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米米米 こどもべやのうさぎ 米米米 https://blog.goo.ne.jp/usagiusagiusagiusagi/

ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。

褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。

いちたすには
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2009/04/15

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  • ■鉄の匂い108■

    さすがに、校内一の悪(わる)とその弟、そして二番目の悪(わる)が立て続けに行方不明になったので、学校も対応しないでいる訳にはいかなくなった。翌日には警察が学校に来て、カツアゲされた生徒は先生同席で事情聴取を受けた。勿論だが『僕』も何度も職員室に呼ばれた。しかしいくら訊かれても被害者から有益な情報が得られることはなかった。もしかしたら誰かが『僕』を疑っていたかもしれない。『僕』は、クラスメイトからも苛めを受けていたし、バカ兄弟が失踪したのは『僕』が上納を迫られたその日だし。その失踪に、不自然にも『僕』は安堵も歓喜も示さなかったし。後で判ったことだけど、バカとカスに1万円の上納を迫られたのは『僕』だけだった。他の生徒は数千円で、しかも上納を値切ったり渋ったりしていた。その中で『僕』だけが躊躇なく高額の上納を快諾。『...■鉄の匂い108■

  • ■鉄の匂い107■

    3人目に殺した奴も、バカ兄弟同様のカスだった。カスは、バカが居なくなったことで台頭したナンバー2だった。目の上のバカ兄貴が居なくなった途端、上納金を要求しに新1年生の教室にやってきた。当然『僕』の所にも来て、素直に払うと言っているのに見せしめだと言って数発殴って帰っていった。バカは皆やることが一緒で単純だ。上納金を拒んだ新入生は、休み時間ごとに追い回されてコンパスで突かれていた。小遣いが上納金を払うに充分でない新入生は、夜中のビル掃除のバイトを強要された。このナンバー2もバカ兄弟同様に人望がなく取り巻きも居なかったので、始末もバカ兄弟同様かそれ以上に楽勝だった。一度経験したことをなぞるだけ。ゼロから1は苦労するし緊張もするが、1を2にするのは雑作ない。素人がモノマネ芸人が築いた誇張をマネして笑いを取るのが容易い...■鉄の匂い107■

  • ■鉄の匂い106■

    バカ弟とはクラスが違ったこと、バカ兄とは面識があることが知れてなかったことから、バカ兄弟の失踪が『僕』に結び付けられることはなかった。学校では上納を強要されていた1年生が、みな胸を撫で下ろし隠れてハイタッチをして喜びを分かちあった。この兄弟は義に薄く情が浅く、ハンパ者の仲間からも疎まれていた。家族も持て余していたらしく、親が出したのは緊急性事件性の無い一般家出人としての捜索願いだった。頭の悪いこの兄弟がふたり揃っての失踪なんて考えらないけど、自殺の懼れもないし譬えしてても万歳三唱だし、ましてや事故や事件に巻き込まれたのなら加害者に同情票。普段の行いがこういう時の扱いに差を生むのだと思った。かく言う『僕』も他人ごとと笑っていう場合ではない。『僕』が不意に居なくなっても心配する人なんて居ないだろうし、親もバカ兄弟同...■鉄の匂い106■

  • ■鉄の匂い105■

    中学校の3年間で、『僕』は6人殺した。すべての殺人は転校するまでにやったので、正確には2年と半年だ。転校後は、1人も殺さなかった。わずか半年だけどね。特に意味はなく、縁が無かったと言うのもおかしいが、殺したい奴に巡り合わなかったと言うのがその理由だ。実を言うと、この6人に関しては今日まで殆ど思い出さなかった。印象が薄いというか興味が涌かないというか、躊躇や後悔がないからなのか。そのどうでも良いとさえ言える殺人の最初は、2人纏めてだった。もう『僕』は2人くらいなら余裕で一緒くたに殺せる様になっていた。入学式から数日後、3年に兄が居るという同級生に連れられて校舎の裏へ。クラスに馴染まない『僕』は生意気だから毎月1万円上納せよという通達が呼び出しの目的だった。素直に従い油断させ、その日のうちに兄弟諸共殺してやった。払...■鉄の匂い105■

  • ■鉄の匂い104■

    人間は不思議だ。これだけ科学が発達して技術が進化しても、人間のメカニズムは解明されない。例えば身体。2本脚で立ち5本の指を駆使する人間の身体は、たったひとつの受精卵という細胞からの分裂で始まる。いろんな組織がさまざまな機能を担う臓器や筋肉や骨格へと、全体の調和を保ちながら分化増殖していく。これだけの複雑にして多岐に渡る情報の管理伝達調整を、いったい何が官取(つかさど)っているのだろうか。細胞ひとつひとつに思考力や判断力はないのに。何処から指令が来て、自分は内臓になろうと思うのだろう。誰からの命令で、代謝し再生し壊死を決断するのだろう。胎児には尻尾も鰓も水掻きがあるが、生まれ出ずる前に脱落する。母親の胎内で5億年の進化の過程を経て胎児は人と成る。この進化のなかでも魚類の陸上生息への適応は劇的に過酷だ。干上がる危機...■鉄の匂い104■

  • ■鉄の匂い103■

    地元の中学と言っても、引っ越し先の地元なので馴染みの生徒は一人も居なかった。小学校で一緒だった奴ら同士が再会を喜んでいるのは遠い世界の出来事だった。『僕』は新入時から転校生だった。すぐに目を付けられ、すぐに校舎の裏に連れていかれ、そのまま苛められっ子になった。でも『僕』はこれまでの『僕』とは違う。『僕』は人を殺している。しかも2人だ。何時警察が逮捕に来てもおかしくないのだ。2人の遺体が見つかったというニュースが今日にもテレビで放映されるのではないか。実はもう見つかっているが報道管制が敷かれていて『僕』はすでに容疑者ではないか。みーの兄貴が報復にヤクザを使って『僕』を拉致する準備をしてるのではないか。何時この平穏な生活が不穏に変わってもおかしくない状況なのだ。人生ここまでと開き直ってる『僕』はだから最初からキレて...■鉄の匂い103■

  • ■鉄の匂い102■

    もちろんお別れ会はなかった。夏休みまであと少しという子供にとって一番ウキウキするこの季節。転校していく頭のおかしい奴のことなんかどうでもよかった。転校先での初日。今度こそ上手く立ち回ろうと決意したのに、『僕』は、最初の一言から躓いてしまった。一体何が不味かったのだろうか。「保健室は何所ですか?」ただ保健室の場所が知りたかっただけなのに。苛められ続けた『僕』からは苛めても構わないんだオーラが出ていたのだろうか。普通に訊いたつもりだったが卑屈な性格を垣間見せてしまったのだろうか。大人になった今なら、自分の至らなさも素直に認められる。でも子供だった当時は、礼を尽くしたのに介されず振るわれた暴力を許せなかった。子供は残酷だ。意に沿わないものは徹底的に排除する。相手が自分と同じ人間であっても。それは苛めた側もそうだが苛め...■鉄の匂い102■

  • ■鉄の匂い101■

    手のひらを反すとはまさにこのこと。クラスメイトは誰一人『僕』には関わらなくなった。みんなはいつもと変わらず楽しそうにわいわいやっているのだが、誰の目にも『僕』は映ってなかった。それなりの我慢で覆ってきた『僕』の本性はこうして暴かれ、全ての努力は徒労に終わった。これまでの努力はなんだったのか。こんな絵一枚で水泡に帰してしまうものだったのか。心理治療には全くの素人な先生によるカウンセリングが始まる。君は変わらなければならない。君が変わらなければクラスが変わってしまう。不幸な子供の異常性は無垢な他の子に伝染し易いから。君の異常性の根源は君の家庭環境にある。根源を断つには家庭環境を変えなければならない。なぜ、君の親は君の愛情を注がないのか。それを先生と一緒に考えようじゃないか。何を言ってんだこのバカ教師はって思った。親...■鉄の匂い101■

  • ■鉄の匂い100■

    その日の放課後。学童保育室に連れていかれた。初めて入った教室には畳が敷かれ、隅には布団が積まれていた。先生に勧められた座布団に座り、何故あんな絵を描いたのかを優しくしつこく問い詰められた。その問いは答えありきで、家族から疎まれていて家に居処が無く性格が歪んだ結果がこの様な悍ましい画に表れたのだと誘導された。教室には『僕』と先生以外にも生徒が数人出入りしていて、みんなこっちは見ずに聞き耳だけを立てていた。先生の望む答えを言わされ、しかしそれがすべて正解なのが『僕』を消沈させた。『僕』は家族の愛に恵まれていない。そして荒んでいる。両者は相互関係にある。互いに相乗効果がある。愛に恵まれないから『僕』は荒れてしまい、『僕』が捻くれるから愛は注がれなくなる。不毛な論議で無益な結論。何ら価値のあるものを生み出す気配すらない...■鉄の匂い100■

  • ■鉄の匂い099■

    水彩画は、まず下書きが違う。塗り分ける為の境界を引くのではなく、何処に何を描くかの当たりを書き入れるだけ。初めての水彩画は、だからみな思う様には描けず、互いの絵を見せ合っては笑いあっていた。『僕』ひとりを除いて。『僕』の絵を見て笑う子はひとりも居なかった。みな『僕』の絵を見て凍り付いた。誰かが悲鳴を上げ、誰かが先生を呼びに行った。やがて来た先生は、『僕』の絵を見て呻いたきり黙ってしまった。その日の題材は、昔話だった。竜宮城で接待を受ける浦島太郎や、熊と相撲をとる金太郎や、鬼を成敗する桃太郎など。持てる色すべてを駆使して色鮮やかに華やかに描かれる愉快なお伽噺の一場面。決して上手いとは言えないが、少なくとも状況や登場人物は判別できる絵ばかりだった。対して『僕』は。彩色は、暗黒色と赤錆色の濃淡だけ。血だけを人着したモ...■鉄の匂い099■

  • ■鉄の匂い098■

    小学5年生の夏に転校するまでの3年間、『僕』は表裏二重人格の生活を送った。学校では、そこそこに笑いそこそこに驚きそこそこに怒った。もちろん腹の底から笑ったことはないし、表情に出しているほど驚いたこともないし、衝動に駆られるまでの怒りが涌くこともなかったが。級友には全く興味は無いし、学校生活にも何の期待もしていない。ただ。皆から浮かない様に沈まない様に、仲良しを擬態してスパイの様に溶け込む毎日だった。当然そんな毎日は詰まらない。詰まらないが、波風起こしてまた苛められるよりは、我慢してでも平穏に暮らしたかった。『僕』は、長い間同じ人と付き合った経験が無い為に、人とのコミュニケーションが上手くとれない。なぜか相手をイラつかせ、不愉快にし、嫌われて苛められてしまう。だから本当の感情を出すのは憚られるし、常に抑制を強いら...■鉄の匂い098■

  • ■鉄の匂い097■

    キスをしたパジャマの子は、引き籠りだからなのか肌がとてもきれいだった。白く透き通る頬に外界からの光が当たると、うぶ毛なのかが薄く銀色に輝いた。よく寝ているからなのか、白目もとても澄んでいた。この子のことを思いだすと、キスしたからというのもあるが身体の血が滾って集まった。チョコをくれたクラスの子は、活発で健康的な子だった。『僕』のことを優しいと評価してくれたけどその子の方がずっと優しかった。そんな優しい子だから『僕』の僅かばかりの優しさをも見逃さなかったのだろう。授業中、朝ご飯が無い『僕』のお腹が鳴りっぱなしだった時に、≪センセに見つからないでね≫と書いた付箋を貼ったクッキーをそっとくれたことがあった。なんだったかで指を切った時にも、可愛い柄のバンドエイドを巻いてくれた。棄てられた教科書を見つけてくれて、鞄に入れ...■鉄の匂い097■

  • ■鉄の匂い096■

    夏休みが明けて二学期、始業式の日。体育館での全校朝礼から教室に戻ると、みんなの視線が『僕』に集まっていた。何度味わっても慣れない、晒し者の気分で実に不愉快な瞬間だ。でもここで踏み止まれ。逆の立場だったらどうするか考えろ。不躾な質問にも丁寧に、執拗な意地悪にも笑顔で応える。みんなに溶け込み、浮いた行動をしない。多数決に従い、むしろ多数を予想して意見を言う。周りには気を遣い、自分のケアは望まない。こちらが一歩引けば、所詮は小学校の低学年。すぐに友達になれて、班に入れて貰うこともできた。『僕』は、新しい転校先に紛れ込むことに成功した。まるで小1から一緒だったクラスメイトの様に。しかしストレスも半端なかった。『僕』は我慢してるのにみんなは好き勝手だ。『僕』がこんなにも譲歩していることをみんなは気づいてもいない。みんなが...■鉄の匂い096■

  • ■鉄の匂い095■

    チョコが入っていた箱や包み紙やリボンは捨ててしまったが、手紙をずっと持っていた。青木さんはクリスチャンだった。クリスチャンは争ってはいけないらしく、体育の授業でも対戦は見学してレポートを書いていた。肩に掛かる髪は細く軽く少しの風にも靡いて、クリスチャンと知っていた所為なのかそれがまるで女神に見えた。色白で目鼻立ちがはっきりしてて、陰で男子は皆憧れていた。怒った顏を見せたことなど当然なく、常にみんなに気配りしていて、青木さんは女子からも好かれていた。その青木さんが、雨の中『僕』にチョコを渡そうとトラックを追って走ってきた。余りにも良い人過ぎると、極悪人の『僕』にすら良い部分を見出してしまうのか。それとも善人に備わった審美眼は、邪悪を透過してしまい察知できないのか。いずれにしても、『僕』は青木さんに返事を書かなかっ...■鉄の匂い095■

  • ■鉄の匂い094■

    ―――〇〇くんはだからきっとやさしい人ですときどきやさしい気持ちになれない時があるだけで本当はすごくやさしい人なんだと思いますクラスのみんなとももっと時間があればきっと仲良くなれたと思います誤解されたまま転校していってしまうんですねそれがとっても残念です私はもっと〇〇くんの事を知りたいので私の住所を書きました手紙ください返事書きますもし引っ越す先がそんなに遠くないのなら会いにいきますほんとですよほんとに会いにいきますだから手紙ください待ってます左後ろの席の青木まゆみより―――結論から言うと、手紙は出さなかった。理由はみっつ。ひとつ目は、手紙に何を書いたらいいのかが分からなかった。ふたつ目は、青木さんがすごく可愛い子だったので恥ずかしかった。みっつ目は、青木さんが感じた『僕』の優しさを『僕』自身が体感できなかった...■鉄の匂い094■

  • ■鉄の匂い093■

    トラックがエンジンを掛けたまさにその時。女子はリボンの掛かった箱を差し出した。差し出された箱の意味が分からず硬直していると、そんなやり取りを知らない軽トラが走り出す。女子は傘を落とし、箱を差し出しながらトラックを追って走り出した。それでも『僕』が受け取らなかったので、女子は追い掛けるのを諦め箱を荷台に投げ込んだ。目的が『僕』に箱を持って行かせる事なら女子は果たしたことに。手渡す事に意味があり言葉を交わしたかったのなら未達成。女子は雨に打たれながらトラックが見えなくまで見送っていた。『僕』が足元に投げ込まれた箱を拾い上げたのは、女子が見えなくなってからだった。箱は、熊と兎の柄の紙で包装されており、リボンには手紙が挟まれていた。手紙を脇に置き包みを破って箱を開ける。中にはハートの形に形成されたチョコレートが入ってい...■鉄の匂い093■

  • ■鉄の匂い092■

    季節は夏になっていた。肌寒い春に転校してきて、いろいろあったそれぞれはどれひとつ解決しないまま、『僕』はまた転校することとなった。転校の報告をオバサンにした日の学級会の議題は、『僕』のお別れ会をするかしないかだった。満場一致でしないに決まり、オバサンもそれに意見しなかった。今思うと残酷な話だ。本人を目の前に送別会をするかしないかの決を採るのだ。どういう風にするか?とかではなくするしないの多数決。しかも誰もする気がないことが分かっているのに。でももうどうでも良かった。此奴らとは二度と再び会う機会はないのだから。数年後に何処かですれ違うことがあったとしても、互いに顔を覚えてはいないだろうし、同窓会にも呼ばれはしまい。もう此奴らと『僕』の人生は別方向に進むだけで、遠のくことはあっても近づくことは有り得ない。『僕』は自...■鉄の匂い092■

  • ■鉄の匂い091■

    その女の子の家の前は、その後一回も通らなかった。それは小学生以降、大人になってからも今日(こんにち)まで。『僕』はその家を避けた。女の子を避けた。女の子の母親を避けた。『僕』は怖かった。自分の本性がバレて嫌われるのが。こんな『僕』の中にも僅かながらの優しい部分があって、その部分が珍しく最大限に発揮されて良い評価を得たのだろうが、その前に『僕』は衝動的に暴力を振るう、優しさからは程遠い破綻者だ。蜘蛛の巣を絡めカエルを踏み犬や猫をパチンコで撃つ問題児だ。逆恨みから執念深くクラスメイトの家まで押し掛け滅多打ちにする偏執狂だ。それがバレて厭(いと)われるのが辛かった。蔑まれた目で見られるくらいならその前に消えたかった。こうして『僕』はまた行く宛がなくなり、しかたなく学校に通う様になった。しばらく登校しないうちに学校は様...■鉄の匂い091■

  • ■鉄の匂い090■

    なんとなく話しが途切れてなんとなく間がもたずなんとなく見つめ合っているうちになんとなくキスをした。キスをしようと迫った訳ではなく、近くで女の子を見てみたくてにじり寄っただけ。少しでも嫌がる素振りを見せたらすぐ引くつもりで。いや。そんな大仰な覚悟もしていなかったと思う。最後までお互いの顔を見合っていたので、寄り目になって笑ってしまった。初めてのキスは30秒ほど続いた。唇以外には一切触れず、前後になにも言葉を交わさず、じわりと始まりじわりと終わった。近付いた時と同じ速度で離れ、もとの場所に戻ったら急に恥ずかしくなって『僕』の顏は赤くなった。女の子は氷の様に冷たい目で『僕』を見るだけで喋らなかった。怒っているのか恥ずかしがっているのかまったく動じていないのか。その無表情からは感想を読み取ることはできなかった。『僕』は...■鉄の匂い090■

  • ■鉄の匂い089■

    女の子が欲すると母親はその品を持ってきた。でも女の子がどんな合図で母親に要求を伝えていたのかは不明だった。予め時間と品を決めているのか、何らかの合図かパターンがあるのか。気が付くと母親はドアをノックしていて、開けるとその品を手にしていた。そして毎回、母親が持参する品は違っていた。続けてケーキが3回出てきたこともあったし、大人が読むような雑誌だったこともあった。なんのタイミングでなのか不明な着替えのパジャマだったこともあるし、結局触りもしなかった工具だったこともあった。母親が持ってきた品を女の子が拒否することは無かったが、その品を本当に女の子が欲していたのかも確かめようがなかった。もしかすると、母親は勝手にいろいろな品を自分のタイミングで持ってきてるだけで、女の子は持ってこられた品を淡々と受け取っていただけなのか...■鉄の匂い089■

  • ■鉄の匂い088■

    その女の子は、不登校児だった。漫画やドラマにありそうな不治の病を想像していたが、現実は『僕』と同じで健康優良な登校拒否児童だった。その女の子がこっちを見ている窓は、車幅と幅員と同じくらいの道路に面した家にあった。その家は芝生を植えた庭が道路に面していて垣根がなく、だから窓は距離はあったが公路から歩いて入れた。その女の子は無口で無愛想で非社交的だった。実際ことばを交わしたのは初めて目が合ってから半月ほども経ってからだし、話をしても表情が変わることはほとんど無かった。ベッドの上から窓枠に凭れて不機嫌そうに向こうを見ていた。人が通っても犬が見上げても目を合わせないその女の子は、だけど『僕』が通るとこっちを見た。こっちを見て、見続けて、見えなくなるまで見送った。着ていたのは、もこもこした素材のパジャマだったと思う。髪は...■鉄の匂い088■

  • ■鉄の匂い087■

    朝。家を出ても行く所がない。なんとなく学校の方に歩き、角を曲がって家から見えなくなったら学校に背を向け河原に歩を進めた。寒々しい土手を歩くと心が落ち着いた。風に揺らせ乾いた音で擦れあう枯草の中を、何処までも歩き続ける。阻む雑草を掻き分けて進んでいくと、急に開けて畑だったりゴルフの練習場だったりが目に飛び込んだ。勝手に住み着いた浮浪者だか町の暇な老人だかが手作りした、畑や桟橋や練習場だった。大概は人が居なかったので、畑は作物を引っこ抜き踏み固めてやった。練習場も、茂みに隠してあったパターやボールを全部河に放り投げてやった。畑にあったスコップを取り、グリーンを掘り返してバンカーを埋める。釣り小屋は蹴り倒して廃材に戻した。土手には猫が住み着いていた。浮浪者が定期的に餌をやっているのだろう。水が溜まった餌皿があちこちに...■鉄の匂い087■

  • ■鉄の匂い086■

    殺意があったこともそうだが、それより殺し損ねた上で殺そうと思った相手に殺す気だったことをぺろっと言っちゃう神経に驚いた。この先生ってこれまでに既に生徒を殺してんじゃないかなって思った。行き詰ると衝動的に人を殺す大人が教員免許を持っている。問題解決手段の選択肢の中に殺人が高順位で入っている。恐ろしい話だ。他人のことを言える『僕』ではないが。『僕』は自身の保身だけを考え、この事件を『僕』の犯罪と相殺させてしまったが、この先生を野放しにして果たして良かったのか。先生の手の力。あれは本気だった。『僕』が武器を隠し持っていなかったら、絞殺されていた力だった。突発的に殺意を覚え短絡的に実行する人間が学校で教鞭を振るっている。しかし考えように因っては、これはチャンスだ。その恐ろしい力を『僕』は飼い慣らしたのだから。魔法のラン...■鉄の匂い086■

  • ■鉄の匂い085■

    先生の治療は、お昼には終わった。顏に3針の縫合。頭を打っているので、スキャンだかレントゲンだかを撮り、大事を取って暫く横になった程度の治療だった。登校時間に学校とは反対方向の人里離れた小道を歩いていた担任と生徒。『僕』的には疑われるべき不審な行動だが、大人的には子供のケアをする教師の行動として有り得るシチュエーションだったらしい。被害届を出さず転倒による事故だと言い張る先生により、犯人不明の傷害事件は送検されることなく終わった。『僕』が犯人で、先生が庇っているという疑義は結局抱かれなかった。治療を終えた担任とタクシーで学校に向かう。道中、担任が運転手に聞こえない声で『僕』に謝罪した。3針も縫うケガをさせたのに謝られたのは意外だった。担任には苛めを見過ごした後ろめたさと首を絞めた負い目があった。問題を大きくしない...■鉄の匂い085■

  • ■鉄の匂い084■

    周囲に公衆電話はなく、当時は携帯電話も無かったので、来た道を寂れた商店街まで延々と戻って救急車を呼んだ。約束を守って、先生は独りで転んで顏を打ったと救急隊員に申告。先生を救急車に任せて学校に行こうとすると、隊員から同乗するよう促された。担任が救急搬送され、最後に一緒に居たのが『僕』なのだから、どのみち『僕』が学校に行ける訳が無かった。狩った6人のことも当然みんなに知れ渡っているだろうし。返り討ちに遭うのが分かっているのに敵中に嵌りに行くのも阿保らしい。一日また公園で時間を潰すのも面倒だし、『僕』は従い救急車に乗り込んだ。痛みの度合いや意識を確認しようと話し掛ける隊員の呼びかけに、顏を押さえながら小さな声で「コロンダコロンダジブンデコロンダ」と繰り返す担任。あまりにもしつこいので、逆に疑われないかイラついた。その...■鉄の匂い084■

  • ■鉄の匂い083■

    朝、家を出たら、昨日の6人のうちの誰かの兄貴か仲間が待ち伏せしてる可能性に備え、『僕』は袖の中によく撓(しな)る金属の板を輪ゴムで留めて隠していた。首を絞められながら、震える指で袖の中の板を掴む。大人の本気の力は凄まじく、藻掻こうが爪を立てようがびくともしなかった。指を引き剥がすのは諦め、遠のく意識の中で右手で輪ゴムをずらして板を引き抜く。そのまま右手首を返して板を持ち替え、左手を伸ばして先生の顏の位置を手探る。目の前が暗くなり見えなかったが、左手で付けた当たりを目掛けて右手の板を思い切り叩きつけた。コワンと響く音と共に板は命中し、先生の手は『僕』の首から外れた。肩で息をしながら、喉に絡んだ痰を吐き出す。大きく息を吸い、混乱している状況把握能力を統合させる為に脳に酸素を供給。そしてここまでを解析。『僕』は『僕』...■鉄の匂い083■

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