「なんで引っ越したんですか?」「誰に聞いた?」あと1週間で高校の入学式。咲から電話がきたのは、男に溺れたあの日から数日経った夜のこと。いつものようにビール片手にアルバムを眺めていると、全くならない電話が突如鳴り響いた。一瞬望海からかと期待しながらディスプレイを確認すると、そこには咲の名前。登録はしたが、俺の新しい連絡先は教えていない。無視をするとしつこそうだから、ため息まじりに電話にでる。すると、...
日が長くなったのにも関わらず、太陽はすっかり沈んでしまっていた。綺麗な三日月が空の主役となり、星たちがその周りを煌めいている。暗くなった部屋の中で、電気も点けずにひたすらのぞを眺めていられる幸せ。寒くないように布団をかけ直し、全裸で眠るかわいい生き物を、隣で寝転びながら独り占めする。「かわいい。」すやすや眠るのぞの寝顔を見つめながら、俺の心は幸せに満ちていた。のぞの寝顔を見つめながら、先ほどの行為...
咲のぞが俺を見つめながら、にやりと笑う。いつものかわいい顔ではなく、間違いなく獣の顔。頼りないと思っていた美人の幼馴染は、間違いなく俺と同じ男だった。のぞが「男だよ?」と念を押す理由を、この時に改めて理解した。どれだけ顔が美人でも、ヤってる時はちゃんと男なのだと認識しても、俺の興奮は少しも冷めない。だって、のぞだから。身体の肉付きがやけに悪く、全体的に骨っぽい。でもどの骨も折れそうなほど細く、骨太...
「のぞ、今日の服もかわいい。」「え?」「似合ってる。」学校から15分程度歩くだけで、シャツが背中に纏わりつく季節。だから最近は、着替えを済ませてから勉強会をするのが日課だった。特にお気に入りでもない薄いピンクのオーバーサイズTシャツに、ハーパンというラフなスタイル。部屋着のような服をかわいいと褒められ、喜ぶというよりも不思議だった。「でも、これ何回も着てるし?」「知ってる。でも褒めると、口説かれてる...
望海―――またハブられてる。悲しい。咲と進藤と田中が、最近俺がいなくても盛り上がってる気がする。朝も3人で楽しそうに爆笑していたし、進藤に抱き付かれていた咲の姿を思い出し、意気消沈する。俺には触るな触らせるな言うくせに、なんで自分は免除されてるのか意味が分からない。いや、本当は分かってる。―――だって、俺が嫌われたくなくて勝手に守ってるだけだもんな……。「のぞみん、帰らないの?」その声に顔を上げると、黒目...
咲「石井がさ。この前の歯医者さんごっこから、ガチでのぞみんのこと意識してんの。」「あー、マジで?しゃあねえから今度首輪プレゼントしとく。犬好きだからペットにして飼ってやるわ。靴舐めさせよ。」「のぞみんが言うと冗談に聞こえないって。この前のガチでイケメンすぎたし。」「のぞ、今いい?」石井の話題で盛り上がっている池田とのぞに声をかけると、俺を見上げてため息を吐かれた。のぞにお友達宣言をされてから、ずっ...
目の前に、好みの顔がある。涼し気な目元、シャープなフェイスライン。男は俺を見て、嬉しそうに微笑んでいた。だからネクタイを掴んで、そのまま引っ張る。すると、進藤の顔が鼻先にあって、慌てて手を離した。「あー、わり。」「全然。俺はこのまましてくれて構わないけど?」「しねえよ。」「手癖悪いのがでてんな?無意識とか末期じゃん。」「うるさい。」教室で咲の日直の仕事を待つ間、進藤の勉強する姿をただ見つめていた。...
望海夏の陽射しは容赦なく、体力も思考力も根こそぎ奪っていく。昨日のことで、咲との間に溝が生まれてしまった。学校にはいつも通り一緒に登校したのに、いつもの会話はない。―――こんな風に気まずくなりたくないから、話を避けてきたのに……。3限目の校庭での体育。からっからに乾いたアスファルトに、生ぬるい風が気持ち程度に吹いている。広すぎる校庭で、CD合同での体育の授業。石井が得意のサッカーだったが、この前のような...
咲―――のぞ、寝すぎ……。久しぶりの体育の授業。いつも適当に流してばかりののぞの本気モードを見れたのは嬉しかったけれど、6限が始まる前に既に夢の中に旅立っていた。どこでも秒で寝られる図太い神経に、笑ってしまう。―――本当に、危機感ないなー……。片肘をついて、のぞの寝顔を見ながら髪にそっと触れる。顔にかかった髪を耳に掛けて顔がよく見えると、綺麗すぎて心臓が痛い。「ガチ寝してんの?」進藤に声を掛けられ頷くと、ふ...
望海「俺ハブって何こそこそ話してんの?」ほとんどバスケの試合に関わることもなく、出来る限り楽したいという考えが見え見えの田中と進藤を見つめる。ひとり汗だくになっている俺が、なんだか馬鹿らしく思えた。肩で息をしながらほとんど空になった水筒に口をつけると、呆れた様子の田中が水筒を恵んでくれる。先ほどの石井との行為で、頭の中が煩悩で埋め尽くされている。ヤりたくて、ヤりたくて、ヤりたくて……それしか俺の頭の...
咲「お前らも、なんでのぞに聞いてんの?」「え、巧いから。」池田から、驚くほど端的な答えが返ってきた。「沢井にちゅうしてたの、すごかった!」「あれは絶対慣れてる。もはやプロだった。」「秒で勃たせてたもんな?」「30秒かかってなかった。カリスマ。てかレジェンド。」「押し倒すのもめっちゃ手慣れてたし、流れるような所作だった。美しかったわー。」「手コキも秒だったしな?」「ツボの突き方が巧いんだよ。」「わかる...
咲とお遊び程度のバスケを軽く楽しんでから、暑さで倒れそうになりコートを外れる。咲は試合がよほど楽しいようで、最初からぶっ通しでずっとコートの中ではしゃいでいた。みんな暑くて動きたくないから、咲が1人でドリブルをしてゴールをするというワンマンプレーが繰り広げられている。キンキンに冷えた水筒のお茶をがぶ飲みしていると、池田がニヤニヤしながら近づいてきた。―――普通に、キモいんすけど……?「胡蝶ちゃん、ディー...
「胡蝶ちゃんて、経験人数何人いんの?」地獄のような暑さの体育館で、汗を拭いながら床に軽快に弾むボールに目を輝かせる。咲の手慣れたボール捌きに見惚れていると、俺の隣に沢井が腰をかけて尋ねてきた。この前の揶揄いの色はなく、質問の意図も分からない。俺の視線を拒絶だと受け取った沢井は、焦ったように笑いかける。「あ、ごめん。これはセクハラ?」「いや、別にいいんだけど、数えてないから答えられないだけ。」「え?...
教室に戻ってから丸2日間は、咲に始終くっついて過ごしていた。ひとりでいるとなぜか不安で、咲に触れていると誰がどこにいても安心できた。授業中も絶えず手を繋いで、トイレに行くのも背中にくっついていく。人見知りのガキのように甘えても、咲は文句も言わずに全部受け入れてくれた。なんかこの感じに既視感があると思えば、幼稚園の頃を思い出す。あの時は人見知りの咲を背中に庇い、どこに行くのも手を繋いでいた。それから...
夏休みを迎える3週間前。定期テストを済ませ、テスト前で妙に張りつめていた校内が日常を取り戻しつつある。夏休み前ということで、また違った活気を生み出している下級生と俺たちとでは、大きく異なる。最後の夏に追いつけ追い越せの人生をかかったレースに、俺は乗りきれずにいた。みんなが自分のための勉強を勤しむ中、俺は咲の苦手克服のためのプリントを作成する。そんな静かな保健室で、遠慮がちにドアが叩かれた。恐る恐る...
望海陽兄と登校した放課後。宣言通り、俺は美容院に顔を出した。通い慣れているこの場所は、最寄り駅から5駅ほど離れている。最近独立して立地は少し遠くなったが、変わらず通い続けているのは、腕の良さと彼の人柄だった。前の店と異なり、香水の匂いが控えられている。ツンと滲みるカラーの匂いは仕方がないが、他の美容院に比べて奥まった造りが有難い。他人にジロジロ見られることなく、半個室の椅子に案内された。咲は待合室...
咲保健室を出て、廊下をひたすら歩く。まだHR前ということで、廊下は人の往来がやけに多い。それを軽やかにすり抜ける晴海さんの背中を、小走りについていく。晴海さんをみると、途端に足が止まる学生たち。そんな視線にも慣れた様子で、まっすぐに前を向いている。この人も他人の視線なんてまるで気にならない、のぞと同族の人間。見られることに慣れているどころか、日常会話並みに当然のことなんだろう。空き教室を見つけると、...
望海―――俺は無理か。はっきりとした拒絶をされた。俺じゃ勃たないんだもん。触りっこなんて、できないじゃん。当たり前じゃん。俺と違って、男の裸で興奮しないんだから。真っ平らな胸。股間。骨ばった身体はやはり男のもので、女なのはやはり顔だけ。キスはできても、それ以上はなし。セックスの快感を知ってる俺に、それは辛すぎる。告るまでもなく、撃沈したわ。湯船に浸かりながら、咲の言葉を反芻していた。分かっていた事な...
鼻先にニンジンをぶら下げていたおかげで、集中力が桁違いに上がった。いつもよりも早めに終わり、不自然なほど会話がぷつりと途切れる。ノートやら参考書を乱雑に片づけ始めるのぞをちらりと盗み見ると、俺の視線に気がついたのぞが髪を耳に掛ける。片づけなんて待ちきれずに、手を掴んで膝を突き合わせた。「していいの?」「大丈夫。咲に触られるのは平気だった。あと田中。進藤はまだ無理。」「確認なんだけど、田中とキスして...
学校から帰り、いつものように俺の部屋での勉強会。ここにいると昨日のことを詳細に思いだしてしまい、さっきから落ち着かない。それなのに、のぞはいつもよりも落ち着いていて、昨日のことなど忘れてしまったのではないかと焦る。―――まさか、また夢じゃなかったよな……?「咲。」俺のテストをざっと見つめながら、話しかけられた。「なにか間違えたかな?」と思って近づくと、今度は俺をしっかりと見つめながら淡々と問う。「俺が...
咲「今野、ちょい顔貸せや。」「はい。」最近の田中は本当に陽海さんに、言動がよく似ている。そのせいか、恋愛経験値に差がありすぎるせいか、全く頭が上がらない。中庭のベンチに腰をかけると、田中がいつもの笑顔を剥がした表情で見つめてくる。「のぞみんが泣いてる理由わかってる?」「いや、なんかあった?」「だから、お前とあったんだろ?」「のぞから聞いた?」「ベロチューしてしゃぶったんだろ?」「……はい。」大人しく...
望海―――あー、やっぱ勃ってない。行為の後に咲の下半身を見て、一気に落胆した。キスも食べられそうなくらいがっついてきたから、「まさか、これは!?」と期待してしまった自分が憎い。そりゃそうか。これは咲の優しさだもん。興奮してたのは俺だけ。好きなのも俺だけ。咲のこれは恋愛じゃなくて、友愛なんだ。泣きそう。泣く。やっぱり、キスでとめとけばよかった。欲張って下半身なんて見せたから、咲に引かれたんだ。―――顔だけ...
「他に何された?」視線を外してそう問いかけると、のぞは俯きながら話してくれた。「ええと……しゃぶられた。」「はあ?何もされてないって言ってたじゃん!!!」「だって、ずっと怒ってたから、岩井たちのこと殺しそうじゃん。」恥ずかしそうに口元を隠してそう呟き、俺のことを困ったような瞳で見上げる。この前見た綺麗な竿を、あの岩井がしゃぶったのか?俺は見るだけで、泣く泣く我慢したのに??―――は、腹立つ!!!「俺も...
咲「のぞ、沢井とキスしたの?」「あー、田中?」視線を合わすこともなく、俺のテストに赤を入れるのぞの横顔を見つめる。朝会った時よりも、顔色がだいぶ回復した気がする。最近は白いを通り越して青い顔をしていたから、かなり心配していた。のぞに聞いても「受験に集中しろ。」って怒られるばかりで、何も話してはくれない。田中や進藤に聞いても、本人に聞けって突き返されるから実情が全く分からなくて不安だった。早くのぞと...
進藤と田中の保健室での小話「今野とのぞみんって、なんで付き合ってないの?」「それな。もはや宗教上の理由としか思えないわ。」「側から見てるとバカップルなんだけど、本人達だけ分かってないの謎すぎない?天然こわいんだけど。記念物として囲うしかなくね?」「胡蝶に聞くと、誘いにのってこないらしいから、俺の中ではEDってことでかたがついてる。」「それはないわ。修学旅行の時、立派に朝勃ちしてたし。」「オエ。いらん...
「胡蝶ちゃん、やっぱり岩井たちにヤられたらしいよ。」「マジで?俺もヤりてえ!」「パンツも脱がされて、見つかった時ほぼ裸だったって。」「うわ、エロ。それ見たかったかも。修学旅行でもちんこ見られなかったしなー。でも乳首はえっろいの。普通に抜ける。」「まあ胡蝶なんて、普通に体操着とかでエロいしね。」「ホモだって噂あったよな?」「あれマジだったの!?てことは互いに同意あった感じかな?」「逆に被害者は殴られ...
校長たちとの話し合いの翌日、俺は学校に向かった。時間を空けると行きにくくなるのが分かっていたし、咲に会って謝りたかった。行くなと止める陽兄には悪いけれど、鬱陶しい程の愛情をくれるこの人の傍にいると、どんどん弱ってダメになってしまう気がする。好奇の視線を全身に浴びながら、上辺だけの優しさにも耳を傾けず、黙々と教室を目指す。教室を覗くと、進藤の姿はない。―――あいつ、またサボりかよ。俺に気がついたクラス...
望海校長に呼ばれ、俺は3日ぶりに学校を訪れていた。汗が首筋を通っていく感触がやけに遅く、不快だった。肌に張り付く生ぬるい空気を感じながら、陽兄と一緒にタクシーで校門をくぐると……好奇の目で俺を見つめる視線に、すぐに気がついた。平日の放課後。部活組がたくさんいる中で起こったこと、噂好きの生徒が何も知らないわけがない。人がいるのにやけに静かで、俺に気安く話しかける奴はいない。話しかけるわけでもないのに、...
咲「大変、申し訳ございませんでした。」陽海さんが病院に顔を出したのは、のぞのことを見つけてから1時間後のことだった。救急車の手配をしながら、のぞを抱えて保健室に連れていき、田中がかやちゃんを呼びに行ってる間ものぞが起きない。死んでしまったのではないかと不安に駆られたが、脳震盪を起こしているようだという説明に少し安堵した。保健室に運ばれて10分もしないうちに、のぞによく似た恵さんが血相を変えて顔を出...
「俺の舐めて興奮してんの?変態じゃん。」岩井の股の中心を、足の指で軽く突っつく。根元から裏筋を擦ると、面白いくらいに身体を仰け反った。「やめろ、やめろ」と言う割には、やめてほしい顔はしていない。それどころか自らベルトを外して、ファスナーを下ろしだす始末。―――めっちゃよさそうじゃん。こいつマゾか?知りたくないもない情報が頭をかすめ、足首をクロスさせて甲で挟み込んで擦りあげる。濡れてきた先端を足裏でぐ...
―――ここどこだ?霞む視界の中で目を開けると、さっきまでの図書室の風景とはまるで違っていた。月曜日の放課後。先週の金曜日の件があったから、咲にしつこいくらいに念を押され、図書室で大人しく待っていた。今日は進藤は塾の定期試験で、田中はいつも通りの部活。不安そうな表情をしている2人に、努めて明るく振舞った。最初は司書を合わせて3人いたはずだが、予鈴のチャイムにふと顔を上げると、気づけば図書委員の男と2人き...
先生に報告して、いつものように咲の部屋で勉強会をしていると、急に背後から抱きつかれた。恋愛的なそれでも友愛的なそれでもなく、大型犬に圧し掛かられている気分。「のぞ。」「ん?どしたの?甘えただな。」咲の髪を雑に撫でて、胸を押す。甘えたも嬉しいけれど、急に抱き付かれては理性が持たない。努めて平静を装いながら、髪をかきあげる。「困ってることない?」「ない。」俺が即答しても変わらずにじっと睨みながら、泣き...
「なあ、胡蝶似のAV見つけたから、一緒に見ない?」2限終わりにトイレに行くと、嫌な笑顔を浮かべた岩井がいた。毎日ここで会っている気がして、げんなりする。修学旅行から戻って、もうすぐ1週間経つ。シトシトとやまない雨が続いていて、梅雨前にも関わらず湿度が高い。そのお陰で猫っ毛の俺の髪は、風呂上がりのように湿っていた。修学旅行のトイレで誘われてから、学校に戻っても毎日変わらずにそれが続いている。いつになった...
「ガチでやめろ!!恥ずかしくて死ぬとこだった!!」「あんな童貞やめといて、マジで俺にしとかない?」そう言いながら、ふわりと抱きしめられる。声にも顔にも余裕があるのに、耳に聞こえる進藤の心音はだいぶ早くて、すきだって身体中で叫ばれているようで気恥ずかしい。「しつこくてごめん。悲しそうな顔見てるのつらい。」悲しそうな顔してたか。バレバレか……。取り繕えないくらいの感情が、顔に溢れる。好きって怖い。バレそ...
望海田中のTシャツと進藤のズボンを借りた咲は、見違えるほどにイケメンだった。ただのTシャツとジーパンというシンプルな装いなのに、素材のよさが惹きたってより魅力的に見える。「咲かっこいい!超かっこいい!!イケメン!!」ひとりでテンションが上がりまくって、スマホに咲の写真を何枚も収める。これ幸いとばかりに連写すると、困り顔の咲に頭を軽く撫でられた。「髪の毛もさ、ワックスつけていい?」「え?」「俺やったげ...
咲気持ちよさそうに大きく伸びをすると、のぞの白い腹がちらりと見えた。少し気だるげで、事後のような甘い雰囲気に酔いそうになる。「あれ、のぞ。」「はよ。咲も起きたの?」「うん。」俺に向かって微笑みながら近づくのぞの寝癖を、軽く触れる。俺とは違いネコのように柔らかく、細い髪。のぞの身体は、細部に至るまで繊細にできている。髪の毛から徐々に視線を下げると、のぞのハーパンが膨らんでいることに気がついた。「なー...
部屋に戻って数分も経たないうちに、宣言通り田中が顔を出した。「のーぞみん!夜這いにきました~~~!」「マジで来たの?」「来ちゃった。泊めてくれる?」「しゃあなし。初めてだから優しく抱いてやるよ。」「キャ―――!!のぞみんイケメン!!」悪ノリ全開の田中を足払いして倒してから、床で楽しそうに笑い転げる田中の腹を踏みつける。ドアが閉まりそうになると、田中が慌ててそれを制した。「ほら、入ろ?何ぼさっとしてん...
咲と一緒に食堂を訪れると、すぐに学年主任に見つかり説教をくらった。でも、担任のふくちゃんが精一杯庇ってくれたお陰で、反省文や罰などのお咎めはなし。泣きそうな顔をして反省している風を装えば、ふくちゃんはちょろい。―――持つべきものは、ちょろい担任に限るわ。はっはっはっはは!メシの時間は少なくはなったが、その分咲と一緒にいられた。怒られていようが、咲が隣にいたらそんなことは気にならない。一緒にいられたら...
望海は、恥ずすぎる~~~~!!!!てか……あれ、誰よ?咲じゃないっしょ!?咲はあんなこと言わないし、あんな顔しない!絶対しない!!俺の知っている咲とはまるで別人で、顔が熱すぎてグラグラ茹であがりそうだ。急いでシャツを身につけて、反応した下半身を手早く処理する。あばらが折れそうな程心臓が痛くて、胸を押さえながら慎重に脱衣所を覗く。咲がいないことに安心しながら、ドライヤーのスイッチを入れた。すると、鏡の...
「めっちゃ狭かった。ほぼ電車の座席。」「マジか。」のぞがほかほかに火照った顔で、脱衣所から顔を出した。―――めっちゃめちゃかわちい。俺もちゃっちゃと浴びようとテレビを消して、脱衣所に向かう。すると、まだ着替えが済んでいなかったのぞに気がつき、思い切り身体を仰け反る。「あー、わり。」「何?大丈夫だよ。パンツはいてる。」―――いやいやいやいや、それ全然大丈夫じゃない。「服、着て。」「まだ暑いからドライヤーし...
咲「のぞ、何してんの?」「風呂入りに来たに決まってんじゃん。なんの冗談?」「は?」「マジで?ラッキースケベじゃん!」「のぞみんと風呂入れるなんて最高ー!男でラッキー!」「キッショ。」―――え、マジで入るの?シャツのボタンを外しているのぞの指先を見つめていると、のぞと視線が絡んだ。でもこの前のような挑戦的な目はなく、すぐに逸らされる。この前の生ストリップでも見えなかった、シャツの中。期待と興奮と恐怖で...
宿舎に着いてトイレに顔を出すと、嫌な顔にバッティングしてしまった。そのまま踵を返したいところだったが、出口にでかいのが1人立っている。バレー部の誰かだったとは思うが、名前までは分からない。―――見張りつけんなよ。頭を掻きながら個室に逃げ込もうとすると、ドアの隙間に岩井が足を滑り込ませた。「何?うんこ漏れるんだけど。」「胡蝶、風呂何時に入る?」岩井は分かりやすいくらいに、直球だった。―――清水に絡まれなく...
咲に起こされて目を覚ますと、そこはもう京都駅。寝ぼけ眼の俺の背中を咲に押されて、グループ班のバスの座席まで見送られた。奈良公園についても、まだ眠気はなかなか覚めない。―――頭がぼおっとして、なんも考えらんない。久しぶりに夢を見ることも、うなされることもなく気持ちよく眠れた。バスを出て大きく伸びをすると、太陽がやけに近く感じる。首を回しながら大きく欠伸をしていると、頭にこつんと手が当たる。「寝れた?」...
ゴールデンウィークなんて嫌いだ。部活への参加は最低限でいたい俺とは異なり、咲は自主練習も欠かさない。今まではその時間を他の男との性処理で埋めていたのに、お触り禁止令を出されてしまい暇を持て余していた。いつもの土日とは異なり、他校との練習試合ばかりで、デートできる暇も会える時間すらない。何度か試合を見に行きたいと申し出たのだけれど、ことごとく却下される。―――ずっと一緒にいたいのは、どうせ俺だけだよ。...
望海視線に気がついて顔を上げると、珍しい2人組が俺を見ていた。始業式の日には取っ組み合いの喧嘩しそうな雰囲気だったのに、最近ちょこちょこ喋っている気がする。最近の清水は憎まれ口もなければ、絡んでくることもない。ただよく目が合うから、完全に飽きたわけではなさそうだ。進藤が俺の視線に気がつくと、笑みを濃くしながら手で追い払われる。それでも、俺のことを嫌っている清水絡みだから、無視するわけにはいかない。...
「よお。元気?最近ぼっちじゃん。」体育の授業でハーパン姿の胡蝶をぼんやり見つめていると、俺と同じように見つめている清水に気がついた。こいつと同じことをしていたのかと思うと気が滅入るが、気持ちに蓋は出来ない。俺が声を掛けると、清水は嫌そうに眉を潜めた。「すげー大人しいじゃん。息してる?」「俺はお前らと違って、元々騒ぐタイプじゃない。」「はあ?めちゃめちゃイキってたじゃないすか。受験生なのに記憶力大丈...
胡蝶は、2年の頃とは大分変わったと思う。入学当初から人の目を惹くことに変化はなかったが、男たちとの接し方がまるで異なる。それをさせているのが今野というのが大変気にくわないが、お触りファンサ禁止をしっかりきっちり守っている。いつも誰かの膝の上で平然と笑っていたのに……見かけはにこやかに、言葉はソフトにアイドルらしい完璧な立ち回りを披露している。「胡蝶ちゃん、あーんして。」「おー、さんきゅ。」沢井からの...
進藤胡蝶とのセフレ関係が、惜しくも破綻してしまった。セックスを過去一だと褒めてもらったから、次もあるだろうと驕っていたのが悪かった。だからといって、気持ちがそれで途絶えるわけではない。胡蝶が今野のことが好きだろうと、俺の気持ちに変化はないのだから。D組の治安の悪さは始業式から変わらず続いていて、学級崩壊まではいかないが……授業中のガラの悪さ健在だった。いつ崩れてもおかしくはないなと思いながら、頼りな...
望海遅咲きの桜に見送られながら先輩たちが卒業し、俺たちはとうとう3年生になった。寒い寒いと凍えながら過ごしていた日が嘘のように、ブレザー1枚で過ごせる日が増えてきた。咲との関係は惨敗に惨敗を重ねていて、もはや俺が淫乱だと思われてる可能性すらある。「嫌じゃない」「キモくない」という咲の優しさに思いきりつけこんで、性的なことを除外した恋人ごっこにつきあってもらっている。このじゃれ合いからナニか芽生えな...
咲「のぞ、だいすき。」のぞが幸せそうに微笑む顔で、胸の中の風船が破裂しそうな程満たされる。扉が静かに閉まるのを確認してから、風の音で飛ばされそうな音量で呟く。のぞを見送って、寒さに身震いしながら足早に家に戻る。家族に気がつかれないようにゆっくりと扉を閉めて、足音を殺して2階に上がった。変な時間に寝て、変な時間に起きたせいか、目が妙に冴えている。やっぱ匂いうつってる!枕やば!めっちゃのぞじゃん。もは...
望海―――あー、やべ。まじ寝してたわ。真っ暗な室内で枕元のスマホを確認すると、午前1時を回っていた。暖かな部屋の明かりは消え、やけに静かだ。寝すぎて重すぎる身体と頭を無理やり起こして、瞬きを繰り返す。目が慣れてくると、机の傍で咲が倒れ込んでいるのがうっすら見えた。俺が脱ぎ捨てた制服は、クローゼットの前のハンガーに綺麗にぶら下がっている。「咲……寝てんの?」そう声をかけても、反応はない。寝る前と同じように...
咲なんで自分の部屋でこんなイライラしなきゃいけないんだ?―――クソ、触りてえ!蹴られても殴られてもいいから、尻撫でまわしてえ!!太ももも背中も、寝相悪すぎて丸見えなんですけど?ボクサーパンツだから尻の窪みまでしっかりと妄想出来るの、無理過ぎる。目の毒すぎて、理性が今にも消えかかっている。―――勃ちすぎてやべえな……。痛すぎてトイレで何回か抜いたのに、部屋に戻ればのぞがいる地獄ループ。1分前に抜いたはずなの...
望海―――咲の布団、だーいすき!枕に顔を埋めて、思い切り息を吸う。まるで麻薬のように、脳の奥にピリピリと快感が広がる。嗅ぎ慣れたシャンプーの匂いと清潔そうな石鹸の香りに混じった、ほのかに香る咲の匂い。―――やっべ、勃ちそう……。もぞもぞと股間を触ると、竿に少し弾力がある。布団を被ったとしても、流石にしてたらバレるよな?咲の布団で抜けたら最高なのに……残念。抱きついても虚無顔だし、生足も興味なさそうだし、ベッ...
のぞを無理やり引き剥がして、保健室のベッドで目を閉じた瞬間から記憶がすっぽりと抜け落ちている。途中で夢を見た記憶もなく、気がつくとのぞが俺の腹を枕にスヤスヤと眠っていた。安心しきった顔で眠る瞼が、先ほどの大泣きのせいで少し腫れている。目の周りの肌が普段より赤みを増して、いつもの数倍かわいく思えた。綺麗な濃い茶色の髪が、カーテンの隙間から漏れる夕陽で黄金色に輝く。頬にも光が当たり、白い肌の表面に薄い...
なるほど……経験なさすぎて、考えてすらなかった。そうだよ。忘れてたわ。のぞ、男にもクソモテるじゃん!!―――え、男イけんの?イけんなら、迷わず俺がイくし!!挨拶しかしない先輩にキスできるくらいだから、友達の俺なら触るくらい許してくれる?そんな不埒な願望がムクムクと増大し、ズキズキ痛む頭に追い打ちをかける。先輩に告られてうざったそうな虚無顔してたから、完全に無理なんだと安心と落胆していたんだけど……。―――て...
咲「咲、これちょうだい。」「え?」「一口だけだから。」「ちょ……!!」「あま。いちごミルク久しぶりに飲んだわ。咲が甘いの選ぶの珍しいね?」俺の制止も聞かず、のぞがパックのストローを口に含んだ。唇についた液を小さな舌で絡めとる姿も、童貞を卒業したせいか、艶かしさが増している。―――なんか、エロくなってない?朝の硬い表情が大分緩み、少し瞼が重そうではあるが頬にも赤みを取り戻していた。顔色よくなってきて、本...
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「なんで引っ越したんですか?」「誰に聞いた?」あと1週間で高校の入学式。咲から電話がきたのは、男に溺れたあの日から数日経った夜のこと。いつものようにビール片手にアルバムを眺めていると、全くならない電話が突如鳴り響いた。一瞬望海からかと期待しながらディスプレイを確認すると、そこには咲の名前。登録はしたが、俺の新しい連絡先は教えていない。無視をするとしつこそうだから、ため息まじりに電話にでる。すると、...
段ボールだらけの部屋で、組み立てたばかりのベッドに転がる。前のベッドは望海の顔がちらついて、仕方なく処分した。望海のために用意した着替えや歯ブラシ、寝具やスリッパ。それをひとつひとつゴミ袋に入れる度に、視界が歪む。終わりにしようと決めたのは俺なのに、思い出だけはなかなか手放せない。実母の写真は破り捨てたのに、望海の写真は1枚だって捨てられない。何度も何度も迷って、結局ゴミ袋から助け出した古ぼけたア...
望海「ねえ!!陽兄っていつ帰ってくるの!?」中学を卒業して、高校の入学式が迫っている。体育祭では3人でメシに行こうと約束していたのに、正月に顔を出してから一度も会えていない。それどころか、咲と初詣に行って帰ってくると、既に陽兄の姿はなかった。俺に挨拶もなく帰ったことなんて一度もなかったのに、としばらく不貞腐れて……待てど暮らせど、いつまで経ってもフォローの連絡はない。業を煮やして連絡したのに、なぜか...
大晦日。澄んだ空気を肺一杯に膨らませながら、煩悩を隠して実家に顔を出した。望海に会うのは、体育祭以来。2ヶ月も空いていないのに、既に毎日会いたくて堪らなかった。少し前なら感情の赴くまま会いに来れたのに、罪悪感が足を重くする。特に父さんと母さんに合わす顔がなくて、ずっと避けていた。これだけ世話になっておいて、その大事な息子に劣情を抱くようになるなんて、俺だって勘弁してほしい。俺が家に到着するや否や、...
「もう!!はるちゃんに言いつけるから~~~っ!!」気に入らないことがあると、望海は俺のところに一目散に逃げてきた。襟元をぐしゃぐしゃに濡らして、宝石のように美しい瞳を深海のように煌めかせて、自分勝手な正当性を訴えてくる。その姿を見ていると理性がぶっ飛び、沸騰しそうなほど熱い血が頭にドクドクと溢れてきた。自分のブラコンぶりを振り返ると恥ずかしいと思う場面が多々あるが、天使を泣かせるなんて悪の所業。俺...
結局あの日から、俺たちはふたりと養子になった。恵さんが言うような選択権なんてなかったし、金も手もかかる大きな子供を2人揃って引き取れる裕福な親戚は、どこにもいなかったから。実母でさえ、家庭を壊されることをひどく恐れていた。写真の中で見た優しい笑顔は幻想で、俺たちを見つめるリアルな視線は驚くほどに冷酷で、無慈悲だった。血の繋がりなんて、何の意味もない。―――家族なんて、いらない。「はるちゃん、夕飯はなに...
陽海―――いつからだろう……?いつから間違えてしまったのか、自分でも分からない。感情の境目があやふやで、いくら探してもその答えが見つからない。見つかったところで、今更どうしようもないのだけれど……ベッドに寝転ぶ無防備な姿を見下ろして、深いため息を吐いた。***望海が生まれたのは、夏休みに入ってすぐのこと。からっとした気候とは程遠く、Tシャツが身体に纏わり付くようなひどく蒸した日。毎日のように最高気温を更新す...
こんにちは!お久しぶりです。皆さま、お元気でしょうか?寒かった日が急に暑くなって、身体の体調崩しそうになりますね。『過保護な花男くん』の続編に続く陽海編を書き終えたので、明日から短編始まります。近親相姦苦手な方はごめんなさい。短編ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。桐生最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!ランキングに参加しています。よかったらぽちっと応援お願いします!!にほんブログ村小説(B...
咲 「今日どっか寄ってかない?」「……どこ?」俺の肩に頭を預け、のぞが嬉しそうにスマホを差し出す。でも、差し出されたスマホの画面ではなく、シャツの隙間に視線が吸い込まれた。すこし伸びた前髪が、滑らかな頬にふわりと滑る。指先で毛先を耳にかけてやると、視線を合わせてにっこりと微笑んだ。「駅前にタピ屋オープンしたって、田中が言ってたんだよね。少し遠回りしてみない?」「タピ?」「タピオカ。」「あー、カエルの...
咲「こ……今野、まさか貰ったの?」放課後、のぞから貰ったチョコを大事に抱えながら部室に顔を出すと、俺と袋を見比べた部員に渋い顔をされた。「何を?」「チョコ。今日バレンタインだろ?お前が貰えるんか?そして受け取るんか?バレたら天使に殺されない??」「ああ、これはのぞから貰ったやつ。」そう言って腕を高くあげて見せびらかすと、悲鳴と雄たけびの不協和音を奏でる。「のぞみんから?え、確かのぞみんと同クラの田中...
望海―――困った。なんか面倒なことになってきた……。「のぞみん、今野んとこ行ってたの?貢物は代わりに受け取っておいたから。」「あー、うん。」 田中から受け取ったものを乱雑にカバンに放り込みながら、チャックが締まらなくなったカバンを見てため息を吐く。―――俺だって、あげたかったのに!!!「なにそれ?」「現国の教科書。借りてきた。」「え?今日って現国ないだろ?焦るからやめて。」「咲のクラスであるんだよ。」「は...
咲「のぞみんが田中に本命チョコ渡してた!!!」1限のチャイムと同時に駆け込んできたクラスメイトが、その一言で教室に爆弾を投下した。それをすぐ後ろに控えていた教師に咎められ、浮ついた教室が無理やり鎮火させられる。でも、俺の怒りは少しも静まらない。田中。それはのぞの唯一の友達。それが今日からは、俺の最大のライバルに変わった。教室で仲睦まじくじゃれ合う姿を何度も目撃しており、やめろと何度も忠告しているの...
望海―――あー、渡せなかった……!!!カバンの奥にしまい込んだプレゼントを覗き込んで、こっそりとため息を吐く。咲は今日が何の日かも知らなかったみたいだし、昔からイベントに無関心なこともよく知っている。赤色で装飾された浮かれた街中を見ても、咲の目には何も映していない。単なる日常の風景として処理され、記憶にすら残らない。先週の土曜日。咲が部活に精を出す中、俺もこっそりと繁華街へ向かった。いつもの性欲を満た...
咲真っ白な息が張り詰めた空気に溶け込み、低い雲が空を覆う。耳が痺れるように痛むけれど、この時間は嫌いじゃない。のぞが家から出てくるまで、あと2分。先月の誕生日にのぞから貰ったマフラーに顔を埋めて、スマホはカバンへ。悴む指先をポケットにしまいこみ、2階の窓を見上げる。白いレースのカーテンが端に寄せられ窓が開くと、のぞが寒さに眉を潜めながら顔を出した。俺を見つけてにっこり微笑むと、跳ねる前髪をキャラ物の...
遅ればせながら、あけましておめでとうございます!!今年もよろしくお願いします。更新もせずに放置しているブログですが、もうすぐバレンタインということで、咲×のぞの短編を書きました。お話の流れとしては『蛇に睨まれたオオカミ』の後の話になります。明日の10時からはじまります。よかったら遊びに来てもらえると嬉しいです。桐生最後まで読んで頂きありがとうございます!!ランキングに参加しています。よかったらぽち...
望海「夏休み、終わっちゃうね。」小さなバケツと花火セット。派手さは皆無だけれど、俺が望んだ最後の夏のイベント。欠けた月が浮かんだ空の下、向かいにしゃがみ込んだ咲が一生懸命ろうそくに火を灯していた。風除けになればと手を翳すと、咲が俺をじっと見つめる。ゆらゆらと揺れる火の光に、咲の顔がぼんやりと映し出される。いつもとは違う咲の顔に、なんだか照れてしまう。見ていられなくて視線を下げると、咲が俺の手に花火...
咲「咲、汗すごいね?」拭っても拭っても滴り落ちる汗を見つめて、のぞがふわっと笑う。「え、臭う?」「大丈夫。俺も汗だくだから……。」そう言いながら、赤ら顔をしたのぞがにっこり笑う。自分から漂う汗臭い匂いに混じって、隣に歩くのぞからはずっと甘い匂いが漂っていた。その匂いに誘われるように、華奢な首筋に鼻を近づける。「のぞは汗の匂いしない。」「え、なんで?背中もびしょびしょだよ?」「……すげえ甘ったるい匂いす...
「で、咲となんの話したの?」「さすがに急すぎない?」玄関に一歩踏み入れてから、靴を履いたまま男を見上げる。男の家は駅から20分ほど歩いた、2階建ての古いアパートだった。立て付けの悪いドアを開けると、中は蒸し風呂のような灼熱地獄。開けた瞬間に、目を瞑りたくなるほどの滝のような汗が額を流れる。玄関のすぐ脇には、段ボールが開けられることもなく乱雑に積み重なっていた。その上にさらに女性ものの下着や洋服が重...
咲の部屋にいるのが気まずくて、久しぶりに陸部に顔を出した。サッカー部が校庭の大部分を占めているから、俺たちが使えるのは端にある空スペースのみ。だからこそ日陰が確保できるから、別に困ることはない。こんがりと焼けた肌の男たちが、ボールを蹴り飛ばしながら何かを叫んでいる。それをぼんやりと見つめながら、木陰で水筒を傾ける。大して動いてもいないのに、休んでばかりだから空になるのが早い。夏休みが、もうすぐ終わ...
望海―――あれから、咲が全然手を出してくれない……。花火大会の日、初めて咲が触れてくれた。嬉しくて、嬉しくて……俺たちの関係が進展する気がして、次の展開を期待してしまう。いつ続きをしてくれるのかと期待して待っているのに、咲はあの時のことなんてなかったかのように平然としている。ベッドで寝転びじゃれてみても、この前のような雰囲気になることはなく、期待しては裏切られる。毎日その繰り返しで、いい加減俺も疲れてき...
咲「今野、私服どうした?」同部屋の3年に声をかけられ振り返ると、俺の服を見て固まっている。のぞがせっかく選んでくれた服を着ているというのに、会う人会う人に同じ顔をされすぎて、意味が分からない。―――俺には似合わないってこと……?「何が?」「いや、それどこに売ってんの?」「のぞが買って来てくれた。」「え?ちょっと待って。今野の服ってのぞみんが選んでんの?」「いや、今回だけ。絶対にこれ着ろって。」「……のぞ...
明日から夏休み。期末試験を無事に終えて、涼しい部屋の中でゲームをしながらベッドに寝そべる。咲の匂いが充満した部屋にいるだけで幸せで、明日からここに入り浸れると思うと頬が弛む。そんな中、咲が思いだしたように口にした。「そういえば、陸部の合宿いつから?」「合宿ってなに?」「え、陸部はないの?」「あー、自由参加だから俺は出ない。」「……そっか。」―――そのニュアンスからして、咲は出るんだよな……?そう思いなが...
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、咲と視線が交わる。俺に格好いいって言われるのが、一番うれしいって言ってくれた。だから、たくさん格好よかったって伝えたい。早く声をかけようと立ち上がったが、俺よりも先に女子が駆け寄っていくのが見えた。見覚えのない制服に身を包んだ女子が、咲を見て微笑んでいる。その姿を見ているだけで、シャボン玉のように膨らんでいた気持ちがピシャンと破れた。―――あー、すげえつまんない……。...
望海―――き、来ちゃった……。咲に内緒で練習試合に顔をだしたはいいけれど、他校なんて初めてでよくわからない。試合時間ギリギリに来たから受付も終わってしまっていて、広い敷地に気持ちが萎える。どうしようと思いながら校舎の方に向かうと、肩を叩かれた。「試合観に来たの?」「え?」「そっちじゃない。」見覚えのあるジャージ姿の男に手首を引かれ、スタスタと歩き出してしまう。その後ろ姿を見つめていても、男の顔には見覚...
全くやる気のなかったのぞが、瞬時に笑顔を消した。いつもの柔らかな雰囲気を封じて、代わりに全身から気迫が満ちる。エロ目とアイドル鑑賞で来ていたギャラリーがどよめく中、のぞひとりだけ別空間にいた。みんなが予行練習に余念がない中、目をしっかり閉じたまま微動だにしない。身体を使って覚えるのではなく、のぞは頭の中ですべてを完結できる。―――のぞ、やる気だ……。「胡蝶、大丈夫か?具合悪いならやめとく?」心配した西...
咲のぞがバーを見つめて、軽く助走をつける。バーに近づくにつれてスピードが増して、体重をかけて踏み込んだ。そのまま空に向かって身体がふわりと浮き上がると、バーからかなり高い位置を背中が通過した。そして平行に身体を保ったまま、ゆっくりと着地する。数秒で終わる僅かな時間だと言うのに、スローモーションのように優雅に見えた。先月まではさみ跳びしか出来なかったはずなのに、今は1年で唯一背面跳びをマスターしてい...
昔やりとりしてたメアド使えなくて、こちらで名前叫んですみません!こんばんは!お久しぶりでございます!!すごい前の話なんだけれど、もしかしなくてもコメント頂きましたか……🫨コメントほぼもらわないからどスルーで、昔のコメント見ながら元気出そうと思ってたら、えりりんの名前を見つけました。過保護の花男くん読んでくれて嬉しい!!LIVEにお芝居に、昔と変わらず元気そうです何よりです☺️俺も腸活してる。違う意味で笑元...
望海放課後、咲にユニフォーム姿を見せたくて電話をかけたのに、なぜか繋がらない。いつもはワンコールも待たずに電話をとる咲だから、電話に出ないのは珍しい。体育館まで距離はないから、その姿のまま部室に顔を出した。「え、のぞみん!?」部室を覗くと、ちょうど部活を終えた部員が着替えている最中だった。ラッキースケベだと思いながら咲の姿を探したが、奥まっている造りのせいで入り口から奥まで見えない。―――あー、残念...
咲「さっきの体育、のぞみんTシャツ着てなかったって。」―――は?次の授業は理科の実験。そろそろ理科室に移動しようかと腰をあげると、小走りで教室に戻ってきた木村が息を弾ませながら爆弾を投下した。思わず顔を上げると、木村と視線ががっちり噛み合ってしまう。俺を見つめてあからさまに狼狽えながらも、小声でぼそぼそと話し続ける。「乳首透けてたらしくて、エロいってD組が騒いでた。」「マジか。見に行く?」「え、男の乳...
「のぞみんの彼女ってどんな子?」「え?」咲の委員会が終わるのを大人しく待っていると、同じく彼女の委員会が終わるのを待つ田中が話しかけてきた。「いや、昨日シたって話してたから。」「あー、彼女じゃない。」「え?」「初めて会った子だから本名も知らない。」「……・え?」むしろ、女ですらない。田中が面白いくらいに口をあんぐり開けながら、俺に近づいてくる。咲と違ってリアクションが大きい田中は、単純に話しやすい。...
「電話なんででなかったの?」結局まっすぐに体育館に向かう気分になれず、図書館で時間を潰して……部活が終わるチャイムに合わせて、慌てて体育館へと走った。体育館を覗くと、タオルを首にかけた咲が俺を見つけて睨んでくる。いつもならさっさと着替えているはずなのに、俺が来るのを待っていてくれたらしい。その視線に笑顔だけ返して、機嫌をとろうと腕に絡みつく。「喋ってて気がつかなかった。」「誰と?」「田中。」「……あい...
望海「のぞみん、なんかあった?」「何が?」「昼休み終わってから、顔がずっと怖いから。」「わり。」「別に謝らなくていいけど。」田中と一緒にテニス部に顔を出すと、おがっちに睨まれたけれど田中の背中に隠れてやり過ごす。体操着に着替える田中の背中を見つめながら、自分の背中を思い出す。俺と同じもやしだと思っていたのに、咲ほどではないけれどちゃんと筋肉がついていた。着痩せするタイプなんだなって思いながら、肩甲...
「B組の舞ちゃん、のぞみん狙いだって。」「え?あの子って進藤と付き合ってなかった?」「別れたんじゃね?」「ま、胡蝶ちゃんだもんな。そりゃ進藤でも負けるだろ。」のぞの話をしている男たちの声が、自然に耳に入る。それには気がつかないフリをして、耳だけ男たちに向けながらスマホを見つめる。「そういえば、先輩たちもD組の廊下にいないよな?いい加減飽きたのかな?」「違うって。志村先輩の怪我、知らねえの?」「あー、...
咲のぞが隣の席の女を見つめて、ため息を吐くのが視界の端に映る。俺といるのがそんなにつまらないのか不安を覚えながら、大学生くらいの女に視線を向けた。肩まで伸びた髪の毛先はカラーで痛んでいて、滑らかで艶やかなのぞの髪とは雲泥の差。ステンドグラスから伸びた光が、のぞの柔らかな髪を優しい彩色で照らしていた。のぞと女が並ぶと、お似合いとは言い難い。―――まだ、俺の方がマシじゃないか?いや、おこがましいにも程が...
「え?なんでカラコンしてんの?」地元の改札を抜けると、怖い顔をした咲が待ち構えていた。俺を見つけるとほっとしたように緊張を解いたが、見慣れないカラコンに眉を潜ませる。「え、あー……この目だと目立つから。」「瞳の色変えたところで、そんなに変化ないけど……。なに買ったの?」「いや、何も。試合はどうだった?」「勝った。」「よかったじゃん。」「明日は予定あるの?」不安そうな咲に見つめられて、微笑みながら腕に指...
はじめて降り立った新宿駅は、迷路のような複雑さだった。駅構内や周辺の地図を頭にいれてきたけれど、実際に歩くと人の波に簡単に流されてしまう。地元の駅とは比べ物にならない人の多さに眩暈を覚えながらも、初めて出会うゲイを想像して不安や恐怖と同じくらい興奮しているのも確か。人に溺れそうになりながら目的の場所に辿り着いた頃には、額から汗が止まらなくなっていた。知らない場所というのは、いるだけで疲れる。ひゅう...
「おはよ。」「……うん。」昨日の今日ですごい気まずくて、咲を見ることが出来ずに俯きながら学校に向かう。咲の視線を痛いほど感じるけれど、その視線を受け止める余裕がない。「俺、なんかした?」「心当たりがあんの?」「い……ええ?まさか、起きてたの?」「なんの話?」「……なんでもない。」咲が無言の空気に耐えかねて、不安げにそう質問をなげてきた。いつも仏頂面の咲が、珍しく百面相をしている。その横顔を見つめながら、...
望海「のんちゃん、ぼくと結婚してくれる?」ふたりで弾まないボールをリビングで転がしていると、咲が突然そんなことを言い始めた。忘れかけていた子供の頃の記憶。あれは都合のいい俺の夢だったのか、今はもう判断がつかない。「結婚?」「ずっと一緒にいられるお約束すること。」「さっちゃんと一緒にいられるの?」「うん。ずっと一緒にいてくれる?」「いいよ。毎日ゲームできるね。」俺がそう返事をすると、咲の顔がぱっと華...
俺が精通を迎えたのは、小学5年の終わりだった。落ち着くから、気持ちいいから、そんな軽い気持ちで触っていたそこが、たまに硬くなることは知っていた。硬くなったそこをさらに擦ると単純に気持ちがよくて、気がついたら癖のようになっていた。いつものように何気なく部屋で弄っていると、手が透明な液で汚れていた。「はあ?」という何にキレたのか分からない感情が沸き起こるのと同時に、尿とは異なるそれが精液だと気がついた...
咲「え、このタイミングで寝る?」俺の胸の中ですやすやと眠るのぞを見下ろしながら、思い切り脱力する。教室でもこの調子ですやすや眠っているんじゃないかと、マジで心配になる。担任は鬼怖いと有名なおがっちだから、他の生徒が何かしたりはできないと思うけれども……のぞは小学生の頃から本当によく眠るから、油断できない。小学校の頃は教師に起こされて、家族と勘違いしてキスをした前科がある。―――やめてくれ!絶対にやめて...