お疲れさまです!いつも本当にありがとうございます!突然ではございますが、このブログはしばらく休止に入ります。過去作ばかり更新していてですでに休止と言えなくもない状態でしたが、表に出せるストックがついに底をついてしまったので今後更新できるものが何もなくなってしまいました。加えて、これまで逃げ回っていた現実問題と真剣に向き合わないといけなくなってしまいまして、今までのように「なに書こっかな」とパソコン...
<大嫌い→さかしまなダンディ> シャーペンの芯がノートの上を淀みなく滑る心地よい音を立てながら、頬杖の秋山が勉強に集中している。レポートの提出が近づくといつもこれだから今日もそうなのだろう。 学校から帰ってきた俺はそれを邪魔しないよう静かに奥の和室へ移動して鞄をおろした。手を洗いながら今日の晩飯何にしようと冷蔵庫の中を思い出そうと試みる。「おかえり」 豚の生姜焼きにしようと思っていたら不意に隣の部...
<1>「はい?」 俺は自分の間抜け面を指差した。乃木がコクンと頷く。「お、俺も脱ぐんですか?」「そうですよ、窪田くん一人じゃ寂しいでしょうから」 といつもの微笑を浮かべる。俺は冷や汗を流した。接待で裸になったことは何度もある。いまさら抵抗もない。だが今回の相手はホモの乃木だ。裸を見てくる視線の意味合いが全然違う。さすがの俺も躊躇してしまった。そんな俺を窪田が非難がましい目で見てくる。やればいいんだ...
※初出2009年 俺が、新人の窪田も接待に同席しますと伝えると「わかりました」と、あいかわらず抑揚のない声が受話口から聞こえてきた。 電話の相手はうちと長く付き合いのある総合病院に勤務する医師の乃木先生で、同じ男として嫉妬せずにいられないほど整った顔立ちをしているのだが感情の変化に乏しく、こちらの冗談にも愛想笑いを口の端に浮かべる程度で、営業の人間としては、大変、やりにくい相手だ。 乃木はまだ三十歳で...
オンボロの廃ビル。立ち入り禁止の立て札を無視して入った先で俺は沢村を見つけた。 沢村は整って中性的な顔立ち、細い体、優しくて柔らかな声――女だけじゃなく、男が見ても妙にドキドキする奴だ。明るくて気さく、性格もいいから誰からも好かれる。クラスの奴らから「キモい」だの「暗い」だの言われている俺とは正反対。おまけに沢村は成績がよくて運動神経もいい。神様は不公平だとつくづく思う。もっとも俺は神様なんて信じ...
(初出2010年) 廊下を歩きながら江川英生は腕時計を見た。部活動で残っていた生徒もあらかた帰宅した時間だ。 江川は棟の端に位置する化学室の扉を開けた。クラスの生徒に放課後、実験をしたいからとせがまれ、教室を貸してやっていたのだ。ちなみに江川は古典の担当である。まだ年が若く、生徒からは馴れ合いと親しみをこめて「英生先生」と呼ばれている。 物音で振り返った生徒が「いいタイミングに来ましたね」と微笑んだ...
<1→2→3→4> 秋名と広岡が仲直りしたのは『事件』の二週間前のことだ。美原が二人に口添えをした結果だ。 松田に気付かれないよう細心の注意を払いながら、広岡にいじめを唆したのは松田だとさりげなく秋名に伝えた。広岡には松田が秋名を陥れようとしたのは何か理由があるんじゃないかとほのめかした。 その後も松田の目を盗んでは秋名の怒りを煽り、広岡には利用されたままじゃ馬鹿だと気付くよう誘導した。共通の敵を作...
<1→2→3>「広岡と付き合ってるのか?」 体育の授業が終わり、教室で着替えていると松田が話しかけてきた。小学生のころ背丈は同じくらいだったはずだがいまは美原が見下ろすかたちになる。「どうしてそう思うんだ?」 狡賢そうな目から視線を逸らした。 これが同族嫌悪というやつなのかわからないが、美原は松田のことが虫唾が走るほど嫌いだった。 授業中や休み時間、常に松田の視線を感じていた。不愉快だと睨み付けても...
<1→2> 入学式が終わり、新しいクラスメイトとともに教室へ入った。顔見知りが数人いる。前の席に座る生徒も同じ小学校だったやつで、うしろが美原だとわかると話しかけてきた。「どうしたんだよ、その顔」 あの夜壁で擦りむいた顔の傷は瘡蓋になってまだ残っていた。「暴走自転車にひかれかけた」「なんだそれ」 と笑う。なにも可笑しくなんかない。なぜ笑っているんだこの馬鹿は。 美原は冷め切った表情でクラスを見渡し...
<1> 六年の始め、給食を食べ終わった自由時間のことだった。クラスメイトに囲まれて談笑していた美原のもとへ、二人組の女の子が慌てて駆け寄ってきた。「美原くん、どうしよう大変なの!」 クラスのなかではあまり目立たないタイプの女の子たちだ。こういうタイプは些細なことにも傷つきやすい。美原は意識的に優しい眼差しを二人に向けた。「どうしたの」「うちのクラスの男子が勝手に屋上に行っちゃった」「屋上に? 鍵が...
<「スタンドバイミー」番外、美原の過去の悪行編>※美原がドクズ。胸糞、閲覧注意。BLじゃない。 美原恵一は幼いころから自分が優秀だと自覚があった。学校のクラスメイトが馬鹿にみえて仕方なかった。言葉1つ、行動1つで簡単に操れる連中だった。 くだらないことで一喜一憂し大騒ぎをする。それに同調する教師も馬鹿だ。なのに最後には大人であり教師であるという矜持を守るために矛盾する言動で攻撃してくるのでより質が悪...
<1→2→3→4→5→6→7→8→9→10→11> 次の休み、ある程度の荷物を持っていったん家に帰った。久し振りの我が家。懐かしいはずが他人の家の匂いがする。窓をあけて空気を入れ替える。潮の匂いは、海から引き上げられたときの、ぐったりする美原の姿を呼び起こした。 小学生の頃は美原に振り回されっぱなしだった。大人になってもそれはかわらなかったが、美原も岸本に会ってから人生を狂わされていた。地下の券売機の前で会わな...
<1→2→3→4→5→6→7→8→9→10> ギプスにラップを巻き、その上からタオルを巻いてさらにビニールの袋をかぶせて口を縛る。浴槽のふちに足を乗せてシャワーを浴びる。これでギプスが濡れることはほぼ防げる。退院して一週間した頃に見つけ出した入浴方法だ。さっと体を洗い、風呂を出た。 先にシャワーを浴びた美原はテレビを見ていた。その前に腰掛け一緒にテレビを見る。夜の報道番組。上の空で内容がまったく頭に入って来...
<1→2→3→4→5→6→7→8→9> 退院して二週間が経った。通院以外での外出もするようになり、松葉杖を使って移動することにも慣れてきた。背中と足の傷もかさぶたで塞がり、今は痛みよりも痒みに悩まされている。 最近美原は忙しいようで帰りが遅い。別にそういう決まりを作ったわけではないが、夕食は美原が帰ってくるのを待ってしまう。一人で先に食べるのもなんだか味気ないし、仕事中の美原より先に食べるのも悪い気がする...
<1→2→3→4→5→6→7→8> 三日後には退院になった。治療のために通院しなくてはならないが、人の気配が常にある病室で過ごすことが苦痛だった岸本には通院の面倒のほうが気楽だった。退院の日には美原が迎えに来てくれた。また仕事を休ませてしまったことが申し訳なくて謝ると「気にするな」の一言だった。 慣れない松葉杖で外に出る。美原がタクシーを呼びとめ荷物をトランクに積んだ。肩を借りてタクシーに乗り込む。岸本...
<1→2→3→4→5→6→7> 岸本が意識を取り戻したのは翌日の昼過ぎのことだった。見知らぬ天井、一方は壁、残りはカーテンで囲まれたベッドの上で目を覚まし、当然ながら自分の置かれている状況が理解出来なかった。 カーテンの向こうからかすかに物音が聞こえてくる。消毒液のような匂い。病院のようだと気付いたが、自分がここにいる理由がわからない。起き上がろうとしたが思うように体が動かず不安になり始めた時、静かにカ...
<1→2→3→4→5→6> 小夜子が来た三日後の朝、岸本の携帯電話が鳴った。洗濯物を干していた岸本ははじめそれに気がつかなかった。部屋に戻りようやく着信に気付いて慌てて電話に出た。『早く出ろ』 繋がるなり不機嫌な声が耳に吹き込まれる。聞き間違えることのない声と高圧的な口調。「ご、ごめん、えと、おはよう」 条件反射のように言葉を詰まらせながら間が抜けた挨拶をした。美原の声を聞くのはずいぶん久し振りで懐か...
<1→2→3→4→5> 休日に衣替えをしていたら美原の服が出てきた。美原は冬の着替えだけを持って出て行ったのでそれ以外は岸本の部屋に置きっぱなしだ。それを取りにくることもないし連絡もないので、岸本も処分に困りそのまま置いていた。 冬に美原が出て行ってから春になった今まで一切連絡はない。気がかりではあったが岸本から連絡はしなかった。美原がそれをてぐすね引いて待っているような気がして電話したくなかったのだ...
<1→2→3→4> マンションの駐車場に車を止め、助手席からおりた美原に肩を貸してエレベーターに乗り込んだ。顔色の悪い美原を抱え部屋の前についた。鍵をあけ中に入る。靴を脱ごうとしたとき美原が抱きついてきた。「ちょ、ちょっと、美原、大丈夫?」 正面から抱きしめられる格好になり、岸本は顔を赤くしながら美原の背中を軽く叩いた。頬に美原の頬が触れ合う。艶めかしい感触に羞恥がわきあがる。「美原、とりあえず中に...
<1→2→3> 学生たちの夏休みが終わり残暑厳しい毎日が続く。美原が家に来て一ヶ月近くが経っていた。 美原はあっさり地方銀行に再就職した。「また平からだ」 と美原は愚痴った。前の仕事場ではそれなりに出世していたのだろう。 岸本の仕事時間も朝から昼にシフトして出勤前に掃除と洗濯をし、朝夕の食事は美原の担当になった。料理が初めてだという美原の腕前はこの一ヶ月でかなり上達した。今はまだ買ってきた料理の本を...
<1→2>「起きろ、岸本」 声と一緒に体を揺さぶられ、もう長いこと人に起こしてもらったことのなかった岸本は驚いて目を覚ました。スーツ姿の男が目に飛び込んでくる。寝起きの頭では咄嗟に状況を把握できずうろたえたが、数秒でなんとか思い出した。昨日美原と偶然会って家に泊めてやったのだ。「出かけるぞ、用意しろ」「え…っ」 時計を見ると六時半。いつもならまだ寝ている時間だ。「どこに…」「散歩だ。昨日来るとき潮の...
<1> 翌日、美原の態度はいつも通りだった。山下にからかわれる岸本をいつも通り美原がかばった。あの帰り道の美原はなんだったのだろう。岸本はそれを忘れられなかった。自分が何か悪いことをしてしまったのだろうか。その原因を必死に考えていた。「花火大会、一緒に行こうか」 一学期最後の日、帰り道に美原から誘われた。「一緒に行く人いないんだろ。僕と一緒に行こう」「……うん、行く」「じゃあ前の日に連絡するよ」 美...
※キスどまり、攻めが性格悪いド畜生(初出2009年) 昨夜つい寝煙草で枕を焦がしてしまった。きな臭いにおいで目が覚め、枕に2センチほどの焦げあとを見た時はヒヤリとした。有給消化のため今日は塾講師の仕事が休みなので岸本は枕を買いに出かけることにした。 岸本は人ゴミが苦手だった。たくさんいる人の中で自分が一番下等な人間のような気がしてくるからだ。極端に自信がなく、人一倍自意識過剰なのだった。枕を選んでいる時...
※中華風なんちゃってファンタジー 仙人から武踏の教典を賜るため、ヤオシはかの霊山に、数名の共を従えやってきた。都を出立してもう十日になる。標高を稼ぐにつれ休憩場所も確保できないほど密な竹林に行く手を遮られて苦労した。「ヤオシ様、いったいどこまで行けば仙人に会えるのでしょう」 共の一人、ユンミが、額の汗を拭って兄弟子に訊ねた。同行者唯一の女性だが、武踏の使い手として他の同行者より強く、今回の旅にも自...
<1> 翌日、先輩はさっそくやってきた。今日は昨日と違って素面。コートのポケットに両手を突っ込んで玄関に立つ先輩がなぜかニヤニヤ笑っている。不気味でわけをたずねた。「今日もいると思って」「どういう意味ですか、僕が自分の家にいちゃいけませんか」「おまが本当にモテるなら仕事終わってまっすぐ帰ってこないだろ」 昨夜の意味深な台詞もこのことを言っていたのか。そんなことを考え付く先輩に呆れてしまう。「僕は時...
※キスどまり 零時をまわってそろそろ寝ようかという時、アパートの扉を叩く不規則な音が聞こえた。毎度のことなので誰か確認しないで扉をあけた。冬の冷たい外気が開けた扉から入りこんでくる。「肉まん買って来たぞ、食うだろ」 白い頬、鼻だけ赤くして、大学のときの先輩がコンビニの袋を掲げて笑う。目つきがトロンとしてゆっくり噛み締めるような瞬きをする。玄関に漂う酒の匂い。今日も飲んで来たようだ。「またなにかあっ...
<1→2→3→4> 朝になってシャワーを浴びた。髭も剃って身なりを整えスーツに着替えて家を出た。電車に揺られ聖也と待ち合わせをしたことのある懐かしい駅に降り立ち、そこからタクシーに乗りかえた。 このあたりだという場所で下してもらい、そこから住所表記を頼りに聖也の家を探し出した。表札に「森岡」と見つけてほっとすると同時に胸が軋んだ。深呼吸をしてからインターフォンを鳴らす。「はい」と女性の声が聞こえた。...
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