理恵子の通う高校は、街の北外れに位置する小高い丘陵の上にあり、校舎裏のなだらかな広場は生徒達に人気のある憩いの場所である。新しい芽をふいた欅の大木を中心に広がる芝生の草原は、街の中ほどを流れる川、それに沿って奥羽本線の鉄路が一望できる、この街唯一の眺望の良い場所でもある。理恵子は、母亡きあと遺言にもとずき、周囲の人達の同意を経て故人の望んだ通り、山上健太郎・節子夫婦の養女となり、三人が仲睦まじく日々を送っていた。奥羽山脈の残雪が初夏の青空に映え、初夏の陽ざしがほどよく照り映える柔らかい芝生の広場は、土曜日のお昼どきは各グルーフ毎に弁当を広げる生徒の輪でにぎあう。中間試験を悲喜こもごもに過ごした生徒達は、この時期、新しい友達も出来て開放感で明るい表情に満ちて、各競技の対外試合をはじめ、夫々の部活の練習や打ち...蒼い影19)