師走の二十四日夕刻。半年間鍛えた操船を、身をもって試す時が来た。半七と筏職十名。みのすけと強力百姓四名は、大船を、江戸に向けて釜石浦からまさに出航させるところであった。同時にはやばしりのよしは、飯能河原に走った。船上ではみのすけたちが、足回りの手甲脚絆、黒装束、工具、食料の点検をしていた。こちらは大船の別動隊が総勢十五名。飯能河原の村からは頭の捨松、弥助ほか十七名。総勢で三十二名の、五年がかりの大部隊であった。訓練のおかげもあって、大船は穏やかな波をけって南下し、銚子沖を二十五日には超えた。暮の二十八日夕刻。今日も江戸の町はよい天気だ。三之丞は稽古で汗を流し、牛込の道場から長屋まで戻り、井戸で洗い物をする。「お師匠様。お帰りなさい」「おうおう、はなと里ではないか。どこへでかけるのじゃ」「はいかかの許しをえ...泥棒村後編