「マーメイド クロニクルズ〜第三部配信中!」「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!
ナオミの目から涙が出そうになった時、トーミの思念が伝わってきた。(涙はこれからのためにとっておくがよい。人間界にいけばつらいことはいくらもある。これはお前の運命じゃ。すべての別れは、あらたな出会いのため。儂がいつも言ってきたことを覚えておるのう。お前は、これからさまざまな災厄に出会う。だが、お前がどこへいっても教え導くものと助けてくれるものには困らないようにしておいてやろう。儂からの、せめてものはなむけじゃ)トーミは、彼女自身が祖母から贈られた真珠のネックレスをナオミの首にかけた。この時、トーミがゲームにハンディはつきものと独り言を発したのに気づいたものはいなかった。(お名残惜しゅうございます)(儂の寿命も、つきようとしている。あるいは、プルートゥ様のお許しがいただければ人間界で霊として会えるやも知れぬ)(おば...第一部1章−8ナオミが旅立つ時
ナオミは、はっと我に返った。躾にきびしいアフロンディーヌから、もしもかわれるものなら代わってあげたいけれど、と思念が伝わってきた。いいえ、お姉さま、わたしは望んでいくのよ、と思念を返す。アレギザンダー、ジュリア、サラからも、達者でね、でも今までのようなわがままではいけないよ、と思念が伝わってくる。仲良しの「唄い誘うもの」セイレーンたちの送別の唄声が聞こえてきた。いつも聞くものの心を揺さぶるカイヨ、エイミ、ショウヨの三姉妹の唄が今夜はとびきり強く訴えかけてくる。こんな日に海を渡る船は運が悪いなどと自分の行く末よりも船乗りたちを思いやるナオミだった。一番後ろでトーミが、しわだらけの顔に笑みを浮かべた。最高神たちさえ一目置く齢数千年のマーメイドと対峙して、とうとうこの日が来たという思いが沸き上がってきた。仕事に追われ...第一部1章−7老マーメイド、トーミ
(ナオミよ、相手と対峙してまずなすべきは?)(闘気をまとうことでございましょうか)(その通りじゃ。闘気さえまとえば、海中では今のお主ならまず百戦百勝。人間界でも「呼び水」さえあれば、ほとんどの相手と互角以上に戦えるはず。やっかいなのは精神界での闘いだが、現在のところネプチュヌス様とプルートゥ様の関係は良好であらせられる)(では、いったい何がご心配で?)しばしの沈黙の後、シンガパウムが伝える。(お主には人間界に行った姉が一人。おばば様によればお主もいつか人間界に行くさだめ。そこには、さまざまなものがいる)(それは、いかなるもので?)(殺気をはらむものじゃ)(殺気とは?)(殺気をはらめば、身は狂気にゆだねられ破滅そのものが目的となる。自分自身の破滅さえも。最後には、相手の殲滅を望む感情に身をまかし暗黒界に己が魂をつ...第一部1章−6シンガパウムの別れの言葉
シンガパウムは、元々が公爵家の跡取りだった。高位の巫女だったユーカと結婚した際に、文武に秀でたマーライオンとして親衛隊長に抜擢された。そのためナオミは幼少時、職務にかかりきりの父にかまってもらった記憶がない。だが、長じてナオミがたぐいまれな武の才を示すようになると、たまに稽古をつけてくれるようになった。稽古中、娘が父を「父」と呼ぶことはなく、父が娘を「娘」と呼ぶこともなかった。そのため、生まれて初めて親子のコミュニケーションが取れたナオミには稽古が待ち遠しいものになった。稽古は、常に波のリズムきらめくアクエリアムで行われた。そこに、のぞくものとのぞかれるものを分け隔てるガラスはなかった。展示されていたのは、珊瑚礁のこん棒、潮流によって流れ着いた古今東西の名刀、マーメイド一族に伝わる魔力を持った真珠貝など、人間界...第一部1章−5父と娘
(一同のもの、面をあげよ。ナオミ、ひさかたぶりよ)ネプチュヌスはナオミを見て、いとおしげな表情を浮かべた。だが、思念はあくまで威厳に満ちている。ナオミの栗色の巻き毛がゆらゆらと海中にそよいでいる。茶色の両眼はきっと見開かれており、小作りだが引き締まった唇が意志の強さを示す。幼少時には、ネプチュヌスのお気に入りとして膝の上で遊んだ彼女も、今では一人前の美しいマーメイドに成長していた。久々にネプチュヌスに会って安心したナオミが顔を上げる。(おひさしゅうございます、ネプチュヌス様)(今宵は折り入って頼みがある。人間界に行ってくれぬか?)シンガパウムは心の内を顔に出さず、ただナオミを見つめる。ネプチュヌスの両隣ではユピテルとプルートゥがナオミの返答を待っている。(人間界に・・・・・・でございますか?わたくしごときでお役...第一部1章−4末娘ナオミ
誤算もあったが二人の最高神の同意を得られて、ネプチュヌスは安堵する。彼自身もだが、永き時を生きねばならぬ神々の最大の敵は倦怠である。ネプチュヌスも若かった頃は、力に満ちあふれさまざまないたずらや遊びをしたものだった。緑の衣に身をまとい真珠の王冠をかぶり七つの海を駆けめぐり、陸や空の覇権を争った頃からすると、自分も丸くなったものだと思う。神々と言っても年を取れば短気にも頑固にもなる。ゲームを持ち出して二人の倦怠につけこんだようでネプチュヌスは気がとがめた。だが、第二次神界大戦だけは起こしてはならぬと決めていた。人間たちの扱いをめぐっての第一次神界大戦時では、人間たちの救済を主張するユピテルと人類絶滅を望むプルートゥの立場が逆であった。あの時はユピテル・ギデオンの雷が四次元空間に降り注ぎ、プルートゥ・ギデオンの業火...第一部1章−3シンガパウムの娘たち
(どうじゃ。いっそのこと、ゲームで決めてみては?)意を決したネプチュヌスが伝えた。(ゲーム?)ユピテルとプルートゥが、同時に振り向いた。(プルートゥが言うとおり、このままいけば人間たちは自らが作り出した「科学」という名の魔術にしっぺ返しを受けることは必定。しかし、あやつらの歴史のところどころに現れる者はまんざら捨てたものではない。そうした者たちを助けてガイアを救う試みをさせるのじゃ。それに失敗してからでもユピテルの言うやり直しは遅くない)(人間たちが驕りによって滅ぶのなら自業自得じゃが、自らの努力でガイアを救おうとするならばそれを助けるも一興)プルートゥはネプチュヌスの案が気に入ったようだった。しかし、何かをたくらんでいるようなあやしい光が眼に宿る。(ガイアを救うとかんたんに言うがどうやって?いまさら人間たちに...第一部1章−2ゲームの始まり
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