白銅と二人、黒犬からおりたてばそこは二人の住まいの外裏庭におろされた。「念のいったことだ」白銅がつぶやく。「念がいっている?」「そうだろう。裏口におろしよるのだから」なにが念入りなのか、やはり、わからない。「わしは、はらがへった」「ああ・・」裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。 「うまく、いったのでしょうか」雷神はいづなを無事にすくいだせたのだ...
白銅と二人、黒犬からおりたてばそこは二人の住まいの外裏庭におろされた。「念のいったことだ」白銅がつぶやく。「念がいっている?」「そうだろう。裏口におろしよるのだから」なにが念入りなのか、やはり、わからない。「わしは、はらがへった」「ああ・・」裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。 「うまく、いったのでしょうか」雷神はいづなを無事にすくいだせたのだ...
「榊縅之輔の思念の中に、大きな白い犬が映ってくるこれは、たぶん、犬神の大元、前世の最初ではないかと思うのだ」白い犬と一口で言ってしまうと法祥には判らない事であろう。「白い犬というのは、人間になりたい、と、思っているのだ」やはり、法祥は得心できない。「犬が?犬が、人間になりたい、と、思う?じゃあ、輪廻転生で、場合によっては私が、元は白い犬だったということだってありえる?そんなことが・・・」「あるだろ...
庭に向かう細長い縁側に座布団をひとつおいて、私は庭を眺める。縁側のむこう床の間からは、キース・リチャードが流れてくる。暖かな日差しが差し込み、私は窓を開放する。庭と空間を共有すると、風が懐かしい香りをはこんできた。私の妻がうえた、金木犀が右に左に銀木犀。二本の木が花を咲かせ、その香りがあたり一面を占有していた。私と妻は見合い結婚だった。5つも歳が離れていたが、仲はよかったと思う。私の仕事も順調で、...
なにか、妙だと感じただけの法祥であったが白銅は妙ではなく、はっきりとなにかを見抜いているのか「白銅さん・・良くない・・というのは?」「みっつ、ある」「みっつ・・・も?」「ひとつは、お前が聞いてきたことの裏だ」法祥はまだ、なにも白銅に告げていない。女の話がきこえる場所に居なかった白銅である。ー私を読んだということだろうか?ーだが、わざわざ読まなくても良い。じきに、法祥自ら伝える。取り敢えず、法祥が聞...
昼には、烏丸まで、と、思っていたが鴨川縁に、人だかりを見た。それで足が止まったのだが、人だかりの真ん中に、あの口入屋の男がいる、と法祥がいいだした。「どれだ?」「あの、背の高い男です。着物を羽織っている、あの男です」妙な言い方をしているが、素裸に着物を羽織っているのではない。普通に、着物をきておいて、もう1枚薄手の麻かなにかの着物を羽織っている。羽織を重ねる様にもう1枚、着物を羽織る姿は上背があるか...
「ちっ」 口の中の小さな舌打ちだけが、今見たことを忘却の向こうに流しさることを拒む。 蛮骨は木陰の戯れが静まり一つの影が二つに分かれてゆくのを待った。 樫の木にもたれかかり、いつまでも滑らかな快さの余韻に浸っているのは、蛇骨 と 睡骨 である。 寄る辺の無い愛は無性に「誰か」をほしがる。 蛮骨とて、判りすぎている寂寞である。 「かといって、何も・・・」 仲間内に「誰か」を求めなくても、良かろうと...
いつもの、図書室に変化があった。 ジャニスのお決まりの席は、閲覧室の隅の窓際のテーブル。 そこでの昼休み。 ジャニスは本を開く。 だけど・・。 この前の昼休みから、決まって、巻き毛の青い瞳の転校生がジャニスの向かい側に座った。 無言のまま、向かい合わせのまま、本を読む。 一週間が過ぎる頃には、ジャニスは無言の来訪者を待つようになった。 彼は決まって、ジャニスが座ったあと、5分ほどすると、現われ、 本棚の中...
病院の当直をおえると、北原さんが、横にならんだ。彼女も同じ当直番だったが、病棟が違う。職員玄関で、タイムコーダをおしたあと、すぐに、北原さんがやってきた。並んで駐車場まで歩くことになった。病院の隣にある駐車場まで歩く時、患者のうめき声が聞こえてきた。入院病棟は駐車場に面して建っているから、時折、患者の大きな声が漏れ聞こえてくる。「今日、搬送された男の人だよ」北原さんはその声の主を教えてくれた。「や...
萩尾望都作「ポーの一族」より ―キリアン・ブルスウィッグに捧ぐ― 少し、けだるい昼下がりだった。 キリアンはもう一度鏡を見なければいけない。 今、鏡に自分の姿が映らなかった。 そんな気がした。 恐れていた因子がとうとう増殖しはじめたのか? バンパイヤであるエドガ―に血を吸われ 昏睡に陥ちいったマチアスが目覚めた。 キリアンはそのマチアスに噛まれてからこの五月でまる二年になる。 キリアンは変化を恐...
朝食を戴くと、さそくに、足駄をはむ。大師も寺の外まで出て、二人の出立を見送ってくれた。「おまえは、三井寺には寄ったことはないのか?」都まであないするというくらいだから、そちこち、顔をだしていそうな気もする。「いえ、私は・・行方をくらますに必死でしたから」そうだった。生き残ってしまった法祥が都近くに居れるわけはなかった。「最初に、導師にかくまってもらって、それから、あちこちうろついて死ぬべきだろうと...
三井寺の船場があるはずだと、探していると人影が岸辺に立ち、白銅らに手をふっているように見える。ようよう船が近づいていくと人影の姿がはっきりしてきた。ー大師だー三井寺の大師自ら、供連れもつけず一人、岸に寄るとは、いかなることだろう。そして、白銅たちを待っているようにも見える。大師は、寄ってきた舟を繋ぐ場所を指示すると白銅と法祥に深く頭を下げた。舟を繋ぎ終え、岸にあがると大師は、改めて 二人に合掌した...
「ところでの、おまえはなぜ、銀狼が、邪な神だというか、わかっておるのか?」「先にいわれたように、憑りついて・・・」法祥の言葉を半分も聞かぬうちに白銅は違うと首を振った。「憑りつくと守護するの違いは判るか?」「憑りつくは、憑りつく側の身勝手で相手を利用している。守護は、相手の為だけを考えて守っている」「ふむ・・・おおかたは合っているがの大きな違いは、相手の根源力を増やすか減らすか 場合によっては生き...
もう小半刻たつだろうか。法祥も白銅も言葉を交わす事なく魯をこぐ音と水音だけが、舟のうしろへ流れていた。悟るとは、さあと取れる事を言う。法祥は考えても考えてもさあ、と、取れるものを掴めずにいる。考えるだけ、無駄と言っても良い。「法祥、おまえは、なにを考えるか判っておらぬ。わしが、いうたのは、 自分で ということを考えろというたのじゃ」転がりだした岩を止めていたのは、小さな木であったろう。その小さな木...
白石からもやいを解くと、いよいよ、白銅が舟をこぎ進めていく。座り込んだまま、白銅の魯さばきを見つめる法祥になる。「手慣れたものですね」「いや、わしは、これで二度めじゃ」勘が良いのか、一度めでよほど漕いだか二度めとは思えぬ魯さばきと思う。自分と比べるからそうであって漁師と比べれば 違うのかもしれない。「必死だったからの」必死で漕がねばならなかったという故は尋ねないことにして、法祥なりに思うことがある...
白銅と法祥である。長浜の浜で舟を一艘借り受けた。長浜の青龍を護る陰陽師、白銅であればと、舟こそ貸してくれたが、いつ帰れるか判らないと告げたため漕ぎ手を断られた。漁師に任せたほうが、よほど早いのだが、無理をいえぬと二人で交代しながら、魯を漕ぐことにした。のは、良いのだが・・・白銅は、竹生島に草なぎの剣を探し求めたときにほぼ、一人で漕いだ。不知火は、「慣れておけ」と、そしらぬ顔だったが、今、まさに、今...
「建御雷神という、雷神からやはり、いづなを考えてしまうのだが・・・考えてみると、奇妙だと思える」なにが、奇妙だというのだろう。善嬉がしゃべりだすのをじっと待つ澄明に成る。「奇妙だと思うのは、いづなが 銀狼に転生していながら、なぜ、元々の一族に、憑かなかったか、と、いうことだ」「それは、雷神の呪詛が・・あったせい・・あ?」澄明がなにおかに気付く。「だろう?雷神の呪詛があったとて元々の一族に憑く、この...
「竈の神は、八代神の娘婿だという。ある時、竈の神は、八代神の怒りにふれて、地上に落とされた。なにをしでかしたのか判らぬが、それから、竈の神となり、人間の行状を八代神に伝えるように成った。と、いうことだ」それが、なぜ、銀狼との因になるというのか?「銀狼が、なぜ、ある一族のみに、憑いているのか、それは、手繰れぬ。だが、銀狼からすれば伴侶といっても良い相手を結果的に、堕としてしまう。これは、竈の神もまた...
「この前の銀狼、いえ、いづなの件は解決したのですがどうやら、新しい銀狼が、でてきたらしいのです」首領格がいなくなれば、次の者が台頭してくるのは、自明のことよ、と、善嬉が頷く。「その銀狼の出現に気づけずにいたところに法祥と竈の神が、銀狼が出てきたと伝えに来たのです」法祥は、心中の片割れだった伊予と木乃伊の関藤兵馬に八十姫と重臣孝輔をさらえて、成仏させている。あの水枯れの騒ぎのあと、八十姫らの塚には、...
久方の休日であるというのに総司は、書庫の中である。 一冊の本を手に取ると其の場所に立ち尽くしたまま、 書かれた流暢な文字に目をおとしてゆく。 「沖田はん。お昼どすえ」 した働きのお勝が呼びに来た前で、 総司は本を書棚に戻すと大きな伸びをしながら 「もう・・・そんな刻限か」 と、笑った。 「お好きどすなあ」 朝に総司を見たきり、それきり部屋にいなくなった。 また、書庫の中にはいりはったと、お勝は見当をつけてい...
其の一 悲しい事があるとレフィスはよくこのデッキに立った。 風が吹く。雨がどこかで降っているせい。 ちょうど、あの日もこんな天気。 一陣の風が吹いて途端に大雨。 親友だったティオが死んで、三年と二ヶ月も経った。 小さな頃から一緒にいて、二人で航海士になるのが夢だった。 今日は船の仲間の誕生日を祝った。 シャンペンを開けてコングラチレーション。 嬉しそうな彼の顔を見ていたら、たまらなくなった。 誕生日の少し前...
一時期・・・本当書く気になれないという時期があって、知ってらっしゃる方はまあ、いいとして。。知らない方・・・。リンク参照の白蛇抄やSOⅡシリーズ、他短編や書き下ろし・・・。自分で言うのもなんだけど、出来具合は棚上げしてカナリの数量とかなりの文字数を費やした作品群がある。特に白蛇抄。SOⅡシリーズ他数編に置いては1年位の間に・・かきあげていて、集中的には半年位・・で、8割がたを書いていた。ざっと計算して...
*****此処に『空に架かる橋』を連載しているときに皆様から頂いた、コメントを編集しました。文字総数1万6千文字。憂生を支えてくれたアトラス神の言霊集です。 ********「空に架かる橋」の連載をふりかえっている。at 2004 10/31 13:24 編集ブログに。いつも、いつも、コメントを下さる皆様。ありがとう。「空に架かる橋」は、憂生自身、どううけとめられるか、不安な代物です。誤解されやすい表現を含んでいるし、憂生の練りこ...
1ひょっとこの女将とてつないのお弓が口をそろえて、ほめそやす。浮浪のだんなは、その話を黙ってきいているのか、酒のつまみにしているのか。「それがさ、ほんとに、目の前さ。ねえ、お弓ちゃん」「うんうん」と、頷くお弓の頬が上気しているのもわけがある。「そりゃあ、見事な采配だけど、それだけじゃないんだよ。これが、いい男っぷりでねえ」お弓の上気のわけはそれらしい。「胸がすくっていうのは、こういうことをい...
1夫がセカンドカーを仕入れた。ためすがめつ、納車された車をみているとなんだか、不穏な思いがわいてきていた。ーなんで、こんなきれいな車があんな値段で手放されるのだろうー破格といえるほどの改造も惜しみなく施されていた。なにか、触りたくない。乗りたくないという思いがわいてきていた。嫌な思いは、はっきり私にささやいてきてもいた。ー事故車じゃないか??ーだが、夫が懸命にワックスをかけたり細かなところま...
1精神に関わる話として、いくつか、あげてきた。その中で、直接にしろ、間接にしろ、霊・霊現象・霊の存在が関わってくる。このあたりで、精神と霊というのが、切り離して考えることはできないという気がしている。憂生が、不思議となんらかの窪みをもった人間とかかわってしまうのを当初、究極的にはーなんとか、してやりたいーという思いがあるせいだとはおもっていた。それは、天王星人の宿命みたいなもので、仕方がないのだろ...
1いくつか、同時多発的におきた精神にかかわる「物事」をあげてきたが、この内容をあまり詳しくはかきたくないとは、思っている。と、いうのも、実在の人物であり、本人はむろん、まわりで、関わった人も二次的なショックをうけるということがありえる。実際のことであるが、たとえばとして、二次的ショックのひとつをあげてみる。本人が抱えている状況を知らず、心無い嘲笑やいやがらせを行う。と、いうことがあった。その当時、...
1彼女は聡明なひとだった。才媛というのに近いだろうか、チャット(足跡)の中に短歌が混ざりこんでいた。一見で、目をひく。言葉選びもうまく、独特な世界観をつくっていた。およばずながらと、こちらも、短歌で返礼した。すると、返歌がくる。それに返す。また返歌が来る。そういう繰り返しが何度かあったのがきっかけで話をするようになったように記憶している。こういう些細なきっかけで個人的な話をきくようになることが多く...
1簡単にこういう意味だろうと想像して使用するところがおおかったのが、アニマという言葉だった。意味合いは単純に、原初的性格あるいは、コアになる性格、と、いう意味合いに捉えていた。これにマニアックという言葉究極・・物事を突き詰めていく。と、いう言葉がかぶってしまい勝手な解釈をしていたので、マニアの本来の意味をしらべにいってきた。下記によると、憂生が書こうとしているのはアニムスになりそれは、最後にかかれ...
1自分でも、どこから、話していけばいいか、わからない。まず、一番、最初におきたこと。カフェにのさばりだし、好き勝手をほざいていた、そも最初のころだだった。あるとき、ひとりの女性が憂生にちかずいてきた。そして、話が後先になるかもしれない。現状の結婚生活に不満をもっている。だんなにときめかない。など、愚痴というか、悩みというかそんな、ことごとを話してくれた。憂生の持論に夫婦は一生、添い遂げるべきだ。と...
1境界認識障害、と、言うべきだろうか?よく、知られているのが、認知病といわれる、わりと、高齢の方にみられる一昔前でいわれた「ぼけ」のような症状ではないかと思う。さっき、ご飯をたべさせたばかりなのにーうちの嫁は飯をくわせてくれないーと、近所にいいふらしにいったりとんでもない遠くの実家に、それも、もうすでに亡くなっているご両親にあいにいくとはだしで飛び出してしまい迷子?迷婆・迷爺になってしまったり貴方...
白い朝に・・を揚げながら思い出すことがある。 ネッ友と言うことになる。彼は、双極性障害だった・・と、話してくれた。双極性障害だった、と、過去形だったのは最終的に巡り合った名医のおかげで回復し、もう数年以上、双極性障害の症状がでておらず名医から、「もう大丈夫ですね」と、太鼓判を押された。と、いうことで、過去形の話だった。ところが、もうしわけないのだけどいろいろな事情・環境をきくこともあった...
私がのちにはっきりと自分の妙なセンスを自覚することになるそも初めが彼だった。春半ば、友人の結婚式に招かれ、私は岡山にやってきた。中国地方いったいには私の親戚が何人かいて、そのつてをたどり、のちに私がこちらにくることになるとは、この時はひとつもおもっていなかった。旅費を浮かすために、叔父の家に宿泊を頼んだため、結婚式前日に叔父の家にはいることになった。さっそく、酒をくみかわすことになり、従兄弟も階下...
1私自身に妙な能力があると、気がつきだしたのは、知人の死を予感したことに始まった。当初、予知していたことにさえ、気がつかず今もその結果をみないと予知していたことに気がつかないという能力である。その最初は、一種、自分の思いにとけこんでしまうもので、自身、「縁起でもない」と否定してしまったり、「見納めだな」などという言葉には、「死」でなく、この人とは、もう逢うことがないのだろうという、縁のなさだと受け...
「くそ~~~~~~~」朝から殿が大きな声で喚いております。お食事だって、言うから新之助は控えて食の間の外で待っております。でも、あんなに殿が怒っていたらその声、いやがおうでも、新之助に聞こえます。どうしたんでしょね?やっぱり、新之助、気になって見にいっちゃいます。「どうなさったのですか?」そっと、たずねる新之助に一目もくれず殿はやってきたお女中を怒鳴りつけます。「いいか、そんな奴・・かまゆでの刑じ...
今日もこそこそと、師範の留守をねらって、剛之進と逢引をしようと師範代は師範の部屋にやってきたのですが・・・・。「おりょ?」留守のはずの師範の書斎の中になにやら、人の気配。どうやら・・・、師範の書斎を逢引の場所に使おうなんて考えはポピュラーだったようで・・・。ふむ・・先を越されてしまったと腕を組んだ師範代。待ち人きたらず状態では、場所をかえるわけにもいかず、剛之進がくるまで、「やれやれ・・ここで、ま...
お久し振りです。 新之助シリーズ・第9弾を始めようと思っていますが、 このお話も いくつかの前置き・・・ 落語で言えば、ネタ仕込みをしておかねば うまく伝わらないことがあります。 現代話に慣れていらっしゃる方には よく判らない用語?もありますので、 むかしかたりを含めて 地ならしをしてみようと思います。 大きくは二つのキーポイントがあります。 用語としては、 団子と田楽で・・・。 なんじゃ? そんな食い物知って...
瓜割り・・・/前置きです。 まずは題名ですが・・・。 瓜割りに致しました。 そのまま、「うりわり」とうちこんで、 変換をかけますと 「瓜破」と変わりますが・・。 この「瓜破」は、女性側の初喪失をあらわす言葉であり、 本編の場合は女性側でもなく、 今では、初喪失でもない物語に相成っておりますので、 「瓜破」では、意味合いが違ってきます。 では何ゆえにそれでも、 一種女性器の隠語とも解釈できる、『瓜』という、 言...
例のごとく。 師範代の控えのまでございます。 そこにぽつねんと・・・ 今日も剛乃進は師範代を 待っておりまする。 大根事件がまだ、目新しい?読者さまは きっと、剛乃進がまた、なにかやらかすと、おもってるでしょう? あたり!! おおあたり!! あ~たはするどい!! なんて、ほめてる場合じゃないな。 待ちぼうけの剛乃進の観察日記?を つづけてゆきましょうか。 恋敵・・・2 剛乃進が待てど・・・師範代はやっぱり現れな...
剛乃進である。 あれから、師範代と 妙な仲になりたいという 困った欲望を 妙なところがうったえるのである。 「う~~ん」 なんだか、妙にもよおしてくるのだが、 剛乃進を慰める師範代は まだ、あらわれそうにない。 「なにか・・・」 師範代の変わりになるものはないものかと 剛乃進はあたりを見渡した。 が、ない。 道場の師範代の控えの間で 剛乃進はさっきから師範代をまっているのだけど・・・。 「はやくこないかなあ・・...
やっぱし、物語?になるんだよな。 つ~~ことで。 「剛之進」 いきます。 剛之進・・・・・その1 題名が剛之進で有るに、関わらず 新之助である。 出仕が叶い、新之助は殿の傍役として、 重鎮にあたいする存在になったのであるが・・・。 今日は久方ぶりの連日非番の初日である。 しばらくぶりに道場に顔をだしてみようと、 出向いた新之助である。 で、あるのに、 「あれ?」 誰も居ない。 う~~~ん。 よくよく、考えてみれば...
与一~~~!!/其の壱 新之助。 今日は殿の弓のお稽古に 同道である。 やってきたのは、 城内のはずれに作られた弓道場。 早速殿に弓をささげ渡す新之助である。 「どりゃ」 みておれ。 あの、的に当ててみせる。 矢をつがえると、 一射!! 「お見事」 新之助の賛辞をききながら、 殿はおもしろくない顔である。 矢は的のど真ん中を見事に射抜いている。 「どうなされました?殿?」 なんで、そんな苦虫を噛み潰したお顔をなさ...
黒~~~~!!/其の① 新之助。 今日は馬術である。 殿は例のおひんにまたがり 颯爽と 新之助は もう一頭の馬。 黒にまたがり・・・。 またがってない。 それどころではないのである。 あぶみをつけようにも、 黒は否否否~んと、 にげまどう。 新之助は 背中にのせてもらえないどころか、 黒にくいつかれ・・・。 「殿・・・さては、こうなるのがわかっておいでだから、 新之助に黒をおしつけたのですね」 「だって・・・。黒はい...
殿~~~~~!!/其の一 春。 爛漫の春。 桜。花開き 家老、野原新左衛門も 胸を撫で下ろす。 嫡男である新之助の 主家へのご奉公がかなった。 それだけではない。 新之助は 若殿の近習に抜擢された。 いきなりの異例の出世である。 もちろん、 父である、家老の新左衛門の七光りもあろう。 若殿がこのたび 跡目をついだという 実権の交代もあった。 上に新之助とは 年齢的にもかわらぬ殿である。 腹心の存在。 これが、殿の必要...
―どっちにしろ、レオンと一緒じゃないんだ―よく判らない生物の採取とその生物の生息する環境調査を依頼された、クロードはメンバーの中に肝心のレオン博士がいない事が判ると大きなため息をついた。おまけにおっちょこちょいのアシュトンと、非常に無口なデイアス。それがメンバー全員だった。「えー?ありー?」残念そうなため息をついているのはクロードばかりじゃない。プリシスと久しぶりにパーテイを組めると、思ったアシュト...
「で?」 レオンがプリシスに掴まってる。 なんの用事?と言う前にレオンの顔を見てやって欲しい。 困ってしまってるレオンの顔は、 なんで、僕にそんなこと聞かなきゃなんないのっていってる。 レオンの困ってるのなんてお構いなしに さらにプリシスは訊ねてる。 「ねえ。レオンなら知ってるでしょ?そうに決ってるじゃない」 「僕・・・」 「ね。教えて」 そんなこといったって・・・。 レオンが困るのも無理はない。 プリシスっ...
あっちもこっちもそれなりにそれなりに・・・ 『うまくいってるじゃないかよ』 ボーマンはつぶやいてる。 ボーマンがいろいろ暗躍したのは、言うまでもないことだけど なのに、ボーマンは 「ふー」 って、ためいきをついている。 「あん?どうしたのさ?」 って、そんなボーマンをレオンが覗き込んだ。 「あーん?」 ちっ。こいつも、あいかわらず、うまくいってやがる。 ちっとも、ボーマンになびかないレオンの瞳を 真正面から捉...
さて、そろそろ、イッツも終わりにしようかと思ってるんだけど、いくつか気になる事がのこっちまってる。そう、たとえば結局ボーマンとプリシスは和解できたんだろうか?とか。セリーヌとクリスは結局うまくいったんだろうか?とか。安定カップルであるデイアスとレナはやっぱしあいかわらずなのかい?とか。レオンとクロードも平穏無事なのはちょっと物足りない(え?)とか。そんなことがちらついてきてしまったから結局セクシュ...
お話が後先になってしまってイッツ・オンリー・ユアマインド④を読んでくださった人は一体ボーマンとセリーヌに何があったのかと非常に気になっておられる事と思う。やはり、書いておかねば要らぬ心配をかけ、かつ好奇心が満足しない事であろうと思う。ボーマンは足を早めた。どうにも気になって仕方のないことをそのままにしておくことは出来ない。と、なると自然、足はセリーヌのところにむかってしまう。そう、それは、この間、...
何とかアシュトンとの仲も元通りになったプリシスなんだけど、心のそこにへばりついた不安まではどうしても取り除けはしない。その不安というのはもちろんアシュトンの中に芽生えた受けの性癖のことであり、それがまたボーマンを求めさせちゃうんじゃないだろうかと、いうことである。だから、あれからプリシスはアシュトンの無茶な要求にも、随分素直に従っている。ボーマンの口からアシュトンとの事を聞かされた後、プリシスは本...
ボーマンの横にアシュトンがいる。レオンの所に薬品を持っていったボーマンの後をアシュトンがくっついて帰ってきた。閑と言うか、することがねえというか、どっちも同じことだけど「おい。プリシスん所にいかねえのかよ?」と、やんわり断りを入れてやったら、なんだかショボけた様子で「だめなんだ」って、いいやがる。「なんでだよ」って、いうボーマンに「なんでも、いいだろ」って、返した言葉がどうにもうさんくさい。「なん...
午後の日差しが柔らかくなり始め、暮れ色が レナの部屋の中に広がり始めていた。 ノックの音にレナは立ち上がった。 「どうぞ……あいててよ」 さっきまで一緒だったデイアスのノックの音じゃない。 誰だろう? セリーヌが現れるわけがない。 彼女の誘いを断る理由がデイアスの来訪のせいだとわかると 「と、いう事は…。私、お邪魔虫にだけはなりたくありませんわ」 と、レナとデイアスの時間に水を差しに来ないことを約束していた。...
ボーマンとアシュトンとデイアス。 三人が押し黙ったまま揃いもそろってうんざりした顔をして テーブルを挟んでそれぞれ好き勝手な格好で座り込んでいる。 それもそのはず。 約束の時間が過ぎてるのにレオンとクロードは現れない。 すぐドアを挟んだ隣の実験室に二人はいる。 呼びにいきゃあ良さそうなものだけど さすがにその役を買って出る者はなく、 早くすませろよって内心皆は祈りながら黙りこくっている。 「なんで・・・実...
「ディアスゥー」 夏の夜風にあたりながら テラスで酒を呑んでいたデイアスの側に アシュトンがやってくると情けない声をだした。 「なんだ?」 「あの、部屋かわってくんない?僕、眠れない」 「あ、ああ。わかった」 アシュトンの隣の部屋にはクロードとレオンがいる。 (そういうわけか) テーブルの上に投げ出してあった部屋の鍵をつかむと アシュトンに投げてやった。 アシュトンがほっとため息を付いてディアスの部屋の鍵を...
旅に出てもう随分たつ。 とっくに地図のなかからつぶれたような道を辿った。 旧ナルハ街道をあがりゴーフェルムにつくのには もう、2、3日かかるだろうか? 最後のモンスターの拠点をくだけば、この長い旅も終る。 クロードのいった通り、今回はかなり厳しい旅だった。 おまけに随分暑くなってきてもいた。 野営を張る。 野宿する時の焚き火はどうしても必要だが こう暑くなってくると、 皆、火の側から離れて寝るので、 あまり...
(あぁ、昨日の事、夢じゃない) 確かな温もりがすぐ傍にある。素裸の身体。 (クロードの嬉しげで満足な顔見てたら、僕もなんか嬉しくて、ほっとしてそのままクロードに抱かれたまま…寝ちゃったんだ) レオンは起きて服を着た。 (クロード…もう、僕だけのクロード) 「ねぇ、起きてよ。クロード」 「…」 「もう、起きて。僕お腹すいた」 昨日、まともに食べてないのさえ、忘れていた。 レナの事でショックを受けて、それから、突...
ファンシティに着いたクロ―ド一行。彼らは久しぶりに町に来たせいか、大いにはしゃいでいた。束の間の逗留にすぎないのだが、安らげる場へたどり着けた事が心をうきたたせていた。もちろんクロ―ドもその一人だ。「あそこの角の宿屋をとっておくからな、それじゃ解散」彼の声に皆が応とうなずくと、それぞれが趣くところへと足を運んだようでその場には誰もいなくなっていた。クロ―ドはファンシティホテルへ向かって歩きだした。フ...
―最初にすること。 ゆっくり、心を込めて、どんなに愛しているか。 心を込めて、丁寧に伝えるんだ。 「愛している。レオン」 それだけでいい― バイ・ボーマン その夜、こらえきれず、 とうとう、レオンが自分の気持ちをクロードに告げた。 「あの・・・僕・・・お兄ちゃんのこと・・・好きなんだ」 クロードだって、レオンに特別な感情をもっている。 「本当に?本当。ああ、レオ...
夕方遅くになって旅から帰って来た一行をボーマンは眺めている。 どうやらこの旅の間に、レオンとクロードはムフフの仲になったらしく、 ぺったりとレオンがクロードの側に張り付いている。 レオンの様子だけでなくクロードも なんとなくレオンを側から離したくなぃようで、 レオンのもそれが判っていて嬉しそうなのである。 『なるほどな。最後までいっちめえやがったな』 と、思うボーマンなのである。 色々と影で応援もしてきた...
「はあー」 なんだかすごいため息。 一体、誰って? そんなこときかなくとも、すぐ、わかるよ。 だって、それを一番気にする人がすぐそばにいるんだもの。 デイアスの大きなため息にレナが顔をあげた。 「どうしたの?」 レナを抱きしめてるって言うのに・・・・。 デイアスに何の不足があるんだろうか? 「いや・・」 デイアスは少しいいしぶっていた。 「なによ?きになるじゃない」 デイアスはもう少しレナをしっかり抱きしめる...
ボーマンの両刀使いは有名なことである。 でも、そんな事全然知らない人もいる。 今までのシリーズを読んでくれてる人も まだボーマンが♂の方、相手にしている場面に 出くわしてないから 「あれ、そうなの?」 って思う人が多いかもしれない。 ちなみにそんな事全然知らない筆頭者は 勿論奥さんのニーネなんだけど、 仮に彼女に事実を告げてもニーネは信じないし 逆にからかわないでよって怒り出しちゃうと思うけど・・・。 そんな...
朝からボーマンは、仏頂面している。 それもそのはずで、 この間から、二人めが生まれるとか生まれないとか 兎に角も、おめでたい話しなのであるが 臨月が近くなってから急に安静をしいられて、 緊急入院になった母親の元を 置手紙1つで飛び出して来た甥っ子が ボーマンの元にやってきたのである。 「僕が一人でいたら母さんも心配するだろうし、 父さんも仕事が忙しいのに困っちゃうよねえ」 と、随分親孝行な科白を吐いたものだ...
2015年あたりの、記事が多いのはブログ人閉鎖になったせいかと思う。(移行してきた。)それから、ほとんど、書くことがなくなり・・仕事に躍進!!ここも、6~7年、放置だった。最近になって、gooに、記事をコピーしたときに、ちょっと、書く気になって書いたのがユニコーン (1)昔馴染み (1)どうも、書く気にならない。(書こうと思う、「気になる事」がない)同じ場所・同じ位置に居まい、と思っていたはずなのにgooにコ...
二つの出版社からの書評 『壬生浪ふたり・俄狂言「恋語り」』まず二つの出版社からの書評・・・・● 時代設定も舞台も、それぞれ異なる3つの恋愛 物語。前回応募作の「白蛇抄」同様、やはりこれらの作品にも「憂生ワールド 」と呼べる物が確固として存在している。細かい心理描写の積み重ねによって織り成す著者の人間ドラマ は、恋愛というテーマを掲げながらも、決してそこだけには留まらない。とりわけこ...
二つの出版社からの書評 『壬生浪ふたり・俄狂言「恋語り」』他
*ミス* ・・コンテストの話ではない・・ブログ人の更新をおえた。かきかけのアマロも洞の祠もそのまま、順番どおりにならべた。短編や書き下ろしはランダムになったが、シリーズ物は一応、順番にならべた。最後にいくつか、書き下ろしと短編がのこった。トリを・・んんんんトリといっても、トップにあがる記事だから、トリというのもいささかはずれているが・・・。まあ、悩んだ。悩んだ結果・・。壬生浪ふたり・・を択んだ。関係...
書評から・・・・前回応募作の「白蛇抄」同様、やはりこれらの作品にも「憂生ワールド 」と呼べる物が確固として存在している。 細かい心理描写の積み重ねによって織り成す著者の人間ドラマ は、恋愛というテーマを掲げながらも、決してそこだけには留まらない。とりわけこの三作品《蛙・・他)に関しては、「人間」と云うものを真っ直ぐ見据え、人が生きるという事を誠実に問う姿勢が終始貫かれており、静かな感動に満ちてい...
只今、16編を完成し、17話ー銀狼ーで停滞しています。続きに文芸社からの審査書評を掲げますが、これにも、書かれているように、「前編では、判然としなかった事が他編で初めて明らかにされる事実によって急に輪郭をもったものとなって眼前に立ち現われる」と、いうパターンの物語ですので、できれば、第1話から順番に読んでいただきたいと思います。当時の同人ペーパーから、あらましの一部をひっぱってきました。14話まで書...
憂生は15の時から、文章なるものに手を染め出した。その当初は書きなぐりそのままの、文節も文体も・・・それ以前にて、に、を、はさえ、なってなかった。その頃、憂生は図書館司書である、河原さんと出会う事になる。その河原さんが、くれた言葉である。「今だから、書ける。その感性はあの文豪、川端康成にだってない君だけのものだ」へっぽこ物書きはその言葉に随分励まされたものである。現在、焼き直して、しあげているが、...
怒りをあらわにする頼朝の袖をひいたのが、政子だった。「あなたもかように、ひかれて、いまにおわしましょう」おもえば、さんざんたるいきこしの袖をひいてきたのが、政子である。頼朝にとっての政子が静御膳にかさなってみえたとき、頼朝はその場所にもう一度すわりなおした。政子にとって、静御前の境遇はまた、己のものであった。血を血で洗い、義経をも、義経の子をも、この世からついえた。その繁茂のうえになりたった、政子...
「なんだかさ・・どっちが、どっちか、よくわかんねえよな」菜穂子の足元にきずかいながら、声をかけた。「だね・・・。だいいち、名前から・・いやだよね」「うん・・」返事をしながら、菜穂子の言った意味を考える。これが、きっと、菜穂子が俺と別れる気になった理由だろう。相手の気分をそこねまいと、必ず、「いい返事をする」菜穂子はそれを、おどおどしたチワワみたいだと嫌がった。相手の顔色をみながら、いつも、びくびく...
間合いが詰められると、平助の胸先に木刀の先が止まる。平助のかまえはもうすでに後勢をしいている。原田をこれ以上近寄せ、切り込ませないための距離を保つためだけに木刀を構えている。だが、その体制から反撃に移る次の挙動がつかみとれない。護り一方になるしかないということは、相手の攻撃が読めないからだ。仮に攻撃が読めたとしても、それをかわすことができない。やっとうの腕が無い。致命的な欠点の上に、先が読めない。...
ここに捨てられて、もう2週間たつかしら?ご主人さまは車の中に私をつっこむと、一直線にこのごみの埋立地にやってきたわ。ビニール袋にいれられたままショベルカーで穿り返した暗い穴ぼこにほうりすてられるとご丁寧に廃棄物を山ほどかぶせてくれた。きっと、他の職員が私をみつけたら、ご主人様の仕業だとわかってしまうからだわ。性交遊具でしかなかった私の末路はごみの山にうもれ、文字通り、ごみに化したけど、ご主人様が私...
届かなかった短筒を目の端にとめた竜馬の脳裏に慶喜の顔が浮ぶ。「この先の日本丸を・・・」大政奉還の進言に慶喜が返した言葉の一端であるとは、知らぬ渡辺篤であるが、その刃でついえた者の魂の所在の大きさが渡辺の胸をえぐった。とんでもない人物の命を奪い去った。その悔恨があとになるほど、深くなるとも知らない。竜馬の命が消え果て、わずか後、南州公の謀反とも思える暴挙である、西南戦争の時、渡辺篤の胸中に沸いたのは...
芙蓉がたちならぶ、小道をぬけて、朝露をスカートにまとわりつけて、君がやってくる。僕たちは今から、どこに行こうか。楽しい計画をねりながら、広げた地図に君の長い髪がさらり・・。僕は歯ブラシを片手に君の髪をさらり・・除けた場所に指をおく。「くぉくぉ」君が地図を見つめる。「ああ、紫陽花?」そう。そろそろ、きれいだろ?僕の心に君は返事を返す。「だけど・・いや!」なに、そんなに・・おっと・・僕はあわてて洗面所...
今日は清子にとって「はじめて」の日だった。学校が休みに入った先月末から、今日までの一か月。三日に二日のわりで、自由だった清子の生活が一日のうち六時間をスーパーマーケットのレジの前に拘束された。清子がマーケットのアルバイトを始めたのは給料日の後だった。そうとは知らされてない清子だったから、月末になっても、月が変わった十日にもマーケットが給料を支払ってくれないと判ると、一体いつが給料日なんだろうと不安...
3月末日に生まれた悟を見る度、両親は「もう少し遅く生まれていれば1学年下になれたのに」と、溜息を付いた。両親が溜息を付くのも無理がない。悟はどうしたわけ、言葉の発達が遅かった。知恵遅れといわれる症候群に配するほどのものではないのだが、発する語彙も少なく、感情を上手く伝えられなかった。其の事が彼をますます無口にさせ、自分を主張する事を隔てさせた。 その悟がもう、十七歳になった。身体も大きくなった。勉...
一見みたそのときは、完璧なヒューマノイドタイプで、私たちはまず、人間のそれも、行き倒れであるとあわてて、救急車を呼び、彼女あるいは、彼を、病院に搬送した。身元を確認できる物はなく、いっさい、彼女(彼)を証明するものがなく、名前すらわからなかった。私たちが身元引受人として、病院での治療費いっさいを支払うとして、病院側では、彼女(彼)の回復を待って、彼女(彼)の個人情報を得るつもりだったらしく、その時...
「どうしたんだよ?」やってきた加奈子の顔色がいまいち、よくない。「ん・・・」生返事をしたあと、煙草をバックの中からひっぱりだす。「あん?」話せよと催促すると、「あんたこそ・・なんか、変だよ・・」って、いいかえしやがる。俺も煙草をひっぱりだしてくる。「まあな・・・」俺のほうは現実問題じゃない。まあ、簡単に言えば、幽霊みたいなものだ。もちろん、俺にひっついてるわけじゃない。二次的にかぶってるといってい...
闇の中から、時折声がする。ギャッと一声鳴くと、ばたつく羽音でそれが、鷺だとわかる。鷺は不思議な鳥だ。夜闇の中を動き回る。彼らは俗にいう鳥目ではないのだろう。動物は人間と違う感覚を持っている。犬や猫は人間に見えないものが見えると聴く。鷺も鳥でありながら、闇夜がみえる梟のような鳥なのかもしれない。ギャッまた、鷺がわめく。闇夜でも目が見えるばかりに小心者の鷺は驚きの悲鳴を上げなきゃならない。そんなびくび...
新之助~~~~!!/其の一 まあ、世の中には堅苦しくて まじめで融通のきかない人間がいて、 そいつの事を 岩部金吉などとか、と、たとえるのであるが、 これから、少し 話しをしてゆく野原新之助という 男も そのたとえに類する人物なのである。 いや、それにしては、 その男の名前・・・。 どこかの豪快な幼稚園児と同じではないか?と、 その話が ただのかちんこちんの岩や金のはなしではないだろうと 何となく憶測されていら...
「ひさしぶり!!」って、なんだか、よく、きやがる。ボーマンは調剤の手をやすめて、声の主をまじまじと見つめた。『なんだよ・・いい女じゃないか・・?久しぶりって、俺、こんなべっぴん・・誰だか・・・思い出せない・・・・』ボーマンたるものが、こんな初歩的な記憶ミッシングなぞ、ありえるわけが無い。女、いや、べっぴんの顔をみつめたのは、ボーマンの記憶の中の「特徴」と相似形のものがないか・・だったが。「あ?・・...
「3年っていうだろ・・」やってきたハロルドはボーマンの顔をみるなりそういう。ボーマンはじろりとにらみすえると本音のままを口に出す。「俺はおまえが嫌いなんだ。なにが、一番、嫌いかっていったら、そういうジンクスを引っ張り出してきてそいつのせいにするってとこだ。ていのいい、言い訳で自分を慰めてるような男はくずだ」「おいおい、ひさしぶりにたずねてきたっていうのに、いきなりそれかよ?」ボーマンのつっけんどん...
悠貴・・・。倖・・・。だいたいが、俺のせい。盗人というのは、管理者が財産から目をはなす隙をいつでも、見計らっている。俺は、犯罪心理学に精通しているわけでもなく、まして、俺自身、悠貴という管理者が倖という財産から目を離す隙をいつでも狙ってる盗人の心をもっているとさえ気が付いてなかった。だから、俺は今、自分の心にうろたえてるしなによりも、俺は自分がひどく、卑怯でしかないと思う。...
僕が見た憧憬は椅子の下で遊んでいる仔猫だった。かあさんのうしろ姿しか、もう僕はおぼえていない。なぜ、かあさんがいなくなってしまったのか、僕は知らないまま大きくなった。あの頃、仔猫だった、白いミュウはもう、よぼよぼのおばあさんになって、縁側でひなたぼっこをしている。飛んできた雀の子にさえ、興味をしめさず、よびかけても、うずくまったまま、耳さえうごかさなかった。椅子のしたで遊んでいたミュウの姿をくっき...
沙織が手にしたストップウオッチを止めるとじっと時計を覗き込んだ。通り過ぎた隆介の乗るフォミュラーのエキゾスノートの音が遠ざかると続いて走り去る車の爆音が隆介の軌跡をけしさってゆく。『いい・・タイム・・』つぶやいた沙織が急に顔を伏せた。「どうした?」矢島が沙織を覗き込んだ。「よくないのか?」隆介のタイムがはかばかしくなかったのだと思ったのである。「死…死んじゃう・・隆介が死んじゃう」沙織が叫ぶように...
かれこれ、6年のつきあい。別れたはずが焼きぼっくいに火がついて、お互い、家庭がある身の上を承知の上で忍び逢う。いい加減にしなきゃと思いながら、共に重ねた時間が増えるほど、どっちが、亭主で、どっちが、情夫か・・。この世が仮の宿なら、今の亭主も仮の者。本当はあの人と一緒になれなかっただけで、魂と心はあの人のものなんだとおもっていた。それが・・。友人がきっかけだった。彼女にだって、私はなにもしゃべったこ...
プロト「遅かったのね」先に床についていた私を起こしにきた夫の用事をしながらたずねてみる。「ああ、部長、おいおい、なきだしてさあ」「ああ・・・・。無理ないかもね。40年勤めてきたんだものね」誕生日で定年退職になった部長の送別会を部長宅に招かれてのことだった。「部長のとこにはよくご馳走になりにいったけどさ。もう、これで最後だなあって、みんなもらい泣きさ」「うん・・・で?」「ああ、帰りに奥さんがな」剥き...
今日は正直、まいった。私はご存知の通りペットショップの従業員。いつもの通り、子供連れのお客さんの対応にいささか、辟易しながら犬たちの面倒をみていた。ぼんやりした様子の子供をつれたおかあさんが入ってきた時私はすぐに、その子が知的障害者だとわかった。「あのう・・・」他の従業員はそそくさと奥にはいっていく。おまけに私がそのおかあさんとばっちり目があってしまった。覚悟を決めて、応対する。「あのう・・。この...
俺。 こんな昼間に それも、こんな繁華な場所に存在しているのが、 ふさわしくない浮浪者。 駅前のロータリーを利用して作られたこの公園は 駅の両肩をつなぐ、近道だから、 けっこう、通り抜ける人間が多い。 その公園のベンチに俺は寝転がってる。 傍らを通り抜ける人間は 浮浪者の俺から、出来るだけ離れて、 通り過ぎてゆく。 鬱陶しい存在だろう。 うろんな存在だろう。 見るも汚い。 見なかったことにしようと 足早に遠ざか...
久子は30そこそこだろうか?だけど、こんな浮浪暮らしのせいだろう、肌につやもなく、髪も無造作にたばねてるだけだから、いっそう、ふけて見える。「あんた・・・若いのに・・こんな暮らししなくても、いくらでも、職がありそうなのに・・」人のことはいえないとふふんと鼻をならし、俺の傍ににじりよってきた。「あんたさ・・あっちのほう・・どうしてるんだい?これかい?」妙な手つきで、自慰行為をまねてみせると、さっきよ...
パンパンとチョコレート・・・1 僕がこんな、防空壕にすむようになったのは、 あの空襲で家を失い、 妹を、母を祖母を失ったからだ。 親戚も・・。 焼きだされ僕を引き受けるどころじゃない。 おなじ境遇の少年達にであうまで、 僕は町をうろつき、あげく、くたびれた身体を 駅舎の中にやすませていた。 「おい。おまえ」 僕を見つけた良治は 僕が孤児になってしまったことを 直ぐ、見抜いたとあとで教えてくれた。 僕は 良治に手...
僕はRyoukoと暮らしている。戦争が終って2年。日本はどん底だった。肩を寄せ合う温もりが欲しい。二人が同じ部屋に住まい、お互いを求め合う日々が続いた。4畳半一間の小さな部屋に肩を寄せ合い、当り前のようにRyoukoを求めRyoukoを抱いた。その瞬間が二人に生きている証を与えてくれた。僕らの戦後はこうやって始まったんだ。小さな町工場に働いていた僕はいつも脅えていた。仕事は相手側の都合次第。仕事のないときは部屋でふ...
Ryoukoがでていった。僕はRyoukoがいつも座っていた空間をながめていた。Ryoukoはもうここに、居なかった。Ryoukoはもう、ここには戻ってこない。Ryoukoは「僕のRyouko」である事を止めた。僕はRyoukoのすわっていたあたりの畳に頬をおしつけてみた。Ryoukoの悲しい、せめぎがそこに染み付いている気がした。堕胎の後。僕の手を拒むRyoukoがいた。命を費えたRyoukoは僕を拒む事で、何かを取り戻そうとしていたに、違いない。僕は何...
葵・・・1それは、いつごろからだったろう。彼という存在が これ以上無いというほど、重く大きな存在になったのは・・・・ミッシング無くして判るという言葉もあるが、 私もそうだったと思っていた。長い時を重ね合わせ、 人生の半分以上に彼の存在があった。それが、 当たり前になりすぎていたといっていいかもしれない。ときめきやら 激情が平らになってしまい私という小さな泉は ただ、彼の姿をぼんやりと映していただけ...
夜中にひいぃと切れ上がった女の声が聞こえた気がして お芳は布団の上に起き上がった。 気のせいだったのだろうか?と、思うより先に 二つ向こうのお登勢の部屋あたりの襖が やや、荒げにあわてて開け放たれ 廊下を忍び走る人の気配を感じた。 「え?」 お登勢に悪さをしようと、店の誰かが忍び込んだのかもしれない。 だが、お登勢は、八つの歳で此処に来たときから「おし」だったのだ。 と、なると、お芳がさっき目を覚まされた...
領国との均衡が崩れる。君主の崩御を表ざたにするには時期が悪すぎた。渤国の君主である量王の心そのまま、外海を境に眼前の渤国は微かな霧にけぶりその姿を現さない。いま、天領の地でさえ渤国の間者が入り込んでいる。御社の瑠墺でさえ、血生臭い匂いをかぎ、君主の元に参じてきていたが、間者の横行は目に余る。一説に君主の崩御の裏にも間者の企てがあったともいう。齢五十五。死に急ぐ年齢ではない。毒を盛られたともいう。急...
白砂に落つ。・・・・・1 「とっつあん・・・」張り付け台に掲げられた佐吉の目に竹縄の向こうの義父の定次郎がみえた。女房殺し、が、佐吉なら大事な娘を殺された父親が定次郎だろう。娘が犯した不義をおもわば、佐吉の罪がかなしすぎる。「おまえが、わるいんじゃねえ」定次郎の横で泣き崩れる弥彦にかける声がなんまいだぶと、かわり手があわせられてゆく。佐吉は女房殺しの罪で獄門張り付けになる。お千香が、実の亭主に殺さ...
オオナモチとぬながわひめやってきた男は・・。自分をおおなもち、だと名乗った。多くの名を持つ男だという。それは、また、多くの国をおさめている証である。「出雲では、なんとよばれていることでしょう」女、奴奈宣破姫の問いに男はにまりと笑ったように見えた。「ここでの名前があればよろしいでしょう」すなわち、この国もおおなもちが治めるということであり、奴奈宣破姫、自らが統括する国の首長になるということは、奴奈宣...
剣の舞を踊るサーシャの足がおちてゆくそのポジションを見つめ続けた男はやがて、イワノフの手をシッカリと、握り締めた。***出番を控えている義姉であるターニャの元にサーシャの事実をつたえにいくことは、つらいことでもある。だが、キエフの大物舞踏家が、サーシャを預からせてくれという。姉妹でありながら、ターニャはこんな、地方の劇場まがいの酒場の舞台から、抜け出ることも出来ないにくらべ、妹の舞踏の技術は世界を相...
恵美子。年齢は19になろうか。うすらわらいをうかべるような、口元と焦点のあわない瞳は精神障害者特有のものだろう。 俺達はなにもできない何の意志表示もしない恵美子の笑いをうかべたような口元から、恵美子を笑子と呼んでいた。****メインHPをつくって、そろそろ、1年になる。あれから、ふえたものといったら、カフェ日記と、空に・・と、新之助シリーズ?くらいか。白蛇抄とso2ほかを1年くらいの間に書き上げた事を思うとまっ...
***プロト/「空に架かる橋」*** 私がこの病院にきて、もう、3ヶ月が経つ。 ココに来た当初、ここは戦地から、程遠く、 前戦から、やむなく撤退してきた兵士の手当てがおもな勤務だった。 なのに、今、病院は戦地ととなりあわせになりつつある。 世界協定だけはまもられ、核兵器や細菌兵器などをつかわないかわりに、 文字通り、戦地は肉弾戦の修羅場とかし、 いつのまにか、破壊されてはいけないはずの 病院も砲弾を受け 建物の片...
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白銅と二人、黒犬からおりたてばそこは二人の住まいの外裏庭におろされた。「念のいったことだ」白銅がつぶやく。「念がいっている?」「そうだろう。裏口におろしよるのだから」なにが念入りなのか、やはり、わからない。「わしは、はらがへった」「ああ・・」裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。 「うまく、いったのでしょうか」雷神はいづなを無事にすくいだせたのだ...
「榊縅之輔の思念の中に、大きな白い犬が映ってくるこれは、たぶん、犬神の大元、前世の最初ではないかと思うのだ」白い犬と一口で言ってしまうと法祥には判らない事であろう。「白い犬というのは、人間になりたい、と、思っているのだ」やはり、法祥は得心できない。「犬が?犬が、人間になりたい、と、思う?じゃあ、輪廻転生で、場合によっては私が、元は白い犬だったということだってありえる?そんなことが・・・」「あるだろ...
庭に向かう細長い縁側に座布団をひとつおいて、私は庭を眺める。縁側のむこう床の間からは、キース・リチャードが流れてくる。暖かな日差しが差し込み、私は窓を開放する。庭と空間を共有すると、風が懐かしい香りをはこんできた。私の妻がうえた、金木犀が右に左に銀木犀。二本の木が花を咲かせ、その香りがあたり一面を占有していた。私と妻は見合い結婚だった。5つも歳が離れていたが、仲はよかったと思う。私の仕事も順調で、...
なにか、妙だと感じただけの法祥であったが白銅は妙ではなく、はっきりとなにかを見抜いているのか「白銅さん・・良くない・・というのは?」「みっつ、ある」「みっつ・・・も?」「ひとつは、お前が聞いてきたことの裏だ」法祥はまだ、なにも白銅に告げていない。女の話がきこえる場所に居なかった白銅である。ー私を読んだということだろうか?ーだが、わざわざ読まなくても良い。じきに、法祥自ら伝える。取り敢えず、法祥が聞...
昼には、烏丸まで、と、思っていたが鴨川縁に、人だかりを見た。それで足が止まったのだが、人だかりの真ん中に、あの口入屋の男がいる、と法祥がいいだした。「どれだ?」「あの、背の高い男です。着物を羽織っている、あの男です」妙な言い方をしているが、素裸に着物を羽織っているのではない。普通に、着物をきておいて、もう1枚薄手の麻かなにかの着物を羽織っている。羽織を重ねる様にもう1枚、着物を羽織る姿は上背があるか...
「ちっ」 口の中の小さな舌打ちだけが、今見たことを忘却の向こうに流しさることを拒む。 蛮骨は木陰の戯れが静まり一つの影が二つに分かれてゆくのを待った。 樫の木にもたれかかり、いつまでも滑らかな快さの余韻に浸っているのは、蛇骨 と 睡骨 である。 寄る辺の無い愛は無性に「誰か」をほしがる。 蛮骨とて、判りすぎている寂寞である。 「かといって、何も・・・」 仲間内に「誰か」を求めなくても、良かろうと...
いつもの、図書室に変化があった。 ジャニスのお決まりの席は、閲覧室の隅の窓際のテーブル。 そこでの昼休み。 ジャニスは本を開く。 だけど・・。 この前の昼休みから、決まって、巻き毛の青い瞳の転校生がジャニスの向かい側に座った。 無言のまま、向かい合わせのまま、本を読む。 一週間が過ぎる頃には、ジャニスは無言の来訪者を待つようになった。 彼は決まって、ジャニスが座ったあと、5分ほどすると、現われ、 本棚の中...
病院の当直をおえると、北原さんが、横にならんだ。彼女も同じ当直番だったが、病棟が違う。職員玄関で、タイムコーダをおしたあと、すぐに、北原さんがやってきた。並んで駐車場まで歩くことになった。病院の隣にある駐車場まで歩く時、患者のうめき声が聞こえてきた。入院病棟は駐車場に面して建っているから、時折、患者の大きな声が漏れ聞こえてくる。「今日、搬送された男の人だよ」北原さんはその声の主を教えてくれた。「や...
萩尾望都作「ポーの一族」より ―キリアン・ブルスウィッグに捧ぐ― 少し、けだるい昼下がりだった。 キリアンはもう一度鏡を見なければいけない。 今、鏡に自分の姿が映らなかった。 そんな気がした。 恐れていた因子がとうとう増殖しはじめたのか? バンパイヤであるエドガ―に血を吸われ 昏睡に陥ちいったマチアスが目覚めた。 キリアンはそのマチアスに噛まれてからこの五月でまる二年になる。 キリアンは変化を恐...
朝食を戴くと、さそくに、足駄をはむ。大師も寺の外まで出て、二人の出立を見送ってくれた。「おまえは、三井寺には寄ったことはないのか?」都まであないするというくらいだから、そちこち、顔をだしていそうな気もする。「いえ、私は・・行方をくらますに必死でしたから」そうだった。生き残ってしまった法祥が都近くに居れるわけはなかった。「最初に、導師にかくまってもらって、それから、あちこちうろついて死ぬべきだろうと...
三井寺の船場があるはずだと、探していると人影が岸辺に立ち、白銅らに手をふっているように見える。ようよう船が近づいていくと人影の姿がはっきりしてきた。ー大師だー三井寺の大師自ら、供連れもつけず一人、岸に寄るとは、いかなることだろう。そして、白銅たちを待っているようにも見える。大師は、寄ってきた舟を繋ぐ場所を指示すると白銅と法祥に深く頭を下げた。舟を繋ぎ終え、岸にあがると大師は、改めて 二人に合掌した...
「ところでの、おまえはなぜ、銀狼が、邪な神だというか、わかっておるのか?」「先にいわれたように、憑りついて・・・」法祥の言葉を半分も聞かぬうちに白銅は違うと首を振った。「憑りつくと守護するの違いは判るか?」「憑りつくは、憑りつく側の身勝手で相手を利用している。守護は、相手の為だけを考えて守っている」「ふむ・・・おおかたは合っているがの大きな違いは、相手の根源力を増やすか減らすか 場合によっては生き...
もう小半刻たつだろうか。法祥も白銅も言葉を交わす事なく魯をこぐ音と水音だけが、舟のうしろへ流れていた。悟るとは、さあと取れる事を言う。法祥は考えても考えてもさあ、と、取れるものを掴めずにいる。考えるだけ、無駄と言っても良い。「法祥、おまえは、なにを考えるか判っておらぬ。わしが、いうたのは、 自分で ということを考えろというたのじゃ」転がりだした岩を止めていたのは、小さな木であったろう。その小さな木...
白石からもやいを解くと、いよいよ、白銅が舟をこぎ進めていく。座り込んだまま、白銅の魯さばきを見つめる法祥になる。「手慣れたものですね」「いや、わしは、これで二度めじゃ」勘が良いのか、一度めでよほど漕いだか二度めとは思えぬ魯さばきと思う。自分と比べるからそうであって漁師と比べれば 違うのかもしれない。「必死だったからの」必死で漕がねばならなかったという故は尋ねないことにして、法祥なりに思うことがある...
白銅と法祥である。長浜の浜で舟を一艘借り受けた。長浜の青龍を護る陰陽師、白銅であればと、舟こそ貸してくれたが、いつ帰れるか判らないと告げたため漕ぎ手を断られた。漁師に任せたほうが、よほど早いのだが、無理をいえぬと二人で交代しながら、魯を漕ぐことにした。のは、良いのだが・・・白銅は、竹生島に草なぎの剣を探し求めたときにほぼ、一人で漕いだ。不知火は、「慣れておけ」と、そしらぬ顔だったが、今、まさに、今...
「建御雷神という、雷神からやはり、いづなを考えてしまうのだが・・・考えてみると、奇妙だと思える」なにが、奇妙だというのだろう。善嬉がしゃべりだすのをじっと待つ澄明に成る。「奇妙だと思うのは、いづなが 銀狼に転生していながら、なぜ、元々の一族に、憑かなかったか、と、いうことだ」「それは、雷神の呪詛が・・あったせい・・あ?」澄明がなにおかに気付く。「だろう?雷神の呪詛があったとて元々の一族に憑く、この...
「竈の神は、八代神の娘婿だという。ある時、竈の神は、八代神の怒りにふれて、地上に落とされた。なにをしでかしたのか判らぬが、それから、竈の神となり、人間の行状を八代神に伝えるように成った。と、いうことだ」それが、なぜ、銀狼との因になるというのか?「銀狼が、なぜ、ある一族のみに、憑いているのか、それは、手繰れぬ。だが、銀狼からすれば伴侶といっても良い相手を結果的に、堕としてしまう。これは、竈の神もまた...
「この前の銀狼、いえ、いづなの件は解決したのですがどうやら、新しい銀狼が、でてきたらしいのです」首領格がいなくなれば、次の者が台頭してくるのは、自明のことよ、と、善嬉が頷く。「その銀狼の出現に気づけずにいたところに法祥と竈の神が、銀狼が出てきたと伝えに来たのです」法祥は、心中の片割れだった伊予と木乃伊の関藤兵馬に八十姫と重臣孝輔をさらえて、成仏させている。あの水枯れの騒ぎのあと、八十姫らの塚には、...
久方の休日であるというのに総司は、書庫の中である。 一冊の本を手に取ると其の場所に立ち尽くしたまま、 書かれた流暢な文字に目をおとしてゆく。 「沖田はん。お昼どすえ」 した働きのお勝が呼びに来た前で、 総司は本を書棚に戻すと大きな伸びをしながら 「もう・・・そんな刻限か」 と、笑った。 「お好きどすなあ」 朝に総司を見たきり、それきり部屋にいなくなった。 また、書庫の中にはいりはったと、お勝は見当をつけてい...
其の一 悲しい事があるとレフィスはよくこのデッキに立った。 風が吹く。雨がどこかで降っているせい。 ちょうど、あの日もこんな天気。 一陣の風が吹いて途端に大雨。 親友だったティオが死んで、三年と二ヶ月も経った。 小さな頃から一緒にいて、二人で航海士になるのが夢だった。 今日は船の仲間の誕生日を祝った。 シャンペンを開けてコングラチレーション。 嬉しそうな彼の顔を見ていたら、たまらなくなった。 誕生日の少し前...
白銅と二人、黒犬からおりたてばそこは二人の住まいの外裏庭におろされた。「念のいったことだ」白銅がつぶやく。「念がいっている?」「そうだろう。裏口におろしよるのだから」なにが念入りなのか、やはり、わからない。「わしは、はらがへった」「ああ・・」裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。 「うまく、いったのでしょうか」雷神はいづなを無事にすくいだせたのだ...