新・東アジアの開発経済学 大野・櫻井・伊藤・大橋 2024 New・East Asian Development Economics Ohno, Sakurai, Ito, Ohashi
1997年に発刊された本が27年ぶりに全面書き直しされ、「新」を頭につけて刊行された。Thebook,originallypublishedin1997,hasbeencompletelyrewrittenandpublishedforthefirsttimein27years,with‘new’atthebeginning.開発政策論争1970年代半ば~80年代から、政府介入を少なくすることが経済成長のカギであるという思考が主流となった。それは新自由主義、ワシントンコンセンサスと呼ばれる。政策勧告はどこでも似通ったものとなり、マクロ安定化、経済自由化などだ。IMFや世銀はこれを「構造調整」という。これに対し、日韓中など東アジアの国々は、開発への政府の積極的関与は途上国政府の重要な役割であるとみなす。民間...新・東アジアの開発経済学大野・櫻井・伊藤・大橋2024New・EastAsianDevelopmentEconomicsOhno,Sakurai,Ito,Ohashi
カレー移民の謎―日本を制覇する「インネパ」 室橋裕和2024 ”The Mystery of Curry Immigrants”
在日ネパール人はこの10年で5倍に膨れ上がり今や15.6万人、その多くが「カレー移民」とその家族と考えられる。日本におけるインド料理専門店の歴史は、1949年銀座のナイル、1982年銀座のアショカ(今は新宿)、1978年六本木のモティなどで、それらのベースはムグライ(ムガール)料理だった。それらのインド料理店で多くのネパール人が働いていた。バブル期の90年代にコックのビザが緩和されると在留ネパール人が増加し、2000年代になると規制緩和で外国人でも会社をつくりやすくなりネパール人が自ら会社をつくり店を出す動きが高まった。今では日本にあるネパール人によるインド料理店の数は4~5000軒とも3000軒とも言われる。インネパカレー店の料理はネパールの料理とは異なるが、彼らは既存店の模倣をポリシーとしていたので、...カレー移民の謎―日本を制覇する「インネパ」室橋裕和2024”TheMysteryofCurryImmigrants”
世界でいちばん美味しい国、いちばん驚く国、いちばん高い国など、あとがきの日本を除き24のテーマ=国が登場する。私が過去に訪れたことがあるのは11の国。いちばん美味しい国=タイは私もリアルに行ってみたいが著者と違って辛い料理は苦手だ。本書によるとタイ料理といってもすべてが辛いわけではない。麵料理、ガパオライスなどを食べていればよさそうだ。中国には何度も行ったが最後が10年前なので、QRコードなどのスマホアプリ決済の準備をしていかなければならないだろう。本書には書いてないがgoogleやLINEも基本的には使えないので、Yahooメールかoutlookメール、検索は百度などを使う準備をしていかないと情報途絶の憂き目に遭いそうだ。いちばん探しの世界地図吉田友和2021
中国の不動産バブルはすでに崩壊した。30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。中国の不動産バブルとバブル崩壊は政府の失敗が引き起こしたものだ。不動産開発を経済成長のけん引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し固定資産税はいまだ導入されていない。個人にとっての不動産投資は,一獲千金のゲームになった。中国では賃貸住宅が整備されていない。都市では公営住宅が整備されていない。民間の賃貸マーケットが大きく育っていない。法律の整備は進んでいるが執行がきちんと行われず、契約を一方的に破棄しても罪に問われないため、トラブルを恐れ貸し手も借り手もなかなか現れないためだ。住宅は商品化し、若者にとってマイホームはステータスシンボル...中国不動産バブル柯隆2024
第1章ではアルプス越えの景勝ルートや世界遺産を訪ねる鉄道、山岳鉄道など、ヨーロッパのお奨めの鉄道ルート13を紹介。第2章鉄道旅行入門では、列車の種類や設備、出発ホームの見つけ方や車内検札など鉄道旅行の基礎知識を伝授。第3章鉄道旅行計画では、旅行計画の立て方や列車スケジュールの調べ方、チケットの購入方法、トラブル対策など、鉄道旅行を計画する上で欠かせない基本情報を紹介。どの部分も、実際に鉄道旅行をした人でなければ書けない、リアルかつ実用的な知識に満ちている。それにしても、ウェブサイトで最新のユーレイルパスの料金を調べてみたら、諸物価が高騰しているにもかかわらず、ユーレイルパスの料金(€または$建て)は値上がりしていないようだ。ヨーロッパ鉄道の旅ダイヤモンド社2020
ウィーンの都市計画と映画「サウンド・オブ・ミュージック」に関する記述からノート19世紀後半、オーストリアハンガリー二重帝国は、多民族的構成を背景に独特な文化的発展がみられた。ウィーンの都市トラーセの成立に端を発し、世紀末には帝国の没落的傾向に反して華麗できらびやかな文化芸術活動が展開された。1850年代、経済的発展の時代を迎えたウィーンにとって、中世以来の城壁はむしろ障害となってきていた。1857年、皇帝フランツ・ヨーゼフは勅書を発して城壁の撤去と市民によるその跡地を認めた。跡地の利用に関しては、当初は軍部が発言力を握っていたが次第に市民階層は主導権を握っていった。まずオペラ座や美術史博物館、自然史博物館が建設された。その後、証券取引所、楽友協会、造形美術アカデミーなどの建設が続いた。さらに市民階層の力を...オーストリアの歴史増谷英樹・古田善文2023増補改訂版
オーストリアは、かつて名門ハプスブルク家の統治下、中央から東欧をまたぐ大帝国を形成していた。20世紀に入ると第一次大戦に敗れ帝国は崩壊、小国となったオーストリアは、一時はナチス・ドイツに吸収された。第二次大戦後、新生オーストリアは「永世中立国」として再スタートを切り、それは今も国民の支持を得ている。12世紀にオーストリア公国が誕生し首都がウィーンに移されたのが国としてのオーストリアの始まり。13世紀にハプスブルク家がオーストリアを領地とし、15世紀半ば以降はハプスブルク家が神聖ローマ帝国の帝位をほぼ独占した。ハプスブルク家は政略結婚により、イタリア半島、スペイン、ブルゴーニュ、ボヘミア、ハンガリーの王位継承権を得て支配地を拡大した。ハプスブルク家が支配するオーストリアは、近代ヨーロッパの大きな流れであった...一冊でわかるオーストリア史古田善文[監修]2023
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今年4月13日に開幕する2025大阪万博パビリオンをはじめ、大阪駅うめきたのグラングリーン大阪、大阪市内の多くのオフィスやタワマンやホテルや集客施設開発、京都のホテルラッシュなどを詳しく紹介してくれる大型本。兵庫県は須磨の水族館と淡路島の座禅道場のみ。万博会場で目を引くのは全周2㎞の木造の円形リング。機能性(通路、日よけ、雨よけ)と象徴性という役割はわかるが、350億円を費やす価値があるのか疑問。しかも木材は海外から輸入したものだし、半年後に閉会した後の使途は決まっていないらしい。JR大阪駅北で進む大規模再開発「グラングリーン大阪」の一部が2024年9月に先行開業した。総事業費は6000億円。総面積9.1ha、半分は公園が占める。公園の他ノースタワーのイノベーション施設やホテルは開業。そのほか梅田や中之島...関西大改造2030川又英紀ほか著・日経クロステック、日経アーキテクチュア編2024
ウクライナ戦争が始まってからよく顔を見るロシアの軍事・安全保障の研究者。インターネットのおかげで情報を収集するのは容易になったが、膨大でフェイクも混じる情報を処理する装置を持つのは簡単ではない。2022年初頭にかけて、「ロシアはウクライナに侵攻するだろうか」という問いに、著者はいつも「非常に大規模な戦争を始められるだけの能力が整いつつある」と答えていた。実際に侵攻するかどうかはプーチンの頭の中のことなのであいまいだし断定できない。より外形的に把握しやすい能力に着目したのだ。しかし大戦争を確定できたのは開戦の3日前、ドンバスの親露派選挙地域を独立国家として承認したときだった。分析者のとって必要な情報には、⓵バックグラウンド(背景)情報、②コア(生)情報、③足で稼ぐ(体験的)情報の3種類がある。背景情報は間口...情報分析力小泉悠2024
江戸の面積の半分は大名屋敷が占め、屋敷内には池があって木が植えられた庭園がかなりを占めていた。城や武家地は主に台地上に構えられていた。町人地は低地に形成され、そこは物資が集散する水上交通の要所でもあった。その江戸の記憶は、明治維新と明治政府による都市改造、関東大震災、太平洋戦争の空襲、復興と高度成長、バブル期と最近の再開発により何度も大きく破壊された。だから現在の巨大都市東京には、一見すると江戸時代の建築や土木の遺産は少ないように感じられる。しかし実は、現代の道路や区画、濠や石垣などに江戸の遺構は意外なほど多く残っている。また、都心部にある官庁街や大学、大きな公園などの大規模土地利用の多くは、大名屋敷の跡地を利用したものだ。この本では、第1章で江戸城の内閣と外郭、第2章で大名屋敷の跡地と大名庭園、第3章で...東京で見つける江戸香原斗志2021
微細に入り組んだ凹凸地形や、大規模再開発や戦争での空爆、町の破壊行為でしかない都市計画道路建設などに対する頑強な自然の抵抗力であり続けた。だから、その細く曲がった坂道を街歩きすることで、太古の昔や江戸や明治、昭和の痕跡と出会い、私たちは今でも過去と対話できる。この本で著者は、東京都心南部の河川沿いを中心に7つの散策コースを設定し、7日間にわたって編集者らと街歩きをしている。第1日渋谷川筋2000年代に入ると東急資本を中心に巨大駅前再開発が進められている。東急は渋谷全体を空中都市化してもう一つの「大手町」にしようとしている。著者は渋谷の超高層化には批判的で、対照的な川筋を這って歩く。今、若者たちが集まる奥渋谷や裏渋谷、キャットストリートはいずれも川筋エリアだ。東横線渋谷駅(と線路)がなくなり新たにつくられた...東京裏返し都心・再開発編吉見俊哉2024
台湾旅行計画中にて飛ばし読み国立故宮博物院1924年北京事変によりラストエンペラー愛新覚羅溥儀が北京の紫禁城を退去し、そこに清朝皇室が保有していた美術品は故宮博物院の所蔵としてされ、一般民衆に展示されることになった。蒋介石を指導者とする中華民国南京政府は、北伐による1928年の北京占領後この博物館を接収した。その後満州事変により北京に戦火が近づくと政府は故宮文物を上海、南京へと疎開させ、1937年日中戦争拡大により南京周辺にも危険が迫るとさらに西方へと移動した。戦後いったん南京に戻されたが、すぐに国共内戦が激化し、中国共産党に敗れた国民党政権は台湾に撤退するに当たり、故宮文物から名品を選りすぐって台湾に持ち込んだ。当初は小規模なギャラリーで展示されるのみだったが、1965年より台北郊外に建設された故宮博物...台湾を知るための72章赤松美和子・若松大祐〔編著〕2022
第2集では特番横浜6テーマの他、北は帯広から南は五島まで12都市を地理学者が紹介している。私はほとんどの都市を訪れたことがありある程度の知識を持っているつもりだったが、この本を読んで初めて知ったか再認識したこと、次に訪れる時に意識したいことをノートしておく。帯広市「北の屋台」は中心市街地活性化の成功例。1998年に火事で焼失した一条市場の跡地に、固定方式の電気ガス水道と移動式の屋台をドッキングした屋台の集合体をつくった。20の屋台は一律3坪の広さで3年の期限付きで入居している。福井市1945空襲と1948福井地震で壊滅した市街地のほぼ全体を556haの土地区画整理事業で整備、その後も行政主導の区画整理を積極的に行った。その結果、日本一道路や公園が整備された都市になったが、その負の側面として、市街地が広がり...日本の都市百選第2集稲垣・牛垣・小原・駒木・西山・山口編著
10年前の2014年に発表された増田レポートとそれを書籍化した『地方消滅』(中公新書)は、日本の深刻な少子高齢化問題を地方の自治体の人口減少問題にすり替え、地方自治体を空しいゼロサムゲームである移住促進競争に走らせ、少子化対策から目を背けさせた悪書だった、と私は認識している。その発表は大きな反響を呼び、2014年9月には内閣に地方創生担当大臣が新設され、翌15年には女性活躍推進法が成立、また同年には「希望出生率1.8」の実現を政府が目標として掲げた。しかし人口減少にはその後も歯止めはかからず、出生率はさらに低下し、東京への人口流入もコロナ感染拡大による一時的な緩和の後再び加速している。この本の序章では「このままでは地方消滅どころか日本消滅となりかねない」と、やっと事態を正面から認識している。その上で、第4...地方消滅2人口戦略会議編著2024
日本橋に始まり、品川宿から大津宿までの東海道53次と、伏見宿から守口宿までの4つの宿、終点の大阪高麗橋までの各宿場をそれぞれ2~4ページで解説した本。宿の由来に加え、東から西へと歩く旅人の視点で順を追ってその見どころが説明されている。ただし、宿場と宿場の途中の道筋についての記述はない。宿場町の中で東海道が幾度か折れ曲がり、遠回りになっている場合が少なくない。12沼津宿、19府中宿(静岡市)、26掛川宿、34吉田宿(豊橋市)、38岡崎宿、42桑名宿など。岡崎宿の場合、岡崎城主田中吉政が城下に東海道を引き込み、城の防衛力向上を図るため屈曲を多用した街道を整備し、それが道沿いの店舗数の増加にも寄与した、と本書にある。訪問したいいくつかの宿日坂宿:東海道三大難所の一つ、小夜の中山峠の近く。夜泣き石伝説のある久延寺...歩いて学ぶ東海道57次志田威2024
クルーズの手配は自分でやってみると意外と簡単だ。①航路の予約、②報復の飛行機の2つの予約をすれば、後は必要や希望に応じ乗船前後のホテルを予約するだけ。個人手配だと、添乗員の人件費その他が省かれるので、コストは団体ツアーの約半分になる。乗船前後に乗下船港で小旅行する人が多い。いくつかの寄港地、乗船地。パルマ・デ・マヨルカスペインの大きな島。港からシャトルバス10分で旧市街。世界遺産のパルマ大聖堂は400年かけて1601年に完成、20世紀の修復にはガウディも関わった。パルマ広場とマヨール広場に挟まれたエリアには小さなお店がぎっしり並ぶ。バールにたちよりタパスやビンチョスを注文し軽くワインを味わうのも楽しい。バルセロナ港からサグラダ・ファミリアまでタクシー20分。人気ポイントなので事前予約が望ましい。ガウディの...地中海クルーズ完全ガイド喜多川リュウ+クルーズ向上委員会2020
一度は行ってみたい「日本全国71の地形」を3D地図と写真でわかりやすく紹介。およそ現在の地形になった時期をメモしてみよう。洞爺湖:11万年前の大噴火で陥没しカルデラ形成。中島は5万年、有珠山は2万年前。十和田湖:約20万年前に十和田火山が活動を開始。約4.3万年~1.3万年の間に大規模な噴火を6回以上、火砕流を発生。その後のカルデラ内の噴火で中湖形成。三陸海岸:海水面が現在より150m低かった氷河期に谷地形ができ、1万年前からの温暖化に伴う海面上昇でリアス海岸になった。三陸北部にリアス海岸がないのは、断層が南北に走るため。男体山と中禅寺湖:男体山2.5万年前から1.3万年前まで続いた火山活動でできた成層火山。噴火活動初期に流れた溶岩流が川をせき止め中禅寺湖ができた。養老渓谷とチバニアン:養老川中流は約20...日本の地形図鑑高橋典嗣2024
この本を手に取ったのは、超少子高齢化の日本における、国土の中の中山間過疎地域からの居住や耕作の撤退、行き詰まった都市開発プロジェクトの処理、あるいは全国に8百万戸も存在する空き家の更地戻しといったことが論じられているだろうという期待からだった。めくってみると10人の執筆者による共著であるこの本は、私の期待よりも抽象的・思索的な記述が多く、求めていたものとは少しずれていた。第3章「国土政策から見た撤退的知性の必要性」全国総合開発計画を中心とする日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を基本理念としてきた。しかし、一全総(1962)が工業開発による地域間の所得均衡という本来の「国土の均衡ある発展」を目指したのに対し、新全総(1969)は早くも各地域特性に応じた発展を目指しており、21グランドデザイン(1998)...撤退学の可能性を問う堀田新五郎・林尚之〔編著〕2024
最近、アフリカの経済発展に関する本を読み、またアフリカ出身の優秀な人材に会って、私の心の中のアフリカに対するイメージが良い方向に振れていたが、この本を読んで逆方向に戻されてしまった。2014年から3年間、著者は新聞社の海外特派員としてアフリカ大陸に駐在した。彼がこの本で描いたアフリカは、人口が爆発し、人間の生と性、暴力と欲望が激しく入り乱れ、まさしく「沸騰大陸」そのもの。そこでの生活は日本のそれとはあまりにかけ離れている。南アフリカの日本人学校で著者の娘が最初に受けた授業は通学バスが襲撃された時の対処訓練だった。南アでは1年に19,000件殺人事件が発生するが、それでも隣国からすれば自国より10倍も稼げる「夢の国」なのだ。他のアフリカ諸国での彼が取材対象は、この本の文字からも目をそむけたくなるようなものの...沸騰大陸三浦英之2024
この本に描かれた「15分都市」の考え方はパリの左派市長イタルゴに採用され、パリでは15分都市づくりのための都市計画が進められているらしい。だからこの本を読み始めたが、とにかく読みにくい。過去の思想家や学者の著書の引用、国連の報告書の要旨、東京やパリやラゴスや珠江デルタの描写などが次々に現れる。第6章になってやっと「15分都市」の説明がされている。「15分都市」は、3つのアプローチ、クロノアーバニズム、クロノトピー、トポフィリー(場所への愛)から導き出した都市である。「15分都市」はまず、都市の中の時間の流れを変えること目的とする。都市に流れている時間を見直し、自分のための時間や家族との時間、近隣の人と共に過ごす時間を確保する。「15分都市」は一つの場所に複数の機能を持たせ、それぞれの機能も可能な限り新しい...15分都市―人にやさしいコンパクトな街を求めてカルロス・モレノ2024(原著は2020)
この本のタイトルは「東大教養学部が教える考える力」だけれど、「東大1・2年生に博報堂が教えるアイデアの出し方、まとめ方」の方が、正しく内容を表すだろう。この本でいう「考える」とは、研究したり真理を追究したりするころではなく、売れる商品、アイデアをつくるための情報収集、コンセプトづくり、人の心を動かすアウトプットの作り方だ。東大教養学部が教える考える力の鍛え方宮澤正憲
この本は、建築家の突拍子もない空想に都市や建築に一家言ある識者が悪乗りして一冊の本に仕立てたフィクションなのだろう。東京一極集中の問題点やデジタル化の遅れなど、周辺の議論は、識者の論考ゆえなるほどと思わせるところもある。しかし肝心の「動都の提案」が、実現可能性に説得力を持たせるために小さな首都にすることが発想の原点にあったためだろうが、首都というのはその範囲もスケールも小さすぎる。第1に、動都における移動人数を合計4500人と想定している。これは過去の国家等移転特別委員会の想定の10分の1以下であまりにも非現実的だ。国会議員713名に各スタッフ2人つける想定だからそれだけで約半分の2139人。衆参議員事務局及び行政・司法関連職員1000名程度としているが、現実には衆議院事務局だけで定員1600名だから、行...動都―動き続ける首都坂茂・光多長温・三宅理一
既往研究では、ミドル期シングルの総体は明確なリスク集団ではないが、高齢化に到達したときに経済的困窮や社会的孤立に陥るリスクが高い可能性があるという点だ。シングルは既婚者より親への支援が上回り、特に女性は半数近くが親の介護を引き受けようとしている。日本の親密圏は親や兄弟の比重が大きい。西洋では多様な結婚やパートナー関係が中心で、国家がそれを家族と同等に保護しサービスを付与している。第2世代(1956~85生まれ)のミドル期の一番の特徴は未婚化で、2020年のシングル率は男31%、女23%で30年前の3倍。ミドル期シングルの人間関係は仕事関係が中心だ。地域社会との関係は希薄だが、多くのシングルたちは、煩わしいのでなければ地域での関係があってもよい、むしろあった方がいいかもともっている。男4割、女2割が人間関係...東京ミドル期シングルの衝撃―「一人」社会のゆくえ宮本みち子・大江守之[編著]2024
こんな本があったとは知らなかった。日本中の何百もの池を8つに分類し、一つ一つについてその地理的特徴、成因、人間との関わりを詳しく説明し、正確かつ可愛らしいイラストを加えている。8つの分類とは、島池、山池、里池、人造池、公園池、城池、町池、寺社池。この分類は成因とは一致せず、例えば島池の中には南大東島のカルスト池、利尻島の火口湖オタトマリ池、湾が砂州で塞がれた上甑島の海鼠池や友ヶ島の蛇ヶ池などが含まれる。冒頭に池と沼と湖の何が違うかの説明がある。池とは基本的には人の手でつくられたもの。しかし、霧島の大浪池(火口湖)や鳥取県の東郷池(潟湖)のように自然の湖でも池と呼ばれるものもあり、沼や湖と呼ばれるものの中にも人造のダム湖や人の手で改変されたものは多い。分類の定義と固有名詞の名称は必ずしも整合しないのだ。私が...日本全国池さんぽ市原千尋2019
約30人の執筆者の多くは大学に所属し、日本の国際協力=ODAを外から見て現状と問題点を取り上げている人たち。序章日本は1989年に世界一のトップドナー国になったが、97年をピークに減少し4~5位にまで落ちた。経済不況に加え、国民のODAを見る目が一層厳しくなったため。日本のODAの4つの特徴⓵アジア重視戦後の賠償・準賠償により開始安全保障・外交上の国益を重視しながらアジア諸国との関係を構築②円借款中心(インフラ重視)一貫して自助努力を促し養成主義に基づく貸付型援助を重視、アジア諸国の経済成長に貢献⓷「人づくり」を重視し、得意とする技術協力を多くのアジア諸国に実施④1990年代までは量的拡大、2000年代以降は戦略援助・平和構築や質の高いインフラ投資日本のODAのかつての問題点・援助理念・哲学の欠如⇒ODA...日本の国際協力アジア編重田・太田・福島・藤田編著2021
世界でいちばん美味しい国、いちばん驚く国、いちばん高い国など、あとがきの日本を除き24のテーマ=国が登場する。私が過去に訪れたことがあるのは11の国。いちばん美味しい国=タイは私もリアルに行ってみたいが著者と違って辛い料理は苦手だ。本書によるとタイ料理といってもすべてが辛いわけではない。麵料理、ガパオライスなどを食べていればよさそうだ。中国には何度も行ったが最後が10年前なので、QRコードなどのスマホアプリ決済の準備をしていかなければならないだろう。本書には書いてないがgoogleやLINEも基本的には使えないので、Yahooメールかoutlookメール、検索は百度などを使う準備をしていかないと情報途絶の憂き目に遭いそうだ。いちばん探しの世界地図吉田友和2021
中国の不動産バブルはすでに崩壊した。30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。中国の不動産バブルとバブル崩壊は政府の失敗が引き起こしたものだ。不動産開発を経済成長のけん引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し固定資産税はいまだ導入されていない。個人にとっての不動産投資は,一獲千金のゲームになった。中国では賃貸住宅が整備されていない。都市では公営住宅が整備されていない。民間の賃貸マーケットが大きく育っていない。法律の整備は進んでいるが執行がきちんと行われず、契約を一方的に破棄しても罪に問われないため、トラブルを恐れ貸し手も借り手もなかなか現れないためだ。住宅は商品化し、若者にとってマイホームはステータスシンボル...中国不動産バブル柯隆2024
第1章ではアルプス越えの景勝ルートや世界遺産を訪ねる鉄道、山岳鉄道など、ヨーロッパのお奨めの鉄道ルート13を紹介。第2章鉄道旅行入門では、列車の種類や設備、出発ホームの見つけ方や車内検札など鉄道旅行の基礎知識を伝授。第3章鉄道旅行計画では、旅行計画の立て方や列車スケジュールの調べ方、チケットの購入方法、トラブル対策など、鉄道旅行を計画する上で欠かせない基本情報を紹介。どの部分も、実際に鉄道旅行をした人でなければ書けない、リアルかつ実用的な知識に満ちている。それにしても、ウェブサイトで最新のユーレイルパスの料金を調べてみたら、諸物価が高騰しているにもかかわらず、ユーレイルパスの料金(€または$建て)は値上がりしていないようだ。ヨーロッパ鉄道の旅ダイヤモンド社2020
ウィーンの都市計画と映画「サウンド・オブ・ミュージック」に関する記述からノート19世紀後半、オーストリアハンガリー二重帝国は、多民族的構成を背景に独特な文化的発展がみられた。ウィーンの都市トラーセの成立に端を発し、世紀末には帝国の没落的傾向に反して華麗できらびやかな文化芸術活動が展開された。1850年代、経済的発展の時代を迎えたウィーンにとって、中世以来の城壁はむしろ障害となってきていた。1857年、皇帝フランツ・ヨーゼフは勅書を発して城壁の撤去と市民によるその跡地を認めた。跡地の利用に関しては、当初は軍部が発言力を握っていたが次第に市民階層は主導権を握っていった。まずオペラ座や美術史博物館、自然史博物館が建設された。その後、証券取引所、楽友協会、造形美術アカデミーなどの建設が続いた。さらに市民階層の力を...オーストリアの歴史増谷英樹・古田善文2023増補改訂版
オーストリアは、かつて名門ハプスブルク家の統治下、中央から東欧をまたぐ大帝国を形成していた。20世紀に入ると第一次大戦に敗れ帝国は崩壊、小国となったオーストリアは、一時はナチス・ドイツに吸収された。第二次大戦後、新生オーストリアは「永世中立国」として再スタートを切り、それは今も国民の支持を得ている。12世紀にオーストリア公国が誕生し首都がウィーンに移されたのが国としてのオーストリアの始まり。13世紀にハプスブルク家がオーストリアを領地とし、15世紀半ば以降はハプスブルク家が神聖ローマ帝国の帝位をほぼ独占した。ハプスブルク家は政略結婚により、イタリア半島、スペイン、ブルゴーニュ、ボヘミア、ハンガリーの王位継承権を得て支配地を拡大した。ハプスブルク家が支配するオーストリアは、近代ヨーロッパの大きな流れであった...一冊でわかるオーストリア史古田善文[監修]2023
刺激的なタイトル。著者は過疎地に生まれ育ち、福岡、東京、ボストン、海外周遊を経験し、いろいろな資格を持っている人で、過疎地域で12年暮らし、いろいろな仕事をしながらフィールドワークをしてきた。過疎問題の本を書くのはたいていは学者研究者、または国または地方の役所の人だから異色だ。著者は言う。過疎地域をめぐる研究のほとんどは、中央政府が進める地方創生や移住に終始し、「地方の人々に自主性を促し、活性化させるのが正しい道である」と結論する。しかし過疎地域の人々は慣れ親しんでいる現在の環境を変えたくない。過疎地域が持つ保守性と閉鎖性を私たちはもっと考慮し尊重する必要があるのではないか。著者のフィールドは鹿児島県大隅地域。曽於市は寂れていく一方だ。市役所企画課にインタビューしても対策がなくやりようがないと考えている。...田舎はいやらしい―地域活性化は本当に必要か?
50年前と比べ、地文研は部員の数も巡検や合宿といった活動回数も桁違いに大きくなったようだ。あの頃は1年生も2年生も3人しかいなかった。1.文字が小さい。老眼の進んだ老人には、写真もその説明も、地理院地図ベースの巡検マップも小さくて読みにくい。もう一回り大きい版にしてほしかった。2.まとまりすぎている巡検コースの説明、要所要所の写真とその場所の地形的特徴や歴史の解説など、たいへんよくまとめられ、詳細に記述されている。しかしそれを逆に言うと、個々の執筆者の個性やこだわりがあまり感じられない。私としては、大学1・2年生が書いた本なのだから、志す専門分野の学術的観点から見た各訪問地の意義、個々人が持っているであろう鉄道や地形や歴史に関するオタク的こだわり、それぞれの執筆者の感性の発露・・・といったものを期待して読...東大地理部の「地図深読み」散歩東京大学地文研究会地理部2024
アニメは今や日本を代表する有名コンテンツであり、その経済波及効果も当然大きい。全国各地のアニメ聖地=作品の舞台や作者の出身地・居住地には多くのファンが訪れ、アニメツーリズムは観光学の重要な研究対象にまでなっている。この本はアニメ地域の歴史的展開と、全国88か所のアニメ地域についての百科事典的解説(地理院地図つき)からなる。アニメ聖地巡りを趣味にする人には便利この上ない一冊だろう。アニメ聖地には大きく、作品の舞台となった場所と作者の出身地や居住地という2タイプがあり、両方が重複する典型例が次の10作品・作者だそうだ。1クレヨンしんちゃんの春日部市、2ゲゲゲの鬼太郎の調布市と境港市、3サザエさんの福岡市西新と東京都世田谷区、4こち亀、5キャプテン翼の葛飾区、6ちびまる子ちゃんの清水市、7釣りキチ三平の横手市、...アニメ地域学奥野一生2023
この本はCovid19の2020年に書かれたが、Covid19前からすでにアメリカと中国の経済的デカップリングが進行していたとしている。トランプ大統領は中国が不公正な貿易慣行を行っているとしてセーフガードを発動し、中国から輸入される太陽光発電パネルなどに追加関税をかけ、次に国家安全保障を根拠にファーウェイ社に対してアメリカ製品の輸出や技術移転を禁止した。反グローバル主義は、米中だけでなくイギリスのEU脱退をはじめ世界各国で見られる。Thebookwaswrittenin2020,theyearofCovid19,butitstatesthattheeconomicdecouplingoftheUSandChinawasalreadyunderwaybeforeCovid19.PresidentTrumpi...なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか戸堂康之2020Whyisitmostpowerfultoconnectwith“outsiders”?
台湾、韓国、タイ、マレーシア、ラオス5か国の鉄道の利用方法から旅の魅力まで紹介した本。台湾の鉄道のうち嘉義を起点とする阿里山森林鉄路はスケールの大きい森林鉄道で、鉄道ファンのあこがれの一つ。台北近郊でお奨めれているのが平溪(ピンシー)線。台北からアクセスは約1時間、細い路地から列車が顔を出す十分老街、炭鉱の遺構、沿線の大半で秘境感を味わえる。韓国の鉄道は国鉄KORAIL3500㎞とソウルなど大都市の都市電鉄約1500㎞がある。鉄道の大半は左通行だが都市電鉄は一部右通行、直通運転する列車は途中駅で左右が入れ替わる。韓国一の秘境山岳路線は栄州から江陵を目指す嶺東線。タイの鉄道は、バンコクの都市電鉄を除き全線が非電化で冷房のない古い車両の窓を開け放って景色を眺めるという、昔ながらの汽車旅が日常風景になっている。...アジアの鉄道旅行入門植村誠2024
今年の元日、1月1日に起きた能登半島地震を徹底取材し、報じた記事をまとめて緊急出版した本。大判、総カラーの迫力満点の内容。印象的な点をノート。珠洲市を震源とするM7.6の地震、最大深度7。内灘町や新潟市の液状化発生地では、震源から遠くにもかかわらず不同沈下し建物が大きく傾いた。七尾市の免震構造の病院は無傷で救急診療を続けることができた。(トンネルは地震に強いと言われているが)国道249号大谷トンネル(珠洲市)や中屋トンネル(輪島市)では覆工コンクリートが大規模に崩落した。どちらも地滑り地形の範囲とかぶっており、地震動で地山が変異した影響を受けた可能性がある。直後の道路啓開(緊急復旧)がうまくいかなかったという批判報道が目立った。①元日の発災だったこと、②山地が多い地形で幹線道路がない、③東日本大震災と異な...検証能登半島地震日経XTECH+日経アーキテクチュア+日経コンストラクション共同編集2024
東京特別区(江戸川区、墨田区、台東区)においてそれぞれまちづくりを実践してきた3人の著者が、これからのまちづくりに関わる人のためになることを願って自らの経験を取りまとめた本。「まちづくり」という言葉が広く使われるようになり、まちづくりに関心を持つ自治体職員は多くなった。しかし公務員に「まちづくり」という職種はなく、どう仕事を進めればいいのかわからない場合が多い。この本の著者たちも最初は迷ったり叱責されたりしたことが正直に記されている。著者らの取り組みが実を結び、この20年くらいの間に、都心の東側の下町地域で多くの事業が動いてきたことを改めて実感する。・谷中地区の再生と密集市街地整備・東京スカイツリーとまちづくりグランドデザイン・京島地区の住環境整備なかには、動いた実感のない事業もあった。第1章で示されたま...〘実践〙自治体まちづくり学—まちづくり人材の育成を目指して上山・河上・伴2024
建築の素人にとっては、縦書きの文章と白黒の挿入写真からなるこの新書本を読んで、リアルの建築物の形態やそれがつくる空間を思い浮かべ、著者の言葉を実感を伴って理解することは難しいと思った。この本には、多くの日本人建築家、日本に影響を与え日本から影響を受けた海外の建築家が(ライト、ブルーノ・タウトら)が登場する。「モダニズム建築という新様式は、日本と工業的脱色が遭遇したところから誕生した」(p51)、「印象派が日本の浮世絵に触発されて~絵画の世界に大きな革命を起こしたのと同じような大きな渦が、日本とライトとの邂逅を菊花にして回転をはじめ、世界を大きく動かし始めた」(p43)とまで書かれている。一番わかりやすかったことは、最終章で述べられている著者自身の遍歴。1986年のバブルに沸き立つ東京で自分の設計事務所を開...日本の建築隈研吾2023
本書は、なぜテクノロジーを都市に応用すると悪い結果になることが多いのか、そしてテクノロジーがより公正で公平な未来をつくるために、我々が何をしなければならないかについて書かれている。従来のインフラと情報通信技術を統合したスマート・シティはユートピア的なものとして提示されるが、実際には都市を技術的な問題として劇的かつ近視眼的に再定義することを意味している。このような視点から都市生活の基盤や自治体のガバナンスを再構築すれば、表面的にはスマートであっても、その下では不正や不公平が蔓延する都市を生んでしまう。自動車がダウンタウンを支配し、歩行者は追い払われる、市民の政治参加はアプリを通じた改善要求に限定、警察がアルゴリズムを使って人種差別、政府や企業が公共空間を監視して行動をコントロールする…(p17)。7スマート...スマート・イナフ・シティ—テクノロジーは都市の未来を取り戻すためにベン・グリーン2022
地理の教科書も執筆している阪大の先生が、新しく高校の必修科目となった地理総合の解説書として書いた本。地理総合は系統地理を柱としてつくられており、それは「世界の成り立ちをロジカルに理解する」地理的思考力を重視することの表れだ。受験では地理総合とその土台の上の地理探求をあわせた科目選択になるだろう、とのこと。著者は文化地理が専門らしく、そのためか食文化や農業の話が比較的多く、なるほどと思わせる箇所も多い。自然地理や経済地理の話は比較的少なく、わりと一般的、常識的な記述にとどまっている印象。もちろんこれは高校生の予習復習、試験対策のための本だから、奇をてらわないのは当然だ。乾燥帯の農業は乾燥と戦い、湿潤地帯の農業は雑草と戦う。北緯35度線を境に、高緯度帯では食べ物を干したり塩漬けにしたりして備蓄する文化が育つ。...大学の先生の学ぶ初めての地理総合佐藤廉也
特に目新しいことがこの本に書かれているわけでもない。私自身が日ごろつぶやいていることと共通することも多い。にもかかわらず、これほど読んでいて不愉快になる本も少ない。日本という国と日本人の弱みを容赦なく攻撃されているからだろう。著者の意見の全てに同意するわけではないが、否定できない指摘事項=日本の問題点のいくつかをノートする。総論では日本人は本当の自由を知らず、制度をひたすら守り、過剰に働き、苦痛を忍び、権威や因襲に服従することを良しとしているかのようである。「予定調和」と「現状維持」が個人の自由や幸福を犠牲にしている。各論では日本人の英語力はアジアでも下位だ。外交官でも英語を自在に操れる人は少なく、カジュアルなパーティでのスピーチですら原稿を顔を上げず棒読みする。英語が下手でメンタルも弱いため、反論すべき...日本人という呪縛—国際化に対応できない特殊国家
『限界ニュータウン』の著者による続編。前著ではあまり触れられていなかった(と記憶している)都市計画法に関する記述が第1章でちゃんとなされている。限界分譲地は、その立地よりも自治体の開発規制に左右される面が大きい。1968年に都市計画法が制定されたが、その後に限界分譲地となった土地は都市計画区域外または非線引きに区分けされたため、規制は緩く、地価は安く、許可不要で開発できる面積規模も広かった。自治体の担当部署にも開発許可申請の記録が残されていないケースがほとんどだ。(注:当時、首都圏整備法により近郊整備地帯に指定された成田市、酒々井町、佐倉市以西は線引きが行われ、市街化調整区域での開発は厳しく規制されたが、本書の主対象となる八街町、山武町、大栄町などは区域外だった。その後列島改造などでそうした地域にも開発の...限界分譲地—繰り返される野放図な商法と開発秘話吉川祐介2024
いわば「じゃない方」の神奈川とも言われる相模地域、具体的には相模原、海老名、厚木、座間、大和それに東京都の町田を対象として、「何か」を見出そうと試みた本。相模地域は、国道16号線の郊外空間であり、一般的には「地域の独自性が失われた均質的な郊外空間」、「何もない郊外」という評価がされがちだ。・多くが相模野台地上にあるため水利に恵まれず、長らく原野が残り、開墾される余地を残してきた。農家の女たちは畑までの坂の上り下りや、深井戸からの水くみに苦労した。・戦前から軍の施設が多く、大戦中は首都防衛の拠点が置かれ、現在も多くの米軍施設が位置している。・高度成長期からバブル期にかけて、官民の住宅開発が活発に行われて人口が急増した。現在その郊外住宅地には高齢化の波が押し寄せ、活況が失われ、再生が試みられている。・相模大野...大学的相模ガイド—こだわりの歩き方塚田修一編2022
経済カテゴリの本は結構読んでいたつもりだが、経済学の本を読んでノートを書くのは久しぶり。経済学の復習と最近の金融政策に関する知識のアップデートのためにと思ってこの本を購入し、読み進んだ。ブキャナンの新正統派批判とかモディリアニとか、50年近く前に学習したことを懐かしく思い出した。しかし、読み進めていくうちに、この本はリフレ派と言われる著者の主張が込められていることがわかってきた。(第3章)日本の財政が破綻する可能性は低い。国債金利rよりも経済成長率(名目)gが高ければ財政は破綻しない(修正ドーマー条件)。2013以降コロナを除いて日本は〇。途上国などでは突然の金利上昇(=債券価格下落)発生が起こり得るが政府日銀の対応で。(※財務省はr≒gを前提にプライマリーバランスの黒字化=政府債務残高/GDPの引き下げ...財政・金融政策の転換点—日本経済の再生プラン飯田泰之2023中公新書
この本は、インドの多様な地域特性に始まり、政治情勢、モディ政権化のインド経済、主要財閥と産業、貧困と環境問題、外交、日印関係までを幅広く解説している。インドに関する日ごろの疑問1独立後、インド経済はなぜ長らく停滞し、なぜ近年急成長しているのか?独立から1996まで国民議会派がほぼ政権を握り、インディラ・ガンジー首相などが非効率な社会主義的慶経済運営を推し進めたことから、東・東南アジアとは対照的に経済は停滞した。1991年に経済自由化に着手し、貿易自由化、関税引き下げ、輸出振興策が採られて経済は上向き、2003年にはBRCsの一つに挙げられるなど高い経済成長を記録した。2010年代には調整局面を迎えたが、2014年総選挙のBJPインド人民党勝利とモディ首相就任以後高い経済成長率を示し、その後コロナ禍があった...インドーグローバル・サウスの超大国2023中公新書