるテストは継続していて、俺の苦手な...
ご馳走になったお礼に洗い物を申し出て腕まくりをしていると、咲に背中から抱きしめられる。「のぞ、家に帰っちゃう?」「うん。シャワー浴びたいし、今日の分のプリント家に置いてきた。」「シャワーはうちで浴びたら?」「は?」「俺も浴びたいし、一緒に入ろ?」「はあ?無理だろ。」「なんで?陽海さんとは入るんだろ?」「あの人は咲と違う。」「何が違う?」「全然意味が違うだろ?咲とは絶対に風呂入れない。」「洗ってあげ...
望海ゆっくりと瞼を開けると、咲のドアップに思わず変な声が出そうになる。驚きすぎて声をあげそうになったところで、ベッドのヘッドボードに頭をぶつけて声は無事に抑えられた。じわりと滲む視界のまま咲を見つめると、珍しく熟睡しているようで身動ぎ程度では全く起きない。俺の背中は咲の腕でしっかりホールドされ、枕にしていたのは咲の腕だった。―――恥っず!!!背中の腕を離すのは惜しくて、枕にしていた腕だけ少し動かして...
部屋に戻ると待ちきれなかったのか、のぞが俺のシャツにしがみついてくる。「陽兄となに話してたの?」「なんでもない。」「陽兄相手にやくのマジでやめて。」「なんで?」「キショいから。」「はあ?」「だって陽兄だよ?俺のおむつかえて、風呂入れてた親代わり。ありえないから!」「分かんないじゃん。相手のぞだし。」「いやいや、ないでしょ?ガチでやめて!」「のぞでも陽海さんキショいと思うの?なんかされた?」「陽兄が...
陽海さんとのぞがキスをしてから2日後の夜、陽海さんが俺の家にやってきた。時刻は夜の10時を回っていて、着崩れたスーツ姿で現れた陽海さんは俺を見るなりクスクス笑っている。―――マジで、腹立つな……こいつ。「この前の慰謝料、全額お返しします。」そう言って封筒を手渡すと、陽海さんは虚を突かれたようで驚いた表情を浮かべた。「いらねえの?」「いりません。俺が勝手にしたことなので、陽海さんに払ってもらうのは筋が違い...
咲深夜0時を回り、静まり返った住宅街に、ハザードランプが点滅する光とともに、駐車する音が聞こえた。誰だろうと思いながらカーテンを開けると、のぞの家の前にタクシーが一台止まっている。陽海さんに何度か電話をかけたが、繋がらずにメッセージだけ送っておいた。この時間に帰宅するとすれば、陽海さんくらいしか考えられない。直接お礼を言おうと窓を開けると、生ぬるい風が頬を撫でる。タクシーから降りてきたのはいつもよ...
初めてのフレンチだったけれど、店員さんも気取らないタイプで、緊張しすぎることもなく楽しめた。周りは大人の恋人ばかりで、あそこにいるのが場違いなことは確かだったけれど、年齢層が落ち着いているせいか逆に微笑ましく見守られていた気がする。ふわふわとした特別な気持ちのままタクシーに揺られ、陽兄の肩に頭を預ける。「美味しかったし、楽しかった!すっげえ疲れた!秒で寝れそう。」「そう?それはよかったわ。望海がは...
「あ、咲から。」陽兄がスマホを見つめて、そう呟く。でも、少しも出る気はないようで、そのままプツリと切れてしまう。「なんででないの?多分お礼の電話だと思うよ?」「デート中に急ぎの仕事と望海の電話以外、出る必要ないから。」「は?」「咲にもデートのマナー教えとかないとな。あいつは失礼過ぎる。」「いや、今は俺だから出ていいだろ?なんでデート中に俺の電話に出てんの?だからフラれるんだろ?」「だって、望海が一...
身体が動かしにくくて、緊張する。初めてのお高いスーツの印象は、動きにくいだった。いつもゆるゆるの服ばかり着ていたから、身体のラインがはっきり出ているだけで恥ずかしい。スーツなんて小学校の卒業式に着て以来で、あの時は陽兄のおさがりを着ていたから不格好すぎて、皆に笑われた苦い思い出しかない。「スーツなんて緊張する。」「俺は美人の隣を歩けてすげえ幸せだわ。気分いい。」陽兄はさっきからずっと上機嫌で、俺を...
「咲、舞ちゃん好きなんだって。」陽兄の顔を見るや否や、その話題を口にした。泣いている俺には触れずに優しく抱きしめてくれるから、甘えてしまう。陽兄には遠慮なく甘えられるのに、なんでも言いたいことを言えるのに、咲だとどうしてもうまくいかない。素直になれない。優しく出来ない。大好きなのに、触られたくない。「咲、家にいんの?ちょっと殺してくるわ。」そう真顔で言うと、俺を置いて出て行こうとするから腕を掴む。...
望海―――やっぱり、咲もノンケだったか……。舞ちゃんの顔を思い出し、スコーンの味がしない。口の中にもさもさとした触感だけが残り、それを無理やり飲み物で押し込んでいく。小動物系の、大きな瞳が特徴的なかわいい女子。他の男子がかわいいと持て囃しているし、小顔で表情豊かで華奢な身体を持っている。柔らかそうな太腿や頬を思い出し、喉にやたらとスコーンがひっかかる。半分ほど無理やり腹に入れたところで、気持ちが悪くて...
咲こういうとこ、もしかしなくても女子と来てんのかな?なんか女子好きだもんな。こういうオシャレな感じ。あー、でも陽海さんとは来そうかも……?1人でそんなことを考えていると、ハンモックではしゃいでいたのぞが心配そうに声を掛けてきた。「咲、なに食べるか決まった?スコーンとか美味そうじゃね?さっきショーケースに並んでた。飲み物だけでもいいし。」甘い物が苦手な俺に向かって、そう配慮をしてくれる。のぞに曖昧に笑...
望海「あの!あれこのまま着てっていいすか?」「ぜひぜひ!新品ご用意させて頂くので、少しお待ちください。タグだけ切らせて頂きますね。」そう言いながら、丁寧な手つきでタグを切り取る。「あ、そのシャツもうちのブランドですね!メンズものなのに嬉しい!とてもお似合いです!」俺が着ているシャツに目を止めると、自然な笑みで微笑まれた。徹底された教育が行き届いていて、生意気な中坊に対してもそれは変わらない。陽兄を...
夏休みが始まった最初の日。のぞの誕生日に合わせて、俺たちは初めてのデートに出掛けることになった。7割は取れても、なかなかそれ以上点数が上がらない。したいとは言ってくれるのに、点数を甘くつけることや問題の難易度を変えることはしない。合格のためといったらそれまでなんだけれど、なかなか厳しい現実に少しへこむ。「その服どうしたの?」のぞの家の前で待ち合わせしていると、ドアを開けたのぞが開口一番にそう呟く。...
学校が休みの日曜日。部活も辞めたから、朝から俺の部屋での勉強会が行われるようになった。昼飯はのぞの家でご馳走になり、のぞが綿密に作ってくれたカリキュラムに沿って、夕方までほぼぶっ通しで行われる。好きな人と一緒にいながら、それが恋人でありながら、触ることさえ許されない地獄。夏休みが始まったら、これが朝から晩まで毎日と思うとさすがにしんどい。それはきっと俺だけではないはずで、のぞも覚えの悪すぎる生徒に...
咲―――えー……進藤って、格好いいのか?まあ、女にモテるから、イケメンはイケメンなんだろうな。のぞから見てイケメンに映る進藤をじっと見ていると、確かに顔は整っている気がする。でも、こいつの性格やのぞを狙っていることを加味すれば、敵以外のなにものでもない。次第に嫉妬で目つきが尖っていくと、視線に気がついた進藤に睨まれた。「何?」「何が?」「めっちゃ睨んでるから。」「別に。」そう言いながら進藤を見上げると...
「のぞ、なんか欲しいものある?」「あー、誕生日?別にいいよ。それよりも合格することが大事。」「お揃いとかやだ?」いつもの咲との勉強会。俺が丸付けをしていると、咲が唐突に話し始めた。咲のことをちらりと見つめると、真剣な表情で見つめているから笑ってしまう。今までの不愛想が嘘のように、咲の感情が透けて見えるのが嬉しい。「指輪とかはやめてね。アクセサリー苦手だから。」そう言って予防線を張ると、落胆した表情...
「進路、本当にここでいいのか?」夏休み目前の放課後、にっしーとの個別での進路相談。みんなと同じように用紙は期限内に提出したのに、俺だけなぜかダメだったらしい。静かな教室で俺の机に用紙を広げながら、少し困ったような顔で見つめてくる。「なんで?」「いや、胡蝶の実力なら余裕でもっと上いけるだろ?特待生狙いだとしても、こことかどう?自由な風習で制服もないし、胡蝶に合うと思うんだけど。」そう言ってパンフレッ...
咲「なーに話してんの?」そう言いながら、のぞが俺の隣に顔を出した。いやいやいやいや、のぞには絶対に聞かせたくない。のぞの耳を塞ぎながら輪の中から逃がそうとすると、俺ではなくのぞに向かって次々に質問が飛ぶ。「ケツ突っ込まれるのって、気持ちいいの?」「お尻に挿れられてイくの?超エッチじゃん!」「女の子みたいにエロい声出る感じ?」最初は大人しくしていたのに、俺が口を割らないせいか、のぞにまであからさまな...
「今野、ちょっといい?」「え、これからメシ。」「ごめん。のぞ。秒で済ますから先に食べてて。」―――我慢、我慢、我慢、我慢!!!もうこれ以上、面倒くさいって思われたくない。咲の負担になって、疲れさせたくない。机に頬をくっつけながら、咲の様子をじっと見つめる。でも、いつまで経っても話は終わらないし、咲とも視線が合わない。―――やっぱり、悲しい。「のぞみん、大丈夫?」優しい声色に視線を上げると、眉尻を下げた石...
咲、俺のことちゃんと好きなんだよな?セックスしたいから、付き合ってるんじゃねえよな?お手軽な俺を今は選んでるだけで、女子っぽい見た目に絆されているだけで、本当は女子がいいのかな?もっと大人になっても、俺のことだけ見ててくれる?そんな疑問がずっと解消されずに、シコリのように頭に残っている。教室での掃除時間。ホウキを持ったまま、何もせずにずっと突っ立ているポンコツな俺。他の奴らがチラチラとこちらを見な...
「今野先輩、ちょっといいですか?」下級生の男に声をかけられ、咲がげんなりしながら腰をあげる。そんなに行きたくなさそうなのに、なんで行くのか意味が分からない。咲のシャツの裾を掴んで見上げると、咲が困ったように俺を見つめる。「行かないで。」「のぞ、ごめん。」「なんの呼び出し?」「大した話じゃないから、気にしないで。」そう言って言葉を濁され、俺の手を解いて行ってしまう。俺といるよりも、あのクソガキと喋っ...
望海いつもは部屋着のような気軽さで勉強会をしていたが、今日からは違う。だって咲はもう友達じゃなくて、俺の大事な彼氏だから。そう思うと、気持ちの悪いにまにまとした笑顔が止まらない。お気に入りのシャツを鏡の前で合わせてから、悩みに悩んでズボンを選び風呂場に直行する。シャワーで汗を流し、もしかしたらの期待を込めてシャワ浣も済ませる。咲に早く会いたくて、濡れた髪のまま咲の家に直行する。「咲、おまた……え?何...
咲「今野、ちょっといい?」体育を終えて教室でのぞと話していると、元A組のクラスメイトの河合に声をかけられた。前のクラスでも接点はなく、挨拶すらしたこともない。そんな河合が、わざわざ短い休み時間にD組まで俺を訪ねてくることに、疑問を感じた。のぞも俺と同じ疑問をもったようで、視線を絡ませて首を傾げる。言われるまま廊下に出ると、すぐに河合を含めた男たちに無理やり円陣を組まされた。「何?」「胡蝶ちゃんと付き...
「のぞ、あんまりくっつかないで。歩けないから。」「無理!恥ずい!顔が熱い!」「ごめん。のぞがかわいすぎて、教室でヤりたくなったわ。」「怖いことばっか言うな!!」咲の背中に額を押し付けて、教室に戻る。歩けないと文句を言う咲の言葉は完全に無視して、ぴったりと張り付いていないとフラフラと眩暈が起こりそう。昨日から熱が冷めきっていないのに、再びエロいことをされて、下がるどころかずっと温泉に浸かっているよう...
望海「マジで変な気遣いやめろ!田中に秒でバレるから。」下駄箱で上履きに履きかえるために片足になると、ペタンとその場で座り込んでしまった。それを慌てた咲が抱きしめるように支えるから、混雑する朝の下駄箱で、パンダのように目立ってしまう。じろじろと不躾な視線を全身に浴びながら、咲を睨む。それでも咲は心底嬉しそうな顔をしているから、怒りたくても怒れない。何もしなくても痛むケツが、その衝撃で涙が出そうになる...
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「なんで引っ越したんですか?」「誰に聞いた?」あと1週間で高校の入学式。咲から電話がきたのは、男に溺れたあの日から数日経った夜のこと。いつものようにビール片手にアルバムを眺めていると、全くならない電話が突如鳴り響いた。一瞬望海からかと期待しながらディスプレイを確認すると、そこには咲の名前。登録はしたが、俺の新しい連絡先は教えていない。無視をするとしつこそうだから、ため息まじりに電話にでる。すると、...
段ボールだらけの部屋で、組み立てたばかりのベッドに転がる。前のベッドは望海の顔がちらついて、仕方なく処分した。望海のために用意した着替えや歯ブラシ、寝具やスリッパ。それをひとつひとつゴミ袋に入れる度に、視界が歪む。終わりにしようと決めたのは俺なのに、思い出だけはなかなか手放せない。実母の写真は破り捨てたのに、望海の写真は1枚だって捨てられない。何度も何度も迷って、結局ゴミ袋から助け出した古ぼけたア...
望海「ねえ!!陽兄っていつ帰ってくるの!?」中学を卒業して、高校の入学式が迫っている。体育祭では3人でメシに行こうと約束していたのに、正月に顔を出してから一度も会えていない。それどころか、咲と初詣に行って帰ってくると、既に陽兄の姿はなかった。俺に挨拶もなく帰ったことなんて一度もなかったのに、としばらく不貞腐れて……待てど暮らせど、いつまで経ってもフォローの連絡はない。業を煮やして連絡したのに、なぜか...
大晦日。澄んだ空気を肺一杯に膨らませながら、煩悩を隠して実家に顔を出した。望海に会うのは、体育祭以来。2ヶ月も空いていないのに、既に毎日会いたくて堪らなかった。少し前なら感情の赴くまま会いに来れたのに、罪悪感が足を重くする。特に父さんと母さんに合わす顔がなくて、ずっと避けていた。これだけ世話になっておいて、その大事な息子に劣情を抱くようになるなんて、俺だって勘弁してほしい。俺が家に到着するや否や、...
「もう!!はるちゃんに言いつけるから~~~っ!!」気に入らないことがあると、望海は俺のところに一目散に逃げてきた。襟元をぐしゃぐしゃに濡らして、宝石のように美しい瞳を深海のように煌めかせて、自分勝手な正当性を訴えてくる。その姿を見ていると理性がぶっ飛び、沸騰しそうなほど熱い血が頭にドクドクと溢れてきた。自分のブラコンぶりを振り返ると恥ずかしいと思う場面が多々あるが、天使を泣かせるなんて悪の所業。俺...
結局あの日から、俺たちはふたりと養子になった。恵さんが言うような選択権なんてなかったし、金も手もかかる大きな子供を2人揃って引き取れる裕福な親戚は、どこにもいなかったから。実母でさえ、家庭を壊されることをひどく恐れていた。写真の中で見た優しい笑顔は幻想で、俺たちを見つめるリアルな視線は驚くほどに冷酷で、無慈悲だった。血の繋がりなんて、何の意味もない。―――家族なんて、いらない。「はるちゃん、夕飯はなに...
陽海―――いつからだろう……?いつから間違えてしまったのか、自分でも分からない。感情の境目があやふやで、いくら探してもその答えが見つからない。見つかったところで、今更どうしようもないのだけれど……ベッドに寝転ぶ無防備な姿を見下ろして、深いため息を吐いた。***望海が生まれたのは、夏休みに入ってすぐのこと。からっとした気候とは程遠く、Tシャツが身体に纏わり付くようなひどく蒸した日。毎日のように最高気温を更新す...
こんにちは!お久しぶりです。皆さま、お元気でしょうか?寒かった日が急に暑くなって、身体の体調崩しそうになりますね。『過保護な花男くん』の続編に続く陽海編を書き終えたので、明日から短編始まります。近親相姦苦手な方はごめんなさい。短編ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。桐生最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!ランキングに参加しています。よかったらぽちっと応援お願いします!!にほんブログ村小説(B...
咲 「今日どっか寄ってかない?」「……どこ?」俺の肩に頭を預け、のぞが嬉しそうにスマホを差し出す。でも、差し出されたスマホの画面ではなく、シャツの隙間に視線が吸い込まれた。すこし伸びた前髪が、滑らかな頬にふわりと滑る。指先で毛先を耳にかけてやると、視線を合わせてにっこりと微笑んだ。「駅前にタピ屋オープンしたって、田中が言ってたんだよね。少し遠回りしてみない?」「タピ?」「タピオカ。」「あー、カエルの...
咲「こ……今野、まさか貰ったの?」放課後、のぞから貰ったチョコを大事に抱えながら部室に顔を出すと、俺と袋を見比べた部員に渋い顔をされた。「何を?」「チョコ。今日バレンタインだろ?お前が貰えるんか?そして受け取るんか?バレたら天使に殺されない??」「ああ、これはのぞから貰ったやつ。」そう言って腕を高くあげて見せびらかすと、悲鳴と雄たけびの不協和音を奏でる。「のぞみんから?え、確かのぞみんと同クラの田中...
望海―――困った。なんか面倒なことになってきた……。「のぞみん、今野んとこ行ってたの?貢物は代わりに受け取っておいたから。」「あー、うん。」 田中から受け取ったものを乱雑にカバンに放り込みながら、チャックが締まらなくなったカバンを見てため息を吐く。―――俺だって、あげたかったのに!!!「なにそれ?」「現国の教科書。借りてきた。」「え?今日って現国ないだろ?焦るからやめて。」「咲のクラスであるんだよ。」「は...
咲「のぞみんが田中に本命チョコ渡してた!!!」1限のチャイムと同時に駆け込んできたクラスメイトが、その一言で教室に爆弾を投下した。それをすぐ後ろに控えていた教師に咎められ、浮ついた教室が無理やり鎮火させられる。でも、俺の怒りは少しも静まらない。田中。それはのぞの唯一の友達。それが今日からは、俺の最大のライバルに変わった。教室で仲睦まじくじゃれ合う姿を何度も目撃しており、やめろと何度も忠告しているの...
望海―――あー、渡せなかった……!!!カバンの奥にしまい込んだプレゼントを覗き込んで、こっそりとため息を吐く。咲は今日が何の日かも知らなかったみたいだし、昔からイベントに無関心なこともよく知っている。赤色で装飾された浮かれた街中を見ても、咲の目には何も映していない。単なる日常の風景として処理され、記憶にすら残らない。先週の土曜日。咲が部活に精を出す中、俺もこっそりと繁華街へ向かった。いつもの性欲を満た...
咲真っ白な息が張り詰めた空気に溶け込み、低い雲が空を覆う。耳が痺れるように痛むけれど、この時間は嫌いじゃない。のぞが家から出てくるまで、あと2分。先月の誕生日にのぞから貰ったマフラーに顔を埋めて、スマホはカバンへ。悴む指先をポケットにしまいこみ、2階の窓を見上げる。白いレースのカーテンが端に寄せられ窓が開くと、のぞが寒さに眉を潜めながら顔を出した。俺を見つけてにっこり微笑むと、跳ねる前髪をキャラ物の...
遅ればせながら、あけましておめでとうございます!!今年もよろしくお願いします。更新もせずに放置しているブログですが、もうすぐバレンタインということで、咲×のぞの短編を書きました。お話の流れとしては『蛇に睨まれたオオカミ』の後の話になります。明日の10時からはじまります。よかったら遊びに来てもらえると嬉しいです。桐生最後まで読んで頂きありがとうございます!!ランキングに参加しています。よかったらぽち...
望海「夏休み、終わっちゃうね。」小さなバケツと花火セット。派手さは皆無だけれど、俺が望んだ最後の夏のイベント。欠けた月が浮かんだ空の下、向かいにしゃがみ込んだ咲が一生懸命ろうそくに火を灯していた。風除けになればと手を翳すと、咲が俺をじっと見つめる。ゆらゆらと揺れる火の光に、咲の顔がぼんやりと映し出される。いつもとは違う咲の顔に、なんだか照れてしまう。見ていられなくて視線を下げると、咲が俺の手に花火...
咲「咲、汗すごいね?」拭っても拭っても滴り落ちる汗を見つめて、のぞがふわっと笑う。「え、臭う?」「大丈夫。俺も汗だくだから……。」そう言いながら、赤ら顔をしたのぞがにっこり笑う。自分から漂う汗臭い匂いに混じって、隣に歩くのぞからはずっと甘い匂いが漂っていた。その匂いに誘われるように、華奢な首筋に鼻を近づける。「のぞは汗の匂いしない。」「え、なんで?背中もびしょびしょだよ?」「……すげえ甘ったるい匂いす...
「で、咲となんの話したの?」「さすがに急すぎない?」玄関に一歩踏み入れてから、靴を履いたまま男を見上げる。男の家は駅から20分ほど歩いた、2階建ての古いアパートだった。立て付けの悪いドアを開けると、中は蒸し風呂のような灼熱地獄。開けた瞬間に、目を瞑りたくなるほどの滝のような汗が額を流れる。玄関のすぐ脇には、段ボールが開けられることもなく乱雑に積み重なっていた。その上にさらに女性ものの下着や洋服が重...
咲の部屋にいるのが気まずくて、久しぶりに陸部に顔を出した。サッカー部が校庭の大部分を占めているから、俺たちが使えるのは端にある空スペースのみ。だからこそ日陰が確保できるから、別に困ることはない。こんがりと焼けた肌の男たちが、ボールを蹴り飛ばしながら何かを叫んでいる。それをぼんやりと見つめながら、木陰で水筒を傾ける。大して動いてもいないのに、休んでばかりだから空になるのが早い。夏休みが、もうすぐ終わ...
望海―――あれから、咲が全然手を出してくれない……。花火大会の日、初めて咲が触れてくれた。嬉しくて、嬉しくて……俺たちの関係が進展する気がして、次の展開を期待してしまう。いつ続きをしてくれるのかと期待して待っているのに、咲はあの時のことなんてなかったかのように平然としている。ベッドで寝転びじゃれてみても、この前のような雰囲気になることはなく、期待しては裏切られる。毎日その繰り返しで、いい加減俺も疲れてき...
咲「今野、私服どうした?」同部屋の3年に声をかけられ振り返ると、俺の服を見て固まっている。のぞがせっかく選んでくれた服を着ているというのに、会う人会う人に同じ顔をされすぎて、意味が分からない。―――俺には似合わないってこと……?「何が?」「いや、それどこに売ってんの?」「のぞが買って来てくれた。」「え?ちょっと待って。今野の服ってのぞみんが選んでんの?」「いや、今回だけ。絶対にこれ着ろって。」「……のぞ...
明日から夏休み。期末試験を無事に終えて、涼しい部屋の中でゲームをしながらベッドに寝そべる。咲の匂いが充満した部屋にいるだけで幸せで、明日からここに入り浸れると思うと頬が弛む。そんな中、咲が思いだしたように口にした。「そういえば、陸部の合宿いつから?」「合宿ってなに?」「え、陸部はないの?」「あー、自由参加だから俺は出ない。」「……そっか。」―――そのニュアンスからして、咲は出るんだよな……?そう思いなが...
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、咲と視線が交わる。俺に格好いいって言われるのが、一番うれしいって言ってくれた。だから、たくさん格好よかったって伝えたい。早く声をかけようと立ち上がったが、俺よりも先に女子が駆け寄っていくのが見えた。見覚えのない制服に身を包んだ女子が、咲を見て微笑んでいる。その姿を見ているだけで、シャボン玉のように膨らんでいた気持ちがピシャンと破れた。―――あー、すげえつまんない……。...
望海―――き、来ちゃった……。咲に内緒で練習試合に顔をだしたはいいけれど、他校なんて初めてでよくわからない。試合時間ギリギリに来たから受付も終わってしまっていて、広い敷地に気持ちが萎える。どうしようと思いながら校舎の方に向かうと、肩を叩かれた。「試合観に来たの?」「え?」「そっちじゃない。」見覚えのあるジャージ姿の男に手首を引かれ、スタスタと歩き出してしまう。その後ろ姿を見つめていても、男の顔には見覚...
全くやる気のなかったのぞが、瞬時に笑顔を消した。いつもの柔らかな雰囲気を封じて、代わりに全身から気迫が満ちる。エロ目とアイドル鑑賞で来ていたギャラリーがどよめく中、のぞひとりだけ別空間にいた。みんなが予行練習に余念がない中、目をしっかり閉じたまま微動だにしない。身体を使って覚えるのではなく、のぞは頭の中ですべてを完結できる。―――のぞ、やる気だ……。「胡蝶、大丈夫か?具合悪いならやめとく?」心配した西...
咲のぞがバーを見つめて、軽く助走をつける。バーに近づくにつれてスピードが増して、体重をかけて踏み込んだ。そのまま空に向かって身体がふわりと浮き上がると、バーからかなり高い位置を背中が通過した。そして平行に身体を保ったまま、ゆっくりと着地する。数秒で終わる僅かな時間だと言うのに、スローモーションのように優雅に見えた。先月まではさみ跳びしか出来なかったはずなのに、今は1年で唯一背面跳びをマスターしてい...
昔やりとりしてたメアド使えなくて、こちらで名前叫んですみません!こんばんは!お久しぶりでございます!!すごい前の話なんだけれど、もしかしなくてもコメント頂きましたか……🫨コメントほぼもらわないからどスルーで、昔のコメント見ながら元気出そうと思ってたら、えりりんの名前を見つけました。過保護の花男くん読んでくれて嬉しい!!LIVEにお芝居に、昔と変わらず元気そうです何よりです☺️俺も腸活してる。違う意味で笑元...
望海放課後、咲にユニフォーム姿を見せたくて電話をかけたのに、なぜか繋がらない。いつもはワンコールも待たずに電話をとる咲だから、電話に出ないのは珍しい。体育館まで距離はないから、その姿のまま部室に顔を出した。「え、のぞみん!?」部室を覗くと、ちょうど部活を終えた部員が着替えている最中だった。ラッキースケベだと思いながら咲の姿を探したが、奥まっている造りのせいで入り口から奥まで見えない。―――あー、残念...
咲「さっきの体育、のぞみんTシャツ着てなかったって。」―――は?次の授業は理科の実験。そろそろ理科室に移動しようかと腰をあげると、小走りで教室に戻ってきた木村が息を弾ませながら爆弾を投下した。思わず顔を上げると、木村と視線ががっちり噛み合ってしまう。俺を見つめてあからさまに狼狽えながらも、小声でぼそぼそと話し続ける。「乳首透けてたらしくて、エロいってD組が騒いでた。」「マジか。見に行く?」「え、男の乳...
「のぞみんの彼女ってどんな子?」「え?」咲の委員会が終わるのを大人しく待っていると、同じく彼女の委員会が終わるのを待つ田中が話しかけてきた。「いや、昨日シたって話してたから。」「あー、彼女じゃない。」「え?」「初めて会った子だから本名も知らない。」「……・え?」むしろ、女ですらない。田中が面白いくらいに口をあんぐり開けながら、俺に近づいてくる。咲と違ってリアクションが大きい田中は、単純に話しやすい。...
「電話なんででなかったの?」結局まっすぐに体育館に向かう気分になれず、図書館で時間を潰して……部活が終わるチャイムに合わせて、慌てて体育館へと走った。体育館を覗くと、タオルを首にかけた咲が俺を見つけて睨んでくる。いつもならさっさと着替えているはずなのに、俺が来るのを待っていてくれたらしい。その視線に笑顔だけ返して、機嫌をとろうと腕に絡みつく。「喋ってて気がつかなかった。」「誰と?」「田中。」「……あい...
望海「のぞみん、なんかあった?」「何が?」「昼休み終わってから、顔がずっと怖いから。」「わり。」「別に謝らなくていいけど。」田中と一緒にテニス部に顔を出すと、おがっちに睨まれたけれど田中の背中に隠れてやり過ごす。体操着に着替える田中の背中を見つめながら、自分の背中を思い出す。俺と同じもやしだと思っていたのに、咲ほどではないけれどちゃんと筋肉がついていた。着痩せするタイプなんだなって思いながら、肩甲...
「B組の舞ちゃん、のぞみん狙いだって。」「え?あの子って進藤と付き合ってなかった?」「別れたんじゃね?」「ま、胡蝶ちゃんだもんな。そりゃ進藤でも負けるだろ。」のぞの話をしている男たちの声が、自然に耳に入る。それには気がつかないフリをして、耳だけ男たちに向けながらスマホを見つめる。「そういえば、先輩たちもD組の廊下にいないよな?いい加減飽きたのかな?」「違うって。志村先輩の怪我、知らねえの?」「あー、...
咲のぞが隣の席の女を見つめて、ため息を吐くのが視界の端に映る。俺といるのがそんなにつまらないのか不安を覚えながら、大学生くらいの女に視線を向けた。肩まで伸びた髪の毛先はカラーで痛んでいて、滑らかで艶やかなのぞの髪とは雲泥の差。ステンドグラスから伸びた光が、のぞの柔らかな髪を優しい彩色で照らしていた。のぞと女が並ぶと、お似合いとは言い難い。―――まだ、俺の方がマシじゃないか?いや、おこがましいにも程が...
「え?なんでカラコンしてんの?」地元の改札を抜けると、怖い顔をした咲が待ち構えていた。俺を見つけるとほっとしたように緊張を解いたが、見慣れないカラコンに眉を潜ませる。「え、あー……この目だと目立つから。」「瞳の色変えたところで、そんなに変化ないけど……。なに買ったの?」「いや、何も。試合はどうだった?」「勝った。」「よかったじゃん。」「明日は予定あるの?」不安そうな咲に見つめられて、微笑みながら腕に指...
はじめて降り立った新宿駅は、迷路のような複雑さだった。駅構内や周辺の地図を頭にいれてきたけれど、実際に歩くと人の波に簡単に流されてしまう。地元の駅とは比べ物にならない人の多さに眩暈を覚えながらも、初めて出会うゲイを想像して不安や恐怖と同じくらい興奮しているのも確か。人に溺れそうになりながら目的の場所に辿り着いた頃には、額から汗が止まらなくなっていた。知らない場所というのは、いるだけで疲れる。ひゅう...
「おはよ。」「……うん。」昨日の今日ですごい気まずくて、咲を見ることが出来ずに俯きながら学校に向かう。咲の視線を痛いほど感じるけれど、その視線を受け止める余裕がない。「俺、なんかした?」「心当たりがあんの?」「い……ええ?まさか、起きてたの?」「なんの話?」「……なんでもない。」咲が無言の空気に耐えかねて、不安げにそう質問をなげてきた。いつも仏頂面の咲が、珍しく百面相をしている。その横顔を見つめながら、...
望海「のんちゃん、ぼくと結婚してくれる?」ふたりで弾まないボールをリビングで転がしていると、咲が突然そんなことを言い始めた。忘れかけていた子供の頃の記憶。あれは都合のいい俺の夢だったのか、今はもう判断がつかない。「結婚?」「ずっと一緒にいられるお約束すること。」「さっちゃんと一緒にいられるの?」「うん。ずっと一緒にいてくれる?」「いいよ。毎日ゲームできるね。」俺がそう返事をすると、咲の顔がぱっと華...
俺が精通を迎えたのは、小学5年の終わりだった。落ち着くから、気持ちいいから、そんな軽い気持ちで触っていたそこが、たまに硬くなることは知っていた。硬くなったそこをさらに擦ると単純に気持ちがよくて、気がついたら癖のようになっていた。いつものように何気なく部屋で弄っていると、手が透明な液で汚れていた。「はあ?」という何にキレたのか分からない感情が沸き起こるのと同時に、尿とは異なるそれが精液だと気がついた...
咲「え、このタイミングで寝る?」俺の胸の中ですやすやと眠るのぞを見下ろしながら、思い切り脱力する。教室でもこの調子ですやすや眠っているんじゃないかと、マジで心配になる。担任は鬼怖いと有名なおがっちだから、他の生徒が何かしたりはできないと思うけれども……のぞは小学生の頃から本当によく眠るから、油断できない。小学校の頃は教師に起こされて、家族と勘違いしてキスをした前科がある。―――やめてくれ!絶対にやめて...