イノセントワールド
高速のインターを降りた車は、街を背にして走る。一直線に伸びる片側1車線の道路は車もまばらだ。「気持ちいいね!」妻が窓を開けると、かすかな夏が香る。ほうとうを食べに行こう、と誘われて僕たちは車に乗り込んだ。「お腹空いたね」「まだ10時だよ、早いよ」浮かれる妻に少しだけ笑った。暑くもなく寒くもないちょうどいい朝だ。新緑と青空のコントラストがまぶしい。ほうとうより先に展望台に妻を連れていこう。「懐かしいな」「何?このへん来たことあるの?」「うん」「最近?」「いやもう10年くらい前の話」「女と?」この手の話に嫉妬はしないのはありがたいのだが、面白がって聞いてくるので恥ずかしくなる。案の定、頷くよりも前にニヤニヤ笑っていたのは横目で見えていた。「さてはデートで来たんだな」と妻はラジオのボリュームをしぼった。前の会社の同期...イノセントワールド
2021/08/20 13:40