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  • カラスと木瓜の花 (19)

    運び屋、と奴は答えた。正確には「いわくつきの運び屋」と涼しい顔で言った。私の質問に対する大崎の、恐らくふざけた回答だった。答えたあと、視線は新聞へ向けたまま、少しだけ頬を緩め鼻でふんと笑った。私は食卓椅子へ腰かける間際、「なーんだ、イメージ通りかぁ。つまんない奴」皮肉ってみた。すると、大崎の漆黒の大きな瞳がゆっくりこちらへ動いた。そして、すぐに新聞へ戻った。どきりとした。なぜだろう、やはりこいつの瞳に弱い。「ほんとにトゲがあるんだな?」と大崎の呟きが聴こえたので、「は?」と大袈裟に反応してみたけれど、チラ見と同時に「いやっ」と返されると、学習能力のない私はまた固まってしまい、大崎の視線が離れてからも少しのあいだ、彼を見ていた。私は知っている。こいつは、モトさんの前では屈託ない笑顔をつくる。笑うと目が細くなって口...カラスと木瓜の花(19)

  • カラスと木瓜の花 (18)

    師走に入って間もなく、うさぎちゃんは二十歳になった。彼女には意表を突かれまくりだ。実年齢よりずいぶん艶っぽく見えることは間違いないとして、生年月日を知ったときは驚いた。私の予想よりはるかに若かった。ついこの間まで未成年だったわけだから。上野潔(うえのいさぎ)、うさぎちゃんの氏名だ。「うえのいさぎ、を縮めて『うさぎ』なんです」うさぎちゃんが滑舌よく説明してくれた。それは、モトさんと六本木デートをした翌日のことだった。彼女がはにかみながら見せてくれた保険証に、私がきちんと確認しようとしなかった彼女の氏名、生年月日、そして性別のところに男という文字が記してあった。全く動揺しなかったと言えば嘘になる。けれど、ありのままのうさぎちゃんを受け入れる覚悟はできた。というより最初から性別も年齢も気にする必要なんてない。これまで...カラスと木瓜の花(18)

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