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真昼の月 http://mond.fliegen.chu.jp/

教師率、裏社会率、オヤジ率、ストーカー率少々多め 短編もあります!

BL/MLの小説・イラスト・マンガを趣味で書いております。下克上やオヤジ受け、年の差カップルが大好物ですので、そのうち増えていきます(笑)スーツとか眼鏡属性も高いです。

イヌ吉
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2013/04/17

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  • 金魚の恋 88

    テオドアも、そうしてもちろんウィリアムも人知れぬ努力を積み上げてきた。日本人の久義からすると横柄で威圧的に見えるテオドアの態度だって、あれは貴族であろうとする彼の努力で作られた物なのだ。 それをこの人は、まるで何でも無い事のように弟に譲ろ

  • 金魚の恋 87

    貴族としての体面を常に気にしていた、古いタイプの貴族に育てられた母は、自分が育てられたようにしか自分の子供を育てる方法を知らなかった。子供が生まれたら乳母に預け、長ずればパブリックスクールに入れて高等教育を受けさせる。たまの休暇に帰ってき

  • 金魚の恋 86

    「さぁ、もう分かっただろう?ヒースが気にしなければならないようなことは何もないんだ。父だって、愛しい新妻との息子を手元に置いて跡を継がせる事に歓びを見いだす可能性は高いと思うぞ?」「そんな筈……!」「そう?でも、

  • 金魚の恋 85

    ◇◇◇ ◇◇◇  窓の外で、木の枝からだろうか、雪が滑り落ちる音がした。そんな音が耳に入るほど、この村の夜は静かだった。 村の中に小さな呑み屋が無い訳では無いのだが、当たりの静寂を破るような大声を出す人はいない。 外は暗くて、

  • 金魚の恋 84

    『待ってくれ!少なくともウィルはその計画から外してくれ!ウィルは由緒ある貴族の跡取りなんだよ!将来は伯爵家を継いで領地を運営しないといけないんだ!日本でそんな事をしている暇なんてないんだよ!』  必死な久義の声を、しかしその場の一

  • 金魚の恋 83

    『古民家カフェだよ! 古い空き家なんていっぱいあるから、リノベーションしてうちの器でお前の和菓子を出せば絶対当たるぞ!ぶっちゃけ、お偉方みたいなうん十万の器じゃなくて、俺らヒヨッコの作った器でも、古民家カフェなら使ってもらえるだろ!?』 ほ

  • 金魚の恋 82

    ◇◇◇ ◇◇◇   こたつの中で、一緒にテレビを見ながらミカンを食べる。ここでは皆が当たり前にしていることが、久義やウィリアムにとっては奇跡の瞬間だ。 こたつという人類史上に輝く発明(いや中東や中央アジアにもあるけど)、ミカン

  • 金魚の恋 81

    ◇◇◇ ◇◇◇   深い雪の中を、久義とウィリアムはゆっくりと歩いていた。この村はとても居心地が良いが、二人でいる時間が少し少ない。どちらからそう言った訳ではないが、今日は何となく、二人だけでいたかった。「寒くない?

  • 金魚の恋 80

    ◇◇◇ ◇◇◇  祖父に「話し合う時間が必要だ」と言われたのには、きっと、何か理由があるのだろう。ほんの少しウィルに会っただけの祖父にすら見えて、自分には見えない物があるのかもしれない。そう思うと、久義ももうウィリアムに「帰れ

  • 金魚の恋 79

    『初めまして。突然の訪問、は、失礼しました。ウィリアム・オーガスタ=オブライエンです。父は伯爵ですけれども、私は違います。私は会社で働いているなのでさら……サラリーマン?です。私はイギリスでヒースと友達になりまし

  • 金魚の恋 78

    ◇◇◇ ◇◇◇  どれだけの時間が経ったのか。襖の向こうから、祖父の信吉が声をかけてきた。『おい、久義。話が終わったんなら、茶でも飲みに来い』 まだウィリアムの胸の中でぼーっとしていた久義は、その声にハッとして慌ててウィリアム

  • 金魚の恋 77

    「爵位を海斗様が継げるということは分かった。でも、問題はそこじゃないだろ?俺は男なんだよ?あなたが男の俺と一緒になるなんてそんなことは許されな……」 だが、その台詞も言いきる前にウィルに叩き落とされる。「爵位をマ

  • 金魚の恋 76

    遅くなりましてすいません💦💦USB、見つかりました〜!ご心配おかけしてすいませんでした!!それでは、『金魚の恋』76話、お付き合いくださいませ。 イヌ吉拝 ーーーーーーーーーーーーーーーー

  • すいません、今週の更新は週明け月曜にさせて下さい💦💦

    皆様、いつも「真昼の月」に遊びに来てくださってありがとうございます!すいません、今週のお話なのですが、いつもの土曜日ではなく、週明けの月曜にさせて下さい💦💦💦 USBが!!お話を入れ

  • 金魚の恋 75

    「もしも私の自惚れでないのなら、ヒースは私を少なからず想ってくれていると……そう思っても良いのだろうか」 ウィリアムは久義の手を取って、下から覗き込むようにしてそう言った。「……っ」

  • 明けましておめでとうございます!

     皆様、明けましておめでとうございます!!いつも「真昼の月」に遊びに来てくださり、ありがとうございます! 昨年中は皆様にたくさん遊んでいただいて、本当に嬉しかったです!今年も亀の歩みではありますが、頑張っていこうと思って

  • 金魚の恋 74

    「これは父の描いたデザイン画や……ああ、これは俺が描いた物で……」 そこには、たくさんの金魚が泳いでいた。父の手によるティーセットのデザイン画を久義の手で描き直した物は、父ほどの洗練さ

  • 金魚の恋 73

    「良いか、ウィル。今からここに紙を貼る」「あ、ああ?」 そう言って久義は、襖と襖の間に一枚の紙を剥がせるタイプの糊で貼り付けた。「大昔、この紙は鍵だった」「は?」「もし誰かが勝手に箱を開けたり部屋や家に入れば、紙がちぎれて落ちる。そうすれば

  • 金魚の恋 72

    先週はお話の入っているUSBメモリを職場に忘れてきたので、1日遅れでアップしました。もし前回のお話を読んでいない方がいらしたら、こちらからお読みいただければと存じます……💦💦

  • 金魚の恋 71

    すいません!!お話の入っているUSBメモリーを職場に忘れてきてしまい、昨日は更新できませんでした💦慌てて取ってきましたよ〜〜💦💦💦遅くなりましたがお付き合いいただけると嬉しいで

  • 金魚の恋 70

    窓を開け、細いつららを探す。ポキンと折って、口に運ぼうとして、こないだも祖母に怒られた事を思い出す。 子供の頃はいつもつららをアイスキャンディーだと言っては口に運び、『ばっちいからやめなさい!空気中の塵とか埃がついているんだから!!』と怒

  • 金魚の恋 69

    ◇◇◇ ◇◇◇  世界に名高い伊嶋焼きの頭領、人間国宝・十三代高野彦左衛門こと高野信吉の作業場は、多くの人が想像している物よりも小さい。ここは祖父が作陶に没入する為の場所だ。 この作業場を使えと言われた時、正直久義は面食らっ

  • 金魚の恋 68

    「義母上、伊嶋焼きというのは、日本のどこで作っているのですか?」「伊嶋焼き?ああ、久義さんのお父様の?」「教えて下さい」 いつになく真剣に真理恵に向かうウィリアムに、真理江は驚いた顔をした。だが、彼女はその理由も聞かず、すぐに晴れやかな笑顔

  • 金魚の恋 67

    「だって私は日本人だもの!日本から送ってもらう海産の瓶詰めだけじゃ物足りないわ!日本とイギリスじゃお水が違うんだから、やっぱり日本のお水で炊いたお米が食べたいのよ。新潟はお米もお酒も本当においしいのよ。ああ、あなた達にも食べさせてあげたいわ

  • 金魚の恋 66

    あなた達には分からない。我々のような身分の者があなた方のような身分の方と共に接するということがどういうことなのかを。友情などと言いながら、あなたは久義に何をした。幼い頃からこの地でどんな思いをしても、久義は日本に逃げるなんて今迄考えたこと

  • 金魚の恋 65

    「久義と連絡が繋がらなくなりました。連絡先を教えていただけないでしょうか」 一瞬、謳子はどう返したものか考え込んだようだった。だが、口元に微笑を浮かべ、小さく肩を竦めて見せた。 「日本のあちこちで羽を伸ばしているのでしょうね。主人の里は山奥

  • 金魚の恋 64

    「いつまでもあんな日本人に振り回されているつもりだ。お前は日本人が嫌いだったんじゃないのか」 思わずそう声をかけると、ウィリアムは携帯からテオドアに視線を動かし、意外そうな顔をした。  「私は今迄に一度も、日本人が嫌いだ

  • 金魚の恋 63

    ◇◇◇ ◇◇◇ テオドアは今日、フィッツガード伯爵からの招待で、バーマストン伯爵夫妻や久義の母謳子と共にフィッツガード邸を訪れていた。謳子も招待されたのは、先日届けてくれたお節料理に対する返礼のようで、お茶会の中でも最も格式の高いアフタ

  • 金魚の恋 62

    『……なぁ、久義。ゆっくりしていくんなら、少し真面目にロクロでも回していくと良い』『うん、ありがとう』  久義の作る和菓子をいつも手放しで褒めてくれる伸吉だが、それでも何か少しでも良いから作陶するように

  • 金魚の恋 61

    『ありがとう、ちゃーちゃん!』『あ、これ雑誌で見たことある!ちゃーちゃん、並んだんじゃない!?』 祖母がいつも久義を子供の頃の呼び名で呼ぶから、伊嶋の親戚達は祖母に倣ってみんな久義を“ちゃーちゃん”と呼ぶのだ。&nb

  • 金魚の恋 60

    そうして暫く二人でたわいもない話に花を咲かせていたが、そのうちふと信吉が真面目な顔で久義を見つめてきた。『……どうした、久義。何だかいつもよりおとなしいな。日本語忘れたか?』 信吉の指摘に、久義は驚いた。どうし

  • 金魚の恋 59

    本日から第二部となります。舞台が変わりますのでちょっと雰囲気が変わるかもです。なお、引き続き『』の会話は日本語での会話、「」は英語の会話となります。どうぞ第二部もお付き合いの程、よろしくお願いします。 イヌ吉拝  

  • 金魚の恋 58

    気がつくと、自分の両肩にウィリアムの手がかけられていた。ハッとして上を向く。すぐ目の前に、ウィリアムの美しいオリーブグリーンの瞳があった。 白い肌。金色の長い睫毛。高い鼻。その全てが久義が属する物とは違う。 ああ、ほら。自分とウィルはこん

  • 金魚の恋 57

    ◇◇◇ ◇◇◇    ウィリアムの部屋に入るのは二度目だった。前に来た時は水槽と金魚の数に驚いたが、今はそれも目に入らない。 久義はウィリアムと二人きりの空間にいることに戸惑い、何を言えば良いのか、そればか

  • 金魚の恋 56

    ◇◇◇ ◇◇◇  謳子からは、久義が東京に帰る事を、ちゃんとフィッツガード伯爵家にも知らせておけ、と言われていた。真理恵夫人が久義のお菓子を当てにしていると悪いから、その期間はイギリスにはいないちゃんと伝えておけと言うのだ。そ

  • 金魚の恋 55

    『ん〜、そうだけどさぁ。私いる?いらなくない?別にデザイナーの挨拶、いらなくない?クリスマスプレートは何ヶ月も前にデザイン搬入してるし、イベントの指示は十一月には終わってるじゃない?私いる?いなくても良くない?』『当日チェックがあるだろ』『

  • 金魚の恋 54

    ※『』内の台詞は日本語です💦 ◇◇◇ ◇◇◇   久義があれだけの啖呵を切ったにもかかわらず、テオドアからはその後何も言っては来なかった。トーマスが何かを言ってくれたのかもしれないが、彼が金魚のティーセ

  • 金魚の恋 53

    皆様、いつも「真昼の月」に遊びに来て下さりありがとうございました!8月1日に、当blogはありがたいことに開設10周年を迎えました!御礼ページをアップしておりますので、まだ見ていないよ、という方はぜひ覗いてみて下さい! 開設10周

  • コメントありがとうございます!!

    皆様、コメントありがとうございます。お礼が送れていて、大変申し訳ありません💦💦お返事はコメントをいただいた順に書いております。先に書いていただいた方のリコメが下になっておりますので、もし自分へのレスがないな、

  • Happy 10'th Anniversary〜真っ白い世界〜

    気がつくと、そこは辺り一面真っ白い空間だった。ふわふわして、なんだか天国みたいだ……と思ったとき、設楽は今自分が夢を見ているのだと気づいた。 そっか。夢か。 真っ白くて、ふわふわで、暖かくて、何だか幸せな場所だ

  • 開設10周年ありがとうございます!!

    皆様、いつも「真昼の月」に遊びに来てくださってありがとうございます!10周年です!とうとう開設10周年を迎えました!!こんなに長い間、「真昼の月」を応援してくださりありがとうございます!! 昨年は時間が無くて開設ページにお礼イラス

  • 金魚の恋 52

    目の前が赤くなるほど血が煮え滾っている。目の前のこの男は、友人の名誉と父の名誉を秤にかけて、父の名誉を踏みにじったのだ。 久義がテオドアを睨みつけると、テオドアは「何だその目は!!」と怒鳴りつけた。「だいたいウィリアムもウィリアムだ!父親

  • 金魚の恋 51

    「お言葉ですが、金魚のティーセットは父の形見であり、完全に私の私物です」 久義が反論することは分かっていただろうに、テオドアは不愉快そうに目だけを上に向け、久義を睨みつけた。「だからどうした。私が売れと言っているのだ」「っ!」 その鋭い瞳に

  • 金魚の恋 50

    ◇◇◇ ◇◇◇  そこからどうやって帰ってきたのかよく覚えていない。まぁ無事に帰ってきたのだから、おかしな運転はしなかったのだろう。 車を駐車場に停め、久義は報告の為に本館に顔を出した。玄関ホールを入ってすぐに執事のトーマス

  • 金魚の恋 49

    ◇◇◇ ◇◇◇  ウィリアムを降ろし、彼の姿が見えなくなるまで走ると、久義はノロノロと車を路肩に停めて、ハンドルに覆い被さるようにして溜息をついた。 どうして、こんなに息が苦しいんだろう。 ウィルが自分を思いやってくれる気持ち

  • 金魚の恋 48

    「ヒース!」 だが、勢い込んで言おうとした台詞は、そのまま口を出ることはなかった。 久義の固く結ばれた唇。穏やかに凪いでいると思った瞳は、今は何かを堪えるように僅かに揺れていた。 そうだ。ヒースも、何かを耐えている。彼だって、辛いのだ。「ヒ

  • 金魚の恋 47

    ぐるぐると考え込んでいるウィリアムをどう思ったのか、久義は前を見つめながら、残酷な言葉を口にした。「……金魚の陶器が欲しいのでしょう?」 陶器よりも硬く、冷たい声だった。いつもの久義の声とはあんまりにも違うから

  • 金魚の恋 46

    「……分かった。他でもない、ゲストの望みなのだからな。誰か、ヒースを呼んできてくれ」 それがあくまでも自分の意思であるかのように、テオドアは重々しく周りの使用人達に指示を出した。 周りで様子を伺っていたメイドの一

  • 金魚の恋 45

    ◇◇◇ ◇◇◇ 結局三回スヌーカーをプレイして、二対一でウィリアムが勝利した。テオドアに言わせれば、ビリヤードは背も高く、手足も長いウィリアムが有利だ、という事になるのだが、真相は明らかではない。 勝敗が思い通りにならなかったせいか、

  • 金魚の恋 44

    ◇◇◇ ◇◇◇  真理江が温室で夫人方のお茶会を“楽しんでいる”間、ウィリアムはテオドアと遊戯室でスヌーカーに興じていた。 スヌーカーはビリヤードの一種だが、プールテーブルの大きさも違えばボールの数も

  • 金魚の恋 43

    「よろしかったら、貴族の子息達を数多く教えている乳母を紹介しましてよ?ちゃんとした乳母を雇い入れることは大切な事ですもの。彼女たちは貴族としての振る舞いや常識を教えてくれることはもちろん、暴漢や誘拐だけでなく、パパラッチやSNSから身を守る

  • 金魚の恋 42

    ◇◇◇ ◇◇◇「まぁ、フィッツガード夫人!本日はようこそいらっしゃいました!」 結局、真理江はマウリッツ……海翔を連れてお茶会に参加することにした。個人的なお茶会なのだから、子供を連れて行っても良いかと打診

  • 金魚の恋 41

    ◇◇◇ ◇◇◇  ウィリアムの言うとおり、真理江は高野親子を諦めてはいなかった。既に一回、バーマストンと来訪の予定が合わず、お茶菓子を連続でポーターが運んできた時点で諦めても良さそうなものなのに、「次はいつバーマストンへ行こう

  • 金魚の恋 40

    久義は見開いた目を伏せ、それからパチパチと何度も瞬きをした。そうして、どうやら彼は自分の中で、それを冗談にすることにしたらしい。「金魚を自慢したいだけだろう?」「そうとも言う!」 ウィリアムもすぐに久義の考えに乗ることにした。事を急ぎすぎ

  • 金魚の恋 39

    「最近は、ヒースが届けに来ないから、義母が少し気にしていたよ」「ああ……パティシエの俺が届けるのもおかしいだろうと言われて……。今迄は、真理江夫人が領地に馴染むためにと俺が行くように言

  • 金魚の恋 38

    そういえば久義は、エジプトのミイラにもビビっていた。おいおい、ミイラは大英博物館の人気展示物だぞ?六千体も所蔵されてるんだぞ?いや、人気だから収蔵してる訳ではないだろうけど。 その時の様子を思い出し、ウィリアムは口元がムズムズとにやけそう

  • 金魚の恋 37

    ◇◇◇ ◇◇◇ 真理江夫人はあの後、久義がこちらにこられないならと、バーマストンに訪問したい旨を打診した。だが、その日は忙しいからと、」バーマストン側から断られてしまった。 もちろん、バーマストン伯爵もフィッツガード伯爵も、暇な訳でも時

  • 金魚の恋 36

    ◇◇◇ ◇◇◇「どうして久義さんがこないの!?」 今日せっかく和菓子をフィッツガード城まで届けてもらったというのに、運んできたのは高校を出たての新人ポーターだった。いかにも「まだ仕事も覚えていないから、ちょうど良いから配達に出しました

  • 金魚の恋 35

    ◇◇◇ ◇◇◇  一通り仕事が終わり、自室に戻った後、久義は執事のトーマスの元を訪ねた。 今日、自分がフィッツガード伯爵家に和菓子を配達しなかったが、それで良かったと確認したかったのだ。「伯爵の指示に従ったのだろう?君が気に

  • 金魚の恋 34

    ◇◇◇ ◇◇◇  サマーバケーションの時期がやっと終わり、ティールームは少しだけ落ち着いてきた。だから真理江夫人から秋の練り切りを注文されても、「ああ、今日なら別に時間があるから良かった」と思っただけだった。 だが、お客様が

  • 金魚の恋 33

    ◇◇◇ ◇◇◇  結局、久義はウィリアムをローズウッド城の最寄り駅ではなく、フィッツガードとは反対側の、少し離れた駅まで送っていくことにした。ローズウッド城の最寄り駅と言っても城からは車で二十分程かかるが、それでも地元の街には

  • 金魚の恋 32

    ◇◇◇ ◇◇◇ 「陶器の商用で」と言われたせいか、クラリスは就業後の久義をボーディングルーム(応接室)に案内した。中にはウィリアムとテオドアが既に座って待っている。さすがに久義も一瞬体を硬くしてしまった。そんな久義の様子を見て

  • 金魚の恋 31

    「おい、夫人には伯爵がガツンと言ったんじゃなかったのか?」「そ……そうだけど……その時のは子爵、いらっしゃらなかったからなぁ……」 シェフパティシエのウッデ

  • 金魚の恋 30

    「ごめんなさいね、久義さん。私、少し舞い上がっていたみたい。でも、本当に考えておいてね。きっとあなたのキャリアの無駄にはならないから!」「……いえ」 それでも、久義はもちろん、バーマストン伯爵も、謳子も、真理江夫

  • 金魚の恋 29

    すいません、先週は1日遅れの日曜22時に更新致しました💦先週の分を読まれていない方は、『金魚の恋 28』からお読みいただけるようお願い致します!!  イヌ吉拝   ◇◇◇ ◇◇◇ 

  • 金魚の恋 28

    ◇◇◇ ◇◇◇ 目が醒めて、今自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。母に与えられた本館のベッド────子供の頃は久義もそこで寝起きしていた────なのか、日本の祖父の家の、畳に敷かれた布団なのか……でも、

  • 金魚の恋 27

    そうか。そうなんだ。 別に、彼女たちが言うようにひとりぼっちだったことなんか無い。友達もたくさんいるし、彼らとはいつもたわいもない話をしたり、悪ふざけをしたり、サッカーの試合を見に行ったり、家に呼ばれてお泊まりをした事もある。自分が彼らか

  • 金魚の恋 26

    この文章の中には、人種差別に関する記載があります。皆様を不快にさせる意図はありませんが、辛い方は3話ほど飛ばして下さい。 イヌ吉拝 ◇◇◇ ◇◇◇  久し振りに夢を見た。セカンダリースクール(※)の頃の夢だ。 久義は物心つく前

  • 金魚の恋 25

    ◇◇◇ ◇◇◇  結局、その日はスイーツを食べた後、ヴィクトリア&アルバート美術館を見て、テムズ川の畔を散策した。観覧車に乗らないかとウィルに誘われたが、それは断って、早めに帰途につく。 明日の仕込みもしなければならないし、

  • 金魚の恋 24

    さて、最後にダンディーケーキである。 ダンディーケーキはアーモンドホールがみっちりと焼き込まれ、オレンジピールがふんだんに練り込まれたケーキだが、このケーキにはアーモンドの他にピーナッツやカシューナッツ、ピスタチオやマカデミアンナッツなど

  • 金魚の恋 23

    たくさんのスイーツをたくさん食べたい。スイーツ好きなら誰もが抱く欲求をかなえてくれるのが三段重ねのアフタヌーンプレートであるが、そんな物がなくても、シェアすれば良いのだ。それでもこの店のスイーツは結構量もがっつりしてるから、それほどたくさ

  • 金魚の恋 22

    「そろそろカフェに移動しようか。ランチもスイーツも充実しているカフェを友人に勧められてね?」 ウィリアムはあらかじめリサーチしてくれていたようで、すぐにブラックキャブ───ロンドン名物のタクシーである───を止めて、店の名前を告げた。「モダ

  • 金魚の恋21

    ◇◇◇ ◇◇◇  電車からホームに降りて辺りを見回す。ガラス張りの高い天井。バーマストンのような田舎ではお目にかかることのない景色だ。久し振りのロンドンの空気を胸いっぱいに入れていると、長身の男性が手を挙げているのが見えた。

  • 金魚の恋 20

    ◇◇◇ ◇◇◇ 仕事が終わって、自室で軽く夕飯を食べてから、久義はウィリアムにもう一度メールを送った。仕事時間、自由になる時間を書き記し、繁忙期と閑散期の予定も記しておく。繁忙期なら、お休みは週に一度。閑散期なら週に二度。閑散期である

  • 金魚の恋 19

    「もう行って良い」「畏まりました」 久義は器を一つ一つ、丁寧に和紙に包み、行李の中に詰めていった。 何度もそうしているのだろう。どこに何を入れるのか、その順番まで決められているようで、美しい所作で片付けていく。「それでは、これで失礼いたしま

  • 金魚の恋 18

    先週の更新は、土曜日ではなく、日曜日にさせて貰いました💦もし前回の更新をお読みでない方がいらしたら、「金魚の恋 17」を先にご覧下さると嬉しいです。  イヌ吉拝  ---------------

  • コメントありがとうございます!!

    皆様、コメントありがとうございます。お返事はコメントをいただいた順に書いております。先に書いていただいた方のリコメが下になっておりますので、もし自分へのレスがないな、と思われたら、下の方をググッとスクロールしていただけると嬉しいです。&nb

  • 金魚の恋 17

    ◇◇◇ ◇◇◇ 「金魚のティーセットですか?畏まりました。すぐにお持ちします」 やれやれと思いながら、ヒースは仕方なく頭を下げた。 ウィリアムになら、言ってくれれば休日に見せることもできるのに。なんでわざわざ勤務中に呼びに来

  • 金魚の恋 16

    ◇◇◇ ◇◇◇「は!?またヒースを呼び出し!?」 申し訳なさそうに久義を呼びに来たメイドに、光留もシェフパティシエのウッディもすぐに牙を剥いた。「若様達はヒースを何だと思ってるんだ!奴らの玩具になる為にここに居る訳じゃないんだぞ!」

  • 金魚の恋 15

    「ほら、車も小さい訳だし、あんまり私をテオドアのような貴族とは一緒にしないでくれよ?」「車の大きさは関係ないじゃないですか」「じゃあ、イタ車※に乗ってる私のことは、テオドアと同じように思わないで?」 ウィリアムがテオドアの貴族趣味をからかう

  • 金魚の恋 14

    「本当にもう帰ります!俺、仕事を残してきてるんです!」「しょうがないな」 残念そうに溜息をついたウィリアムは、それでも腕の囲みを解こうとしない。「じゃあ、ウィルって呼べたら帰してあげよう」「……!」 思わずギッと

  • 金魚の恋 13

    「そ……そういう事を言う方だとは思いませんでした」 真っ赤になった久義に、思わずウイリアムは声を上げて笑った。「あははは、素直な良い子だ」「俺は子供じゃありません!」「知ってるよ。もう二十五なんだろう?」「そうで

  • 金魚の恋 12

    「次はこっちも見てくれるかい?水草や流木のレイアウトに凝ってみたんだ。ああ、ワキンやデメキンはこっちに種類ごとに入れていて、ブリーディングもしているんだよ」 なるほど、機能的な水槽には、種類毎に金魚が分けられていた。まるで金魚の水族館のよう

  • 金魚の恋 11

    ◇◇◇ ◇◇◇  フィッツガード伯爵邸は、南に向かって本館が建ち、西翼と東翼がせり出すコの字型の城だ。その本館と西翼をホテルとして貸し出し、フィッツガード伯爵家族は東翼に居住している。 ホテル業は専門の業者に任せ、伯爵一家は

  • 金魚の恋 10

    ◇◇◇ ◇◇◇  マリエ夫人からお茶菓子を頼まれたのは、それからすぐの事だった。ロンドンの知人を招いてお茶会をするのだという。「本格的なお茶会じゃないんだけれど、せっかくロンドンから来てくれるなら、久義さんのお菓子を食べていた

  • 金魚の恋 9

    「和菓子は季節感を大事にするので、夏にはこういう涼しいお菓子をお出しするんです。お気に召していただければよろしいのですが」「美しい。これは、君のデザインか?」「父の作陶した器を参考に作ってみました」 ウィリアムは頬を上気させ、“

  • 金魚の恋 8

    元々、ロンドンで証券アナリストとして働くウィリアムは、金魚の世話があるからと週末だけには屋敷に帰ってくるが、普段はロンドンにフラットを借りて暮らしている。だから、父と真理江が二人でいる所を見る機会はずっと少ないのだ。本当なら、屋敷に帰って

  • 金魚の恋 7

    ◇◇◇ ◇◇◇  ウィリアムはテオドアの部屋で、テオドアと向かい合って座っていた。学生時代から仲の良い二人ではあるが、大学を卒業してから、これほど密接に行き来していた事はない。 伯爵は、バーマストンへの来訪にはいつもウィリアムを

  • 金魚の恋 6

    ◇◇◇ ◇◇◇ 初めてフィッツガード伯爵一家がバーマストンを訪れてから、もう三ヶ月が過ぎた。あの時は桜や紫陽花の和菓子を提供する季節だったが、今はもう夏だ。 隣の領地と言っても、フィッツガードは車で一時間もかからずに行き来できる距離だ。

  • 金魚の恋 5

    久義の視線に気がついたらしいウィリアムが、自分の時計に目をやってから、久義を見た。 ウィリアムが久義の顔を見たのは、今が初めて、と言っても良いかもしれない。何か、驚いたような顔をしている。 その二人の雰囲気に気づいたのか、フィッツガード伯

  • 金魚の恋 4

    長男であるラッセル子爵を失礼にならないようにそっと見る。子爵はバーマストン伯爵の嫡子であるテオドアと同い年位だろうか。二人は並んで座り、にこやかに談笑しているから、きっと学生時代からの友人なのだろう。 が、ラッセル子爵とテオドアは先程から

  • 金魚の恋 3

    ◇◇◇ ◇◇◇  本館のゲストルームのソファには、バーマストン伯爵とその夫人、バーマストン伯爵の嫡男であるメルプール子爵テオドア、久義の母親であり、バーマストンの磁器デザイナー兼プロデューサーの謳子(うたこ)が座っていた。そう

  • 金魚の恋 2

    「まぁ、これだけ繊細なスイーツを量産するのは無理だよなぁ……」「マネージャーに、もう少し人を入れるように頼んでくれよ。ヒース、日本のおじいさんの店から、何人かこっちに引き抜けないか?」  このティールー

  • 金魚の恋 1

    皆様、いつも「真昼の月」に遊びに来て下さり、ありがとうございます!本日から土曜の22時に「金魚の恋」をお送りしようと思います。ちょっとずつでも長く続けられれば……と思っております。イギリスの架空の町のお話となりま

  • 開設9周年ありがとうございます!(画像無しです💦&新連載の告知でございます)

    皆様!開設9周年目、ありがとうございます!! ということなのですが、すすすすいません、今年、お礼画像ができてません……💦💦💦 こんなイヌの事を見

  • コメントありがとうございます!

    皆様、コメントありがとうございます。お返事が遅くなっておりまして、大変申し訳ありません💦💦💦今少しずつお返事しておりますので、直近のコメントについてはもう少々お待ち下さい💦&#

  • 家族の肖像 81(完)

    「ちょ!!やめてよ、大成!!」「こら!そんな事ばっかり言ってちゃ、いつまでも出発出来ないだろ!」 大雅が無理矢理間に入って大成から奏を引き離すと、大成はまだプープー言っているが、それでもようやく諦めたようだ。 「まったく&hell

  • 家族の肖像 80+お知らせ

    ◇◇◇ ◇◇◇   年に半分はイタリアに、と言われても、半年ずっとイタリアにいるわけではなく、行ったり来たりを繰り返すことになる。大雅は基本、日本にいたいと言っているが、それだとかなりちょくちょく日本とヨーロッパを往

  • 家族の肖像 79

    「父さん!分かってるんですか!?相手は男で、モデルなんてやってるような奴なんですよ!?つまみ食いされて、飽きたら捨てられるに決まってるじゃないですか!」「うるさいな。私の可愛い奏君は、そんなポイ捨てされるような人間じゃないんだよ」 

  • 家族の肖像 78

    もちろん、大雅はすぐに賛成した。奏も寧音にそう言われれば、そうなのかもしれないと最後には頷いた。そうしていつまでも頷かない大成を三人がかりで説得する羽目になったのだ。 大成にとっては、奏はお父さんと言うより、お母さんなのかもしれない。そう

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