駅舎に、もう人影はなかった。歪んだ線路が浜通りからこちらへと伸び、そして、男の目の前で、雪のふる曇り空に向かって大きく跳ね上がっていた。少年は口をへの字に結んだまま、じっと浜通りの方を見つめていた。大人用の大きな黒い傘が、小さな右手に下げられていた。
何も無くなった町で瓦礫と戯れながら、少女は歌っていた。白痴であった。皆視線を避けていた。しかし、今、瓦礫の向こう側で、誰か少女に合わせて歌う声があった。声は次第に大きくなり、数を増し、やがてはその墓標のようなビルを取り囲み、町民は皆、泣きながら歌っていたのである。
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