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Somebody loves you−J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

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2014/11/05

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  • 幻想即興曲 19

    19(18より続く)三度連弾で弾くと、かなり指のポジショニングもスムーズになったが、最初の初々しい興奮は静まりつつあった。「今度は左右を入れ替えましょう」今度は百合香が右の主旋律を弾き、ぼくが左手でそれを合わせる。「伴奏だと思っては駄目よ。あくまでデュエット、二重奏なんだから」「ラジャ」今度は、ペダルを踏むのも百合香だった。粗削りだったさっきの演奏とは別の曲のように、全体が均整を帯びて輝いていた。軽やかでよどみなく美しい百合香の右手の音色に思わず聞きほれて、自分の左手が止まりそうになる。でも、不思議にポリリズムの違和感は消えていた。そんな風にして、この連弾練習も三度繰り返した。部屋の中が赤みを帯びていた。窓の外の夕空が部屋の中を染めていたのだ。「ちょっと外に出てみる?」窓を開け、バルコニーに出ると夕日が海を真っ...幻想即興曲19

  • 幻想即興曲 18

    18(17より続く)「しょうがないなあ」百合香は、のび太を諭すドラえもんみたいな口調で言った。「私が左手を弾くから、コウは右手だけ弾いて」ピアノソロ用の曲を連弾するという手があったのか。「私の音は聞かなくていいから。まず自分の弾く音に集中して」息がかかるほど近くに百合香がいる。ステージ用のドレスではなく、白いノースリーブのサマーセーターに、ブルージーンズ。かえってスタイルが浮き彫りになってなまめかしい。連弾用に書かれた曲でないから、右手と左手の距離は近い。肩と肩がぶつからないようにするために、ぼくは左の肩を後ろに引く。すると百合香の肩を受け止めるような形になる。けれども、百合香もまた自分の右手が邪魔になるから右肩を引き気味になる。近すぎる距離に戸惑っていると活が入る。「なにをしてるの。位置関係の調整なんて弾き始...幻想即興曲18

  • 幻想即興曲 17

    17(16より続く)「じゃ、まずプレリュードから」そう言ってぼくは7番のプレリュードを弾く。たった17小節のあの曲だ。「なぜに、ノーペダル?モーツァルトじゃないのよ」「ここがペダルを踏むところ、ここはペダルを離すところ。楽譜にそう書いてあるんだからそう弾かなきゃ」百合香は指でペダル記号を指ししめす。「小学校のころはペダルに足が届かなかったんだ」「今は届くでしょ、何を甘えたこと言ってるの」グレン・グールド風のショパンの目論見は、冒頭から挫折してしまった。それでも、ペダルのきらいなぼくは、点描画のように、音の一点にペダルをのせ、すぐに離すようにしたが、百合香はそれについては何も言わなかった。ワルツやマズルカ、ノクターンまで弾いた時点での彼女の感想は「ショパンらしくない。立体感がない」というものだった。「ショパンらし...幻想即興曲17

  • 幻想即興曲 16

    16(15より続く)百合香はグランドピアノの蓋を開き、支柱を立てる。鍵盤の蓋も開き、譜面台を立てる。鍵盤に触れようとすると「弾かせてあげないわけじゃないけど、まず手を洗ってね」と言う。手洗いは、階段を上がったすぐ先だった。スタインウェイの前に戻ると、ブルージーンズに白いノースリーブのサマーセーター姿の百合香はすでにピアノを弾き始めていた。コンサートの時とちがい、髪は後ろでまとめている。室内履きは3センチくらいの底が厚くなったものだ。公称157センチの百合香の身長だが、頭が小さく手足が長いためにモデルなスタイルのよさが際立ち、ドレスのときよりもなまめかしい感じがした。彼女が弾いていたのは、グリーグのペールギュント第一より「朝」。北欧のフィヨルドの海のきらめきが見えるような気がした。そして次の曲は同じグリーグの「ノ...幻想即興曲16

  • 幻想即興曲 15

    15(14より続く)次の日、つまり予定の日よりは1日早い8月10日に家の前で待っていると、向こうから赤い車がやってきた。ミニクーパーではないか。フロントグリルのシルバーが渋い。右ハンドルなので、国産車と勝手は違わない。「お待たせ。乗って」ドアが開かれ、ぼくは助手席に座ることになった。「結構、古い型だね」「そう、新しいのはスポーティすぎてしっくりこないから、90年代の状態のいい中古を買ったの」「いつの間にか免許取ったんだ。東京じゃほとんど用なしだけど、こっちじゃあった方が便利だよね」「家をあの場所に移すと聞いたときから、車がないとどうしようもないとわかってたから」百合香は車をスタートさせながら言う。ピアニストの運転はハンドリングが繊細なのか、驚くほどスムーズで、乗り心地がよかった。しかし、カーステレオはカセットを...幻想即興曲15

  • 幻想即興曲 14

    14(13より続く)ちょうどそのころ、百合香から携帯に電話がかかってきた。「昨日帰って来たの。しばらくこっちでゆっくりできるから。その後ピアノどう?」「まあ、何とか14曲中13曲まではクリアできた。あと1曲」「ふうん、幻想即興曲が残っているのね」「どうしてわかるの」「コウのお母さんに聞いたから。面白いお母さんね。『赤い激流』のDVDを英雄ポロネーズ練習する時期にわざとかけたりして」「やっぱりわざとなのか」「でも、私は好きよ」「なんでも筒抜けなんだね」「まあ、親同士が友達って、そういう厄介なところもあるからあきらめるしかないわね。でも、大丈夫かな。幻想即興曲」「なんとかなるんじゃない、ここまで13曲弾けたんだから」「でも、コウのピアノには致命的な欠点があってね」「致命的な欠点って何?」「今にわかるわ。じゃあ、あと...幻想即興曲14

  • 幻想即興曲 13

    13(12より続く)8月になった。もはやエアコンなしでピアノを弾くことが難行苦行でしかない。鍵盤に汗がしたたり落ちる。すると指が滑りやすくなる。ゆっくりとした曲ならともかく、難易度の高い曲を正確に演奏するのは難しい。母は昔流行ったテレビドラマのDVDをかけるのが一番の趣味である。夕食前にかけているのを見ていると『相棒』の水谷豊とおぼしき若手俳優がピアノを弾いているシーンがあった。何でも天才ピアニストという設定のサスペンスドラマらしい。しかし、ピアノを弾くシーンでは、たった二曲しか出てこなかった。『ラ・カンパネッラ』と、『英雄ポロネーズ』だ。ラ・カンパネッラは5分程度、英雄ポロネーズは6分半の曲で、それだけのレパートリーでは到底リサイタルは無理なのだが、他の曲は出てこなかった。しかし、何というシンクロニシティ。そ...幻想即興曲13

  • 幻想即興曲 12

    12(11より続く)再び家庭教師の日がやってくる。親とも話し合って、お盆の時期は休むことにした。いつも通り英語を教えた後で、古文も点数がとれないからと短期の特訓をやることになった。この風間家で、ぼくはほとんどドラえもんのように便利屋として使われている。必要は発明の母で、よく知らない科目でも教科書や参考書を繰り返しおしえているうちにサマになるし、知識も増えてくる。メタ視点に立つことで知識は初めて有用なものとして身につき応用が可能となる。古文はというと、月の名前などの常識、動詞と助詞の活用とかかり結び、そして300くらいの基本単語の意味、敬語表現さえ覚えれば半分くらいは点数がとれるようになる。実際、そうしたトリビアな知識で点数が取れるような出題が多いのだ。本文の内容を要約せよみたいな問題は、ほとんど出ない。その場面...幻想即興曲12

  • 幻想即興曲 11

    11(10より続く)将棋崩しという遊びがある。将棋の駒を入れた箱を裏返し、箱を取り除くと将棋の駒の山ができる。指を一本だけ使い、交互に一つずつ駒を滑らせ盤の外まで移動させ取り除いてゆく遊びだ。山を崩しカチャリと音を立てると失敗。初めは、平らに置かれたものを滑らせて取り除くだけ良いが、やがてもたれたかかった駒を移動させたり、向きを変えたりする必要がでてくる。後ほど難易度が高くなる。短期間にレパートリーを取りそろえるのは、将棋崩しに似ていると思った。コンクールのコンテスタントは、毎回こんな思いをして練習しているのだろうか。それとも圧倒的な技術があるために、初見で弾き通し、後は暗譜と表情をつけるだけで終わるのだろうか。もっとも、村野百合香がそんなやっつけ作業で、レパートリーをものにしているとは到底思えなかった。ぼくは...幻想即興曲11

  • 幻想即興曲 10

    10(9より続く)部屋にこもりきると、気分が鬱になるだけでなく、身体の筋肉が伸ばしきれないで、偏った姿勢になるのでよくない。だから、サッカー部時代のように、毎朝ランニングをすることにした。海岸まで出ると、長い橋を渡りすぐ先の島まで走り切る。遅くなると人が増えるので早朝が勝負だ。土産物屋の間を抜けると、正面に赤い鳥居と山門が見える。階段を駆け上がり、その先を左へ進み、さらに右へ折れたあたりで一休みする。道はさらに奥まで続いているが、道幅も狭く足場がよくないのでここまでで引き返す。眼下にはヨットハーバーの白い帆の群れ、そして広々とした海原が見渡せる。最高のジョギングコースだ。30分以内で家まで戻ろうとするのに、いつも1時間近くかかってしまうのは、フレンズのせいである。顔見知りの白黒の猫が、いつもどこかで遭遇する。近...幻想即興曲10

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