#5『スタートラインの内側より』

私は今、スタートラインに立っている。その内側だ。思えば、今まで散々なことばかりだった。パッとしない学生生活を終えると、当たり前のように就職し、閑散とした毎日を過ごしていた。若い頃あまり遊んでいなかった反動からか、出会い系サイトなんて脆弱なものに手を出し

#4『液晶を眺めて』

液晶を眺めて一時間。 ツイッター、動画サイトや掲示板まとめブログ、青空文庫のタブを開いてそれを行き来する。自分が何もしなくても、ずっと同じ場所にいても、途絶えることなく情報が流れ込んでくる。それも世界中のだ。インターネットというのは、熟熟膨大であると

#3『カラス』

「君は奇跡を信じるかい？」 三百六十五日と十日連続で日曜日を謳歌している俺に、カラスが話しかけてきた。「いや、カラスが人語を話すなよ」「冷たいことを言うな。私はゴミを漁らないし人間を睨んだりもしない、まさに人畜無害の象徴だと自負している。他のカラスのよ

#2『心からの幸せ』

朝の6時。けたたましいサイレンの音が頭に鳴り響く。頭蓋が内側から粉砕されるような気がしたから、ものの3秒でスマートフォンのアラームを止めた。「………んん………おお、6時だー…………」 普段は目覚ましをかけてもなかなか起きることのできない私だが、今日は違

#1『白い部屋』

彼は真っ白な部屋の中にいた。ドアも窓もなければ、家具の類も一切ない。サイコロの内側だと言われたら信じてしまいそうなほど、綺麗な立方体の中に彼はいた。そして彼は、自分が小説の中にいることを自覚していた。 俺が何を感じ何をしようと、それはこいつを書いてい