リスン・トゥ・ザ・ミュージック

「おかえりー。遅かったのね。」 家に着き、リビングのドアを開けると、キッチンで夕飯の片付けをしている母が出迎えた。壁にかかった時計に目をやると十時を過ぎている。 それにしても粟野家は見事にリフォームされていた。幼い頃に連れて来られた時は、もっと古臭か

ダディ・ブラザー・ラバー・リトルボーイ

柳瀬吾郎はラーメン屋『やなちゃん』の店主であり、十七歳の娘を持つ父親でもある。四年前、妻を交通事故で亡くしてからというもの、男手ひとつで思春期の娘を育ててきた。多少のぶつかり合いこそあったが、今親子円満に暮らせていることがささやかな幸せである。そして自

アンダー・ザ・ツリー

ラーメンを食べるには腹の空き具合がイマイチだったので、本屋で立ち読みをして暇を潰し、時間が経つのを待った。 腕時計が五時半を指した。 ラーメン屋は駅前から少し歩いた商店街の中にあった。店の外観はけっこう年季が入っていて、のれんには『やなちゃん』と書

ボーイ・ミーツ・ガール（後編）

職員室ではほとんどの教員が出払っていて、優一と理絵以外には村田という教頭と、岡という生物担当教諭しかいなかった。村田も岡も自分の席でボケっとしている。室内は静かなもので、各教室やグランド、先程の中庭など、校内の様々な場所からの音がよく聞こえる。中庭の方か

ボーイ・ミーツ・ガール（前編）

十一月四日、日曜。 穂波東高校学園祭三日目、最終日。「ごめんなさいね、本当はあさってからの登校でよかったんだけど、いろいろとややこしい手続きがあって…。」 校舎二階の中央廊下を歩きながら、坂田理絵は軽く頭を下げた。 窓の外を見下ろすと、ロの字型

プロローグ

絶対に転校なんてしたくなかった。 十七歳、高校二年生の秋、粟野優一は父親の仕事の都合により、幼少より住み慣れた東京を離れることとなった。 北区の住宅街にあるマンションで暮らしていた粟野家は、ここ、穂波市の山と川と田んぼに囲まれた真新しい一軒家へと越