【38】断片16

木目のテーブルにグラスについた水滴が落ちる。クーラーはお世辞にも効いているとは言えない。「久しぶりだね」櫛田は氷の溶けきったアイスレモンティーを置いて言った。…

【37】断片15

長く続く坂道を上りきると青い空が広大に広がる。突き刺す様な陽光が瞳に刺さった。休日に外に出るのは久しぶりだ。どうもしっくりとこない。体が浮いている様な気がする…

【36】女2

重たい空。湿った空気、噎せ返る様な土の匂い。緑は深く、生命の息吹を撒き散らす。風が吹き始めた、虫達が騒ぎだす。早く戻らないと濡れてしまうな。英莉はジョギングの…

【35】不明5

時間が流れる事に意味があるのだろうか？ただ目的も無く繰り返される。それなのに摩耗するその中でのひとときの安らぎを幸福と呼ぶのであれば、僕は幸せなのだろう。意味…

【34】胎動9

赤黒い夕暮れ。夕日は黒い雨雲を燃やし焼き尽くそうとしている。鼻腔の奥で血の焦げる匂いがする。躯は壊れていくのがわかる。朽ちる。溶けて、腐り、崩れていく。思考が…

【33】胎動8

真実を知る必要なんてない。そんなものは俺に何も与えてはくれないだろう。全てはホログラムでしか無い。死者は雄弁に語る。ありきたりの未来について。ありきたりの昔話…

【32】不明4

果たされ無かった約束が溶けて床を満たす眠れない夜の数だけ私は僥倖を得た真実が1だと言うなら嘘は0だろう理由は特に無いそれは決められた事だからあなたが求めるもの…

【31】断片14

馬鹿げている。彼女からの連絡は全くといっていい程無い。自宅の電話自体、しばらく音を聞いていない気さえする。確かに酷い夢を見る事は無くなった。なにより夢自体あれ…

【30】不明3

桜が見たいと彼女は言った。どうしてあの時、僕は彼女に付き合ってあげなかったのだろう。きっとそれが最後だとは思わなかったから。花弁が風に舞ってまるで意思を持って…

【29】観察者1

時間を繰り返す事は出来ない。それはただ流れ、端から消えていく。再生はしない。流転もしない。これは大前提である。切り取られた箱庭には小さな抜け道があって全てが繋…